婚約者と呪われた令嬢
私の婚約者であるアイザック様は、公爵家の嫡男でありお父上は騎士団の団長をつとめている。アイザック様の家は由緒正しい騎士の家柄。つまり、アイザック様も身体を鍛えていらっしゃるのです。
朝目が覚めたら、ライラが筋肉ムキムキになってました。
「………え?」
「おはよう…ござ、います。イオリ…お嬢様」
どう見てもメイド姿…というかライラに仮装したアイザック様である。
「…………おはよう?」
首をかしげる。どう見てもアイザック様である。アイザック様は筋肉が立派だから、顔は綺麗だけどメイド服は似合わないなぁと思った。
アイザック様が我が家に朝から居るはずない。そうか、これは夢なんだわ!しかし、私はアイザック様にライラの格好をさせたかったのだろうか。無意識下の願望?いや、ライラみたく側にいてほしかったんだわ!
「アイザ…ライラ、これを着て」
クローゼットから服を取り出した。いつかアイザック様にプレゼントしたいと買ったが渡す機会がなく、しまっていたやつだ。
「む?うむ」
素直に着替えるアイザック様。まあ…素晴らしい筋肉だわ。触ったらダメかしら。
「どうだ」
「とてもよく似合ってます。アイザ…じゃなかった、ライラ、こっちにきて」
「…この服は?」
「いつかアイザック様にと買った品ですわ。きっかけがなくて、なかなか渡せなかったけど…とっても素敵」
うっとりと見つめると、アイザック様は真っ赤になった。
「うふふ、アイザック様だぁい好き」
「…………!!」
夢なら甘えていいよね!アイザック様をソファに座らせ、ぎゅうっと胸に抱きしめキスをした。私から、してみたかった。
「…ジャック…好き」
幼い頃、アイザックと呼べずアイジャックと呼んでいた。ジャックは二人だけの秘密の呼び名だ。
「…………イオ…!」
アイザック様も子供時代の愛称で呼んでくれた。嬉しい。
「ん…」
どうしよう…この夢、ずっと見ていたい。アイザック様からキスをもらう。幸せすぎる!
「あの…お願いがありますの」
「…なんだ」
「お膝に乗りたいのです」
「…そうか」
幸せすぎる!アイザック様のお膝に乗り、筋肉をさりげなく触る。私は幸せの絶頂にいた。しかし、何事も上がれば下がる。登れば落ちるものである。
首にチクリと痛みがあった。
いたい?
匂いや感覚は、夢でも錯覚することがある。だが…痛みは…夢ではありえない。
これ、夢じゃないと理解した私の動揺は…はんぱなかった。しかし、顔面筋肉を総動員して冷汗をかきつつ微笑んでみせた。
「…アイザック様、耳かきをしてさしあげます。さ、膝枕をしてあげますわ」
内心では奇声をあげて走り回る私だが、外見は冷静…に見えるはずだ。
「うむ」
アイザック様はいそいそと膝枕され…沈没した。
私の耳かきは、何故か人をきっかり一時間眠らせる効果がある。自分にも有効で、耳かきをさしたまま寝てしまい、ライラにしかられセルフ耳かき禁止令がでてしまった。咄嗟にその特技を思いついた自分を誉めてやりたい。
「ライラ…」
「もおお!なんで今日に限ってすぐチェンジがでないんですかぁぁ!?私はあんなムキムキじゃあ………お嬢様?」
「…死にたい。とりあえず、着替えるからアイザック様の頭をどかして」
「…お嬢様?」
「…夢だと思ってました」
最初は怒っていたライラも納得したらしく、どん底まで落ちた私を慰めてくれました。ルイルは部屋のすみでマナーモードでした。
結局、アイザック様は私をデートに誘いに来たらしく…その後デートをした。私があれだけ好き勝手したのにアイザック様は大変上機嫌だった。
私もせっかくのデートだからと気をとりなおして最後は楽しんだ。
そして、次の休日。
またしても筋肉ムキムキなライラ…ではなくメイド服のアイザック様が出現した。
「チェンジ」
私はイオリア。同じ間違いはなるべくしたくない女である。
アイザック様は双子に連行された。
そういえば、なんでアイザック様はライラの仮装をしていたのだろうか。不思議なこともあるものである。アイザック様が女装趣味だったら困るので、確認はできなかった。
しかし、以降アイザック様が女装することはなく、謎は迷宮入りしてしまった。なんだったんだろう。
ちなみに、首の痛みはキスマークです。アイザックは自分でサービスタイムを終了してしまいました。
イオリアはキスマークにまったく気がつきませんでした。