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それら全てを統べるもの  作者: 小川桂興
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第3話 ブリーフィング

艦内時間1915


 「少し早いが、全員が揃ったので、ブリーフィングを開始する。」チェレス中佐が降下チームに告げる。

 この男も、トラディオンでは、妖精族と言われる種族である。過酷な環境で育ち、地球人よりも筋力で3倍、恐るべき敏捷性と瞬発力に加えて、精神感応その他の能力を持つ種族だ。

 しかし、それらは表面上で、彼らの精神には信じられない程の激流が流れている。抑制された外見とは裏腹に、恐るべき闘争心や怒りを内包した種族でもあるのだ。

 「君たちは5つのグループに分かれる。一つはドクター、クリストファー中尉、イーデン少尉の組。降下ポイントは北方の都市国家群の近く。言うまでもなく、最前線に近い場所だ。」


 この世界では、既に15年以上前から大きな戦争が継続している。

 片方は通常のこの世界の住民。もう片方は、何と言うべきか・・・魔導士たちに率いられた魔軍であるとの事だ。

 魔軍の根拠地は、「塔の墓場」と呼ばれる、真に荒涼たる地域であるとの事。

 これらの情報は、全て地表に放たれた偵察ドローンによるものだ。それらのおかげで、惑星の言語についても既に調査は終了している。


 最初に呼ばれた3人は、アイアングレイの髪と眉に冷たい碧眼の戦士、そしてドクターと呼ばれる初老の男、最後は栗色の巻き毛の美しい女性の3人であった。

 クリストファー中尉は、遺伝子改造措置を願い出た地球人であり、保安部門の一員。そしてドクターはもちろん医療部門のチーフ。最後のイーデン中尉はテレパシー能力を持った地球人そっくりの異星人であり、科学部門のスタッフである。

 

 「次の組は、ルゴラン大尉とベゼーラ少尉の組。南方のシャムター宗主国と呼ばれる国に降下する。」

 蛮族戦士と、妖精の女狩人の組だ。降下先のシャムター宗主国とは、熱帯気候の広大で比較的平穏な情勢の国であったが、最近では治安が悪化しているとの事であった。


 「3組目は、バホラ大尉、セスター少尉とロッドマン少尉の組。降下ポイントはクロスタン帝国。」

 バホラ大尉は保安部でも選り抜きの士官であり、フェンシングの名手でもある。地球発祥の剣術技能大会で異種族も含めて準優勝した事もある。セスター少尉は若く、任官後の経験は浅いが保安部でも特に身体能力に優れた青年士官だ。ロッドマン少尉は医療部門所属で、イーデン中尉と同郷だが、混血児であり、純血の中尉と比べてテレパシー能力は限定的である。

 降下先のクロスタン帝国は、問題の中心である塔の墓場からかなり西に抜けた場所に位置しているが、それでも陸続きであり、当地の住民としては・・・まったくもって油断できない地域と言える。


 「その次は、クレイン少佐と、ライン軍曹の組。西のシャン・グレイス連合国に降下する。」

 この組は、艦隊でも有名な科学士官であり、エンジニアであるクレイン少佐の率いる組で、随行するライン軍曹も若い女性ながら艦隊で有名な射撃の名手である。もちろん、射撃と言っても位相光線銃その他の武器が専門であったが、古い武器である弓矢の弾道を読み、次弾を修正する能力も著しく高い事が訓練中に判明している。

 降下先は、近年婚姻関係に伴う合意で連合国家となった部族国家だ。山岳地帯と隣接する広大な平野、穏やかで水量の多い大河が複数存在する肥沃な国である。


 「最後にソード中尉とゴルグ二等兵は赤道付近の大湿地帯に降下する。」

 彼等二人はトカゲに似た爬虫類型の種族で、動きは多少鈍いものの、信じられない程に頑強で、茶色い皮膚は岩の様に硬く、しかも柔軟に動く。腕力はと言うと、一旦彼らに捕まったら、ヒグマですら腕を捻り折られる程であり、人間型種族には素手で対抗するのは不可能である。

 ソード中尉は科学士官ではあるが、むしろ考古学や民俗学に詳しい。そして、ゴルグ二等兵は艦隊の兵卒として編入登録されているが、その実は民間人から特命任官された者である。

 彼らの種族ではとてもとても珍しい双頭の、いわゆる奇形ではあるが、彼らの種族では双頭の子供は祝福された証との伝承があり、社会的地位は高い。事実、祝福されたギフトとして、ゴルグ二等兵は強力なテレパシー能力を有している。

 彼らの降下先は、人間型種族の住まない赤道直下の大湿地帯であり、そこには彼らと同様の爬虫類型種族が棲息し、文明を構築していると言う。


 「各自データパッドの内容を降下前に確認する事。そして、降下後の更新に期待する。質問や希望については、各自がデータパッドに記載する事。降下前に行わないといけない事については、今からの自由時間で全て済ませておいて欲しい。」

 「君たち全員は転送降下した時点で、軍籍から離脱する事となる。それまでは、この艦内の設備を自由に使える。その後は、君たちからの要望については、全て艦長の裁可が必要になる。」

 淡々と、何の感情も見せずに彼は告知を行う。

 しかし、ベゼーラにだけはわかった。チェレスが全員の身を案じ、可能な限りの準備の援助を行おうとしている事。降下後も、必ず艦長と共に全員の任務達成を援護するだろう事。

 そして、任務終了後にどんな非難を受けようと構わずに、あらん限りの方法を講じるだろう事を確信していた。


 「了解した。」ドクターがそう答えて、チェレスからの解散告知を受けた後、一同は解散する事となった。

 今回のブリーフィングは儀式だったのだ。それまでに散々各自で検討していた事をあらためて確認しただけの事だ。

 ともかく、明日までに、それぞれが装備を再検討しなければならない。時間は有限なのだから。

 なにより、ドクターにはクリストファー以外に遺伝子操作を申し出たバホラとセスターへの施術を行う用もあった。

 舷窓から見える惑星は、青く輝き、信じられない位に美しい。

 そして、そこは戦乱の最中だと言う。

 ドクターは思う。そこに助けを求める人達はたくさんいるに違いないと。

 彼、そして、彼の随行者であるクリストファー中尉は根っからのレスキュー要員であり、降下後もその信念を貫こうとしている。

 そんな事に思いをはせながら、彼は飽くまでも実務的な者としての振る舞いも忘れない。

 自分たちの祖国で一律に禁じられた遺伝子改造と言う禁忌。その施術を行わねばならないのだ。


 舷窓から目を離し、彼は医務室に向かう。彼の本来の居場所に。

 そこからも、明日には去り、危険が待つであろう地に赴くのだ。

 ふと、部屋の隅に目を向けると、そこには彼をじっと見つめるイーデン中尉がいて、彼に目礼をすると、そのまま彼が見つめていた舷窓に目を向けなおした。

 ドクターは無言で部屋を出て行った。

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