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少女には感動の再会でも添えて

「苗? 苗ちゃん?」


突如バケモノのいるその向こうから、ドサッという鞄の落ちた音が聞こえると、そこには見知らぬ女性が唖然として立っていた。


「まさかお前、起きているのか……」


そしてもう一人、今度は年配の男性が夢でも見ているかのように少女の元へと近づいてくる。


「だってお前、あんな……いや、母さん! 母さん! 医者を! か、看護師を今すぐ呼んできてくれ!」

「あ……は、はいっ!」


女性はそう答えると慌てふためきベッドの角に足をぶつけ、またよろけながら走り去っていった。


「苗、苗! 俺のことが分かるか?」


おそらくいつもは寡黙な人なのだろう。

見るからに優しそうで、そして雰囲気がどことなく少女に似ているその年配の男性は、声が裏返るのも気に留めずに強く呼びかけた。


「お、お父さん……」


呼応するように少女もまた驚きの表情を滲ませてその呼びかけに応じる。


「そうだ、お前の父さんだ! お前が生まれてくるずっとずっと前から知っている、お前の……お前の!」


年配の男性は嗚咽しながら溢れる涙を惜しむことなくシーツの上に零した。

遠くからは、女性が支離滅裂ながらも医者に何かを必死に訴える声が聞こえてくる。


「お父さん……だめ、そんなに泣かないで」


少女は年配の男性にそっと手を添えると優しく声をかけた。


一層声は大きく響いた。



「あなた、呼んできましたよ!」



すると先ほど走って看護師を呼びに行った女性が、肩で息をしながら若い女性と白衣を着た男性を連れて戻ってきた。


「嘘だろ、信じられない……!」


白衣を着た男性は抑えきれない動揺を声に漏らしながらゆっくり少女に近づくと、頭の観察や簡単な質問を繰り返し、その度に「奇跡だ」と連呼しながら泣きじゃくる夫婦とその現実を噛み締めていた。



「えっと、それで俺たちは……」



そうしてしばらくの間完全にこの家族愛の空気に呑まれていた俺であったが、ふと自らの場違いに居た堪れなくなりバケモノのほうを見やると、どうやらもらい泣きでもしたのか、おいおい泣き崩れるバケモノとその頭を抱え込みながら優しく撫でる男性の姿が目に入った。


―――あの二人は何してんだよ。


一方のネコは感情移入の素振りなど微塵も見せず退屈そうに地面を歩き回っていて、まぁそこらへんはさすがネコといったところである。


と、ここでバケモノがようやく言葉を発する。


「うっ……ア、アタシたちは、ううっ、帰りましょうか」


スズメバチから五連続アタックでも喰らったのかと思えるくらい泣き腫らした目元を擦りながら、バケモノはそう言うと指をパチンッと鳴らした。


「えっ、ちょ、まだ待てって……」


たしかに俺たちが退散すべきだというのは目に余るほど理解できるが、こっちだって心の準備がある。


こちとらつい数時間前まで普通に高校生をしていた一般人だ。どこでもなんちゃらのごとくポンポン転移させられてしまってはさすがに身が持たない。


だがその旨をバケモノに伝えようと俺が慌てて口を開いたときにはすでにもう、俺は例の薄暗い部屋へと引き返していたらしい。


気がつけばそこは、見覚えのあるあの薄暗い部屋であった。



「おい、あの子はどうすんだよ!」



結局あの少女は意識不明状態から奇跡の生還を果たし、そして家族とも再会。

かくしてハッピーエンドにて物語は終結。


―――なんてオチだけは許さない。

なぜなら俺がハッピーになってないから。


だが疑問は投げられたままいつまで経ってもバケモノから返ってくる気配がない。


仕方なく俺はどうなってんだよ、と再び強く捲くし立てながらバケモノを問い詰めたのだが、


「すまない。まだ答えられそうもないようだ」


バケモノを介護していた男性が苦笑いを浮かべながら代わりにそう答えた。


「あっ、いえ、お構いなく……」


悔しいがあの男性が言葉を発するとすべて受け入れてしまう。

未だカエルの輪唱のごとき絶叫をあげながら泣き続けるバケモノには怒りの鉄槌を喰らわせてやりたいところだが、俺はしぶしぶ力を込めた拳を緩め、そして深いため息を突いた後でパタンと地面に座り込んだ。



「すまないね、東くん」

「いえ、あなたが悪いわけではないですから……」


ジェントルな男性はその名に恥じぬ気遣いを見せてくれたが、男性も俺も、バケモノがこうなってしまえばしばらく手がつけられないのは痛いほど分かっている。


そうしてその後数分間、バケモノの奇声が俺たちのいる空間に響き渡り続けたのであった。

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