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初対面には未知との遭遇でも添えて

「おいお前、今自分のことを神様と、そう言ったのか?」


―――神様。通俗的に言われるところの、所謂全能な存在であり、その存在は人智や、あるいは物理法則までもを超越する。


……だのにどうしてコイツはこうも残念なのか。


「えぇ、言ったわよ。もう三回聞きたい? 神様神様神……」

「んなこと誰も言ってねぇよ! てかなんで三回なんだ……ってのはともかく、それでお前がその……神ってことは、この状況諸々を鑑みるに、やっぱり俺は死んだってことになるんだよな?」


これまで結局何一つ分かったことはないのだが、せめてこれだけはまず確認しないと今後の展開に支障をきたす恐れがある。


そう、俺はトラックに轢かれそうになっていたネコを助けようとして……それで気付いたらここにいた。

つまりここは救助された先か死んだ先か、その二択に絞られる。


まぁこの場合、今の俺の状況、というよりかはこのバケモノの存在自体が殆ど前者の可能性を排除しているため、おおよそ予定調和的ではあるのだが、とにかく俺はそれを確認せずにはいられなかった。


「えぇ、そうよ当然じゃない。あら、気付かなかったかしら? ならば安心しなさい。ちゃんと無事に死んでいるわよ」

「無事にってなんだよ!」


しかしやはりそうか。

あのときの記憶やイメージは虚構ではなかったんだな。


あれもこれも夢じゃなくて現実……現実?

ちょっと待て、なぜ俺はここに存在している?

これは現実なんだよな? いや、はたまたこっちが夢ということも……?


「ウフフッ、それにしてもアナタ自分が死んだっていうのに結構落ち着いているわねぇ。普通は「ママーーッ」とか言って叫び出すのがお決まりなのに」

「俺を髪型だけが奇抜なブルジョワマザコン野郎と一緒にすんじゃねぇ!」

「あら、随分と具体的ね。一体誰のことを仄めかしているのかしら……気にならない訳じゃないけどまぁいいわ。そういえばアナタはマザコンじゃなくてシスコンだったわね。ごめんなさい、間違えちゃったわ」


―――どうやらコイツは人を怒らせる天才らしい。ノーベル不快感賞とかあったら間違いなく連年受賞しているレベル。


「てめぇ、人をコケにするのもいい加減に……!」

「あーーっ、ごめんなさいすみませんもうしません許してくださいこの通りですというか許さないと殺すわよっ!」


さすがに我慢の限界に達しかけた俺は、声を押し殺してそう恫喝したのだが。

どうやらコイツ相手にまともな対応を期待するのは早々に諦めたほうがいいらしい。


「……おい、いま最後なんて……」

「あーーちょっと! な~に邪魔してくれちゃってるのよっ! このあとの「もう死んでるだろ!」「そうだった! テヘッ」までの一連の流れがこの世界の鉄板ネタだったのに!」

「知らねぇよ、んなもん!」「知らないなら黙ってなさいよっ!」


本当に何がしたいのか全く読めんヤツだ。


だがそれより何より、数分前まで畏怖の念を禁じえなかった相手と現状普通に会話できていることのほうがよっぽどおぞましい……!


さてそれはそうとして、果たして俺は今後どうするべきなのだろうか。

そもそも俺が死んでいるということなら天国というか、よく分からないが死後の世界的なところへでも連れて行かれるのか?


いや、だとしたらここはどこなんだ?


「……ちょっと、あのぉ~」


もしかしてここが天国なのか?


「お~い、もしも~~し」 


ちょっとそれはそれで、いくらなんでも想像と違いすぎるぞ。


「あれぇ~、おっかしいなぁ、聞こえてないのかしらぁ~?」


天国といえばあくまでイメージだがお花畑とか雲の上とかそういう……


「んもうっ! ちょっとアナタ! そうよそこのキミ! もう無視しないでよねぇ~!」

「うっせぇんだよ! こちとらまだ心の整理ってモンがついてねぇんだよ! だいたい神っていうのは少しの間黙ってることもできねぇのか!」


確実にここに来てからというもの血圧が上昇の一途を辿っているに違いない。

俺が高血圧患者だったなら間違いなくもう死んでるところだったが良かったな、バケモノ。俺の家系は先祖代々毎年貧血で倒れるヤツが出るほどの低血圧系民族だ。むしろ死ぬとしたら原因はそっちだろう。


……いや、すでに死んでるのか、テヘッ


いやいやそうじゃないだろ。ちょっと待て、そんなこと今はどうでもいい。

血圧で気付いたが、俺の心臓が今もなお律儀なる律動を繰り返しているではないか。一体これはどういうことだ? 俺は死んだはずなんだろ?


「なぁ、おい。死んだはずの俺の心臓がまだ動いてんだが、これはどういうことだ?」


あまり気の進むことではないが、俺は正直にこの疑問をぶつけてみることにした。


「あら、心臓? もしやアタシにときめいているのかしらねぇ~!」

「んな訳ねぇだろ! てか毎度毎度適当にはぐらかしてんじゃねぇよ!」

「んもぅ、つれないわねぇ。いいわよ、しょうがないから答えてあげるわ。心臓のことだったかしら? それはねぇ、ええと、動いてるようでホントは動いてないのよ」


「…………は?」


バケモノは煩わしそうにしながらもそう答えたのだが、俺は聞いたままのその言葉をうまく咀嚼することができなかった。


―――動いているようで動いていない? 一体どういうことだ?


するとそれを見兼ねたらしいバケモノが溜め息混じりに再び説明を始める。

「だ~か~らっ! アナタにとっては動いてるように感じるでしょうけど、実際は動いていないのよ。鼓動を感じるのはアナタの意識のみで、他者から認識はされないの。まぁ詳しい話は面倒臭いから端折っちゃうけど、そこが言ってみれば生者と死者の違いかしらねぇ。だからそう、アナタが今感じる鼓動は……そうね、錯覚とでも思っておけばいいのよ」


―――なるほど、まったく分からん。

本当は動いていないのに動いているように感じる。動いていると思っているのは当人のみで、その動きに感知できるのも当人のみ。第三者がそれに気付く余地はない。


何じゃそりゃ。複雑な国際情勢的なアレか? いや、多分違うな。


「まぁ……あれだ。そういうことなら仕方ないな。ほら、静にして動を感じるとか、失ってみて初めて気付くありがたさ的なヤツだろ、うん」


俺は口を衝くままに一見それらしいようなセリフを並べてみたのだが、バケモノはジトーッとした目で俺を見つめ、その曖昧なセリフを聞き逃してはくれなかった。


「アナタ、ホントは何も分かってないんじゃないの?」


……チッ、気付かれたか。だがこうなりゃヤケだ。攻撃は最大の防御なり。


「な、んな訳ねぇだろ! てか大体何なんだよ、死んだと思ったらこんな変なところで目が覚めてよぉ、そうしたら変なヤツ出てくるし話通じないしでもう訳わかんねぇんだよ! 既にもう絶賛錯乱中なんだよ! 小難しい話なんて入る容量はもう俺の脳みそには残ってねぇんだよ!」


―――いや、これは攻撃ではなくてただの愚痴じゃねぇか。


「ちょっとアナタ、今アタシのこと変なヤツって言わなかったかしら?」

「それがどうしたんだよ! お前はどこからどう見ても変なヤツだろ!」

「あぁ、もう、二度も言った! 親父にも言われたことないのに……!」


―――どうやらこのバケモノはなまじっかに地球の知識を仕入れているらしい。

ならばどうして未来から来たネコ型ロボットを押さえていないのかはかなりの謎だが、まぁ面倒臭いので今は触れないでおこう。

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