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転生無双  作者: 平朝臣
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第七十六話「最古の竜」


 巨大な空飛ぶトカゲになったクシナがその巨大な双眸で俺を見つめる。ワイバーンなど比べ物にならない巨体で内包する神力も変身前にくらべて格段に跳ね上がっている。


クシナ「グググッ………。ガアアァァァーーーー!」


 クシナの巨大な口に炎が溜まり吐き出された。先程のドラゴニックフレアと同じものだが威力の桁は違う。これは今の俺が直撃したら洒落じゃ済まない威力がある。


アキラ「ふぅ………。龍気闘衣!」


 俺の体から紫の龍力が溢れ出し体を覆う。普通の者ならば分けて使わなければすぐに神力切れを起こすほどの力を一度に使っても上限を突破している俺なら常に目一杯使っても神力が切れることはない。


 今の俺と同等の強さのものでは一瞬しか維持できないほどの強力な龍気闘衣が俺の身を覆ったことで竜の姿に変化して威力の上がってるクシナのドラゴニックフレアの直撃でさえ俺には傷一つ付けることは出来なかった。


クシナ「―ッ!」


 直撃を受けても平然とその場に佇む俺を見てクシナが驚愕に目を見開いた。………たぶん。トカゲの表情などわからないがそんな気がする。


アキラ「女を殴るのは趣味じゃないがこのままじゃ終わらないからな。痛いのが嫌だったら早めに降参しろよ?」


 それだけ言うと俺はクシナの懐に飛び込んだ。クシナは反応出来ていない。見えなかったのだろう。俺はドラゴンの体に拳を叩きつけた。20mはあろうかという巨大なドラゴンが俺の拳を受けてくの字に折れ曲がりながら吹き飛んでいく。師匠の結界にぶち当たってずるずると地面に落下していった。


クシナ「グルゥ!」


 自分が殴られ吹き飛んだことをようやく理解出来たクシナが地面から立ち上がろうとするがそんなものを待ってやるほど俺も暇じゃない。無防備に晒しているその背中にとび蹴りを放つ。


クシナ「ギャオォォォーーー!!!」


 蹴りを受けたクシナは海老反りになりながら地面にめり込んだ。口から若干血を吐き出しているような気がするが気にしない。


 俺は少し離れた地面に降り立ち一度クシナの様子を窺う。これで諦めるようならこれ以上殴ることはない。俺としてはさっさと諦めて終わってほしい。


クシナ「グルウゥゥ!!」


 しかしクシナは立ち上がり俺に噛み付こうとしてくる。俺はその顎をアッパーで跳ね上げる。


クシナ「ギャウ!」


 そして浮き上がったクシナに追いつくように俺も飛び上がり空いた胴に拳の連打を叩きつける。


クシナ「ギャウウゥゥゥ!!」


 一発殴るごとに鱗が割れ体に拳がめり込み口から血を吐き出す。俺の拳の威力で後方へと飛ばされていき師匠の結界に再度ぶち当たる。だが俺がそれにくっついて追撃して拳を叩き付け続けているのでバキバキと師匠の結界が嫌な音を立てている。


 とうとう師匠の結界が綻びそこから砕けて貫きクシナは斜め下に吹き飛び地面に再びめり込む。俺はなおも追撃して拳を叩きつけ続ける。クシナの巨体を中心に次第に地面が凹みクレーターが出来上がる。


狐神「ちょっとちょっと!アキラ!やりすぎだよ!」


アキラ「………。」


 師匠に後ろから羽交い絞めにされてようやく俺は止まる。竜となったクシナはぐったりと仰向けに地面にめり込み口からは血を吐き出し続けている。体中の鱗は割れてあちこちが俺の拳の形に陥没したままになっている箇所がある。


 暫くするとクシナの体が縮みだした。元の人型のクシナに戻るとその体はあちこちが傷だらけで血を吐き出しぐったりしている女の姿になった。だがそれを見ても俺の心に動揺はない。竜の姿だからあれだけ殴れたのかと思ったが人型に戻っても何とも思わないところを見るとずっと人型のままだったとしてもこれくらい殴ることが出来たのだろうと思える。


アキラ「もう終わりでいいな?」


クシナ「………。」


 クシナは気を失っているのか起きているが答えるだけの力も残っていないのか何も答えない。だが俺はそれを肯定と受け取ってその場を後にする。


アキラ「ダザー。剣を返す。助かった。ありがとう。」


ダザー「はっ…はっ!」


 竜に変身してからは使っていなかった剣を俺から返されたダザーは少しビクッとしながら剣を受け取った。俺はそのまま皆を残してテントへと戻ったのだった。



  =======



 俺は一人テントで寝転がる。女をあれだけボコボコにしたのに特に何も思わないし感じない。俺がそれだけクシナのことが嫌いだったから?そんなことはない。積極的に好きではないが別に嫌いというほどでもない。ではクシナの態度などに怒っていたから?そんなこともない。むしろあの村にいたドラゴン族に比べればクシナは強い意思と目的がありそのための努力も惜しまないだけ好感が持てるくらいだ。


 ただ確かにドラゴンに変身して暴れたのはやりすぎでありそのことについて少し腹を立てたのは事実だ。だがそれだけであそこまでボコボコにするほど怒っていたわけではない。


 俺自身でもなぜあそこまでクシナを痛めつけたのかよくわからない。もしかすればあのまま師匠が止めなければ殺していたかもしれない。しかしそのことに違和感も罪悪感も感じない。本当によくわからない。


ミコ「アキラ君………。」


 嫁達がそっとテントを覗いている。俺が怒っていると思っているのだろうか?少し遠慮がちにそっと入ってくる。師匠はいない。師匠はクシナと一緒にいる。


ミコ「クシナさんは何かアキラ君の気に障ることをしたのかな?」


 ミコがそっと近づきそう俺に問いかける。嘘を付く必要もないので俺は正直に答える。


アキラ「いや?別に?むしろあれだけの意思と覚悟と行動力があるだけ他のドラゴン族よりマシだと思っているが?」


ミコ「え…?じゃあどうしてあそこまで?」


アキラ「さぁ………。自分でもよくわからない。」


 俺が別に怒っていないことがわかり、他の嫁達もどういうことかと興味を持ったらしくあれこれと聞かれた。


フラン「どういうことなのでしょうね?」


シルヴェストル「昔にもあったという暴走とは違うのかの?」


アキラ「暴走とは違うな。自我もちゃんとあったし怒りがあったわけでもない。我を忘れてもいないしただ冷静に殴り続けていただけだ。」


ティア「龍力というものの影響でしょうか?」


アキラ「いや…。違うな。龍力にそんな効果はない。」


 龍気闘衣を纏って誰か他の嫁を攻撃しようと思っても出来ない。傷つけるなんてしようとすら思えない。


 俺の予想ではあるが別に理由などないのだろう。俺は心に欠陥がある。自分の大切な者や愛しい者は何があっても守ろうとする。それは誰でも大なり小なり近い感情を持っているだろう。ただしその感情は人それぞれであり自分の身の危険を顧みず愛する者を守ろうとする者もいれば自分の身の方が可愛く相手を簡単に見捨てる者もおり程度の差はある。俺の場合は愛しい者のためには世界全てを敵に回そうとも世界を滅ぼすことになろうとも厭わない。


 ただそれは逆の意味から言えば愛しい者でなければ殺すことになろうと世界を破滅させようと何とも思わないということでもある。クシナは俺にとって憎い相手でも怒りの対象でもましてや敵でもない。ただ愛しい者でもない。だからどんな目に遭わせようが気にもならない。そもそも向こうから絡んできたことが原因で途中で降参もしなかった。だからぶちのめした。それだけのことなのだろう。


ティア「そんなものなのでしょうか?」


アキラ「ああ。ティアだって最初にアクアシャトーで会った頃は殺しても何とも思わなかったからな。ポイニクスの暴走で水の精霊が全滅してても何とも思わなかった。」


ティア「それは………。」


アキラ「でも今は愛しい者であり絶対に何があっても守る。ティアを害そうとする者があればその身にその罪を購わせてから殺す。」


ティア「はい!」


 ティアは俺に飛びついてきた。


フラン「ではクシナさんが今後アキラさんの愛しい者になる可能性もあると?」


 なぜフランはそんなことを聞くのだろうか?フランも師匠に何か余計なことを吹き込まれたのかもしれない。


アキラ「ないとは言えないがもうほぼないんじゃないのか?俺はクシナのことを何とも思ってないがあれだけボコボコにされて殺されかけたクシナからすれば俺に近寄ることすらないと思うが?」


 それからその日はそのまま眠ることにしたのだった。



  =======



 翌朝ミコと一緒に朝食の準備をしているとクシナが近づいてきた。


クシナ「殺しなさい。」


アキラ「は?」


 いきなり何を言っているのか意味がわからない。


クシナ「私は貴女に敗れました。ですが私には許婚がいます。貴女にこの身を弄ばれるくらいならば死にます。さぁ!殺しなさい!」


 全然意味がわからない。なぜ俺が勝ったらクシナの身を弄ばなければならないのだろうか?


アキラ「全然意味がわからない。死にたければ勝手に死ねば良いがなぜ俺がクシナを弄んだり殺したりしなければならないんだ?俺はお前に用も興味もない。」


クシナ「―ッ!なんと卑劣な者なのです!一息に殺す情けもないとは!ですが例え力で体は屈しても心は屈しません。私の心は許婚に捧げています。私の心が貴女に屈することなどないと覚えておきなさい!」


 それだけ言うとクシナはテントに戻っていった。


アキラ「ミコ…。クシナの言ってることの意味がわかったか?」


ミコ「うぅ~ん………。ちょっと変わった人みたいだね。」


 ミコもよくわからなかったようだ。その後朝食を皆で食べている間中もずっと俺はクシナに睨まれ続けていた。



  =======



 移動を再開すると師匠が近くにいたのでクシナのことで少し話ておく。


アキラ「師匠。クシナは許婚がいるそうなので師匠の九人目予想ははずれですよ。あの戦いのあとで殺せとまで言いにきましたしあり得ません。」


狐神「それを決めるのはまだ早いんじゃないのかねぇ?」


 師匠は余裕の笑みを浮かべてそう答えた。どういう意味か尋ねたが答えが返ってくることはなかった。


 それから旅を続けているとチラチラとクシナが俺を見てくる。もちろん熱い視線ではない。殺気の篭った鋭い視線だ。もうこれは完全に憎悪や嫌悪の域に達している。ここからクシナと俺がどうにかなるなど最早あり得ないとしか思えない。


クシナ「何を見ているのですか!いやらしい!」


 俺の方を見ているのはクシナの方なのに俺の方がこうして怒鳴られる。また段々イライラしてきたぞ。


アキラ「チッ。こっちを振り返ってまで見ているのはお前の方だろう?」


クシナ「―ッ!」


 俺が少し怒気を込めてそう言うとクシナは息を呑みビクリと震えた。やっぱり虚勢を張っているだけで俺のことは恐れているようだな。それはそうか。あれだけボコボコにされた次の日だもんな…。


キュウ「あんまり脅かしたら可哀想ですよぉ~。」


 キュウが後ろから抱きつきながら仲裁に入る。頭の上にキュウの爆乳が乗っている。


アキラ「はぁ…。ほんとにキュウは可愛いな………。」


 頑張って俺を止めようとするキュウが可愛くてちょっとだけ頭を撫で撫でする。


キュウ「きゅうきゅう!」


 キュウは屈んでもっとしてとでも言うかのように啼きながら俺に頭を差し出してくる。その姿が可愛くて俺はますますキュウを可愛がるのだった。



  =======



 その後クシナとは険悪な雰囲気のまま旅を続けてついに俺達は東大陸の北端へと辿り着いた。ここから西か西北西方向へ飛んでいけば北大陸東端へと辿り着きそうだ。俺は北大陸東端へは行ったことがないので正確な方向はわからないので大まかな予想でしかないが…。


 ここも回廊はなく海峡になっているので北大陸と東大陸は近くて遠い大陸ということになる。ただし渡り鳥やドラゴン族ならば空を飛んで渡れるらしい。南大陸と西大陸の間にあった海峡の時と同じく俺達はここを渡る用はないのでもちろん渡ることはない。


 北端に辿り着いてから今度は南南東方面へと南下する。暫く進んだ先にある山に近づくとクシナが何か言い始めた。


クシナ「どこへ向かうつもりですか?これ以上こちらへ進むことは認めません。」


アキラ「お前が認めるか認めないかなど関係ない。最初の頃はまだお前の意見も聞いてやろうかと思っていたがもうお前の話に耳を傾ける気はない。」


 クシナがなぜ俺達をこちらへ進ませたくないのか知らないが俺は今言った通りもうクシナに配慮してやる気などない。だから無視してそのまま進み続けた。


 俺達が向かっている山の上には一匹のドラゴン族がいる。力で言えばクシナを少し上回る程度だろうか。クシナが俺達に進まないように言っているのはこの者と俺達を会わせたくないからだろう。


クシナ「止まりなさい。もうこれ以上こちらへ進ませはしません。」


 とうとうクシナは俺達の前に立ち塞がりそう宣言した。


???『その方達を通しなさい。』


 龍力に乗せて誰かの思念のようなものが届く。アジルが最初に使っていた念話に似ている。この思念を飛ばした者は当然この山の上にいるドラゴン族だろう。


クシナ「お爺様?!」


???『通しなさいクシナ。』


クシナ「………はい。」


 その言葉でクシナは大人しくなり俺達に前を譲った。言葉通りだとすればこの上にいるのはクシナのお爺さんなのだろう。俺達はさらに俺の記憶に沿って山を登っていったのだった。



  =======



 俺達が山頂付近にたどり着くとそこには老竜がいた。本当に老竜かどうかは知らない。そこにいるのはクシナが変身したのと同じ竜の姿をしている者だった。竜が若いか老いているか見分けなどつかないがなんというかこの老竜はクシナの竜形態より肌がくすんで張りがなく老いているように感じるのだ。それから顎に髭が生えている。


 言葉は悪いが外見がヨレヨレで老いているように感じる。犬や猫を見ても老いているのがなんとなくわかる感覚だ。


???「わしに何か用かな?旅人よ。」


 俺はこいつのことを知っている。


アキラ「最古の竜………。」


狐神「へぇ…。これが最古の竜かい。」


ミコ「有名な方なんですか?」


 フランなども最古の竜について知識としては知っていたようだがミコやティアのように知らない者もいるので説明してやる。


 まず言葉通り最古の竜とは現在生きているドラゴン族の中で最も長く生きていると言われている者だ。この程度の知識ならばこの世界に住んでいる者で知っている者は大勢いる。


 そしてこの最古の竜は神を除いてもっとも長く生きている生物でもある。この竜は太古の大戦以前から生きており太古の神々と同じくらい長く生きているのだ。


最古の竜「わしのことを知る者か?」


アキラ「………アキラ=クコサトだ。」


最古の竜「―――!おおっ、おおっ。そうかそうか。ようやく戻ったか。わしが生きておる間に間に合ってよかったよかった。」


 そう言って最古の竜は顎鬚の生えた顔を俺の前へと下げた。その瞳に光はない。白く濁っておりその目が最早見えていないことがすぐにわかった。


アキラ「目が見えなくなったのか?」


最古の竜「目どころか鼻も効かず力の探知も曖昧になった。これほど近くにアキラがおっても気づかぬほどになぁ。誰かおることはわかっても誰かもわからぬようになった。」


 最古の竜は一人でふんふんと首を振って笑っていた。


クシナ「貴女がお爺様とお知り合いだと言われるのですか?!」


最古の竜「何を言っておる。クシナが心待ちにしておった人だ。お前の許婚だよ。」


アキラ「………。」


クシナ「………。」


 俺とクシナは無言になった。



  =======



 最古の竜に話を聞く。先に言っておくがクシナと許婚というのは前の俺が決めたことではない。前の俺はここに立ち寄り自己紹介して少し話をしただけだ。だから俺とクシナが許婚などと俺の方も寝耳に水だった。


 だから俺は詳しく話を聞いてみた。まずこの許婚を決めたのは俺の両親と最古の竜だという。前回立ち寄った時も名前を聞き俺がその許婚の相手であるとわかっていたがまだ俺に嫁に出す孫は幼くそのままその話をすることもなく俺が立ち去ることになったそうだ。


 なぜ最古の竜が俺の両親を知っているのか。俺の両親とは誰なのか。種族は何で名前は何なのか。一切教えてはくれなかった。ただその両親との約束でいずれ俺に相応しい者が生まれた暁には結婚させるという約束をしていたらしい。


 最古の竜には一人息子がいた。その者は最古の竜の知識を教えられて育った。そしてその者は次第にドラゴン族の現在のあり方について疑問を持つようになった。そうだ。その息子こそが赤の魔神が力を引き継いだ一人でドラゴニアに反旗を翻したドラゴンだ。


 出て行った息子はある時ふらっと帰って来た。その腕の中にはまだ幼い赤子を抱いていた。それが孫のクシナだ。息子はクシナを最古の竜に預けるとまた出て行った。


 それから月日は流れやがてクシナも最古の竜の知識を教えられながら育った。そして父の死を知る。さらにはその力を赤の魔神が奪ったと思い込んでいるクシナは魔人族を恨むようになった。父と同じくドラゴン族を目覚めさせることと父を殺し力を奪った魔人族を東大陸から追い出すこと。それを目標に生きてきた。


 それと平行して婚約者のことを教えられて育てられたクシナは婚約者に思いを馳せるようになった。いつか自分を迎えに来てくれるはずの婚約者のことを想って日々暮らしていたのだ。


狐神「なるほどねぇ。」


アキラ「師匠は俺とクシナが許婚だって知ってたんですか?」


狐神「あん?そんなもん知るわけないだろう?」


アキラ「その割には俺とクシナがくっつくって自信満々でしたよね?」


狐神「許婚だったなんて知らないけど九人目だとは思ったからね。」


 どうやら師匠は事情を知っていたのではなく直感だけで言っていたようだ。


クシナ「みっ、認めません!こんな方が私の許婚だなんて断固として認めません!」


アキラ「………うん。最古の竜よ。俺はここに来る少し前にクシナをボコボコにして半殺しにしたところだ。とても夫婦としてやっていけるとは思えない。」


最古の竜「その程度のことなどどうということもない。わしも昔は夫婦喧嘩で地を裂き海を割りお互い血みどろになりながら喧嘩したものだ。だが死ぬその時までわしらは添い遂げた。」


アキラ「………そうか。だが俺には嫁がいっぱいいる。紹介した通りこの者達は皆俺の嫁だ。」


最古の竜「だったらあと一人クシナが増えたところで問題なかろう?」


 無理か………。最古の竜は俺とクシナがこのまま結婚するものだと思っている。


クシナ「私はお断りします!このような方の妻になどなれません!」


アキラ「ほら。本人もこう言ってるし俺だってそんな風に思ってる相手を無理やり妻にしたいとも思わない。火種になるだけだからな。」


最古の竜「なぁに、今すぐ決める必要はない。二人でこれからお互いのことを知り合い絆を深めれば良い。」


 あくまで最古の竜は俺とクシナを許婚として話を進めたいようだ。白紙撤回は出来そうになかった。


アキラ「………わかった。じゃあまだ許婚という形は置いておくがそのまま結婚するかどうかはお互いを知り合ってから決めても良いってことだな?」


クシナ「ちょっと!私は認めません!」


 クシナの馬鹿は俺の意図がわからないらしい。俺の言葉通りならばつまりこのまま許婚としてお互い付き合ってみたがやっぱり合わないので結婚するどころか許婚を解消します。という未来も選べるということだ。だから俺はクシナにそのことを説明してやった。


クシナ「………なるほど。それならば良いでしょう。さぁ私達は夫婦とはなれそうにないのです。許婚も解消しましょう。」


最古の竜「アキラの主張通りその意見は聞き入れるがまだ許婚を解消するには早い。これからもクシナはアキラに同行してよく見極めよ。」


 こうして結局俺とクシナの許婚は解消できなかった。尤も許婚だから何だという話であり最古の竜がもう少し納得するまで許婚という肩書きだけ置いておき『やっぱり合わないので結婚できません。』と後で許婚を解消すればいいだけの話だ。


 それで話はまとまり今夜はここで泊まることになった。



  =======



ミコ「アキラ君…たぶんもういつも通りだと思うよ?」


フラン「そうですね。ここまできたらもうクシナさんがこの中に入るのは既定路線かと…。」


アキラ「そんなことはない。いつもと違うのは俺とクシナは致命的なほどに関係に亀裂が走っている。今までのように俺に好意を持っているということはない。」


狐神「今アキラに好意を持っていないからってこれからもないと思ってるのかい?」


ティア「そうです。わたくしだって最初はアキラ様との関係はひどいものだったはずですよ?」


 確かにそれはそうだが俺にはどうしてもクシナと仲良くしている場面が想像できない。


シルヴェストル「そもそも今後どうなるか決定権はアキラにはないのじゃ。クシナがアキラに好意を持てばアキラはいずれ受け入れるのじゃ。じゃから問題なのはクシナの気持ちだけなのじゃ。」


 何かシルヴェストルがひどいことを言っているぞ。俺には選ぶ権利すらないような言い方だ。


ルリ「………素直になれば良いだけ。」


キュウ「ですねぇ~。」


 ルリとキュウは特殊だろう。それにキュウとはまだ心は繋がっていない。まぁすでにティアやシルヴェストルと繋がる前のあと一歩だった時と同じ状態なので何か切っ掛けがあればすぐに繋がると思うが…。


ガウ「がうぅ~………。がうぅ~………。」


 ガウはもう俺のお腹の上で眠っている。これ以上俺の方だけで考えていても意味はない。これは相手のあることだ。それに最古の竜はもうそんなに長くないだろう。最古の竜が死ぬまで許婚という形だけ残しておけば良いのではないかと思った。


クシナ「少し話があります。」


 そんなことを考えているとクシナが俺達の休んでいる部屋を訪ねて来た。俺はガウを上からどけてクシナに付いて部屋を出る。


クシナ「お爺様はもう長くありません。お爺様が生きておられる間だけ許婚ということにしておいてください。その後で解消すれば良いでしょう?」


 クシナも俺と同じことを考えていたようだ。それならば俺の答えはもう決まっている。


アキラ「俺も同じことを考えていた。このまま最古の竜が死ぬまでは許婚ということにしておこう。どうせクシナは俺と結婚する気はないんだ。俺は望まない相手を無理やり娶るようなつもりはない。このまま現状維持をしておけばいいだけだ。」


クシナ「………。ありがとうございます。」


 クシナは一瞬驚いた顔をしてから頭を下げた。


アキラ「別にお前のためでもないしお前の願いを聞き届けたわけでもない。最古の竜には前に少し世話になった。もう長くない者にわざわざ心を痛めるようなことをする必要はないだろう。」


クシナ「………はい。それでは。」


 クシナはそのまま自室へと帰って行った。俺も部屋に戻って休むことにしたのだった。



  =======



 翌朝最古の竜と一緒に朝食を済ませる。


最古の竜「アキラにはまだ伝えねばならぬことがある。もう暫くここで留まってはどうか?」


アキラ「伝えること?」


最古の竜「わしは生きた歴史の証人だ。言えぬこともあるがアキラに教えるべきこともある。」


 俺は少し考える。………特に急ぐ理由はない。ここで数日留まって最古の竜の話を聞いても問題ないだろう。


アキラ「わかった。それじゃしばらく最古の竜に話でも聞こう。」


 こうして俺達は数日間ここに留まることにした。



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