呪われた令嬢
私、イオリア=クランは…日本人、倉見伊織としての記憶がある。
イオリア=クランは伯爵令嬢である。熱愛☆魔法学園というゲームのいわゆる悪役令嬢ポジションだった。ヒロインに婚約者を奪われ、虐めの断罪で修道院送りになる令嬢だ。
15歳の誕生日で倉見伊織としての記憶が甦り…それを知った。それからどうしようと悩んでいる。
しかも、伊織の記憶に目覚めた私にはとんでもない鈍いが…じゃなかった。呪いがかかっていた。
「イオリア、どうしたんだい?」
「いいいいいえ、なんでもありましぇんわ!」
噛んだ。
「……………ならいい」
笑いたきゃ笑ったらよろしいと思います。涙目で睨むが、私の婚約者であるアイザック=ストーンズ様は何やらプルプルしている。きっと笑いをこらえているのだ。私達の護衛である双子らは爆笑している。前言撤回。笑われたら腹立つ。
「あ、お茶のおかわりをお持ちしますわね」
愛しの婚約者のために自分でお茶を用意しようとした…が。
「きゃああ!?」
何かにつまづき、お茶とカップを盛大に宙に舞わせてしまった。
「はっ!!」
空中で素早く全てキャッチして、何事もなかったかのようにふるまう。拍手喝采…いや、私の護衛兼メイドと婚約者の護衛兼従者の双子は笑いをこらえている。復活した婚約者は真顔である。
服の裾をうっかり踏んで転んで中身を愛する婚約者に見られる、スカートが引っ掛かって破れる、確認したはずの時間割りが違う、迷子になる、ノートを貸したまま忘れる、肝心なところ(特に恋愛絡み)で噛むなど…頭もいいし身体能力が優れているはずのイオリアを一気に残念にしてしまう呪い………
それが、DO☆JI!!
ドジッ子の呪いに私は侵されているのです!!なんでかわかんないけど、アイザック様の前では特に発動しやすい。なんでだぁぁ!?せめて、せめて愛しのアイザック様の前では完璧な乙女で居たいのに!!
結局イオリアも伊織も、アイザック様が大好きなわけで…最愛の婚約者の幸せを願いながらも、離れられないでいるのです。
「イオリア、うまい」
私が淹れた紅茶を飲んで、ほんの僅かにアイザック様が頬笑む。それだけで私は幸せになれる。腰砕けになり、地面に倒れながらも幸せを噛みしめる。
「その笑顔のためだけに生きてるっ!!」
「…イオリア、汚れる」
アイザック様に抱き起こしてもらい、汚れを払っていただいて…私は幸せです!お尻まではたかれ……んん?…ふにふにと揉まれた気がするのは…………気のせいですよね?
「「人前でセクハラすんな」」
「ぐふっ」
護衛の双子に攻撃されたアイザック様。貴方達の仕事は私達を守ることだったのではないの?攻撃をしたらダメよね?
「えっ!?アイザック様は汚れを払ってくださって…」
「お嬢様、ライラがいたします。婚約者といえど、簡単にさわらせてはいけませんよ」
…メイド兼護衛のライラがさりげなく…いや結構堂々と胸を揉むのはいいのかしら。難しいわ。
「おま、そんな羨まけしからんことを!」
「………許さん」
双子の片割れ、アイザック様の護衛兼従者のルイルとアイザック様、ライラのおいかけっこが始まった。
「平和ね……」
私も混ざりたいが確実に転ぶので見守ることにした。