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転生無双  作者: 平朝臣
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第七十七話「ドラゴニア王城へ」


 最古の竜のところで泊まることになってからさらに数日が経過している。俺は今日も最古の竜に歴史の講義を聞かさせられていた。


アキラ「なぁ………。このペースじゃこの話が終わるまで何十年もかかるんじゃないのか?」


最古の竜「それはそうだろうな。何千年もの歴史を語ろうと思えば何年も何十年もかかるのは当たり前のことであろう。」


 最古の竜は事も無げに答える。最古の竜が俺に聞かせる歴史は事細かに詳細付きで説明している。まるで見てきたようになどという言葉があるが最古の竜の場合は本当に生きて見て経験してきたことなのでその正確さや細かさは歴史書などの比ではない。


 それ自体はいいだろう。大変素晴らしい歴史の事実だ。問題なのはそんなに事細かに何千年分も聞かされていてはいつまで経ってもこの講義が終わらないということだ。俺はここで何十年も最古の竜の歴史講義を聞く気はない。そのことを最古の竜に伝える。


アキラ「俺はこんなところで何十年もお前の話を聞いていられない。もうちょっと端折ったりできないのか?」


最古の竜「正確に精密に伝えるのが肝要だ。これでも端折れるところは端折っている。」


 どうやら最古の竜からすればこれでも随分減らしているらしい。


アキラ「せめてお前が俺達に同行できれば旅をしながら聞けば良いのにな………。」


最古の竜「………。そうするか?」


アキラ「はい?お前その体でどうやって俺達に付いて来る気だ?」


最古の竜「わしそのものはここから動けぬが龍魂りゅうこんという道具を使えば遠く離れていてもお前達と同じ物を見られるし話も出来る。」


アキラ「………。」


 それから詳しく話を聞いた。聞いた感じではただのテレビ電話のようなものではなくバフォーメがチョーカーになっているのと少し近いものだった。魂というか意識というかそういうモノを龍魂という道具に分けて込めるらしい。すると本体のある方も龍魂のある方も認識できるようになるそうだ。


 それだけ便利なのだから当然デメリットも色々ある。まず龍魂自体が非常に珍しいものだそうだ。名前の通り龍の魂を込める器なのでその素材がそもそも他の龍の魂らしい。本当に魂なのかどうかは知らないが他のドラゴンの何かを使って作るものであることは確かだ。


 そのため龍魂を作るには相応の犠牲が必要になる。もちろん無理やり殺して奪う方法もあるが基本的には家族や親しい者が亡くなった時にその素材の素を譲り受けて少しずつ作るものだそうだ。最古の竜は長く生きているからその間に多くの素材を手に入れる機会があった。だから偶々持っているが普通の者はまず手にする機会すらないそうだ。


 そしてそれは逆に言えば最古の竜がそれだけ多くの別れを経験してきたことを意味する。なぜそんな悲しい道具を作るのかドラゴン族の考えることはわからない。ただそれは例えば精霊族が精霊王をずっと受け継ぎ続けるのと同じような何かドラゴン族なりの意味のあることなのかもしれない。


 それでデメリットだがまず魂を分けるのでどちらも不完全な状態になる。ある意味当たり前だ。一つしかないものを二つに分かれたらそれぞれは不十分になる。子供でもわかる。そもそも魂を分けるというのはかなり危険な行為らしい。


 バフォーメなどは悪魔であり存在そのものを分けることが出来る。簡単に言えばほとんどの悪魔召喚などは悪魔の本体は地獄というのか魔界というのか精神世界の元々の世界にあるが力の一部だけが呼び出されて物質世界に干渉できるようになっているのだ。その物質世界の依り代が破壊されれば精神世界へと帰るだけでそれだけでは悪魔を殺したことにはならない。


 このように精神世界の存在は簡単に分けたり元に戻ったりできる。だが物質世界の生物は一つの体に一つの魂を持つのが普通だ。それを分けるというのは本来出来ない。それを無理やり行うのだから危険な行いであることがわかるだろう。


 それから分かれるのに大きな力が必要であり分かれている間はどちらも不完全な力しか持っていないので全力を出すこともできないそうだ。こんなところまで最古の竜を襲いに来る者がいるかどうかは知らないが本体の身の安全も危うくなる。


 そもそも弱っている最古の竜が魂を分けることに耐えられるのかもわからない。他にも細々としたデメリットや制限があるようだが今重要なのは最古の竜が魂を分けることに耐えられるのかと分かれた場合に本体の安全が確保できるのかということになるだろう。


アキラ「そんな危険を冒してまでやる必要があるのか?」


最古の竜「うむ。わしはもう長くない。わしの知識を継ぐ者を残さねばならない。それからアキラとクシナのことも見届けたい。ただここでこのまま朽ちるよりは多少命を縮めようとも龍魂となってアキラ達に付いてゆこう。」


 最古の竜はもう見えなくなっているはずの眼を俺に向けてそう言った。そこまで言われて俺には断ることはできない。そのことを他の仲間達にも伝えたのだった。



  =======



 俺の仲間は誰一人反対しなかった。ただ一人クシナだけが反対していた。


クシナ「どういうことですか!そんな話は認められません!お爺様!どうしてお爺様の命をこのような方のために使わなければならないのですか?!」


最古の竜「クシナ………。このままここで多少生き長らえたところでそれに何の意味がある?お前の父やお前が自らの命を賭してでもドラゴン族を変えたいと奮闘しているのと同じくわしもわしの知識を託す者を育てたい。そのためには命を賭けることも厭わぬ。」


クシナ「それは………。ですがどうしてこの方なのです!他にもっと相応しい方がおられるでしょう?」


最古の竜「クシナ。もっと広い視野でみてみなさい。思い込みや偏見で濁った目では事実は見えないと何度も教えただろう?」


クシナ「………くっ!」


 クシナは一度だけ俺を睨みつけるとそのまま去って行った。


最古の竜「すまぬな。昔は…、いや、今でもあの子は『許婚様はまだですか?まだですか?』と言いながら毎日ソワソワワクワクしながらアキラを待っておったというのに…。何を拗ねておるのか………。」


アキラ「最古の竜のせいじゃない。」


 ………。今少し最古の竜が変なことを言った気がするぞ?拗ねる?俺を憎悪しているだけだろう。拗ねるのとは違う。蛇蝎の如く俺を忌み嫌っているのだ。


ティア「いずれ時間が解決してくれることもありますよ。」


 俺はティアを見た。おかしい。ティアがまともなことを言っている。


アキラ「ティア………。お前変な物でも食べたのか?買い食いや拾い食いはするなって言っただろ?」


ティア「アキラ様どういう意味ですか!?わたくしだってこれくらいのことはわかりますよ!」


シルヴェストル「そうじゃな。ティアの場合はアキラとは時間が解決してくれたようなものじゃしな。」


 なるほど。そういう考え方をしていたわけか。だから自分の身に起こったことだからこそそういう見方が出来るようになったということか。


ミコ「時間を置いた方がよかったり時間が解決してくれることもあるけれど、あまり待ちが過ぎて消極的になると後悔することもあるよ。時間を置いても良いのはティアのように自分が積極的な時だけだから。私みたいにただ待ってるだけだときっと後悔することになると思う。」


フラン「ミコの言葉には深みがありますね。私もアキラさんに積極的になってからうまくいくようになったと思いますので今の状態のクシナさんとアキラさんの関係は時間が解決してくれる問題ではないと思います。」


狐神「問題ないさ。アキラの側に居れば本当のアキラを知ることになる。アキラを知れば皆アキラを好きになる。そしてアキラは自分に好意を寄せてくる相手を蔑ろにしたりはしないさ。」


 ミコとフランの言葉にはそれなりに重みがある。師匠のはただの楽観に聞こえる。


ルリ「………素直になれば良いだけ。」


キュウ「ですねぇ~。」


 この二人だけは相変わらず特別だ。フランも俺に甘えてくるようになるまでに随分時間がかかった。即俺に甘えたり甘えられたり出来るのはある意味特別な才能だ。


 龍魂を使うのに最古の竜がクシナを説得するまでまた暫くこのまま留まることになったのだった。



  =======



 最古の竜がクシナを説得しだしてから数日経ったある日異変が起こった。この山をドラゴン族が包囲している。


クシナ「………ドラゴニア国軍です。」


 クシナがこの山を包囲している者達を見て苦虫を噛み潰したような顔でそう呟いた。


最古の竜「ふむ………。前にあった激しい戦闘のせいかもしれぬな。」


アキラ「激しい戦闘?」


 俺達はそんなものを感知していない。気になって最古の竜に問い質してみた。その結果………。


 俺とクシナの戦闘はドラゴン族にとっても大きな衝撃を与えたらしい。クシナのような若い娘が普通に第八階位相当くらいの力を振るっていたのでそれくらい普通なのだと思っていた。


 だが最初の村で見た通り普通のドラゴン族は確かに強いが魔人族と同等か少し強いくらいの者が大半だそうだ。総合的に考えればまだドラゴン族の方が魔人族より強いようだが一般市民レベルでも神の階位に達するほどの力があるわけではないらしい。


 つまりクシナや最古の竜はドラゴン族の中でも相当高位の実力者というわけだ。そんな者を軽くぶちのめすだけの力を持った俺がドラゴニアの領地奥深くで暴れていればドラゴニアにとっても無視できない。赤の魔神はドラゴニアは腑抜けだと言っていたが兵を送ってくるだけまだ気概があるのではないかと思う。


 だがそれにしては時間がかかりすぎている。俺達が移動したから行方がわからなかったとしてもこんな大軍が動いていれば俺達の方が感知するだろう。だがこいつらはつい最近招集されてここへ向かってきたのだ。俺とクシナが戦ってからそれなりに経っているというのに今更動き出したと考えれば確かに腑抜けとも言える。


アキラ「俺達の戦闘のせいか。………じゃあ責任を取ってあいつらを始末してこようか?」


最古の竜「その必要はなかろう。こちらから手を出さねば争いにはならぬと思うぞ。」


 その言葉通り包囲しているドラゴニアの兵士達の方から使者がやってきた。話し合いたいそうだ。俺達も別にドラゴニアと敵対したり戦いたいわけではないので話し合いの席が設けられることになったのだった。



  =======



 使者としてやってきた者はドラゴニアの将軍で西の竜と名乗った。最古の竜もそうだがドラゴン族の名前は変だ。何とかの竜、という名前が基本らしい。クシナの方が異例のようだ。


西の竜「それではそなたとクシナ殿が争ったのが先の戦闘であると?」


アキラ「そうだ。」


西の竜「そなたにそれほどの力があるとは思えぬが…。」


 西の竜は俺の力も見抜けないらしい。現時点ではこいつの力はルキフェルより下だ。下位の六将軍とルキフェルの間くらいだろう。だがクシナがやったように竜に変身すれば力が一回り上昇すると考えればマンモンやジェイドでも梃子摺るかもしれない。


アキラ「はぁ…面倒だからさっさと話を進めるか。………これでいいか?」


 俺は少しだけ能力制限を緩めた。いつもならいちいち力を見せて説得するようなことはないがもう面倒だ。それにドラゴン族が腑抜けなのはもうわかっている。こちらが力を隠しても意味はない。むしろこちらの力をどんどん見せ付けて焚き付けた方がドラゴン族の性根もちょっとはマシになるかもしれない。


西の竜「………。それでもクシナ殿には及ばぬとお見受けするが?」


 本当に面倒な奴だな。これでも実際にクシナと戦った時よりも緩めている。クシナと戦った時は能力を使ったからだ。何の能力も使っていない今と今よりは制限しているが能力を使っている時では能力を使った方が強いのは当たり前だ。こいつは将軍のくせにそんなこともわからないのだろうか。


 ただクシナは俺を見て驚いているようだった。今よりも制限した状態でクシナを圧倒したのだから今の制限で戦えば前よりさらに力の差が開いていることがわかるからだろう。やはりクシナの方が普通のドラゴン族よりもマシなようだ。


アキラ「面倒な奴だな…。頭が悪すぎる。力も弱すぎる。それで将軍とはドラゴニアはおめでたいな。………龍気闘衣。」


 俺は龍気闘衣を使って見せる。これで戦えば外にいるドラゴニアの兵士もこの将軍もクシナと最古の竜も全てまとめて相手にしてもお釣りがくる。


西の竜「―――ッ!龍力だと?!それも龍気闘衣まで使えるなど………。」


 西の竜は驚愕に目を見開いている。俺の姿はどう見てもドラゴン族には見えないのでその反応は間違いではないだろう。


アキラ「これでわかったか?」


西の竜「………少し王城までご同行願いたい。」


アキラ「理由は?」


西の竜「ドラゴン族以外でありながら龍力を使う者がいるなどとこのまま我の独断で見過ごすわけにはゆかぬ。王城にて王と話をしてもらいたい。」


 別にドラゴン族やドラゴニアなどどうでも良いと言えばどうでも良いし放っておいても問題はない。赤の魔神はドラゴン族によろしくなんて言ってたがドラゴン族がここまで腑抜けならばもう世界から切り離して考えても問題はないだろう。


 だがファングと正式に終戦させておくのも悪くない。ファングと大樹の民はどちらかの支配体制が変わらない限りはうまくいきそうにない気がするがドラゴニアとは話し合いでも決着できそうだ。この話に乗ってドラゴニアの王と会いファングとの戦争を終わらせよう。


アキラ「こちらも少しドラゴニアの王に用がある。案内してもらおうか。」


西の竜「それは聞き捨てならぬ。これほどの者が我が王に一体何の用があるのか。その真意を問い質さねば王の前に連れてゆくわけにはまいらん。」


 自分から俺達を王城に連れて行くと言い出したくせにこっちも用があると言ったら途端にこれだ。意味不明。支離滅裂。俺達が何か良からぬことでも企んでいると思ったのだろうか?


アキラ「お前らの王を暗殺でもするつもりならそんな回りくどいことをしなくても王城とやらに乗り込んで皆殺しにすれば済む話だ。俺の用はドラゴニアとファングの終戦について交渉をしたい。それだけだ。」


西の竜「ファングとの終戦っ!そなた何者だ?」


アキラ「一つ言っておくが俺達はファングとは関係ないぞ。ただファングとドラゴニアが戦争していると俺達もあまり都合が良くない。だから終戦を斡旋したい。」


 それから俺達のことについて少し話してファングとドラゴニアとの終戦交渉についても話をしたのだった。もちろん一将軍でしかない西の竜と話しても終戦が実現するわけでもないし具体的な内容が決まるわけでもない。


 ただドラゴニアと交渉するにあたって内部にも俺達の考えに賛同してくれる勢力がいれば交渉がスムーズに進むと思って西の竜に事前にこちらの考えややろうとしていることを伝えておいたのだ。


 俺達の話を聞いた西の竜は表面的には俺達に賛同を示した。ドラゴン族としても戦争が終わるのならば終わらせたいらしい。


 俺の話に納得した西の竜に連れられて俺達はドラゴニアの王城へと向かったのだった。



  =======



 ドラゴニアの城へと向かっている道中で出発前に最古の竜に渡された玉が光ってしゃべりだした。玉を渡された時点でもしやとは思っていたが………。


最古の竜『王城に出向くのも久しぶりだ。』


アキラ「………お前やっぱりこれ龍魂だったのか。クシナの説得は終わってなかったんだろう?」


最古の竜『もうやってしまったものは取り返しがつかない。クシナが納得しようがしまいがもうやってしまったのだから仕方あるまい?』


アキラ「はぁ………。俺は知らないからな。お前が自分で説明しろよ。」


 最古の竜に渡されたのはやはり龍魂だったようだ。それももう魂を入れたあとだ。魂を分けること自体には今のところ耐えられているようだがドラゴニアの兵に囲まれていたのに全力が出せなくなる魂の分割をするなんて後先を考えていないとしか思えない。


 それにクシナはまだ納得していなかった。それなのに勝手に龍魂を使ったと知ればまた怒り出すのは目に見えている。俺まで八つ当たりされるだろうと思うが可能な限り最古の竜が怒られて欲しい。俺がやらせたわけじゃないのだから俺まで怒られるのは理不尽だがクシナはきっと俺まで咎めるだろう。それは避けられないとしても少しでも怒りを鎮めたり最古の竜に振り向けたりしたい。そのための言い訳を今のうちから考えているのだった。


西の竜「あれが王城だ。」


 西の竜に言われて前方の城を見てみる。特にこれといって特徴はない。中世ヨーロッパ風の城だ。その普通の城へと向かって行った。


 堀はなく城壁だけがあり大きな城門を潜って城内へと入る。城下町はなく城と兵士しかいないようだった。


 真っ直ぐ進んで行き巨大な扉の前にたどり着く。いつも思うがなぜ謁見の間や王の部屋というのはこう巨大な扉なのだろうか。威圧感や威厳を演出するためだろうか………。


 西の竜に続いて謁見の間に入ると数段高い玉座に一人のドラゴン族が座っている。周囲には大臣や将軍らしき者達が控えていた。玉座に座る王と思われる者はまだ若い。実際の年齢は知らないがクシナと同世代くらいに見える。見た目は二十代前半くらいだろうか。


???「よく来たなクシナ。ようやく余の妻になる決心がついたか?」


クシナ「そのお話は何度もお断りしたはずです。」


 玉座に座る者は俺達が入室するとすぐにそう声をかけてきた。どうやらこの王はクシナに言い寄っているらしい。俺達には関係ないので黙って見守る。


???「ここへ来たということは余の愛を受け入れたということであろう?」


西の竜「それについては我の方からご説明を………。」


???「黙っておれ!余が話しておるのだ。余計な口を挟むでない。」


 西の竜が説明しようとしても王はこの調子で話を聞こうともしない。しばらくクシナを口説こうと問答が続いていた。やがて埒が明かないと思ったのか横に控えていた大臣らしき者が王に声をかけた。


???「竜王様。このままでは話が進みませぬ。まずは西の竜の話をお聞きになられてはいかがでしょうか?」


竜王「………ふんっ。さっさと述べよ。」


 この王は竜王と言うらしい。クシナを口説くのを邪魔されてあからさまに不機嫌な顔を隠しもせずに西の竜に話を振った。


西の竜「はっ!まずこちらにおられるのが火の国の精霊王アキラ殿にございます。そして………。」


 西の竜が軽く俺の紹介をして六カ国同盟のことや大樹の民、ファング、ドラゴニアの終戦交渉などについての話をし出した。しかしその話を聞いている間に王よりも周囲の大臣や将軍らしき者達の表情が険しくなっていっていた。その雰囲気からして終戦には反対なのだろうことがわかる。


竜王「ふんっ。貧弱な精霊族や人間族が我らドラゴン族の力を利用したいだけであろう?そもそもなぜ我らがファングに領土を譲ってやらねばならぬ?ファングとの終戦交渉など必要なかろう。ファングを滅ぼし奪われた地を取り返せば良いだけだ。」


 竜王のその言葉に周りの取り巻き達も『そうだ。そうだ。』と声を上げる。ドラゴン族がとことん腑抜けならそれはそれでよかった。世捨て人のように世界情勢に関わらず田舎でひっそり暮らすだけならば放っておけば良いだけだ。だがこいつらは違う。実際には何も行動を起こさないくせにプライドだけは人一倍強い。『世界最強族である我らドラゴン族が~』等と言いながら実際には何の行動もしない。


 ドラゴン族がさっさとファングを叩き潰して奪われた土地を取り返して東大陸の戦争が終わっていればそれはそれでよかった。別に俺達は赤の魔神にもファングにも魔人族にも肩入れしているわけじゃない。だがこいつらは口ではなぜドラゴン族が手を引いて領土をファングに奪われなければならないのかと言いながら実際には取り返しにも行かない。諦めるのか取り返すのかどちらかはっきりしてくれればまだ打つ手はある。だがこいつらは口では言うが何もしない。これでは俺達も何も手の打ちようがない。


アキラ「俺達としては別にファングが潰されても構わない。東大陸での無駄な戦争をさっさと終わらせろと言っているんだ。だからお前らがファングの存在を認めて領土を割譲するのが嫌だと言うのなら止めはしないからさっさとファングに攻め込んで滅ぼせば良い。最古の竜のところにやってきた兵達がまだ集まっているだろう?さっさとファングに侵攻したらどうだ?」


竜王「其方にそのような指図をされなければならぬ謂れはない。」


アキラ「だったらいつ攻め込んで奪われた領土を取り返すんだ?今まで何千年放置してきた?お前らは口では勇ましいことを言うが何も行動しないんだろう?どうせこのままあと何千年経っても変わらないんだからとっとと諦めてファングに領土を譲って終戦でもすればどうだ?」


竜王「図に乗るなよ小娘がっ!余は竜王なるぞ!」


アキラ「で?だからなんだ?もう面倒だからドラゴニアを滅ぼして東大陸はファングに統治させるか?」


竜王「くっ!くっくっくっ…。はっはっはっ。はーっはっはっはっ!精霊王如きに何が出来るというのだ?逆に火の国を攻め滅ぼしてやろうぞ。」


クシナ「待ちなさい。ドラゴン族を滅ぼすとはどういうことですか!そんなものは認めません。」


 クシナが後ろから俺の肩を掴んで振り向かせる。


アキラ「クシナだってこのドラゴン族の腑抜けっぷりはよくわかってるんだろう?それに俺はドラゴニアを滅ぼそうかとは言ったがドラゴン族を滅ぼそうとは言っていない。今の無能な国を無くして新しい国を建てれば良いだろう。」


クシナ「確かに今の国はひどいですがそんな方法をとればいらぬ犠牲が出ます!」


アキラ「お前だって今までこの国を変えようとしてきて何の結果も出せていないんだろう?それならば多少手荒になっても荒療治をするしかないんじゃないのか?」


クシナ「それは………。」


 クシナは俺の言葉を聞いて俯く。クシナもこれまで自分で活動してきてそう簡単にドラゴン族が変わらないことは自覚していたのだろう。


竜王「………其方ら随分親しげだな?クシナとどういう関係だ?」


 ふむ…。クシナにご執心の竜王を挑発すれば少しは事態が動くか?


アキラ「クシナは俺の許婚だ。お前の方こそ俺の許婚に言い寄るのはやめろ。」


クシナ「………え?」


 クシナが目を見張る。俺の肩に置かれていたクシナの手を取り引き寄せて腰を抱く。


アキラ「竜王であろうと他人の恋路の邪魔をすれば馬に蹴られるぞ?」


クシナ「ちょっ、ちょっと!何をしているのですか!」


竜王「………ろせ。」


 それを見た竜王が何か呟いた。周囲の大臣達が竜王に問い返す。


???「今何と?」


竜王「殺せ!今すぐその者共を殺せ!余をコケにしおって!耳付きの下等生物の分際でクシナに触れるなぞ言語道断!連れの者も全て殺し尽くせ!ただし精霊王はすぐには殺すな。クシナの目の前で少しずつ痛めつけて殺してくれる!」


周囲の兵「「「「「ははっ!」」」」」


 竜王の言葉を受けて周囲のドラゴン族達が動き始める。兵は俺達を囲んで槍を構える。竜王の周りに控えていた将軍らしき者達が三人飛び出してきた。


北の竜「我は北の竜。このような形での戦いは望まぬが王命とあらばやむを得ぬ。お覚悟召されよ。」


南の竜「はっはぁ~っ!俺様は南の竜だ!残念だったな魔人族の手下ども!ここで捻りつぶしてやろう!」


東の竜「東の竜。参る。」


西の竜「こうなってはやむを得ぬ。我も王命に従うのみ。」


 西の竜も混ざって四人の将軍らしき者達が俺達を取り囲む。


アキラ「やれやれ。腑抜けのくせにこういうプライドだけは一人前だな。…さて、少し荒療治になるがドラゴン族の夜明けと行こうか?」


 まずはドラゴン族の意識改革をするための最初の一歩を踏み出したのだった。



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