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転生無双  作者: 平朝臣
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第六十八話「仲間が増える」


 昨晩キュウに新たに眼鏡を作ってあげたという話を知って三玉家から大量の眼鏡の注文が来た。もちろん全部お断りした。ただの意地悪で断ったわけではない。キュウに作った新しい眼鏡は危険なのだ。この眼鏡は解放の制御と封印の両方の能力を持っている。つまり巫女ではない者でも簡単に月兎解放をコントロールできるようになる………ように見える。


 だがこれまで巫女になったことがなく制御と封印をコントロールしたことがない者が眼鏡の力だけでコントロールしようとすれば非常に難しい。今までの巫女は慎重に自分の力量を量って解放をコントロールしてきたはずだ。それを安易に出来るようになってこれまでしたことがない者がやれば必ず暴走するだろう。そしてそれを抑える術はない。何しろ本人か巫女しか暴走を抑えられないのだ。暴走した本人は当然自力で封印などしない。巫女ならば少しずつ解放して限界を超えたとしても少しのところで止めるだろう。だが加減を知らない巫女以外の者が一気に解放してしまっては巫女でも抑えられないほどの解放と暴走をしてしまう可能性があるのだ。そうなればどれほどの大惨事になるか三玉家の者の方がよくわかっているだろう。


 そう説得したらすぐに引き下がった。サキム以外は………。サキムは自分は巫女の経験があるから大丈夫だといって諦めない。あまりにうるさいので俺は引退した巫女用に一つだけ性能を下げた眼鏡を用意することにした。性能で言えばキュウに作ったものが一番性能が良い。次が古い降魔の眼鏡。そしてサキムがしつこいので作ったものは一番性能が悪い。強制的に解放できるのは二割までと設定してある。封印は念のために三割まで出来るようにはしているが能力的に巫女には及ばないので巫女が健在ならば自分自身にしか使う機会はないだろう。


サキム「ありがとうございますぅ。これで私も巫女なので私も娶ってくださぃ。」


アキラ「却下だ。」


サキム「そんなー。」


 サキムは甘えるのが上手すぎる。年齢を考えれば若く見ても五十代に近いはずだ。物凄く若く見積もっても四十代前半。それなのにまるでその年を感じさせない。若々しくて可愛い。上手にこちらをおだてながら甘えてくるのだ。あるいはこれは熟練の成せる業なのかもしれない。キュウはまだ天然なところがあるがサキムはきっとわかっていて狙ってやっている。そういう強かさがあるように思うのだ。だがそれを見せず悟らせずうまくこちらを誘導する。恐ろしい。やはり三玉家の者は侮れない。


キュウ「アキラさぁん。出発しましょぅ。」


アキラ「わかった。」


 キュウのお陰で助かった。さっさと逃げることにする。


サキム「あぁん。またいらしてくださいねぇ~。」


 サキムとツノウに見送られて俺達は兎人種の集落を出発したのだった。



  =======



 集落を出てから記憶のルート通りに順調に進んでいる。足の遅い者もいないので実に順調だ。太刀の獣神が気配を消して俺達をつけていることを除けばな………。実は太刀の獣神は俺達が大樹を出発した時からずっとつけてきている。兎人種の集落でも外で待機していたのだ。理由はわからない。ただ本気で気配を消してつけてきている。隙を見て襲ってくるつもりかもしれないということは考えておかなければならないだろう。皆大樹を出た時から気付いているが見事にスルーしている。


ティア「アキラ様………。」


 基本サイズで前より小さくなったティアが胸の中から顔を出す。ティアが言いたいことは全員わかっている。ある馬鹿がすごい速度で近づいてきているのだ。


 轟!という風と共にそいつが俺達に追いつき目の前に着地した。


黒の魔神「よう。」


アキラ「『よう。』じゃねぇんだよこの野郎。何しにきた?」


黒の魔神「大獣神を始末する機会がないかと思ってな。」


 そこへ黒の魔神の後ろから巨大な大剣が迫ってくる。


太刀の獣神「かぁぁぁっ!」


 さすがに獣神は魔神への敵愾心は高いようだ。黒の魔神が現れたことで今までつけてくるだけだった太刀の獣神がいきなり襲い掛かってきた。


黒の魔神「へっ。俺と同じ土俵に立とうなんざ一万年はえぇよ小僧。」


 黒の魔神は振り返ることなく魔力を放つ。魔法ですらない。ただ魔力を広げただけだ。それだけで太刀の獣神の大剣は不可視の壁に遮られそれ以上刃が進まない。それどころか暴力的に広がった黒の魔神の魔力によって剣を押し返され自分自身ですらまともに衝撃を受けて吹き飛ばされる。木々をなぎ倒し数十メートル吹き飛んだところにあった岩にめり込み止まった。


黒の魔神「どうだ?俺とお前と狐神がいれば獣神なんぞ楽勝だろう?」


アキラ「『どうだ?』じゃねぇっつってんだろ。大獣神と対峙する機会なんてねぇんだよ!」


黒の魔神「そうなのか。まぁそれじゃそれでいい。ファングに行くんだろ?赤の魔神に会いにいこうぜ。」


アキラ「はぁ………。お前が仕切るな。…付いて来るつもりか?大ヴァーラント魔帝国はどうする?」


黒の魔神「俺は遥か昔からもう魔帝国には指示も出してないし干渉もしてない。俺が数千年ぶりに出てきたのは狐神の相手をするためだ。もう狐神の相手をする必要はないから戻る必要もない。」


アキラ「どうせ駄目だって言っても付いてくるんだろう?だったらせめてその神力を抑えろ。悪目立ちしすぎる。」


黒の魔神「………。どうやって抑えるんだっけ?狐神と戦う時に解放してから抑え方がわからん。前に抑えたのは遥か昔だったからなぁ…。」


アキラ「………。」


黒の魔神「ん?なんだその顔は?乳揉んで欲しいのか?」


 揉んで欲しいのか?じゃない。もう揉んでいる。ティアがぐにぐに動く胸に挟まれて揉まれて目を回しているようだ。


ティア「ひゃぁぁぁっ!」


アキラ「………この……色ボケ魔神がっ!!!」


 俺は光速で地獄突きを撃ち込んだ。


黒の魔神「………。」


アキラ「………。」


 黒の魔神は平然とした顔をしている。


黒の魔神「………。」


アキラ「………。」


 黒の魔神の表情は歪んでいる。我慢の限界を超えたようだ。次第に脂汗が噴き出してくる。そして腹を押さえて蹲った。


黒の魔神「おえぇぇぇっ!なんでこんな威力があるんだよ………。その程度の神力で俺の防御を貫くなんておかしいぞ。」


アキラ「何もおかしくない。これが現実だ。」


 黒の魔神の言う通りこれはあり得ない事態ではあるがわざわざトリックを教えてやる必要はない。俺はただ加速を使っただけだ。十倍に加速すれば俺は十倍神力を溜められるということだ。つまり一万倍加速すれば一万倍溜められる。あとは黒の魔神の防御を貫けるだけ溜めれば良いだけだ。


アキラ「ともかくお前が自分で神力を抑えられないのなら封印してやる。」


黒の魔神「え?ちょっ!待てよ!待て待て!何をする気だ?」


アキラ「もう遅い。邪神封印!」


 邪神封印なんて技はない。今ノリで作った。とはいえこれは結構すごい封印だ。まず俺の妖力で縛り付ける。そして魔力で包み込み内部の者が外部に出せる影響力を下げる。さらに精霊力が元素を操り対象の神力を妨害する。そして仕上げに獣力が対象の神力を外に運び出す。そうだ。蓮華七輪環の逆。つまり外の力を取り込むのではなく内の力を外に吐き出させてしまう。ただあまりすごい勢いで力を放出させたら干からびて死んでしまいそうなので加減はしてある。


 ノリで作っただけだから全部の力を弱めにかけているし抜き出した力も俺の空間内にプールしてある。いざとなればここに溜めてある力を返すことが出来る。ちょっと黒の魔神を反省させるために力を軽く抑えるだけ。そのはずだった。だが俺はまたやってしまった。少しの力で封印したつもりだったが封印が強すぎた

。その結果………。


黒の魔神「なんだこりゃぁぁぁぁ!」


 黒の魔神は力を封じられた。そして幼児になった。なんで?


狐神「アキラの封印が強すぎて存在を維持するために無意識に力の流出を減らせるところは限界まで減らしているんだろうね。大人の体のままなら維持できずにそのまま消滅してたんじゃないかい。」


 師匠がサラッと怖いことを言う。危ない危ない。危うく黒の魔神を消滅させるところだった。


アキラ「じゃあ俺達先を急いでるから。またな。」


黒の魔神「おい!このまま置いていく気か!今の俺は下手すりゃ人間の子供並だぞ!獣神どころか魔獣にも殺されかねん!せめて解除してくれ。」


アキラ「解除?なにそれおいしいの?」


黒の魔神「おいっ!………おいっ。まさか………解除する方法がないとか言うんじゃないだろうな?」


アキラ「テヘペロ。」


 解除自体は出来る………と思う。ただその際に黒の魔神の安全が保証できない。だから少しこの封印を調べないといけない。ノリでこの場で作ったから作りが雑なのだ。黒の魔神が俺が思った程度くらいにしか弱体化していなければ無理やり解除しても問題なかったが今の黒の魔神は下手なことをすれば本当に消滅しかねない。さすがに俺も黒の魔神を殺す気はないのでなんとかするしかない。こうして思わぬ同行者が一人増えたのだった。



  =======



黒の魔神「おい。喉が渇いたぞ。」


アキラ「知るか。それくらい我慢しろ。」


 この態度のでかい思わぬ同行者は今俺の腕の中にいる。本当に人間の幼児並なのでとてもじゃないが自力で俺達には付いて来れない。そして簡単に死ぬ。だから誰かが守る必要がある。そこで黒の魔神はこの封印をかけた俺がその役をやるべきと主張し俺に抱っこをせがんだ。ぶん殴ってやろうかと思ったが俺が軽く小突いただけでも本当に死ぬのでこの怒りは後に取っておく。元に戻ったら覚えてろよ。………俺がこんな姿に封印したのが悪いのも事実だからその分は手加減してやる。


狐神「いくらアキラが子供好きでもそいつだけはやめといた方がいいよ。」


ティア「その通りですアキラ様。いっそどこかに捨てていきましょう。」


 黒の魔神を抱くために俺の胸から追い出されたティアはご立腹だった。それから師匠………。俺がこいつに何か変なことを思うはずないでしょう………。


ルリ「………余所者があっくんを独り占めしすぎ。刻んでも良い?」


アキラ「ルリ。それはやめとこうな?」


ルリ「………ん。わかった。元に戻るまではやめておく。」


 待て待て………。少なくとも現状では元に戻ったらルリより強いから手に負えないぞ。


キュウ「もうすぐ休憩場所ですよぅ。」


 キュウは相変わらずマイペースだな。ルート自体はわかるがその場に行くまで休憩などに適した場所があるかどうかは俺にはわからないので案内してくれるのは助かる。


黒の魔神「やれやれ。やっと休憩か。」


アキラ「黙れ。それからお前の名前を変えるぞ。黒の魔神なんて呼んでたら折角力を封印してもすぐばれる。」


黒の魔神「なんだとっ!俺の呼び名を変えるだとっ!」


アキラ「当たり前だ。例えこんなナリになったとしても名前を聞けばお前が神だとすぐにバレるだろうが。仮名はそうだな………。クロでいいだろ。」


クロ「おい。いい加減に名前をつけるなよっ!もっとちゃんと考えろ。」


アキラ「じゃあお前が考えろよ。俺はもう面倒臭い。」


クロ「ぐぬぬっ。」


 いや………。ぐぬぬっじゃなくて考えろよ………。自力では考える気がないらしい。だからこいつはもうクロだ。


 休憩場所についてクロを降ろす。休憩場所といっても何か施設等があるわけではなくただ広い場所に腰掛けるのに丁度良さそうな石が置いてあるだけだ。俺達は人数が多いように思うがもっと大人数で行動するのも当たり前でありそのための休憩場所なので俺達全員が座ってもまだまだスペースと腰掛けがある。


太刀の獣神「うおおおぉぉぉっ!」


 クロの後ろから太刀の獣神が斬りかかる。今のクロならこれを食らえば即死だが慌てない。黙ってみていると大剣が弾かれてクロまで届かない。


太刀の獣神「ちぃっ!」


 それを見た太刀の獣神はすぐに逃げ出した。クロを守ったのは俺達じゃない。俺と言えば俺ではあるが今は何もしていない。クロを守ったのは皮肉にも俺がかけた邪神封印だ。封印の内側の者を外側に干渉できる力を抑えることで封印としているのだがこれが逆の封にもなってしまうのだ。つまり今見た通り外側から攻撃しようにもその外側からの攻撃もまた防がれてしまう。簡単に言えばクロは今封印の中と外を隔てる防壁に守られているようなものだ。攻撃は出来ないが攻撃されることもない。ただし例えば俺ならこの邪神封印を突き破ってクロを殺せるので決して万能ではない。ただ太刀の獣神程度ならば破ることは不可能だ。


キュウ「アキラさんがぁ、淹れてくれたぁ、お茶がおいしいですぅ。」


 キュウはとことんマイペースだな。他の嫁達も太刀の獣神の襲撃などなかったかのようにスルーしている。


クロ「おい。熱いぞ。ふーふーしてくれ。」


 クロがコップを俺に差し出す。


アキラ「はぁ………。これくらい自分でなんとかしろよ。」


クロ「魔法も使えなくなったし色んな耐性もなくなったんだ。アキラがなんとかしてくれ。」


アキラ「お前あとで覚えてろよ。………ふ~っ。ふ~っ。」


 俺がふーふーすると少し冷えてきたようだ。


クロ「ずずずっ。………なんとか飲めるな。これくらいでいいぞ。」


アキラ「偉そうだな。こういう時はありがとうだろう?」


クロ「………あっ、ありがとっ!」


 顔を背けて赤くしてちょっとモジモジしながらお礼を言うクロ………。嘘だろ………。ちょっと可愛いと思ったぞ………。いやいや、落ち着け。そんなはずはない。よく見ろ。相手は黒の魔神だ。でもやっぱり可愛い………。エンやスイといいこの姿はずるいと思うぞ。師匠の言っていた危険が現実のものとなりつつある。気をつけなければ………。


 そこで俺はキュウを見つめる。クロなんかよりキュウの方が可愛い。それに今の服装はやばい。破壊力抜群だ。キュウは集落を出た時から師匠の服に着替えている。それは縦編みセーターにタイトスカート、そしてストッキングに白衣だ。何かのパクリのような気もしないでもないがよくある格好なのでこの際それはどうでもいいだろう。


 大事なのは胸だ。キュウのあの爆乳で縦編みセーターだと………。それはもうやばいです。嫁より先に押し倒してしまいそうな威力がある。


ミコ「アキラ君どこ見てるのかな?かな?」


フラン「アキラさんやっぱり大きいほうが………。」


キュウ「アキラさぁん。もっと見ても良いんですよぉ?」


 キュウが俺に近づきさらに腕で胸を寄せる。


シルヴェストル「させぬのじゃ。」


 俺の膝から飛び立ったシルヴェストルがキュウの胸にアタックする。だがそんなシルヴェストルもボヨンッと弾かれてしまった。恐ろしい。


シルヴェストル「無念じゃ。」


クロ「おい。俺はそろそろ眠いから後は任せるぞ。」


アキラ「………あ?」


クロ「くー………。くー………。くー………。」


 本当にもう眠ってやがる。見た目が子供だとやはり生活や精神も子供と同じになるのだろうか。でも精霊神の二人はそうでもないよな。スイは元々子供みたいなもんだけど………。クロがこんなによく眠るのは俺の封印で力を奪われ続けているからだろうか。我ながら厄介な封印を作ったものだ。休憩も終わりクロが眠っているのでまた俺がクロを抱いて移動を再開した。



  =======



 テントで休みながら色々考える。まずクロのこと。封印を解くだけなら容易い。間違ってクロまで殺してしまうことなく解くのは少々手間がかかる。理屈ではある程度わかっているのだ。ただそれで内側にいるクロにまで一切影響がないかと言えばないとは言い切れない。そしてあるのだとすればどうすればクロが死なないようにするのか考える必要がある。あとは適当にそこらの魔獣でも捕まえて検証してみるしかない。


 次に嫁達のこと。こちらはシルヴェストル以外は順調だ。ルリとティアは心が繋がって間もないが特に問題もない。表面的には普通に振舞っているがシルヴェストルだけうまく繋がらないことだけが懸案となっている。それ以外には問題はない。


 キュウのことも考えないといけない。俺はまだキュウを嫁と同等とまでは考えていない。確かに好きだしちょっとセクハラ紛いのことはしているけどな。それは愛を深めるために必要なスキンシップだと思ってもらいたい。キュウは俺と特に何か切っ掛けがあったわけでもないのになぜ俺に付いてくるのだろうか。これまでの嫁は皆ある程度理由や切っ掛けがあった。キュウは今までとは少しタイプが違う。俺が気付いていないだけの可能性もあるがキュウについてはまだもう少し保留でお互いを知り合う必要があるだろう。


 そして五龍王のこと。五龍王は旅が再開されてからも修行を繰り返している。人型の肉体を動かすことにも随分慣れてきたようだがやはりまだ甘い。格下相手ならば問題ないが同格相手ではその少しのぎこちなさや一瞬の迷いが勝敗を分ける。まだ完全に使いこなせるまでには時間がかかるだろう。


 最後は二人の精霊神と親衛隊か。精霊神は特に問題はない。親衛隊も勝手に付いて来ているようなものなのであまり俺は直接指示はしないのだが最近力を増していることで一部の親衛隊員が調子に乗っている気がする。ちょっと自信を持つくらいなら別に構わない。だが思い上がるのはよくない。その辺りについてジェイドはきちんとコントロールしているのだろうか。今度確認した方がいいかもしれない。


ブリレ「主様ぁ~。一緒に寝ても良いよね?」


ハゼリ「ブリレは遠慮しなさい。主様ハゼリと寝ましょう。」


 今日はなぜかブリレとハゼリの二人が俺の横で眠ろうとしている。嫁達は怒らないし何も言わない。これは今日はこの二人を横に寝かせてやれということなのだろうか。俺よりは少し小さいがそれでも体格から比べれば十分すぎるブリレの胸が俺に押し付けられる。むにゅむにゅと形をかえて気持ちいい。ハゼリはそれほど胸は大きくないが見た時は引き締まった体だと思ったものが触れてみるとやはり女性らしく柔らかい。二人とも少し前まで魚だったとは思えない。


 五龍王が人型になったのは俺の影響だろうか…。俺が心の底ではそう望んでいたから…?考え事をしているといつの間にか俺は安らかな眠りに落ちていた。



  =======



 さらに数日が経っている。相変わらず太刀の獣神はクロに襲撃を繰り返している。皆もクロも慣れたもので最早誰も相手にしていない。ただ太刀の獣神が襲い掛かり失敗したとみるとすぐに逃走する。この繰り返しだった。


 しかし今回は何か様子が違う。俺達の進む先に堂々と待ち受けている。


太刀の獣神「………。」


 太刀の獣神が俺を指差してからクイクイッと指を曲げる。俺と戦いたいっていうことか?


アキラ「俺をご指名か?俺にはお前と戦う理由はないが?」


太刀の獣神「………お前を倒さないと魔神を倒せない。」


 どうやらクロを守っているのが俺だと思ったようだ。確かに俺の力が原因ではあるが別に俺が守っているわけでもないし俺を倒しても封印を破らないとクロには攻撃できないことに変わりはないのだが太刀の獣神は言っても聞かない。


アキラ「やれやれ………。話し合いは無理か。クロはちょっと離れてろ。」


クロ「まだ眠いぞ。おいキツネ。お前が抱っこしてくれ。」


狐神「お断りだよ。って言いたいところだけどどうせ私が断ったら他の者にやらせるんだろう?さっさときなよ。」


 師匠が承諾するとクロはふらふらとした足取りで師匠の元まで歩いていった。師匠はクロを抱き上げる。するとすぐに眠ってしまったようだ。黙っていれば黒の魔神とは思えないくらい可愛らしくて微笑ましい。


太刀の獣神「がぁっ!」


 クロが離れると太刀の獣神がすぐに斬り掛かってきた。まずは何の力も使わず制限解除もせずこのまま相手をしてみよう。接近戦が得意じゃないフランでも見切れた動きだ。俺が見切れないことはない。ただフランはあのチート杖があったから時間を掛けて魔力を練ることで太刀の獣神にダメージを与えることが出来たが今の俺達の制限では太刀の獣神を倒すにも相当な手間と時間がかかる。クロを沈めたように加速を使うのはやめておく。


太刀の獣神「うらぁぁぁっ!」


 太刀の獣神の猛攻が続く。全てかわしてはいるがそれほど余裕があるわけでもない。神力を練り上げながらもどうやって倒すか思案する。


太刀の獣神「はぁぁぁっ!」


 太刀の獣神が渾身の力を振り絞って上段から振り下ろしてくる。こいつはこの攻撃が多いな。確かに武器の特性上そうなりやすいのだろうがこれは隙も大きいしよけやすい。格下やスピードの遅い者には有効かもしれないが俺といいフランといい太刀の獣神とスピードが同格かそれ以上の者が相手ならばこんな単純な攻撃は通用しない。


 俺はこの大振りをかわして太刀の獣神の懐まで潜り込みながら今まで練り上げていた神力を獣力に誰にも気付かれないほどほんの少しだけ妖力を混ぜて太刀の獣神に撃ち込んだ。


アキラ「神気発勁掌。」


 別にこんな技はない。それっぽく言ってみただけだ。そもそも技の名前を叫びながら攻撃するとかおかしいだろう?発動条件が詠唱のようなものならばありえるだろうがただの体術で技の名前を言う必要はない。これはただ妖力を少しだけ混ぜた獣力を掌に集めて掌底で撃ち込んだにすぎない。


太刀の獣神「………。」


アキラ「………。」


 太刀の獣神は大剣を振り下ろし俺に掌底を食らった姿勢のまま固まっている。表情に変化はない。威力が足りず太刀の獣神の防御を貫けなかったか?


太刀の獣神「………。」


アキラ「………。」


 太刀の獣神の表情が歪む。クロと一緒で無理やり我慢しようとしてたんだな………。


太刀の獣神「おえぇぇぇぇっ!」


 太刀の獣神がお腹を押さえて蹲った。何かどこかで見た光景だな。今は種族間での戦争のためにいがみ合っているが案外こいつらは気が合うんじゃないだろうか。


 暫く太刀の獣神がゲロゲロやっていたが立ち直ったようだ。


太刀の獣神「………なぜ俺が負ける?」


アキラ「お前の方が弱いからだろ。」


太刀の獣神「俺の方が強い。」


アキラ「そりゃ今の神力量のことか?神力量だけで強さが決まるわけじゃない。今の俺やフランに負けたお前が一番よくわかってるんじゃないのか?」


太刀の獣神「………それでも俺が負けるのはおかしい。」


 何かだんだんただの駄々っ子みたいになってきたな。面倒臭い。


太刀の獣神「―――ッ!」


キュウ「ふえぇぇ。これがアキラさんのぉ、本当のお力ですかぁ?」


親衛隊「「「「「―――ッ!!!」」」」」


 俺は少しだけ制限を緩める。太刀の獣神があてにしている神力量において今の俺と太刀の獣神とでは比較対象にすらならないほどに差がある。


アキラ「俺がどれだけ手加減していたかわからないのか?あまりしつこいと………消すぞ?」


太刀の獣神「………。」


 太刀の獣神はがっくりと項垂れて闘気を消した。もう諦めたのだろう。親衛隊も引き攣った顔をしている。最近少し強くなったからといって自惚れと思い上がりが隊内に広がっていた。上には上がいるということを少しは自覚してくれただろうか…。あとはジェイドがうまく説明して導いてやってくれることを期待しよう。



  =======



 それからというもの旅の同行者が一人増えた………。太刀の獣神は相変わらず気配を消してつけてきていることが多いが俺達が気付いているのを向こうも気付いているので飯時になると堂々と近寄ってきて一緒に飯を食う。移動中だけ離れて気配を消し夜休む時になるとまた近寄ってきて男用のテントに入って寝ている。何がしたいのかさっぱりわからない。


 クロは相変わらず俺に抱かれて眠っていることが多い。これならあまり害がないしもうずっとこのままでいいんじゃないかという気もしなくはないがさすがに可哀想なので戻してやらなければならないだろう。


 俺の力の一端を見たことで親衛隊はまた気を引き締めたようだ。ジェイドはうまくやっている。俺が望んで加えた部隊ではないが何か褒美とかやったほうがいいのだろうか?部下なんて持ったことがないからよくわからない。


 キュウにはあれがまだ力のほんの一部でしかないことは伝えた。特に怖がったり逆に俺を利用したりしようという意思は感じない。それどころか俺に付いていけるように自分ももっと強くならなければならないと言っていた。愛い奴じゃ。


 そうして南大陸をしばらく歩いていると東部の北側にある沿岸についた。俺達はついに最後の回廊、東回廊へと辿り着いた。



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