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転生無双  作者: 平朝臣
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第六十九話「激突!赤の魔神」


 回廊はやっぱりどこも暇だ。最初はその雄大な景色に感動もするが何度も代わり映えしない景色を見せられたら誰でも飽きる。ちょっとだけ違う点としてはこの東回廊は橋の足場が今までのように地続きというより点々とある小さな島の上に作られているということくらいだろう。


クロ「おいアキラ。疲れたぞ。」


 俺の胸に抱かれているクロがそんなことを言い出した。


アキラ「自力で歩いてもいないクロが何で疲れるんだよ?」


クロ「なんでって言われても知らん。疲れたもんは疲れたんだ。」


 クロが愚図りだした。まったく世話のかかる奴だ。ガウとそれほど変わらないのにクロの方が子供っぽい。子供っぽいというより赤ん坊っぽいぞこれは………。


アキラ「はぁ…。それじゃ飯にするか。」


ガウ「がうがうっ!」


 ちょっと早いが昼飯にすることにした。今回ガウは親衛隊に修行させながら渡っていないので親衛隊もゆっくりできて安心しているようだ。


ルリ「………あっくん。そいつは邪悪。いつまで抱いているの?」


 ルリが仇を見るような目でクロを見つめている。


アキラ「まぁそう邪険にするなよ。こいつをこんな風にしてしまった俺にも落ち度があったんだ。」


ルリ「………そいつはどさくさに紛れてあっくんに甘えてる。」


 確かにちょっとそういう所があるような気はする。だがクロは異常なほど眠ったりしている。ただ単に甘えているだけじゃなくて本当に体が大変なのもあるだろう。こいつがいなくなったら大ヴァーラント魔帝国の力は大きく下がる。そうなれば折角安定しだした国々もまた荒れるだろう。


 国やそこに住む者がどうなろうと俺には関係ない。だが世界が荒れれば俺の旅にも影響が出る。俺が楽に自由に旅をするためには世界が安定してくれているほうが都合が良い。東大陸に着いたら本格的にこの封印を解く準備をしよう。無理に解除して余波でクロが死なないように入念な準備が必要だ。


ブリレ「主様ぁ~。ご飯早く早く~。」


 残念メイドが急かしてくる。その格好からすれば普通はブリレがご飯を用意するべきなんじゃないのか?五龍王達も当たり前と言えば当たり前だが人型になってから食事の量も増えている。体も力も大きくなった分維持するためにたくさん食事が必要なのだろう。また食材の消費量が増えているな。そんなことを考えながらゆっくりと回廊を渡っていった。



  =======



 俺達はついに東大陸に着いた!だが上陸出来ていない。東大陸側には見張りがいた。攻められているはずの南大陸側には見張りも何もいなかったのに不思議なものだ。


キュウ「それはぁ、大樹の民はぁ、森の中でぇ、少人数部隊で迎え撃つのでぇ、門や関所の拠点で戦うことをしないからですぅ。」


アキラ「なるほどな。」


 確かに獣人は個人の能力に頼った戦い方をする。だから連携の取れない大部隊より少人数部隊単位での行動が多いし実際に理に適っている。誤解のないように補足しておくと大部隊でも行動はする。ただ戦闘行為において戦列歩兵のような密集隊形戦術は使わない。散兵のような使い方で少人数部隊を運用する思想だ。


 獣人族のことはいいが問題はどうやって東大陸に上陸するかだ。向こうもこちらに気付いて警戒している。実力で突破するのは容易いがここで揉めたら後々面倒臭いことになるのは目に見えている。


アキラ「おいクロ。お前こういう時のために付いて来たんじゃないのか?何か手はないのか?」


 俺は俺に抱かれて眠そうにしているクロに問いかける。


クロ「ん~?俺は赤の魔神に恨まれてるから俺がのこのこ出ていっても多分末端の兵士に至るまでファングの全員が俺を殺そうと襲い掛かってくると思うぞ。」


アキラ「使えねぇ………。それどころか大迷惑な奴だ。そんな状態のくせに付いて来るとか言ってたのか?」


クロ「アキラが俺をこんな姿にするからだろう!元のままならなんとでもなったさ!」


 クロが俺の胸をバシバシ叩いてくる。だが待って欲しい。なんとでもなったってそれ強行突破のこと言ってないか?俺はそういう強硬手段に頼らず何とかしろと言っているのだ。


ジェイド「俺達が行ってみるのはどうだろう?同じ魔人族だし話も通じるかもしれない。」


 ジェイドが歩み出る。確かに親衛隊とフランがいるので俺達は魔人族の比率が高い。


クロ「どうだろうなぁ。ファングの奴らは大ヴァーラント魔帝国の者とは違うって思って出て行った奴らだからなぁ。赤の魔神は俺を恨んでるしファングの民は大ヴァーラント魔帝国と対立して出て行った連中だ。まともに俺達の話を聞くかどうかもわからん。」


 それはそうだろうなぁ。わざわざこんな離れた場所でドラゴン族の勢力圏を奪ってまで建てた国だ。大ヴァーラント魔帝国に満足していればそんな苦労してまでするはずはない。結局何の策も決まらないままああでもないこうでもないと言っているうちに東大陸側の見張りのすぐ近くまで迫っていた。


兵A「そこで止まれ!それ以上近づくと攻撃する!」


 兵士が声をかけてくる。問答無用で攻撃してこないだけ紳士的だな。


ジェイド「俺達は東大陸に上陸したい。ここを通してもらえないか?」


 一応魔人族のジェイドが前に出て交渉することになっていた。


兵A「ふざけるな!獣人族など通せるか!」


ジェイド「待ってくれ。俺は魔人族ワーウルフだ。」


兵A「そんなワーウルフなんぞ見たことないわ!いい加減な嘘で騙そうとしたって無駄だぞ!」


ジェイド「わかった。じゃあ魔法を見せよう。魔力を使えば俺が魔人族だとわかるだろう?そっちへ攻撃するつもりはないから勘違いしないでくれよ。」


兵A「何を言って………。」


ジェイド「ファイヤーボール。」


 口では埒が明かないと思ったジェイドは魔法を使った。ワーウルフやワーキャットは魔法がそれほど得意ではないはずだが今のジェイドの魔力があれば辺り一帯を火の海にも出来るはずだ。しかし小さな火の玉を打ち上げて空中で小爆発を起こしただけだった。俺より手加減がうまい気がする。俺だって魔法で威力を誤ったのは最初に魔法を使おうとした時だけで他は失敗したことないけどなっ!


兵A「………。」


ジェイド「信じてもらえたか?」


兵A「俺達を騙すために最初からトリックを用意してれば出来なくはないはずだ。それだけで信用するわけにはいかない。」


ジェイド「だったらどうする?指定された魔法でも使ってみせようか?それとも俺の隊の他の魔人族も見せようか?それどころかそこからなら見ているだろう?」


兵A「確かに魔人族らしき者もチラホラいるのはわかっている。だがだからと言ってお前達を通して良い理由にはならない。大体お前達は何者だ?どこから来た?」


ジェイド「どこからって言われてもな。俺は北大陸の生まれで元大ヴァーラント魔帝国西大陸侵攻軍ソドム駐留隊長だった者だ。今はこの者達と大ヴァーラント魔帝国の部隊から抜けて新しい部隊を作った。」


兵A「それが本当だとしてどうやってここまでやってきた?そんな人数で南大陸を横断してきたなんて言うつもりか?お前達が本当に魔人族だったとしても獣人族の手先になって罠を仕掛けているかもしれない。受け入れるわけにはいかない!」


ジェイド「南大陸を旅してきた。大樹の民とも戦ったぞ。………そうだな。知ってるか?大樹の民の王が交代したことを。罠かもしれないから通せないというのならどうすれば通してもらえるんだ?」


兵A「………。」


兵B?「いいだろう。話だけは聞いてやる。通してやれ。」


 兵とは少し装いの違う偉そうな奴が出てきた。もしかしたら隊長とかそういう者かもしれない。俺達ならいざとなればどうとでも出来るしこちらには危険はない。それこそこれが招き入れて俺達を殺す罠だったとしても問題はない。ジェイドが俺を振り返って指示を待っているので一つ頷いて返した。


ジェイド「………感謝する。」


 俺の合図を見たジェイドが受け入れて俺達は通された。兵に周囲を囲まれながらさっきの偉そうな奴についていく。暫く進むとたくさんの建物が建っている場所に着いた。兵達が動き回っていることからここが見張り達の拠点なのだろう。


 どこか建物の中にでも入るのかと思ったが中央広場のような場所で先導していた男が振り返った。周囲は完全に武装した兵達が囲んでいる。


アマイモン「さて…。せめてお前達を殺す相手の名前くらい教えておいてやる。俺はファング四方鎮守将軍の一人、アマイモンだ。冥土の土産にもっていけ。」


 アマイモンの言葉を受けて俺達を囲んでいる兵士達もすぐにでも飛びかかれるように緊張している。だが俺の仲間達は誰一人気にも留めていない。それにしてもアマイモンとはオーバーな名前にも程がある。六将軍も名前負けで恥ずかしい奴らだと思ったがこいつも大概だ。


 魔人族は悪魔の名前をつけるのはやめた方が良いと思う。こいつらじゃ本物の悪魔を目の前にしたら腰を抜かすだろう。こいつは下位の六将軍くらいの強さだな。四方というくらいだから四人だったとしてこれで最高戦力クラスなら大ヴァーラント魔帝国には戦力で劣ることになる。まだ見たことがないがファルクリア最強種族とも言われるドラゴン族とも戦争しているのならこれだけの戦力しかないとは思えないが……。


アキラ「おい。客には茶くらい出すもんじゃないのか?」


アマイモン「………。」


 アマイモンと暫し見詰め合う。


アマイモン「くっ、くっくっくっ。そのクソ度胸だけは認めてやる。おい。椅子とテーブルをもってこい。」


 それを聞いた兵士達が慌てて椅子とテーブルを持ってくる。中央にいくつも置かれた椅子に俺達は腰掛ける。向かいにはアマイモンだけが座っている。だが俺達は気づいている。こいつらの本当の目的は時間稼ぎだ。俺達が着いてから早馬が伝令を持って駆けて行ったのはわかっている。援軍が来るまで時間を稼ぎたいのはこいつらの方なのだろう。


アマイモン「それで獣王が交代したというのはどういうことだ?」


 時間を稼ぎつつ不自然にならないように俺達の話も聞いて情報を得ようというのだろう。尤も信用していない俺達からの情報もまた簡単には信用しないのだろうが………。


ジェイド「ティーガは俺が殺した。」


アマイモン「!?」


 アマイモンが一瞬動揺する。最初から信じる気がないのなら動揺することもないはずだが流石に内容が内容だけに驚いたのかもしれない。


アマイモン「………面白い冗談だな。獣王を殺した?お前が?どうやって?」


ジェイド「………。」


 ジェイドが俺に視線を送ってくる。俺の目を見たジェイドは一瞬でアマイモンの後ろへと移動した。………俺は別に力を誇示しろとかそんな合図は送った覚えはない。ジェイドは時々俺の意を汲んでいるつもりで俺が考えていることと全然違う解釈や行動をすることがある。今回もそれだ。


アマイモン「―――ッ!!!」


ジェイド「こうやって近づいて心臓を貫いただけだ。わかってもらえたか?」


アマイモン「………。お前何者だ?」


ジェイド「元西大陸侵攻軍ソドム駐留隊長のジェイドだと名乗ったはずだが?」


アマイモン「大ヴァーラント魔帝国がこれほどの戦力を持っていると?お前六将軍じゃないのか?」


ジェイド「違う。ただの占領地の駐留部隊の隊長だ。」


アマイモン「大ヴァーラント魔帝国はただの駐留部隊の隊長でもこのレベルの強さだというのか?」


ジェイド「いや………、正直に言えば俺はほとんどの六将軍より強いよ。そしてティーガやあんたよりもな。」


アマイモン「…お前が強いのはわかった。それでティーガを殺したのが本当だとしてそれでどうしてお前らがここにいる?目的は?その後大樹の民はどうなった?」


ジェイド「俺達の目的はあの可愛くて美しくて強くて格好良くて聡明で優しくて仲間思いの女の子のために旅をしている。大樹はティーゲが次の獣王になった。」


 ジェイドが俺を示しながら意味不明なことを言い出した。ジェイドは俺のことをそんな風に感じているのか?半分くらいはジェイドの勘違いだ。強くて残忍、くらいなら大体合ってると思うのだが………。


アマイモン「その女のために旅をしているとは意味がよくわからないが、ティーゲの名前も知っているとは獣人族に随分詳しいな?それになぜティーガが死んでティーゲが生きている?お前の話が本当ならティーゲも殺してないのはなぜだ?」


ジェイド「俺達は大樹に留まっていたからな。ティーゲが死ななかったのはたまたまだ。大怪我は負って瀕死だった。他の幹部も大勢死んだからティーゲしか継げる者がいなかっただけだ。」


アマイモン「大樹に留まっていた?よく殺されなかったな?」


ジェイド「俺達に向かってくればそいつが死ぬだけだ。獣王まであっさり殺されて勝ち目もないのに襲ってくるほど大樹の民も愚かではなかったということだろう。」


アマイモン「ふんっ!ほら話もそこまで言えたら大したものだな。だがな。お前らは一つだけどうしても言い逃れできないことがある。………なぜ太刀の獣神まで一緒にいる?!それこそがお前らが獣人族に協力している証拠じゃないのか?!」


 ドーンッ!と指をつきつけるアマイモン。うん………。まぁ確かになぜか太刀の獣神も一緒にいるよね。


アキラ「もしかして俺達が必要以上に警戒されてたのは太刀の獣神のせいか?」


太刀の獣神「………。」


クロ「かもなぁ。今の俺は顔見知りでもなきゃ気づかれないだろうしなぁ。」


ジェイド「太刀の獣神は倒したら懐いて付いて来ただけだ。」


 ジェイドがさらっとひどい言い方をしたぞ。何か餌をやったら付いて来た犬みたいな言い方だ。


アマイモン「太刀の獣神を倒した?お前がか?」


ジェイド「いや。あっちの魔人族の子だ。」


 ジェイドがフランを示す。


フラン「…注目されるとちょっと恥ずかしいです。」


 フランが赤くなっている。ウィッチの森に引き篭もっていたからあまり目立つことに慣れていないのだろう。モジモジしているのが可笑しくて可愛い。


アマイモン「あ……、あははははっ。あんな子供が?ははははははっ!嘘をつくのならもう少しマシな嘘をついたらどうだ?」


ジェイド「本当のことだからな。事実を捻じ曲げて嘘を付く理由はない。」


アマイモン「くくくっ。久しぶりに面白かったぞ。だがこれで終わりだ。」


 アマイモンでも気付いたらしい。伝令が援軍を連れて戻ってきている。俺達を倒す準備が出来たと思ったのだろう。その中に明らかに神か最低でも神格を得ている者が混ざっている。これが赤の魔神だろうか?


 太刀の獣神より遥かに強いな。太刀の獣神は第十階位らしい。それから計算すればこの気配の持ち主は最低でも第九階位くらいは行ってそうだ。


???「よくもここに顔を出せたもんだな黒の魔神っ!」


 その神クラスの奴が途中から一気に飛んでやってきた。どうやらクロの気配を察して急いできたようだ。太刀の獣神とでは強さの桁が違うので眼中にないのだろう。だがその飛んできた奴は俺の前に降り立ち俺に抱かれているクロを見て一瞬で固まった。


???「あれ?黒の魔神だよな?………違う?」


アキラ「こいつはクロだ。」


???「クロ?もしかして勘違い?別人だったか?」


クロ「人違いじゃねぇよこの阿婆擦れ。」


 クロが堂々と名乗る。俺が誤魔化そうとしたのにこいつは………。


???「はっ!はっはっはっはっ!こりゃ本物だわ!でもなんだそのナリは?その女に甘えてヨチヨチされてるのか?あっはっはっはっ。」


クロ「はっ。相変わらず品のねぇ女だな。赤の魔神。」


赤の魔神「あんたに言われたかぁないね。黒の魔神。」


 やはりこいつが赤の魔神だったようだ。なんというか色々すごい。 赤目赤髪で見た目はほとんど人間族と変わらないが頭に後ろへ曲がった形の角が二本生えている。髪は肩甲骨の下辺りまでの長さだが魔力の影響で常に周囲に広がって浮いている。俺の髪が浮き上がるのと同じ現象だろう。俺は普段は神力を抑えているので髪も降りているがこの女は魔力を放出しっぱなしで髪がずっと浮いている。吊り目で口が大きい。美人は美人の部類だがよくある姐御のイメージそのままのような性質で女性らしさはあまり感じない。長身で巨乳だが筋肉質のマッチョ系お姉さんという感じだ。


 そして上着はビキニアーマーですらない。ただのビキニブラだ。下はカウボーイが穿いていそうな皮っぽいパンツを穿いている。手には一応ナックルのようなものがはめられているが武器がこれだけと判断するのは早計だろう。クロも師匠と戦っていた時にどこかから魔剣を呼び出していた。俺の空間魔法のようなものを持っているわけでもないので武器によっては何かそういう力がある物もあるのだろう。


アマイモン「赤の魔神様。ご足労いただきありがとうございます。」


赤の魔神「最初は太刀の獣神なんてつまらない用で呼び出されたと思ったもんだけどこれは来た甲斐があったかもねぇ。」


 赤の魔神はぐるりと俺達を見渡して満足そうに頷いた。その目には獰猛な光が宿っている。言動からして俺達の強さの一端には気づいているようだが俺達と戦う気か?面倒だな。


アキラ「もういい………。面倒だ。」


赤の魔神「あ?何言って………?―――ッ!!!」


 俺は少しだけ制限を解除して力を解放する。太刀の獣神の時に見せた力とは桁が違う。赤の魔神を悠に上回る赤い魔力が俺の体から吹き出る。


アキラ「俺達はただ東大陸を旅したいだけだ。だがファングが俺達の行く手を阻むつもりならここで全員殺す。好きな方を選べ。」


 俺はゆっくりと立ち上がり周囲を睥睨してから一層威圧を強める。


アマイモン「アヒッ………。」


 アマイモンは変な声を出してひっくり返った。だがアマイモンはまだマシなほうだろう。俺達を囲んでいた兵士達は気絶したり色々垂れ流したりしている奴が続出している。


キュウ「うわぁ…。アキラさんってぇ、こんなに強かったんですねぇ。私もう何度同じこと言ったかわかりません~。でも他に言い様がないですぅ。」


太刀の獣神「………。」


赤の魔神「あはっ!あはははっ!いいね!いいねぇっ!あんたいいよっ!ちょっとあたしと遊んでくれないかい?」


 赤の魔神はますますやる気になったようだ。


アキラ「じゃあちょっと遊んでやろうか。」


ミコ「アキラ君。殺しちゃうの?出来れば、その………。」


アキラ「心配するな。ちょっと遊ぶだけだ。ここで赤の魔神を殺してファング全体から反感を買うより赤の魔神を降して言う事を聞かせた方が楽だろう?」


ミコ「うん。そうだね。」


 俺が殺す気がないと知ってミコは安心したようだ。……俺ってこういう所はミコにまるで信用されてないな。自業自得とはいえちょっと悲しくなる。


アキラ「じゃあクロ。ちょっとどいて………。」


クロ「くー………。くー………。くー………。」


 もう寝てやがる………。さっきまで赤の魔神と話してたのに………。前は師匠が抱いたが何かクロが師匠にべたべたくっつくのはちょっとイラッとするから今回はテーブルの上に寝転がらせる。封印の防御があるからここでも大丈夫だろう。


アキラ「師匠。結界をお願いできますか?」


狐神「はいよ。任せときな。」


 今の俺が戦えば師匠とクロが戦った時ほどではないが周囲に大きな影響が出るだろう。師匠が結界を張ってくれなければ力を振るえない。師匠が結界を引き受けてくれたので俺と赤の魔神は他の者から少し離れる。赤の魔神と一緒に援軍として向かって来ていた者はこの拠点の手前で止まっている。そちらにも余計な被害が出ないように気をつけておいてやることにする。


アキラ「さぁやろうか?」


赤の魔神「こんなゾクゾクするのは久しぶりだよ。それじゃ………あたしから行くよっ!」


 赤の魔神が消えたと思うと俺の後ろに即座に現れる。そのナックルをはめた拳はすでに俺に迫っている。高速移動というわけじゃない。他の者が見れば瞬間移動したように思うだろう。だが俺には効かない。俺の前に立っていたように見えたのは幻覚魔法だ。最初から俺の後ろに隠れていただけにすぎない。マッチョお姉さんのわりに魔法がうまいし芸が細かい。


 俺は後ろを見ることもなく軽く裏拳を出す。当てる目的じゃない。ただ俺が振った拳が作り出した衝撃で赤の魔神は吹き飛ばされていった。


赤の魔神「なんて威力だよ。規格外の化け物めっ!」


 口では悪態をついているがその顔は笑っている。戦闘を楽しんでいるのだろう。俺に敵わないことは百も承知。その上でなお俺と戦いたい。こいつは戦闘狂バトルジャンキーだ。一瞬で決着をつけても良いが少しだけこの戦闘狂に付き合ってやろう。


 赤の魔神が吹き飛んだ所に俺の方が先に周り込む。赤の魔神は俺を追えていなかった。


赤の魔神「がはっ!………なんて速さだっ!あたしがついていけないなんて黒の魔神と戦って以来だよ。」


 飛んできた赤の魔神より先回りしていた俺は赤の魔神の背中を右手だけで受け止める。こんなもの攻撃じゃないと思うだろうがすごい勢いで吹き飛ばされている所を一点だけで急に止められたらその一点は全ての衝撃を受けることになる。膨大な魔力を纏っているので赤の魔神の防御も貫通してしまう。背中を強かに打ちつけた時のように赤の魔神の呼吸が一瞬止まって咳き込む。


アキラ「次はお前の番だ。」


 赤の魔神に攻撃の手番を譲ってやる。


赤の魔神「はっ。あっはっはっはっ!本当に面白いねっ!」


 再び俺との距離を取った赤の魔神は両手に魔力を溜めている。なんだ?見たことがない魔法だ。だがその魔力の流れで何をする気かわかった。こいつが伊達に赤の魔神などと名乗っているわけじゃないとわかる驚きの魔法だ。


 こいつがやろうとしている魔法は一度に複数系統の魔法を同時に使うことだ。少し補足しておく。俺やミコやフランでもほぼ同時というほど連続で複数の魔法を使うことは出来る。あるいは擬似的に同時に複数の魔法を使う方法として先に出しておいて魔力でキープしておき次の魔法を出しそれもキープし同時に撃ち出すという手もある。


 しかしまったく同時に複数の魔法は今まで使ってこなかった。そういう発想がなかったわけではないがやろうと思っても出来なかったのだ。ほんの僅かなタイムラグがあっても良いのなら右手にファイヤーボール左手にウォーターボールと二つを使うことはできる。だが右手一つでまったく同時にファイヤーボールとウォーターボールを発生させることは出来ない。


 それを赤の魔神は今目の前でやっている。マッチョお姉さんのくせに魔法タイプか?めちゃくちゃ魔力操作がうまい。精密さなら俺の方が上だろう。熟練の寿司職人が量らなくとも毎回米粒の数がまったく一緒になるように寿司が握れるのと同じように特定の魔力量を特定のタイミングで完璧に操作するのは俺の方が赤の魔神よりうまい。赤の魔神はそういうのではなく器用なのだ。右手で文字を書きながら左手で絵が描けるような、右耳で一人の話を聞きながら左耳で別人の話を聞けるような、そういう器用さがある。


 俺も決して不器用ではない。ただ今までやったことも見たこともないものをいきなり出来るような器用さはない。こんな魔力の使い方があったとは赤の魔神と戦ってよかった。いい勉強になった。これは後でミコとフランにも教えて練習させよう。俺?俺はもう見ただけでコピー完了している。今はすでにコピーだけじゃなくて改良してさらに高性能になったものを使える。


赤の魔神「魔法が完成するまで余裕の見物か?その余裕が命取りだったね!これは黒の魔神を殺すために生み出した魔法だ!ちょっとくらい強くたって関係ない。三階位上の者ですら殺せるこの魔法を食らって死になっ!!!」


アキラ「クロの方が三階位上ってことは赤の魔神は第八階位だったか。」


赤の魔神「余裕こいてんじゃないよっ!死の四重奏デスカルテット!!!」


 火、水、土、風の属性の四大魔法を同時に織り交ぜた四色に輝く魔法が俺に向かってくる。それも撃ち出したのは右手の分だけだ。左手にはまだ同じ魔法がある。あれは両手で使うつもりではなく片手に一個ずつ同じ魔法を二つ出していたのだ。俺が避けるのを見て追い討ちする気だろう。だから俺は避けずに受け止めた。


赤の魔神「そんなっ!死の四重奏を片手で受け止めた?!そもそもなぜ爆発しない?」


 この魔法は撃ち出すまでは四属性がお互いに干渉しあわないようにコントロールされている。だが対象にぶつかるとそのコントロールが乱れて干渉しあうようになる。お互いに干渉しあう四属性のエネルギーは単独で同じ魔法を使った時を遥かに凌駕するエネルギーが発生する。俺が複数の神力を混ぜ合わせたら大きな力になるのと同じことだろう。属性でもこんなことになるとは考えていなかった。これは今後色々なもので応用が利くだろう。やっぱり赤の魔神と戦ってよかった。


赤の魔神「戦ってる最中に何ぼーっとしてんだよ!あたしを舐めすぎだっ!」


 赤の魔神は俺の懐に飛び込んでいた。左手にはまだ死の四重奏がある。撃ち出さずに直接俺に叩き込むつもりか?右手で俺が受け止めた死の四重奏に小さな魔法を撃ち込む。俺が受け止めて爆発しなかった理由は当たった拍子に乱れるはずの四属性の調和を俺が乱れさせずに維持しているからだ。それに気付いた赤の魔神は刺激を与えることで調和を乱そうと思ったのだろう。そしてその狙い通り俺が受け止めていた魔法は大爆発を起こす。


 さらに赤の魔神は左手に残していたもう一つの魔法を俺に直に当てる。


赤の魔神「龍装励起ドラゴニアフォーム!」


 こんな近くで大爆発を起こせば自分自身も巻き込まれるはずなのにどうするつもりかと思ったが赤の魔神の体にどこかから龍の鱗を思わせる鎧が現れ纏わり着く。そこまでしか見えない。この後は二つの魔法の大爆発で光と音に飲み込まれて目視することは出来なかった。


 ただ感知能力は働いているので目で見えなくともはっきりと状況はわかっている。呼び出した鎧を纏った赤の魔神はさっきの爆発で少し飛ばされ俺との距離がある位置で浮かんでいる。俺は全力で防御したのでダメージはない。全神力を防御に使えば普通なら一瞬で神力が尽きて終わる。だが俺は能力制限している分上限突破しているので全力で防御しても上限突破している分を使い切るまで見た目上減ることはない。だから同レベルの者では絶対に出来ないレベルの攻撃も防御も出来るのだ。見せ掛けの強さや神力量に騙されていては俺達能力制限をしている者の強さは理解出来ない。


赤の魔神「あれを二発もまともに食らって無傷とはどんな化け物だよ。」


 死の四重奏は多少の指向性があるようだ。前に威力を流して集中させてさらに威力を高めている。魔法の後ろにいた赤の魔神はその指向性とは逆方向にいたために今着ている鎧のお陰でダメージを受けなかったのだろう。


アキラ「言葉の割りには楽しそうだな。」


赤の魔神「ああ。楽しいぞ!最高に楽しい!さぁ!第二ラウンドだ!」


アキラ「残念ながらこれまでだ。」


赤の魔神「何を言って………ぐぁっ!!!」


 一瞬で赤の魔神の前に移動した俺の拳がその腹に深々と突き刺さっている。もちろん実際に貫通させているわけじゃない。俺のパンチを受けて赤の魔神の体がくの字に折れ曲がっているだけだ。


アキラ「終わりだな。………さぁ後始末をしようか。」


赤の魔神「………。」


 意識はあるのだろうがしゃべれそうにない赤の魔神を掴んで一緒に皆のいたところへと戻っていったのだった。



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