第七十三話「シルヴェストルと繋がる日」
半壊した村の後始末をしている親衛隊たちを見ながらシュリとシュラから話を聞いた。父親のシュラの方は完全な人型だがシュリは前に言った通り少し犬のような鼻と口をしている。俺はこれはこれで可愛いと思うのだがこの世界の者達は他と違うものを受け入れる寛容さはない。ジェイドの時の件でもそうだが少し姿が違うとか力が違うとかほんの些細な違いですら異端扱いし排斥しようとする。
この親子もこの姿のせいで村八分にされ食料もまともに手に入らず弱り果てていたようだった。食事を摂ったシュリは今では重量物も軽々持ち上げているが昨日までは俺が譲った食材ですら持ち運べないほどに弱っていたのだ。そしてシュラは娘にほとんどの食料を与えて自分は我慢を続けていたために倒れて寝込んでいたらしい。そこへ旅人の俺達がやってきたので俺達から食料を分けてもらえないか交渉に来たというわけだ。
俺の神力の染み込んだ食料を食べて回復したシュラは元傭兵ということもあって親衛隊の末席に加わった。シュリはメイドとして仕えることになった。ライカンスロープというワーウルフとも近縁種で狼人間に変身できる人型の魔人族で能力的には低くはないらしい。初期の頃のジェイドが俺達の移動に付いて来たように犬や狼系統の者は足の速さや持久力に優れる者が多いので旅についてくることは出来そうだった。
親衛隊が始末したワイバーンを焼いて試食しながらそんな話を聞いたのだった。
シュラ「しかしこれだけのワイバーンをたった九人で倒してしまうとは…。アキラ様の親衛隊はすごい方ばかりです。これほどの親衛隊を引き連れておられるということはアキラ様はさぞ高名な貴族のご令嬢でしょうか?それとももしや王族の方でしょうか?」
アキラ「あ~。その畏まったしゃべり方はいらないぞ。俺は別に王族でも貴族でもないからな。そもそも魔人族ですらないしファングとは縁もゆかりもない。」
シュラ・シュリ「「え?それはどういう?」」
親子揃ってキョトンとした顔になっている。家臣になるのだから隠しておく必要はないと思い他の者も知っている程度の情報は教えておくことにした。
………
……
…
アキラ「ふむ…。このワイバーンってなかなかうまいな。」
シュラ「えっと…。さきほどのお話の方が重要すぎてついていけませんが…。ワイバーンの肉は高級な食材でこれだけあれば町に持っていけば大金を手に入れられますよ。」
アキラ「畏まる必要はないと言ったが?まぁその話し方がよければそれでいいけど。」
シュラ「そりゃ…、俺も元傭兵で礼儀作法なんて知りやせんが主君に向かってこんなしゃべり方でいいんですかい?」
アキラ「ああ。別に構わない。その方が俺も気が楽だからな。」
それからシュラに少しワイバーンについて話を聞いた。
ワイバーンはドラゴン族の一種でありながら知能が低く魔獣に含まれているそうだ。簡単に言えば類人猿だからと言って人間の仲間ではないということと近い。その肉は今食って俺が感想を述べた通り羽の生えた巨大トカゲのような姿のくせにおいしい。
たださすがにドラゴンの一種なだけあって単体でも滅茶苦茶強い。人間族ならワイバーン一匹で国家存亡の危機。大ヴァーラント魔帝国でも下位の六将軍が出なければならないレベルかもしれない。もちろん六将軍ならば勝てる相手ではあるが万全を期すのならという意味だ。魔人族ならば訓練された兵をある程度投入すればワイバーンを狩ることはできるだろう。余計な被害を出さないことや確実にワイバーンを仕留めるには六将軍クラスの者が対処するほうが望ましいというだけのことにすぎない。
ワイバーンは自由に空を飛ぶので対空戦が出来る者か地上で迎え撃つならばよほどの実力差のある者でなければ危険だ。その上ワイバーンは一定数の群れで行動するらしいのでさらに危険度が跳ね上がる。ただし個体数はそれほど多くない上に本来は高い山の上などに生息していてこんなところまで下りてくることは稀だと言っていた。
俺達が丁度ここにいる間に滅多に山から下りてこないワイバーンが襲撃してくる…。偶然にしては出来すぎだが滅多にないとは言っても絶対にないというわけではない。それにジェイドが胸騒ぎというか予感というかがすると言っていたので俺達を狙って襲ってきたというよりはここが襲撃される予感をジェイドが感じ取ったから俺達がここに残ったという感じだろう。
というかジェイドよ………。嫌な予感がするからここに残った方が良いって残ったら巻き込まれたじゃないか。こういう場合はここに居たら悪い予感がするから立ち去った方が良いって進言するべきだったんじゃないのか?村の安全を考えるのなら確かにジェイドの言う通りだったわけだが俺達はこの国の兵士でもなく住民ですらない。この国の村のために俺達が身の危険…、というほどではないが苦労して助けてやる謂れはない。
ミコ「大勢亡くなったんだね………。」
そこへミコがやってきた。死んだ者達に祈りを捧げていたようだ。
アキラ「見た目が少し違うからという程度のことで人を虐げて、その者が働いて手に入れた食い物を奪おうとしていたような奴らだ。その上守ってやろうとした親衛隊の言葉まで無視して勝手な行動をしたような奴らなど死んでもやむを得まい。」
ミコ「それはそうだけど…。アキラ君なら皆助けられたのに…。」
アキラ「勘違いするなよミコ。俺は正義の味方でもないし偽善者でもない。俺にとっては俺の身内や仲間が一番大切だ。その大切な者を危険に晒してまで、まともな奴ならともかくゴミのような奴らを助けてやるつもりはない。この村の者共は俺にとって助けるに値しないクズだった。だから俺は助けなかった。それだけだ。」
ミコ「うん………。私も知ってて助けに来なかったんだから同罪だよね。ごめんなさいアキラ君。」
アキラ「そんな顔するな。…ほら。な?こっちを見て。」
俺はミコを抱き寄せて顔に手を添えて俺の方を向かせる。
アキラ「ミコの言ってることも間違いじゃない。ワイバーン程度倒すことなど俺達にとっては危険でもない。でもなんでもかんでもただ手を差し伸べて助けてやれば良いということでもないんだ。一生その者の面倒を見てやるつもりならいいだろう。だがここで俺達が偽善で村人を助けたってこの村はよくならなかっただろう。本当の人助けとはその場凌ぎで物をやったり命を助けてやることじゃない。その者が自らより良く生きようとする意志を持たせて尊重してやることだ。」
ミコ「……そうだね。うん…。何度もごめんねアキラ君。でもやっぱり私は人が死ぬのはつらいから………。」
アキラ「いいさ。それがミコの良いところだ。俺はもうそんな心は無くしてしまったからな。ミコがこうして時々俺にブレーキをかけてくれるから俺はあまり大勢の者を殺さずにこれたんだと思う。ありがとうミコ。」
ミコ「うっ、ううん!そんなことないよ!私こそいつもありがとう。………アキラ君。」
アキラ「………ミコ。」
二人がギュッと体を抱き締めあい顔がそっと近づく。
シュリ「うわぁぁ。ドキドキ。」
シュラ「こらシュリ。静かにしないか。これから良いところなんだから………。」
ミコ「―――ッ!」
シュリとシュラの声で我に返ったミコは真っ赤になって俺から離れた。
アキラ「ゴホンッ。それで村の方はどうなった?」
俺は軽く誤魔化しながら後始末の進捗状況を確認したのだった。
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シュリはジェイドに懐いている。まぁはっきり言えば懐いているというかあれは惚れているな。ジェイドさんジェイドさんと後をついてまわっている。尻尾を振りながら相手に付いて行くその姿はまさに大好きな飼い主の後にずっと付いてまわる犬のようだ。
ジェイド「アキラ。こっちのワイバーンはどうだ?」
アキラ「それはもう食えるような状態じゃない。魔獣が寄ってこないように焼却処分するほうにまわしてくれ。」
折角ワイバーンを狩ったので食える分だけ持っていこうと思い親衛隊に食えそうな物だけ集めてもらった。食えそうに無い状態の物などは放置しておけば血の臭いにつられて魔獣が寄ってくるだろうと思い焼却処分することにした。その選別のためにジェイドが俺に近づいてくるとジェイドの後ろからシュリも付いて来る。
シュリ「………。」
ジェイド「アキラ。これはどうだ?」
アキラ「………。それは持って行こう。」
シュリ「………。」
非常にやりにくい。ジェイドは気にしていないようだがジェイドの後ろからじっとシュリが俺を見つめている。いや、これは睨んでいる。仇を見るような目でこっそり睨んでいる。
シュリ「たしかに私はアキラさんにメイドとして雇っていただきましたが例え主といえど恋は別問題です。ジェイドさんは渡しません!」
ジェイド「………。」
アキラ「………。」
いきなり宣言されてしまった。俺は別にジェイドのことを異性として何らかの感情を持ったことはないしこれからもない。
ジェイド「なんてことを言うんだ。アキラは俺にとって恩人であり命を捧げる主だ。そんな疾しい感情などない。」
シュリ「本当にそう言い切れますか?」
ジェイド「それはもちろん………。」
シュリ「もちろん?ありますよね?疾しい気持ちが。アキラさんにデートに誘われれば喜んで行きますよね?」
ジェイド「うぐっ………。」
シュリ「ジェイドさんを見ていればわかります。アキラさんの前では張り切っているしアキラさんと話す時はうれしそうだし遠くからもちらちらアキラさんを見ています。好きなんですよね?アキラさんのことが。」
ジェイド「いや………、それは………、ここでは言えないというか………。」
シュリ「いえ。今ここではっきり言ってください。アキラさんと私の前で。さぁ!さぁ!」
ジェイド「………。」
ジェイドが俺を見つめてくる。顔を逸らしたり、ポリポリ頬を掻いたり、ちょっとソワソワ体を揺すったり、落ち着かない様子でしばらく迷っていた。
ジェイド「よしっ……。アキラ!俺はアキラのことを愛している!」
アキラ「ふぅん。それで?俺はお前と男女の仲になる気はないぞ。部下としては信頼しているが俺は女が好きなんだ。男とどうこうなる気はない。」
ジェイド「ああ。それでもいい。ただ俺の気持ちを伝えただけだ。皇太子も真っ直ぐにアキラに気持ちを伝えていたのに俺はコソコソと自分の心の中に仕舞いこんでアキラの側にいるだけで満足しているだけだった。でも今シュリに言われてわかった。いや、改めて思った。やっぱり俺はアキラを愛している。命を捧げた主君というのは変わらない。だけど女性としても愛しているんだ。それだけは知っておいてくれ。」
アキラ「わかった。」
シュリ「やっぱり振られましたねジェイドさん。私が慰めてあげます。」
シュリは振られたジェイドに満面の笑みを向けてそう言い放った。結果がわかっていて焚き付けたのだ。シュリは思ったよりも悪い性格をしているのかもしれない。
ジェイド「いや。俺は別に落ち込んでいないよ。前からわかっていたことだ。俺はこんな姿だしアキラと種族も違うし………。」
俺はそこで堪らず割って入った。
アキラ「ちょっと待て。俺がお前を振ったのは異種族だからでも姿が特殊だからでもない。そこは履き違えるなよ。」
シュリ「だったらアキラさんは特異な姿の私やジェイドさんを見てもなんとも思わないんですか?受け入れることができるんですか?」
シュリは真っ直ぐに俺を見つめてくる。
アキラ「ああ。俺は異種族の嫁がいっぱいいる。ジェイドの姿が普通と違うからと言って俺は何も思わない。俺からすればジェイドと普通のワーウルフの違いなど何が違うのかとしか思わない。俺はシュリは可愛いと思うぞ。ただジェイドを振った理由は俺が女が好きで嫁はいっぱい居るが夫はいない。それが全てだ。夫を迎えるつもりはない。」
シュリ「私が可愛い………?女が好き?嫁がいっぱい?………はっ!まさか!」
シュリはまた自分の体を抱いて後ずさった。
アキラ「別にシュリを狙ってないからな。ともかく紹介した通り嫁はいっぱいいるが夫はいない。そしてこれからも夫を迎えることはない。それが答えだ。」
ジェイド「俺はそれでもいいよ。アキラと結ばれるとは思っていないさ。」
シュリ「………わかりました。それでは私もジェイドさんを諦めません。ジェイドさんが振り向いてくれるまで頑張ります。」
アキラ「ああ。それでいいんじゃないか。俺としてはシュリを応援するよ。」
シュリ「………どうしてですか?」
アキラ「俺が応える気がないのにずっと俺のことを想って独り身だとジェイドが可哀想だろう?さっさと俺のことなんて忘れてシュリのような良い娘と結ばれて幸せになってもらいたい。応援するのは当たり前だろう?」
シュリ「ではこれからジェイドさんを振り向かせるのに協力してくださいね。」
アキラ「ああ。わかった。」
ジェイド「そういうことはせめて本人のいないところで言ってくれないかな………。」
こうして俺とシュリはジェイドをシュリにメロメロにさせるための協力関係を結んだのだった。
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シュリの村から出発して旅を再開する。ジェイドとくっつけるのに協力すると言ってからシュリは俺に恋の相談のようなことをするようになった。その時にシュリの知っている他の者達の秘密なども教えてもらっている。
シュリは普段俺達の食事の準備や洗濯などの家事をしているので早くも色々と各人の秘密なども知っているようだ。どういうことかと言えば例えばであるがおねしょをして下着を汚したとすればそれを洗濯するシュリにはバレてしまうということだ。さすがに実際におねしょをするような者はいないのであくまで例えだ。さすがに幼児化しているクロですらおねしょはしない。
ともかく家事とはその人物の生活と密接に関わっている。生活に関わっているということは色々と秘密に接する機会があるということだ。すでに何人かはシュリにすごい秘密を握られて頭が上がらない者もいる。シュリは影の支配者になりつつあるかもしれない。
そして今日も全ての家事が終わりテントで休みながらシュリは俺と嫁達と一緒に恋話に花を咲かせている。
シュリ「どうすればジェイドさんが振り向いてくれると思いますか?」
ミコ「う~ん………。もう想いは伝えてあるのならあとはそっと寄り添いながら待ち続けるかなぁ。」
シュリ「ミコさんは消極的すぎます。それじゃ逃がしてしまいますよ。」
ミコ「うぅっ。確かに一度はアキラ君と離れ離れになったし返す言葉もないよ…。」
ティア「押し倒してしまいましょう。後はなし崩しで責任を取れって言えばきっと責任を取ってくれますよ。」
ティア………。それはスイとウンディーネが言ってたことじゃないか………。こうしてこの家系ではこれが常套手段として受け継がれていくのだろうか?
シュリ「それもいいんですけど私の方が力も弱いし速度も遅いのでそれは難しそうです。」
皆でワイワイと話しているが一人物思いに耽って会話に参加していない嫁がいる。
シルヴェストル「………。」
シュリ「シルヴェストルさんはどう思いますか?」
シルヴェストル「お?おおっ…。すまぬ。聞いてなかったのじゃ…。」
シュリ「もう!ですから………。」
シュリがまた説明しているがシルヴェストルは上の空だ。最近シルヴェストルはよくジェイドを追い掛け回すシュリを見つめている。もちろん恋する熱い視線というわけじゃない。思い詰めたような顔でシュリがジェイドを追う姿を見ているのだ。
あれからシルヴェストルとは進展がない。師匠は様子を見るべきと言っていたがそろそろこちらからも何か行動した方が良いだろうか。俺はぼんやりとそんなことを考えていた。
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今日もまたシュリはジェイドを追い掛け回していた。シルヴェストルはその様子を眺めている。
シルヴェストル「(どのような姿の違いがあろうと己の心に正直に………かの………。)」
シルヴェストルはぼそりと呟いた。独り言を言ったつもりもなかったのだろう。そこに親衛隊の一人ダザーが現れシルヴェストルを呼び出した。
ダザー「シルヴェストル様。少しよろしいでしょうか?大事なお話があります。」
シルヴェストル「………うむ。」
シルヴェストルはダザーに付いて移動する。俺はもちろん気配を完全に消してこっそり後をつける。少し離れた林の中で先導していたダザーは立ち止まりシルヴェストルに向き直った。
ダザー「自分は…いえ!私はシルヴェストル様のことをお慕いしております。最初はオーレイテュイア様やシルヴェストル様のような精霊族に興味があって親衛隊に入りました。ですが旅をしている間にシルヴェストル様に懸想するようになったのです。」
普段あまりしゃべらないダザーが一気に捲くし立てる。無口で硬いしゃべり方をするダザーと同一人物とは思えない。だがむしろこちらこそが本当のダザーなのだろう。いつもは深々と被っているフードを脱いで素顔を晒す。中性的で男か女かわかりにくい思春期前の少年少女のような幼い顔立ちに見える。だがダザーが女性であることはもう知っている。リカと一緒に風呂に入っていたからな。
シルヴェストル「………。わしは………。」
ダザー「良いのです。シルヴェストル様がアキラ様をお慕いしていることもわかっています。ただジェイド隊長とシュリを見ていて例え叶わぬ想いであっても大切な相手に想いを伝えたい。そう思ってお伝えしただけなのです。分不相応なことだとわかっています。処罰していただいても構いません。ただ私はどうしてもシルヴェストル様にこの気持ちをお伝えしたかった。それだけなのです。」
ダザーは頭を下げて想いの丈をぶちまけた。シルヴェストルはその想いを受けてただ黙っている。
シルヴェストル「………。そなたの想いは確かに受け取った。ただわしはそなたの想いには応えてやれぬ。じゃがお陰でわしの腹も決まった。礼を言うぞダザー。それから処罰を決めるのはわしではない。そしてわしとしてはダザーに処罰など与えて欲しくない。のう?アキラ?」
アキラ「気付いていたのか。」
俺の隠形は完璧だ。師匠ですら今の俺がどこにいるかわからないだろう。もちろん精霊族だけがわかる精霊王の気配も絶っている。シルヴェストルでもわかるはずはない………はずだった。
シルヴェストル「どこにおるかまではわからぬがわしらが離れてすぐにアキラの気配が消えれば付いてきておるじゃろうとすぐにわかるのじゃ。」
アキラ「なるほどな………。」
それはそうか。シルヴェストルが呼び出されて移動しだしたら途端に俺の気配が完全に消えれば後をつけていると考えるのが普通だろう。
ダザー「アキラ様の室に懸想を抱いた罪。如何様な処罰でもお受けいたします。」
ダザーは俺に向かって頭を下げる。
アキラ「力ずくで襲い掛かったとでもなれば処罰を与えるだろうが人を想い、その想いを伝えるだけで罰せられるはずもない。そして想いを断ち切れとも諦めろとも言わない。その想いを持ってこれからもシルヴェストルを守ってくれるのなら俺にとっては良いことだ。」
ダザー「ですが私はオーレイテュイア様とシルヴェストル様に近づくためにアキラ親衛隊に入ったのです。これは主君アキラ様への裏切りです。」
口調はマシになったが性格はお堅い性格のままのようだな。
アキラ「お前は勘違いをしているな。アキラ親衛隊は名前上そうなっているし指揮系統として俺が最上位にあるだけで俺に忠誠を誓い俺を守るためにある組織じゃない。俺や俺の嫁達、仲間達の中に守りたい者がいる者が集まって出来たのがアキラ親衛隊だ。だからお前がシルヴェストルのために親衛隊にいることは何ら違反でも裏切りでもない。お前が親衛隊をやめたくなるその時まで好きなだけ親衛隊にいればいい。」
ダザー「はっ!この身にかえましても必ずや!」
ダザーは涙を流しながら跪き頭を垂れた。
アキラ「ふぅ…。相変わらずお堅い性格だな。それに俺は女の子の涙に弱いんだ。もう泣くなよ。」
ダザー「え?なっ、なぜそれを?」
アキラ「あ?女だってことか?俺に隠せると思ってたのか?だいたいなぜ隠す?俺が女好きだから襲われるとでも思ったか?」
ダザー「いえ!決してそういうわけでは………。」
アキラ「ふふっ。冗談だ。わかってるよ。」
慌てるダザーに俺は軽く笑いかける。
ダザー「………。」
シルヴェストル「アキラ………。ダザーまで落としてどうするのじゃ………。」
アキラ「え?」
ダザー「シルヴェストル様への想いも忘れません。ですが新しい恋も見つけてしまいました。」
ダザーが頬を赤く染めて俺を見つめている。………。
アキラ「さぁ。一件落着したところで戻ろうか?」
俺はなかったことにして帰る提案をする。
シルヴェストル「ちょっと待ってほしいのじゃ。わしからもアキラに話があるのじゃ。」
シルヴェストルが俺の前にやってくる。目の前で浮かんでいるシルヴェストルと見詰め合う。
シルヴェストル「わしも腹が決まったのじゃ。ジェイドとシュリも、ダザーも、見た目も種族も性別も超えて己の想いを貫いておるのじゃ。じゃからわしも言う。わしはアキラが大好きじゃ。ずっと側におりたい。じゃからわしの気持ちも受けとっておくれアキラ。」
シルヴェストルが俺の胸に飛びついてくる。俺はそっとシルヴェストルを抱きとめる。
アキラ「ああ。当たり前だ。もうずっと前からシルヴェストルは俺の嫁だったんだからな。誰にも渡さない。」
シルヴェストル「―――ッ!」
この瞬間シルヴェストルと俺の心は繋がった。
シルヴェストル「これが…。これが心が繋がるということじゃったのか。アキラの想いが流れ込んでくるのじゃ。………アキラはずっとこれほどわしを想っておってくれたのじゃ。それなのに…、それなのにわしのなんと愚かなことか………。アキラを信じられず己の想いも貫けず………。許してほしいのじゃアキラ。」
アキラ「許すも何もない。最初から怒ってもいない。俺の想いはわかっているんだろう?今はただこうしてシルヴェストルと繋がったことがうれしい。」
シルヴェストル「うむ………。うむ………。」
その後暫くはシルヴェストルは俺の胸で泣き続けた。ダザーがうらやましそうに赤い顔でモジモジしながらこちらを見ていたがそれには気付かない振りをしてただシルヴェストルを抱き締め続けた。
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ミコ「おめでとうシルヴェストルちゃん!」
狐神「ようやくだねぇ。」
フラン「おめでとうございます。」
ティア「よかった…。シルヴェストルさまぁぁぁ。よかったです~~~。」
ティアは自分のことのように喜んで泣いていた。
ルリ「………ん。悩むから良くない。最初から素直になればよかった。」
ルリの言う通りではあるが誰も彼もがルリのようにすぐに素直になれるわけじゃない。
キュウ「おめでとうございますぅ。次はぁ、私ですよねぇ?」
ガウ「がうがう。」
これはガウなりのお祝いの言葉なのだろう。俺にはガウのがうがうという言葉の意味の違いは聞き分けられないがそういうことだと思っておくことにする。
シルヴェストル「うむ。心配と迷惑をかけたのじゃ。じゃがこれでわしもようやくアキラの本当の嫁になれたのじゃ!」
そう言いながらシルヴェストルが俺の膝の上にダイブしてくる。今日はお祝いにシルヴェストルが俺を独占しても誰も何も言わない。さっきから存分に俺に甘えている。
シュリ「それでは次はどうすれば私とジェイドさんが進展するか考えてください。」
シュリがしれっと混ざっている。こいつは自分がメイドとかいう自覚はなさそうだ。主とその妻のプライベート空間にどかどかと割り込んでくる。
ブリレ「主様ぁ。ボクもボクも。」
ブリレが右腕に抱き付いて来る。
ハゼリ「ブリレ!抜け駆けは許しませんよ。ハゼリもかまってくださいませ主様。」
ハゼリが左腕に抱き付いて来る。これも予定のうちなのか嫁達は咎めない。そういえば最近何日かブリレとハゼリは俺から遠ざけられていた。今日が丁度二人のローテーションの日だったのかもしれない。
だが残念なことに今日はシルヴェストルと心が繋がりお祝いに優先されることになったから何とか少しでもかまってもらおうと甘えているのだろう。今日はこの三人を中心に甘えさせてあげよう。そう思って今日は床に着くのだった。




