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転生無双  作者: 平朝臣
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第八十話「水龍神」


 クシナと赤の魔神の戦いも終わり俺達は赤の魔神の家で休むことにした。ドラゴン族の者達は俺が出したテントを張って休んでいる。赤の魔神の家はそんなに大きな家じゃないから全員が入ると狭い。親衛隊とかドラゴニアの奴らとかとにかく邪魔な奴らは片っ端からテントで休ませることにした。


アキラ「この部屋だけ防音の結界を張っておく。二人で好きなだけ語らえ。」


クシナ「………。」


赤の魔神「ほう。防音?音が外に漏れないってことか?」


アキラ「そうだ。俺達には聞こえないから秘密の話でもなんでもするがいい。」


 俺はそれだけ言うと二人を残して部屋を出て防音の結界を張った。戦いが終わった後あの二人はどちらからともなく話し合いをすることになったようだった。俺達は耳が良すぎるから二人を防音の結界で囲んで俺達には聞こえないようにすることにしたのだ。


 俺は結界を張り終わると皆が寛いでいるリビングへとやってきた。ソファーに腰掛ながら俺は少し考え事をする。


 赤の魔神の纏う龍装励起はクシナの父の力の結晶のようなものだ。そして意思もある。その意思が赤の魔神に力を貸しており両者は強い信頼で結ばれている。死んでも力を貸すほど強い信頼で結ばれているような相手って何だろうと考える。


 最古の竜の話ではクシナの父は一人でクシナを抱えて戻ってきた。母親は不明だ………。もしかしてクシナの母親って………。


最古の竜『クシナは正真正銘純粋なドラゴン族だ。アキラの思っているようなことはないぞ。』


 急に首から提げていた龍魂から最古の竜の声が聞こえた。


アキラ「何で俺の考えてることがわかるんだよ。」


最古の竜『なんとなくだ。』


 よく俺は心を読まれたりする。そんなにわかりやすいのだろうか………。


狐神「まっ、あの二人は親子じゃないだろうねぇ。」


ミコ「そうするとどうしてクシナさんのお父さんが赤の魔神さんに力を貸しているのか気になりますよね。」


フラン「ただの利害の一致というだけとは思えませんね。」


アキラ「ストップ。それは赤の魔神かクシナが話してくるまで詮索はなしにしよう。」


 そうだ。そういう話を今結界の部屋でしている可能性が高いだろう。だがそれは俺達が勝手に聞いていい話じゃない気がしたから結界を張ったんだ。二人が自発的に話したくなるまで俺達はそのことについてとやかく言うのはやめておこう。


シュリ「それじゃどうすればジェイドさんが私に振り向いてくれるか考えましょう。」


アキラ「お前は何をしれっと混ざっているんだ。さっさとテントに行け。」


シュリ「ええ?何で私まで外なんですか?」


アキラ「お前はメイドだろうが………。」


シュリ「ぶーぶー。」


 シュリはぶーぶー言いながらも出て行った。そもそもテントだって普段は俺達も皆テントで寝泊りしてるんだ。そんなに悪い環境でもない。考えようによっては赤の魔神の家の方が環境が悪いと考えることも出来るくらいだ………。


 ともかく二人が結界で話をしている間俺はリビングで嫁達とイチャイチャして過ごしたのだった。



  =======



 翌朝クシナと赤の魔神の様子を窺ってみた。クシナは特に赤の魔神を敵対視するようなことはしなくなっていた。何か納得できるような話をしたのかもしれない。ともかく二人は多少なりとも打ち解けたようなので良しとしておく。


 ファングとドラゴニアについてはまだ色々と交渉があるようだ。昨日のはあくまで大筋での合意であって具体的なことはこれからなのだろう。イフリルも呼んで火の国もこの交渉に関わらせておくことにした。何か口出ししろという意味ではない。第三者として公正中立に立会人になるようにという意味だ。


 俺達はこれ以上この二国の交渉に口出しするつもりはないので最古の竜のところまで戻ることにする。


アキラ「クシナはどうするんだ?」


クシナ「私も帰ります。」


アキラ「そうか。問題はどうやって戻るかだな。」


 俺一人でなら走って行ってもすぐに戻れる。だがこれだけの人数で移動するとなるとまた時間がかかってしまう。俺としてはさっさと先に進みたいからこんなことでモタモタしたくない。


クシナ「私が竜化します。」


アキラ「………ん?俺達を乗せて行ってくれるってことか?」


クシナ「そうです。」


 クシナはそれだけ言うと怒った顔をして横を向いてしまった。どういう風の吹き回しか、あるいは何か魂胆があるのか。それはわからないが運んでくれるというのなら運んでもらおう。


アキラ「それじゃ頼む。俺達はクシナに乗せてもらって最古の竜のところまで戻るぞ。」


フラン「それでは出発の準備をしてきますね。」


 嫁達は出発の準備をしに部屋を出て行った。


赤の魔神「もう行くのか?」


アキラ「ああ。俺達がここに居てもすることはないからな。」


竜王「遠呂知様。後のことは我らにお任せくだされ。」


アキラ「………ああ。まぁしっかりやれ。」


竜王「はっ!」


 俺はまだこいつらを信用していないし任せるも何もお前達の国のことであって俺は関係ないんだが………。ともかくこれから火の国立会いのもとでファングとドラゴニアの講和交渉と調印が行われるだろう。大筋ではすでに合意できているのだからこれからそんなに大きく揉めることもないだろう。


 これによって一応ではあるがこの世界で起こっていた戦争の全てが終わったことになる。まだ燻っている火種はある。人神絡みで人間族国家がまた戦争に突入する可能性は高いだろう。大樹の民も何らかの動きがある可能性は高い。しかしそれ以外の国は全て戦争が終わったと言ってもいいと思う。


 これで少しは旅もしやすくなるかもしれない。五大陸全てを回ったがまだ完全には記憶が戻っていない。この旅はいつまで続くのだろうか。



  =======



 クシナが言うには竜化というらしい竜形態になったクシナの背中に俺の仲間達だけ乗る。


アキラ「じゃあな。もしかしたら東大陸から出る前にまた寄るかもしれんが………。」


赤の魔神「ああ。寄りたきゃ寄ってくれ。アキラ達が来ると家が広くなるからな。」


アキラ「………。自力で掃除しろよ。それか四方鎮守将軍にでも掃除してもらえ。」


赤の魔神「あいつらはだめだ。恐れ多いとか言って掃除しないんだ。」


 俺達は掃除係りだと思われてそうだな。記憶のルートでも帰りにこの辺りを通ることはなさそうだし寄らない方がいいかもしれない。


竜王「必ずや遠呂知様のご期待に添えてご覧に入れます!」


アキラ「………そうか。まぁ頑張ってくれ。」


竜王「はっ!」


 俺は別にドラゴニアやドラゴン族に何も期待していないから期待に添えるも何もないと思うのだがこいつには言っても通じないのでもうそのままにしておく。


アキラ「それじゃクシナ頼む。」


クシナ「ギャオォォーー!」


 竜形態のクシナが飛び上がる。あっという間に雲の上まで上昇して見送りに立っていた者達が豆粒のように小さくなる。


シルヴェストル「アキラが早く戻りたいそうじゃから急ぐのじゃ。」


 シルヴェストルが風の力を使ってクシナを加速させる。ぐんぐん速度が速くなるが雲の上なのであまり速いように感じない。嫁達は皆雲の上から眺める景色を堪能していたのだった。



  =======



 クシナとシルヴェストルのお陰でそれほど時間を掛けずに最古の竜の山まで戻ってこれた。クシナは龍魂を見た時にもう最古の竜の好きにしろと呆れていたが本人を前にしたらやっぱり怒り出した。俺達までとばっちりを受けたらたまらないのでさっさと旅に出ることにした。


アキラ「じゃあそういうことで。俺達は先に進むから。ここまで乗せてくれたのは助かった。さようなら。」


クシナ「お待ちなさい。私も同行すると言ったはずですよ。私を置いていく気ですか?」


 さっさと逃げ出そうと思っていたがクシナに止められてしまった。


狐神「もう諦めなよアキラ。」


ミコ「今はまだ分かり合えなくても私達みたいに一緒にいれば分かり合えるかもしれないよ?」


フラン「そうですね。もう予定調和なのですから無駄な抵抗はやめましょうアキラさん。」


 俺としてはクシナを置いて行きたかったが嫁達は連れて行くのに賛成のようだ。


アキラ「なぁ…。嫁が増えたら自分の番が減るのにそれでも嫁を増やすことを推奨するのか?」


ミコ「私と私より後からアキラ君と一緒になった人の出会った順番が逆だったらと思うと否定なんてできないよ。」


フラン「そうですね。私より前からアキラさんと一緒だった方が受け入れてくれたから私はアキラさんと一緒にいられるんです。その私が私より後から来たからというだけで後から来た人をアキラさんと一緒にいるのは駄目だとは言えません。」


アキラ「はぁ………。もういいか。じゃ今日一日ここで泊まって明日から旅を再開しよう。龍魂があるとはいえクシナも今日中に最古の竜ときちんと決着をつけておけよ。」


 最古の竜はもうそれほど長くないだろう。龍魂でいつでも会話できるとしても直接会えるのはこれが最後かもしれない。俺の言わんとしていることがわかったのかクシナは神妙に頷いていた。



  =======



 翌日俺達は俺の記憶のルートを辿る旅を再開した。進行方向は南東方面。恐らくだが俺の予想では東大陸の東部に向かうのだろうと思う。西大陸のシルフィードから真っ直ぐ真東の位置だ。そこには恐らく水の元素の狂った場所がある。四つの元素が狂った場所を繋げば十字になるはずだ。そんなことを考えながら進んで行ったのだった。


 俺の予想通りシルフィードから真東の位置に巨大なカルデラ湖のようなものがあった。そしてここの水元素は狂っている。


ティア「何だか気持ちの悪いところですね。」


 水の精霊であるティアが一番ここに違和感を感じるのだろう。


スイ「ちょっとちょっと!早くここから離れたいんですけど!」


 ………そういえばこんな奴もいたな。スイも水の精霊神だから水の元素の狂っているここは気持ち悪いのだろう。


最古の竜『ここは水龍湖だ。水龍神が生贄に捧げられ封じられておる地だ。』


アキラ「水龍神………。」


 俺達が湖を眺めていると一つの気配が俺達に近づいてきていた。その気配は湖の中を泳いでいる………。


???「そったらとこで何してんだべ?」


 どこの訛りかよくわからない似非訛りで話しかけてくる者がいる。………湖の中から。そいつは湖から畔に上がり俺達に近寄ってくる。


 緑の甲羅を背負い手足の指の間には水掻きがある。頭にはお皿があるが禿げているお皿ではなくて普通に髪のある頭の上にお皿を紐で括りつけているだけだ。甲羅も紐で背負っているだけで体にくっついているわけじゃない。


 そう。こいつは河童っぽい。だがそれは人間が頭にお皿と背中に甲羅を括りつけているだけのなんちゃって河童っぽい。致命的に人間と違う所は爪が長く指の間に水掻きがあることくらいだろうか。それ以外はほとんど人間と違いがない。


 焦げ茶色のベリーショートの髪に美人とは違うが愛嬌があって素朴な感じのする安心する顔をしている。胸はそこそこ巨乳だがお腹周りもちょっとぽっちゃりしている。タイプとしてはキュウと同系統のタイプだ。そして全裸だ………。河童で常時水の中なのだからそれはそうなのかもしれないが全裸だ………。


ミコ「アキラ君?あまりジロジロ見ちゃだめだよ。」


ルリ「………あっくん、めっ。」


 嫁達に怒られてしまった。


アキラ「お前、名前は?」


カワワ「おらぁ河童のカワワだぁ。」


 やはり河童らしい。


アキラ「妖怪族か?」


カワワ「んだぁ。妖怪の河童だぁ。」


 妖怪族………。師匠とガウ以外で初めて見た。


アキラ「妖怪がこんなところで何をしている?」


カワワ「この湖の監視だべ。」


アキラ「監視?」


カワワ「んだぁ。この湖を見張っておくように言われたんだべぇ。」


アキラ「誰に?」


カワワ「さてなぁ?おらぁにはわがんねぇべぇ。」


 何か本当にどこの訛りかよくわからないな。なんちゃって訛りで余計にわかりにくい。


アキラ「もう少し詳しく聞こうか。」


 俺達はカワワに話を聞いてみた。大まかに要約してみる。まず河童は妖怪族だ。青白い妖力を纏っている。その河童達は遥か昔にある者にこの湖を監視するように言い付かった。それ以来河童達はその指示を守ってこの湖を見張り続けている。


 ………どこかで聞いた話だ。ただ誰の指示で何を監視してなぜ見張らなければならないのか肝心の理由が河童達ですらもうわからなくなっているということが問題だ。


最古の竜『この湖を監視せよということは見張っておるのは水龍神の封印かもしれんな。』


アキラ「ふむ………。」


 その時ゴゴゴゴッという地響きが鳴り響き少し遅れて地面が揺れだした。ただの地震ではない。水龍湖の真ん中から巨大な青い玉が浮かび上がってきていた。


最古の竜『もしやあれが水龍神の封印か?』


アキラ「そうだろうな。第五階位以上の力を感じる。現存する神であれほどの力を持つのは師匠とクロと大獣神だけらしいからな。」


 浮かび上がってきた青い玉からは第五階位の中でもかなりの力を感じる。現時点の五龍王を上回るくらいだ。


???『継承の儀を………。』


ブリレ「………え?わっ!うわわわっ!」


 青い玉から何か声が聞こえたと思ったらブリレが光に包まれて青い玉の方へと吸い込まれていっていた。


アキラ「ブリレ。」


ブリレ「あっ!主様大丈夫だよ。何だか知らないけどこれはボクがやらなくちゃいけないことみたい。すぐ戻ってくるから待っててよ。………これを乗り越えたら後で褒めてね。」


 ブリレがにっこり微笑んだ。あの青い玉の力はブリレを上回っている。絶対勝てないというほど大きな差はないが万が一戦いになれば勝つのは至難の技だろう。それでもブリレは気負うことなく光に包まれたまま青い玉の方へと吸い込まれていったのだった。



  =======



 青い玉の中に吸い込まれたブリレの姿を視認することはできない。だが魂が繋がっていて神力でものを視ることができる俺にはあの玉の中でのブリレの様子が視えている。


ブリレ「ふえぇ~。でっかいねぇ。君を倒したらいいのかな?」


 あの玉の中は空間が歪んでいるようだ。ブリレの目の前にいるものはあの玉のサイズよりも遥かに大きい。三十メートルを超えていそうな巨大な青い竜がそこにはいた。


???『水龍の資格を持ちし者よ。我が後を継ぐに相応しい力を示してみよ。』


ブリレ「うわっ!ちょっと!いきなりはずるいとボクは思うなぁ!」


 巨大な竜がブリレに襲い掛かった。パワー、スタミナ、神力量何もかも竜の方が上回っている。能力はお互いに水。相克での有利不利はない。このままではブリレに勝ち目はなさそうに見える。


ブリレ「水流破!」


 ブリレが両手を前に突き出して水流を撃ち出した。


???『ギャオォォーー!!!』


 青い竜も口からブレスを吐き出す。そのブレスはクシナが使っていた炎ではなく吐き出されたのは水だった。二人の撃ち出した水流はほぼ中間の位置で激突したがじわじわとブリレが圧されている。


ブリレ「くぅ~っ!これ以上無理。えいっ。」


 ブリレは途中で押し合いを諦めて青い竜のブレスを逸らしながら自分も身をかわした。まだ青い竜がブレスを吐いている隙に懐へと飛び込む。


ブリレ「いくよ~。せ~のっ!」


 ブリレが思い切り青い竜の腹にパンチを打ち込むがまるでダメージがない。


???『ギャオォォーーー!』


ブリレ「うわっ!わっ!あぶないなぁ。」


 青い竜が爪や尻尾を振るう。一撃でも直撃すればブリレでは耐えられないだろう。その後ブリレと青い竜の攻防が繰り返されるがブリレには決定打がない。それに比べて青い竜の攻撃は一撃でも食らえば一気に形勢が決まってしまうような攻撃ばかりだ。このままではいずれブリレが負けるのが目に見えている。


アキラ「………くそっ!ブリレッ!」


ブリレ「………主様。ボク勝つよ。主様のためにきっと勝つから………。」


 俺はぐっと拳を握り締める。俺ならこの戦いに介入することは容易いだろう。だがブリレが自力で乗り越えようとしているのに俺が割って入るわけにはいかない。もどかしい。自分で戦うほうがずっと気が楽だ。次の瞬間には決定打を食らってブリレが命を落とすかもしれない。それなのにただそれを見ていることしか出来ない。それがこんなにも気持ちをざわつかせるとは知らなかった。


狐神「大丈夫だよ。ブリレを信じてやりな。」


アキラ「信じてないわけじゃないんです。ただ………。」


 ただそれでももし万が一俺の大切な者達が傷つくかもしれないと思ったら居ても立っても居られない気持ちになる。………大切な者…か。ブリレは俺にとって大切な者だったんだな。………それはそうか。最初は不気味な魚だと思ってたはずなのにいつも俺の足にスリスリと頭の殻を擦り付けてきて、それが何だか可愛くて………。


ブリレ「くっ!」


 青い竜の尻尾がブリレに掠る。少し掠っただけなのにその力と質量によってブリレが吹き飛ばされる。


???『ギャオォォーー!!!』


 再度青い竜が水流を口から吐き出す。錐揉みに吹き飛ばされているブリレは今からでは回避できない。


ブリレ「―――ッ!水流破!」


 再びブリレの水流と青い竜の水流がぶつかり合い押し合う。


ブリレ「ううぅっ!………主様。」


アキラ「ブリレ………。ブリレッ!勝てっ!勝って帰って来いっ!」


ブリレ「うぅぅ~………。うわぁぁぁ~~~っ!」


 ブリレが光を発する。徐々にブリレの水流が青い竜の水流のブレスを押し返していく。


ブリレ「ボクは主様のところへ帰る。主様のところへ帰って褒めてもらうんだから!」


 ついにブリレの水流が青い竜の水流のブレスを押し切りその口へと流れ込む。外側からではまるでダメージを与えられなかったその体が内側からぼこぼことまるで生き物がのた打ち回るように蠢いていた。


 ブシッ


 ぐねぐねぼこぼこと蠢いていた竜のお腹がついに裂けた。一度亀裂が入るとどんどん広がっていきついにはぱっくりと大きくお腹が裂けて開いてしまっている。


ブリレ「………。」


???『ギャオォォーー……。』


 ブリレはそこで力尽きたのか顔を伏せてバタリと倒れた。青い竜は最後に一声咆哮を上げるとズシンと大きな音を立ててひっくり返ったのだった。



  =======


ミコ「全然わからないのだけれど………。」


フラン「あの中の様子がわかっているのはアキラさんとキツネさんくらいのようですね。」


クロ「俺だってわかってるぞ!」


 どうやらほとんどの者達にはあの中で起こっていたことがわからなかったようだ。


???『よくぞ我を打ち破った。新たなる水龍神よ。』


 その言葉と同時に湖に浮かんでいた青い玉が小さくなり中からブリレが出てきた。そしてその玉はさらに小さくなりブリレの胸に吸い込まれていった。光が収まるとブリレは空から落下して………。


アキラ「ブリレッ!」


 気がついたら俺は走り出してブリレを受け止めていた。


ブリレ「主様………。えへへっ。これがお姫様抱っこかぁ。実はボク、ゲーノモスでフランがされてるの見た時から自分もいつかしてもらいたいなぁって思ってたんだぁ。」


 そう言いながらブリレは俺にぎゅっと抱き付いて来た。


アキラ「これから何度でもしてやるさ。………だからあまり無茶するな。」


ブリレ「無茶じゃないよぉ?ボクはちゃんと主様のところへ帰ってくるもん。」


アキラ「ああ…。絶対帰ってこい。」


ブリレ「うんっ!」


カワワ「ほえぇ。あらぁ一体なんだったんだべなぁ?どうやっておめぇ水の上に立ってるんだべ?」


 俺とブリレが湖の上でイチャついているとカワワが俺の足元まで来ていた。もちろんカワワは湖の中で泳いでいて俺は水面の上に立っている。


アキラ「河童種の命を解除する。この地の監視役は終わった。これまでご苦労だった。後はお前達の好きなように生きていくがいい。………褒美を取らせよう。望みを言ってみろ。」


カワワ「へぇ?おめぇがおらたちにここさ監視しろって言っだもんだったんだべか?褒美っていわれてもなぁ。おらぁここでこれまで通り暮らせたらそれでいいだよぉ。」


 俺が命じたわけじゃない。だが俺に関係あることだったという確信はある。だから後始末は俺がすべきだろう。


アキラ「これまで通りここで暮らすことか。ならばこれを受け取るがいい。」


 俺はカワワの頭の上に手をかざす。カワワとこの湖一帯に俺の神力が流れる。


カワワ「こらぁなんだべな?」


アキラ「この地は俺の加護を受けた。そしてその加護の力をカワワが自由に扱えるようになった。あとはどうするかはお前達自身で考えればいい。必要ないと思えばこれっきり使わずにおけばいい。この湖を守るために必要になれば使えばいい。」


カワワ「へぇ?そう言われてもよぐわがんねぇなぁ?あははっ!」


 カワワは純朴な笑顔で笑っていた。それでいい。この湖と河童はこのままでいい。俺はブリレを抱っこしたまま畔へと戻ったのだった。



  =======



狐神「それでこれは何だったんだい?」


最古の竜『新たな水龍神が生まれたのだ。もう神の生まれるはずのなかったドラゴン族に新たな神が誕生した。水龍神ブリレよ。』


ブリレ「へ~…。そうなの?ボクにはあまり実感はないなぁ。ちょっと力が強くなったくらいかな?」


 確かにブリレの力が少し増したくらいで他はほとんど何も変わっていない。


ブリレ「でも水龍神ブリレかぁ。いいね。ハゼリより上になっちゃったよ。」


ハゼリ「図に乗るのではありません。ハゼリもすぐに追いつきます。」


ブリレ「ふ~ん。今はボクの方が上になっちゃったの認めるの?」


ハゼリ「ここで認めないなどと言っても意味はありません。…はっきりとブリレは五龍王を超えています。」


 確かにブリレはすでに他の五龍王達を超えている。


最古の竜『これはもう五龍神の封印を解いていくのが次の目的と言っているようなものだな。』


アキラ「そうだな………。そう言われたら身も蓋もないがそうなりそうだ………。」


 まだ記憶は完全には戻っていないが次の旅の目的はわかった気がした。だがこれは心臓に悪い。相手は明らかに五龍王を超えている。今回たまたまブリレだっただけで俺は他の五龍王にだって傷ついて欲しくない。その戦いを今回のような気持ちでまた見守らなければならないと思うと少し憂鬱な気分になるのだった。



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