表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生無双  作者: 平朝臣
82/225

第六十七話「その名は五龍王?」


 獣力についてある程度わかった俺達は満足して部屋へと帰って来た。出かけている者もいるし皆思い思いに寛いでいるので俺も寛ぐことにする。


狐神「アキラ。前に言ってた膝枕をしておくれよ。」


アキラ「ああ。そうですね。今なら丁度良いです。それじゃこちらへ。」


狐神「ふふふ~。………はぁ。ずっとこうしてたいねぇ。」


 俺がソファに座ると師匠は横になって俺の膝の上に頭を乗せた。ちょっとくせっ毛の師匠の髪を撫でる。暫く撫でているとすぐに師匠は眠ってしまった。睡眠も必要ないし疲れるようなこともしていないはずだが今日の師匠は異常に寝付きが良かった。


ミコ「それだけキツネさんも安心しているんだね。………あの、アキラ君。今度は私もしてもらってもいいかな?」


アキラ「ああ。………なぁ。わざわざそうやって予約しなくても俺とデートの日にすれば良いんじゃないか?」


 嫁達全員が順番に俺を独占とまではいかないが優先的にイチャイチャできる日というのが決まっている。自分が優先できる日に俺に言えば優先して膝枕することになる。今ここで『いつか空いてる時に』なんて予約しておく必要はない。


ミコ「そこはほら………。色々あるんだよ。」


 ミコは笑って誤魔化しフランはウンウンと同意していたが後でシルヴェストルに解説してもらった。シルヴェストルが言うにはいくつかの理由があるらしい。


 まずそもそも今日はルリが一応優先的に俺に甘えられる日だ。だからコロシアムまで一緒に行ったのだ。だが今ルリはいない。何をしにどこへ行ったのか気配を探ることすらするなと言われている。これもまた女の子には色々と都合があるのだと言っていた。何が言いたいかと言うとその日優先的に甘えられる者が常に俺を独占しているとは限らないということだ。隙間時間とも言える今のようなタイミングで師匠が甘えてきたわけだ。つまり本来自分の日ではなくとも隙があればその時間を有効利用して俺に甘えたい。だから予約をしておくのだ。次の俺が空いている隙間時間に甘えるために。


 それから他の者の前でアピールしているらしい。別に嫁同士仲が悪い者もいないし取り合うこともなく仲良く日を分けたりして俺に甘えている。それでも他の嫁達の前で俺に甘えているところを見せつけているのだそうだ。それを相手に自慢したりしているわけでもなく取り合いしているわけでもないのになぜそんなアピールをしているのかはわからないがこれも女の子には必要らしい。


 最後に俺に意識を植え付けることらしい。今ここで約束をしておけば俺は次の隙間時間にミコとの約束を果たそうと記憶して意識する。他の者に対しても先に約束があったからと言って引き下がらせる意味はあるが何より俺がその約束をしていることでその相手を考えているというのが重要なのだとか。ミコと約束したことで俺はミコとの約束を覚えて考えている。それをミコが俺がミコのことを考えていることを想像して喜ぶそうだ。まぁ少しはその気持ちもわからなくはない。好きな子が自分のことを考えていると思うとうれしく感じるものだ。ただこのくらいのちょっとした約束を交わしただけでそこまで喜ぶようなことかな?とは思うが本人達が良いのなら良いだろう。俺がとやかくケチをつけることじゃない。


 その後も皆で代わる代わる俺に甘えてきて俺は家族サービスに追われたのだった。



  =======



 さらに暫くの日が経ったがまだ大樹の民はまとまらない。一国の大事なのでそれはある意味当然ではあるが俺達は暇で仕方ない。その上キュウとツノウの巫女の交代の儀式も出来ない。地球の月の満ち欠けとは違うと思うが儀式は満月の夜が良いそうだ。次の満月とその次の満月を一応の目処に儀式の準備を進めているそうだがこの調子では間に合うかどうかわからない。急いでいないとはいえ俺達にとってはどうでも良い大樹の民のせいで足止めされているかと思うと少しイライラする。


 俺のイライラを察してかブリレが俺の足にスリスリしている。………いや、膝の上に乗ってくる。ブリレはこれでも一応立場を弁えて俺の上に勝手に乗ってきたりすることはなかった。もちろん乗ってきたからといって怒っているとかいうわけではない。もう五龍将の姿に慣れてちょっと可愛いとすら思っている。乗られたからといって不快にはならない。


アキラ「どうした?」


ブリレ「あのね主様………。」


 ブリレは俺の膝の上に乗ってお腹にスリスリしながらも言い淀む。何か言いにくいことなのだろうか?


ブリレ「ボク………、ボク主様のこと愛しているよ。」


アキラ「………。」


 急に何を言い出すんだ?俺は一瞬どうすれば良いのかわからず固まった。だが難しく考える必要などないと気付いてすぐに答える。素直に思った通りに言えば良いのだ。


アキラ「俺だってブリレのこと好きだぞ。―――ッ!」


ブリレ「―――ッ!」


 え?これって………。ブリレと繋がった?だが普段の魂の繋がりと少し違う。俺の神力がガリガリと減っている。そして膝の上に乗っていたブリレの姿がみるみる変わっていく。


アキラ「………おいおい。」


ブリレ「………やった。やったよ!うわ~い。主様!思った通りだ。やっぱり主様もボクを愛していたんだね!」


 ………いや。愛しているとまではいっていないと思う。元々魚だったし………。でも完全に信頼はしていた。バフォーメやムルキベルが信頼や忠誠で繋がっているのだ。ブリレだけでなく五龍将ともそういう気持ちで繋がってもおかしくはない。むしろなぜ今まで繋がっていなかったのか不思議に思っていた。だがこれは一体どういうことだ?なぜ急にブリレと繋がった?


 それからもう一つ。ブリレ………。あんなに不気味な魚だったのに美少女になりました………。何これ………。大きな青い瞳に日本人風の幼めの整った顔。少し生意気でやんちゃそうなところがブリレらしい。青い髪はもみあげの部分が少し長く鎖骨くらいまで垂れている。後頭部に行くほど次第に短くなりうなじの辺りは少し刈り上げのようになっている。


 頭には半透明のふわりとした帽子のようなものを被っているように見える。Z○N帽かっ!?Z○N帽なのかっ!?………落ち着こう。これは一見半透明のモブキャップのように見えるが被っていない。実際には少し浮いているのだ。ブリレは魚の時からカブトエビの殻のようなものが頭部についていた。それが変化したものだろうと思う。


 俺の膝の上に座っているからはっきりとはわからないが身長は俺とそれほど変わらないようだ。そしてその胸。ミコよりも大きい。俺よりは小さいが身長が低い俺とブリレの方がミコやフランより大きいようだ………。ってこいつマッパだよ!さっきまで魚だったから当たり前だけどマッパだよ!真っ裸だよ!鼻血が出そうだよ。


アキラ「師匠っ!師匠ーっ!」


狐神「叫ばなくても最初からここにいるよ。」


 よかった。いや。わかってたけどね。皆いるしね。


アキラ「ブリレに服を!」


狐神「はいよ。………ほら、行くよ。」


ブリレ「や~ん。主様ぁ~。」


 ブリレは師匠に引き摺られて行った。よかった。あのままマッパだと俺がやばい。


ハゼリ「どういうことですか?!なぜブリレだけ!主様はハゼリなどいらないのですか?!」


 ハゼリが額角でツンツンしてくる。


ハゼリ「ハゼリも、ハゼリも主様を愛しております。それなのに………。」


アキラ「待て待て。落ち着け。ハゼリのことだって好きだから………。―――ッ!」


ハゼリ「―――ッ!」


 まぁこうなる予感はしてたよ………。再び俺の神力がガリガリ減っていく。思った通りハゼリも人型になった。身長は結構高い。ミコより高いくらいかな?目が細いのか閉じているのかフランよりさらに細く瞳が見えない。日本人風の顔立ちで凛としたクールビューティーという感じだ。髪は赤くちょんまげのように高くアップにしているポニーテール。頭から一本角のようなものが生えている。さらに触角のように長い髪の束が二本前髪に混ざって垂れている。胸はやや小ぶりでミコと同じくらいだな。引き締まった体をしている。………ってまたマッパなんだよ!隠せよ!


アキラ「ししょ~!たっけて~!」


狐神「はいはい。ほら行くよ。」


ハゼリ「あぁ。まだ主様と何も話していません。」


 ハゼリはズルズルと師匠に引き摺られて行った。


タイラ「これはどういうことでしょう主様。」


アジル「ご説明いただけますか?」


サバロ「………。」


 二人だけ特別扱いで残りの三人はご立腹のようだ。どうせもうどうなるか結果はわかっている。ならば今度はこちらから言ってみるか。


アキラ「俺はお前達三人だって好きだぞ。―――ッ!」


タイラ・アジル・サバロ「「「―ッ!」」」


 三人はまだ何も言っていないのにいきなり繋がった。もう向こうは準備できていて俺の方が受け入れていなかったということか?俺が受け入れる覚悟が出来たから繋がったのか………。もしそうなら悪いことをしたな。お前達はずっと俺を信頼してくれていたのにな………。それは良いが三人同時に神力を吸われて凄い勢いで神力が流出している。


 今の俺は能力制限をしているので総量は多くとも流量が少ない。簡単に言えばいくら水が豊富でもホースが細ければ一度に流せる水が少ないのと同じことだ。流量限界一杯まで神力が流れていてあまり余裕がない。制限を緩めれば済む話ではあるがもうすぐ終わりそうなのでもうこのままにしておく。俺の総量から考えれば微々たる量ではあったが明らかに流れているとわかるほどに大量の神力が五龍将に流れた。五人全部を合わせたら黒の魔神に匹敵しそうなほどの量だったと思う。


 三人の変化が終わったようだ。嫁達に野郎の裸なんて見せるんじゃないぞ!と思っていたがなぜかこの三人は鎧を着ている。なんで?ブリレとハゼリは裸だったのに?よく見て気付いた。これはただの鎧じゃない。こいつらが纏っていた甲殻類の殻が鎧のように変化したのだ。脱着はできるようだがただの鎧ではなく体の一部とも呼べる代物なのだろう。


 タイラはいかにも熱血漢という感じの顔立ちをしている。整ってはいるが美形ではなく男前と言うほうがしっくりくる。やや洋風の顔立ちで彫りがやや深い。短い金髪で標準的な男性の髪型という感じだ。西洋のプレートアーマーのような鎧だが肩の部分だけ両肩にそれぞれ上に向けて二本の角が出ている。つまりこれはタイラの蟹の鋏だった部分なのだろう。背も体格も戦士らしくがっしりとはしているが特筆するほどの特徴はない。極普通だ。


 アジルはクールな美青年という感じがする。緑の髪に彫りの深い洋風の美形な顔をしている。全体的に線が細く接近戦が得意そうには見えない。タイラの全身を覆う鎧と違い一部に鎧がなかったり薄かったりしている。現実でそのような分類があったかは知らないがファンタジーやゲーム風に言えば軽装鎧とか軽鎧というやつだろうか。やはり肩の部分にとげのようなものが出ている。これは変身する前のアジルの海老の脚だったものなのだろう。


 サバロは美形ではない。東洋風の顔で不細工ではないがハンサムでもない。整ってはいるが何か純朴な感じがする。茶髪で目が細く寡黙だ。体も大柄で太っているわけではないがまるで壁でもあるかのような威圧感がある。日本の甲冑のようなものを着ている。サバロの鎧はとげとげや鋏はついていない。ただしその両手には日本では使っていなかったであろう奇妙な武器がある。先が丸く大きくなっているハンマーのようなものだ。これはきっと蝦蛄の脚なのだろう。蝦蛄は種類によっては丸い捕脚ですごいパンチをする種がいる。その影響なのだろう。


 そこにまず先に連れて行かれたブリレが戻ってくる。エプロンドレスだ。どう見てもメイドです本当にありがとうございました。メイドがつけているホワイトブリムは元はモブキャップだったものが簡略化されてできたものだと聞いたような気がする。活発なブリレがメイドだと失敗して怒られるドジッ娘メイドのように見えてしまう。あるいは師匠の狙いは最初からそれか?


 そしてハゼリも戻ってくる。道着袴だ。白い道着に紺色の袴を穿いている。腰には日本刀のようなものまで差している。クールビューティーの細目の女剣士………。師匠狙ってますよね?貴女日本に住んでたことあるんじゃないですか?


 ハゼリの細い目も開かせて瞳を確認してみた。全員青い瞳だ。まるで俺の妖力のような………。いや、俺の妖力の影響を受けているのかもしれない。それはそうだ。いくらなんでもただの魚が飛んだりしゃべったり果ては人型になったりなんてするはずがない。俺の妖力のせいで妖怪化した?それなら一応筋は通るか?


五龍王「「「「「新たな力を授けていただきありがとうござます。我ら五龍王さらなる忠節に励みます。」」」」」


 五龍王………。将から王に昇格か?でも王の方が強いって変だよな。将は戦うが王は戦わないだろ。王の方が立場は上でも戦力的には普通は将軍の方が強くて王の方が弱いと思うぞ。………それは人間の感覚か。そういえば魔人族も獣人族も強いやつがトップだもんな。


ブリレ「主様ぁ~。これで夜伽もできるようになったね!」


 ブリレが抱き付いて来る。やばい。可愛い。これ以上嫁を増やすのはよろしくない。でもこんな子に積極的に迫られたら俺は落ちそうだ。


ハゼリ「待ちなさいブリレ。主様の夜伽の相手はハゼリだけで十分です。」


 ハゼリもブリレに負けじと抱き付いて来る。ハゼリは本当に綺麗だ。中身は残念だけどな………。見た目だけなら研ぎ澄まされた刀剣のような妖しい美しさがある。


狐神「ちょっと待ちな二人共。わかってると思うけど………。」


ブリレ「うんうん。わかってるよ。ボク達はあくまで家臣だからね。」


ハゼリ「妻に加えられるとは思っていません。ハゼリは愛妾で満足です。」


狐神「そういうことだね。それならいいよ。」


 いや。何もよくない。師匠が勝手に決めている。それになぜ二人は愛妾なのだろうか。ハーレム推進派の師匠が二人を入れようとしない理由がよくわからない。というかこれだけ嫁がいたら愛妾と妻の違いってなんだ?


狐神「というわけだから二人を押し倒しても孕ませても良いけど妻にはなれないからね。」


 押し倒すのは良いのか………。師匠の考えがまるでわからない。


アキラ「どうしてハーレムには入れないんですか?」


狐神「何言ってるんだい?押し倒して良いってことははーれむに入っているだろう?」


アキラ「そうなんですか?それじゃどうして妻にしちゃいけないんですか?」


狐神「アキラがどうしてもっていうなら駄目ってことはないと思うけど………。今は違うだろう?立場はきちんと弁えておかないとね。なんでもかんでも同じように考えちゃだめだよ。」


 つまり正式に娶るなら良いが今はあくまで家臣なので襲うのは良いが妻とは分けて考えろということなのだろうか。相変わらずこういうところは師匠とは感性が合わない。いや別に襲わないよ?嫁達だってまだ襲ってないからね?ブリレとハゼリを先に襲うなんてことはない。嫁達の後なら?それは………男なら察してくれ。嫁達には浮気を認められていて何のリスクもなく可愛い女の子や美人な女性に迫られて君ならまったく何も感じず手も出さないのかね?


シルヴェストル「………。」


 シルヴェストルと目が合った。これはやばそうだ。


シルヴェストル「わしだってアキラを愛しておるのじゃ………。それなのになぜ?」


アキラ「俺だってシルヴェストルを愛しているぞ。」


 だが繋がらない。どういうことだろうか。


狐神「………なるほどね。思った通りだよ。」


アキラ「師匠には何かわかったんですか?」


狐神「アキラとシルヴェストルが繋がらない理由はシルヴェストルの方にあるんだよ。」


シルヴェストル「………わしに?」


狐神「本当は薄々わかってたんじゃないかい?自分は無性だから本当にアキラの嫁になっていいのかって迷っていることにさ。」


シルヴェストル「―――ッ!!?」


 シルヴェストルが息を呑んだ。その態度が示す通り師匠が言ったように自分でも思い当たることがあったのだろう。


シルヴェストル「わしは………。」


 シルヴェストルは暗い顔のままふらふらと部屋から出て行こうとする。


アキラ「シルヴェストルッ!」


シルヴェストル「今は………一人にして欲しいのじゃ。」


 振り返りもせずそういうシルヴェストルに俺は何も声をかけることが出来なかった。



  =======



 五龍将…じゃなくて今は五龍王をけしかけたのは師匠の仕業らしい。もちろん俺と五龍王の心を繋げるのも目的の一つだったが他にもう一つ狙いがあった。それがシルヴェストルの件だ。シルヴェストルが五龍王が俺と繋がるのを見て一念発起して俺と繋がれば良し。繋がらなくとも原因がわかれば良し。そういうつもりだったらしい。前から薄々はわかっていたそうだが今回の件で師匠はシルヴェストルが繋がらない原因を断言した。それが絶対正しいとは限らないがシルヴェストルの動揺も考えれば説得力がある。


 あの後帰って来たシルヴェストルはいつも通りに振舞っていたがやはりそれは無理をしているのだろうということが見ていればすぐにわかる。何とかしたいが師匠が言うには俺が何かするより自分で乗り越えるのを待つ方が良いと言われて特に何も対応しないことにした。


 もちろんこれまで通りデートしたりイチャイチャしたりはする。ただ特別な何かはせずに普通に接するだけだ。そうやって過ごしている間にシルヴェストルの心が固まってくれればそれで全ては丸く収まる。もし暫くしても進展しなければ俺ももう一度何か考えよう。


 そう思っているのに人型になった途端にブリレとハゼリは俺に纏わり付くようになった。もちろん嫌ではない。美女と美少女に迫られて嫌な気持ちがするような特殊性癖は持っていない。でも時と場合くらいは考えて欲しい。まるでシルヴェストルに見せ付けているようで………。いや、わざと見せ付けているのか?魚であった自分達ですら素直になればこうして心が繋がるのだとシルヴェストルに伝えるために?


 本当のところはわからないがそう考えると何だかしっくりくる。あるいは師匠の入れ知恵でそうしているのかもしれない。ブリレもハゼリも嫌な性格はしていないからな。優越感に浸るためにわざとこんなことをするような者達じゃない。


 ともかく力の増した五龍王達も自分の変化に多少なりとも戸惑っている。特に体が大きく変化したために人体を動かすことになれていない。コロシアムで皆で訓練したりして時間を潰していた。



  =======



 さらに数日が過ぎてようやく大樹の民の国内が纏まってきたようだ。ティーゲと大樹の民の大臣達が座る前に俺達も座っている。精霊族代表は俺でいいが魔人族と人間族の代表はいない。獣人族は兎人種でいいだろう。火の精霊の伝令でなるべくリアルタイムに状況が伝わるようにして大ヴァーラント魔帝国とガルハラ帝国も自国でこちらの伝令を聞きながら会議しているはずだが目の前にいないとやはりしっくりこない。


 予想通り会議は進まない。大ヴァーラント魔帝国の時と違って大樹の民はまだ守護神である大獣神が負けていない。だから彼らもある程度強気に出てくる。全ての条件を飲ませることも出来ないし確たる約束も取り付けることはできない。何しろ大獣神がそんな約束は反故にすると言えばこいつらはすぐにそれに従うのだ。この場で何らかの合意や約束を取り付けても意味はない。


 だがだからと言って何も決めないで良いというわけではない。ここが面倒なところだ。ぎりぎり大樹の民が飲める範囲でなおかつこちらにとってちゃんと意味のある条件をつけなければならない。


 結局出来た合意は、大樹の民は兎人種に手を出さない。ガルハラ帝国の合意なく中央大陸に兵を送らない。大ヴァーラント魔帝国とはひとまず停戦する。ただしファングとは向こうが攻めてくる以上は戦う。精霊族とは中立関係を保つ。こんなところだ。


 細かい交渉は他にもあるが大まかにこの程度。これでは何も変わっていないのと一緒だ。兎人種に手を出さないのはそもそも負けた上に手を出しても勝ち目がないのだから言わなくても当分は手を出す心配などない。中央大陸は人神への協力で干渉していただけなので人神の勢力がいなくなった中央大陸に進出する必要もなくなった。そして大ヴァーラント魔帝国とは最初から国境を接していないので大きな戦いはこれまでほとんどしたことがない。遥か昔は大部隊を派遣したこともあるそうだが魔人族側も中央大陸への派兵は永らく行っていないので両者が激突したのはもう大昔の話なのだ。そして精霊族とも最初からお互いの勢力圏が遠すぎて直接的な干渉はほとんどなかった。長い時間をかけて交渉してこれでは無駄だったと言わざるを得ない。


 今日発てばキュウの儀式に間に合うので俺達は早々に大樹から出発することにしたのだった。



  =======



 まともな成果もなく終了した大樹の民との交渉を終えてすぐに俺達は出発することにした。ティーゲは申し訳ないと謝っていたが誰が王でもこの結果は変わらなかっただろう。問題なのは王の統率力ではなく大樹の民の民意が現実を見る目がないことが問題なのだ。それをはっきりと見せ付けるには大獣神を始末すれば一番手っ取り早いが神界で逃げ回るばかりの大獣神を俺は追いかけることが出来ない。いざとなったら兎人種に大樹を征服させよう。それで全て丸く収まる。


ミコ「アキラ君………。あまり殺さない手段で収めてね?」


 ミコはいつも俺の心が読めるらしい。ちょっと怖くなってきたぞ。


キュウ「ツノウちゃんにぃ、王様になってもらえばぁ、よかったのではないですかぁ?」


アキラ「俺達にとってはそれが好都合だが兎人種にはいい迷惑だろう。もし大樹の民が合意を破って兎人種に攻撃すればもう次はそうするしかないが今は兎人種もそこまでしたくないだろう?」


キュウ「それはそうかもしれませんがぁ………。やっぱりアキラさんはぁ、お優しい方なのですねぇ。」


 別に優しくはないだろう。最悪面倒なら殺して解決!とかいつも考えているし。大樹の民などどうなろうが俺の知ったことじゃない。国が滅ぼうが民が死のうが俺には関係ない。ただ邪魔をしなければこちらからはわざわざ何もしないというだけだ。


ツノウ「村が見えてきました。久しぶりに帰って来たような気がします。」


キュウ「今回はぁ、ツノウちゃんもぉ、大変だったねぇ。」


ツノウ「いえ………。すごいものも見られましたから………勉強になりました。」


 ツノウはチラチラと俺を見てくる。ツノウには俺は何も見せていないはずだが?キュウの言う通り今回は頑張ってくれたから何なら見たいと言っていた海を割ってみせようか?


シルヴェストル「さぁ村に着いたのじゃ。」


 無理に空元気を振り絞っているシルヴェストルが痛々しい。


狐神「そうだね。今夜中に儀式をしてしまわないといけないそうだしちゃっちゃと終わらせてキュウをアキラの嫁に迎え入れようかね。」


 師匠は敢えて嫁などと言ったのだろうか。シルヴェストルの表情に一瞬影を落とした。俺達はそのまますぐに儀式の準備に取り掛かった。



  =======



 俺達は村の中央に設置されていた舞台の前の特等席に座らさせられた。サキムが俺の隣に座る。まるで越天楽えてんらくのような音楽が聞こえてきた。するとキュウとツノウが舞台に上がってきた。その姿はまるで巫女神楽の鈴舞のようだった。厳かでありながら優しいメロディーが静かに響くなかキュウとツノウが美しく舞う。その美しさに俺は心を奪われた。神秘的で幻想的なこの舞をいつまでも観ていたと思った。しかし終わりはやってくる。最後に一際大きくシャンと鈴の音が響き渡るとキュウもツノウも伏せた姿勢でピクリとも動かなくなった。


 すばらしい!儀式としての意味合いなど俺にはわからないがその舞が素晴らしかったことは間違いない。キュウとツノウがおもむろに起き上がりお互いに近づいていく。まるでスポットライトがあてられているかのように月の光が二人を照らす中ですぐ目の前に立った二人は手を天にかざす。そしてキュウが自分の顔に手をかけて………眼鏡を外す。そしてその眼鏡を一度空高く掲げてからツノウの顔に掛けた………。


 最後で台無しだよばかやろう!


 なんだその儀式は………。眼鏡をかけてあげたキュウは礼をして下がっていった。最後にツノウが俺には意味のわからない祝詞のりとのようなものを奏上して儀式は終わった。


サキム「何度観ても心を打たれますぅ。あ、ます。」


 別に言い直さなくてもいいと思うぞ………。


サキム「特にあの降魔の眼鏡を授けるところなんてぇ………。涙が出てしまいますぅ。あ、ます。」


 そこが一番台無しなところなんだが………。サキムは俺とは違う感性を持っているようだ。


 その後はささやかながら宴が催された。派手に騒ぐ祭りとは違う。宴も何か静かで神秘的に感じてしまうのはさっきの巫女神楽を観た影響だろうか。ツノウは色々とあるそうで戻ってこないがキュウは着替えて戻ってきていた。


キュウ「緊張しましたぁ。」


アキラ「舞はとっても美しかったぞ。最後の眼鏡を渡すところは何か台無しで残念だけど………。」


キュウ「本当ですかぁ?アキラさんにぃ、そう言っていただけてうれしいですぅ。」


 ついでだからここで渡しておこう。俺はボックスに仕舞っておいた物を取り出してキュウに掛けてやる。


キュウ・サキム「「………え?」」


キュウ「こここっ、これってぇ、降魔の眼鏡じゃあないですかぁ?どうしてここにぃ?」


 キュウがこんなに慌てているのは初めてみた。


アキラ「ツノウに渡したのとは別物だぞ。新しく作った。」


キュウ「作ったってぇ、そんなことが出来るんですかぁ?」


アキラ「当たり前だろ?キュウ達が降魔の眼鏡って呼んでる物は俺が作ったんだから。」


 コロシアムでキュウが月兎解放した後で俺はちゃんとこの眼鏡を解析することにした。俺が側にいれば玉兎の巫女の玉兎封印がなくとも解放を抑えることは出来るが俺がいない時に解放しなければならない事態になった場合キュウの身が危険になる。だから完全に解析していつでも作れるようにしようと思ったのだ。


 そしてキュウが巫女をやめてツノウに譲る時に眼鏡がなくなるのでもう一つ用意しておいたというわけだ。キュウとツノウの話からするとただ眼鏡があっても巫女の力がなければうまくいかないということはわかっている。だからこっちの眼鏡は前の物より機能が追加されている。俺が玉兎封印と同じことが出来るわけだからその能力をこの眼鏡に付与したわけだ。これでキュウが玉兎の巫女でなくなっても月兎解放も玉兎封印も自由自在だ。


サキム「私もその眼鏡欲しいですぅ。」


 サキムが俺に縋り付いて来る。何かすごいなこいつ。ナチュラルに俺に甘えてくるぞ。遠慮とかないんだろうか。そしてそれをあまり嫌と思わない。思わせない。そういう魅力がある。三玉家は危険だ。ツノウとかにおねだりされたら俺はきっと何でもホイホイ言う事を聞いてしまうに違いない。


アキラ「駄目だ。三玉家にはツノウの持っている分があるだろう?」


サキム「私もぉ、もう一度巫女をやりたいんですぅ。」


アキラ「なんでそこまでやりたいのか聞いても?」


 もしかしたらすごい理由があるのかもしれない。例えば若い者を危険に晒さないためにとか?ツノウやキュウの妹が大きくなるまで自分が巫女を引き受けて戦う!みたいな?


サキム「だってぇ、巫女って格好良いしぃ、チヤホヤされるしぃ、アキラ様に娶っていただきたいなぁって………。」


 聞かなければよかった。碌でもない理由ばかりだ。


アキラ「却下。」


サキム「そんなー。」


 サキムのことは放置で良いだろう。これで俺達は旅を再開できるようになった。今日はもう夜なので今晩一晩最後にこの集落に泊まって明日俺達は出発することになった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ