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とある日の放課後。
普段通り生徒会業務を行っていると、またしても厄介ごとに巻き込まれることになってしまった。
しかし、今回は天女の責任ではなかった。
「先生は、陰山君を解任したほうが良いと考えているわ」
生徒会室にて、突如現れた白石先生が俺を見降ろしながら、高圧的にそう言った。
正直、いきなりどうしたんだこの人、と思った。
1年生の頃から、白石先生には目を付けられていたが、直接的な失態を犯したわけでもないのに、この言われようは正直予想できていなかった。
「お待ちください、白石先生。現状でも生徒会の業務は滞りなく遂行されています。なのに、どうして急にそんなことを仰られるんですか?」
天女が毅然とした態度でフォローの言葉を放つ。
「天女さん、あなたはとても素晴らしいわ。生徒会長として、十分以上に働いてくれています。……でも、陰山君に対しては、甘いと言わざるを得ません。私はこれまでに何度も注意喚起をしてきたけれど、どうにも積極的な改善が見られません」
直接的な失態がなくとも、これまでの積み重ねで、我慢の限界に達していたというわけか。
確かに俺は、白石先生の言葉に狼狽える天女を見るのが楽しみで、彼女の注意を軽く考えていた。
これは俺の落ち度だな、と冷静に考えた。
「でもセンセー、確かにカゲからはやる気が感じられませんが、カゲなりに頑張ってはくれていますよ?」
早見が白石先生に向かって、庇うようにそう言った。
「早見さんの言う通りだとしても、彼の生活態度は、この学園の生徒の模範足りえません。生徒会業務も、勉強も、結局は天女さんに頼りっぱなし。そんな人が、全校生徒の上に立つ生徒会など、片腹痛し!」
語気を強めて、白石先生がそう言った。
天女の表情が、僅かに歪む。自分のことを言われたみたいで、内心焦っているのだろう。
……くそ、俺にスリルと楽しみを与えてくれるなんて、白石先生はどこまで道化師なんだ……!!
「庶務を解任した後は、生徒の模範となるべき者を、天女さんが指名をしてください。それと、現在空席となっている会計担当も併せて指名をするように」
白石先生は真直ぐに天女に向かってそう言った。
しかし、天女は答えない。
当然だ、俺が生徒会を解任されてしまえば、後に残るのはただの駄目人間なのだ。
「……白石先生の一存で役員を解任することは出来ないと思いますが」
天女の言葉に、白石先生は嗤う。
「確かに、しかるべき手順を踏まなければ、生徒会を解任させることは出来ません。ただし……陰山君が自らの意思で辞任する場合、しかるべき理由さえあれば、問題なく生徒会から離れることが出来ます」
それから、白石先生は続けて言う。
「陰山君、生徒会を辞めなさい。あなたのように、他人の力をあてにして、他人から助力されることが当たり前だと思い込み、自分は大した努力もせずに生産性のない日々を無価値に過ごす人は、いつか周囲の人も堕落させます。……ここで生徒会を辞め、また一から、自分の力で努力し、這い上がる力を身に着けてください。それが、一番あなたのためになります」
思いのほか、彼女の言葉は優しかった。
このままでは、俺が天女なしでは何もできない駄目人間になると思ったのかもしれない。
生徒会の解任については、厳しい意見ながらも、彼女なりに俺の将来を考えてのことなのかもしれない。
天女をチラリとみる。
……彼女は俺の視線に気づくと、気まずそうに視線を逸らした。
いつもであれば、その様をみて内心笑う俺だが……。
今回は、白石先生が俺のためを思っての行動だったとしても、うっとおしいと思った。
「断ります」
俺は白石先生をまっすぐに見て言う。
「……それなら、臨時生徒総会を開いて、あなたの不信任を決議するしかないわね」
驚くほど冷たい表情で彼女は言った。
しかし、俺は首を振った。
「白石先生は、俺の出来が悪いから、生徒会に要らない。そう思っているんでしょう?」
俺の問いかけに、彼女は「ええ」と首肯した。
「それなら、俺が自分の有用性を示せばいい」
俺の言葉に、白石先生は「なるほど」と呟いてから、
「つまり、あなたをテストすれば良いのね。それで、私の納得のいく結果が出なければ、生徒会を辞める。……そういう事ね?」
これまでよりも少しだけ楽し気に、彼女は言った。
予想通り、乗ってきた。
彼女は積極的な生徒のことが大好きなので、俺の自主的な意見には食いつくと見込んでいたが、その通りだった。
「そういう事です。臨時生徒総会を開くよりも、よっぽど手間がかからないし、良いでしょう?」
俺の言葉に、白石先生は頷く。
「ええ、そうね。……一週間後、あなたに3つのテストを行うわ。私が納得する結果が出せれば、生徒会を続けてもらっても構わない。ただし、一つでも結果に納得できなければ、あなたは辞任する」
彼女の言葉に、俺は頷いた。
「……それじゃ、三人とも。お仕事中にお邪魔したわね」
白石先生は最後に会釈をして、生徒会室を後にした。
「なーんか、白石先生やな感じだったねー。……てか、カゲあんなこと言って、大丈夫だったの?」
早見が心配そうに問いかけてきた。
「ああ、何も問題ない」
俺が答えると、
「んー、そっか。……カゲも、男の子だし、意地があるってことよね」
早見はそう言って微笑みを浮かべた。
俺も、微笑みで応じる。
……あまり目立ちたくはないが、白石先生が出すテストを俺が満点で突破したら。
高慢ちきな彼女は、いったいどれほど取り乱し、俺を笑わせてくれるのだろうか?
それを考えると、俺は今から楽しみで仕方がないのだった……。





