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33:魔物の撤退




 こちらを見つめてくる黒い瞳。その瞳には、思い違いだろうか、安堵の色が滲んでいるように見えた。

 近寄ってくる足取りは、思いのほかそこまで重くはない。足に怪我はしていないようだ。しかし、手のひらで押さえている右腕から血が滲んで、白衣の袖を赤く染めていた。

 座り込んでいる私の傍らまで、アルノルトは歩み寄ってきた。その顔を見上げて、茫然とつぶやく。




「アルノルトさん……」


「回復薬を取りに行くぞ」




 その言葉に私はハッと我に返り、大きく頷いた。

 そうだ、すぐ近くにも、私を守ろうと傷を負ってしまった2人の兵士がいる。彼らに一刻も早く回復薬を届けなくては。それに彼らだけではない。現状をしっかりと把握できていないが、きっと街のあちこちで魔物との闘いが繰り広げられているはずだ。

 幸いにも、支部は目の前だ。気持ち駆け足で真っ白な建物へと足を踏み入れると、作りおきしていた回復薬を持ち出そうとした。

 その際、アルノルトが箱に詰められた回復薬の中から徐に1本を抜き取ると、それを一気に飲み干した。彼も怪我人だ。




「……大丈夫ですか?」


「あぁ」




 ぐいっと口元を拭うアルノルト。一瞬目の前の体がぐっと強張って、それからすぐに大きなため息と共に弛緩した。

 傷口を見やる。もう血は流れていなかった。




「屋敷まで送る。恐らくは怪我人が運び込まれているだろうから、治療は任せる」


「はい。……あ、あの、実はヴィルマさんとはぐれてしまって」


「そうか、分かった」




 アルノルトは私の焦った口調に引きずられる様子もなく、小さく頷いた。

 ヴィルマさんは無事だろうか。些か不安だが、私が下手に街を探し歩いては余計な迷惑をかけかねない。情けないが、アルノルトに一任するのが最善だろう。

 回復薬を詰め込んだ箱を抱えるだけ2人で持ち出し、支部を出る。――すると、タイミングよくアレクさんが目の前を通りかかった。




「アルノルトさん!」




 泥といくつかの切り傷で薄汚れた端正な顔。体に目立った傷は見られないが左手で脇腹をかばっている。打撲か、骨折か。

 アルノルトはアレクさんの無事を喜ぶような素振りも見せず、至って冷静に、いつも通りの口調で問いかけた。




「アレクさん、魔物は?」


「あらかた討伐できたようだ。……いや、正確には魔物が撤退した」


「……撤退?」




 アルノルトが首を傾げた。

 撤退。それ即ち、魔物が自分の意思で戦場から引いたということか。アレクさん達がその手で魔物の息の根を止めたのなら、撤退ではなく退けたと言うだろう。

 私もアレクさんの単語のチョイスに首を傾げつつ、どうであれ魔物は街から出ていったのだと安堵のため息をこっそりこぼした。




「詳しくは後で話そう。アルノルトさん、申し訳ないが兵士と共に屋敷の方を守ってくれないだろうか。住民の多くが避難しているんだ。私は街に残った魔物がいないかもう一度見回ってくる」




 そう早口でまくしたてると、アレクさんはアルノルトの返事も聞かずに走り出そうとした。その背中に思わず声をかける。




「あのっ、回復薬を……!」




 ぴたりとアレクさんの足が止まる。そして彼はずんずんと大股で私に近づき、回復薬を受け取った。




「すまない、ありがとう」




 端的な感謝の言葉。

 ぐいっと一気に容器を煽ったかと思うと、アレクさんは再び駆け出した。その背中に、この地方を治める若き領主を頼もしく思った。




 ***




 屋敷にアルノルトと共に戻ると、そこは人でごった返していた。アレクさんが言っていた通り、街の多くの人がこの屋敷に避難しているのだろう。門の前には多くの兵士が立ち、警戒している様子だった。

 私は回復薬を片手に、怪我人の治療に奔走した。そうは言っても症状を聞いて、一番適した効力を持つ回復薬を渡すだけだ。であるのに予想以上に人数が多く、しっとりと額が汗で濡れるのを感じていた。

 特に重傷そうな怪我人の元を優先的に訪れ、それが一段落した頃、




「ラウラ様!」




 どこからか、名前を呼ばれた。その声に、そして呼び方に心当たりはひとつしかない。




「エミリアーナさん!」


「よかった、ご無事だったんですね!」




 顔を上げれば、予想通りの可愛らしい笑顔が視界に飛び込んでくる。その目元が赤く腫れていることに気がついたが、それは指摘せずに再会を喜びあった。

 きっとエミリアーナさんも不安だったに違いない。ぎゅっと私の手を強く握る彼女のぬくもりに、つきりと胸が痛んだ。

 ひとしきりお互いの無事を喜んだ後、私ははたと思い出す。ヴィルマさんは無事だろうか。まだその姿を見つけられていないのだ。




「エミリアーナさん、ヴィルマさんを見ませんでしたか? はぐれてしまって……」


「ヴィルマさんでしたらあちらの部屋に。少し怪我をしていましたが、ご無事です」




 その言葉に、救われるような思いだった。

 よかった。エミリアーナさんの口調と表情から察するに、そこまで大きな怪我を負っているということもなさそうだ。

 エミリアーナさんに導かれるまま、ある客間の扉を開いた。すると視界に飛び込んでくる、赤。私の姿を見るなり手を上げて笑ったその人に、慌てて駆け寄った。




「ヴィルマさん、よかった……!」


「ラウラくん、心配をかけてしまったようだ。すまない、何も考えずに駆け出してしまって」




 ヴィルマさんの言葉に私は小刻みに、何度も首を横に振る。




「いえ、そんな……ご立派でした。私は何も、出来なくて」




 恐らくヴィルマさんは回復薬を抱え、戦場となった街を走り回っていたのだろう。彼女の行動は、王属調合師として立派だった。咄嗟に自分の身の安全を優先してしまった私とは違う。

 ヴィルマさんはきっと、王属調合師がなんたるものか、そしてどういった行動を取るべきか、しっかりと自覚し、誇りを持っている。




「私は自覚がまだまだ足りなかった、みたいで」




 私の言葉をヴィルマさんは「何を言ってるんだ!」と声を上げて否定した。

 思わぬ強い反論に、私は目を丸くして彼女を見る。




「君はまだ14だろう。その年でそう思えているなんて、素晴らしいことだよ」




 慰めるように私の頭を撫でてくれるヴィルマさんは、優しいお姉さんのようで。

 不意に、目尻にじわりと涙が浮かんだ。何もしていない私が泣くなんて情けない、とそれを素早く拭った。

 誤魔化すように下手くそな笑みを浮かべる。するとヴィルマさんは全てを分かった上で、騙されてくれるように微笑んだ。


 ――魔物の襲撃からずっと高鳴っていた鼓動が、ようやく落ち着きを見せ始めた頃。ヴィルマさんの無事を確かめに来たのか、いつの間にかアルノルトが扉付近に立っていて。服を着替えたようで、血と泥と傷でボロボロだった白衣は、純白のそれに変わっていた。

 ヴィルマさんの無事を噛みしめるのもいいが、そろそろ他の怪我人の元を回るべきか。

 そう判断し、私はヴィルマさんに断りを入れて立ち上がった。そして扉のドアノブに手を伸ばし――私がドアノブを握るよりも数瞬早く、扉が開いた。

 突然目の前で開いた扉に、前につんのめる。転ぶわけにはいかないと地面をぐっと睨みつけ足に力を入れた私は、扉を開けた人物を確認するのが遅れた。




「アレクさん」




 アルノルトの声に、扉を開けた人物を知った。

 彼は私に「すまない」と謝ってから、一歩部屋の中へと足を踏み入れる。しかしそれ以上入ってくることはなく、どうしたのかと疑問に思い見上げると――




「アルノルトさん、相談したいことがある」




 アルノルトを真正面から見据え、声のボリュームも抑えてそう口にした。

 アレクさんのことを詳しく知らない私から見ても、何やらただならない様子だ。戸惑いからエミリアーナさんに目を向けると、彼女はじっと婚約者の姿を見つめていた。こちらには目もくれない。

 詳細こそ分からないものの、この場に漂う重々しい空気に私はぐっと胸が詰まった。

 不意にアルノルトが動く。言葉はなかったが、アレクさんは何かを察したのか背後の扉を開けた。そしてそのまま出て行くと思いきや、




「アンペールも来い。……構いませんね?」




 扉のすぐ前で、アルノルトがこちらを振り返った。

 蚊帳の外の気分でいたところを突然引き込まれて、私は面食らってしまう。しかし重要そうな――その上私には全く話が見えない――相談の場に、アレクさんが私を歓迎するはずもないだろう、と白銀の髪を持つ若き領主を見やれば。




「あぁ。王城に身を置いている方であれば今後自然と耳に入ることだろう。それに、ラウラさんには頼みたいことがある」




 なんと驚くべきことに、首肯した。




 ***




 私とアルノルト、そしてエミリアーナさんが招かれたのはアレクさんの書斎だった。あの後、アレクさんはエミリアーナさんにもついてくるように言ったのだ。

 どこか懐かしさを感じる、紙の匂いに満ちた落ち着ける書斎だった。なんてことない日常の中で訪れたのであれば、きっと和やかで優しい時間を過ごせる場所だった。しかし今、私達4人の間に流れる空気は重々しく、息がつまる程で。

 アレクさんはぐるりと私達の顔を見渡してから、口を開いた。




「まずアルノルトさん、あなたの協力に改めて感謝する。あなたのおかげで多くの命が救われた」




 深々と頭を下げるアレクさん。真正面から感謝の言葉を向けられたアルノルトは、どこか居心地が悪そうに視線を床に落としつつ頷いた。

 アレクさんは顔を上げる。その瞳は揺れていた。




「そして、報告したいことがひとつ。……街内で交戦中、魔物が突然撤退した」


「撤退とは?」


「その言葉通りだ。魔物達が何かに誘われるように一斉に空を見上げたかと思うと、我々には目もくれず去っていった。半数近くの魔物を倒し、奴らを不利的状況に追い込んだと思った矢先のことだった」




 アルノルトは眉を顰め、今度こそしっかりとアレクさんと目線を合わせた。

 撤退。その言葉に違和感を覚える。どうやらそれはアルノルトも同様だったらしい。

 疑うような、探るような声音でアルノルトは尋ねた。




「そのような知能がこの地域の魔物に備わっていると?」




 その問いに、アレクさんは言葉なく首を振る。




「完全に否定はできない。けれど今までそのような行動をとったことは見たことがない。それに、アルノルトさんも気づいているだろう? 今回の襲撃は――」


「囮を使っていましたね」




 アレクさんの言葉を、アルノルトが引き継いだ。

 ――囮?

 知らず識らずのうちに、私の口からその言葉がこぼれ出ていたようだ。それを聞き逃さずにしっかりと拾ったらしいアルノルトはこちらを振り返った。そして、その黒の瞳でしっかりと私を捉え、明らかに私に向かって口を開く。




「今朝方、街のすぐ近くに魔物の大群が認められた。それに警戒して兵士達が街を離れた……その隙に、他の場所に控えていたらしい魔物共が街を襲い、普段より警備の数が少なかったため易々と侵入を許してしまった」




 アルノルトの端的な解説に、私は得心したように頷いてみせた。




「単純すぎる作戦だが、魔物が今までそのような行動――囮を使うなどといった行動をとったことはなかった。明らかに今までとは違う」




 アレクさんの言葉を最後に、重い沈黙が私たちの間に流れる。

 囮を使い、そして不利的状況を察したかのように撤退した魔物たち。魔物が全種族知能を持たないとは言わないが、アレクさん曰くそのようなことは今までなかったという。

 その変化に私はどきりとした。魔王復活の時が近づいてきていることを、再び思い知らされたようだった。

 魔物はこれからどんどんその力を増していくことだろう。それは魔王の持つ巨悪な力に触発されてのことだ。いや、もっと直接的に、魔王が配下の魔物に力を分け与えているのやもしれない。

 とにもかくにも、魔王の封印はおそらく弱まってきている。エメの村や王都が襲われたのも、そして今回の件も、封印が弱まったことによって魔王の力が漏れ出ていることの兆しにしか思えなかった。

 ずっしりと肩にのしかかる重い空気の中、アレクさんが再び口を開く。




「先ほど誘われたような、と言ったが、もっと相応しい表現があった」




 その言葉に、無意識のうちに俯いていた顔を上げる。目線の先、アレクさんの表情は固く、まるで感情を閉ざしてしまったかのような冷たいものだった。




「まるで――誰かから指示を受けたような様子だった」




 “私”の脳裏に「ラストブレイブ」の魔王の姿がよぎった。

 脳裏に浮かんだ魔王は、人によく似た姿をしていた。いいや、正確にはある男の体を乗っ取っていた。戦闘形態が進むにつれ、その姿は醜悪な魔物へと変貌していく。

 鼓膜に魔王の忌々しい笑い声が蘇ってきた。それを振り払おうと私は数度小さくかぶりを振る。




「先程王都へ急ぎの使いを出した。数日後にはこの街のことが多くの人に知られることだろう」




 そう言ったアレクさんはぐっと顎を引いて、虚空を睨みつけている。そして――その言葉を口にした。




「おそらく、この街は再び襲撃される」




 ひゅ、と誰かが息を吸い込んだか細い音が、耳に届いた。果たしてそれは自分が発したものなのか、それとも側に立つエミリアーナさんが発したものなのか、それも分からないほど動揺していた。

 予想できたはずの言葉だった。しかしそれでもここまで動揺してしまったのは、アレクさんの口調にあまりにも迷いがなかったからだ。彼は“それ”を確信しているようだった。

 唖然とアレクさんの横顔を見つめる。すると不意にその瞳が、こちらに向けられた。

 強い意志が覗ける淡い青の瞳に射抜かれ、私は思わず数歩後退した。何に対する恐怖かは分からなかったが、こわい、と本能が囁いた。




「ラウラさん、お願いがある。エミリアーナを連れて、アネアという町まで避難してくれないだろうか。アネアはプラトノヴェナから一番近い町だが、距離にしてみればそれなりにある」




 思いもよらぬ言葉に、私は「え」と小さな声を漏らす。

 理解が追いつかない私をよそに、アレクさんは続けた。




「いっそ王都に帰ってもらって構わない。むしろその方がアルノルトさんも安心できるだろう。離れた安全な場所で、我々の回復薬の調合をお願いしたい」




 むしろ、この街に来てもらうのではなく、初めからそうお願いするべきだった。

 そうこぼし、アレクさんは頭を下げた。




「ただその時に、エミリアーナを連れて行ってほしい。住居等の手配はこちらでなんとかする」


「まっ、待ってください! 私は……!」




 声をあげたのはエミリアーナさんだった。明らかに納得していない、婚約者に食ってかかる口調だった。

 エミリアーナさんに向けて、アレクさんはふっと表情を和らげた。そしてエミリアーナさんの元へとゆっくり歩み寄り、彼女の肩をぐっと掴む。エミリアーナさんの服の肩口に寄った皺を見るに、とても強い力でつかんだようだ。




「エミリアーナ、聞き分けてくれ。それに何も君1人が避難するのではない。街の人々は皆、近いうちにアネアに受け入れてもらう。プラトノヴェナには兵士達が駐在し、魔物討伐の砦とする」




 膝を曲げ、身を屈め、エミリアーナさんの顔を覗き込むアレクさん。エミリアーナさんは今にも泣き出しそうな表情で、縋るような瞳で、目の前の婚約者を見つめている。

 その視線から逃げるように、僅かにアレクさんが目線を下に落としたのが分かった。




「もちろん、私も残り指揮をとる」




 アレクさんはすっと背筋を伸ばし、今度はアルノルトを真正面から見据える。そして唖然と立ち尽くすエミリアーナさんの元から離れると、アルノルトに歩み寄り、




「王都だけでなく、近場の町々に使いを出し応援を頼んでいる。……どうかアルノルトさんも、協力してもらえないだろうか」




 再び深く頭を下げた。

 ――沈黙。アルノルトは眉ひとつ動かさなかった。

 協力してほしい。それ即ち、この街に残り魔物討伐に魔術師として参加するということだ。

 エミリアーナさん、そしてアレクさんは「ラストブレイブ」に夫婦として登場している。だからこのイベントも乗り越えてくれるはず。

 それにアレクさんは優秀な剣士だろうし、アルノルトの魔術の腕は類稀なるものだ――恐らく。しかしそれらを分かっていてもなお、兵士を集め籠城ならぬ籠街で魔物と対峙すれば勝てるような戦いなのか、と、不安に思ってしまう気持ちは止められなかった。

 アルノルトの冷たく凍ってしまったような横顔を、固唾を飲み込んで見つめる。見つめた先の唇が、動いた。




「魔物が再びこの街を襲うと確信してるんですか」


「……おそらく」


「なぜ?」


「……状況的に考えて、そうだろう。今まで幾度となく街の近くに出没した魔物が、とうとう街に踏み込んできた。奴らを全滅させることは叶わず、それどころか奴らは体力を残し“撤退”した。それに――」




 アレクさんは言い淀んで、私とエミリアーナさんをちらりと一瞥した。その態度だけで、そこから先は私たちには聞かせたくない“何か”があるのだろう、と察するには十分だった。

 アレクさんは魔物の再びの襲撃をほぼほぼ確信している。

 アルノルトはこの場でしっかりとした確証が告げられないことに、僅かに眉根を寄せて不満を表に出した。しかしその苛立ちを振り払うように一度大きく息をつくと、再び口を開く。




「この地を捨てるという選択肢は? この地では回復薬に使う薬草も食料も満足に育たない。街の周りは広大な自然に囲まれ、深い雪に足を取られる。人間よりも魔物に適した環境だ。我々も環境の整った地に退却し、そこで迎え撃った方がずっと有利に戦えると思いますが」




 アルノルトのあまりにあけすけな問いに、アレクさんはぴくりと肩を揺らした。表情こそここからは見えないが、足の横に綺麗に添わされていた手が、ぐっと握り締められたのが分かった。




「……最終手段だ。この地を手に入れた魔物が南に下って来る可能性もないとは言い切れない以上、出来ることなら街が密集していないこの広い地で、被害を最小限に抑えつつ食い止めたい」




 アレクさんの絞り出すような声を最後に、再び沈黙が落ちる。長い、長い、沈黙だった。

 アルノルトの横顔を再び盗み見る。彼は口元を手で覆い、黒の瞳を伏せていた。

 今までに見たことのない表情だった。恐らく彼は――迷っている。

 しかしその表情はすぐに消えた。かと思うと、黒の瞳でアレクさんを真正面から見据える。そして、




「分かりました」




 はっきりと、頷いた。

 決意のこもった、迷いのない声だった。




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