耳障りの良い声……だと?
ネット小説で私が好きな分野のひとつが「恋愛」だ。
うん、現実で足りなかった成分を補給してるわけだね。自覚はあるよ。
恋愛小説の醍醐味はやはり、なんやかんやすったもんだの末、ヒーローがヒロインを口説くシーンなのだが、この大事な場面に誤字誤用が紛れ込んでいると、それまで盛り上がった気分が、焼き上げに失敗したメレンゲのごとくぺしゃんこになり、一気に白けてしまう。
それまでが面白ければ面白いほど、落差は激しく残念感が半端ない。そういう誤字の筆頭が
「耳障りの良い」
だったりする。
耳障りって、聞いて嫌な感じがすることだったよね? 「障り」だよね「差し障り」って意味の。「目障り」とか「月の障り」みたいな。「触り」じゃなくて。
「耳障りの良い彼の声が腰にクるほど素敵」
などという描写があると、
「あぁ? 不快なこと言われて腰にクる? 言葉責めか? ヒロインいつからドMになったし?」
と、脳内突っ込みが止まらなくなるのだ。
一度や二度ならまだいいのだが、この「耳障り」けっこうな頻度で登場する。ほんと、目障り(笑)
……あまりにも頻繁に堂々と使われているもんだから、もしかして自分の方が間違って覚えていたのかと不安になって、調べてみました。
まずは基本の広辞苑。
みみざわり【耳障り】 聞いていていやな感じがすること。聞いて気にさわること。
▽「―がよい」は誤用
よっしゃー! 自分は間違ってないぜー!
……とガッツポーズをきめてふと気付く。
「聞いていていやな感じ」と「聞いて気にさわる」をなぜわざわざ併記するの?
あ、そうか。聞いていていやな感じってのは、音声に関する印象だ。単純に大きすぎたり、雑音混じりやダミ声など、音色として不愉快だと。
聞いて気にさわるのは、聞こえた言葉の意味、聞こえたものの内容が不愉快ってことか。
自分は内容が不愉快としか思ってなかったな……
で、さらに調べる。今度はネットで。
たどり着いたのはここ。
文化庁広報誌「ぶんかる」2014年10月30日
……文化庁って、うわ、固てぇ。
しかし、さすがの真面目な取り組みだ。「耳ざわり」について「国語に関する世論調査 平成14年度」を用いて年代別に分析までしてる。
これによると「耳障り=聞いたことが気にさわる」が8割強、「聞いていていやな感じ」が1割弱。
……うん、自分の言葉の感性は、世間からそれほどずれてなさそうだ。
しかし、この世論調査は平成14年度のもの。今から10年前のものだ。今同じような調査をしたら、結果は多少違っているかもしれない。
ぶんかるの記事後半には、国立国語研究所データベース「KOTONOHA(現代日本語書き言葉均衡コーパス)」……あるんだ、こんなの……の調査では「耳障りのよい」記載がけっこうあり、その媒体の多くはネットの記事だとある。
であれば、ネットが身近な若い世代、スマホの予測変換を意味もあまり考えずにそのまま使っちゃう世代から、どんどん誤用が増えていくんじゃないかなと思うからだ。
……まぁ、色々調べて思うこと。
やっぱり「耳障りが良い」はねぇわ!
「耳触りが良い」もできたら止めれ!
せめて「耳当りが良い」「耳に心地よい」くらいでお願いします!