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転生無双  作者: 平朝臣
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第七十五話「竜の本性」


 その後俺達はクシナを伴ってドラゴニアへと入った。とはいえファングと同じ東大陸であり気候が急に変わるだとか魔獣が変わるだとかそういう変化はない。ただこの辺りからドラゴニアの勢力圏に入りましたよ、と知的生命体が勝手に決めた国境のようなものを越えたというだけにすぎない。


 基本的にこれまで通り東大陸の西海岸沿いに北上を続けているのでクシナが増えた以外ではこれまでとほとんど変化はない。


 そこで俺は新しく加わったクシナを眺めてみる。


 若干険しく凛とした表情をしておりやや釣り目と縦に細い瞳孔のせいで少し性格がきつそうに見える。特に一度話した俺達からすればあの物言いや態度から余計に性格がきついように思うのだろう。


 しかしガウなどと接する時のクシナは柔らかく微笑んでおり実は面倒見がよく優しく柔和な性格なのかもしれないと思うこともある。


 ただし俺やクロにはきつく当たってくる。クロは魔人族の神なのでわからなくもないが俺まであんなきつく当たられる覚えはまったくない。


 俺が測れる範囲ではクシナは第九階位相当くらいの力はありそうだった。ドラゴン族の特殊能力がどのようなものか知らないので戦った場合の結果は予想しにくいが能力だけで言えばルリの方が上回っている。


 鎧を着ているとはいえあちこちの下の服が見えるような一部だけに鎧がある軽装なのでその体型がよく見える。むしろ鎧がついていることでそのスタイルの良さが強調されているようにすら感じる。胸の大きさは俺と同じくらいなので巨乳の部類だろう。それで背が高めで他も出るところは出て引っ込むところは引っ込むのでスタイルが非常に良い。師匠と同じナイスバディのスタイルだ。


クシナ「なっ、何をジロジロと見ているのですかっ!」


 クシナを観察していると怒られた。


アキラ「新しい同行者が増えたんだ。少しくらい観察するのは当たり前だろう?」


クシナ「いやらしい!変な目で私を見ないでくださいっ!」


 俺は別にいやらしい目でも見てないし変な目でも見ていない。そんなことは言っていないし実際にしていない。なのになぜそう言われなければならないのだろうか。少し理不尽に感じる。


 師匠はクシナを九人目と言った。クシナは嫁達とはすぐに打ち解けて非常に仲が良い。魔人族であるフランとでさえ仲が良いのだ。シュリや親衛隊も魔人族なのに親しくはないが仲が悪いということもない。太刀の獣神は普段は相変わらず気配を隠して俺達に付いてきて食事や寝る時になると合流してくるだけなのでクシナとの接点はほとんどない。お互いに親しくも敵対もしていないという感じだ。スイとエンもそれと少し近い。お互いクシナとはそれほど接点もなく一緒に旅をしている他人という感じがする。


 クシナは俺とクロだけをまるで仇を見るような厳しい目で見てくる。俺はクシナに何かしただろうか?単なる生理的嫌悪なのだろうか?それならば俺には責任はないしどうすることも出来ない。クロは『俺様が黒の魔神様だ!』と名乗った瞬間クシナに攻撃されていた。クロとファングは関係ないのだが土地を奪った魔人族の神ということで大ヴァーラント魔帝国やクロもクシナにとっては敵であるらしい。ファングと大ヴァーラント魔帝国、赤の魔神と黒の魔神、両者はどちらかと言えば敵対関係に近い不干渉であると言ってもクシナは納得しなかった。それだけ魔人族に対して敵愾心があるのだろう。でもそれならばなぜフランやシュリや親衛隊は平気なのか?その矛盾は俺には解けない。


 そして少し意外なのがクシナが最も仲が良いのがハゼリとブリレなのだ。残りの五龍王とも仲が良い。


アキラ「なぁブリレ………。」


ブリレ「何何?主様ぁ?」


 俺が声をかけようとするとこちらが言い終わる前に即座に反応してくる。ニパッと笑って小首を傾げながらブリレが振り向いた。もしブリレに尻尾があれば全力で振られているのではないかと幻覚が見えそうなくらいに懐いてくる。モブキャップのような半透明の殻がゆらゆらと揺れている。


アキラ「ちくしょぅ…。可愛いじゃないか………。」


ブリレ「え?ええ?可愛いってボクのこと?ボクのことだよね?主様ぁ~~。」


 ブリレが顔を赤くしながら抱き付いて来る。俺は抵抗する気もせずそのまま抱きとめる。


ブリレ「えへへ~。」


 ブリレが俺の胸にスリスリと顔を押し付ける。本当に可愛い………。って本来の目的を忘れかけているぞ。思い出せ俺。


アキラ「………ゴホンッ。なぁブリレ。何で五龍王とクシナは仲が良いんだ?」


ブリレ「えぇ~?今クシナのこと聞くぅ~?今はボクのこと可愛がってよぉ~。」


 ブリレは尚もスリスリしてくる。うんうん。愛い奴じゃ。仕方が無いので俺はブリレの頭を撫でた。


ハゼリ「ああっ!ブリレッ!一体何をしているのです!主様から離れなさい!」


 ハゼリに見つかって注意される。だがハゼリはブリレを引き離すのではなく自分も俺に抱き付いて来る。


ハゼリ「主様ぁ~……。」


アキラ「おい………。ハゼリまで一緒になってどうする………。」


ハゼリ「ですが今日はブリレの日ではないのにブリレだけ可愛がるなんて………。」


アキラ「はぁ…。じゃあちょっとだけな?」


 俺はハゼリも撫でる。少しそうして手を離すと二人はまだ物足りなさそうな顔をしているがこれ以上やっても終わりはない。どこかで区切りをつけないと俺の方もいつまでも二人を可愛がってしまうので踏ん切りをつけて手を離す。


アキラ「それでな。どうしてお前達五龍王はクシナと仲が良いんだ?何か理由とかコツとかあるのか?」


 俺は別に無理にクシナと仲良くなりたいとまでは思っていないが旅で同行している以上は雰囲気が悪いよりは良い方が良いだろう。それからただ単純に五龍王とクシナがどうして仲が良いのか興味があるということもある。


ブリレ「それはボク達が仲間だからじゃないかなぁ?」


ハゼリ「そうですね。」


アキラ「仲間?仲間ってどういう意味だ?」


 どう考えても俺は五龍王とクシナが仲間とは思えなかった。………仲間ってなんだ?クシナは魚だったのか?魚?………ドラゴン族?五龍王?五『龍』王?え?もしかして五龍王って本当にドラゴン族だったのか?


ブリレ「仲間は仲間だよ~。」


ハゼリ「そんな説明では主様に伝わりませんブリレ。…五龍王は龍なのでクシナの仲間なのです。」


アキラ「………五龍将、五龍王って本当に元々龍だったのか?」


ブリレ「違うよ~。ボク達は元々ただの魚だよ?」


 ますますわからなくなってきた。


アキラ「わからん………。わかるように説明してくれ。」


 その後暫くは他の五龍王も呼んで話を聞いてみた。軽くまとめてみる。


 まず東洋的な龍というのは水を表すことが多い。大雨や大洪水を龍として例えた伝承や伝説、神話の類はよくある。雨乞いや治水も龍に頼むのだ。鯉が川を上って昇竜になるなどという言い伝えや伝説もある。リヴァイアサンやシーサーペントなどの伝説も水の龍というものだ。これらをこの世界に当てはめるとつまり水棲生物の一種で力も強い者になるとそれは一種の水龍となるようだ。


 もちろん火龍や土龍、風龍のような物もいる。ただ五龍将のように力を得た水棲生物達が水龍の一種に進化していたわけだ。それは五龍王となった今でも変わらない。ティアやフランがアクアシャトーで五龍将を水龍や龍神の一種だと言っていた通りだったのだ。


 そしてドラゴン族だがドラゴンの言葉が示す通り基本的には竜であり西洋的なドラゴンが中心の種族ではあるらしい。だがドラゴン族から見ても進化して龍となった者達は仲間であるそうだ。


 では五龍王はドラゴン族で龍力が使えるのかというとこれは使えない。龍の一種となっても元の種から別の種になるわけではない。この五人の出自はあくまで魚でありドラゴン族の特殊能力は使えないそうだ。


 ともかくそういうわけでクシナは五龍王を同族として見ておりそれ故に特に仲が良くなる切っ掛けとなったのだろうというのが五龍王の意見だった。


アキラ「なるほどな…。」


ブリレ「主様ぁ~。」


 話が終わるとブリレとハゼリが抱きついてきてさっきの続きが始まる。俺は二人を撫でながら少しがっかりしていた。クシナとの険悪な雰囲気を改善する打開策になるかと思ったが五龍王がクシナと親しくなれたのは龍という繋がりがあったからであり俺では同じ手は使えない。結局何の参考にもならなかったのだ。


 ………がっかり?俺はそんなにがっかりするほどクシナと親しくなりたいと思っていたのだろうか?師匠が九人目などと言うから意識しすぎていたのかもしれない。


 確かに美人だしスタイルも良いし黙っていれば良い女だと思う。でもあの性格のキツさは俺には合わない気がする。俺の嫁達をみても皆大らかであったりおっとりしていたり気立てが良い女性ばかりだ。中には少しそれに当てはまらない者もいる気はするが………。


 ともかく第一印象としては俺の方もクシナに良い印象は持っていない。そして向こうも俺に良い感情を持っていないのならお互いに改善する気にもならずこれ以上進展することはないだろう。俺はそれで構わないと思っている。師匠が九人目だと言ったからと言って無理に親しくして嫁に加える必要はない。その候補として師匠が判断しただけで俺がそれに従って絶対に嫁にしなければならないということはないはずだ。


 そう判断した俺は一先ずクシナとの件については放置しておくことにした。


クシナ「また私のことをいやらしい目で見ていますね!あっちを向いてください!」


 ………。別にクシナを見ていたわけでもないのにまた怒られた。これほどの理不尽はさすがに腹が立ってくる。一瞬反論してやろうかと思ったが嫁達が困った顔で俺達を見ていたのでぐっと我慢したのだった。



  =======



 それから数日経ち暫く進むとドラゴン族の村のようなものがあった。ドラゴン族は俺達が近づいていることに気付いているのに特に気にした様子もない。明らかにドラゴン族ではない者が大勢いるのに随分と暢気なもんだ。


 普通なら現在戦争真っ只中の魔人族がこうして近づいてきていれば敵襲かと警戒しそうなものだが赤の魔神が言っていた通りドラゴニアの民は腑抜けで自分の命の危険が目の前に迫るまで動きもしないのかもしれない。


クシナ「貴女方は余計なことはせずしゃべらないで下さい。このまま通過します。良いですね?」


アキラ「別にこの村に用はないからそれでかまわない。」


クシナ「………それでは通り抜けますのでここからは一言もしゃべらないで下さい。」


 俺が答えるとクシナは露骨に嫌そうな顔をしてから俺にしゃべるなと言ってきた。俺はフェミニストではないが女の子には優しい方だと思う。だがその俺をもってしてもこの女の態度は次第に許せなくなってきた。俺にだって我慢の限界というものがある。


 そのまま村の中を通過してもドラゴン族達は遠巻きに俺達を眺めるくらいでさして興味も示さなかった。この村にいるドラゴン族はクシナと同様にほとんど人型で少し鱗や角のようなものがある程度であった。ドラゴン族は農耕のようなことは特にしていないようだし狩猟をするにしてもこの世界最強クラスの種族であるためちょっと狩りに出かければすぐにどんな魔獣でも狩れてしまう。だからほとんどの時間をこうして村のような場所でぼーっと座ったり寝転がったりしてすごしているらしい。俺達を遠巻きに見ている者達も椅子に座っていたりハンモックのようなものに寝そべっていたりしている。


 赤の魔神の言ったことやクシナが暗に認めていた通りやはりドラゴン族は腑抜けになっているようだ。その目には闘争心もなく俺達にもほとんど興味がない。ただ珍しい者が通っているからチラッと見てみる。その程度の関心しかない。


 もし俺達がいきなり誰かに襲い掛かっても襲われた者は逃げようとするだろうが他の者はこのままただ眺めているだけなのだろうと何となくわかった。


アキラ「………ふん。これがドラゴン族か。これでファルクリア最強種族などと笑わせてくれる。」


ドラゴンA「………。」


 俺は俺達が通っている場所の一番近くにいるドラゴンに視線を向けながらそう言ってみた。だがそのドラゴンはただ俺を見つめ返しただけで何も言わない。その目には怒りも浮かんではいない。


クシナ「ちょっと貴女!余計なことはしゃべらないようにと言ったではないですか!」


 俺の言葉を聞いてクシナが鬼の形相で振り返り俺にそう詰め寄ってくる。


アキラ「はっ。なんてつまらない一生だろうな。何をするでもなく、何をなすでもなく、ただ毎日だらだらと死ぬまで生きるだけ。そんなものは死んでいるのと変わらない。そんな無意味な生ならばいっそいますぐ死ねばどうだ?」


クシナ「いい加減にしなさい!それ以上ドラゴン族を侮辱することは許しません!取り消して謝罪しなさい!」


 クシナだけが激昂している。他のドラゴン族達は自分達が言われているということはわかっているのにそれでも他人事のように知らん顔をしている。


アキラ「………はぁ。これじゃクシナの方が遥かにマシだ。赤の魔神がドラゴン族は腑抜けだと言ったのがよくわかる。」


クシナ「ちょっと………!」


 クシナがまだ何か言っているが俺は聞く耳を持たずにそのままスタスタと村を通り抜けていったのだった。



  =======



 その日の夕方、俺はまだドラゴン族の態度に少しむしゃくしゃしていたのでテントの中でキュウの膝に寝転がる。はぁ…落ち着く。


キュウ「アキラさぁん。寝るのはかまいませんがそぉっと触るのはだめですよぅ。くすぐったいですよぅ。」


アキラ「だめだ。触る。この手触りが俺を落ち着かせるんだ。」


キュウ「そんなぁ。」


 キュウがほんのり頬を染めてビクビクと震えている。やらしいことをしているわけじゃないのに何か艶かしいな。


ルリ「………ん。」


 俺がキュウの膝に寝そべってキュウの足やお腹を撫でているとルリがさらに俺に頭を預けてきた。寝転がっている俺に添い寝のように寝転がり頭だけ俺の腕の根元から胸の辺りに乗せている。


シルヴェストル「とうっ!なのじゃ。」


 シルヴェストルまで俺のお腹の上に飛び乗ってくる。だんだん落ち着いてきた。可愛い嫁達に囲まれて幸せな気分になってくる。


アキラ「そうだ。俺にはドラゴン族のことなんて関係ない。もう考えるのはやめよう。」


 口に出して言うつもりはなかったがキュウの膝枕で気が緩んでいた俺の口から思っていたことが漏れてしまった。


ミコ「アキラ君。それでいいの?」


フラン「ドラゴン族を変えられるはアキラさんだけではないでしょうか?」


 ミコとフランがテントに入ってきながらそう答えた。


アキラ「知らん。本人達にやる気がないのなら俺には手助けのしようもない。」


クシナ「貴女に何かしてもらう必要などありません!」


 クシナがミコとフランに続いてテントに入ってくる。


アキラ「クシナのテントはここじゃないだろ。」


 ここは俺と嫁達のテントだ。他の女用のテントと男用のテントは別に張ってある。シュリは前から結構このテントに入ってきて紛れ込んでいることが多々あったがクシナが俺のいる間にここへ来ることは珍しい。俺がキュウに膝枕してもらっているのを見て一瞬顔を顰めてからクシナは答えた。


クシナ「私だって貴女の側には来たくありません。ですが今日のことについて発言を撤回して謝罪してもらうまで引き下がるわけにはいきません。」


 どうやらクシナはまだ昼間の俺の発言を撤回させようと思っているらしい。


アキラ「嘘や誹謗中傷ならば謝罪も撤回もするが俺が言ったことは全て本当のことだ。本当のことを言ったから謝れと言われても謝る謂れはない。」


 地球では妙な意見が罷り通ることがある。例えば殺人犯に殺人犯。放火犯に放火犯。○○の国の出身者に○○人。と言ったらそれは差別だ、ヘイトスピーチだと言われるのだ。だが俺はそうは思わない。それが嘘で相手を貶めるために必要以上に言いふらして悪評を広めているのなら確かに人権侵害にあたるかもしれない。


 だが本当に本人がそのようなことをした事実を公表するだけで人権侵害だ、差別だ、ヘイトスピーチだというものにあたると解釈するのはそれこそが逆差別であろう。殺人犯だと言われたくなければ殺人を犯さなければよかった。放火犯だと言われたくなければ放火しなければよかった。それを自分勝手に行っておきながら自分の過去の悪行を公表されることは人権侵害だ、差別だ、などとどの口が言えるのだろうか。どんな精神構造をしているのか見てみたいものだ。


 ともかくそれが本当のことであり相手を貶めるためではなくただ淡々と事実を述べているだけでとやかく言われる筋合いはない。そう言われたくなければ本人が自らを省みて革めれば良い。ニートにニートだと言ったからと『差別だ。人権侵害だ。名誉毀損だ。慰謝料払え。』と言われてもほぼ全ての人間は『そう言われたくなければ働け。』と思うし答えるだろう。


 それがなぜか一部の者達に対してだけこれが正常に機能しないのだ。なぜか事実を述べただけでそれが差別でヘイトスピーチになる。もちろん騒ぎ立てる者達はそれによって優位に立ちたい者達とそれに便乗することで金が入ってくることを期待している者達なのだが、なぜかその明らかにおかしな綺麗事に騙されて乗せられる一般民衆も一部にはいるのだ。


クシナ「………どうしても撤回する気はないのですね?」


アキラ「俺がそれは事実ではなかったと思うまでは撤回も謝罪もする気はない。」


クシナ「わかりました。表に出なさい。貴女に見せてあげます。ドラゴン族の誇りを!」


アキラ「………やれやれ。」


 こうして俺はクシナと共に表に出ることになった。テントからかなり離れた位置まで移動して俺とクシナは向かい合う。


アキラ「師匠、結界をお願いできますか?」


狐神「はいよ。」


 師匠が結界を張ってくれる。力は感知されてしまうが周囲に被害が出ることはない。昼の村にいたドラゴン族達はあまり強い感じはしなかったがクシナでもこれほどの強さがあるのだからちょっとくらい俺たちの力が感知されてもそれほど大事にはならないだろう。


アキラ「さぁ。いつでもいいぞ。」


クシナ「剣はどうしたのです?剣をとりなさい。」


 俺は丸腰だ。元々剣を使うような戦闘スタイルじゃない。一時カモフラージュのために腰にさげていた時期はあるがあんなものはナマクラで使い物にならない。クシナとまともに剣をぶつけ合えば一撃で折れるだろう。


アキラ「生憎俺に釣り合うような剣がなくてな。そもそも俺は素手で戦うタイプだから気にするな。」


クシナ「そうはいきません。素手の相手を剣で斬ったとあっては我が家の名が廃ります。」


 これは困った。本当に下手な武器を持っても俺の力に耐えきれずにただ折れるだけの結末になる。だからと言って今すぐ俺の力に耐えられる武器も用意できないだろう。


 そう思っていたがダザーが師匠に何か言い結界の中へと入ってきた。


ダザー「アキラ様。これをお使いください。」


 ダザーが自分の剣を俺に差し出す。少し刀のように反りの入った片刃の剣だ。受け取って鞘から抜き剣を眺める。親衛隊に入る前はただの大ヴァーラント魔帝国の一兵士でしかなかった者が持っているものとは思えない業物だった。


アキラ「これは良い剣だな。」


ダザー「はっ!ありがとうございます。我が家に伝わる宝刀に私の魔力を込め続けてまいりました。どうぞお使いください。」


 これならクシナの相手をするくらいの力なら耐えられるだろう。


アキラ「ありがとう。少しの間借りる。」


ダザー「ははっ!」


 ダザーは俺に剣を渡すと戻っていった。


アキラ「さっ、これでいいか?」


クシナ「それは私のセリフです。それだけで良いのですか?盾も持ちたければ持って良いのですよ?」


アキラ「いや、いらない。俺は盾なんて使ったことはない。」


クシナ「そうですか。それでは………参りますよ!」


 クシナが斬り掛かってきた。これが全力だとすればやはりルリより身体能力で劣るくらいだ。俺はダザーの剣で軽くクシナを往なす。ロベール仕込の剣技があるから俺だって剣自体は扱える。ただ普段使わないのはさっき言った通り俺の力についてこられるだけの剣がないからだ。


 そんな剣を探してわざわざ使うくらいなら爪でも使った方が手間もかからない。威力も大差ないだろうし俺の戦闘スタイルも剣で戦う前提のスタイルではない。無理に剣術に拘る理由はまったくない。


 そんなことをぼんやり考えながらクシナの剣のお稽古に付き合ってやる。クシナが斬りかかり俺が往なす。たまに寸止めで反撃して隙がある場所を教えてやる。クシナは次はそこに気をつけながら再度攻撃してくる。また俺が寸止めで隙があることを教えてやる。その繰り返し。


 クシナの攻撃が俺に当たることはない。遅すぎる上に剣技もお粗末だ。単純な剣技だけで言えばロベールの方がまだ上手い。ただしロベールと戦えば速度や腕力が違いすぎるのでロベールにはクシナの剣閃すら見えずに切り刻まれるだろうがな。


クシナ「くっ!ふざけているのですか?!真面目に戦いなさい!」


アキラ「真面目に戦ったらもうお前は死んでるぞ?」


クシナ「………わかりました。やむを得ません。龍気闘衣ドラゴニアフォーム!」


 クシナの龍力が膨れ上がる。紫色のオーラがクシナを包み込む。ドラゴニアフォームという言葉は赤の魔神が使った鎧と同じだがものは違う。赤の魔神のものは龍鱗の鎧を呼び出すものだったがクシナは自身の龍力を纏っているだけで鎧というわけではない。俺達が普段それぞれの神力を纏って闘うのと似ているが龍気闘衣の性質はそれよりも物質に近い気がする。龍力でありながら物質に近い性質へと変化させたものを身に纏っているのだろう。


 そのオーラのお陰かクシナの動きも腕力も格段に跳ね上がる。少しダザーの剣で闘衣を斬ってみたが刃が通らない。思い切り斬ろうとすれば剣の方が折れてしまいかねないので無茶をするのはやめておく。


クシナ「ドラゴニックフレア!」


 鍔迫り合いになったところでクシナが口を開き龍魔法を使った。クシナの口から炎が吐き出される。今の能力制限で直撃したら熱いので避ける。


クシナ「終わりです!」


 俺がドラゴニックフレアをかわすために身を反らせた隙にクシナが剣で斬り掛かってくる。俺はほんの少しだけ加速を使いクシナの後ろに周りこんだ。


アキラ「クシナの負けだな。」


クシナ「―――ッ!」


 俺は後ろからクシナの首筋に剣を当てている。クシナが龍力を使ったお陰で俺は龍力の使い方がわかった。やはり俺も龍力が使える。クシナの龍気闘衣を貫通してダメージを与えることもできるようになっている。


クシナ「まだ私は負けていません。貴女の剣では私の龍気闘衣を貫けません。」


 少しだけ首筋に切り傷をつける。クシナの首筋からほんの少しだけ血が流れた。


アキラ「これでもか?」


クシナ「なぜっ?!貴女の力で龍気闘衣を貫けるはずは…。」


アキラ「貫く必要はない。どければ良いだけだ。」


 俺の龍力でクシナの龍気闘衣をかきわけてどける。ただそれだけだ。力ずくで貫通させようと思えば確かに今の俺の能力制限では目一杯の力を使わなければ貫通できないがそれでも俺は上限突破しているので力ずくでも貫通できる。そして今やったのはそれとは別の方法で俺の龍力でクシナの龍気闘衣に干渉してかきわけてよけさせたのだ。


クシナ「………。まだです!まだ諦めません!」


 クシナの龍力がさらに膨れ上がる。膨れ上がるのは龍力だけじゃない。クシナの体自体がどんどん膨れ上がる。皮膚の表面は堅そうな鱗が生えて体は見る見る大きくなっている。その姿は完全にドラゴンへと変化していた。その内包する神力は一つ階位が上がっているのではないかと思うほどに膨れ上がっている。


 今の能力制限のままの俺では加速を使わなければこれの相手は少しきつい。


クシナ「ギャオォォォォーーーーッ!!!」


 巨大な竜が咆哮を上げて俺を睨みつけるのだった。



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