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96:依頼




 ――先日、魔王への対策として、「ラストブレイブ」に登場したアイテム【聖水】の存在を思い出した。しかしこの世界で今のところ【聖水】を見つけることはできておらず、ならばとそれに似た存在を自分たちの手で作り出せないかと試みた。

 そのためには、効力を試す”実験台”が必要不可欠となる。魔王に対抗するために聖水(仮)を試すとなれば、やはりできるだけ似た存在――魔物を実験台にした方がいいだろう。そう思いついたは思いついたが、魔物は気軽に実験台にできる存在ではない。

 シュヴァリア騎士団、もしくは幼馴染のルカーシュに頼んで魔物を生け捕りにしてもらおうか――と考えを巡らせていたところに、閃いた。いいや、正確には思い出した。




(リーンハルトさんやディオナに協力を頼めないかな……)




 いやらしい話、彼らは私の頼みを断りにくいはずだ。人との付き合いを損得で考えたくはないが、彼らルストゥの民は私に借りがある。それに魔王を倒したいという目標も一緒だ。時間に余裕があれば、手を貸してくれるのではないか。

 思い立ったが吉日とばかりに翌研修日、私はアイリスに問いかけた。




「ねぇ、アイリス。リーンハルトさんやディオナさんたちってまだ王都にいらっしゃる?」



「ししょーたち? うん、王都にいるよ!」




 アイリスの答えにほっと胸をなでおろす。場合によっては諸々の準備でルストゥの民の街に帰ってしまっているのではないかと危惧していたのだ。




「ちょっと相談したいことがあるんだけど、取り次いでもらえないかな?」




 私の言葉になぜかアイリスは嬉しそうな笑顔で頷く。それから少しの間をおいて、はて、と首を傾げた。




「相談したいことってどんなこと?」


「ほら、アイリスにも手伝ってもらった毒薬の件で……。実際に魔物を捕獲して効力を試せないかなと思って」




 私の言葉にアイリスは「ああ!」と目を輝かせた。好奇心旺盛な彼女のことだ、話せば興味を示してくれるだろうと思っていた。

 ――思い立ったら吉日とばかりにその日の研修終了後、アイリスに手を引かれて宿屋の一室へと案内された。

 リーンハルトさんたちが泊まっているという部屋の前までやってくると、「事情を話してくる」と言ってアイリスが先に入室する。そして待つこと数分。勢いよく扉が開いたかと思うと、その隙間から顔をのぞかせたアイリスに手招きされた。

 ひとつ深呼吸をしてから入室する。出迎えてくれたのはリーンハルトさんとディオナの二人だった。




「ラウラセンセ、どうも」


「こんばんは。突然すみません」




 会釈すればリーンハルトさんもディオナも気にするなと言わんばかりに首を振った。そんな彼らにホッとしつつアイリスを見やる。すると彼女はグッと親指をこちらに立ててきた。

 その行動の意味するところは話は通っている、でいいのだろうか。アイリスを信じ、私は早速本題に入った。




「あの、魔物を捕獲したいんですが、知恵を貸していただけませんか」


「討伐ではなく捕獲ですよね?」




 ディオナが確認するように問いかけてきた。困ったような、戸惑うような表情に苦笑しつつ私は大きく頷く。




「はい。今、魔物に対抗するための毒薬を作っているんですが、その効力の確認のために……」


「捕獲、捕獲……」




 すると考え込むようにディオナは俯いてしまった。その反応からして、魔物の捕獲の経験は今までないのかもしれない。――そもそも魔物を捕獲しなければならないような機会は滅多にないだろうが。

 ディオナが黙り込んでしまったことにより、私たちの間に沈黙が落ちる。




「巣を見つけて、親を討伐した後に子を生け捕りにすンのが確実じゃねェか」




 不意に、リーンハルトさんの気怠げな声が沈黙を破った。

 反射的にそちらに視線をやれば、




「まァ、気乗りはしねェが」




 リーンハルトさんは眉を顰めて続ける。

 魔物の巣を見つけ、親を討伐した後に巣の中にいるであろう子供を捕獲する。なるほど一番確実で安全な方法かもしれない。

 人里を襲った訳でもない魔物を進んで討伐するというのは、平和ボケした私からしてみればどうも胸が痛む。しかしそうも言っていられないのだ。手段を選んでいられるほど、私たちには余裕も時間も残されていない。

 リーンハルトさんをじっと見つめていると、彼は再び口を開いた。




「子どもなら特殊な檻を用意しなくても事足りる。……魔王に効くような強力な毒薬を試すなら、成獣の方がより正確なデータを取れンだろォけどな」




 どうやら私の考えはお見通しらしい。

 ちらりとこちらの顔色を窺うように寄こされた視線に、私は苦笑してみせた。




「仰る通り、魔王に対抗する術を探している最中で、色々と試したいと考えているんですが……」


「なるほど、お話は伺いました」




 再び考え込んでしまったところに、突然リーンハルトさんでもディオナでも、はたまたアイリスでもない第三者の声が割って入った。

 振り返れば、銀髪の青年と金髪の青年――ジークさんとレオンさんが入室してきたところだった。




「けれどいきなり成獣を捕獲するのは難しいと思いますから、最初は幼獣にしたらいかがでしょう?」




 的確かつ現実的なアドバイスだ。

 突然の登場に驚きつつも、私は頷いて同意を示す。すると「まァ」と吐息交じりにリーンハルトさんが再び口を開いた。




「俺たちも魔物を生け捕りにしたことはねェからなァ」




 気まずそうに頭を掻くリーンハルトさん。やはり魔物を生け捕りにするなんて、滅多なことがなければしないだろう。そもそも生け捕りにしたところでどうする、という話だ。

 話がぼんやりとまとまってきたが、まずは魔物の巣を探すところからになる。正式に依頼をしようとリーンハルトさんに向き合おうとしたが、




「俺たちもお手伝いしますよ。なぁ、レオン」




 背後から聞こえたジークさんの言葉に、私は再び振り返った。そうすれば優し気に細められた琥珀色の瞳と目線が絡む。




「ま、オレにはそれぐらいしかできねぇしな」




 レオンさんもまた、金の髪を掻きながら笑いかけてくれた。

 あまりにとんとん拍子に話が進みすぎて、数瞬固まってしまったが、




「私もお手伝いします!」




 私とジークさんたちの間に割って入るようにしてディオナも力強く頷いてくれた。

 強い光の力を持つディオナと、彼女のお兄さんであるジークさんとレオンさんが手伝ってくれるとは心強い。しかし同時に、こうも真っすぐな瞳で協力を買って出てくれる三人に、「断りづらいのではないか」などと下心を持って近づいた自分を今更ながら恥じた。

 よろしくお願いします、と頭を下げて、それから握手も交わす。




「決まったらすぐに予定を立てましょう。日が沈んでからですと多くの魔物は活性化しますから、いっそ早朝に――」




 ――それから話が纏まるまであっという間だった。主にジークさんの丁寧且つ思い切りのよい判断のおかげだ。

 時間は早朝。夜行性で朝の活動が鈍っている魔物を標的とする。場所はディオナたちが勝手知ったる王都近くの森。日時は少しでも早く、しかし準備も必要になるだろうということで、次の休日に決まった。




毎週金曜日、FLOS COMICS様にて連載中の「勇者様の幼馴染~」コミカライズ版が更新となっています。

とっても素敵に描いて頂いているので、ぜひご覧ください~!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 偽善でしかありませんが、魔物であっても子どもを痛めつけるのは心が痛みますね… 効果がすぐわかる方法があれば本当にいいんですが。
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