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東方星夜抄  作者: 妖灯
東方星夜抄 序章
5/60

序章 5

「…………」


暗闇の中でぽつりと浮かんだ黄色の球体が通り過ぎていく。

また生まれた黄色の玉。

同じく光の帯を作りながら、視界に移っては消えていく。


少し暖房の効いた車内はほんのりと暖かかった。


ナギの指定した集合場所、学校裏の神社とは、繁華街とは学校を挟んで反対側に位置する山に存在している。

学校裏とはいっても、その神社の場所は距離にして10㎞程あり、バスを使わなければならないほど遠い。まぁ、そこまで行きたい!という物好きは大抵神社巡りを趣味としている人か、ランニングに訪れる人か、オカルト好きなゲーマーのみ。

だから、神社の山へと通ずるこのバスは、一時間に一本しか通っていない。


俺はひとつあくびをする。

隣で頭を抱える凌雅のおかげで、乗り遅れてしまうところだった。


「…………」


「ああああぁぁぁ…バイト、さぼっちまったよ。[真面目な凌雅くん]として名をはせていた俺が、こんな不真面目になっちまったよ…」


「そう落ち込むなよ」


「これが落ち込まずにいられるか!!今日バイト先のかわいい後輩とシフトがかぶっていて、俺とその子と仲いい奴の三人だったのによぉ…あぁ、神よ…日頃の俺の行いは完璧なのに、道端で見つけたタバコの吸い殻をすべて拾って携帯灰皿に入れている俺に救いの手を…」


「タバコ吸えばすべて解決です」


「お、そうだな」


バスの中には誰もいなかった。普段人がたくさんいるハズの場所だから新鮮味を感じる。

運転手にタバコを吸っていいか聞くと、快く了承してくれた。彼の服から漂う臭いから、同業者であることを察知する。

こんな理解者が世の中にもっと増えてくれることを切望した。

凌雅と俺は窓を全開にし、煙草に火をつける。

煙は風に乗って靡いていく。

夜の煙草は昼とは別の味がした。


「ふぃ~…いつも吸わない場所で吸う煙草って妙な味がするぜ」


「これで俺たちは反社会勢力だ」


「ささやかな犯行だこと。それなら豪快にバスジャックでもしろよ」


「今度やるか。そして日本を一周するやつ」


「運賃どんぐらい掛かっちまうんだろうなぁ」


「バスジャックしないのかよ」


少し大きな声で会話をしていると、バスの電光掲示板が切り替わり、赤い文字が点滅する。

――次は、伏見山、伏見山。綺麗な山々に囲まれた豊かな自然が――

アナウンスを片耳に聞きながら、俺たちは煙草を携帯灰皿に押し込めた。凌雅の灰皿はいっぱいだったので、仕方なく俺の方に詰め込む。

運賃を払い、運転手に軽く会釈する。最後の客だったのか、彼は帽子を脱いでその光輝く頭を俺の方に向けた。


『頑張ってくださいね』


「え?あ、どうも」


なんかよく分からない励ましを凌雅が丁寧に受け取る。

バスを降りると冷気が頬を駆け抜けた。

季節は春こそ過ぎたものの夏とは言えない、曖昧な季節。夏に向かって時は流れているが、夜はまだ名残惜しそうに春の気温を残していた。

バスはすでに遠くまで離れていた。


「さてと、これからは肝試しといくかー」


那岐との約束の場所は森を抜けた場所に位置する山の頂上。と言ってもそれほど高くなく、元気なお年寄りが朝にウォーキングするのに絶好の高さだ。

目の前に広がる暗き森は、おどろおどろしく不気味な雰囲気が漂っていた。


「誰が寂しくて男とやらにゃならんのだ」


「叫んでいいぜ?そしてオレの胸の中に飛び込んできて――ぐゆッ」


俺の放った手刀は狙い通り凌雅の心中線に食い込んだ。


「ついて来いよ、はぐれたら死ぬぜ」


「やめてくれよミナトぉ、俺心霊写真とか百物語とか暗い場所で思い出しちゃって動けなくなるタイプなんだよ……」


唐突に動けなくなる凌雅を後目に、森の中へと足を踏み入れる。

道はしっかりと整備しており、少なからず俺たちを山へと導いてくれるようだ。


「さ、行くぞ」


早くナギに会って要件を済ませ、睡眠を取りたい、と俺は考えていた。

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