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転生無双  作者: 平朝臣
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第六十二話「玉兎の巫女」


 兎人種の村に滞在するようになって結構な時間が経っている。ここの村人達は最初から俺達を受け入れてくれていたが今ではすっかり打ち解けていると思う。魔人族にも何の偏見も憎しみも持っていないようだった。その理由はこの村が争いと無縁だからだ。魔人族と獣人族が戦争をしていると言ってもこの集落の者は大樹の民に参加していないので戦争に駆り出された者もいない。同族だから大樹の民を応援しようとかいう気持ちもない。


 前に少し触れたが過去に大樹の民に参加しようとした兎人種に対し大樹の民は奴隷になるなら入れてやると言ったのだ。兎人種からすればこんな条件を出してくるような大樹の民など仲間ではないのだ。だから魔人族と獣人族の戦争もどちらが勝とうと兎人種には興味のないことなのだ。


 ではなぜ大樹の民は兎人種に奴隷になるのなら入れてやると言ったのか。もちろん大樹の民は弱肉強食で弱い者は強い者に絶対服従という価値観を持っている。だがだからと言って弱い者は奴隷で強い者が好き勝手に生きているわけではない。組織としての命令は絶対服従ではあるが奴隷扱いまでされている者はそうそういないのだ。奴隷にされるのは敵対者の捕虜か他に使い道のない者。つまり兎人種は戦闘ではまったく使い物にならないと思われている。それならば奴隷として使うしかないということなのだ。


 それからもう一つ理由がある。それが玉兎の巫女だ。この巫女は大樹の民にとっても何か意味があるらしい。その役がどういった意味があるのかは俺達には教えてくれないのだが大樹の民もその何かを狙っているらしい。そして玉兎の巫女の家系。これがまた美女揃いなのだ。その美貌を狙って我が物にしたいという者もいる。だから兎人種を奴隷にして玉兎の巫女も自分達の物にしたいということだったようだ。


 だからそれ以来兎人種は森の奥深くに隠れ住み大樹の民とも接触しないようにしている。その外部を警戒しているはずの兎人種が俺達をあっさり受け入れた理由。それもまた玉兎の巫女であるキュウが俺達を受け入れていたからだ。玉兎の巫女は何か特殊な力なのかそういうものがわかるらしい。そういうものってどういうもの?って聞かれてもわからないが危険とか悪意とかだろうか?それとも未来予知?具体的にどういう方法で見分けて大丈夫だと判断しているのかは知らないがこの村の者達からすれば『玉兎の巫女が大丈夫だと言うのなら大丈夫』ということらしい。そのお陰で俺達はあっさり受け入れてもらえたのだ。


 それでなぜ玉兎の巫女がアキラ=クコサトに嫁ぐ話になっているのか。それはよくわからない。前の俺が何かそういう約束をしたのか。あるいはいつの間にかそういう話に摩り替わっていったのか。とにかくここ何十代かの間にはすでにそういう話になっていたようだ。具体的にはその伝承が言うには、次に玉兎の巫女の前にアキラ=クコサトが現れた時が巫女がアキラに嫁ぐ約束の果たされる時だ、みたいな感じで伝わっている。そして巫女は代々アキラはまだかまだかと思いながら過ごしていたそうだ。何でそんな見ず知らずの相手に嫁ぐことを楽しみにしながら待っているのかは理解できないが………。


 巫女の代替わりが随分早いように感じるのもそれが原因だ。つまり巫女とは結婚適齢期の女性しか選ばれない。適齢期を越えそうになると普通に結婚して次の巫女を産むのだ。それでは巫女がいない時期や年が若すぎたり老いすぎていたりするんじゃないかという可能性もあるがそこは長年の知恵だ。わざと年の離れた妹をもうけて姉が次代の巫女を産み育てている間に年の離れた妹が巫女を引き受けたりその次は従姉妹同士で同じように交互に受け持ったりと様々な工夫で乗り越えてきたようだ。


 実際今代の巫女であるキュウが適齢期を越えそうになると年下の従妹が次代の巫女になる予定であった。その従妹が巫女をしている間にキュウが結婚、妊娠、出産しさらに次代の巫女を育てるのだ。そうやって兎人種たちは巫女の血筋を守って暮らしてきた。


 キュウも歴代巫女の例に漏れず俺がやってくるのを今か今かと待っていたそうだ。そう。キュウが岬にお祈りに行っていたのは今日こそアキラ=クコサトが現れますようにというお祈りをしていたのだ。そして見事にキュウと出会ってしまった。ちなみに記憶のルートともばっちり一致している。千数百年前からこの場所に集落があったようだ。大樹の民との関係から距離をおいているとはいえよくこれほどの間集落を移動させることなく無事だったものだと思う。その辺りも玉兎の巫女の力が関わっているのかもしれない。


 キュウは俺のことを大変気に入っている。ここで過ごす間にお互いを知り合うために色々話したりしているが伝承とか関係なく俺が好みであり結婚したいと言い出している。俺もなんだかんだでキュウのことが嫌いじゃない。いや、嫌いじゃないって誤魔化すのはやめよう。かなり好きだ。普通にかわいい。顔は美人であの色っぽい体、そしておっとりしたあの性格。話し方が独特で間が合って合わない者もいるだろう。だが俺はあれくらいなら気にならない。間の抜けた話し方だが頭は良い。それよりキュウと一緒に縁側で日向ぼっこでもしながらお茶を飲んでまったり過ごすとかすごくいいと思う。癒される。


 いきなりじゃあ結婚だ。とか八人目だ。という話にはならないし受け入れるのにはまだまだ時間がかかると思うがこのまま交際を続けていってキュウの方が俺を嫌だと思わなければ俺はいずれキュウを受け入れると思う。嫁達にも正直に話したが特に誰も反対しなかった。チクリと嫌味のような冗談を言われたりはするが本気で嫌がったり怒ったりしている者はいない。皆はもう当たり前のようにキュウを受け入れていた。


キュウ「アキラさぁん。これからぁ、湖に遊びに行きませんかぁ?」


 朝、部屋で身繕いしているとキュウが俺達を呼びにきた。朝食は済ませてある。


アキラ「湖?」


キュウ「あらぁ!あらあらあらぁ!アキラさぁん。とってもかわいいですぅ。」


アキラ「え?ああ…。ありがとう。」


 今日は師匠の勧めで真っ白いワンピースを着ている。丁度鏡の前でチェックしていたところなのだ。ちょっとガウとお揃いみたいで二人で並んで姉妹みたいだとかなんだとか嫁達に言われていたところだった。


アキラ「それで湖って?」


キュウ「あぁ~。そうでしたぁ。この近くにぃ、とっても素敵な湖があるんですぅ。ぜひ一緒に遊びに行きませんかぁ?」


 キュウは両手を胸の前で合わせてニコニコしながら話している。うさ耳がちょっとだけピクピク動いているのが可愛い。


アキラ「それじゃ皆で行ってみようか?」


ルリ「………ん。」


 こうして俺達は湖へと出かけることになった。親衛隊は村に置いていった。嫁達と夫婦水入らずで楽しむためだ。別に危険もなさそうだしそもそも俺達に親衛隊の護衛は必要ないからな。



  =======



 キュウの言っていた湖はそれほど遠くなかった。水が澄んでいてとても綺麗だ。南大陸は全体的に少し暑いくらいの気候だがここは涼しい。湖全体の広さはだいたい神山の師匠の庵とは逆側にあった俺が最初に顔を見るために覗き込んだ湖くらいだ。そもそもじゃあその湖がどれくらいの広さなんだって言われたらうまく説明できないが結構な広さだと思う。


 ガウは水辺でバチャバチャと足を突っ込んで遊んでいた。ティアも水の精霊だから水辺が落ち着くのかガウと一緒になって遊んでいる。精神年齢が近いだけともいえるかもしれないが………。


ガウ「が~う~♪が~う~♪」


ティア「あははっ!」


 楽しそうに遊んでいる二人を眺めているとこちらの心まで楽しくなってくる。


キュウ「いかがですかぁ?」


 キュウは俺の髪をサラサラと手で掬いながら話しかけてきた。俺は今キュウに膝枕してもらいながら寝そべっている。キュウの顔は二つの巨大な丘に阻まれて半分ほども見えない。下から見上げている俺の視線に気づいて胸を避けるように首を動かしてようやくキュウの可愛い顔が見えるようになった。


アキラ「いい場所だな。」


 キュウに膝枕されている俺の上にはシルヴェストルが寝そべっている。ルリは俺の右腕にくっつき師匠とミコとフランはキュウを囲むように座って談笑している。とても癒される。兎人種があんなのんびりしているのもよくわかる。こんな場所でこんな生活を続けていればああなるだろう。現代人の忙しなさとは大違いだ。五龍将達がガウとティアと一緒になって水辺で遊んでいる。いや、五龍将的には遊んでいる気はないのかもしれないがあの中にいると一緒に遊んでいるようにしか見えない。


キュウ「ここはぁ、ご先祖様がぁ、アキラさんと愛を語らった場所だと伝わっていますぅ。」


 確かに俺はここに来たことがある。西の岬で誰かと出会いこの集落に来てこの湖にも来たことがある記憶は思い出している。だがその相手がキュウの先祖の玉兎の巫女で俺と何か愛し合ったりしていたという記憶はない。


 ここで考えられるのは大まかに三パターンだろうか。一つ。俺が今まで相手の記憶をはっきり思い出す時は基本的にその相手を見た時だった。その本人である昔の玉兎の巫女がもうこの世におらず直接会っていないのではっきりと思い出すことが出来ていない可能性。


 二つ。伝承が脚色されており本当は俺と昔の玉兎の巫女にはそれほど重要な接点はなかった。今までもそれほど接点のなかったり重要じゃなかった者は思い出さなかったり思い出しても大した思い出がなかった。それと同じ可能性。


 三つ。別の理由によって記憶が思い出されていない。一番わかりやすいのはドロテーと同じケース。それからアイテムを見て思い出したわけじゃないのでちょっと条件は違うがシルヴェストルもそうだ。何か別の切っ掛けがないと思い出しにくかったり、大切だったはずなのに見てもすぐに思い出せなかったりしたことがこれまでもあった。今回もこの可能性もないとは言えない。


 ただこれまでと違って思い出せていないのではなくて思い出しても大した思い出がないのが今回の状態だ。あまり言いたくはないが二のケースの可能性が高いのではないかと俺は考えている。


キュウ「わかっていますよぅ。」


アキラ「え?」


キュウ「本当はぁ、アキラさんはぁ、ご先祖様とぉ、愛し合っていたわけじゃないのでしょぅ?」


アキラ「いや………。わからない。」


キュウ「うふふ~。私はぁ、この伝承はぁ、ご先祖様がアキラさんを~、一方的にお慕い申し上げていたのにぃ~、相手にされていなかったから~、今度こそは結婚したいっていう意気込みの伝承が変化したんだと思いますぅ~。」


 なるほど。今度こそ良い女になって次に会ったら相手に好きになってもらえるようになっておく!というつもりの伝承がいつの間にか次に会ったら嫁に貰ってもらう!という話に摩り替わっている可能性はある。


 俺は何とはなしにキュウの顔に手を伸ばして眼鏡を取ってみる。


キュウ「玉兎のご姉妹はぁ、ここでぇ、アキラさんとどんなお話をされたのでしょうねぇ?」


 姉妹………?玉兎の巫女は姉妹だった?………俺の目の前にチラチラと閃光が迸る。


アキラ「………思い出した。」


キュウ「えぇ~?」


アキラ「そうだ。年の離れた姉妹と岬で出会った。村に案内されて歓迎されて…、何日か滞在してここに連れて来られたんだ。妹の方がよく俺に懐いていてずっと俺の後を付いて来ていた。姉はいつも微笑みながらそれを見ていた。」


 キュウだけでなく師匠達も俺の話に耳を傾けている。別にそれほど大した思い出じゃない。どこにでもありそうなありふれた話だ。姉妹のすれ違い。お互いを想っていたがゆえにお互いの気持ちが空回りしてしまった姉妹の話。


 妹にせがまれて三人で何度もここに遊びに来ていた。当時は大樹の民は拡大期であちこちの勢力を飲み込んでいた。だから兎人種にも頻繁に手を出していたようだった。その力と美貌からその身を狙われていた姉の玉兎の巫女に俺はこの眼鏡を作って渡した。


 それからほどなくして俺は旅を再開する。旅立ちの日に妹から姉がこの湖で待っているから挨拶して欲しいと言われてここへと立ち寄った。だが姉巫女はいなかった。本当は俺にはわかっていた。これは妹が画策したことだ。気配がないことはわかっていたのにそれでも妹のために俺はここで数時間待った後に旅立った。


 あまり盗み聞きのような真似はしたくはないが耳が良すぎたせいで前の俺は全てを理解していた。この姉妹は二人とも俺が好きだった。そしてお互いに相手の気持ちも理解しているからこそ相手に譲ろうとしていたのだ。妹がいつも三人で湖に出かけようと誘っていたのは奥手な姉巫女は放っておいたらいつまで経っても踏み出せないから。姉は妹が俺のことを好きなので積極的な妹に譲ろうと思っていた。だからいつも一歩引いて俺達を見ていたのだ。


 旅立ちの日のことも妹が俺と姉巫女を別々の理由でこの湖に呼び出し最後に会わせるためだった。そして妹の願いはここで二人が愛を誓い合ってくれればと思っていた。それで俺が思いとどまってここに残るにしろ姉が俺と一緒に旅立つにしろどちらでもよかった。二人がくっついて幸せになってくれればと妹は思っていたのだ。だが姉巫女はこの湖には現れなかった。姉巫女は妹がここに俺を呼び出していることを知っていた。だから自分が行かなければ我慢の限界を超えた妹が俺の前に姿を現し俺と妹が結ばれるかもしれないと思ったのだ。


 こうして俺はここで数時間待ち、妹は森の中から俺の様子を窺い、姉は岬で祈りを捧げていた。全てを知っていた前の俺はそれでも積極的に介入することはなく姉妹への義理を果たして待っただけでそのまま旅立った。


ミコ「なんだか切ない話だね。」


 ミコの目は少し潤んでいる。


フラン「でもどうしてアキラさんはそのまま行ってしまったのでしょうか?」


アキラ「う~ん………。これを言うと身も蓋もないんだが姉妹を異性として好きという感情はなかったようだな。それに当時は大樹の民の拡大期で周辺への干渉が激しかった。巫女の姉妹がいなくなれば集落が危険だったから連れて行くわけにはいかなかった。そして当然俺がここに残り続けるわけにもいかなかった。そういうことみたいだな。」


キュウ「やっぱりぃ、ご先祖様とぉ、愛し合っておられたわけじゃなかったんですねぇ。」


アキラ「申し訳ないがそういうことになるな。」


キュウ「別に申し訳なくなんてないですよぅ。それにぃ、今回はぁ、私とぉ~………。うふふ~。」


 キュウがにへらっと笑った。


アキラ「そうだな………。このままいけばキュウのことは好きになってしまいそうだ。」


キュウ「えへへ~。」


 キュウは照れたような顔をしてクネクネしながら笑っている。何か可愛いな。


ルリ「………あっくん。」


 ぎゅっとルリの腕に力が入る。


アキラ「ルリのことを忘れてるわけじゃないぞ?」


ルリ「………ん。」


 左腕を動かしてルリの頭を撫でる。気持ち良さそうにルリが目を細めていた。


シルヴェストル「じゃが一つ解せぬのはこの眼鏡とやらじゃの。」


 さっきキュウから外した眼鏡を俺の腹の上に置いてルリを撫でていたので腹の上にいたシルヴェストルが眼鏡を持ち上げたり覗き込んだりしている。


フラン「この眼鏡が何か?」


シルヴェストル「うむ。わしらには効果がないのは同じアキラの力の影響を受けているからじゃとして、なぜわざわざ不細工に見える魔法をかけておるのじゃ?それともう一つ。なぜ巫女だけがかけて巫女をやめると外せて引き継ぐのじゃ?キュウの家系は皆美人なのじゃ。巫女以外の者も顔を隠さねば意味がないのではないのかの?」


 不細工に見える魔法なわけではないのだがそこはまぁいいだろう。美人すぎて狙われているというのなら一族全ての顔を隠さないと意味がない。それはその通りだ。実際キュウの従妹で次期玉兎の巫女候補の少女はまだ幼いながらすでに美人と呼べる顔立ちをしている。巫女になってから顔を隠してもそれまで美人だとわかっている者からすれば全く意味はない。キュウの母親も叔母も皆美人だ。キュウの前は叔母がその前は母親が巫女だったらしい。人妻だがあれだけ美人なら言い寄ってくる奴も多そうだ。


 そもそもこの村には三玉家さんぎょくけという玉兎の巫女の家系が三つある。その血筋の女性は皆美人だ。基本的にキュウの家系が本家筋であり残りの二つが分家筋にあたるそうだ。本家に結婚適齢期の女性がいれば優先的に巫女に選ばれる。本家に適齢期の女性がいなければ分家の者がその間預かる。そんな関係らしい。


 村で滞在している家はキュウのためだけの家らしい。キュウの母親もよくいるが本宅は別にあるそうだ。そしてキュウには年の離れた妹がいるらしい。俺達は会ったことがない。名前すら教えてはくれない。三玉家の幼い子供は本家の本宅で育てられ外界とは一切触れ合うことがないそうだ。ある程度育ってから徐々に世間と触れ合わせて慣れさせるらしい。だから従妹もあまり俺達と接したことがない。ただ次期玉兎の巫女として少しずつ外界と接するようにはしているので直接会ったことはある。


 眼鏡にかかっている魔法のうち姿を誤魔化すのに関連しそうな魔法は三種類かかっている。一つは幻覚というか錯覚というか眼鏡をかけている者の姿を見誤る魔法。もう一つが認識阻害の魔法。最後が相手の心を写し出す鏡のような魔法。ちょっと意味がわからないと思うので補足しておく。


 一つ目は言葉通りだ。それ自体で錯覚させたりする魔法。二つ目は本来の姿を認識できなくする魔法。一つ目で姿を誤魔化す効果がすでにあるのに念入りなことだ。そして三つ目。これは相手の心を反射させるようなもので醜い心の持ち主にはこの眼鏡をかけた者が醜く映る。心の綺麗な者が見れば眼鏡をかけた者が綺麗に映る。ただし一つ目と二つ目の魔法があるので例え心の綺麗な者が見ても結局美人には見えないんだがな。俺の魔法ならば一つあれば姿を誤魔化したり隠したりするのは簡単だ。なぜこんなに何重にも念入りに魔法をかけているのかわからない。


 それから姿を誤魔化す魔法以外にかかっている魔法である意味呪いとすら言える巫女の間は眼鏡を外せなくなる魔法。なぜ巫女だけがずっとかけていなければならないのかわからない。


キュウ「巫女が眼鏡を外せないのはぁ、きっと封印だと思いますぅ。」


アキラ「封印?」


キュウ「はぃ~。」


 何の封印かは教えてもらえなかった。だが玉兎の巫女はやはり何らかの力を持っているらしい。その力を制御するためにこの眼鏡の力がないと暴走する危険があるとか何とか。確かに何かもう一つ別の魔法がかかっている。ブラックボックスのようになっておりどんな魔法かわからない。下手に弄って魔法の効果が失われたり戻せなくなると困るので触らないようにしていたのだ。


 色々と考えていると日が傾きかけていた。随分時間が過ぎていたようだ。


アキラ「そろそろ戻ろうか?」


キュウ「はぃ~。」


ガウ「がうがう!」


ティア「楽しかったです。」


 ガウとティアもいつの間にか戻ってきていた。皆で村へと戻ることにしたのだった。



  =======



 村の近くでジェイドが親衛隊の訓練をしていた。


ジェイド「ああ。おかえ………ぶっ!アっ、アキラ!それ!」


 俺達に気づいたジェイドは俺の姿を見るなり鼻血を噴き出した。


アキラ「おい?大丈夫か?」


ジェイド「だっ、大丈夫だ。………その服似合ってるよ。」


アキラ「あ?ああ。ありがとう。」


 ジェイドがこっそりちらちらと俺を盗み見ているのがわかる。こそこそしなくても見たければこっちを見れば良いのに…。あれ?でもジェイドの視線は………。


アキラ「ひゃっ!ジェイド!てめぇどこ見てやがる!」


 ジェイドがちらちら見ていたのは俺の胸元だ。このワンピースは胸元が大きく開いている。そして俺はノーブラだ。嫁達だけだったから油断していた。


ジェイド「ごっ、ごめっ!わざとじゃないんだ!おっ、俺はもう向こう行くから!」


 ジェイドは親衛隊を連れて移動していった。まぁ別に胸が丸出しだったわけじゃないんだけどな。何て言うか胸の谷間が見えているだけで………。うん。やっぱり恥ずかしい。早く家に帰って着替えよう。


狐神「そんなに恥ずかしがるような格好かい?」


アキラ「師匠は胸の谷間を出しすぎです。俺以外の男に見られるなんてちょっと妬けますね。」


狐神「なっ、何言ってるんだい。このおっぱいはアキラのものだよ。」


 俺のものではないと思うが無理に反論することもないのでそのままにしておく。


ミコ・フラン「「むーっ。」」


 ミコとフランが自分の胸を寄せながら唸っている。


ティア「やはりアキラ様は大きいほうが………。」


シルヴェストル「ないものを嘆いても無意味なのじゃ。わしなど性別すらないのじゃ。それでもアキラはわしを愛してくれておるぞ。みなもそんなことを気にする必要はないのじゃ。」


アキラ「そうだな。その通りだ。シルヴェストルが一番よくわかっている。」


ブリレ「ボクのはどうかな主様?」


 ブリレが空中でひっくり返ってお腹を上に向けている。魚に胸はないだろう………。


 賑やかに会話しながらキュウの家に帰ったのだった。



  =======



 まずは晩御飯の準備をする。キュウも料理が出来るのでここに泊まるようになってから一緒に料理をしている。獣人族の料理はこれまでとまた一味違うので俺とミコはキュウに教えてもらいながら新しいレシピを習得している最中だ。


 親衛隊の分の料理が増えて少し大変になってきていたのでキュウが手伝ってくれて助かっている。サキムも村にいる時は一緒に食べているが本家にいてこちらに来ない日と半々くらいなのでいつも一緒というわけではない。本家は村の外にあるらしくその場所は俺達はおろか村人ですら知らないらしい。村には今代の巫女がいるので三玉家の者は巫女に会いに来る以外で滅多に村には来ないらしい。


アキラ「キュウは料理が上手だな。」


キュウ「ありがとうございますぅ。」


狐神「むむっ………。私も料理を覚えたほうがいいかね………。」


 師匠の料理の腕は壊滅的だ。どうすればレシピ通り作ってこうなるのかという超次元の現象が起こる。例えばだが別々に料理と同じ作業をすれば完璧に出来る。決まった形や厚みに切るという行為。こんなの師匠には朝飯前だ。決まった量に分けたり決まった量をはかって入れたりすることもできる。それこそ道具を使うことなく毎回完璧に同じ量にできるのだ。火の強さを調整したり火にかける時間をきっちり計ったり温度をきっちり合わせたり、とにかくそういう各作業を別のことでやれば完璧に出来る。だがそれを料理として一連の流れでやるとなぜか完成した料理はまったくの別物になる。皮の剥けてない野菜がそのまま浮かんでたり鱗すらついたままの魚が煮込まれていたり。そしてなぜか大体何を作っても黒か茶色の液体になる。なぜだろう。


 そしてその味………。ガウなど一度師匠の料理を食べて………いや、やめよう。とにかく師匠は料理が出来るとか出来ないとかいうレベルを超越している。師匠が出来るのはそのまま焼くか煮るか揚げるくらいだ。そこに何か味付けしたり工夫しようとすると途端におかしくなるのでシンプルにそのままにするしかない。


アキラ「師匠には師匠の役割がありますよ。」


狐神「どういう意味だい………。」


 フランは普通に料理できそうなイメージがある。だがそれはイメージだけだった。ヘラは普通に主婦をしていたので料理も普通に作っていた。だがフランはヘラから料理は習わなかったようだ。代わりに魔女が妙な薬を作ったような怪しい煮物は作ることが出来る。そう。日本でも見られたイメージ図の魔女が鍋のようなものに奇妙な物を入れて混ぜながらぐつぐつと煮ているあれだ。トカゲだとかコウモリだとか妙な薬草だとか変なものを入れて煮込んで毒々しい色をしているあれだ。そしてそれは変な効果もついている。惚れ薬から毒まで様々な物を作れる………らしい。ただ口に入れられるとは思えないような臭いをさせていたりするが………。なぜ料理をしているはずなのに完成すると怪しい薬になっているのかもなぞだ。


 ティアは特に上手ではないが下手でもない程度には料理を作れた。基本的に王族なので料理は料理番がするのだが一応花嫁修業の一環で料理の練習もしたらしい。ただ小さすぎて一度に作れる量が少ない。俺達人間サイズの者に料理を出そうと思ったら大変な手間になってしまうのでティアが俺達に料理をすることはない。


 シルヴェストルはティアより上手だが同じ問題で料理をすることはない。ガウとルリは子供同然なので料理はしない。結局俺とミコとキュウの三人しかまともに料理できる者はいないということになる。


 ミコとキュウのおいしい料理を食べた後はお風呂だ。本来清めの禊用のものしかなかったようだが俺達がお風呂に入りたいので勝手にお風呂を作った。お風呂を作ること自体はサキムもキュウも問題ないと言っていたので宗教的問題とかみたいなことはないはずだ。キュウも一緒に入っている。やっぱりその体は色気が凄まじい。俺もジェイドみたいに鼻血を噴き出しそうだ。


キュウ「あまりじろじろ見られたらぁ、恥ずかしいですよぅ。」


アキラ「ああ、すまん。でも目が離せない。」


キュウ「恥ずかしいですけどぉ、アキラさんならぁ、………見ても良いですよぉ。」


 キュウは両手で顔を覆いながら俺に体を見せ付けるように前に出てくる。うさ耳がペタンと閉じられている。ついこの柔らかそうな体に手を伸ばしてしまいそうになった。


ルリ「………あっくん。めっ。」


 ルリに手を押さえられて怒られた。


 お風呂でさっぱりした後はもう寝るだけだ。俺の横で寝るポジションのローテーションにすでにキュウも含まれている。というかルリとキュウがほとんど俺の横を独占しているも同然なのだが他の三人は平気なのだろうか。俺の方が平気じゃなくて嫁達が決めたローテーションを無視して勝手に違う嫁の横に抱きついて寝たりすることもある。もちろんその場合は不公平がないように師匠、ミコ、フランの三人全員を順番に回る。ガウ、ティア、シルヴェストルは俺の上に乗って寝るのでポジション争いにほとんど関係なくて問題ない。


 こうして穏やかな日々が過ぎていったのだった。



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