第六十一話「早くも八人目?」
見渡す限りの一面の海の中に真っ直ぐにのびる石でできた橋がかかっている。雄大な景色で自然の素晴らしさがよくわかるがずっと見ているとすぐに飽きる。何しろ他に何も見えるものがない。空と海、そしてそこにかかる果てしない橋しかないのだから………。
アキラ「ふわぁ~あ。退屈だな。」
ミコ「もうアキラ君!そんなにはしたなく大口を開けちゃ駄目だよ。」
俺が欠伸をしたのをミコに怒られてしまった。女の子に対してそういうことを言うのはわかるが男である俺にそういうことを言う必要はないように思う。実際少し前までならばミコは俺にあまりそういうことは言わなかった。何か心境の変化でもあったのだろうか?
ジェイド「暢気なのはいいがあれは助けてやらなくていいのか?」
ジェイドは俺のやや後ろに影のように付き従っている。そのジェイドが指すのは俺達から少し遅れて歩いている親衛隊と獣人部隊だ。親衛隊にはまだ余裕があるが獣人部隊には余裕がない。回廊の両サイドからひっきりなしに襲ってくる魔獣が原因だが敵が強すぎてというわけではない。獣人部隊だってアルクド王国に出向するために一度はこの回廊を超えているし魔人族ならばジェイドのように西回廊を何度も渡ったことがある者もいるはずであり最低でもガルハラ帝国へ千人隊として派遣された時に北回廊は超えたはずである。回廊での対処法もわかっているはずだし強さ的にも問題はない。
ではなぜ彼らにはあまり余裕がないのか。それは敵が今まさに襲ってくる戦場のど真ん中にあってなおガウが彼らに修行を課しているからだ。何がガウをそこまで駆り立てるのか。これくらい乗り越えなくてどうすると言わんばかりに彼らに次々と試練を与えていく。
まぁ本当に危なければガウがきちんとフォローして助けているので放っておいても問題はない。俺達の方に襲ってくる魔獣はルリが切り刻んでしまうので俺達は特に迎え撃つ必要はない。俺が食べられる魔獣だけ回収して終わりだ。少し言葉に語弊があるので訂正しておく。どの魔獣も食べられる。前にも言った通りこの世界では魔獣こそが主食と言っても過言ではなくありとあらゆる魔獣を食べる方法が確立されている。だから食おうと思えば基本的にどれでも食えるはずではある。ただうまいかまずいか、食いたいか食いたくないか、俺達が調理できるかできないか。その違いで選別しているにすぎない。
アキラ「ガウが責任を持って何とかするから問題ない。」
ジェイド「そうか。」
ジェイドも俺がそう答えればそれ以上は聞いてこない。そもそもジェイドですら俺のパーティーから比べれば弱すぎて話にならないレベルなのだ。そんな雲の上のレベル差の者が付いているのだから問題ないと言われたらそれ以上何も言えなくなるだろう。
アキラ「そろそろ飯にしよう。」
俺達はご飯を食べることにした。親衛隊と獣人部隊にほっとした空気が一瞬流れたがガウが食事中も修行させたので彼らがゆっくり休めることはなかった。ちなみにジェイド達親衛隊はなぜかルリから攻撃されない。獣人部隊は相変わらず攻撃を受ける。俺には理由はさっぱりだったが師匠が言うには何やら初日のあの剣を受け取った後から何か俺達に繋がりが出来ているらしい。もちろん魂の繋がりは出来ていないしまだ俺の系譜に連なる者というほど強い結びつきでもないそうだがルリが敵として認識しない程度には俺との繋がりがあるのだと思っておけばいいと言われた。
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獣人部隊の足が遅いせいもあって南回廊は通り抜けるのに少しばかり時間がかかった。とはいえ千人以上も連れて渡った北回廊よりはスムーズだったと思う。
アキラ「じゃあな。」
ティーゲ「え?大樹に向かわないのか?」
アキラ「ああ。そのうち寄るかどうかはわからないが俺達は俺達の行きたいところへ行く。お前達とはお別れだ。もう人神なんかに協力するなよ?」
ティーゲ「いっ、いや。待ってくれ。ガウ様達と別れるとは思っていなかった。一緒に大樹へ向かうものだと思っていたし俺達も連れて行ってくれるのだとばかり………。」
南回廊では見渡す限りの海で仕方なくこいつらにも俺の食事を出してやったがこれ以上こいつらの飯の面倒まで見てやらなければならない謂れはない。さすがに二十一人分も増えたら手間が違いすぎる。
アキラ「俺達はどこへ向かうかもわからないしお前らの面倒まで見てられない。もうお前らは自由の身なんだからさっさと故郷へ帰ればいいだろう?」
ティーゲ「うぅむ…。だが俺達がいなければ大樹でガウ様達がどういう扱いを受けるかわからないぞ?」
アキラ「それこそ余計な心配だろ?何ならお前らにしたみたいにまたぶっ飛ばせば良いんじゃないか?」
ティーゲ「人間族や獣人族だけならそれでもいいかもしれんが………。」
ティーゲは親衛隊達を見る。確かに戦争真っ只中の魔人族がいれば余計な揉め事の原因になるだろうな。だが俺達にはそんなことは関係ない。
アキラ「お前らには関係ない。さっさと行け。」
なおも食い下がろうとするティーゲ達獣人部隊を追い払い別れることに成功したのだった。俺はあんなにぞろぞろ引き連れて旅をする気はない。そもそも親衛隊とか言う奴らだけでも増えすぎだと思っているのに縁もゆかりもない獣人まで連れていられない。
ちなみにティーゲ達は最後まで『ガウ様』と言っていた。奴らにとっては俺達よりもガウが一番だったようだ。だからと言って別にガウが一番強いと思っていたわけじゃない。師匠がガウの稽古をつけていた時なんかはやっぱりガウは簡単に転がされていた。それを見ても奴らはガウを一番に崇めていたのだ。理由はよく知らない。最初に倒したのがガウでガウに忠誠を誓ったからそれを貫いたとか?それともただ単に幼女趣味でガウが好きだったとか?まぁ俺が考えてもわかるはずもない。ただ奴らはあくまで俺達の中でガウを一番に考えていた。それだけが事実だ。
それに関連して少しばかり俺にとって面白くない状況がある。それはアキラ親衛隊の奴らで一部の奴が俺の嫁達に何らかの想いを寄せているようだということだ。単なる恩義やアイドルに向ける憧れのようなものならば問題はない。今のところ何も問題は起きていない。ただまかり間違って俺の嫁達に手を出そうとするような奴が出てきたらと思うと落ち着かないのだ。嫁達が俺を見限り新しい道へ進むのならそれについては俺は何の文句も言わない。問題なのは嫌がる嫁達に無理やり迫るような奴が出ないかということなのだ。まぁ俺の嫁達に力ずくで何か出来るような奴などほとんど存在しないのだが…。それでもやはり心配なものは心配なのだから仕方がない。
今のところわかっているのはリカという女がフランに執着していることだ。普段は姐御肌みたいな奴なのだがフランを見ていると顔が緩んでいる。明らかにフランに何らかの好意があるだろうことが見てすぐわかる。本人は隠しているつもりでフランの前でキリッ!としているつもりなのが微笑ましくはあるのだが…。
もう一人ダザーという奴。こいつは背が低く顔をフードで隠している。まぁ隠しているといっても俺の眼には見えているがその顔は幼く中性的で男か女か顔だけではわからない。普段はフードに顔を隠してどこを見ているかわからないようにしているがティアとシルヴェストルがいるといつもガン見している。フードを利用して顔を向けずに目だけ向けて見ているのだ。ちょっとストーカーっぽい。まぁ魔人族が精霊族に興味があるなどとバレれば少し前までならどんな目に遭ったかわからない。だから隠そうとしているのはわからなくはないがこいつが精霊族に並々ならない興味を抱いているのは確実だろう。敵対的な目ではない。二人を見てほっこりした顔をしている。それが余計にストーカーっぽくて怖いんだが…。
あと嫁への興味ではなく逆に俺への興味というか恩義で付いて来たと言う者もいる。一人はケンテン。こいつは俺も覚えがある。北回廊で海に落ちた奴を助けようとして自分も危険になっていたやつだ。そこを俺が助けた。俺は自分の手に負えないことをする奴はあまり好きではないがケンテンの意見は違うものだった。あの時ケンテンが助けに飛び込まなければ落ちた者を助ける前に魔獣に殺されていた。だから自分は死者が一名になるより負傷者が二名になるようにするために助けに飛び込んだのだと言った。それを聞いてなるほどなと思った。
師匠は以前俺が能力が高すぎてそれを基準に考えるから周囲の能力も高く見積もりすぎるのだと言っていた。この件はまさにこれだろう。俺の感覚からすれば確かに一人落ちたのなら俺が助けて負傷者一名で終わる話だった。だがあの時あの周りにいた魔人族では落ちた一人を救出することが困難だったのだ。そのために落ちた者が死ぬ死者一名という結果になるはずだった。だがケンテンが飛び込み状況を変えることで二人とも負傷しながらも引き上げられて助かる道があった。もちろんケンテンが飛び込んでも周囲の動きが鈍ければ死者が二名になる可能性もあった。そこは賭けだったのだ。それでも一番軽い被害ならば負傷者二名になって二人共助かる可能性もあった。ケンテンはそれに賭けて飛び込んだ。俺達がいれば負傷者一名で助けることが出来たということを知らないケンテンからすればそう判断するのもやむを得なかったのだ。ともかくその後は千人隊にいた頃からケンテンは俺に懐くと言ったら変だが付き従うかのようになった。親衛隊に入ったのもそのためだと言っていた。
そしてもう一人。それはソンプーという奴だ。こいつがまさにその海に落ちてケンテンと俺に救われた奴だ。一応言っておくが別に海に落ちたからといってこいつが弱いとかどんくさいというわけではない。むしろあの時あの周囲にいた魔人族の中ではまだマシなほうだった。もちろんそれでも俺達から考えれば弱いが普通の兵士よりやや優秀くらいのレベルだ。
回廊を渡るために千人隊は長い列になっていた。そして横は四人並びだったのだ。海に面した両側の者が魔獣の対処をする。一定時間がすぎると合図によって内側の者と外側の者が交代する。そうして交代して休みながら進んでいたのだ。だがソンプーが落ちた時は色々な不幸が重なった。外側で戦っていたのはソンプーだった。そして丁度交代する時に逆側の者達が不意を突かれて反対から飛び出した魔獣がソンプーが交代するはずだった者のところまで飛び掛っていた。隊列の前後の者も交代するために前後のスペースもなく飛び掛ってきていた魔獣にぎりぎりまで気付かなかったソンプーと交代するはずだった者は大慌てになってソンプーのほうへと飛びのいた。ソンプーは逆側から襲ってきた魔獣に気付き始末したのだが交代するはずだった者が魔獣を避けようとしてソンプーの方に突進してきていたのでその者の体当たりをまともに受けたのだ。
魔獣を倒そうとせず自分も身をかわしていればソンプーが海に落ちることはなかっただろう。だがそうすれば飛び掛ってきていた魔獣によって前後にいた誰かが負傷あるいはソンプーの代わりに海に落ちていた可能性が高かった。そしてソンプーと交代するはずだった者。こいつの突進を避ければソンプーが落ちることはなかった。ただし誰にも当たらなければその者はそのまま海に真っ逆さまだっただろう。ソンプーは魔獣を倒すか交代するはずだった者を受け止めるかどちらかを諦めれば自分が落ちることはなかった。だがどちらも諦めなかった。味方からの突進を受けて海に落ちるのを覚悟の上で魔獣をきちんと始末して突き落とされたのだ。
そして運の悪いことにソンプーはワーキャットであり得意な属性は風だった。水とは相性は良くも悪くもない。うまく使えば体を風で浮かして助かったかもしれない。ただワーキャットは魔法が得意ではない。そのソンプーの風属性の能力を支えているのは剣だった。その剣は魔獣に突き刺さったまま回廊の上にある。突進を受けた衝撃で魔獣に刺さった剣が抜けずに手を離してしまったのだ。地球の猫もほとんどの猫が水に濡れるのを嫌う。本当かどうかは知らないが猫の毛質は濡れると乾き難いそうだ。だから濡れるのを嫌うのだと聞いた。ただ子猫の時から小さい器などに入れて水に慣らしておけばお風呂が好きな猫になるとも言っていた。ワーキャットであるソンプーもその例に漏れず濡れるのが嫌いだった。海に落ちたソンプーは大パニックを起こした。猫の動画で水に落ちたりお風呂に入れている猫がパニックになっている映像を見たことがあればよくわかると思う。
手元に武器もなく魔法も使えず水に濡れてパニックになった。突き落とされた経緯も踏まえてどこか一つでも違えばもっと別の結果になったかもしれない。だがその不幸が重なった結果ソンプーはまともに対処も出来ず海の魔獣に食われて死ぬところだった。そこへケンテンが飛び込み俺が引き上げたことでソンプーは俺とケンテンに感謝しその恩義を返すために親衛隊に入ることを決めたのだと言っていた。
ちなみにソンプーは俺がワーキャットだと思っていたそうだ。一目惚れだと言われた。妖狐だと教えた今でも俺に好意を寄せてくる。見た目はクールなお兄さんという感じだがピョコッと生えている猫耳が何だかシュールだ。そして海の件でわかる通りクールな見た目に反してちょっとおっちょこちょいでお茶目だ。仲間を見捨てず助けるために自分の身を差し出せるのは良いと思うがそれならせめて勝算があってやって欲しかった。海に落ちてパニックになってまともに対処できなくなったところが残念でならない。まぁ突進を受けた時に武器を離してしまったのが致命的だったのだろうけど………。
あとの者はよくわからない者もいる。知っている者もいるがケンテンとソンプーほど命に関わるようなエピソードはなかったはずだ。わざわざ裏切り者の汚名を被ってまで親衛隊に入るほどのことがあったとは思えない。師匠やルリが万が一にもこの中には裏切り者や敵対者、スパイなどはいないと言っていたから大丈夫なのかもしれないが嫁達にちょっかいをかけるのはやめてもらいたい。それだけは注意して見ておく必要があると思ったのだった。
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南回廊を渡ってから獣人部隊は南南西に向かって進んで行った。それによって俺は大樹のだいたいの位置の想像がついた。恐らくだが北大陸にあった火山から真っ直ぐ真南の位置だろう。ただの予想だが当たっていると思う。勘の良い人ならどういうことかわかっているだろう。まぁそれはまだ確証もないので大樹に寄ることがあったらその時に確認するとしよう。
俺達は大陸を沿岸沿いに西南西に進んでいる。こっちへいってもすぐに南大陸の端に着いてしまうはずだが記憶のルートがこちらへ進んでいる以上はこちらへ進むしかない。足手まといの獣人部隊がいなくなったことと回廊と違って狭くないので行動しやすくなったお陰ですぐに南大陸の西の端へと辿り着いた。ここから西北西くらいの方向にずっと進めば西大陸の南端付近、ゲーノモスやグリーンパレスの辺りに出るだろう。もちろん俺達に渡る術はない。ここは海峡になっており回廊のような橋はないのだ。まぁたぶんだが俺や師匠が妖術で本気で飛べば西大陸まで飛んでいけそうな気はするが一応飛んで渡れるのは渡り鳥かドラゴン族くらいという設定になっているし無理にここを渡らなければならない理由もないので試してみようとは思わない。
南大陸最西端の岬でそんなことを考えながら暫し海を眺めていると妙な気配を感じた。害意はない。向こうは敵対する気もなさそうだし万が一敵になっても強さもそれほどではない。ただ遠くからこちらの様子を窺っている。気配のイメージから何だか草食獣のような雰囲気だ。遠くからこっそり息を潜めてこちらの様子に耳をたてているような…、そんなイメージが浮かぶ。親衛隊員は気づいていないようだ。こいつらはここまで一緒だっただけですでに並の魔人族を超えている。その親衛隊員ですら気付かないのだから隠形の術にかけてはかなりの能力があると言える。少し脱線するがジェイドが怒っているな。敵に気付かないとは!みたいに後でしごかれるのは確実だろう。ご愁傷様。
俺は少しこちらを窺っている気配が気になったので一瞬でその気配の後ろまで移動してみた。俺達が元々居たのは森が開けた先にあった岬だ。そこから森まで約1kmくらいあった。その森の中からさらに数百m森の中に入った位置からこちらを窺っていたのだ。親衛隊ではこの距離で気配を消されたら気付くのは難しい。相手が並の隠形術でも気付き難いのにこの相手はかなり隠形術に長けている。俺はその相手の後ろに周りこんで今目の前にいるはずにも関わらずまるでいないと錯覚してしまいそうなほど気配が薄いのだ。これでは気付かないのも無理はない。
???「あらぁ?一人いなくなりましたかぁ?一体どこへぇ~?」
気が抜けてしまいそうなおっとりしたしゃべり方で独り言を言っている。気配を消して貴女の後ろにいますよ………。
???「もしかして海に落ちちゃったのかしらぁ?それなら助けた方が良いのかしらぁ?」
やっぱり敵対する気はないようだな。気配のわからなくなった俺の心配までしているようだ。でも安心してください。貴女の後ろにいますよ。
???「あらあらぁ?皆さんこちらに近づいてきますねぇ。もしかして見つかっちゃいましたかぁ?」
俺が皆に何も言わずにここへ来たからどうしていいかわからずとりあえず皆で歩いてこちらへ向かってきたようだ。いくら俺が気配を消していると言っても全力で隠形しているわけじゃない。今の俺の位置は嫁達には普通にわかるだろう。ジェイドはまだ難しいかな。
???「どうしましょぅ?あぁ~。逃げましょう~。」
目の前に居た女は逃げようとして振り返った。すぐ目の前には俺がいる。
???「あらぁ?あらあらあらぁ?びっくりしましたぁ。いつからそこにぃ?」
全然びっくりした風になくおっとりとしゃべっている。本当に驚いたのだろうか?まるで驚いた風にないのでもしかして最初から俺が居たことに気付いていたんじゃないかと思ってしまう。
アキラ「『一人いなくなった』辺りかな?」
???「あらあらぁ?そうでしたかぁ。いなくなったと思ったらこちらにおいでだったのですねぇ。」
何かされるとか心配しないのだろうか。まるで慌てた様子もない。
???「捕まってしまいましたわぁ。これから一体どうなってしまうのでしょうかぁ?」
本気で心配しているのだろうか?まるで余裕に見える。まさか俺も気づいていないすごい能力があって簡単に脱出出来るとか?………まさかな。
アキラ「別に危害を加えるつもりはない。少し話を聞きたいだけだ。」
???「あらぁ。そうでしたかぁ。」
アキラ「皆が来てから話を聞こう。」
このおっとりした女を連れてこちらへ向かってきている嫁達の方へと俺達も向かうことにした。
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森を出たところで皆と合流した俺達はまず自己紹介というか話を聞いてみることにした。
アキラ「まず貴女の名前は?」
キュウ「私はぁ、兎人種のキュウと申しますぅ。」
キュウ………。獣人の名前のつけ方の傾向は知らないが俺の感覚からすれば変わった名前のような気がする。あまりこの人に合っているとは思えなかった。ざっくりとこの兎人種の姿を確認してみる。頭の上には白くて長い耳がある。兎の耳そのものだ。髪は二つに括っておさげにしている。前髪は目にかかるようにボサボサと垂らされている。さらに牛乳瓶の底のようなぐるぐる眼鏡をかけていることもあって目の周りなどはよくわからないようにカモフラージュされている。化粧っ気がなく野暮ったい感じがする。
って騙されるかぁ!よくゲームや漫画やアニメで本当は美少女あるいは美女なのにこういう野暮ったい格好をしていて格好を整えただけで美少女に大変身!皆驚き!なんて話があるがあれは嘘だ!なぜならこの女はこんな野暮ったい格好をしていても美人だと言い切れる。この程度の変装で本当は美人なのに気付かないなんてことはありえない。美人はどんな格好をしても美人だし見えているパーツの形が整っているだけでも美人だとすぐにバレる。
そしてこの胸っ!身長は師匠と同じくらいかやや低いくらい。だが胸はこれまで見てきた中で最大だった師匠を上回る爆乳だ!さらにいい意味でちょっとだらしないこの体型!だらしないと言っても太っているとかいうことじゃない。ムチムチなのだ。ちょっとお腹の肉は緩そうだがそれがまたなんとも言えない色気がある。そう!師匠がナイスバディだとすればこれは女性らしい色気のある体だ。大きな胸。柔らかそうなお腹。どっしりとした腰周りからお尻。ムッチムチの太もも。あぁぁ…。やばい。押し倒してしまいそうになる。
キュウ「あのぅ~。美人とか色気とか私困りますぅ~。」
キュウは顔を真っ赤にして両手を頬にあててクネクネしている。何かどこかで見たことあるぞこれ。
アキラ「っていうかなんでわかる!読心術?!」
ミコ「………アキラ君。口に出てたよ………。」
アキラ「…なん…だと。」
俺は崩れ落ちた。俺のイメージ大崩壊だ。
フラン「………イメージ大崩壊というかアキラさんは前から結構こういうところがあったかと。」
フランにまで心を読まれている!しかも前から俺はこんな奴だと思われていたのか!
狐神「アキラ!目を覚ますんだよ!あんなのただの脂肪の塊だろう?」
師匠はキュウの胸を指差しながら必死に訴えている。
アキラ「師匠………。それってブーメランじゃないですかね………。それにいつもならこういう時平然としてる師匠が一番動揺してませんか?」
俺は師匠のたわわな胸に視線を向けた。
シルヴェストル「これまでキツネとキャラのかぶるポジションの者はおらなんだのじゃ。じゃが今回の相手は自分とポジションがかぶるので焦っておるのじゃ。」
シルヴェストルの突っ込みが入る。でも俺はそうは思わないぞ?キュウはおっとりさんで今までにないキャラだ。師匠とは………。巨乳のお姉さんキャラという部分か?そういうことなのかシルヴェストル?
俺がシルヴェストルに視線を向けるとシルヴェストルは良い笑顔でサムズアップしていた。
狐神「ちっ、違うからね。勝手に決めるんじゃないよ。私は別に動揺なんてしてないよ。」
ともかく話が進まないのでこれ以上ふざけるのはやめて話を続ける。俺達の方も自己紹介してみた。
キュウ「アキラぁ?もしかしてぇ~、アキラ=クコサト様とかですかぁ?」
アキラ「え?なんで知ってる?」
俺はポロッと答えてしまった。
キュウ「あぁ~。やっぱりそうなのですねぇ~。それではご案内いたしますぅ。」
どこへご案内するというのだろうか。そのままスイスイと森に入り移動し始めたキュウを皆で追いかけながら話の続きを聞くことにした。
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まずキュウの住む兎人種の集落はここからそう遠くない位置にあるらしい。そしてキュウはいつもあの岬でお祈りをしているのだとか。今日もそのお祈りのためにやってきたら俺達がいたので隠れて様子を窺っていたのだ。兎人種は攻撃能力に乏しく戦闘向きではない種だ。大樹の民にも参加していない。過去には大樹の民に参加しようと思ったこともあったそうだが加入の条件として奴隷になることが条件だと言われてからは諦めたそうだ。それはそうだ。わざわざ自分から奴隷になってまで加入する意味はない。ともかくそれ以来兎人種は森の奥深くでひっそりと集落を作って暮らしているらしい。
そしてキュウの家系は代々玉兎の巫女というものらしい。それが何かはよくわからないが兎人種にとっては何やら重要な役だそうだ。それでキュウの家系はものすごい美人揃いらしい。遥か昔からよくその美貌を狙って様々な者達に追われたそうだ。そこで出てくるのが…そう、アキラ=クコサト。こいつが六十八代前のキュウの先祖にこの眼鏡を渡したらしい。この眼鏡はかけていると野暮ったくてかわいくないように見えるらしい。俺や俺の嫁達には全然効果がないみたいだけどな。キュウの家系は玉兎の巫女と一緒にこの眼鏡を継承しているそうだ。この眼鏡は一度かけると玉兎の巫女をやめるまで外せないらしい。俺が触ったら簡単に外せたし予想通りキュウはすごい美人だった。
ちなみにこの眼鏡は俺の魔法で出来ていた。千数百年消えることがないほどに魔力を込めて作り出したのがこのただの野暮ったい眼鏡とは前の俺は何を考えていたのだろうか。だがこの眼鏡は案外馬鹿にしたものでもなかった。俺達以外からすると本当にこの眼鏡をかけているとあまりかわいくないように錯覚させる魔法がかかっている。なぜ巫女をやめるまで外せず巫女をやめたら外せるのかはよくわからない。それも魔法の効果でそういう制限をかけている。そもそも巫女をやめるとはどういう時なのだろうか?代数からして平均二十年足らずで代替わりしている気がする。
ともかく眼鏡も外せるとあっては俺は本物の眼鏡を授けたアキラ=クコサトだとキュウは大はしゃぎして俺達はキュウの集落へと案内されたった今目の前に辿り着いたのだった。
キュウ「みなさぁん。アキラ=クコサト様が参られましたよぉ~。」
キュウが気の抜けた声で村人達を呼び集めようとしている。が、その声がおっとりしすぎていて皆あまり気にしていないように見える。
村人A「アキラ=クコサト様ってぁ、あの伝説のアキラ様かえ?」
村人B「そんなお人が参られたらそりゃぁ大変だべなぁ。」
いや。村人達もキュウほどではないが暢気なようだ。見ず知らずの俺達もいるのに特に気にした風もなく平然としている。
村人C「それでこのお人達ぁどなただべぇ?」
キュウ「だからぁ、その方がアキラ=クコサト様なんですよぅ~。」
村人C「へぇ~。そんなことがあったらおったまげるべなぁ。はっはっはっ。」
何か独特の空気が流れている。長閑だな。別に俺の名前を知らしめる必要はない。キュウに無理に俺達のことを知らせなくてもいいと言って止めてからキュウの家へと向かった。でもさすがにこの村は暢気すぎないか?武装した魔人族がぞろぞろ俺の後についてまわっているのに誰も気にしていない。
後で聞いてわかったが村人達が俺達を見て慌てていなかったのはキュウが俺達を案内したからだそうだ。玉兎の巫女は絶大な信頼を寄せられており今代の巫女であるキュウが俺達に害意がなく受け入れているのだから大丈夫だと村人達は全員すぐに俺達を受け入れたのだそうだ。
そうこうしている間にそれほど広くない集落の一軒の家に辿り着いた。ここがキュウの家らしい。集落の中で一番大きな家だ。
キュウ「こちらですぅ。」
???「キュウ?お客さんかい?」
キュウが扉を開けて入るのと扉の中から人が出てくるのがぴったりだった。まるでコントのように二人で息ぴったりに頭どうしをぶつけて悶絶していた。
???「いたぁい。」
キュウ「いたぁい。」
二人揃って頭を抑えながらしゃがみこんでしまった。うん。そっくりだ。出てきた人の方がキュウよりはしゃべり方はしっかりしているがもうこれはどう見ても親子だろってくらいそっくりだ。見た目だけじゃない。なんというか雰囲気とか全てにおいてだ。
その後室内へと通されてまた自己紹介をしあう。扉から出てきてキュウとぶつかったのはやはりキュウの母親だった。名前はサキムというらしい。変な名前だ。キュウほどおっとりしたしゃべり方じゃないが時々キュウのようにしゃべりかけることがある。つまり昔はキュウと同じようにしゃべっていたが今は少し矯正したというところだろう。見た目も程よく熟れたキュウという感じそのままだ。あのムチムチでちょっとだらしない体型が色っぽい。
ミコ「アキラ君?何かやらしいこと考えてるのかな?かな?」
ミコが鋭く俺の思考を読んでくる。なんでいつもバレるんだろうか?
サキム「まさか本当にアキラ=クコサト様がおいでになられるとは思っておりませんでしたぁ。あっ。おりませんでした。」
別に言い直さなくていいと思う………。
アキラ「そんなにあっさり信じていいのか?別人かもしれないぞ?」
サキム「巫女の眼鏡をはずせるのはアキラ様だけですぅ。あっ。です。それにこれをご覧ください!」
サキムが広げた布のようなものに何やら文字と絵が書かれている。文字は読めない。絵は………よくわからない。子供の落書きのようにも見える。
アキラ「これなんて書いてあるんだ?」
サキム「アキラ様のお姿についてですぅ。あっ。です。読みますねぇ。」
サキムが読んでくれた内容はまぁいつも通りほぼ俺を表していると思えるような内容だった。黒髪、金色の眼、耳、九本の尻尾云々という感じだ。もうこれは俺しかないと言われても否定できない。
キュウ「まさかぁ、私の代でぇ、アキラ様がお迎えに来てくださるとは思っておりませんでしたぁ。」
キュウはまた真っ赤になりながら両手を頬にあてながらクネクネしだした。
サキム「あぁ~、アキラ様がもう少し早く来てくださっていればぁ、私でしたのにぃ。」
サキムは落胆したような顔でがっくり項垂れている。俺は若干嫌な予感がしだした。
アキラ「迎えとかって一体何なのか教えてくれるか?」
キュウ「あらあらぁ?アキラ様ったらぁ~。恥ずかしいですぅ~。」
いや…。恥ずかしがらないで答えてくれよ…。段々不安になってきた。ろくでもない予感しかしない。
サキム「次にアキラ様がこの村に参られた時の玉兎の巫女を娶られるという約束ですぅ。」
サキムが項垂れたまま教えてくれた。
アキラ「えっ?それって俺がそう言ったのか?」
嫁達の視線が突き刺さった気がして俺は焦って問い詰める。
サキム「それはぁ、わかりません。ただ伝承でそう伝わっておりますぅ。」
段々サキムもキュウと同じようなしゃべり方ばっかりになってきた。言い直しもしない。いや、別に言い直しされても面倒なだけだからいいんだけどね。
キュウ「これからお世話になりますぅ。不束者ですがぁ、よろしくお願いいたしますぅ。」
何かもう俺が娶ることになっているようだ。
アキラ「ちょっと待て。後ろにいるこの女達は俺の嫁だぞ。今から入ってもキュウは八人目になる。それでもいいのか?というかそんな伝承通りにしなくてもいいんだぞ?俺がいいって言ってるんだからな。」
キュウ「いぇ~。私はぁ~、アキラ様に嫁げることを夢みてぇ~、暮らしてまいりましたぁ。」
ミコ「もういつも通りだよアキラ君。早く受け入れて次のステップに進もう?」
フラン「そうですね。アキラさん。ルリさんの刃がキュウさんに出ていない。これがどういう意味かもうおわかりでしょう?」
ティア「どうしましょうシルヴェストル様。わたくし達はまだ心が繋がっていないというのに新たな方が入られるようですよ!」
シルヴェストル「わしはかまわぬのじゃ。」
ルリ「………あっくんもう浮気?」
ルリの俺の腕を抱き締める力がギリギリと強くなる。まぁ俺の方が強いから痛くはないんだけどね。ただ肉体的痛みじゃなくて精神的に痛い。でも言い訳させてくれ。俺がキュウを嫁にするって決めたわけでも受け入れたわけでもないんだ!
ガウ「がうがう。」
うん。ガウはいつも通りだね。何を言っているのか意味がわからない。
狐神「ううぅぅっ………。」
いつもはハーレムの一番の推進派である師匠が今回は一番渋っている。本当にシルヴェストルが指摘した通り自分とポジションの被るライバルの出現だと思っているのだろうか。
アキラ「師匠は俺にとって大事な人です。師匠の代わりになれる人なんていませんしポジションが被るなんてことはありません。」
狐神「ア、アキラッ!」
師匠が目をキラキラさせて俺を見つめている。俺も師匠を見つめ返す。
ミコ「アキラ君………。そんなに必死でキツネさんを説得して………。キュウさんとそんなに結婚したいの?」
アキラ「えぇ?そういう意味に受け取る?そうじゃないんだけど!俺良いこと言ったんだけど!」
フラン「でももうキュウさんもアキラさんのお嫁さんになるんですよね?」
フランが痛いところを突いてくる。………うん。たぶんそうなるよねって俺も思ってます。
シルヴェストル「ともかくこれは大事な話なのじゃ。無理に今全てを決めてしまう必要はないのじゃ。」
ティア「そうですね。わたくしも何か考えないといけませんし………。」
シルヴェストルの言うことは尤もだがティアは余計なことは考えないで欲しい。きっとろくでもないことにしかならない。
キュウ「それではぁ、しばらくこの家にお泊りくださぃ。」
こうして俺達は暫くの間兎人種の集落のキュウの家でお世話になることになったのだった。




