第七十一話「ファングの成り立ち」
翌日すぐに出発するのかと思っていたがそうはならなかった。赤の魔神がしばらく泊まっていけといい師匠がそれに応じたのでしばらくここに留まることになったのだ。
赤の魔神が俺達を留めさせたのは飯が目当てっぽい…。昨晩も一人でかなりの量を『うまい!うまい!』と言いながら食べていた。一応ファングとの交渉も合意のようなものには至ったが詳細は決まっていないのでそちらの処理もあると言えばあるので俺としても強く反対する理由はない。ついでにここに留まっているうちにクロの封印を解除する方法も研究しようと思っている。
それならばとガウが赤の魔神と遊びだした。
ガウ「がうがうっ!遊ぶの!」
赤の魔神「おいおい。あたしは子守りは苦手だぞ。」
アキラ「俺が結界を張ってやるから龍装励起で全力でやったらどうだ?」
赤の魔神「は?そんなことしたらこのガキ消し炭も残らず消滅するぞ?」
ガウ「がうの方が強いの。」
アキラ「ガウ。制限解除は結界を張ってからにしろよ。」
ガウ「がうがうっ!」
赤の魔神「本気か?」
アキラ「まずは結界に入って対峙してみろよ。それで無茶だと思えばやめればいい。」
赤の魔神「やれやれ………。」
こうしてガウと赤の魔神が少し離れた場所まで移動して対峙する。俺はそれを見届けて結界を張る。その時閃きで結界に工夫を凝らした。中の様子や神力が外に漏れないように出来ないかと思ったのだ。色々なものを遮断できる結界が張れる以上は神力を遮断する結界や視界を遮断する結界もできるのではと考え色々試してみた。
狐神「へぇ。アキラは器用なことをするね。私でもこんな結界は張れないよ。」
アキラ「そうなんですか?」
狐神「ああ。この結界があれば皆も外に知られずに能力制限解除出来るかもね。」
アキラ「それはいいですね。今の全力の皆の能力もどれくらいになってるかわかりませんし確かめた方がいいかもしれませんね。」
狐神「そうだね。」
俺達が話をしている間にガウが能力制限を解除したようだ。ちなみに俺の嫁や仲間は結界の内側にいるのでガウと赤の魔神の神力や様子がわかる。その観戦している俺達は師匠の防御結界によって守られているので安全に観戦だけできる。
ガウ「がうぅぅぅっ!!!」
久しぶりの全力とあってガウは張り切っているようだ。気合が違う。そして一気にガウの妖力が膨れ上がる。
狐神「ふむ…。思ったより低いね。」
ミコ「そうですか?ガウちゃんすごいと思いますよ?」
フラン「そうですよね。私達じゃ束になっても勝てません。」
ティア「妖怪族というのはここまですごいものなのですか?」
シルヴェストル「確かにの。精霊族ではこれほどまで至った者はこれまでもこれからもおらぬじゃろう。」
ルリ「………ん。ルリは弱い。」
キュウ「むしろぉ、私の場違い感がぁ、ものすごいですぅ。」
狐神「二人もそのうち強くなるから安心しなよ。」
嫁達は割と平然と受け止めているな。太刀の獣神と親衛隊は初めて間近でガウの本気を見て白目を向いて気を失いそうだ。ジェイドだけは師匠とクロの戦いを間近で見たことがあるからそれよりは劣るガウに驚きはしてもまだ平気ではあるようだった。五龍王とバフォーメはこれくらい当たり前という感じで受け止めているようだな。
クロ「こいつも第五階位かよ。なんでアキラの周りにはこんな奴がゴロゴロいるんだよ?」
アキラ「周りにゴロゴロいるっていうか俺の周りにいる間にそうなると言うか?」
クロ「あぁ?意味わかんねぇ。」
アキラ「わからないならわからないでそういうものだと思っておけよ。」
もうクロは放っておいてガウの方を観察する。
赤の魔神「なんだこりゃぁ…。黒の魔神に匹敵しそうなほどじゃないかっ!はっ!あははははっ!いいぞ!やろう!全力で!龍装励起!」
赤の魔神もやる気になったようだ。またあの龍の鱗のような鎧を呼び出す。その後二人は暫く遊んでいたのだった。
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二人の遊びの結果は言うまでもない。ガウが軽くじゃれただけで赤の魔神はボロボロにされていた。もちろんガウは手加減も絶妙にうまいので死なせたり大怪我させたりするようなことはない。
ガウ「がうがう!」
久しぶりの全力解放でうれしいのかガウは相手を変えてさらに遊んでいる。
皆の能力制限を解除して全力を測定しなおした。大雑把にまとめてみる。
狐神………第四階位相当。クロが数十人掛かりでも師匠が勝つくらいになっている。
ガウ・五龍王・クロ………第五階位相当。この中ではまだクロが一番強い。その次がガウで五龍王は二人に比べてやや劣る。ただし五人で戦えばクロと同等以上になる。
バフォーメ………第六階位相当。いつの間にか大幅にパワーアップ。理由は簡単。魂の繋がりがある上に俺の神力で満たされたボックス内に常にいて力を受け取り続けているから。他の悪魔達も大変なことになっていそうな予感はあるが気付かない振りをして放置している。
ミコ・フラン・赤の魔神(龍装励起状態)………第七階位相当。ミコとフランも滅茶苦茶強くなっている。龍装励起装備の赤の魔神と同程度。ただしミコは身体能力では赤の魔神に勝てるが死の四重奏を食らえば耐えられない。逆にフランは身体能力では劣るが魔法では死の四重奏にも勝てる。戦いの流れ次第で誰が勝ってもおかしくないほどの差しかない。
ティア・シルヴェストル・赤の魔神(ノーマル状態)………第八階位相当。最近では徐々にティアの方が強くなりつつある。シルヴェストルは心が繋がっていないのでこのまま時間がすぎればティアとの差は開くだろう。
ルリ・エン・スイ・ポイニクス・ムルキベル………第九階位相当。ルリもあっという間に強くなっている。すぐに心が繋がったのが大きいかもしれない。エンとスイも暫く一緒に行動している間に勝手に強くなっている。ポイニクスとムルキベルもこの辺りと思われる。
キュウ(全力月兎解放状態)・太刀の獣神………第十階位相当。キュウが月兎解放を全力で行えば太刀の獣神を上回る。ただし自我のほとんどはなくなり別人のようになる模様。他にも精霊神や○霊神などほとんどの神がこのクラスだ。ただし神になっているので階位として第十階位であってこれより下の者より強いとは限らない。人間の神などは第十階位相当でもこれより下に言う者より遥かに弱い。
キュウ(制御可能な月兎解放状態)・ジェイド………もうすぐ神に届くかどうかというところ。
マンモン・フリード・サタン・バアルゼブル・親衛隊………だいたい名前の書いてある順の強さ。
キュウ(ノーマル状態)・ロベール・パックス・下位六将軍・ティーゲ・四方鎮守・精霊王等………書いてある通りの順とは限らない。神以下の中で強いと思われるクラス。
他にも忘れている者や当時と強さの違う者もいるだろうと思われるのでこれが現時点で正確とは限らない。あくまで大雑把に俺が知っている当時を基準に考えている。
皆の強さの確認が終わったので俺は少し離れて様子を見ているだけにする。俺は全力解放していないが第三階位辺りまで解放した時点でこの結界でも隠し切れそうになかったので止めた。そこから自分の感覚で推測すると現時点での俺の全力は第二階位の上か第一階位の下というところだろうか。ただしただの俺の予想なのでそれが正しいとは限らない。
もし俺の階位の予想が正しければ五龍王に神力を吸われた時でも百万分の五や一億分の五くらいだったわけだ。道理で微々たる量しか吸われていないと思ったはずだ。…それにこれはただの通常状態での神力量の話でしかない。俺は複数の力を混ぜ合わせることができる。すると途端にその力は跳ね上がる。波がお互いに干渉しあうと一気に波が高くなるのと同じようなものなのかもしれない。
そうやって俺が色々と整理したり脳内シミュレートしていると赤の魔神が近寄ってきていた。
赤の魔神「あんたら一体どうなってんだ?こんな強い奴らが一纏めになって………。あたしより強い奴がこんなにゴロゴロいるとは思ってなかった。世界征服でもする気か?」
アキラ「前に言っただろう?俺は世界なんて興味ない。それより俺も聞きたいことがある。お前の龍装励起って何だあれ?あの力は龍力か?」
赤の魔神「………。」
赤の魔神はすぐには答えず目を瞑って腕を組んだ。
赤の魔神「ありゃあたしが昔死に掛けてたドラゴン族の力を奪って取り込んだんだ。」
アキラ「なぜ嘘をつく?」
赤の魔神「あ?何が嘘なんだ?」
赤の魔神はちょっとイライラしているような顔で俺を見つめ返す。あまり触れられたくない過去だったか?それなら言いたくないと言えばよかった。いい加減な嘘で誤魔化すような真似は俺も嫌いだし赤の魔神もそんな性格じゃないと思っていたんだが…。
アキラ「あの力はお前を守ろうとしている。無理やり奪ったのならああはならない。なにしろお前本人より鎧の方が力が強いからな。鎧の力の方がお前に協力しているからこそあれだけ自在に扱えるんだ。」
赤の魔神「………。」
二人で暫く見詰め合う。すると赤の魔神はため息を吐いてぽつぽつと話し始めた。
赤の魔神「はぁ………。あれの元の持ち主がドラゴン族で死に掛けていてあたしが譲り受けたのは本当だ。今のドラゴン族は腑抜けの集まりさ。あの鎧はそれを憂いて変えようとした馬鹿が遺した遺産だ。」
太古の大戦で大きな枷を背負い多くの同胞を失ったドラゴン族はその後世界に干渉することをやめ自分達の勢力圏に引き篭もった。今後新たな神が生まれることのないドラゴン族は種族としてこれ以上の進化の希望もほぼなく大戦であまりに多くの血を流しすぎたために争いも避けるようになった。
未だ世界に大きな影響を与え得るだけの力を持ちながら他種族と一切干渉せず東大陸のドラゴニアに引き篭もるドラゴン族を見て一人のドラゴン族の若者は『このままでは良くない。ドラゴン族を変えよう。』と奮い立った。
その若者は自分の考えに賛同する仲間を集めようと思った。だが東大陸を隈無く旅して仲間を募ったが誰一人賛同する者はいなかった。そこでその若者はたった一人でドラゴニアに反旗を翻した。
自分は反逆者として捕らえられて殺されてもいい。ただドラゴン族がその誇りと勇気と闘争心を取り戻してくれれば………。
そう思っていた若者の心は打ち砕かれた。反旗を翻し領土を奪い国を建ててもドラゴニアは一度たりとも討伐軍を送ってくることはなかった。ただ奪われた地に住む住民達にドラゴニアに帰属したければ逃れてくるようにと通達を出しただけだった。
若者は絶望した。『ここまでか!ここまで誇りを失ったのかっ!ならば俺はドラゴン族の首を噛み切る牙となろうっ!』。その若者はドラゴン族が闘争に目覚めるか自分に滅ぼされるまで暴れ続ける暴威の化身となった。
それから幾星霜、若者だった者は暴れ続け多くの同胞と戦ってきた。だがドラゴン族は相変わらず自らの身の危険となれば多少戦ったり逃げたりしようとはするが若者だった者をどうにかしようとすることはなかった。若者だった者とてドラゴン族の中で一番強いというわけではない。長い年月の間に敗れることも何度もあった。それにも関わらず誰一人その者を殺すことはなかった。ドラゴン族達はいつか改心するだろう、放っておけばそのうちやめるだろう、と命を奪うことすら避けていたのだ。それがさらに若者だった者の心に絶望を齎した。
『これほど罪を犯し、同胞を殺している自分ですら殺す決断もできぬドラゴン族のなんと滑稽なことか。』
それでもなおドラゴン族が目覚めることを信じて戦い続けていた若者だった者もいつの間にかもう余命幾ばくもない高齢になっていた。最早自力で動くこともできなくなっていた所に一人の女魔人族がやってくる。
そのドラゴンと女魔人族はお互いのことを語らった。ドラゴンはドラゴン族を目覚めさせたかったことを。女魔人族はある人に認められたいが故に力が欲しいことを。
そこで一つの契約がなされる。女魔人族がドラゴンの希望を叶えようとする限りそのドラゴンの力を貸し与えると。ドラゴンは寿命の残り少ない自分に代わって自分の夢を追い続けてくれる後継者が欲しかった。女魔人族はなんとしても力が欲しかった。二人の思惑は一致したのだ。
ドラゴンの力を受け継いだ女魔人族はそこに一つの国を建てた。北大陸にあるものとは別の魔人族のもう一つの国。ドラゴンの望みを忘れぬためにその目的を国名に刻む。こうしてドラゴン族を切り裂く牙の国〝ファング〟は建国されたのだった。
女魔人族はドラゴンの力に頼るばかりではなく己を磨き続けた。やがてその女魔人族は自力で魔人族の神へと至る。その後も己を磨き続けた女魔人族は今では自力で第八階位の神となった。
………
……
…
俺の周囲の者が強すぎるために第八階位と聞いてもあまり強いような気がしないが実際には第八階位と言えば十分強い。ほとんどの神は実質第十階位の者が大半であり第八階位と言えば大獣神に付き従っている三人の獣神くらいしかいない。太刀の獣神が926歳、力と技の獣神が約3700歳、風の獣神が約3200歳。つまり三千年以上生きた神でなければ第八階位には届かない。それが赤の魔神は今約2700歳で第八階位に達している。実際に第八階位に上がったのはもっと前である以上は赤の魔神がどれほど努力してきたかがわかる。師匠も第七階位で三千数百歳なのでこれもすごいことなのだ。人並みはずれた努力と才能がなければ到達し得ない境地ということだ。
アキラ「なるほどな。でもそれなら堂々と言えばよかったんじゃないか?なぜ嘘をついて誤魔化そうとした?」
赤の魔神「別にあたしは嘘なんてついてない!あたしはあたしの目的にためにあのドラゴンの力を奪った。これは本当のことだ。」
赤の魔神は逆切れして顔を背けた。照れているだけだな。
アキラ「ふぅ…。赤の魔神もサバサバした性格の割りに恥ずかしがり屋だな。」
赤の魔神「ばっ!ちがっ!おいっ!違うぞ!アキラは何か勘違いをしている!」
ますます赤の魔神が慌てる。もうちょっとからかってやろうかと思っていたが俺達に声がかかった。
狐神「アキラもちょっと皆の修行を手伝っておくれよ。」
ミコ「赤の魔神さん、もう一度お手合わせお願いできませんか?」
赤の魔神「はははっ。まさか人間族であたしと互角の者がいたなんてなぁ…。今度は勝たせてもらうぞミコ?」
ミコ「練習ですから勝ち負けよりも自分の糧として得るものの方が大事ですよ。」
赤の魔神「なるほどね。それがミコの方法か。あたしはそんな難しいこと考えてこなかった。…じゃ、ちょっとミコの相手してくるぞアキラ。」
アキラ「ああ。俺も師匠の方へ行く。」
俺達はそれぞれ別れて修行に参加したのだった。
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それから数日は皆のびのびと能力制限を解除してストレスを発散したようだ。修行もいつもより激しく普段できないようなことまでやっている。俺はどの道現時点では制限完全解除はできないので修行はほどほどにしてクロの邪神封印を解除するための試行錯誤をしている。
魔獣を捕まえて封印をかけて、何も考えずにただ普通に解除してみたところ封印が解除された余波と急激に体に戻った自分自身の力によって弾け飛んで死んでしまった。
クロ「おいっ!………おい。これ俺も解除したらこうなるのか?」
アキラ「ああ。そうだな。このまま何の策も練らずにただ解除したらこうなる。たぶんこうなるだろうと思ってたから今まで解除してないんだ。ただの確認だからいちいち騒ぐな。」
クロ「お前な………。」
アキラ「なんだよ?文句があるなら今すぐ一か八かで解除してみるか?もしかしたら死なないで耐えるかもしれないぞ?」
クロ「馬鹿っ!やめろっ!今の俺は人間族の子供並なんだぞ!」
アキラ「わかってるよ。だから安全に解除出来る方法を考えてるんだろうが。」
クロ「うぅ~~っ。」
頬を膨らませてクロが唸ってる。ちょっと可愛いな。………落ち着け俺。こいつは黒の魔神だ。見た目はこんなでも中身はあれだ。よく思い出せ。
アキラ「ともかく俺は安全に解除出来る方法を研究するからクロは向こうで遊んでろ。」
クロ「馬鹿にするなよっ!ガキじゃないんだから何で俺が遊ばなきゃならないんだっ!」
アキラ「わかったわかった。じゃあ遊んでなくてもいいからあっちに行ってろ。」
クロ「嫌だっ!俺は眠いんだ!アキラ抱っこ!」
あぁ…。また子供が愚図りだした。
アキラ「はぁ………。まったく世話のかかる奴だな。さっさと来い。」
俺が手招きするとクロがヨチヨチと歩いてくる。何か可愛いな。………だから落ち着け俺。見た目に騙されるな。
俺の前まで歩いて来たクロを抱っこする。するとすぐに寝息が聞こえてきた。この寝付きの良さはちょっと普通じゃない。今のところ命に別状はないように見えるが本当に大丈夫なのか、いつまでも大丈夫なのかは保証がない。なるべく早く解除した方が良いだろう。こうして俺は一人黙々と安全に邪神封印を解除できる方法を研究しているのだった。
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さらに数日が経過しているが未だに邪神封印を解除する方法が見つからない。解除できないと言うと語弊がある。解除自体は出来るがどうやっても封印されていた対象が弾け飛んで死んでしまう。
クロ「まだ方法がわからないのか?」
アキラ「うるさいなっ!俺だって必死に考えてるよっ!」
クロ「なっ、なんだよっ。怒ることないだろ?」
アキラ「あっ………。」
クロが涙目になっている………。
アキラ「すまん………。方法が見つからなくて八つ当たりした。俺は最低だな。」
クロ「………。」
クロは黙って椅子に座っていた俺の足にしがみ付いた。顔は太ももに押し付けられているのでどんな表情をしているのかはわからない。慰めてくれているのか………?
アキラ「悪かったな。まさかここまで面倒になるとは思ってなかった。」
俺はクロの頭を撫でながら謝る。
クロ「これからも抱っこしてくれるなら許してやるよ。」
アキラ「………ふっ。ああ。わかったわかった。ほらっ。」
俺は足にしがみ付いているクロを抱き上げて膝の上に乗せる。
クロ「よし。じゃあ許してやるよ。」
クロの眼はもうトロンとしてきている。俺に抱かれるとすぐに眠るな。
クロ「………一つ一つ、解決………していけば…いい………。くー………。くー………。くー………。」
アキラ「もう寝たのか?………一つ一つ解決?」
………。そうかっ!わかった。邪神封印を安全に解除出来る可能性が出てきた。まずは実験だ。
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それからさらに数日は魔獣に封印を掛けては解除することを繰り返した。そしてとうとう魔獣での実験では中身を殺さずに封印を解除できるようになった。
クロ「おぉ!魔獣が生きてる!大丈夫じゃないか!これで俺も解除できるな。」
アキラ「どうだろうな。魔獣は一見大丈夫なように見えるが内部的なダメージを受けていないとは限らない。例えば脳や精神がおかしくなっていても意思の疎通がはかれない俺達から見れば魔獣がおかしくなっているのかどうか見分けがつかない。今のままいきなりクロに試すのは少し危険だ。」
クロ「じゃあどうするんだよ?誰か他の魔人族にでもかけるつもりか?アキラはそんなこと出来ないだろ?」
アキラ「………そうだな。人体実験や臨床試験をするわけにもいかない。………どうする?」
クロ「俺はアキラを信じるぞ。」
アキラ「………クロ。お前が死んだら世の中に大きな影響がある。お前は簡単に死んじゃだめな存在だ。それでも一か八かで解除してみるつもりか?」
クロ「ああ。俺はそれでいい。アキラなら絶対に大丈夫だと思ってる。」
クロは真っ直ぐに俺を見つめてくる。俺だって大丈夫だとは思っている。だが実際に実行するための最後の一歩が踏み出せない。
クロ「な~に。多少のダメージがあったとしてもアキラが治してくれたらいいさ。」
クロが笑う。………そうだな。そこまで言ってくれるのなら俺も覚悟を決めよう。
アキラ「死にはしないのは保証するが死より苦しい思いをすることになっても文句を言うなよ?」
クロ「馬鹿っ!文句は言うに決まってるだろ?でもアキラがなんとかしてくれるんだろ?」
俺の軽口にも笑いながら答える。よしっ!俺の腹も決まった。あとは実行するだけだ。
アキラ「ああ。どんなことになっても俺が治してやるよ。」
フリードの腕だって治したんだ。俺なら出来る。そう信じる。
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そしてついにクロの邪神封印を解除する時がやってきた。嫁や仲間達皆が見守る中俺は準備を開始する。
アキラ「クロ。覚悟はいいか?」
クロ「ああ。いつでもいいぜ。」
アキラ「よし………。いくぞ!」
クロ「―――ッ!」
アキラ「邪神開封!」
最初の頃に解除失敗していた原因はまず第一に封印が解除された時の衝撃が外側だけでなく内側にも発生していたことだ。簡単に説明するとこの封印は内部と外部を隔てる結界だから防御の結界にも使えると前に説明した通りだが、両者を遮断している物をどけたらその分を埋めようと衝撃が発生するわけだ。そして結界により直前まで中と外が分けられているために内側の衝撃は内側へ、外側の衝撃は外側へと向かう。この衝撃を受けて封印で弱体化されている中にいる者が弾け飛んで死ぬ。
その次に弱体化されている体に元の体に宿っていた力が一気に流れ込み元に戻ろうとする。この時に弱体化された体では戻ってきた力に耐え切れず内部崩壊のようなものを起こしていた。
大まかにはこの二つが主因となって解除すると中の者が即死していたわけだ。まず最初の衝撃だがこれは解除と同時に俺がすぐに防御結界を中の者に張れば防御が可能になる。タイミングさえ失敗しなければこれのクリアはそう難しくはなかった。
問題なのは弱体化している体に一気に流れて戻ってくる力だ。これが強すぎて弱体化している体が耐えられない。これの解決方法はクロが呟いた一つ一つという言葉が鍵だった。俺は邪神封印という一つの封印術を解除しようと考えていた。だがこれではうまくいかなかった。
そもそも邪神封印は一つの力じゃなかったのだ。妖力、魔力、精霊力、獣力を使った複合型の封印だったのだ。だからそれぞれ一つ一つばらばらに考えて解除すればよかった。弱体化した肉体が一気に戻ってくる力に耐えられないのは獣力が体内の力を外に運び出してしまうからだ。
だから最初に獣力の封印だけ反転させて内部の力を増やしておくのだ。一気に戻ったら耐えられないが徐々に戻れば耐えられる。さらに力が戻ってくれば肉体の強度が上がるのでさらに耐えられるようになる好循環が生まれる。
だったら封印を解く前に獣力の封印だけ反転させれば良いかというとそうじゃない。一つだけ反転させようとしても相互に作用している封印のバランスが崩れて封印自体が崩壊する。だから封印を解除する時に順番に徐々に解除していくのだ。獣力の封印だけ反転させるとかゆっくり解除するとかそういうことは実質できない。だからギリギリ崩壊せず内部の者も死なないように順番に連続で変更して解除していく必要がある。これを習得するのに随分魔獣をバラバラにしてしまった。
封印が一気に崩壊しないギリギリで獣力を反転させて体内に力を巡らせる。そうして体内の力が増えれば封印解除で戻ってくる力に耐えられる。耐えられる量が増えれば他の封印を弱めて体内にさらに力を流し込む。連続でこれを繰り返すことでどんどんクロの力が増えていく。そしてとうとう完全に封が解けた。
クロ「おお?戻った。戻ったぞ!」
アキラ「………。」
狐神「………。」
赤の魔神「………。」
クロ「どうした?っていうかお前らでかいな!」
アキラ「馬鹿か…。クロが小さいんだよ。」
クロ「あ?なんで?」
全員「「「「「………。」」」」」
クロの力は確かに戻った。第五階位相当の力がある。だが体は小さいままだった………。
クロ「おおおぉぉぉ!体が戻ってないぞ!どうすんだこれ!」
クロの叫びだけが響き渡っていた。
~~~~~クロの入浴編~~~~~
赤の魔神の家に泊まることになってからアキラは風呂を作って入っていた。俺は風呂とかいちいち入るのは嫌いで川や湖で水浴びすることはあっても風呂なんてあまり入らなかった。太刀の獣神も俺と似た考えなのか風呂には入っていなかった。
それなのにアキラは臭うから入れといって俺達を強制的に風呂に入れようとしてくる。だから俺はアキラが絶対飲めないだろう条件を出して断るつもりだった。
クロ「風呂なんて嫌だ!」
アキラ「クロちょっと汗臭いぞ。これ以上臭うようならもうお前を抱っこしない。」
クロ「ちょっ!そんなのずるいぞ!」
アキラ「何もずるくない。臭いやつなんて抱きたくない。」
クロ「くぅ………。わかった。じゃあアキラが俺を入れてくれるなら風呂に入る。」
どうだ。この条件なら飲めまい。そう思っていた………。
アキラ「ふむ………。」
アキラはそれだけ言うとすたすたと歩いていきいなくなった。俺はそれで終わったと思っていた。しかし………。
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クロ「なんでこんなことになってるんだよ!」
アキラ「今更じたばたするな。クロが言い出したんだろう。」
俺は今アキラと一緒に脱衣所とやらにいる。アキラに裸に剥かれて風呂場に行ってろと言われた。アキラも脱ぐから絶対覗くなと言われている。アキラの能力が高いことは身に染みてよくわかっているので覗こうとすればすぐにばれるのはわかってる。だいたい覗かなくてももうすぐ一糸纏わぬアキラが出てくるんだから危険を冒す必要はない。風呂に入れさせられるのは嫌だとは思ったが裸のアキラと一緒ならむしろ一緒に入りたい。俺はワクワクしながらアキラが脱衣所から出てくるのを待っていた。それなのに………。
クロ「なんじゃこりゃぁぁぁ!」
アキラ「いちいちうるさい奴だな。これは湯帷子という。」
クロ「名前なんて聞いてないんだよ!なんで風呂に入るのにアキラだけ服を着てるんだよ!」
アキラ「だからこれは入浴用の服なんだよ。」
くそっ!アキラと一緒に風呂に入ったらアキラの裸が拝めるかと思ったのに何か変な服を着てやがる。これなら風呂になんて入りたくない。そう思っていたが俺の考えは良い意味で裏切られることになった。
アキラと俺は桶でお湯を浴びる。
クロ「おっ?おっ?おおおっ!」
アキラ「どうした?」
クロ「あっ!いやっ!なんでもない!」
アキラは気付いていない。その湯帷子とやらも万全ではなかった。濡れてアキラの肌に張り付くと微妙に透けて見える。肝心なところが見えそうで見えないがそれがまた想像力をかき立ててドキドキする。ちらちらと俺が盗み見ているのに気付いているのかいないのか。俺はアキラに頭も体も洗われている間中なんとかアキラの体が見えないかと様々な努力をしていた。でも見えそうで見えない。何だこれは。何かの魔法か?そう思わずにはいられないほど見えそうで見えない。
もう無理か。見ることはできないのか!そう思っていたが天は俺を見捨ててはいなかった。
アキラ「じゃあ最後に湯船に浸かってから出るぞ。」
これだっ!これしかない!
クロ「底が深いから抱っこしてくれ!」
アキラ「はぁ…。はいはい。これでいいか?」
アキラは完全に油断している!あっさりと俺を抱きかかえそのまま湯船に向かう。お湯に浸かって完全に全身が濡れて肌に張り付き、俺が抱き着いて目の前にいればきっと透けて見えるはずだ!さぁいざ行かん!桃源郷へ!
………
……
…
それなのに………。俺はすぐに寝落ちしたようだ。気がついたら拭かれて着替えさせられて赤の魔神の家の中で寝かされていた。
………。俺の馬鹿っ!なんで寝ちゃうんだよ!もうちょっとで透けたアキラの肌が見えたかもしれないのに!
今度こそ!今度こそ俺はアキラの素肌を見てやるんだ!
………
……
…
それから俺はアキラに『慣れたら風呂が好きになったみたいだな』なんて言われるほどアキラに風呂に入れてもらったが未だに俺の見たかったものは見れていない。




