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転生無双  作者: 平朝臣
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第九話「ガウの集落」


 朝、目が覚める。朝とは言ってもまだ日も昇る前ではあるが…。俺の左右には夜と変わらず師匠とガウが眠っている。ただし師匠はどうすれば俺を抱き枕にしたままこれほど乱れるのかというほど浴衣も布団も乱れている。ガウに至っては眠る前とは頭と足が逆さ向きになっている。二人を起こさないようにガウの向きを直し、師匠の浴衣を直しそっと布団を掛けなおして台所へと向かう。


 今日も思いつく限りの料理を作り置きしていく。さらに試行錯誤しながら調味料やソースを作っていく。まったく同じとはいかないがマヨネーズやケチャップ、ジャム等はそれらしい物ができた。そろそろ師匠とガウを起こそうかと思っていると師匠が起きてきたようだ。


狐神「ふわぁぁ~~。おはようアキラ。今日も精が出るね。」


アキラ「おはようございます。ガウはまだ眠っているんですか?」


狐神「ああ、まだ寝てるよ。」


アキラ「そうですか。それでは起こしてきます。」


狐神「いいよ。私が起こしてくるからアキラは朝ごはんを頼むよ。」


アキラ「わかりました。お願いします。」


 師匠は顔を洗ってからガウを起こしに行ってくれた。俺はその間に朝食をちゃぶ台に並べていく。今日はパンとジャムもどきにポテトサラダとシチュー、ベーコンエッグならぬ干し肉エッグだ。日本ではお手軽な朝食だろうがジャムやマヨネーズから作るとなるとかなり大変な手間がかかる。今更ながらに日本の便利さありがたさに気がつく。


狐神「おや?今日はいつもとは違う朝ごはんだね。」


ガウ「がうぅ。」


 ガウはふらふらと歩きながら眠っている。


アキラ「ガウおはよう。顔を洗っておいで。すみません師匠。たまにはこういう物も食べたくて。」


狐神「アキラの食べたい物でいいんだよ。私はアキラのおかげでまともなご飯にありつけるんだから。」


 そう言いながら師匠は席に着きガウも顔を洗ってくる。


アキラ・狐神「「いただきます。」」


ガウ「がう。」


狐神「おや、これは甘くておいしいね。」


ガウ「おいしーの~。」


 ベーコン代わりの干し肉は少し固かったが師匠とガウにはご満足いただけたようでなによりだった。



  =======



 食後に師匠とガウの二人を集める。


アキラ「まず最初に…、ガウの名前について。こんなかわいらしい女の子になるとは思ってもみなかったので安直な名前にしてしまいましたが、本来の姿に相応しい名前に変更を…。」


ガウ「がうはがうがいいの!」


 俺の言葉を遮ってガウが言葉を発する。


狐神「本人がいいって言うんだからいいんじゃないかい?」


 こうして鶴の一声…じゃなくガウの一声で決定してしまった。いいのか?本人がいいならいいか…。


アキラ「次は…、ガウには辛いことを思い出させるかもしれないがガウの一族についてもう少し詳しく聞きたい。」


ガウ「いいの。ご主人に何でも話すの。」


 ガウの拙い言葉では要領を得ないが師匠と二人で頭を絞って言葉を補足しつつ聞いていく。


 昨日と同様、誰に力を封じられてなぜ神山を守っていたのかについてはわからなかったが色々とわかったこともある。ガウの一族は元々とても強力な種だった。だが力を封じられているせいか世代を追うごとに徐々に力が弱まっていった。それでもなんとか魔獣たちから神山を守っていたが、最近になって急に魔獣の攻勢が活発になりついには魔獣に敗れてしまった。


狐神「どうにもおかしいね。魔獣が同族以外の魔獣と協力して戦うなんて聞いたこともないよ。」


 ガウの話では連日昼夜を問わずに様々な魔獣が攻め寄せてきたという。数に任せた連日の猛攻により、ガウの一族の戦士も一人また一人と徐々に命を落としていったそうだ。もはやこれまでとガウだけでも逃がすことになったが追っ手がかかりあわやというところで俺達に救われたということらしい。だが確かにおかしな話だ。人間が一緒に育てたならともかく野性の虎とライオンが一緒に狩りをすることなどあり得ない。


狐神「そもそも魔獣は強い相手には逆らわない。子供のガウですらあれだけの数のミニオークと戦えるほどなんだ。そんな相手を襲うとは思えないね。それにこの辺りにミニオークの縄張りなんてなかったはずさ。」


 魔獣たちがとるはずのない協力体制をとり、いるはずのない魔獣までどこからか現れ、襲うはずのない強者を犠牲を厭わず襲う。これだけ揃っていれば誰でもわかる。裏で何者かの意図が働いていて魔獣を操っていたのだろう。


狐神「だけど魔獣を操るなんて聞いたこともないね。」


 誰が、何のために、どうやって…。今の情報だけでは考えてもそれ以上はわからなかった。


狐神「それでどうするんだい?」


アキラ「一先ず俺はガウのいた集落を見に行ってみようと思います。師匠はガウと一緒にここで…。」


ガウ「がうも行くの!」


 またしてもガウに言葉を被せられる。


アキラ「辛いものを見ることになるぞ?」


ガウ「がうは山守りの一族として見届けなくちゃいけないの!」


 ガウは真っ直ぐに俺の目を見て言う。単に親や仲間に会いたいということではないという意思が伝わってくる。


アキラ(こんなに小さいのにそこまでしっかりしてるんだな…。)


 俺がこのくらいの年の頃はどうだっただろうか…。やんちゃ盛りでこれほどしっかりした意思や考えは持っていなかっただろう。ガウが特別なのか、それとも日本に比べてずっと過酷なこの世界の人達は皆こうなんだろうか。


狐神「それじゃあみんなで行こうかね?」


 こうして俺達は三人で連れ立ってガウの住んでいた集落へと行くことになった。



  =======



 ガウを抱えて走ろうかと思っていたが、ガウが自分で走るといったので先導してもらうことにした。しかし思いのほか足が速い。俺や師匠にはまだまだ遠く及ばないがそれでも十分な速さだと思う。


アキラ「これだけ足が速いのにミニオークからは逃れられないのか…?」


ガウ「ご主人に力を解放してもらったから速くなったの。」


 そんな話をしているうちにすぐに集落に着いた。距離的にはだいたいガウの集落とベル村の中間が俺が昨日巨大クレーターを作ったところになるくらいの距離だろうか。


 辺りはひどい有様だった。火矢を使ったのか誰かの特殊能力か周囲は焼け落ち、地面には大小の穴や亀裂があちこちに走っている。大量の魔獣の死骸の中にちらほらと昨日のガウの狼姿と同じ色の狼が倒れている。つい先日まで一緒に暮らしていた仲間達の遺体を見せるのは辛いかと思ったがガウが率先して一人一人確認していった。俺はそれを丁寧に埋葬していく。


ガウ「おじちゃんいつも獲物のおすそわけありがとうございましたなの。」


ガウ「おねえちゃんいつも遊んでくれてありがとうございましたなの。」


 涙を堪えたような顔で一人一人にお礼とお別れを告げるガウを見ていると俺の胸が痛んだ。最後に大きな岩を背に後ろの一匹を庇うように倒れている一際大きな狼とその狼に守られるように息絶えているもう一匹の遺体を見つけた。


ガウ「おとうさんとおかあさんなの。」


アキラ「…え。」


ガウ「がうのおとうさんとおかあさんなの。」


 ドクンッと心臓が跳ねた。俺に背を向け折り重なって息絶えている二匹に近づいていくガウの表情はわからない。


ガウ「おとうさんは村一番の戦士でおかあさんは村一番の美人なの。」


 ガウの声と口調からは感情が感じられないほど固く冷たい。


ガウ「がうはもう誰も信じてなかったでんしょーのご主人を見つけたの。種長の娘として立派に役目を果たしたの。」


アキラ「ガウ!」


 気がつけば俺は俺より背の低いガウに合わせて地面に膝をつき後ろからガウを抱きしめていた。


アキラ「ガウ、もういいんだ。我慢しなくてもいいんだ。」


ガウ「がう…は、…誇り高い…山守りの一族のまつえーで…種長の娘で…。」


アキラ「誇り高い一族でも悲しければ泣いてもいいんだ。種長の娘でも辛ければ喚いてもいいんだ。お前には俺達がいるから。支えてくれる仲間がいるから。」


ガウ「う…、うぅぅ、うぐっ。」


 ガウが肩を震わせながら嗚咽を漏らす。抱いていた手を離すとふらふらと父と母の元へと歩いていく。


ガウ「うわぁぁぁ~~~ん。」


 二匹の狼にすがりつきガウは大声を上げて泣き続けた。


ガウ「ぐすっ…。ひっく…。」


 しばらく泣き続けたガウが落ち着いてきたのでガウの両親を丁寧に埋葬する。


狐神「ちょっとこの牙を抜いてもいいかい?」


 一瞬キョトンとしたガウだが黙って頷いた。師匠はガウの許可をもらい両親の牙を二本ずつ抜き取る。


ガウ「どうするの?」


狐神「こうやって…。ほら、できた。」


 ガウには見えなかっただろう。師匠はすごい速さで妖術により牙を綺麗にし糸を通してネックレスにした物をガウの首へとかけてあげた。


狐神「これはお守りだよ。きっと両親がガウを守ってくれるさ。」


 左右二対の牙。内側はやや小ぶりの母の牙、外側は大ぶりな父の牙のネックレス。


ガウ「ありがとうなの。」


 大事そうにネックレスを押さえながらガウがお礼を言う。


ガウ「二人足りないの。」


アキラ「え?」


ガウ「がうが逃げる時にそっきんのおじさんと門番のおにいちゃんが一緒だったの。」


 それはそうか。こんな小さな子一人で逃がそうとするわけがない。種長の大事な愛娘だ。護衛を付けていたんだろう。


アキラ・狐神「「!」」


 その時、この集落に誰かが入ってきたようだ。同時に師匠も気配に気づいたようだった。だがおかしい。俺の探知能力ならここからかなりの距離があるはずのベル村の人間の気配すら察知できる。こんな距離まで近づかれるまで気づかないはずはない。師匠と俺の二人がいてこの距離まで気づかないなどありえない。…いや、おかしい。ベル村の人の気配どころかこの集落の外の気配がまるで感じられない。


アキラ(どういうことだ…。)


 師匠も一瞬驚いたような顔になりすぐに思案顔になった。俺と同じことに気づいたのだろう。


???「お前ら大神おおかみ種の関係者か?」


アキラ(大神種?ガウ達の種のことか?)


 近づいてきた男は清潔そうな白一色で統一された騎士鎧のようなものを着ている。胸元には赤い十字模様がある。そしてその右手には…。


ガウ「おじさんとおにいちゃんなの!」


 ガウの悲痛な叫びがこだまする。その男の右手には無造作に握られた狼の首が二つ…。


???「おっと、答えなくてもいいぞ。ここにはすでに破壊しているにも関わらず未だに強力な効力が残っている古代族の人除けの結界が張ってあった。ここに入れる時点でお前達に助かる道はない。」


 古代族の結界…。ガウのいう主人とは古代族のことか?では俺も古代族の関係者か?だがそんなことはどうでもいい。俺の中で静かな怒りがふつふつと沸いてくる。


アキラ「…お前がここを魔獣に襲わせたのか?」


ヴァーター「事情も知ってるようだしやはり関係者か。生憎だが魔獣を操っていたのは俺様じゃない。この神聖なる聖教騎士団の部隊長たるヴァーター様は汚らわしい魔獣どもなどを操るような邪法は使わない。」


アキラ「だがその一味なんだろ?」


ヴァーター「そうだ。人神じんしん様より直々にこの聖なる任務を仰せつかったのは俺様なのだ。」


アキラ「聖なる任務…だと?目的はなんだ?」


ヴァーター「目的だと?はーっはっはっ。愚か者め!この世界は我ら高貴なる人間族のみが支配すれば良いのだ。汚らわしいその他の種族を滅ぼし人間族の世界を造ることこそが我らに与えられし崇高にして聖なる任務であろう!」


アキラ(そんなくだらないことのために…。人間…、傲慢で自分勝手で自らの欲のためには他者を平気で陥れる。妬み殺し奪う。そんなことしかできない愚かな生物。どんな言葉で語ろうと言い尽くせない害虫どもが!)


ヴァーター「しかし…、やはり獣人どもは大神種とつながっていたか。獣同士で人間様に逆らう相談でもしていたのだろう。無知な獣どもにはやはり人間族の偉大さはわからないようだな。」


 師匠と俺の姿を見て獣人族と思ったようだ。神になった者からは見ればすぐに神とわかるほどの神々しい神力が溢れている。ガウやベル村の村民達ですら師匠をみてすぐ神とわかるのにこの馬鹿にはわからないらしい。


ヴァーター「しかし獣人とはいえここで殺してしまうには惜しい女どもだな。ヒヒヒッ。俺様は優しいから我が隊の慰み者になるというのなら命だけは助けてやってもいいぞ?」


アキラ「…このゲスが。お前は万死に値する。」


 自分でも驚くほど冷たい声が出る。師匠やガウと一緒にいた間は出ることのなかった黒い感情が俺の心を埋め尽くす。それはこの世界に来てから忘れていたもの。軽く不快になり諌めるためにあえて放出したベル村の村人Aに感じたものなど比較にならない本気の負の感情。思えば元の世界にいた頃は常にこの感情に支配されていた気がする。


狐神「ちょっ、ちょっと、アキラ。この世界ごと壊すつもりかい?」


ガウ「ひっ!」


 そもそも日本において神や妖怪は自然現象を畏れ敬う自然信仰からくるものだ。この世界ではどうか知らないが妖力はそういう力のような気がしている。自然に起こる現象の再現やある種の創造にすら近い現象を起こす。だが今俺が纏っている妖力はそれとは対極の物だろう。俺の負の感情と混ざり合った妖力は純粋なる破壊しか齎さない。触れる物全てを破壊し死に至らしめる妖力が溢れ出ている。


ヴァーター「ヒヒヒッ。どうした?そんなにプルプル震えて怯えなくても逆らわなければ生かしておいてやるぞ。」


狐神「これだけとんでもない力が練り上げられているのに気づかないのかい?ある意味馬鹿は無敵だね…。」


ガウ「ご主人まってなの!」


 ガウの声に振り向く。ガウは俺の横に並んでこちらを見上げていた。


ガウ「これはがうがやらなくちゃいけないの。がうに任せてほしいの。」


 その言葉で俺は溢れかけて制御を手放しかけていた力を抑える。俺の中の怒りが収まったわけではないが自制する。


アキラ「少しでも危ないと思ったら割って入る。」


ガウ「ご主人ありがとうなの。」


 ガウがヴァーターを正面から見据えた次の瞬間にはヴァーターの後ろに立っていた。


ヴァーター「あん?チビはどこへ行った?」


 あまりに一瞬の出来事と途轍もない痛みでヴァーターはまだ気づいてない。


ガウ「おじさん、おにいちゃん、守ってくれてありがとうございましたなの。」


 後ろから聞こえるガウの声にヴァーターが振り返る。


ヴァーター「てめぇいつのまに?あ?なんでお前がその首を持ってる?」


 ガウは大切そうに二つの狼の首を持っている。それを見て自分が持っていたはずの右腕をヴァーターが見る。


ヴァーター「ぎゃぁぁ!俺様の腕が!腕がぁぁぁ!」


 ガウが正面を見たすぐあとに一瞬でヴァーターまで近づきすれ違い様にヴァーターの右手から二つの首を取り返したのだ。俺や師匠には見えていたがヴァーターの能力では移動したことにすら気づけなかった。ガウは二つの首は丁寧に扱っていたが力ずくで奪い返したため力の反動がヴァーターの右手の指全てと腕を滅茶苦茶に破壊してしまった。指も腕も本来曲がってはいけない方向へと曲がり関節の数を増やされてしまっていた。


ヴァーター「こっ、このクソチビがぁぁ!何しやがった!」


ガウ「ちょっとうるさいの。静かにするの。」


 そう言って繰り出されたガウの足払いによりヴァーターの両足は千切れ飛んだ。突然両足を失い地面へとうつ伏せに落下したヴァーターの頭を踏みつけ地面へと押し付ける。踏み抜いて頭を潰すこともできるにも関わらず絶妙な力加減で顔をめり込ませるにとどめる。


ガウ「ご主人。この二人も埋めてあげてほしいの。」


アキラ「ああ、弔ってあげよう。」


 ヴァーターを黙らせてこちらへ戻ってきたガウから二つの首を受け取る。


狐神「あの馬鹿に止めを刺す前に情報を吐かせるかい?」


アキラ「…そうですね。俺は色々と聞きたいことがあります。ガウいいか?」


ガウ「聞くのはいいの。でもやっつけるのはがうがするの。」


 三人で馬鹿の近くまで行く。


アキラ「このままじゃ聞けないな。」


 そう言うとガウがヴァーターの髪の毛を掴んで持ち上げる。


ヴァーター「ヒッ!ヒィィ~~!たっ、助けてくれ。殺さないでぇぇぇ。」


 涙に鼻水によだれを垂らしながら汚い顔で懇願するヴァーター。自分は散々他者を虐げ殺してきたにも関わらず自分の番になるとこうも浅ましく生にしがみつこうとする。こういう態度を見ると許すどころかますます殺したくなってくる。


アキラ「お前の知っている情報を話してもらう。」


ヴァーター「話す!何でも話すから殺さないで!」


 本人が話す気になってくれたので色々と質問をする。


 まず聖教騎士団とはその名の通り聖教を守護する騎士団らしい。三個師団、各二万人、計六万人いるそうだ。表向きは聖教皇国や各地の教会の守護をするという名目になっている。だが聖教皇国は十万人に満たないほどの人口しかいない。そのうち六万人もの人間が兵士など過剰戦力もいいところだ。守るべき住人よりも兵士の方が多いのだから通常はありえない。通常の国では兵士の方が多ければ税や食料が足りなくなる。信者からの寄付などで財政を賄っているからこそできることである。兵士の供給源も国内だけでなく世界各地の信者の中から使える者を集めて組織されている。故に聖教騎士団は精鋭揃いで一兵卒が他国の兵士百人に相当するとまで言われているそうだ。


 ではそれほどの騎士団をなぜ保有しているのか。それは教義である人間至上主義の実践と他種族の排除のためだ。熱心な狂信者でもなければ完全に他種族まで根絶やしにしようとまで考える信者は少ないようだが騎士団が他種族と同時に害のある魔獣も処理しているため人間族からは受けがいいらしい。


 そしてこの聖教騎士団ですら世間の目を誤魔化すための表向きの組織であり裏には信者はおろか騎士団ですら一部の者や幹部しか知らされていない裏の実働部隊があるらしい。その実態はヴァーター程度では知らされておらず今回の任務で組むようにと言われただけらしい。


 今回ヴァーターに与えられた任務はウル連合王国に巣食う大神種の集落を全滅させること。理由はもちろん教義に則り人間族の勢力圏から他種を駆逐するためだ。そこで初めて噂程度でしか聞いたことのなかった裏の実働部隊、逆十字騎士団の存在を正式に教えられた。逆十字騎士団の騎士と自分のたった二人で集落を全滅させろと言われて最初は無理だと思ったそうだ。だが実際に現地に赴いてみたら逆十字の騎士が魔獣を操りほぼ一人で壊滅させてしまった。逆十字の騎士は集落を壊滅させた時点ですでに聖教皇国へと帰っており逃げ出した三匹を始末するためにヴァーターが残っていた。逃げ出した三匹とはもちろんガウとガウの言うおじさんとおにいちゃんだ。おじさんとおにいちゃんはガウを逃がすために囮になりすでに殺されてしまっていた。そこへ俺達が現れたというわけだ。


 俺の中の怒りは収まるどころかますます大きくなっていた。傲慢で自分勝手な人間達がくだらない宗教のために他種族を迫害し死に追いやる。その教えは聖教の教義であり人神の政策なのだ。


アキラ(人神。こいつは絶対に許さん。必ず始末してやる。)


 俺の聞きたいことは聞き終えた。


アキラ「師匠とガウはこいつからまだ聞きたいことはありますか?」


狐神「私はないね。」


ガウ「がうもないの。」


アキラ「だそうだ。お前の役目は終わった。」


ヴァーター「たっ、頼む!助けてくれ!知ってることは全部正直に話した!」


アキラ「今までお前にそう言った者達はいなかったか?」


ヴァーター「!そんな!話が違う!いやだ!死にたくない!!」


アキラ「話せとは言ったが助けてやるとは言っていない。」


 俺はヴァーターに背を向け集落の出口へと向かって歩き出す。


アキラ「ガウ。あとはガウの好きにしていいぞ。」


ガウ「がうぅ!」


 そのまま振り返らずに歩き続ける。背後でグシャリと鈍い音がし、それっきり俺達の歩く音以外は何も聞こえなくなった。この程度では収まらない。俺の中ではドス黒い感情が渦巻いている。


 しかし追いついてきて隣を歩いてるガウの表情は何か吹っ切れたような顔をしていた。



 これ以降ストックが切れるまで原則一日一話更新となります。


 感想等もお待ちしております。

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