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転生無双  作者: 平朝臣
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第八十一話「付喪神」


 ブリレは全然問題ないと言っていたがあれほど大きな戦闘を行って神力を消耗しているので今日はこの湖の近くで休むことにした。


 まだあまり進んでないとかそんなことを言う気にはなれない。もしブリレが負けていれば俺はブリレを失っていたかもしれないのだ。大事をとって休ませるくらい当然の選択だった。


ハゼリ「………。今日だけです。今日だけの我慢です………。」


ブリレ「えへへ~。主様ぁ~。」


 湖の近くに張ったテントの中で休んでいるとブリレが俺にしなだれかかってきた。いつもならブリレの行動を怒りながら自分も混ざってくるハゼリも今日は我慢してブリレの我侭を許してやっているようだ。


アキラ「ふぅ…。心臓に悪いからもうあんな無茶はしないでくれよ?」


ブリレ「主様は心配性だね。でもそれはボクのことを想ってくれてるからなんだよね。えへへっ。うれしいなぁ。」


 ますます俺の胸に頭を埋めてブリレが甘えてくる。今日は甘やかしてあげようと思って俺もブリレの頭を撫でる。


ハゼリ「今日だけです………。ハゼリが戦った後はハゼリが独占するのです………。」


 その言葉を聞いて俺は一つ言っておこうと思い五龍王に言葉をかける。


アキラ「この流れでいくとこれから五龍王が五龍神と戦っていくことになりそうだがお前達に言っておくことがある。無茶するな。そして死ぬな。誰一人死ぬことは許さない。全員生きて俺の下へ戻って来い。いいな?」


五龍王「「「「ははっ!」」」」


 五龍王達が恭しく頭を垂れる。


狐神「まぁまぁ。堅苦しいのはなしにしようじゃないかい。ブリレも頑張ったんだから皆で飲まなきゃね。」


アキラ「師匠………。」


 師匠は河童に出してもらった酒で酒盛りをしている。この湖に住んでいる河童はカワワだけじゃなかった。あの後多くの河童達が俺達のところへとやってきた。そして何を祝っているのかよくわからないが河童達が持ってきた酒で宴が始まった。


 チラチラとあちこちが見えてしまう布を巻いただけの河童娘達がお酌をしてまわる。親衛隊とかの男達の目は若い河童娘達に釘付けになっている。


 ちなみに変な似非訛りがあるのはなぜかカワワだけで他の河童娘達は普通の言葉でしゃべっている。


河童娘「さぁさぁ。一杯どうぞ。」


アキラ「………ふぅ。どうせもう宴になってるんだからせいぜい楽しむことにするか。」


河童娘「はい。それがよろしいかと。」


 俺は河童娘さんが注いでくれた酒を煽った。


アキラ「………うまい。」


河童娘「ささっ。もう一献。」


 うまい料理にうまい酒。綺麗な女の子が付きっ切りでお酌をしてくれる。至れり尽くせりだな。


シュリ「ジェイドさん!鼻の下が伸びてますよ!」


ジェイド「ええ?そんなことないだろう?俺はアキラ一筋だ。」


シュリ「それはそれで許せません。ジェイドさん現実を見てください。ジェイドさんはワーウルフなんですよ?ライカンスロープと結婚するべきだと思いませんか?」


ジェイド「う~ん…。何もする前から好きな人を諦めて手近な人で妥協しようなんてその相手にとっても失礼な話だろう?だから俺はアキラを諦めない。」


シュリ「アタックして砕けたら諦めて他の恋を探しましょうよ!もうジェイドさんにアキラさんの恋人の芽なんてないでしょう?」


ジェイド「うぐっ!痛いところを突いてくるな…。それでも俺は別に彼女の恋人になろうと思ってるわけじゃないんだ。ただ俺は恩人であり愛しい人でもある彼女を守りたい。だから親衛隊を作って彼女を守っているんだ。」


シュリ「ぶーぶー!それじゃ私に勝ち目がないじゃないですかぁ。」


 シュリは相変わらずジェイド一直線で絡んでるみたいだな。シュラも他の親衛隊と馴染んでいるようだ。元々同じ魔人族で傭兵だったシュラは軍隊でも馴染みやすかったんだろう。親衛隊もいつのまにか俺の仲間として馴染んでいるな。


クシナ「………貴女はどうしてこう女性を取っ替え引っ替えしているのですか。」


 クシナがボソッと呟いた。確認するまでもなく俺のことだろうな。


キュウ「アキラさんがぁ、女性を取っ替え引っ替えしているのではなくてぇ、女性の方がぁ、それでもいいからアキラさんに囲われたいと思ってるんですぅ~。」


クシナ「………だからと言ってその女性の気持ちを利用して自分の周りに侍らせているのは彼女でしょう。」


キュウ「多くの女性を受け止めることもぉ、上に立つ優れた者の務めだと思いますぅ。」


クシナ「………。」


キュウ「クシナさんもぉ、素直になったほうがいいですよぉ~?」


クシナ「私は………。」


キュウ「アキラさんはぁ、こぉ~んなにお嫁さんもいますからぁ、早くお嫁さんになった方がいいですよぉ~?」


クシナ「………。」


キュウ「そういう私もぉ、まだアキラさんとぉ、心は繋がってないんですけどねぇ。」


 キュウはそう言って笑いながらお酒を煽っていた。


ルリ「………クシナが混ざりたくないなら混ざらなくていい。あっくんはルリのもの。」


 ルリがブリレとは逆の方に抱き付いて来た。


ミコ「アキラくぅ~ん……。えへへ~。スリスリ~~。」


 ミコが赤い顔をしながら俺の膝の上に頭を乗せてスリスリしてくる………。


アキラ「おいミコ………。お前まさかお酒を飲んだのか?」


 ミコはいつもお酒は飲まない。ミコの生年月日は知らないが地球年齢で考えてもそろそろお酒を飲んでも良い年くらいだろうしこの世界では未成年はお酒を飲んではいけないという法律はないがミコはこれまで飲まなかった。だが今日は飲んだのか明らかに様子がおかしい。


ミコ「飲んれないよ~?」


アキラ「呂律が回ってないぞ………。それにお酒臭い。」


ミコ「飲んれないってばぁ~。アキラ君らって飲んれるのにぃ。それとも私がお酒を飲んらら悪いっていうのぉ~?」


 もう言ってることが支離滅裂だ。ミコは絡み酒だったのか…。


アキラ「あ~、はいはい。悪くないよ。さぁ、もう寝ようね。」


ミコ「子供扱いやら~…。私はアキラ君と…大人のお付き合いを~………。」


 膝の上にあるミコの頭を撫でていると次第にミコは目をトロンとさせて寝息を立て始めた。


アキラ「ふぅ…。やれやれ。」


フラン「普段お酒を飲まない人が酔っ払うと大変なことになりますね。」


 フランが眠ってしまったミコに毛布をかけながらそんなことを言った。


アキラ「誰だ?ミコにお酒を飲ませたのは…。」


カワワ「おらがすすめちまっただよぉ。こったらこどになるとは思っでもみなかったんだべぇ。もうしわげねな。」


 相変わらずカワワはなんちゃって訛りだな。とにかく俺の中ではミコにお酒を飲ませるのはもっと時間をかけてちょっとずつ慣れさせてからだと決めたのだった。



  =======



 今日は皆がブリレに譲って俺の隣の特等席を独り占めして眠った。翌朝目が覚めるとミコは二日酔いになっていたようだ。


ミコ「うぅ~…。頭が痛いよぉ。」


フラン「酔い覚ましの魔法はないですね…。」


 さすが魔法マニアのフランはそういう魔法があるかないかを一番に考えるらしい。


アキラ「………ふむ。魔法でも二日酔いを和らげるくらいは出来るかもしれないぞ。」


フラン「え?本当ですか?」


アキラ「ああ。どれくらい効果があるかはわからないけどな。ミコ試してみるか?」


ミコ「うぅ~…。お願いできるかな?」


アキラ「わかった。それじゃこっちに座って。」


 俺はミコを向かいの椅子に座らせる。そもそも二日酔いの原因と結果にはいくつか種類がある。まず頭痛の原因として血管の膨張作用がある。お酒には血管を膨張させて血流がよくなる効果があるが度を過ぎて長時間大量に膨張していると今度は血管が炎症を起こして頭痛の原因になる。


 また実は脱水症状が原因となることも多い。大量に飲み物を飲んでいるのに脱水症状とはおかしな気がするがアルコールには利尿作用がありお酒を大量に飲むとむしろ体内の水分等が減ってしまう。これに加えて栄養吸収を阻害する効果もあるので血中の糖分が減り低血糖症になることもある。


 他にも色々とあるがミコは頭痛がつらいようなので頭痛関連というとこの辺りが大半の原因だろう。つまり血管を収縮させて水分を十分補充し栄養をきちんと摂れば二日酔いの大半は軽減もしくは解消できる可能性が高い。科学知識のある俺達現代人ならばアセトアルデヒドやメタノールが原因になることも知っている。


アキラ「いくぞ。」


ミコ「うん。」


フラン「………。」


 フランは俺の魔法に興味があるのか食い入るように俺の手を見ている。まず俺はミコの血管を収縮させて炎症を起こしている血管の再生能力を促進して治した。それからアセトアルデヒドやメタノールのような原因物質を分解、排泄促進をしてみる。


 それから砂糖や塩を溶いた水と柑橘類を搾ったジュースを飲ませた。これらの吸収分解も魔法で少しだけ促進しておく。


アキラ「どうだ?」


ミコ「大分楽になったよ。ありがとうアキラ君。でもちょっといいかな…。」


 ミコがソワソワしだした。


アキラ「どうした?」


ミコ「だからちょっと…。あの…。もうっ!」


 ミコは顔を真っ赤にして立ち上がってテントを出て行った。


フラン「アキラさん…。察してあげてください………。催してきたんだと思います………。」


アキラ「あぁ…。」


 それからすぐにミコは戻ってきた。あまり遅くなって大きい方だと思われたら嫌だったのかな。


ミコ「―ッ!」


 ミコは俺と目が合うと真っ赤になって顔を伏せた。


ミコ「もうお酒はこりごりだよ………。」


フラン「それよりもさっきの魔法の解説をお願いします。」


 魔法マニアのフランは俺のさっきの魔法に興味津々だった。アセトアルデヒドやメタノールまで分解したり排出させるのは難しいかもしれないがそれ以外のものならフランでも出来るだろう。フランに魔法の解説をしているとミコも顔を伏せたまま聞き耳を立てていた。


 今度また同じようなことがあったら自力でなんとかするためかもしれない。俺に頼んだらまた恥ずかしい思いをするかもしれないからな。俺は別にそんなこと気にしなくてもいいと思うが………。女はなぜそんなことを気にするのかよくわからない。誰でも出る物は出るのだから自然の摂理として当たり前だと思うのだが………。



  =======



 それから俺達は朝の準備を済ませていつもより遅めに出発することにした。


カワワ「またきてくんろ。」


アキラ「だからお前はどこの訛りだそれは………。」


河童娘「お待ちしておりますね。」


アキラ「世話になったな。また機会があれば寄らせてもらう。」


 こうして俺達は河童達に見送られて水龍湖を後にしたのだった。


クシナ「それでこれからどこへ向かうのですか?」


アキラ「さぁな。記憶のルートに沿って進むだけだ。先のことなんてわからない。」


 東大陸に来た時は西側を通って北上していったが今は東側を通って南下している。このまま東回廊まで出そうな気配だ。


アキラ「このままだと東回廊まで出て東大陸から出そうな気はする。南大陸へ渡る前に寄り道するとしたら赤の魔神のところくらいしか知り合いはいないが寄りたいか?」


クシナ「………必要ありません。」


アキラ「そうか。」


 クシナが赤の魔神とどんな話をしたのかはわからない。ただ今のクシナはそれほど赤の魔神にも魔人族にも固執していないように見える。蟠りが解けたのならよかった。


 そのまま南下を続けていきドラゴニアとファングの旧勢力圏を越える。旧と言ったのは東部側はドラゴニアに返還されることになったので条約が発効すればここはドラゴニアになるからだ。


 当たり前と言えば当たり前だがまだ東部側の住人達の移動は始まっていなかった。時々そういう村を見ながらさらに南下していく。そして予想通りどこにも寄ることなく東回廊へと到着したのだった。


アキラ「アマイモンか。お前東回廊担当なのか?」


アマイモン「うむ………。」


 東回廊の前にある見張りの兵達の駐留拠点にはアマイモンがいた。最初に来た時もこいつがここに居たはずだ。それは良いとしてアマイモンはあまり俺の方を見ず口数も少ない。なぜか俺は四方鎮守将軍にあまり好かれていないようだ。


アキラ「東回廊を通って南大陸へ渡りたいが通っていいか?」


アマイモン「赤の魔神様より便宜を図るようにと仰せつかっている。」


アキラ「そうか。それじゃ通らせてもらうぞ。」


 あまり歓迎されてなさそうなので話しもそこそこに切り上げて東回廊を渡ることにした。



  =======



 回廊を渡っている間はさすがに隠れるところがないので太刀の獣神も近くを歩いている。なぜこいつは陸を歩いている間は隠れて付いてきているのだろうか。というかそもそも何故付いてくる?こいつは別に仲間じゃない。


アキラ「おい太刀の獣神。お前なんで俺達に付いてきている?」


太刀の獣神「………。」


 何も答えずに顔を背けた………。何だこいつ。ちょっと腹が立つな。


アキラ「俺達はたぶん南大陸で用を済ませたら中央大陸に渡るからお前は南大陸に残れよ。」


太刀の獣神「………。」


 何も答えない。


アキラ「っていうかお前別に俺達の仲間になる気もないみたいだし仲間にしてやる気もないから南大陸に着いたら勝手にどっか行けよ。」


太刀の獣神「………。」


 何も答えない。けど………、あれ?これって目に涙溜めて半泣きになってんじゃないか?


ミコ「もぅ…。アキラ君、あまりいじめたら可哀想だよ。」


アキラ「え?俺が悪いのか?こいつただずっと俺達の後を付け回してるだけなんじゃないのか?」


クロ「お前なんていらないってさ。南大陸に着いたらどっか行けよな。」


狐神「黒の魔神が偉そうに言うんじゃないよ。…それでアキラ。本当に太刀の獣神を放って行くのかい?」


 何か皆の視線が俺に集まる。何でだろう…。俺が太刀の獣神をいじめてたみたいな雰囲気だぞ…。


アキラ「………知りません。本人の好きにしたらいいんじゃないですか………。」


 何か言うと藪蛇になりそうだったので俺は太刀の獣神の好きにさせることにしたのだった。



  =======



 東回廊を渡りきり俺達は久しぶりに南大陸へと戻ってきた。


ガウ「がうがうっ!変なのいるの!」


 南大陸に上陸するとすぐにガウが声をあげる。東回廊を渡ってすぐの森の中に入って進むと少し開けた場所がある。そこにガウの言う変なのがいる。それはもう変なのだ。………なんだこれは。


アキラ「なんだこいつら?」


 そこにいるのは墨で描いたような体をした兎や蛙だ。小さい兎や蛙が二足歩行で遊んでいる。そう。これは所謂鳥獣戯画というやつにそっくりだ。わーわーと楽しそうに遊んでいる姿はちょっと可愛い………。


ミコ「あははっ。可愛いね。」


 ミコは俺と同じ感想を持ったようだ。………それって俺の感性がミコと近いってことか?


フラン「あれもゴーレムの一種でしょうか?」


 さすが魔法マニアのフランだ。あくまで魔法の観点から考える。


狐神「へぇ。こりゃぁ珍しいね。あれは付喪神だよ。」


アキラ「師匠は知ってるんですか?」


狐神「ああ。あれも妖怪族だよ。ただ臆病であまり人前には出てこないはずなんだけどねぇ。」


 確かに妖力を感じる。妖怪族というのはその通りなのだろう。だけど力が弱い。妖怪族は相当強い種族のはずなのに付喪神というのは随分弱い気がする。河童達はかなり強かった。下手な魔人族やドラゴン族より河童達の方が強いくらいだったのだ。ガウも師匠も俺も強い。妖怪族とはそういう種族だと思っていたのにこいつらを見るとちょっと印象が変わる。


狐神「付喪神っていうのは長い年月を経た物に力が宿った物だって言われてるからね。もっともっと長く生きないと強くないんだよ。」


 発生方法は地球のものとよく似ているようだ。そしてそれならば弱いのも頷ける。つまりは精霊族と一緒なのだ。何もないところに力が寄り集まって生まれるのだとすれば最初は小さな存在というのも納得がいく。そして長い年月をかけて徐々に周囲の力を集めて少しずつ成長していく。


???「………。」


 俺達は鳥獣戯画もとい付喪神を少し離れたところから観察していたのだがそのすぐ近く、というかむしろもう俺の足元から俺を見上げる一人の女の子がいた。気付かなかった。俺がこんな近くに寄られるまで気付かないなんてものすごい違和感を感じる。俺だけでなく仲間の誰も気付かないなんて異常としか思えない。


 そもそも気配を消すのがうまいとかそういう類の理由ではないのだ。気付いた今となっては確かにはっきりとそこにいる気配を感じる。それなのにちょっと注意しないようにするだけでまるで気にならなくなってしまう。


 何を言っているかわからないと思うが気配を消して居ないと思わせるのではなく気配があるのに気にならない。そこにいるのに気に留められない。そういう感じだ。


アキラ「お前名前は?」


九十九「九十九つくも。」


 その少女は俺の問いにすぐに答える。笠のようなものをかぶったおかっぱ頭の女の子だ。髪は濃紺のような感じでミコの髪をもう少し紺寄りにしたらこんな感じの色になりそうな気がする。日本の着物のようなものを着て俺の足元にしゃがみながら俺を見上げていた。何か付喪神というより座敷童みたいに見える。


狐神「へぇ…。こんなのもいるんだね。私らの気配察知を掻い潜るなんて大したもんだよ。」


 師匠も九十九に気付いたようだ。それを皮切りに徐々に皆気付き始めた。


ミコ「え?いつの間に?………この子もかわいぃ~。九十九ちゃんっていうの?九十九ちゃんはいくつかな?」


 ミコが九十九の前でしゃがんで問いかける。


九十九「四千七百十二年。」


ミコ「………え?」


九十九「作られてから四千七百十二年。」


ミコ「そっ、そう…。」


 ミコはちょっと引き攣った笑みで答えている。それはそうだ。ミコより遥かに年上なのだからあの態度はなかっただろう。見た目が子供に見えてもこの世界では子供と思って接してはいけない良い事例だ。


九十九「皆おいで。この人達は大丈夫。」


 九十九がそう言うと兎や蛙たちがぴょんぴょんとこちらへやってきた。


九十九「皆ご挨拶。」


 まるで九十九が操っているかのように一糸乱れず兎と蛙たちが一斉にお辞儀した。九十九は四千七百年も生きて力をつけているだけあってそこそこ強い。だがそれでも種族柄か他の種と比べたらそれほど強いわけでもない。ただそこにいるのにいると感じないというか気に留めないというかこの能力はすごいと思う。これならうまくすれば襲われずに生きていくことができるだろう。


九十九「こっち。」


 それだけ言うと九十九は歩き出した。恐らく付いて来いという意味だろうと思って九十九の後を追って歩き出す。記憶のルートとは違う方向へ進んでいるが旅を急いでいるわけでもないので気にするほどのことでもない。むしろこの九十九や付喪神の方が気になる。


 暫く森の中を歩いていくと小さな丘のような場所の麓に洞穴があった。九十九はその中へと入っていく。続いて入っていくとその中には色々な物が転がっていた。お茶碗、お箸、湯呑み、傘、日本で見られる様々な日用品のような物が多い。


 それらを踏まないように避けて進むと壁面に何か絵が並び始める。ストーリーにでもなっているようで何かを表しているのだろうと推測できるが何の絵かはよくわからない。一番奥へと辿り着くとそこには岩の台のような物がありある物が置いてあった。


九十九「やさかに。」


 九十九はその置いてある物を指差しながらそう言う。


アキラ「八尺瓊勾玉やさかにのまがたまか?」


 岩の台の上には勾玉が置かれていた。俺が近づこうとするとその勾玉が光りだした。



 ………

 ……

 …



狐神「…アキラ?」


アキラ「少し意識が飛んでました。」


狐神「………何か思い出したのかい?」


アキラ「ええまぁ………。」


 この世界には妖力や魔力のような特殊な力が九種類ある………。俺が今使えるようになっているのはそのうち五種類だ。俺は皆に軽く説明する。


狐神「それはおかしいね。人間族と古代族の力を入れても七種類しか浮かばないよ。あとの二つは一体なんだい?」


アキラ「具体的にどんな種族がどんな力を持っていたのかということはわかりません。ただ確かに九種類存在するんです。」


狐神「ふむぅ~。」


九十九「やさかに。」


 そんな話をしていると九十九が勾玉を持って俺のところへとやってきていた。


アキラ「俺に持っていけっていうのか?」


九十九「持ち主のところがいいって言ってる。」


アキラ「それは俺が持ち主ってことか?」


九十九「そう。だから連れて行ってあげて。」


 俺は九十九から勾玉を受け取った。すると自然と俺の首にかかり丁度良い長さになった。


アキラ「今日はもうここの近くで休むことにしますか。」


狐神「そうだね。」


 こうして今日はこの近くで休むことになった。少しだけこの洞穴や付喪神を調べたり周辺を見て周って少し開けた場所でテントを張った。


 九十九はずっと俺達に付いてきていた。まるで見張られているような気もするが何かするわけでも何か言うわけでもないので気にしないことにした。


 テントで眠る時には九十九はどこへ行ったのかいなくなっていたのでそのまま休むことにしたのだった。



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