最高の人嫌い?
速さ。速さこそ全て。俺の生きる意義であり俺の価値である。
騎竜として生まれた俺達は、人を乗せることが役目だ。そう育てられた。
だが俺は人が嫌いだ。あいつらは速さってものが解っていない。皆、俺に振り落とされては文句を言う。俺は人が乗る事に構いやしないが、人が俺に乗れないんだ。
乗るなら乗ってみせろ。速さってやつを教えてやるさ。
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人が嫌いで気性が荒い個体だと聞いていたが、たしかにコイツは曲者だな。
だが、人を嫌ってる目じゃない。ギラギラとたぎる目は人を試す目だ。「乗ってみろ」って目をしてる。いい目だ。
騎乗の準備にも大人しく従い、乗りやすいように姿勢を下げてくれる。こいつは気の利く良い奴だ。
だが、纏う闘気は消えていない。むしろ増している。
俺は鞍にまたがり、走り出す合図を送る。
すると瞬く間に風を裂く音が鳴り、景色が線になる。
「いきなり襲歩かよ!」
身体へかかる慣性の負荷。ぶつかる空気、竜から伝わる熱気。
竜が大地を踏む度に力強く心地よい衝撃が俺の腹の奥に響く。
他の騎竜など比に出来ない程の運動。この種では通常、過剰発熱すると思われるが、魔力によって熱を変換しているのだろう。
竜種の持つ焔袋に濃厚な魔力が集まり、口の端からチロチロと焔を吹かしている。
剣で厚くなった手の皮が久しぶりに痛む……しかしたまらないな。この爽快感はたまらない。
打ち付ける風、響く大地、そしてこの騎竜の熱い生命力!
特殊個体であることは間違いないが、その事を差し引いても走りにおける練度が並じゃない。
「友達になれそうだ」
思わず口角を緩めた俺を騎竜が微かに見やると、チロリと漏れていた焔が少しだけ大きくなる。
再び身体がぐん! と引っ張られ速度がまた一段上がった。
あっという間にコースを周った俺たちは荒い息を吐きながら街に戻った。
あの騎竜は、最初の闘気が嘘みたいに消えて竜舎で眠っている。
「どうでしたか……?」
買い手の居ないことを心配そうにしていたブリーダーが少し期待をしたように聞いてくる。
「ああ、最高だった。是非アイツを貰うよ」