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それら全てを統べるもの  作者: 小川桂興
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第7話 北の大地

**こちらエルンスト・バホラ、エクスカリバーに定時報告。当チームは、クロスタン帝国の都市リュームフラントに向けて進行中。道中ほぼ変事なし。明朝午前8時に現地到着予定。**


「定時報告終わり。それにしても、ドクターのチームは凄い事になってるみたいだな。」私は呟いただけだが、ジョーン・セスターは反応してきた。

「マイルズの立ち回り、凄かったですね。手加減しないとか言いながら、思い切り手加減してましたけど。」彼にしてみれば、マイルズの仕業は痛快この上ないのだろう。ジョーンは軽率な男ではないが、血の気が多い事は間違いない。

「あれからの報告が全く入ってないのが気になります。無事で居れば良いのですが。」レイモンド・ロッドマンは短くそう言って、その後黙ってしまった。彼が気に掛けているバーバラ・イーデンの消息がまだわからないのだ。

「おかしいなとは以前から思ってたんですが、彼等は極性子通信を妨害する手段を持っているんですね。そうでなかったら、ドクターのチームの通信が途絶している理由がわからない。」ジョーンがそう言うが、この言葉は少し無神経だった。レイモンドの顔を見ればわかる・・・。そう、装備もろとも文字通りに”消された”可能性すらあるのだ。敢えて私は口には出さないが。


 ジョーンはマイルズたちが早々に始末されたとは全く思っていないようだ。それに、極性子通信がいろいろな場面で妨害されているのは確かだろう。だからこそ、魔法使いたちの情報についての情報が極端に少ないのだ。魔法使いたちには、そう言う魔法の手管があるのかも知れない。あるいは、レイモンドの考えている様に、この世界は魔法に偽装された高度技術の惑星である可能性もまた高いのだ。そして、この3人組は、魔法に対して”非常に”懐疑的なメンバーが揃っていた。

 化けの皮を剥いでやるとか、そう言う意地悪な趣旨や意味ではなく、魔法と言う万能の代物を使える程の精神能力が人間型種族にあるとは思えなかったのだ。今まで、本当に沢山の人間型種族が銀河中に発見されているが、その中で魔法を使う種族は見つかっていない。(当然の事だが・・・)


 また、テレパシーやサイコキネシスを持つ種族、変身能力を持った種族などは確認されているが、どの特殊能力も、”進化論”を裏付けするような”必要性”が顕著に見受けられている。どんな世界にも、魔法を必要とする土壌は存在しえなかったのだ。

 不要な能力を必要とする種族はいないし、超常的な能力を後天的に訓練する方法もまた見つかっていない。この惑星の住民は、自分たちの世界の内側でその方法を見つけ出したのだろうか?

「それよりもだ、我々二人はドクターから遺伝子操作措置を受けた。その経過について、エクスカリバーに報告しなければならない。緊急時には、ドクターにこちらに出向いて貰う事にもなるだろう。その事を忘れるなよ。」ジョーンは頷いた。このチームで遺伝子改造を受けていないのは、レイモンド一人だ。彼は自分の持つテレパシー能力への悪影響を恐れたのだ。


「何かを感じました。これは・・・多分我々は何かから先に発見されたみたいです。相手は未知の生命体です。」突然にレイモンドが小声で注意を喚起した。

「確かなのか?」ジョーンは特段警戒した素振りも見せずにレイモンドに問いかける。

「間違いありません。こっちを見ています。」レイモンドはデータパッドを取り出して、探知器と接続した。方向を指定して、音響と赤外線探知で概略を調べる。今歩いているのは、現在の目的地のリュームフラントと元来の目的地であるティルリンティを結ぶ大きな街道で、途中には屋根があり、火を焚いて休憩できる場所も幾つか設置されている。その内の一つが丁度目の前にあった。

「よし、小休止としよう。食料を出して休憩しよう。」私はチームのメンバーにそう告げた。二人とも頷いて、休憩所に入る。丁度、ここならば相手を探知する手段や待ち伏せ用の装備もいろいろと使えるだろう。


「数は20体、金属の反応もあります。丁度半円形に我々を包囲するつもりみたいです。」街道は南北にこの場所ではほぼ直進している。東は斜面となっており、うっそうとした暗い林が茂っている。西は広い原野で、遮蔽物も疎らとなっている。この休憩所は近くに湧水があり、石で作った古い小さな貯水槽もある。貯水槽の水質を検査して、飲用に使えると判明したので、皆で水筒に水を補給し、携帯食糧を喫食した。

「記録にあった鬼族と言う奴等かな?」ジョーンが呟く。

「多分な。ここらで出没しているとも聞いている。馬なら簡単に振り切れるだろうが、生憎我々は徒歩だ。」私はそう小声で返答したが、エルンストがデータパッドからの新しい情報に被せてきた。「数が25に増えました。斜面の上に15、街道の南北にそれぞれ5、囲むつもりですね。」

「強い敵意を感じます。来ますね・・・。」

「私は斜面の方を引き受ける。ジョーン、お前はエルンストの直営だ。この避難所から動くな。」そう言って、私は剣を抜く。両刃で、底辺の小さな二等辺三角形の剣。刃渡り1メートルの重いトリタニウムエッジだ。

 唐突に大きな叫び声が挙がり、斜面から10体程の人間型生物が滑り落ちて来る。真に勇ましい限りだが、退却する時はどうするつもりなのだろうか?

 まず最初の1体、尻に毛皮か何かを敷き、股の間に挟んで10メートル程の固い土の斜面を滑り落ちて来る鬼族たち。奇襲が第一義で、それ以外はあまり重視していなかったのだろうが、無謀と言うか無防備と言うか、こちらが駆けつけてくるのを見て、驚いている様だ。警戒を促しているのだろうが、単に喚いているようにしか聞こえない。あれは体系的な言語なのか?

 斜面を滑り降りたところで、頸筋を半分ほど跳ね飛ばした。ギクシャクとした動きで立ち上がった2体目を踏み込んで頭から唐竹割に仕留めた。3体目は手槍を投げてきたが、大した速度ではない、軽く叩き落として、接近する。太腿を骨まで切り裂いて、右手首を斬り落とす。

 後はひたすらフェンシングの技を使っての解体ショーの様相を呈して来る。相手の攻撃は全く問題にならない。とにかく、無駄な動作や威嚇が多いため、こちらとしてはやりやすくて仕方ない。数名組で襲い掛かって来た者たちもいたが、こちらから移動する手間を省いて貰ったようなものだ。時間差を付けて、必ず左右の端から殺傷し、中央が突出すればカウンターで倒す。

 最後の3体は流石に逃げようとしたが、こちらには黙って逃がす法はない。背中を見せてくれたのだから、追い打ちを掛けるだけだ。

 数体の酷い傷を負った鬼族と死体だけが残ったが、そんな余計な事に関わっている時間はない。走ってジョーンたちの加勢に向かった。


 そこには既に数体の鬼族が倒れていた。ジョーンの腕前なら、こんな”武器を持った弱い獣”みたいな代物は相手にすらならない。しかし、流石に相手は腐っても人型生物で、体格や体重も人類並みである。もしかすると、知能も子供並み以上にあるかも知れない。だから、奴等は奴等なりの最善の攻撃を行おうとしている。

 つまり、斬り合いでは不利と見て、最接近して、7倍の数で相手にしがみついて圧倒すると言うやり方だ。しかし、相手が本当に悪かった。敏捷で身軽で柔軟なジョーン・セスターは、武器を振りかざしながらタックルしてくる相手を全部いなしてしまう。しかも、手にはトリタニウム刃のナイフと手斧が握られていて、毎回それが相手の背中から首筋、時に脳天を切り裂き、打ち砕いて行くのだ。

 そして、私が戦いに乱入した事によって、鬼たちの集団は簡単に壊乱してしまった。

「捕まえろ。1体だけで良い。」私はジョーンたちにそう命じた。彼は逃げて行く鬼族の2体の内、1体を腰に吊るしたダーツ(遊戯用ではなく、戦闘用の)で仕留め、もう一体はレイモンドが人工筋肉製の捕獲デバイスを逃げる鬼族の一人に投げつけた。そのまま、デバイスは容赦なく標的を縛り上げ、締め付けて行く。悲鳴や怒声があがるが、それらは全部翻訳機に掛けて、彼らとの次回のコンタクトに備える事となる。また、その間にも、何体かの鬼族の死体が、転送装置でエクスカリバーに収容されて行くのが見えた。高周波の音が響き渡り、死体が幾つか消えて行く。


 1体の鬼族がほぼ無傷で捕獲できたため、まだ命があった何体かの鬼族たちには、残らずとどめを刺す事とした。しかし、こんなに異星生物を殺しまわっている元艦隊クルーなんか居るのだろうか?片方の人類連合に勝手に入り込み、片方の人間型生物連合に勝手に敵対している。なるほど、連邦憲章を守っていたらミッションを遂行できない訳だ。

「連邦憲章か・・・・。拷問は禁止、尋問の後に殺害するのも禁止。だからな。」レイモンドがぎょっとした顔でこちらを見る。が、諦めた顔をしている。この世界のルールは私の言ったとおりの事なのだから。


「エルンスト、こいつらの顔を見て下さい。ほら、眉毛がありますよね?」レイモンドが指さす。

「眉毛だな、立派な眉毛だ。」

「つまり、こいつらも土着人類の一種と言う事なのかな?しかし、高度に文明化されていない人類はそこそこ多く見つかってますが、彼らはどちらかと言うと原始回帰していませんか?」ジョーンも興味津々と言う風だ。

 実際、人類と言う呼称それ自体が、超古代に”誰か”が地球人、その他の異星人類を莫大な数の可住惑星に”播種”して行ったと言う事が極々最近になって判明している。まあ、各惑星の混血がこれ程簡単に可能だと言う時点で、皆がそれには気が付いていたのではあったが、証拠が見つかり始めると、感情的に反対していた者たちもぐうの音も出ない事になったのだ。

 そして、それらの見分け方で一番簡単な特徴が眉毛である。簡単な話、我々の地球でも、眉毛を持った生物など人類しか存在してなかったのだから。他の惑星も似たようなものなのだろう。発達し過ぎると、視界を遮ってしまう様な代物だ。進化論でも、一体眉毛に何の価値があって進化した毛髪なのだろうか?わかっているのが、眉毛を使ってそれぞれの人類がボディランゲージをすると言う事だ。眉を顰めるとか言う言葉のとおり。

 けれど、テレパシー能力を持つレイモンドの種族にも眉毛があるのは何故か。我々の共通祖先にはテレパシー能力は多分なかったのだろうか。


「しかし、うるさい奴ですね。鬼族とはこんなもんなんでしょうか?」レイモンドはかなり不快感を感じている様だ。連中の話しぶり?が唾を飛ばしまくる乱暴なものなので辟易しているようだ。涎も酷い、そして口が臭い。

「彼らの思考は読めるか?」一応水を向けてみた。

「はい。はっきり読めます。パターンも完全に理解できました。」彼らの種族のテレパシーは独特な特徴がある。時に、混血児は脳の働きの違う異星人類の思考も読み取れるのだ。

「彼らの脳の働きは、おそらく我々と大差ありません。彼らが野蛮なのは、全く教育と文化によるものだと思います。しかし、考えてる事は不潔の一言ですね。報復、憎悪、苦痛、脱出、更に多くの報復と殺人についても非常に興味があるみたいです。混沌とし過ぎていて、意味のある思考が非常に少ないのです。」またしても辟易した顔だ。

「とにかく怒りっぽい。哀願しようと決意した次の瞬間に、憎悪と報復がその決意を圧倒してしまう。話にならない連中でしょう。」

「けど、我々を包囲して殺そうと企んだあたり、知能がない訳では決してない。問題は、知能が何に使われているかと言う事だろうかね。」ジョーンが呆れた様に独り言ちる。

「殺人や虐待、略奪と強奪。それらだけで生きている感じだな。彼らの故郷でも同じ事を行い続けていたのだろうか?」私はそう言うが、それにジョーンが反応してきた。

「チーフは、彼らがこの惑星の住民ではないと思っているのですか?」少し驚いた表情をしている。

「違うと思うな。少なくとも、最初から居た種族ではないだろう。」

「何故そう思うのですか?」

「行動パターン、生活様式、繁殖数その他全てにおいてだ。我々は軌道上から鬼族と他の人類の戦いを何度か確認した。しかし、彼らの群れの生息地はそんなに多くはなかった。彼らの総数が膨大な数であるのは間違いない。そして、信じられない程に人類の攻撃で殺傷。あるいは駆除されているにも関わらず、彼らの総数は変わった様に見受けられない。また、彼らの食しているものは、狩りの獲物や略奪物、殺害した人類を摂取しているとしても、全く足りていないんだよ。それらの出どころも今後の調査対象と言う事になっている。」

「どこかから湧いて来ていると考えるのが妥当だと?そう言う事なんですね。」ジョーンの言葉に更に被せた。「そう考えるのが妥当だし、彼らの行動そのものもそれを裏付けている。はぐれた獣が他の獣のテリトリーに住み着こうとした時にどうするか?先にいた獣のテリトリーを荒し、先にいた獣を追い払おうと遮二無二に攻撃するんだ。鬼族と先住人類の連合が激しく争っている理由はまさにそれなんだろう。先祖代々住み着いている隣人であるならば、先住人類同様、鬼族も棲み分けをして、どこかに定住している筈さ。」

「うーん・・・。こいつら、一体何なんでしょうね。とにかく、既にデータは収集終わったみたいです。こいつどうするんですか?」

「報復までの時間を稼ぐためにも、こいつには死んで貰わないとな。」溜息が出る。こんな汚い仕事に、いつか慣れる日が来るのだろうか。

「後はティルリンティに引き返そう。ここらに鬼族が出た、我々が襲撃を受けたと言う事は伝えておかねばならんだろう。」一同頷いた。

「我々が襲われたと言う時点で、キッチリ報告しておくべきことだろうさ。後は流れ者の傭兵が3人だから、あちらの街で雇って貰う事にしよう。」

「それと、今の時点でわかっている事が一つ。今回襲撃してきた25人の鬼族ですが、25人の内、5人ずつが全く同じ血統のDNAでした。多分、彼らはクローン生命体であり、人数程の遺伝子プールは備えていない種族であるようです。」レイモンドはそれだけを口にして沈黙した。

 この惑星の謎はかなり根が深いようだ・・・・。

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