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突然の転移にはアクション要素でも添えて

「な、なんだここは!? どこだよ一体……てかどうやって俺は……」


突然の出来事に、俺たちは混乱を禁じえなかった。


「こんにゃことがあるにゃんてあのお方から一度も聞いてにゃい……ってにゃああ!!」

「あ? 何だよいきなりネコっぽい声出しやがって……っておいっ! う、う、うそだろっ!?」


運命のいたずらというものであろうか。

唐突に命を失い、唐突にバケモノと出会ってネコが喋り始め、唐突に知らない町に飛ばされ、そして俺たちの目の前には今、車が猛スピードで迫っていた。


「「ひぃぃぃっっ!!」」


ここまで思考回路が一緒だとすると、あのバケモノの恣意的な介入を否応なく疑ってしまうところだが、とにかく今はそんなことを気にしている余裕など無い。

というか、余裕なんて最初から無かった。


またしても、あの事故の再来だ。


「んぐわっ……!」

俺はギュッと目を瞑ると、その直後もの凄い突風を感じた。


「…………あ、あれ?」

それからしばらくは多分超絶マヌケな格好で立っていたはずなのだが、どうやらまだ意識はあるらしい。


そこで俺は恐る恐る瞑っていた目を開けてみると、どういう訳か先ほどと全く変わらない状態の俺がそこには立っていた。


「えっ……そんなはずは……今完全に車に轢かれ……ってうわっ!」


そして再び呆気にとられ身動きが取れなくなった俺の前に、今度は大型のトラックが猛突進してきた。


「なっ―――!」


状況の理解すら儘ならない俺はただ呆然と迫り来るトラックを見つめることしかできない。


そしてついに、俺とトラックは正面衝突した―――はずだったのだが、その後気付けばトラックはあっという間に通り過ぎてゆき、俺は何事も無かったかのようにまた道路に立っていた。


「おい……まさかそういうことか?」

これはどうやら仕掛けがあるらしい。


すると百メートルほど向こうから、今度は路線バスがやってくるのが見えた。


「クソッ……どいつもこいつも図体デカいやつばっかり来やがって……ちくしょう、試してみるか?」


俺は二回に及ぶ奇怪な体験により、ある一つの仮説を立てた。


そう、今の俺、つまり死んでいる状態の俺はあらゆるモノをすり抜けられるのではないかということである。

そんなことは今の検証で十分分かっただろうという声が聞こえてくるような気もするが、一回目に関しては目を瞑り、二回目に至っては茫然自失状態で、数十秒前の出来事にもかかわらず記憶が曖昧なのである。


決してマゾであるわけではない。

俺はただ、生半可な知識のままグルメ気取りでパシャパシャ写真を撮ってブログに載せるような真似はしたくないだけなのだ。


そうして俺は、今度こそ気を保ってこの仮説に対する論証を完璧に展開すべく純然たる覚悟でグッと足を構え、バスの接近を待った。


―――マズい、これは相当な恐怖だ。もはや自殺の疑似体験に等しいぞ。

間違いなく死ぬレベルだろ……ってもう死んでるのか、テヘッ


そんなジョークを浮かべようとも否応なく顔が引きつる。

糖尿病患者なら疑う余地もなく即死しているレベルで脈拍が急上昇し、息は乱れあらゆる汗腺という汗腺から汗が噴出し、もうもはやこれはつまり最終的に結局のところ畢竟するに「死」という感じであった。


そしてついにバスが俺の目の前に到来。


今度こそは目を瞑らまいとて、ありとあらゆる体中の筋肉を力ませた―――のだが、俺の意に反してバスは俺の目の前で擦れるようなブレーキ音を響かせながら急に速度を落とし、白目を剥いて意識を失いかけていた俺をゆっくりと通過しながら停止した。


「おおおおっ、えっ? こ、これは……!」


俺は想定内にして予想外の現実に目を疑った。


そう、俺が立っていたのはなんと、間違いなくバスの車内であったからだ。


いや、それでは少し語弊があるかもしれない。

正確には、バスの中央に俺が存在したと言ったほうが良かろう。


なぜなら、俺の腰から下はバスの地面の下にあり、自らの目視でさえも確認することができなかったからだ。


「うそだろ……こんなのアリかよ」


どうやら俺はあのバケモノ同様、物理法則諸々をいつの間にか超越してしまったらしい。


当然バスの乗客は俺に気付いていない。

むしろ上半身だけ地面から出ているこの状況で気付かれたら一大パニックになることは必至。大道芸の練習中だとか上手く取り繕っても多分誰も信じてはくれない。


そしてしばらくすると停車と同時に開いた中扉が閉まり始め、それと同時にゆっくりとバスが動き始めた。

俺に気付く素振りさえ見えないバスの乗客はどんどん俺を追い越し、そして次の瞬間には一番後ろの座席が、目の前にその椅子が迫ってきた。


「なっ……おいおいおいおい!」


俺はその恐怖に耐えかねてまたしても目を塞いでしまったのだが、気付いたときにはまた先ほどと同じ位置、例の場所に何ら変わらない様子で立っていた。


「な、なるほど……な」


ラストは完全に不意打ちだったため、先ほどと同様、もし他人に見られたら恥ずかしさのあまり死にたくなるようなポーズで構えてしまったが、どうやらやはりモノはすり抜けることができるらしい。


あまり認めたくないが、言わば死んでいる者の特権といったところか。


では人間はどうなんだ?

バスでは確かに人の姿はあったが、それはただ見ただけで実際に触ったわけではない。人間相手でもすり抜けられるのか、これも確認の余地がありそうだな……


すると突然、俺の背後から聞き覚えのある声が聞き覚えしかない口調で聞こえてきた。


「おい、いつまで遊んでるんだにゃ!」


―――マ、マズイ……!

もしやさっきの恥ずかしいポーズを見られていたのではなかろうか。よりによってこのネコに見られていたとあってはこの先生きてゆけない。いや、マジで切実に。


「あ、遊んでなんかねぇよ! 俺はただ高尚な実験をだな……」

「あぁもう知らにゃいにゃ! とにかくさっさと少女とやらを捜すにゃ!」


俺が実験に励む最中にヤツがどこにいたのかは知らないが、いきなり俺の前に現れたネコはすげなくそう言うと、地面に顔を近づけながら歩き始めた。


しかし良かった。

俺について特に言及しないってことはどうやらさっきのポーズは見られていなかったってことだな。


「なんだ、匂いで探索でもする気か?」


俺はネコの後を落ち着いた気持ちでのんびりと追いながらそう訊ねてみた。

何しろ情報量が足りない。あるのはたった一枚の写真だけ。

それを恃みに知らない土地で人探しなんて無謀が過ぎる気がするのだが。


「それは犬の仕事だにゃ。まぁお前ら人間より嗅覚は鋭いけどさすがにそこまでは無理だにゃ」

「そんなもんか、結局使えないのは変わらねぇな」


するとネコはいかにも不満げな、何か言いたげな顔をしてこちらを見たのだが、しかしその直後何かを察知したらしい。


「こ、この匂いは……もしや!」

ネコは含みを持たせるようにそう言うと、突然その歩みをピタリと止めた。


「おっ、なんだ? 何か掴めたのか? ……ってそんな訳ねぇか。第一現時点で写真しか情報がない状態で匂いとか分かるわけが……」


俺がなおざりにそう返していると、いつの間にかネコが何かに取り憑かれたように全速力で走り出していた。


「おい! ちょっ……どうしたんだよ、いきなり!」

「ま、間違いにゃいにゃ! この感じ、この匂い、どう考えてもあの……!」


俺は前触れもなく走り始めたネコの後を訳も分からず追ったが、やはり人間がネコのスピードに追いつくことなんて不可能で、徐々に差は開いていく。


「くそっ……ダメだ、おい! どこ行くんだよ……!」


俺がそう声を上げてもネコはますます止まる気配すらなく、むしろその姿が遠くなる一方。


そうこうしているうちに、準備運動もなしに走り出したせいか喉の奥が焼けたように熱くなり、口は乾き目の前が真っ白になるほどに息が上がっていたことに気付いた。


「くそっ……死んでるくせに人間の厄介さは健在ってかよ」


さっきから考えていたが色々と不可解な点が多すぎる。

俺は今おそらく一般的に幽霊と呼ばれる状態にあるはずなのだが、だとしたらどうして心臓が動いている? あ、いや、これはそういえば実際は動いていないとか何とか言っていたっけな。


まぁそれはいいとしても、ここまで倒れそうなほどに疲弊するとかおかしいだろ。呼吸をしていることでさえ吃驚ものだというのに。

幽霊ってのはもっとこう、アレだ。ビューンと行けないのか? ビューンと


俺は朦朧とする意識の中でそんなことを考えながら、かなり遅れてネコが曲がったであろう角を越えると、幸いなことにようやくそこでネコの姿を捉えることができた。


「ハァ……お前いい加減に……てか俺を置いていくとか……ハァ……ってあれ、お前そこで何してんだよ」


やっとの思いで追いついた先を見ると、そこには黒と白の縞模様が特徴的で、やたら語尾につける「にゃ」とか諸々うるさいネコの他に、もう一匹見知らぬネコがいた。


「ネ、ネコ……だと?」


コーン野郎が見つめるその先には、間違いなくそのネコ―――何となくだが多分雌ネコで、何となくだが多分男を誑かすビッチと思しき存在が、尊大に居座っていたのだった。

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