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それら全てを統べるもの  作者: 小川桂興
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第6話 剣客商売

「さあ、これから先は手加減はできないね。心して掛かって来るように・・・。」俺はそう言い捨てて兵隊たちの出方を待った。

 門衛のところに担ぎ込まれた怪我人2名、逃げて行った者1名。後は相手の士気次第かな。やれやれ・・・。

「これだけ面子を潰されて退けるか!囲んで殺しちまえ!」と言う大声が聞こえた。その直後に「殺人を冒すつもりか?我々は法廷でお前たちを一切弁護しないぞ!」と言う怒鳴り声も聞こえる。門衛たちは中立で良いのかな?

「決闘だ!ここまで舐められては、俺たちの面子が立たん。明日からどうやって暮らせってんだ?」数名の者がその言葉に同調した。

「相手の身元もわからんのに、どうやって決闘を法廷に認めさせるんだ?そんな事は許さん!元はと言えば、お前らの隊長が武器を構えてもいない者に、一方的に剣を抜いて襲い掛かったのが発端だろう?名誉はその時点でどこにもない。全く決闘などとは筋も通らん事だ!馬鹿者ども!いい加減にせんか!」衛兵の隊長らしき人物が怒鳴り返す。


「俺はマイルズ・クリストファー。流れ者の傭兵だ。連れの二人は、荒事をする手合いではない。医者と単なる婦人である。お前たち、武装してない者に対しても決闘を申し出るのか?それは単なる人殺しだろう?」敢えて煽ってみる。

「なら、お前が3人分戦えよ!それくらいはできるんだろう?」下品な兵隊だ。唾を飛ばし、荒々しい罵り声を挙げた。我知らず、その口調に笑えて来た。

「何人でもどうぞ。その代わり、負けたら恥では済まないよ。もちろん、怪我も一生ものかも知れない。」右手で手招きして、ヘルメットを脱いで捨てる。

 怒声と金属が触れる音、金属がぶつかる音。何人かの兵隊は門衛を殴り倒して、前に進み出た。全員が長柄のハルバードみたいな武器を持っている。ハルバードと違うのは、横の斧の部分が細く尖った湾曲する金属板である事、その反対側にはフック状の金具が複数飛び出している事か?

 最初に突っ込んで来たのは2人、それぞれ右左に穂先を向けている。多分、時間差で振り下ろして、一人の敵に確実に当てるつもりなのだろう。そう言う訓練を積んでいるのだろう。もう一人は少し衛兵を振り払うのに苦労した様で、まだ距離が離れている。

 当方の構えは敢えての半身下段。狙いは・・・・。

 こちらから見て、右側の敵がまず斜めに振り下ろした。角速度が加わって凄い勢いで落下して来る。短剣の刃を立ててから、武器の穂先を狙った。

 槍の穂先をかすめて、短剣の刃は歪な三角形の形のピックとなった穂先部分と接触する。右手で握り、左手は柄の後ろに添えて、一気に鋼製の穂先を切断した。凄まじい火花が散り、目が眩みそうになる。後は柄を返した手首の動きだけで木製の長柄がスッパリ切断される。そのまま、短剣をわずかに持ち上げただけで、相手の手元に踏み込んで短剣の切っ先で革のグローブを叩いた。

 何本かの指が飛んだり落ちたりしたが、それは単なる余技の現象の一つであり、本命の効果は、もう一人の兵隊からの長柄武器の攻撃を封じる事だった。

 左の敵は逡巡した。俺が右の敵に肉薄した事で武器を振り下ろすタイミングを失った。また、鋼の穂先がすんなり切断された事に衝撃を受け、あっと言う間に長柄を切断された仲間の武器が失われた事にも愕然とした。そして、仲間が顔に重い籠手のジャブを食らってひっくり返ったのを見て、ようやく自分の武器を振り下ろす事を思い出した。

 何の工夫もない振り下ろしだったので、右手首を捻って落下位置に短剣を置いたら、難なく柄が切断された。踏み込んで、兵隊のヘルメットの顎紐と頬当てを短剣で切断する。短剣はそのままの位置で、頸動脈まで後5センチ。

 後は一言「手を挙げて膝を地面に付けろ。」と脅すだけにした。さて、素直に従うかどうか・・・。

 その兵隊は大混乱に陥ったらしい、そのままの姿勢で「殺さないでくれ」と一声絞り出して、半泣きで棒立ちになっている。

「君のご両親は、命を狙う相手には、相手の言う事を聞く必要は全くない。自分の要求だけを告げなさいとか教育なさったのかな?」と穏やかに窘めて、立派な顎髭の一部を短剣でシャリシャリと綺麗に剃り上げた。彼は絶叫しながら両手を高く挙げ、両膝を地面に着いた。


「他の人達はどう?まだ我々の命を狙うのかな?もしそうなら、早いところ片を付けよう。ほら、そこの人は指を斬り落とされて大変みたいだし。」俺は残りの集団と前方に混乱しながら立っている最後の兵隊に呼び掛けた。

「はい、そこの君。仲間がまだやる気なら仕方ない、まずは君を血祭りにあげるから。覚悟を決めるなり、神様に祈るなり、今の内にやる事をやっておいた方が良いね。」と、これは膝を着いた兵隊に対して、親切に今後の予定について教えてあげる。そして、目の前で武器を構える兵隊に呼び掛ける。

「さあ、君。君だよ、君はまだ武器を構えているじゃないか。君の次の行動で、彼の運命が決まってしまうんだ。どうする?お仲間の屍を乗り越えて私と戦うか?遅まきながら穏当に振る舞うのを選ぶか?好きにしたまえ。」とだけ告げて、にっこりと笑う。


 しばらく、目の前の兵隊は迷っていた。他の者たちも一言も発しない。異常なまでに切れ味の鋭い俺の剣に絶句し、今後の展開を計りかねていたのだろう。例外は、指を斬り落とされた兵隊で、彼だけは呻き声をあげており、それが嗚咽に変わり始めた。

 それが合図であったように、兵隊たちは武器を捨て始めた。まずは目の前の男が長柄の武器を捨て、ベルトを外して、他の武器も落とした。衛兵に制止されていた者たちもそれに倣った。


「ドクター、そいつの指を診てやってくれ。ああ、それと、君はまだそこを動くな。」膝を着いた男と、武器を捨てた男にそう言うと、最後の兵隊は両手を挙げて膝を着いた。

 見ている間に、ドクターは男の肘のあたりをバンドで巻いて止血し、傷口を水筒の水に入れた薬剤で洗った。次に無針注射器で痛み止めをして、グローブの破片から斬り落とされた指を拾い上げて、消毒し、血を拭った。

 まずは中指、次に薬指を簡単に縫合して、最後に指の切り口を人工皮膚のテープで完全に覆ってしまう。「一月は指を動かさない事。巻き付けたテープは治るまで絶対に剥がさない事。」止血バンドを外し、それだけを男に告げると、彼は俺の後ろに戻った。その間の時間は1分少し。

「はい、そこの君たち、起立しなさい。」俺は目の前の三人の兵隊に告げたが反応が鈍い。もう、一杯一杯になってるのだろう。けど、言った事を素直に聞いて貰わないと困る。

「立てと言ったんだ。何故言う事を聞けない?」と短剣で脅した。今度は反応が激烈だった。慌てて、鎧を鳴らしながら立ち上がった。

「回れ右、君たちのお仲間のところに帰りなさい。駆け足!」と号令を掛ける。彼等は駆け出して、最後は一人が転倒する程急いで俺から遠ざかった。


 俺は、さっきから気になっていた街壁の上に集まり始めた兵隊、そして何人かの武装をしていない者たちの方を見た。

 女が二人いる。一人は背の高い黒髪の帽子を被った若い女、もう一人は燃えるような赤毛の少女で衣装まで赤い、あれは俗に言う魔法使いなのかも知れない。その二人は何かを申し合わせたかと思うと、壁の上からいきなり飛び降りた。

 案に反せず、彼女たちは魔法使いであったらしい。着地の寸前に足元が僅かに光ると、二人とも普通にこちらに向けて歩いて来る。俺の今の装備であんな事をすれば、脚を折るだろう。6メートルの高さとは、それほどのものなのだ。

「到着が遅れて申し訳ありませんでした。」帽子の女は衛兵たちにそう言って頭を下げた。

「旅の方々にも、私たちが到着するまでに荒事があったようで申し訳ありませんでした。」我々にもそんな風に形だけは陳謝した。なるほど・・・遠目で見てもだが、近くで見ても美しい女だ。長い黒髪で美しい菫色の虹彩をしている。ただ、瞳孔が黒くない、緑色だ。瞳孔の形も丸くない、アーモンド形だ。これは、この世界の妖精族なのか?

 その後ろに控えている赤毛の少女は、とても油断ならない相手だとわかった。全身に隙が全く見えない。特に俺を意識して全く目を離さない、緑色の瞳は強い光を帯び、瞬きすら滅多にしない。なにより、彼女の呼吸が全く読めない事にはただ感心した。俺は短剣を鞘に納めた。それを見て、少女は僅かに頷いたが、鋭い視線は俺から離れる事はなかった。

「全員、壁の内側に撤収!」帽子の女が両腕で×のマークを作った。「貴方たちも一緒にね。」俺たちを手招きしている。

「あれって命令だと思うよ。ドク、イーデン、一緒に行こう。」俺は仲間を招いて歩きだす。


「それにしても・・・・。あの人、多分さっき私たちの事を見てた人だと思う。」イーデンが帽子の女を指さして小さく言う。

「君がそう言うのなら、それが正しいんだろう。さて、我々はどうなるんだろうね。」

 まず最初に俺たちに危害を加えようとしていた兵隊たちが塀の中に入った。しばらく待たされてから我々が壁に空いた開口部から入った。前後を例の魔法使いらしき女に囲まれている。衛兵の隊長らしき人物も同行する。

「ところでさ、ドクター。今回のいきさつは全部エクスカリバーに送信した訳だよね?」

「まあ、そうだな。」3人とも装身具や鎧の部材に見せかけた通信機を携行している。到着早々の揉め事は全部母艦の知るところだし、他のチームにも映像と音声は配布される事になっている。

「俺、ミッションが終わっても帰って来るなとか言われそうだね。」

「どうかなぁ。私から言わせると、剣を帯びて渡世を渡る剣客としては立派な態度だったと思うが。」

「そう言う商売じゃ、舐められたら終わりだしね。あそこまでやるべきだったかはどうかは疑問だけど。」

「そうかも知れないな。ともあれ、街には入れた訳だ。後はちゃんと事情を説明して、牢屋にぶち込まれない様にしないとね。」

 

「ところで、二人とも。」今まで黙っていたイーデンが緊張もあらわに言葉を発する。

「さっきから凄い数の視線を感じるの。きっと私たち注目の的になってるのよ。」

「本当に・・・・我々、この世界のセキュリティを随分舐めてたみたいだね。」

 全く、後悔先に立たずとはこんな事なのかも知れない。ふと後ろを振り向くと、赤毛の少女は足音も立てずに我々の後ろをついて来るのが見える。真っ赤な猫みたいだ。きっと、彼女の爪は鋭くて、多分致命的な代物なんだろうな。そんな事をふと思った。

「到着後、僅か数時間で早くもこの展開。全く、血沸き肉躍ると言うか・・・・。」

「いや、ドクター。この先がまだアップテンポに盛り上がってしまうとかありえないから。」

「そうであって欲しいね。」

「私も同感。」

 エクスカリバーのクルーの目から見て、俺の行動はどうだったのだろう?他のチームの面々からは、どんな風に思われただろう?

 確実なのは、ルゴランだけは、俺の行動を支持するだろうと言う事だけだ。


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