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読みがずれ 意味までずれた 世間ずれ

 なろう小説のテンプレと言えば、やはりハーレム(←ホントか?)

 そして、ハーレム要員として欠かせないのが、心は真面目で潔癖なのに、身体は巨乳でエロボディな回復役シスターですよね! 異論は認めないよ!


 そんで、幼い頃から神に仕えて御祈り三昧のシスターは、俗世間から隔絶されて育つため、世間一般の常識を知らない。

 そのために周囲とのギャップが激しく、そのギャップが惹き起こす騒動が楽しいエピソードとなる……のだが。


 こんなシスターの紹介文でよく見るのがこれ。


「彼女は神殿育ちの箱入りで、ひどく世間ずれしているから常識が通じない」


 最初、私はこれに違和感はなかった。違和感を覚えたのは相方である。


「世間ずれしてるなら、一般常識はあり過ぎるほどあって、それを上回るズル賢さで立ち回るんじゃないの?」と。


「ちょっと待て。世間ずれしてるなら、世間一般の常識とはかけ離れた価値観でしょ? ズル賢さってなによ」


 ……出ました、見解の相違。

 これはどっちかが誤用であるに違いない。

 では調べねばなるまい。


 我が心の愛読書、広辞苑によると


 せけんずれ【世間擦れ】 世間にあって苦労し、悪賢くなっていること


 あれ? 漢字これが当たるの? これで「せけんずれ」って読むんか! 「せけんこすれ」とか読みそうだ。

 世間ずれって世間一般からずれてるって意味だと信じてたよ!


 まさかの自分が間違っていたパターンか?

 ……ああ、orz (失意体前屈)


 でも、「擦れる」って漢字が当てはまるなら、この意味はありだ。

 摩擦の「擦」だもの。「擦れっ枯らし(すれっからし)」の「擦れ」だもの。

 さらに相方が「阿婆擦れ(あばずれ)」なる単語を提供してくれた。

 相変わらずこの手のボキャブラリーが豊かなヤツ。


 世間の荒波に揉まれて、純粋な何かがすり減っていって、ズル賢さばかりを身に付けてしまった状態なんだろうか「世間ずれ」


 他の言葉でいうと「海千山千」あたりかなぁ?

 すると、今まで私が思っていた「世の中の考えからずれている」の意味なら、他に何と言えばいいんだろう?

 単純に「世間知らず」「常識はずれ」でいいのかな?


 もっと違う表現は無いかとネットを廻ってみたところ、またまたたどり着きました、文化庁。

 国語に関する世論調査で、既に「世間ずれ」調べてた。それも2回も!


 ……そしたら、誤用が正しい用法を上回る逆転現象が起きてた事が判明しました。


 世論調査で「世間ずれ」を調べたのが平成16年と25年。

 平成16年に正しい意味で「世間ずれ」を使っていたのが51.4%で、誤った使い方は32.4%だったものが、平成25年の調査では正しい使い方が35.6%に減り、誤った使い方が55.2%と過半数を越えてしまっているのだ!

 年代別統計だと10代の85%、20代の80%が誤りで、30〜50代も結構誤用があるとのこと。


 うへぁ。私みたいなのがいっぱいいるんだなぁ、勘違いしてたの私だけじゃないんだ……と安心してる場合じゃない!

 なんでここまで誤用が蔓延るのさ?


 まずは自分が間違えた経緯を思い出そう。

 私が「世間ずれ」という単語を「世間からずれている」と思い込んだのは何時で、何がきっかけだったのかは……残念ながら思い出せない。

 しかし「世論擦れ」と漢字を提示されたら、瞬時に正しい意味を理解した。

 ということは、私が最初に遭遇した「世間ずれ」は、左記のように漢字を伴わない表記、もしくは音声によるものだった可能性が高い。

 しかも、普段の私は新出単語を見かけると、まずまわりの文脈から意味を類推しながら読み、それでも意味が通じない時は他人に尋ねるか、すぐ辞書をひく癖がある。

 おかげでロシア文学なんか読み出すと他人の三倍は時間がかかる。


 でも「世間ずれ」では、この作業をした記憶が無い。

 ということは、最初から何の違和感もないまま、誤用がすんなり頭に定着しちゃったわけか。


 そもそも最初に見た文章が、誤用の意味あいで書かれていたのか? 正誤どちらでも通じるような曖昧さで書かれていたのか?

 もう、今となっては判らない。


 世論調査の結果を見ると、すごい勢いで誤用が蔓延ってきている。

 私以外の人たちが、どんな風に勘違いしてきたかはわからないが、多分私と同じように誤用を最初に見て、間違って覚えてしまったという人が少なからずいるんだろう。

 そして、そういう人たちが誤用のまま使い、他の人がそれを見てまた誤用が正しい意味とインプットされる。

 少し前なら有料の印刷物の活字で、つまりプロの校正を受けた文章でしか触れられなかった文章表現が、今やネットでスマホでタダで、気軽に読める。その事自体は素晴らしい事なのだ。でも、その文章を発表するのは誤用に気付かない素人で、校正も受けないまま気軽に、印刷物よりはるかに広範囲に拡散されていく。

 そのうち、誤用の方が目にふれる機会が増えていき、誤用は世間に認知されていくのだろう。

 時代と共に意味が変化してきた言葉は、日本語の中にもたくさんある。今まで何十年もかけて起きてきた変化は、今はほんの数年でおきてしまうのかもしれない。


 スマホで「せけんずれ」と入力すれば「世間ずれ」と変換される。せめて同時に「世間擦れ」と出てくれば、正しい意味にたどり着く人もいるだろうに。

 ……いやいや、前々回の「耳障り」は、「障」の字が変換されてたにもかかわらず「さわり」「触り」のニュアンスから思いきり誤用されていた。


 誤用が起きてしまう事自体は、不可避なんだと思う。

 あとはどう受け止めるか、言葉にどう向き合うか、なんだろうか。


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