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それら全てを統べるもの  作者: 小川桂興
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第19話 妖精の住む家

 新しい家の持ち主が現れた。逞しいけど気弱な旦那様と、美しいけど時々怖い奥様。

 大魔法使いミスラル様に、僕は奥様と共に弟子として迎えられた。ところで奥様、やり過ぎなんじゃないでしょうか。そう思う時もあるけど、旦那様の信じられないタフネスで今回も軽い怪我で済んだみたいで何よりかな。


「それで、盗賊との折衝のために、私を訪ねて来られたのか。なるほど・・・しかし、幾らなんでもその金額は無いでしょう。私の方で確かに金に困っている事はありますが、その様な用向きならば、別に無料でも良かったのです。」ミスラル様はそう言う人みたいだ。だからあまり身綺麗にもしていないし、店の構えも大した事が無いのかも知れない。要するに、良い人なのだ。

「こう言っては何ですが、こちらとしては金には当面困っていないんです。新居の仕掛けも稼働は確認できましたし、効果も抜群でした。けど、マーカス、いやセレストか。彼、じゃなくて彼女がこのままじゃ普通に生活できませんし。」旦那様はまだ私を男の子じゃないと言う事を納得できてないみたい。ちょっと悲しい。けど、私の事を心配してくれているのは嬉しい。

「私たちだけなら、どんな連中が出てこようと構わないんだけど。セレストの身の危険を考えるとそうも行かないのよ。」奥様も同じ気持ちみたい。ありがとう。


「そのプリトウェンと言う仕掛けについて聞いてもよろしいかな?」ミスラル様も興味津々みたい。

「うちに来ますか?」と旦那様が言うと、「是非に。」とミスラル様も乗り気になったみたい。でもあの家には・・・。

 そうして、僕たちはミスラル様と共に家に帰った。帰りに奥様がミスラル様をもてなそうと、市場で凄い量の買い物をして、ほとんどを旦那様に背負わせてしまった。旦那様、どうのこうのと言っても、凄く逞しいのに驚いてしまう。僕の目の前でも、髭の盗賊を一撃でのしてしまってたし。本当は強いんだなと思う。


「ここですか?広いお屋敷ですね。」ミスラル様も驚いていた。「確か、ここは以前の商会工房の一つですね。なんでも怪異が起きたと言う噂の・・・・。」

「この家には妖精が住んでいるんです。とある成り行きから、僕以外の人には追い出す様な事をしてしまって・・・・。」僕の説明に、皆は少し納得が行かなかった様だ。

「妖精が住み着いただけで、そこまでの騒ぎになりますか?彼らは気に入らない方の住処からは出て行く方が多いと思うのですが。」ミスラル様は流石にお詳しい。

「そこまで行くと悪霊みたいよね。でも、私たちは何も被害を受けてないし。」奥様はそう言うが、後に知ったのだけど、市役所の人達は妖精絡みで奥様によって手酷い被害を受けたみたいだったけど。

「詳しくお話します。もう、僕から話しても良いと思いますし。」僕はそう決めた。「お家に入りましょう。それからです・・・。」


 お茶を出して、多少のお菓子(買い置きの保存種にバターを練り込んだプレッツェル)を焼いて座を作った。僕は緊張した。数年前から既に始まっていた話でもあり、遂に予言が成就した瞬間だったからだ。

「あの、唐突な事が多いので驚かないで下さい。まず、奥様と旦那様がここに来る事。お二人と私がミスラル様に弟子入りする事を予言していた人が居るんです。」僕の切り出した枕話に旦那様はうんうんと頷いた。

「聖剣伝説かな?その内容は良くわかってないんだけど、君は知ってるのか?」僕にはその事はわからなかったので「いえ、聖剣伝説の方は知りませんが、その予言者とは有名な星読みのアリサ様です。」

「アリサと言うと、妖精族のアリサか?セレネの姉だな。」ミスラル様は当然知っているだろう。同じくマスターウイザードのお一人でもあるのだから、交流もあったかも知れない。

「しかし、あの方は滅多に自分の護っている場所から出て来ないと噂の人なのだが。それが君と接点があると?」

「いえ、正しくはこの家と接点があるんです。彼女はこの家に来て、家令の方に手紙を渡したんです。内容はこんな所でした。」


”この家にいずれ星を亘る人の夫婦がやって来る。その夫婦は共に魔法の門を叩く。夫婦がもたらす財貨と知識はこの国を助け、この世界を救うだろう。この館の者たちは即ち夫婦に館を引き渡すべきであり、その対価を夫婦から得るであろう。この館を守護する者を残し引き払うべし。二人の来訪までの間、館を守護すべき者は孤児であり、夫婦と共に魔法の門を叩くだろう。”


「こんな手紙をアリサ様は残し、とても貴重な魔法の品を贈ったそうです。星を亘る人と言うのは僕には何かわかりません。そして、僕は孤児であり、母が魔法使いだった事から、館を守る者として工房の主から命を受けて残りました。」

「で、妖精はどこで出て来るのですか?お話に全く出て来ませんし、私もこの街に居ながら詳しい話を聞いていないのですが?」ミスラル様も首を捻っている。

「はい、実は僕以外にも、何人かの孤児と一部の工房の者たちが自分が残ると言い張ったのです。家令の方も前の主人の方もそれには困りました。居残ろうとした人たちは、”館を守護する者は一人とは限らない”と言い出したのです。仕方なく、僕以外の人たちにも残っても良いと言い、皆に仲良くせよと諭して去って行きました。」

「けど、残った人たちは仲良くするつもりはなかったんです。喧嘩が毎日起きて、酷い怪我をした人たちが一人去り二人去りしました。僕は無害な子供だったので、他の人たちから言いつけられて小間使いみたいに働かされました。それでもダメで、ある夜に棍棒を持った孤児たちに追い掛けられて、館から出て行けと迫られたんです。」

「10歳の女の子にはどうにもできなくて、僕は泣く泣く館を出る事にしました。でも、門を出る前に、残る人たちから何の荷物も持たずに出て行けと言われて、父母の形見も渡すよう迫られて、困ってしまい、庭にしゃがんで泣いていると・・・凄い事が起きたんです。」全員ごくっと唾を飲み込む音がする。


「そこに現れたのは、揺らめく無数の鬼火と、黒い大きな炎を纏う馬に乗った女の人でした。女の人の顔を私は見ていませんが、皆は相当怖かったのでしょう。凄い悲鳴をあげて腰を抜かした上に、僕以外の全員は桶から真っ赤な血を投げ掛けらて、その後に”欲深き者どもよ、命が惜しくばこの館から出て行け!ここであった事は生涯口外するな、口外すればいずれ命を失うものと知れ!”と怒鳴られました。その人は僕の足元には銀貨の入った袋を投げて”この家を守れ。星亘る人たちを待て”と言って、そのまま消えてしまいました。」

 話を聞いていた三人の方々は、しばらく何も言わずに考え事をしていた。「その馬に乗った女の人とは、つまりはデュラハンでしょうな。桶から血を撒いて人間を恐怖に陥れる最悪の妖精の一種でしょう。しかし、そんな妖精はこの近くには居ない筈なのです。まあ、私には一人だけ思い当たる節がありますが。」ミスラル様はそう言う。

「思い当たる節があるのですか?お知り合いとか?」旦那様の問いにミスラル様は口ごもった。「彼女の素性についてはお話しできません。信義の問題となります。」

「まあ、それなら仕方ないんじゃない?それよりも、その予言におかしなところが一つあるわよ。」奥様はそう言うが、私にもそれはわかっていた。

「そうですね、アーサーさんは私に弟子入りするとは言っておらんのです。それと、”星亘る人”とは何かもわからないのです。」ミスラル様も気が付いていた様だ。


 旦那様は私たち三人から見つめられて、思わずソファーから逃げ出そうとする様な仕草を見せました。けど、後に奥様から僕が伝授された「小手取り」と言う技でガッチリ腕を絡めとられたのですが。

「”星亘る人”とは、この地の伝承にある”聖剣伝説”で語られる者たち、つまり私たちの事です。私たち12名の者たちは、”聖なる剣”の名を持つ軍艦から派遣されて来た異世界の住民なのです。」奥様はそう言うが、僕にはサッパリだ。

「すみません。私はその手の伝承に極興味や造詣が薄いのです。」ミスラル様も申し訳なさそうに言ったが、それは掛け値なしの真実だろう。この人は英雄譚とかには全然興味が無い。魔法の達人であり大家でもあるのだけど、根っ子が一般人なんだと思う。

「私たちと組んで大儲けする方に興味は?」と奥様に言われて、ミスラル様も「そちらには多大な興味があります。財貨を稼ぎ、工房での生産を拡大したいですから。きっと街の人たちのお役に立てて見せます。」と答えた。多分、この人は生涯富豪にはなれないだろう。けど、僕はこの人たちのお役に立てたら、きっと人生が変わるだろうと思った。


「僕も精一杯勉強して、皆さんのお役に立ちます。立たせて下さい!」僕がいつになく元気よく宣言したので、みんなの顔が綻んだ。

「あんた、こんなに小さな子が頑張るって言ってるのに、何でいい歳したあんたが頑張れないのさ!」バチーンと凄い音で旦那様が叩かれてた。

「けど、俺に魔法の才能なんか無いんだよ。ミスラルさんもそう言ってたろ?」旦那様はそう言うが・・。

「いや、私はいろいろな人達を見て、わかって来た事があります。」ミスラル様は淡々と言う。

「人並外れた活力があるお方、人並外れた美しさを持つお方、その様な方々の中で魔法の才能を有する人たちはどんな人たちだったかを見て来ました。もう、私は150年ほども生きております。」みんなシーンとなって聞いてたな。

「ただ美しいだけなら、王宮の女たちの方が奥様よりも美しいかも知れません。ただ活力がある者に才能があるのかも見て来ました。結局わかった事が一つあります。野心の塊には本物の魔力は備わらないのです。真に強い魔力を持つ者は総じて自分よりも大事な何かを極自然に感じる人たちが揃っています。皆、根っ子でお人好しで、純真で、自分が損をしても他の人のために尽くす人ばかりだったのです。」奥様が嬉しそうにブンブンと頷いている。旦那様の腕にしがみついて頬擦りしている。お二人の仲を不思議だなぁと思った。

「アーサーさんにも、きっと魔法の素質はあると思いますよ。ただ、私にはその資質を見極める事はできないのですが。」その様子は本当に残念そうだった。


 その時、部屋の中にゴロンと音がして、木箱に入った何かが転がされた。

「君は?」とミスラル様が驚いた声を発したけど、相手は全然応じようとしなかった。

「その装置はボリスの作ったもの。彼の腕前は知っているよね?」

「この装置は何なのだ?」

「魔力測定装置よ。今後の貴方には必要なの。これは、アリサからの、セレネからの贈り物。」

「姿を見せたまえ。あまりにも、君は奇を衒い過ぎる。妖精族だからかね?」

「今はまだ駄目。でも、覚えておいて、ミスラル。貴方と貴方を愛する慎ましくも純粋な人達が世界を変えると言う事を。そして、そこのお嬢さん。」僕の事だろうか?

「貴方は最高の男を近い将来に愛するのよ。私とアリサは知っている。楽しみになさい。」高笑いが聞こえる。

「それとね、アリサとエレインは合計で3回転半だった事も知っておきなさい。」それっきり、声は聞こえなくなった。


「あのさ、プリトウェンを改良しないと、魔法使いには対応できないんじゃない?」

「どうやるんだよ。教えてくれよ、魔法の才能があるコーデリアさんが・・・。」

「探査装置、まるごと一式ここに降ろさせようか?」

「許可する訳ないだろ?これにしても、降下前の私物って事だったんだぜ?」

 その後、ミスラル様に熱い視線が集まったが、彼は沈思の最中でお二人の視線に気が付いていなかったみたいですが。

 それと、さっきから頬が熱いのは、私が将来愛すると言う男性の事を考えての事だったのです。近い将来。それはどなたなのでしょうか?

 でも、結論が出た後では、この人以外は考えられないと言う位に、当たり前のお方だったのですけど。

 


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