第5話 バーゼルフォート
「気圧、1.6気圧。重力0.98G。つまりここは海面下5メートルと同じ位の気圧な訳だ。」ドクターが説明する。まあ、ホロデッキで随分経験していた状況ではあるが。
そうすると、大気圏はおおよそ800km程の深さになるのだろう。
「大きな惑星ですよね。」と軽く口に出したが、赤道部分で外周8万キロ、表面積が地球の4倍、総人口は約3億人程と推定されている。19世紀の世界とほぼ同等以上の人口だろう。やはり、産業革命直前の世界と言う事なのか。
「激戦区と言うのに、奇妙にのどかよね?」イーデンが感想を述べるが、ここは後方の補給拠点と考えるのが相応しいだろう。後方が不安定では前線では戦えない。
広々とした丘陵と平地、平地では作物の緑が目に眩しい。丘陵には家畜らしい動物、白い四つ足の獣が見える、羊かそれに似た生物だろう。
「良く整備された農地と放牧地だ。それと街道も広くて地形なりに真っ直ぐに近い。遠くに見えるのは衛星都市なのだろうが、綺麗に六角を作っているようだ。それにしても、地平線が遠いな!」
大喜びのドクターの傍らで、マイルズは相変わらずの平静な表情。だったが、いきなり長剣を抜くと、数回縦横切り上げの動作を繰り返し、次は反復横跳びを始めた。
「身体を圧迫する力が大きい。こんなに違うのか。」
そんな事よりも、私が驚いたのは、マイルズが頭から靴の先まで仕込んだトリタニウムの重さを感じさせない動きを見せているのだ。
<<滅茶苦茶重い金属の筈なんだけどね。鋼なんて目じゃない位に・・・・>>
実際は、鎧よりも剣の方が問題だったのだが。鎧は厚み0.2ミリの薄板で良かったので、常識の範囲内の重さで済んだ。
しかし、剣の方は地金も刃金も全部トリタニウムと言う事になると、長剣サイズで重さが50kgを軽く超える。結局、通常の立法晶合金を地金に、トリタニウムを刃金に使う事になった。おかげで、重量は長剣と短剣合わせてたった15kgで済んだのだとか。やれやれ・・・。
「昨日行った遺伝子改造が今日こんなに彼を強化してるの?」とドクターに聞いたが、ドクターは澄ました顔で「いや、彼は元々こんなもんなんだよ。今後、彼の体形が遺伝子改造の影響で変わってしまったら、彼の鎧は全部作り直しになるだろうね。」と答えたものだ。真剣な顔で・・・。
<<どんな鍛え方してんのよ?しかも、この人間離れした怪力の上に、まだフルセットの身体強化や知覚力が後日加わりますって?>>
彼の能力が今後飛躍的に向上するのは、ちょっと想像しただけで恐ろしかった。それに加えて・・・あの不屈の精神。
いや、違うか?不屈の精神が、彼をこんなに強くしているのだろう。現時点ですら・・・超人的だ。歩き方を見ても、普通の人とは違うし。
<<うーん、私みたいなパンピーが彼のお役とかに立てるんでしょうか?>>
そうも思ったが、逆に彼になら護って貰えるじゃないの?とも思いなおした。
そもそも、彼が大怪我をしたのを見なかったら、彼に対してこんな保護欲に似た感情は抱かなかったとも思うが・・・。
<<あんなにインパクトのある出会いでなかったらねぇ・・・。でも、そういう出会いだったんだし。>>
遠くに見える白い街並み、結構な大きさの街だ。歩くのだるい・・・。
「ところで、街に入るの、こんな札でIDの代わりになるの?信じられないんだけど?」
「簡素過ぎるのは、やはり技術的な問題なんだろうけどね。」マイルズも札を指で振って空にかざしている。
「入手手段が窃盗とか、現物を持ち主に返したけど、その前に現物を複製偽造するとかもありえないな。」ドクターは愉悦を抑えきれない様だ。
「そして密入国、戸籍が無いのを悪用して定住・・・。私たちって全員犯罪者よねぇ!」
「文明人も野蛮な方法を選ぶ時がある。そんなところかな。まあ、”郷に入っては郷に従え”だろうかね。」いやにマイルズが饒舌である。
「ほら、これにモノを言わせて生きて行くんだ。野蛮な生活の第一歩。序の口って事さ。」彼が軽く叩いた剣は嫌にゆっくりと揺れた。あれは鈍器としても致命的な武器だろう。そしてダイアモンド比21.4倍の硬さのエッジを備えているのだ。
「悪い奴限定で行きましょうね。そこらの区別は私に任せて♪」
「頼りにしてるよ、イーデン。」ドクターはどこまでも本気の軽口を叩く。
目指すのは街塀に設けられた関所だ。しかし何故だろう?単なる塀に感じるこの違和感は?
近づくにつれて、違和感の正体に気が付いた。そう、巨大なのだ、塀の高さも厚みも。
「これを作ったのは、技術的に未熟な種族なのよね?」
「そうらしいな。確証はないが。」
「スケールが凄くでかいし、あの塀には切り目や継ぎ目が見つからないけど?」マイルズも驚いている。
「コンクリートかも知れない。何か特殊特別な事をやってるのかも知れないが。」
「例えば魔法って事?」
「高さ6メートル、全周8キロメートル、これだけの建造物を精々7万人程度の街に据えるとは贅沢な事だよ。地球ではこんな豪勢な防御設備は滅多に建設された事がなかった。魔法がどこかで関与している可能性はあるだろう。」
「壁に裾野がある。あれじゃ素手なら誰にも登れないな。ハーケンやザイルを使えたとしても面倒だ。」
「マイルズ、貴方、そう言うのもできるの?」
「転送装置付きの船がいつも傍にいるとは限らない。レスキューはそんな状況でも出動するものさ。」
「う、うん・・・。」レスキュー?救命隊?貴方が?何か良くわからない事情がありそうだ。
その時だ・・・・。
「誰?」声に出してそう言った。
「?」「?」二人が怪訝な顔をするが無視する。
「私たちを見ているのは誰?」はっきりと視線を感じた。けど、気配は感じない。ただ見ているだけの視線。
そして、唐突に”目が閉じた”・・・。
「どうしたんだ?」ドクターの問いに「誰かに見られていた。これが魔法による監視なのかも・・・。」とだけ答えた。
「ありえるだろう。我々は不審者だと思われているのかも知れない。」
「セキュリティの遅れてる世界だと思ったけど、なかなかどうして。」マイルズは皮肉な表情で街を見ている。
魔法世界との最初の遭遇ラウンドはポイントで相手が有利と言ったところなのだろうか。
しかし、まだ街の外壁からは随分離れている。なのに、こんなところで監視を仕掛けて来るものなのだろうか?もし、そんな広範囲に監視が及んでいるのだとすれば、変事への対応に出動する人員の数はそこそこのものとなるだろう。
なにしろ、地平線の奥行や、建物のスケールを見間違えていたせいもあるが、目標の街まではまだ8km近くあったのだから。その結果・・・・。
「重い、重いよ・・・。」随分甘く見てた。それとも身体が鈍ってる?この気圧のせい?
「これを機会に鍛えなおす決意を固めるんだ。君の将来のためにも。」私は黙って肥り肉の男を睨んだ。この男、太ってるくせに異常に体力がある。マイルズはいわんやおやだ。
まあ、この経験が結果的には良かったのだ。一念発起した数年後の私は腹筋も見事な戦士みたいなお腹になり、25年後には美魔女に進化したのだから。おかげで更年期障害にもついぞ悩まされた事もない。
けど、それは未来の話。その時の問題は解決しない。強い向かい風(風速5メートル?)を受けてひっくり返る寸前だった。
「後30分ほどでゴールだ。肩の荷物は俺が持つ。」マイルズの好意には甘えるしかない。革袋から水を少しだけ飲む。金貨の重さから解放された私は済まない気持ちで一杯だ。
「この惑星の環境に慣れるのは大変かも知れないね。剣を振るのも大変な気圧だけど、体力の回復は他の惑星とは比較にならない程に早いみたいだ。酸素もたっぷりあるし、生の大気に何の毒性もない。イーデンも下らない金貨の重ささえなかったら、気圧のおかげですぐに回復するんじゃないかな?」彼は小休止とばかりに、荷物を地面に置いた。
「そうだな。けど、さっきの事だけどな・・・イーデン、君はわかってるのか?」
「何をわかってるって?ドク・・・。」
「君は多分、魔法による現象をこの中で一人だけ感知したんだが?それはわかってるのか?」
「あら?でも、考えてみたらそのとおりよね。」
「じゃあ、プランAで・・・。この街に腰を据えてって事になったね。頑張れ、イーデン。」マイルズが軽く重大な事を言ってしまう。
「はあ?プランAって、あれマジなの?」
「マジだよ、大マジだよ。何のためにこんなに金貨を担いで来たと思ってるんだ?魔法使いへの弟子入りのためだ。そうじゃないのか?とにかく、今後の主役は君だよ、君。」
「ドクター?貴方も治療魔法を学ぶって言ってましたよね?」
「それは過去の事だよ。君にはやはり才能があったんだ。私は信じていたよ。だから私の分まで頑張って欲しいw」
ムカつくぅ!けど、反論できない。最初っから、その気がなかったかと言うとそうではない。
魔法の力は欲しかった。確かに欲しかった。でも、でもでも、自分が習うとか、使うとかって考えられない。考えたくない。
そんな不可思議で、怪しくて、危なそうな道に入り込んだら、自分が別人に塗り替えられて、二度と再び元に戻れない様な。そんな気がしていたからだ。
「できそうか?」マイルズの冷たい瞳がこちらを見る。静かで、力強い真っ青な空の様な瞳。
躊躇わずに彼の腕を握った。多少彼は驚いた様だ。けど、大事な事なのだ。
「私にできると思う?」私は彼の瞳を覗き込んだ。彼は力強く頷いた。嘘なんか一欠片もない、美しい精神が背筋から流れて身体を駆け巡った。
私は前々から思っていた。この男のような美しい、偽りのない心が失われた時から、私たちの種族の衰退が始まったのではないかと。お互いに心を触れ合う事、それに恐れを抱きあう。
だからこそ、聖杯の守護者御自らが混血の子供を作り、それを言い訳にして、遂には惑星の全住民が混血を良いものとして受け入れるようになった。
”こんな美しい心を、ありのままに、存分に感じられる。それこそが私たちの種族への最高の贈り物だった筈なのに・・・。”
「それじゃあ、まずは伝手を探してみないとね。」私はそれだけ答えると、近くに見えて遠い街に歩みだす。
今では周囲に人も多くなり、広い街道を馬車数台が固まって通って行くのともすれ違う。その周囲を何名かの帯剣した、長柄の武器を持った騎馬兵が囲んでいる。馬の横には弓矢も吊るされている。
「あれって護衛だよね?」マイルズが顎をしゃくる。
「そうなんだろうな。なにしろ、この辺は最前線の程近くなんだそうだし。そう言うのはありなんだろうさ。」
「揃いのお仕着せ装備じゃなかったし、傭兵なのかしら?」
しかし、この地形は街の建設時に意図して選ばれたものなのか?数キロにわたって、なだらかな登り坂になっている。ここらは緯度が高いせいで、春のこの季節では随分涼しい(地球人には少し寒いのだろうけど)が、私は大汗をかく羽目になった。
「大丈夫さ、魔法さえ習得出来たら、今後は箒に乗って楽に移動できるようになるさ。さあ、イーデン、後少しでゴールだ!w」飯店についたら、酔ったふりをして頭を殴ってやろうと決意した。
ふと見ると、マイルズが立ち止まっている。ほんの少し両腕を横に出して、指でサインを出している。
”前の”、”兵隊”、”少し多い”
少しどころではなかった。20人は居る。弓が5人と剣と盾が10名、長柄の武器が8名。こっちをじっと見ている。後500メートル位?
「どうする?既に待ち受けられているけど?」
「別に後ろ暗い事はしていないじゃないか。堂々と行こうじゃないか。」
「話せばわかるって?彼らは暴力的な世界観の中で生きている種族じゃないの?自分の手で敵手を殺して平気どころか名誉なんでしょう?」
「問題は我々が通行証を偽造してるってとこかな?これって宇宙全ての種族で問題になると思うけど?」
「つまり、この通行証では通用しないと思ってるのかい?」
「我々の考えは少し相手を舐め過ぎてたって事はあり得るかもしれない。この札には本来仕込まれている筈の”魔力”とやらがある筈だったとかね。そんなのレプリケーターでは再現できないと思うし。」
実際、後でわかってみると、マイルズの言うそのとおりだったのだ。この男鋭い・・・。そして。
「やあ、門衛さん。」マイルズが片手を挙げて挨拶をする。
「バーゼルフォートにようこそ!」一人が応える。
「はい、通行証。」恐れ気もなくマイルズが差し出す。通行証を手渡したが、相手は鋭い目付きでこちらを見るだけで何と言うリアクションもしない。
「通って良いかな?」マイルズが問うが、それに答えもしない。しばらくしてから「ここで待て。」とだけ言って通さない。
「一体どうしたって?我々は旅して来て、少し疲れているんだけどね?飯を食って休んで、宿を探したいんだ。」
それに誰も答えない。
待つ事30分少し、ひょんな事が起きた。壁の内側から大きな声が聞こえた。外に出ようとしている馬車の一隊が、我々の検問所で立ち往生して抗議を始めたのだ。
不審者(我々)についての措置が終わらないから通せない。そう言われているのだろう。内側にも結構な数の兵隊が集まっている様だ。
「気が付いてるかい?さっきから、何度も大きな音が街の向こう側で響いてる事。」マイルズがいつもの表情で私たちに問いかけた。
「街中の騒音がそれで少し止まってた様だが。あれは何かの魔法による音だったのだろうかね?」ドクターは考え込む。
中から聞こえる騒ぎは、かなり険悪なものとなりつつある。街から出たいと思っている隊商が騒ぎ始めたのかも知れないが、こちらは街に入るのに足止め状態。
中から聞こえる声は「小麦」とか「備蓄」とか言う言葉が混ざり始めているが、意味は聞き取れない。
そして、遂に分厚い格子が巻き上げられて、その中から更にたくさんの兵隊が出て来た。
「こいつらが偽造の入門証を使ったんだろう。その時点で有罪じゃないか?消しちまえば良いんだ。」と隊長格らしい戦士が、私たちを取り囲んでいた門衛たちを押しのけて前に出て来た。
「待て、誰もこいつらを殺せとか言う指令は出していない。勝手に人を殺せば、その時点で殺人だぞ?わかってるのか?」と怒鳴る。他の門衛も口々に早まるなと制止している。門に向かって、格子を閉めろと怒鳴っている者もいる。
「おめえたちが、こんなケチな連中相手にチンタラやってるからだろう?俺たちがこいつらの始末はしてやるさ。」
「お前ら!俺たちの馬車に乗って、この街から退去しろ。適当なところで降ろしてやるから、後はどこなりと失せろ。」隊長らしき人物はそう怒鳴った。
「でさ、イーデン。本当のところ、彼は我々をどうしようと思ってるんだ?」私たちの前に立ちはだかっているマイルズがそう問いかける。
「街から離れたところで、私たちを殺してしまうつもりね。」彼の背中に私はそう答えるしかなかった。
「じゃあ、彼の言う事は聞けないな。」
「隊長さんで良いのかな?貴方の言う事は聞けないよ。素直に貴方に従ったら、街から外れたところで、我々を殺して捨てるのがオチだろうし。」マイルズの返事に隊長らしき人物は激高した。黙って門衛たちを押しのけて、いきなり剣を抜いて走り出した。
「仕方ないね・・・。」とマイルズは独り言ちると構えた。ボクシングのスタイルで・・・。
別に斬り合いとか発生しなかった。相手が抜いていない事を見て取った隊長は一撃でマイルズを殺してしまうつもりだったのだろう。
しかし、放った長剣の突きを・・・・ほんの少しマイルズが右側に動き、相手の右ひじの内側に左のジャブを入れて武器を逸らし、左足を軸に右足を踏み込んで右のストレートが相手の頬をヘルメットの頬当ての上から強打した。トリタニウムの籠手で殴られたら、生身の顔なら大変な事になる。
もんどりを打って倒れた隊長の腕にまだ握られていた武器を、重いブーツで蹴り飛ばした。
それから後が更に問題だった。どうやら隊長の側近と思われる体格の良い兵隊が二人、門衛の制止を振り切って武器を構えて襲い掛かって来たのだ。
マイルズは慌てず、先に襲い掛かって来た兵隊の方に向かった。薙ぎ払われた長剣は、脇をしっかり固めたマイルズの左腕に当たり、トリタニウムの薄板に激しく衝突して刃金が弾け飛び、ボロボロに刃毀れし跳ね返った。
次の瞬間、マイルズは抜き打ちを存分に効かせたストレートで長身を活かして、相手のヘルメットのこめかみを強打した。最後に膝が崩れた兵隊の顔に、籠手がぶち込まれて盛大に鼻血が噴き出す。
もう一人の兵隊は、隊長と同僚が一発で血の海に沈むのを目撃し、自分がとんでもない相手の前に飛び出した事を知った。しかも、相手はまだ剣を抜いてさえいないのだ。
しばらくの間、マイルズの斜め前に立ち、仲間が駆けつけて来ないかと様子を伺ったが、仲間全員が門衛に制止されるでもなく、成り行きを呆然と見つめていると悟った。ふと気が付くと、マイルズは自然な歩みで彼の手前2メートル程まで接近している。手に持った戦槌を慌てて構え直し、盾を前に出したが、それはマイルズと戦うと改めて意思表示したのも同じだ。
「やめといた方が良い。俺は攻撃して来ない者に反撃はしない。」淡々とそう告げられたが、この世界では武器を抜いたら、攻撃しないでは通らないのだろう。重い武器が唸りをあげて斜めに振り下ろされる。
マイルズは左に動いて肩口を狙った槌を躱すと、振り下ろされた相手の腕に摺り足で瞬時に移動した。そして、大きな右手で相手の右手首を掴み、そのまま手を捩じり上げると、肘の裏に左手を固めてぶち込み、相手の肘と手首を使ってクルリと身体を一回転させた、その後の1秒にも満たない瞬間で、背中に右ひざを乗せて固定してしまった。それから、じっとマイルズは残りの兵隊を見つめて動かない。
膝の下に敷かれている兵隊も、この態勢で暴れたりしたら、どんな反撃が来るのか予想できないのだろう。息遣いこそ荒いものの、暴れようとはしなかった。
「これ以上は手加減はできない。」彼ははっきりと透る声で周囲の兵隊たちを圧した。怖いもの知らずとしか、彼の行動は表現できない。
門衛の一人が、駆けつけて隊長ともう一人の兵隊の近くに寄る。手振りと呼び声で数名の門衛が隊商の護衛から離れ、両脇を抱えてマイルズの近くから引き離した。彼等が収容された後、マイルズは押さえ込んでいた最後の兵隊を解放した。その兵隊が逃げ出したのを見て、マイルズは立ち上がって彼らに正対する。
「イーデン、ドクター、俺の後ろに。」短くそう言うと、マイルズは短剣を抜いた。「相手を殺さないで処理するのは、これ以上は無理だ。」
ずらりと並んだ兵隊たちを見て、私は不安のどん底にあった。