序章 4
大学で煙草を吸った後はまっすぐ帰路に着くと決めている。
クラクションがオーケストラのように鳴り響く、繁華街を歩く。
1人暮らしのため、帰りにはお惣菜を買わなければならない。米は毎日焚いている、こんなナリでもやることはちゃんとやっている。
がやがやとうるさい人混みの中、20%オフのから揚げとひじきの煮物を買う。二つで200円を超えないとは優秀な惣菜たちである。いつもありがとう。感謝感激雨あられストリーム。
そういや牛乳が切れていたな。『うんまい牛乳』も買っておこうか。
その後ゆったりと本屋に寄ったり文房具屋に寄ったり。【げんそうきょー】に関する本はなかったので、代わりにストックとして水色のボールペンインクを購入。
店の外に出ると、あんなに快晴だった青空に灰色の雲が侵略していた。
「……こりゃ、雨が降りそうだな」
折り畳み傘は持っているが鞄の奥だ。流し込んだ教科書類をかき分けて取り出すのは面倒だった。
仕方なく、急いで帰ろうと決意した時。
ポケットの中で、バイブレーション。携帯が震えた。
「電話」
珍しい。
俺に電話をするのはバイト先の居酒屋のヘルプ時ぐらいだ。週3で入っているが、[ヘルプ時の頼み綱]という異名を持つ俺への電話。
最近ヘルプが少ないのであまり乗り気ではかった。仕方なく電話に出ることにする。
「はい、一之瀬です」
『もしもし?ミナト?』
声の主は女性だった。
あれ、と画面を見ると、表示は[御船 ナギ]だった。
どうやらバイトのヘルプではなかったらしい。
しかし、この女は、あまり言いたくはないが、その、面倒な人だった。
『今日夜暇でしょ?だったら今宵正午ジャストに学校裏の神社まで来て!以上!ばいちゃ!』
「お」
一文字だけ発した瞬間、プツンと途切れた。
通話時間、3秒。どんな話し方をすればこんな最短記録をたたき出せるんだ?
その3秒で内容をすべて理解した俺も彼女に毒されているのだろう。
無表情のまま、俺は凌雅にアプリ【LINNE】でメッセージを送る。
数刻もしないうちに、返事が返ってきた。
――オレも来たよ。こなかったら殺すって。まじ逝くわ(^_-)-☆
残酷な話だ。
彼は深夜勤のバイトがあるというのに…しかも明日の朝は一限必修(出席リーチもしくはアウト)もある。現実は怠け者に対して非情であった。
ま、御呼ばれしたからには仕方がない。早めに家に帰って少し睡眠をとって、万全な状態で挑むことにしよう。そうしよう。
繁華街の喧騒から逃げるように、雨が降る前に俺は走り出す。