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131:親友キャラ




 解毒薬を調合してはフォンタープネ様の大樹の周りを中心に土に注入する作業をひたすら繰り返すこと十日ほど。未だルカーシュたちの帰りはなく、イタチごっこの日々が続いていた。

 その日の夕方、マルタに付き合ってもらいフォンタープネ様の大樹の許を訪れた。毎日の日課だ。そして本日調合した解毒薬を口が尖ったガラス容器――前世のガーデニング用品でよく見たアンプルに似た容器――に入れて、大樹の周りに複数挿していく。

 私の周りで、マルタはじょうろにはいった解毒薬をそれこそ植物に水をやるようにまいてくれていた。




「毒、実際今はどんな感じなの?」


「大きく減っている訳ではありませんが、増えてもいません」


「うーん、現状維持よりは多少いいって感じ?」


「はい」




 マルタの現状維持、という単語に苦笑して頷く。実際、毎朝土を採取して毎日毒素について記録を残しているが、増えてこそいないものの大きく数値が減るということもなかった。効果はあるのだろうが、その効果が小さすぎるというのが本音だ。

 尋ねてきた彼女は私の表情とは裏腹に、にっこりと笑った。




「でもまぁ、それならまだいっか」


「そうですね。進んではいませんから」




 自分を励ますためにも前向きな言葉を口にする。ルカーシュたちが帰ってくるまで持てばいいのだ。十分じゃないか。

 マルタは精霊の飲み水を見つめながら、ぽつりと呟いた。




「ルカーシュたち、まだかなぁ」




 私もマルタの見ている先、精霊の飲み水を見る。彼女が見ていたのは私が時空の狭間を通って現れたときの、“入口”の場所だった。

 ルカーシュたちがライカーラント峡谷の精霊様を助けられたとしたら、おそらくは時間が惜しいと時空の狭間を通ってこの場所にやってくるのではないか、と思う。危険極まりない行為だが、一秒でも無駄にできない状況なのだ。

 しかし急ぐあまり怪我をしてほしくない、とも思う。



「どうでしょう。とにかく無事でいて欲しいんですが……」


「だね。峡谷っていうぐらいなんだから険しい道のりだろうし。でもルカーシュたちなら大丈夫でしょ」




 私を励ますようにマルタが溌溂とした笑みを浮かべた――瞬間。ドン! と地面が揺れた。

 私はマルタと顔を見合わせる。一度の衝撃だったのをみるに、おそらく地震ではない。だとすると――魔物?




「何、今の?」


「……魔物、でしょうか?」



 私の言葉にマルタは「やっぱり?」と焦ったように笑う。彼女もどうやら同じことを考えていたようだ。

 フラリアという一つの場所にとどまり直接的ではないにしろ魔物たちの企みの邪魔をしている。となると、私たちの妨害に気づいた魔物が動き出すのも時間の問題だった。

 マルタは腰に差している短剣に手をやりながら呟く。




「やっば、気づかれたかな」


「どうしましょう。ここから出ない方がいいですかね?」




 私もまた護身用にと常に持ち歩いている回復薬と毒薬が入ったポシェットに手をかける。そしてマルタに問いかけた。

 魔物に関しては彼女の方が詳しい。下手に私が判断するより彼女に委ねた方がいいだろう。




「うーん。今アタシたちが外に出ようとしたら一瞬でも結界緩んじゃうよね。そのときに魔物が入ってくるかも。だとしたらやっぱり静かにしておくべきかな。加勢できなくて悪いけど」




 マルタの冷静な判断に素直に頷く。フラリアはアヴール様の強力な結界に守られているし、シュヴァリア騎士団もアルノルトもいる。しばらくは大丈夫だろう。

 しかし万が一私たちの妨害が既に魔王の知るところにあって、魔物の大群を差し向けてきたとなると厳しい。長期戦になればこちらも消耗するだろうし、ルカーシュたちが一刻も早く帰ってくるのを待つしかない。

 徐々に早くなる心臓の鼓動を自覚しながら、念のため、マルタに回復薬と毒薬が入ったポーチを手渡す。




「マルタ、これどうぞ」


「何これ?」


「毒薬と回復薬のセットです。何かあった時用に」




 そう言えば、マルタは目を輝かせる。そして何やら自分の腰のあたりをごそごそと漁ったかと思うと、




「おーありがと! んじゃアタシからもこれ!」


「……短剣」


「そ、アタシの相棒のマーちゃん」




 一本の短剣を差し出してきた。

 マーちゃん、という短剣の“名前”を呟きながら受け取る。小ぶりなそれは思いの外重く、ずっしりと感じられた。

 マルタは軽やかにこれらの短剣を駆使して戦っていた。その様子を見るにもっと軽いものだとばかり思っていたのだが、まさかこんなに重いなんて。改めて彼女も選ばれた“英雄”なのだなぁ、としみじみ思う。

 私が“マーちゃん”を見つめていたところに、マルタはもう二本の短剣を示して見せた。




「んでこっちがルーちゃんでターちゃん」




 なるほど、自分の名前からとっているのか。

 安易なネーミングセンスに、しかし彼女らしいと笑みがこぼれる。




「こういう武器、使ったことないです」




 エメの村の人々から護身用に、と短剣と盾をもらったことがあるが、それらは王都の寮に使われることなく眠っている。

 私の呟きにマルタは私の手を横から誘導して、短剣の柄を握らせた。




「念のために、ね。こう持って――」




 ごく簡単な使い方を指導してくれるマルタ。重い短剣を片手で扱うことは私には難しく、マルタのような華麗な手さばきとはいかなかったが、それでも何となく扱い方は分かった。

 いいじゃん、と満足げに頷くマルタに、彼女はどこでこの短剣さばきを覚えたのだろう、と疑問に思う。彼女の過去について触れるイベントは「ラストブレイブ」に存在したが、その戦闘能力については「お宝を探している内に自然と身に付いた」とぼかされていた。




「マルタは短剣の扱い方を誰から習ったんですか?」




 尋ねれば、彼女は「うーん」と考え込む素振りを見せる。今世のマルタもお宝を探しているうちに自然とその力を身に着けたのだろうか、と思い――




「一応ししょーみたいな人がいたから、その人からかな。ほぼ独学だけど」




「ラストブレイブ」では明かされなかった師匠の存在を口にした。

 へぇ、と目を丸くする。師匠ということはその人もトレジャーハンターだったのだろうか。詳しく聞きたかったが、それだけに今ではなくもっと落ち着いたときに聞いた方がいいだろう、と判断する。

 しかし師匠がいたとはいえほぼ独学ということは、やはり生まれ持った素質があるのだろうか。戦闘についてはほぼからっきしな私としては、素直にその才能が羨ましかった。




「いいなぁ、私、全然戦えないから」


「戦えなくても別の分野で十分役に立ってるじゃん! これでラウラがめっちゃ強かったらアタシとか立つ瀬ないよ」




 あはは、笑うマルタに毒気が抜けていく。思わず微笑んだ私の顔を覗き込んで、マルタは続けた。




「ないものねだりするより、それぞれの得意分野で頑張るのが一番じゃない?」




 彼女のいうことはもっともだ。私は調合の才能を与えられた、マルタはトレジャーハンターの才能を与えられた。それはとっても素敵なことで、妬むようなことではない。

 マルタにできないことが私にはできて、私にできないことがマルタにはできる。だからこそお互い得意分野で頑張って、手を取り合えるのだ。

 マルタの言うことはいつだって真っすぐで、心の奥に燻る靄をあっという間にとっぱらってくれる。こういう彼女の言葉に「ラストブレイブ」の主人公は何度も救われてきたし、今世でもルカーシュたちを救ってくれているだろう。




「そうですね。ありがとう、マルタ」




 あなたが今世でも勇者の仲間になってくれてよかった。

 こっそり心の中で思いつつ礼を言う。するとマルタは「どういたしまして」と少しだけ頬を赤らめて答えた。

 ――魔物が近くまで来ているかもしれないというときに、不釣り合いなほど和やかな空気が私たちの間に流れる。しかしその時間は長くは続かなかった。

 突然、遠くの草むらが激しく揺れる。マルタが私を守るように前に出た。




「――何!?」




 マルタが声をあげる。すると草むらから出てきたのは――青年だった。

 魔物ではなかったことで一瞬私たちは気を緩ませる。がしかし、彼がどさりと倒れた瞬間、再び空気が張り詰めた。

 マルタが慌てて青年に駆け寄る。そしてそのまま私の許へと引きずってきた。

 私は回復薬を片手に青年の様子を見る。脇腹に大きな切り傷を負っていて――その傷は、鋭い爪で引き裂かれたような形をしていた。

 フォンタープネ様は、ここの精霊様たちは傷ついた旅人を結界内に招き入れて助ける。だからこの青年がここに招かれたのも分かる。しかし、なぜ青年が傷ついたかと考えると――

 魔物の咆哮が鼓膜を揺らした。




「魔物!」




 マルタが叫んだ。そちらを見やれれば獣型――ではなく、二つの足で立つ歪な人型の魔物が二匹、のそのそと草むらをかき分けてこちらに向かってくるところだった。

 青年はこの二匹の魔物に追われていたのだろう。彼を招き入れようとして結界が緩んだところに、魔物たちも入り込んでしまった、といったところか。

 よくよく見れば、魔物はフラフラとしていた。また、多くの傷を負っている。きっと青年が負わせたのだろう。かなり弱っている様子だった。




「ラウラはあの男の人の治療を! 二匹ともかなり負傷してるし、アタシ一人で何とかなる!」




 マルタはそう言うと先制攻撃とばかりに魔物に襲い掛かった。マルタの短剣が的確に魔物の体を貫き、魔物は苦しそうな鳴き声を上げた。

 私は青年に回復薬を処方すべく上半身を抱える。そして栗色の髪をかき上げて、その下にあった整った顔にピタリと動きがとまった。




(この人って……)




 伏せられた瞼。しかしその瞼の下に隠れている瞳の色を“私”は知っている。彼の瞳の色はグリーン。良く笑い、よく話し、それでいて人の気持ちに寄り添える“キャラクター”だった。

 そう、彼は。この栗色の髪を持つ、傷ついた青年は。




「親友キャラ……」




 ――主人公が旅の中で出会い、唯一無二の友情を築くことになる、「ラストブレイブ」のパーティーメンバー兼親友キャラクターだ。




【コミックス二巻発売のお知らせ】

拙作「勇者様の幼馴染〜」コミックス二巻が、【2021年2月5日(金)】に発売となります!


「勇者様の幼馴染という職業の負けヒロインに転生したので、調合師にジョブチェンジします。」2巻

漫画:加々見絵里様

キャラクターデザイン:花かんざらし様

原作:日峰

発売日:2021年2月5日(金)

出版社:FLOS COMIC様


本・電子どちらでもお求めやすい形で、ぜひお手に取って頂ければと思います!

書店特典も後々解禁されるようですので、改めて告知させて頂きます。

よろしくお願いします〜!

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[一言] ラストブレイブのパーティって何人くらいなんだろう?
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