序章 7
「で、ここから大事な話なんですが、この神社はなんと千年前から存在している神社なんですよ!」
現在、秋海先生による講演会が開かれていた。
勿論拝聴者はオレ一人のみ。青空教室ならぬ、夜空教室だった。非常に寒い。
煙草を吸おうにも吸えない空気だ。
「これほど小さくても、昔の人は神の居所を大切にしてた訳なんですね!」
相変わらず、先生は饒舌に語ってくれている。
オレもへーとかほーとか適当に相槌を打って聞き流す。
「それで――ミナトさん?」
「あ、あぁ聞いてるよ、千年前だろ」
目の前にある小さな神社は人に管理されていないのか、所々破損しており、とてもじゃない が神がいらっしゃるようには見えない。
しかし、ソラはあたかもそこに神が居るかのように語っていた。
俺ではなく、神に語りかけるように。
(この子、神社が好きなんだな)
でなければ突然『行くぞ』何ていう荒々しい口調になるはずがない。興奮しているがためにそのような口調になったのだろう。
彼女は未だに目を輝かせながらオレに熱弁している。
「で、ここからが大切な事ですが!」
そのフレーズは5回ほど聞いたんだが?という突っ込みを呑み込む。
待っていたその大切な事を、ソラは言わなかった。
「……」
「…秋海先生?どうした?」
ソラは口を開いているが、茫然と何かを見ていた。
その視線は、俺の後ろまで伸びていて、何かに焦点が当てられているようだ。
俺は振り返る。
「…………?」
そこには何もない、俺たちが辿ってきた道が伸びている。
確かにソラは何かを見ていた。しかし振り返っても、その何かは分からない。
視線を戻すと、「はっ」とソラは我に返った。
「どした?」
「……え、あ、あの…その……」
途端に、先ほどの熱血は何処へ行ったのやら、前髪をいじり、モジモジとしだす秋海先生。
目を合わせないようにそっぽを向いている。その頬は少し紅潮していた。
「早く続きを、先生」
「そ、そそうなんですが……えっと、その、あれ…」
ソラは話すどころの話ではない様子だった。
恐らく[神社が好きな彼女]から[いつもの恥ずかしがりやな彼女]にスイッチが切り替わったのだろう。
多重人格、とは言わないまでも、唐突な切り替えだった。
彼女自身に別状はないみたいだが。
「……確かに、……見えたはず……?」
「……本当に大丈夫か?」
怪訝な顔を浮かべながらぼそぼそと呟く彼女。
なんて言っているのか聞こう、と顔に近づく。
「!!?」
ボン、と何か空気のようなものが弾け、爆発するような音がした。
どうやら俺の行為は逆効果だったようだ。
「~~~~!!!」
脱兎の如き慌てて走り去る彼女の後ろ姿を、俺は茫然と眺めていた。