第25話 盗賊たちの処遇
「本当にすみませんでした。」襲撃部隊の頭が平伏しながら詫びを入れている。
「ミスラル様のご厚情と人徳に、あたしは感服するばかりです。こんな私を信じて下さっただけでも、私みたいなヤクザ者は恐れ入るばかりです。」アローが同じく平伏する。
「ミスラル様、俺は貴方の様な立派な方になんて事をしでかしたのかと・・・・。」あの凄い動きの剣士が半泣きになっている。「傷は残ってないと言われても、俺が貴方にナイフを投げた事は間違いありません。ミスラル様でなかったら、なかったら殺してました。」遂に泣き始めている。センチネルの神経衝撃を受けて、治療して貰ったのだとしても、身体を真っ直ぐに立ててられるなんて、あんた運が良いよ。
「ああ、やめやめ!あんた達、ミスラルさんをまだ見損なってるよ。この人は、あんた達やあたし達とは違うんだよ。本物の漢なんだよ。だから、遜るだけじゃなくてさ。許して貰えるってわかってんだから、許して貰えば良いんだよ。駆け引きとかは、この人に対しては却って失礼だよ。」これ私の本音。
「お、奥様・・・。あの、その・・・。」
「ミスラルさん、なんで貴方もそこまで下手に出るのさ?どーせ、貴方もアーサー同様で損で馬鹿にしか生きられない漢の中の漢なんだから。もっと悪びれずに尊敬されたらどうなのよ?」
「いえ、あの、奥様・・・・。」
「あ~~~~~~~~~!!!!!もう、じれったいのよ!!!!!あんた達はどうしてそ~なの?なんでそこまで損な性格にできてるのよ!!!!?」
「あ・・・あのぉ。」アーサーが口を挟む。「なにさ?」「いや、お前だけ叫んでても話進まないじゃん。そこの5人から話聞こうじゃない?」「そうね、じゃあ言いたい事言えば?」私が冷たく言い放つと、彼ら5人は思わず口ごもる。
「まずは自己紹介から行きましょう。ほら、何で盗賊団に加わってたのかとか。そこらから話してよ。」
頭と呼ばれていた男が背筋を伸ばしながら起立した。「我々全員、元ラエスカリールの騎士と騎士団員なのです。」その言葉に、ミスラルさんとセレストの両方が反応した。
「ラエスカリールと言うと、統一戦争で最後まで反旗を収めなかった都市と聞いていますが?」アーサーが質問する。
「そうです。我々の故郷は連合国家建設に最後まで反対していたのです。原因はいくつかあります。一つは、連合の新盟主である王子、現在遺る正統な血筋の最後の男児ですが、それに反対する有力な傍流の継承権保有者が居た事。それがラエスカリールの統治者であったからです。要は跡目争いに係る内戦となったのです。」心底うんざりした表情だった。
「そこに魔道士たちが付け込んで、内戦を更に悲惨なものとしました。沢山の街や村に疫病を蔓延させて大規模な災害を招きさえしたのです。そのせいで、傍流も含めたグレイス・ラーンの王族は激減してしまいました。ラエスカリールの担ぐ神輿であったカティーヌ侯爵ご自身も、いつの間にか魔道士が殺害して偽物と摩り替っている始末。我らは、カティーヌ侯爵の一人娘であったリュドミラ姫だけは護ろうと、姫様のおわすパライス・デーテに潜入し、身柄を確保しました。しかし、美貌の姫様はどこでも知られたお顔とお姿。姫様は長い御髪を切り詰め、避難民を装って粗末な服にやつして落ち延びました・・・。」頭はそれ以上語り続けるのが苦しくなったみたい。私はアローに目配せして、続けるよう促した。頭の人、ミスラルさんの精神衝撃のせいで、まだ話とかを長く続けるの無理みたいだし。
「では、後は私から。我々はその後に幾つかの都市を廻り、戦禍を避け、魔道士の追跡を何とか振り切ろうとしたのです。遂には追っ手との戦いとなりながらも、我々はこのリムルダールに辿り着いたのです。ここは正統王子の本拠地でしたが、我々は王子の庇護下にリュドミラ姫を置く事が、遂には抵抗を止めないラエスカリールの意固地を挫き、内乱を鎮める最善の手ではないかと思われたからです・・・・。」
「辛いのでしょうけど、続けてね・・・。」しばらくの沈黙の後に再び私は促した。
「はい。私は元々リムルダールの出身でした。なので、評議会の有力者に伝手があり、彼に直訴して、姫様の庇護を求める旨を申し出ました。私がパイプとしていた者は、裕福な商人だった男でもありました。彼は約束を守り、出迎えのために、王宮魔術師たちに護衛された騎兵部隊が派遣され、我々はその到着を待っていたのです。」そこまでアローが話したところで、セレストがわっと声をあげて泣き出した。
私はセレストを抱きしめて頭を撫でてあげた。「その騎兵部隊は強力な魔導士たちの一団に襲撃を受けて、王宮魔術師団のほとんどが魔道士たちと相討ちとなって死んだのよね。この子のお母さんも戦死した魔術師団の一人だったのよ。」アローも頭も、他の男たちも皆頭を下げて俯くばかりだ。
「それでも姫様は生き残りました。懸命に戦って下さったセレストさんのお母様たちの尽力あっての事でした。けれど、姫様は避難の最中に重傷を負い、それは無残なお姿に変わってしまわれました。辛うじてお命は護れましたが、それでもラエスカリールの者たちに呼び掛けるための旗頭とはなりえなくなってしまったのです。」そう続けたのは、ミスラルさんと渡り合ったあの凄腕の男だ。覆面を外したらこの人たち、揃いも揃ってハンサムなのよね。
「そして、止めとも言うべきなのでしょうか。我々がパイプとして使っていた男が、実は魔道士との内通者であり、セレストさんのお母様のおられた魔術師団も彼の企みにおびき出されて壊滅させられた事が判明したのです。我々は完全に面子を失い、危篤状態が続いていた姫様も僧会の術者の努力も甲斐なく、遂に目を覚まさないままにお亡くなりになりました。我々は呆然としてしまいました。そして、故郷の騎士団からも離脱したまま無役の者となりました。護るべき者を護れなかった不名誉だけが残ったのです。」頭の人は、多分騎士団のエライさんだったんでしょうね。実直で真面目な事は良くわかるの。彼を見るミスラルさんの沈痛な表情・・・そりゃ、こんな身の上の人達には彼でなくても同情しちゃうよね。
「君、セレストさんか・・・。君のお母様は、もしかしてあの短い金髪で、美しい翡翠の腕輪をしたまだ若い魔法使いだったのではないかな?」そう言ったのは、力場にぶつかって、その後吹き飛ばされた男の一人だった。
「母を見掛けたのですか?」セレストは目を見張った。
「姫様を助けてくれた美しい魔法使いが居たのは覚えている。何人もの魔道士と一人で渡り合って、遂に力尽きたと記憶している。彼女は身を挺して姫様を護ってくれたのだが、大勢の魔道士が放った分解の魔法によって、護衛の騎士が命を落とた。姫様もその魔法使いも魔法を避けられなかった我々の仲間が燃え上がった際の巻き添えになって重傷を負い、遂に魔法使いの女性は力尽きてしまったのだと記憶している。」
「そうでしたか。母がどんな風に死んだのか。僕は詳しく聞き知る事はなかったんです。立派な最期だったとは聞いていましたが。ありがとうございます。」セレストは涙をポロポロと流しながら、礼儀正しく一礼した。
「すまない。遺品だけでも拾えたら良かったのだけど。あの時の我らはそんな余裕すらなかったんだ。まして、こんな風に彼女の遺児に遭うなんて思いもしなかった。」男はそう言って頭を下げる。
「僕そのものが、母の、そして疫病で亡くなった父の遺したものです。両親の形見もあります。僕は強く正しく生きて、ミスラル様の教えを受けて、いずれは母に負けない魔法使いになるつもりです。」
盗賊一同、健気なセレストの言葉に黙り込んでしまった。横を見やると、黙って話を聞いていたアーサーが袖で目を擦っている。
「我々が誇りを失い、身を持ち崩して盗賊に零落している時に。我々と共に戦い、戦死してくれた若い女性の遺児が強く正しく生きて来た・・・・。」アローの言葉に、他の4人の元騎士団員は俯くしかなかった。
「我らも正道に立ち戻るべきだね。」頭がそう言った。
「ケチな盗賊として働いて来た悪事を償ったら、是非そうしようと思います。」凄腕の男もそう言う。
「我々の腹は決まりました。今から番所に行って、盗賊一味として行った悪事を自供して来ます。次に会えるのはいつになるかわかりませんが、ミスラル様やご主人と奥様、セレストさんには、罪を償ってからいずれお礼働きをするとだけお約束致します。」アローともう一人がそう言って頷きあう。
「あのですね、せっかくのご決意はありがたく思う訳ですが。実は貴方がた全員、既に私の助手と言う事で番所にお知らせしているのですよ。お名前をまだ伺っていませんので、詳しい事まではお知らせしていませんがね。」ミスラルさんが当たり前の様に言う。
「?????」元騎士団の盗賊一味が全員、意味不明と言う表情を顔に貼り付けて黙り込む。
「貴方がたが番所に自首などしたら、私が嘘を吐いていたと言う事がわかってしまいます。ここは、貴方がたが無益に拘束される時間を省き、我々にお礼働きをして下さると言う日が早く来るためにも、私と話を合わせて頂きたいのです。」ミスラルさんは”白い嘘”を平気で吐く人でもあるようだ。「嫌ですか?」と畳み掛けられて、5人は一様に困った風だ。
「こんな事になるとは思ってもみなかったので。我々としては困り果てるばかりです。」頭は正直にそう言った。
「俺たちに何ができるでしょうか?俺個人としては、剣とナイフで戦う以外の才能はありません。」凄腕の男が言う。
「それぞれにできる事をお願いします。では、見受けの詳細を決める為にも、お名前を頂戴したいのです。」
「私は元ラエスカリール騎士団、騎兵大隊長のライアン・リッチボローと申します。」頭だ。
「俺はケイジ・ハセクラ。騎士団付き歩兵部隊の軍曹でした。」凄腕が名乗る。
「私はブライアン・サンプスン。弓騎兵としてライアン隊長にお仕えしていました。」真っ赤な肌の厳つい男が言う。
「ベルナード・クレージュ。ライアン隊長付きの参謀でした。」セレストの母の事を話してくれた男だ。
「アロー・マークシア。大隊長付きの斥候でした。」
「支倉はご先祖がニホン人か?ベルナードはフランス人?アローの苗字は初耳だな。ブライアンは新大陸の原住民か。隊長さんは俺と同じくイングランド系かな?」アーサーが呟く。
そのアーサーの言葉に一番激烈な反応を示したのは、ハセクラだった。「貴方は、俺の先祖が住んでいた場所を知っているのか?そうだ、二ホンと言う名前の土地だったと聞いている。俺の家系は全員が親から故郷の名を伝え聞いているんだ。」この男も先祖は”星を亘る人”だったのだろう。
「二ホンは俺とコーデリアの故郷の世界の一地方だよ。風変りな文化を持つ美しい地域だ。」今度、エクスカリバーから日本についての資料をダウンロードしておこう。
「俺にとっては、先祖のやって来た伝説の国だったんです。でも、本当にあったんだ。俺、それを知っただけでも感激です。御主人、奥さん、ミスラル様、セレストさん。俺のやらかした乱暴を許して下さるなら、俺は皆さんの為に生涯働きます。命はとっくに捨てています。存分に俺を使って下さい。」ハセクラはそう言って膝を床に付いた。
ミスラルさんは、武骨なベルトと、ジャラリと下がった剣とナイフを私に手渡した。「奥様からどうぞ。」とだけ言って、ミスラルさんは他の装備を取りに机に向かった。
「では、ハセクラ。貴方に武器を渡すわ。今後はミスラルさんの忠実な部下となるのよ。わかった?」と告げると、「ミスラル様だけじゃない。俺の命はこの部屋にいる全員のためのモノだ。命に懸けて、この誓いを守ります。」との答えがあった。「あんた、ちょっと固いわよ。あんたが死んでもミスラルさんも他の誰だって喜ばない。ずっと一緒にいて、忠実な同僚としてこれからは暮らすのよ。良いわね?」と含めると「わかりました」とだけ答えて、立ち上がってベルトを腰に着けた。凄い気合・・・頼りになる男だね。
ベルナルドはセレストから装備を受け取り、あの子の手の甲に軽くキスをした。例によって、セレストは真っ赤になっている。
アーサーは真面目そのもののブライアンが手を挙げて誓いを立てる姿を見つめている。
ミスラルさんは、ライアン隊長に装備を渡している。ライアン隊長は剣を鞘から抜くと、見事な答礼の型を取り、その後に膝を付いて臣従の誓いを立てた。
「では、ご主人。例のプリトウェンと言う仕掛けに、この方々の事も登録しておいて下さい。」ミスラルさんが実務的な事を言いだした。
「プリトウェンとは何でしょう?」アローが尋ねたので「ハセクラをぶっ飛ばした例の仕掛けよ。」と私が教えてあげたら、流石のハセクラも怖気をふるった。「あれはダメだ。二度と嫌だ。」と冷や汗をかいている。「もう一度あれを食らったとして、今回みたいに完全に治る保証はないんだよ。ハセクラは運が良かった。」とアーサーが軽く事実を口にすると、元盗賊全員がお葬式のように無口になってしまった。
そんな事を言いながらも、アーサーの手は止まらない。見る見る内に、全員の登録作業を完了してしまった。「よし、これで全員登録できた。”プリトウェン作動。”」何も起きない。けど、ライアン達を二度とセンチネルは襲わないのだ。
「俺の方から、今後の5人の役目の腹案を披露したいんだが。」アーサーがそう切り出して、セレストにお茶と菓子を用意してくれと言い付けた。私も手伝うと言い残して、二人で厨房に向かう。
「奥様・・・。私がこんな事を言うのは何ですが。あの方々は信用できるのでしょうか?」セレストが火種を入れたかまどに薪をくべながら呟いた。
「アーサーにせよ、ミスラルさんにせよ。あの人たちは自分の思ったとおりの道を行く。だから、私はその道を必ず一緒に行くの。そして、彼らが道を間違っていたら、引っ叩いても後ろに連れ戻すの。わかった?」セレストは自分の振った話題ではあったけれど、私の反応に驚いている様だ。
「あいつら、基本は馬鹿なんだから、ちょっと賢い女が方向を修正するのよ。間違ってたらぶちのめすの。でも賢すぎたらダメ。男が二進も三進も行かなくなる。」
「奥様、僕にはちょっと荷が重いのではと思います。」セレストはまだ12歳、しかも奥手で未熟な娘だ。この数日間でもいろいろな事があり過ぎた。こんな子供に大活劇はやはり無理だと思う。けど・・・・。
きっとこの娘には、これから凄く濃密な何年間かが待っているのだろうとも思う。例えば、18の小娘がアーサーに出会って、その精神性に感化されたような日々が。
「それって幸せな人生なのかな?」とも思うが、8年間のこの恋愛で後悔した事は、私に関しては無い。アーサーにしてみれば、こんな筈じゃなかったかも知れないけど。
「ただね、セレスト・・・。私はアーサーが人物を見間違えて、あの人たちがアーサーをもしも殺してしまうような悪人だった時には、仕方ないからアーサーの敵討ちをするし、それで自分が死んでも後悔はしない。アーサーが信じる通りに生きて、そこで躓いて死んでしまったのだとしても、私は納得するし、そのせいで私自身が死んでも後悔はしない。彼の望みは私の望みだから。それと同じ幸せを求めるなら、それを求めて同じく人を好きになるなら、最高の男を好きになりなさい。妥協はダメよ。自分の人生を賭けて悔いない様な立派な漢を好きになりなさい。。」セレストは無言だった。
「そもそも、あんた、あの怪しい妖精の言葉に完全に振り回されてるでしょ?何でよ?」私は思ったままに口にしたのだけど、セレストからの返答はちょっと唖然とした。
「あれは星読みの告げた託宣ですよ。僕はそう言う運命の子供だと言う事です。僕がそれを気にするのは当然ですよ。」うっとりする様な憧れの表情でセレストは言葉を紡ぐ。
「僕にも奥様と同じ様な素晴らしい恋が待っているんですよ。そう思うとドキドキします。御主人様の思慮深さ、凄い腕っ節と度胸。奥様の事がここ数日で本当に羨ましくなってます。けど、僕にも同じ様な幸せが来るのかと思うと・・・。感激しちゃいます。早く大人に僕もなりたいです。」いや、多分アーサーと似たような男だと、幸せだけじゃないと思うけどね。
「男でも女でも同じよ。大人ってのは、自分のやった事に責任を取れるのが大人なの。だから10歳の大人もいるし、60歳の子供もいるの。わかる?あんたの年齢でも幾らでも大人にはなれるのよ。まあ、私はあんたと同じ年齢の頃は子供だったけどね。でも、あんたが望む様な本物の良い男に出会ったのなら、覚悟次第で何歳でも大人になれる。けど、もしそんな運命がやって来たのだとしても、それは星読みや妖精のおかげじゃないと思うけどね。良い女は、良い男に出会う運命を最初から持ってるのよ。」と言いながらも、良い女が必ずしも良い男に出会えるとは限らないとは知っている。逆もまた真なりだけど。そう考えてみると、神託とかはやはり嬉しいものなのかも。私の時はそんなもんなかったけどね!
「でも、そんな良い男の旦那様を奥様は殴り過ぎです。あれは酷いですよ。」
「何言ってんのさ。ああしないとアーサーは常に暴走の危険があるんだから。」
「僕の母は父の事を殴ったり、魔法で攻撃したりはしなかったです。」ジト目で見られてしまった。
「わかったわよ。これからは私たちの敵だけを殴る事にするから。もしくは、チャンと働かない奴等を。」
「それを聞いたら、新しくやって来た方々、みんなドン引きだと思いますね。」そんな事を話しながらも、お湯は沸いているし、簡単な焼き物もでき始めている。簡単なものだけで、後は外食で良いかもね。
「今はこれだけで良いから。お茶を作って、焼けた菓子だけで簡単に済ませちゃいましょ。」セレストが明るい顔で頷いて、私たちはお盆を持って階上に上がった。そこでは難しい顔の男たちが討論をしていた。
「それが実現したら、犯罪の収益なんか完全に凌いでしまいますね。連中の内で、真面目にやりそうなのだけ選んで仕込み、売り買いの仕掛けもこっちで築いてしまう。新しいギルドができます・・・。」ライアンが言う。
「元はハセクラの祖国でも行われていた手法なんだ。今は俺たちの屋敷の庭で勝手に育ってるけどな。来年、再来年からは大規模増産体制って事になるな。」
「たかがクヌギの樹で、そんな高価な代物ができるんですか?知恵者は違うね!それにしても、俺の祖国の文化ってのは凄いもんですね。」
「大親分が回復したらどうなるかです。あの人は今回の件をどう考えてるんでしょう?」ブライアン。
「それよりもあの子だ。あれでも女の子なんだろう?盗賊ギルドの馬鹿どもを彼女の近くで使うってのは不味いんじゃないか?根本から犯罪者なんだぜ?」とベルナルドが大きな声で言っている。「大体、あの死んじまった5人の内の3人。あれは今より幼かったセレストお嬢さんを恐喝しようとした馬鹿者だったんでしょう?あの3人ですら、俺たちのギルドではマトモな部類だったんですし。」
「あいつらは弱かった。だからギルドでは大人しくしていた。そして、セレストはそれよりも弱かった。だから餌食にしようとした。その程度ではないかな。しかし、マトモな商売をするとなると、仕込み損ねたら殺してしまうと言う訳には行かない。それを見越した上で雇わないといけない。」ブライアンが呟くように語る。
「自棄になって刃傷沙汰を起こし、皆を盗賊に引き込んでしまった俺が言うのは何だけど、マトモでない奴等は楽な道を選んで何度でも同じ過ちを冒す。奴等には迂闊に金を持たせて遣いにやるのも難儀だった。今後俺たちが堅気に戻ったら、それを良い事に逸脱した事を繰り返すかも知れない。そう、俺たちが殺して罰を与えないとなれば。」ハセクラが言う。
コンコンと今更だけどドアをノックしてみる。「ごめんね、立ち聞きしてた。」と言って部屋に入る。「罰なら殺し以外にもあるわよ。ほら、あんたが夜中に食らった様な奴が。」ハセクラの顔が深刻な恐怖に引き攣る。センチネルの危険な神経衝撃・・・最高の鞭だと思うけどね。
「お前、それは不味いだろう・・・。」「いいじゃん、檻のない刑務所って事で。看守は恐るべき冷血かつ人道に囚われないパニッシャー。」「・・・・・・。」男どもは黙ってしまった。
「奥様、お茶を出しましょう。はい、お菓子を焼いて来ました。」セレストがそう言うと、皆は一様に彼女に視線を集中させた。彼女の護衛方法について深く悩んでいる模様だね。しかもかなり真剣に。でも、私も女なんだけど?そこには、ちょっと腹が立った。
「盗賊を雇うと言うのには私も疑問を呈しておきます。人手としては確かにありですが、人の質としてはね。」ミスラルさんも懸念は同じみたい。
「大親分の護衛たちも大きな問題があります。根っからの暗殺者が揃ってます。手強い頼りになる奴等なのは間違いありませんが、それ以上に連中は芯から人殺しなのが問題です。迂闊に気を許せば大変な事になります。」ブライアンが進言する。
「ともあれ、貴方たち5人を引き抜くのなら、それなりの仁義は通しておかないといけない。問題の争点はそこなんだし。」これはアーサーのお言葉。相変わらず律儀ね。
「でもね、私の見るところではだけど、ギルドの人達のほとんどが再起不能に見えたのよ。あれは身体じゃなくて心を壊されてたって感じだった。そっちの方が厄介なんじゃないの?」
「犯罪者に対する精神治療など、どのコミュニケーターも最低限しかしませんからね。彼らの行く末はそれほど明るいとは思えません。」これはミスラルさんの意見。しかも嫌そう。
「のたれ死にが関の山って訳か。寒い話だね。」アーサーもそれは良くないと思ってるんだ。
「大親分って人には、どうせ会わないといけないんでしょう?」私の言葉にライアンとミスラルさんは同時に頷いた。「なら、一度話を聞いてみましょう。それからよね。」
ここに居る全員は一睡もしていない。特にセレストの疲労は激しいみたいで、お茶を飲みながらあくびをしていた。けれど、まだこの事件は終わっていなかったのだ。今後の予定について雑談をしながら、更に1時間ほどの後、玄関と言うか門の外で大きな音がする。窓から見ると、そこには番兵が立っており、手に持った板を剣の鞘で叩いている。センチネルの恐ろしさを学習したのだろう。
「番兵さん達、我が家に何か御用ですか?」とアーサーが大声で尋ねると、「ミスラル様はご在宅でしょうか?例の屋敷がまた出入りできない状態に戻りました。今度は血液は流れていませんが、異変である事は間違いありません。御足労願えませんか?」との返事があった。
「一体何が起きているのでしょうか?」ミスラルさんは怪訝な素振りだ。「行きましょうか。それにしても、セレストさんも奥様も一睡もしておられないでしょう。お休み下さいませ。私とご主人、そして5人の新参の方々だけで向かいましょう。」彼は言うが。
「嫌よ。私も行く。」「僕も置いて行かないで下さい。」押し問答は短い間に私が勝った。当然だけど。
「だから、奥様。旦那様を殴っちゃダメですよ。」「殴ってないわ。殴る振りをしただけ。」「同じ事ですよ。」その様子を見ていた5人の新参者たちはやはりドン引きしていた。だから言ってやったのだ。「ね、この中で誰がボスだか、ちゃんとわかったでしょう?私の言う事には絶対服従よ・・・。」
5人はただ黙っていたし、ミスラルさんもかなり引いていた。けれど、譲ってはならない事もあるのだ。
「幸せって、子供に理解するには奥が深すぎるのかも知れませんね。」セレストが小さく呟いた声が妙に痛かったものだ。「少しばかり病んでおられますね、奥様。」とミスラルさんが呟いたのに、アーサー以外が全員頷いたのも・・・。




