「煮詰まる」の説明に詰まる
だいぶ前のことだ。
忙中閑な昼下がり。ちょっと良いお茶で一服していた時、職場の上司が会議から戻ってきて、疲れた顔で宣った。
「やー、参った。会議が煮詰まっちゃってさぁ」
……ちょっと嫌な予感。
念入りにお茶をいれて、とっときのお菓子を添えて出す。
「やっと煮詰まりましたか。よかったじゃないですか。長かったですもんねぇ」
「よかったって何だよ。ひでぇ奴やなもう! どっちの部門も一歩も引かなくて、全然建設的な意見が出ないんだよ? 時間ばかり食ってさ。こっちだって暇じゃないのに、勘弁してほしいよ」
……あー。これアカン奴や……
「もうにっちもさっちもいかないっての。完全に煮詰まっちまってどうしようも無いー!」
上司さま、そこは「煮詰まる」ではなく「行き詰まる」を使うところでございます。
多いんだよね、この誤用も。
につまる【煮詰まる】
1:煮えて水分がなくなること
2:議論・検討が十分になされて、結論に近付きつつあること
しかしなぁ、ここは職場で彼はアラフィフ上司。周りには彼の部下、中には彼の子供のような年齢層もいるんだ。
困るんだよねぇ、目上の人のミスを指摘するのって。
仕事上の問題なら平気で指摘できるし、しなきゃならないんだけど。言葉遣いなんて、まあ多少恥はかくだろうけど死にはしないし。
しかも上司さま、ただでさえ大っ嫌いな会議が空転しまくって、貴重な時間を潰されてて、ご機嫌が北辰斜めにさすところ……
こういう状況下で「お言葉を返すようですが……」とあからさまに誤用を指摘する度胸がある奴がいるだろうか? いや、無い(反語)
それに、周りを見ると私の方が「こいつ何言ってんの?」な目で見られてるっぽい。
そう言えば、心の愛読書「広辞苑」にも煮詰まるを行き詰まるの意で用いた誤用も見られるって載っちゃったもんね。
……これ、私の方が間違っていると思われてないか?
それからの私は、上司さまを労る振りで(←振りだけかよ)茶菓子のビスケットにのったジャムに話を誘導し、ジャム作りの手順を説明し、果物を焦げ付かせずに上手く煮詰めるのが如何に大変かを力説し、でも「煮詰まったらもうすぐ完成」なんだと強調した。
美味しいジャムの話をしながら、内心では「上司さま、お願い、気付いて! 自力で誤用に気付いて~!」と一人で焦っていたあの頃の私を誰か癒してください(涙目)