エピローグ
人は誰もが嘘を吐いて生きている。
それは些細な嘘であったり、もしくは重大な嘘だったり、或いは自分勝手で――時には誰かを想っての嘘だったり。
誰もが騙し騙されながらも、周囲の人々と関係を構築していく。
――しかし、積み重ねた嘘の中に、真実が紛れ込んでいることがある。
例えば今、俺の隣を歩く幼馴染と俺の関係がそうだろう。
「見て、天女様よ」
「なんて気品にあふれた方なんでしょう……」
彼女は、県内屈指の名門校の2期連続の生徒会長として、生徒たちから絶大な人気を誇っていた。
先日行われた生徒会選挙ではぶっちぎりの得票率で他を圧倒していた。
この学園の生徒ならば誰もが知っている、『完璧』を体現した人間、それが『天女神奈』だ。
――そんな彼女が『嘘』をつき、仮面を被っていることを知っている人間は、数少ない。
「今日も麗しい……」
一般生徒が天女へ憧憬を秘めた視線を向けるのが、隣を歩いているとよくわかる。
自らが導くべき生徒から声をかけられた生徒会長・天女は、ニコリと微笑みで応じてから、
「ご機嫌よう、みなさん」
と、いつものように、お淑やかに挨拶をした。
きゃあ、という黄色い悲鳴が耳に届く。
天女の人気は、これまでよりも更に高くなっていた。
「あの美しさで、文武両道、人望も厚く人柄も家柄も良いなんて……まさしく完璧」
「流石は我らが『女神様』……」
ため息交じりに聞こえる『完璧美少女、女神様』という言葉。
完璧すぎる彼女を神格化し、そう呼び慕う者は数多い。
そして――。
「それにしても、副会長と並ぶと、画になるよね」
「ああ、陰山のことか。ちょっと前までは女神様の幼馴染であることだけが取り柄の男だったのにな」
「いつの間にかテストでは女神様を押さえて学年一位、生徒会選挙の応援演説もばっちり決まってて……本当は凄い奴だったんだなって、感心したよ」
と、今度は俺に対する風評が耳に届いた。
――そう、俺はこれまでのような、天女のカゲに徹し、面倒ごとを回避するやり方を捨てたのだ。
マッチポンプと言うか自業自得と言うか、そうしなければ天女の隣に並び立つことが出来ないからだ。
当然やっかみなどはあるものの、分かりやすい結果で黙らせれば良い。そう気づき実践をしているのだが、今のところはうまいことやれていると思う。
「それもこれも、女神様の献身的な働きかけと、それに応えた副会長の努力の賜物。……なんてエモいんだ」
耳を傾けると、そんな話が聞こえていた。
「……気になりますか、司?」
そんな俺に気づいたのか、隣を歩く天女がクスクスと笑ながら、俺に問いかけてくる。
「少しはな」
俺の言葉を聞いて、彼女は無言のまま微笑んだ。
それから、ほどなく生徒会室に到着をした。
生徒会役員は他にも数名いるのだが、まだ誰も到着していなかった。
俺は自席にカバンを置き、椅子に腰かけようとしたのだが……。
「……離れてもらっても良いか?」
背後から、ギュッと天女に抱きしめられてしまい、それが出来なかった。
「いやよ」
俺の胴に回す手に、更に力が入った。
「けち臭いこと言ってるんじゃないわよ! ここはあたしと司の愛の巣なのよ!? 誰もいない時間にイチャイチャちゅっちゅするのは、当然のことじゃない!」
「ここは俺とお前の愛の巣じゃなくて、生徒会室で、生徒会業務をするところだ」
「はぁ、イミワカンナイんだけど?」
とても馬鹿にしたようなムカつく表情で、天女はそう言い、
「そんなのどうでも良いじゃない! どうせあたしと司が本気を出せば、ちょちょいと終わる程度の仕事しかないわよ!」
そう続けて言ってから、俺の頬に軽くキスをしてきた。
「……マジでいつかバレるだろ、こんなこと続けてたら」
俺は天女から視線を逸らしつつ言う。好きな相手にここまで好意を向けられて、嫌ではないものの、やはり恥ずかしいし、万一見つかってしまったらと思うと、もう少し慎重にしてくれと言いたくなる。
俺と天女の関係は、たった一人を除いて秘密にしていることだしな。
「お疲れー、って。あれ、もしかして私、お邪魔?」
などと考えていると、生徒会室の扉が開かれ、早見が入ってきた。
彼女はにやけ笑いを浮かべている。
「そんなことないですよ、紗希!」
慌てて俺から離れた天女が、焦りを浮かべつつそう言った。
早見にはちょっと見られていたかもな、と思い、俺も照れくさくなる。
天女の言葉に、早見は無言のまま、ニヤニヤと俺たちを見ているだけだ。無性に、居心地が悪くなる。
「やっほー、新生徒会のみんな! 調子はどう?」
そして、またしても新たに生徒会室に人が訪れた。
「花園先輩、受験生で忙しいのに、すみません」
「いいよ、気にしないで」
生徒会室を訪れたのは、相変わらずセーラー服を着ている花園先輩だった。
彼は3年生であり、もちろん新生徒会役員のメンバーではないのだが、副会長の仕事を引き継ぐために、わざわざ来てもらっているのだ。
このメンバーが揃うと、生徒会が新体制に移ったという実感がわかなかった。
「あ、そうそう。一年生は白石先生に絡まれてたから、多分遅くなりそうだったよ」
早見が自席に座ってから、思い出したようにそう言った。
1年生は二人、新しく役員になったのだが、白石先生の熱烈な指導を早速受けることになったようだ。
「それでは、一年生が来る前に、ある程度お仕事を片付けておきましょうか」
完璧美少女の皮を改めてかぶり直して天女は、気を取り直してそう言った。
それぞれ自席に着席し、生徒会業務に取り掛かろうとした瞬間――。
「女神様―!! 助けてくださーい!」
突然、生徒会室の扉が開かれ、一人の男子生徒が情けない声を上げながら慌てて入室をしてきた。
生徒会役員は、その男子生徒へ視線を向けてから、次に天女を見た。
天女は柔らかく微笑んでから、口を開く。
「もちろんです。お困りごとは、なんですか?」
非の打ちどころのない、慈愛に満ち溢れた笑み。
それを見て、慌てていた男子生徒も、すっかり安心しきった表情をしている。
きっと、この完璧美少女生徒会長が相談事を解決してくれるのだと、信じて疑っていないのだろう。
しかし、その完璧美少女生徒会長の本性は、わがままで口が悪く、悪戯好きで隙さえあれば俺に甘えてくる、完璧とは程遠い――可愛らしい女の子だ。
「それじゃぁ、早速来てください! 移動しながら事情を説明します!」
男子生徒の言葉に頷いてから、
「わかりました。それでは――司も付いてきてくれますか?」
と、天女は上目遣いに俺に向かって言う。
面倒ごとに巻き込まれるのは、今でも嫌いだ。
だけど――。
「もちろんだ」
可愛い彼女に頼りにされれば断れないし、気分も良い。
そんな風に思えるのは、今の俺の嘘偽りのない本心だった。
更新が大変遅くなってごめんなさい、とうとう完結話を投稿できました(´;ω;`)!
最初の投稿が5年前の2月、28話を投稿した時には、5月中に完結予定とあとがきに書いていましたが、なんとそこから4年以上の月日が経過しての完結になっちゃいました…(´;ω;`)!!
お待ちしていた読者の方、気長にお待ちいただきありがとうございました(*´▽`*)!
完結更新きっかけで読み始めた方も、ありがとうございます(*´ω`*)!!
なんだかんだで書き終えたことを評価していただける方は、是非リアクションや評価で応援をしてくれると嬉しいです(≧▽≦)
また、別の作品ですが11月1日に「もう二度と繰り返さないように。もう一度、君と死ぬ。」をTO文庫さんにて発売しますので、愛花の小説をまた読みたい!と思ってくれた読者さんはぜひ読んでみてください(*´▽`*)
表紙や公式サイトは、このまま下にスワイプをすれば確認できます(^_-)-☆
それでは、ここまでお付き合いしてくださり、本当にありがとうございました(*´ω`*)!





