喧嘩
思い付きで書かれる練習。場面集というか、なんというか、ただの練習帳です。
私こと、マスティはとある公園での任務中に、レイゼンを怒らせてしまった。
「靴を舐めろ。と、言いたいところだが……」
レロォ...
私はすかさず靴を舐める体勢に入ったのだが、レイゼンのセリフで動きを止める。
「お前はとても酷く汚いから、あそこのオッサンの靴でもなめてろ」
ちらと横目で見たら、小汚いという言葉は数年前にたやすく凌駕したであろう汚いオッサンが公園の隅の家で眠っていた。
いやいや、あれは無理だろ、俺は舐めるぞ。レイゼンの靴を……。
「おい、舌をしまえ」
「は、はいっ」
と、思わせてペロペロペロ!!!!
そこで一瞬私の意識は飛ぶ。
――あれ? ……ここ何処だ? 青くて綺麗だなあ……あ、なんか腹が痛い? 痛い! すごく痛い! あれかな? 朝ごはんのせいかな?
それにしてもなんだっけ、なんで俺はこんな状態なんだ……?
たしか……俺は我が友レイゼンの靴を舐めて……。
そうだ! 思い出した、ガスッ!! と、我が偉大なる放屁のような鈍い音がしたと思うと、先刻まで靴を舐めるために四つん這いになっていたのに何故か、蹴り一つで一瞬とはいえ気を失って仰向けになり、空を見ていたんだ。
あぁ腹が痛い。蹴られたせいだったんだ。 お空、綺麗だなあ……。
このまま呑気に、純粋な心地良さと解放感を青空に教えてもらう暇はなかった。
ぬぅっと、邪気のこもった笑みが現れたのだ。
先程までは痛みのあまり気が狂っていたようだ。私の腹の痛みは今朝食べた。りんごヨーグルトやシリアルやソフトクリームや(中略)などのせいではなかった。
こやつだ!! こやつのせいだ!! 勘違いしちゃったじゃないか! ぷんぷん!
「ぷん……?」
私が可愛らしく顔をしかめて睨むと、レイゼンの口がさらに吊り上った。それはもう、裂けるんじゃないかってくらいに。
あっ! ヤバイ! 早く逃げなきゃ!! と思い返した時にはすでに遅く、起上がりかけた私は再度腹を蹴られ、また、一瞬で背中を大地をつけることになる。
背中に走る衝撃と腹の奥深くまで突き刺さる痛みは、先日芯の出たボールペンを逆さまにノックした時よりも遥かに痛い。あまりの痛さに私の肺から空気が押し出される。
「イヤンッ」
押し出された空気によって、私は悲痛な声を上げながら口を大きくこじ開けた。
ソコニ彼ハマタトテツモナク容赦ノ無イ行動ニ出ルノダ。
「なぁめたぁいーんだろぉう?」
わざとらしくユックリと彼は言葉を発し、私の口に靴を押し込んだ!!
なるほど。砂が口の中に入り、私は気付く。彼が先程執拗にズリズリと地面に靴を擦っていたのはこのためか。ガムを踏んだわけではなかったのか!!
おっさんの靴でなかったのはありがたいが、息ができない上に、砂のせいでむせる。
靴を咥えたまま、ドゥエッホ!! ドゥエッホ!! とむせる私を見て、彼は至極楽しそうに笑っていた。
私の手を伸し掛かって封じ、手で靴を抑えながら普段のダルそうな雰囲気からは想像できないほど、生気に満ちた笑みを溢していた。
鬼だ!! いや、違う!! ドS!! いや、鬼ドSだ!! その言葉を具現化するならばきっと彼のようになるんだろう。
口の中の異物が無造作に引っこ抜かれたが、幸い歯は折れていないようだ。
彼はだらだらとよだれの滴る靴を捨てると、砂と過呼吸により、涙目となった私に近付いてきた。
もう満足して頂けたのだろうか?
とにもかくにも私はなすすべも選択肢もあるわけがなく、ただひたすら彼に地にひれ伏し謝り続けた。
静かになったので、もういないかな……? ともう顔をあげたら顎を蹴られた。
そして私の意識は再び飛ぶ――
目が覚め、あたりを見回し恐怖の対象がいないことに、私はひとまず安堵した。
「良かった。いないようだ」
まずい。安心したせいでまた涙が出そうだ。
「何が良かったの?」
ビビりながら振り返るとそこには、私が思うに、私が大好きなあの女優似に勝るとも劣らない、私の大好きな、可愛らしく、少しばかり良い香りのするサクラが立っていた。嗚呼可愛らしい。あといい匂いがする。
先程の事もあり、声がしたことに、ビビりまくった私の目からは、しょっぱい水が完全にこぼれていた。
大丈夫だ下からはこぼれていない。パンツに染み込んでいるだけだからセーフだ。問題ない。
私は涙を必死にふき取り、何事もなかったように、愛想のいい笑みを浮かべた。
「いや、なに魔物の気配がしてね。妙に手強い砂かけ女だったよ」
しかし。流石は私の惚れた女だ。これしきの事で騙せはしない。
サクラはふう、と肩をすくめる。
「またレイと喧嘩?」
と、呆れながら、私に付いた砂を落としてくれた。
私は、赤面し、「大丈夫」と裏返りかけた声で俯きながら言った。
「まったく、喧嘩してもいいけど、ほどほどにしてよね
マスティだってそこそこ強いしここらは魔物もほとんど居ないけど、気絶してる間に魔物におそわれることだってあるんだから
また下らない悪戯してレイを怒らせたんでしょ?」
ほら、もうすぐ日が暮れるから。と言ってサクラはまだ地べたに座ったままの俺を立たせるべく、細い手を伸ばしてきた。
「ありがとう」
私は彼女の手を取った。細い、けれど見た目よりずっと力強い、私の大好きな手だ。
他に投稿しているものは数年以内〜最近のものを手直ししているんですけど。
これは、手直しは少ししたものの中学生くらいに書いたものだと思います。