第六十話「南大陸へ」
フリードの腕を再生させてから俺達は特にすることがなくなってそれぞれ思い思いに過ごしていた。まず俺はガルハラ帝国に伝令を出しフリード達の迎えを寄越すように伝えた。フリード達とアルクド王国との交渉はまだ時間がかかるだろうが迎えの部隊も到着するまでに時間がかかるのだ。だから俺達がすぐに旅立てるように先に呼んでおくことにした。
ティアとシルヴェストルがこの機会にデートの権利を使ってくれたら手っ取り早かったのだがこんなところでデートなどしたくないと言ってここでは使わないことになった。…まぁそれはそうだろう。この国は貧しくて何も見るところがない。それに衛生観念というものがほとんどない。つまり普通の街中ですら色々と臭うのだ。街の道路のど真ん中を通るように一本のどぶ川が流れている。…いや、流れてもいない。溝の掘り方を理解していないので高低差によって流れずただ溜まっているだけだ。そこに生活排水も下水も何もかも垂れ流しで流すだけだ。それどころかその水を使ってまた洗い物をしたりそのまま飲んだりするのだ。俺達とは価値観が違いすぎる。とても観光しようという気にはなれない。
ともかく外出しても見るべきものもなく不快になるだけなので練兵場に行くか部屋で休むくらいしかすることがない。実につまらない国だった。
そういうわけであまりに退屈なので今日も練兵場へ行こうと思う。俺は姿見の前に立って着替えた服の後ろを確認する。特に俺は尻尾があるので尻尾の辺りの服が捲くれたり引っかかったりしていることがある。苦労しながら首を捻って姿見で後ろを確認しているとミコが手に鏡を持って立ってくれた。
ミコ「はい。これくらい?」
アキラ「ああ。…もうちょっと下に。オッケー。ありがとう。」
ミコが鏡で反射してくれたので無理に後ろに首を捻らなくても見えるようになった。俺はお尻の辺りのよれを直した。その後スカートの裾を上げてみたりひらひらと動かして具合を確かめる。
ミコ「ん~ん。どういたしまして。……アキラ君やっぱりだんだんと女のこむぐっ!んんっ!」
ミコが何か言いかけたが後ろから師匠に口を抑えられていた。
アキラ「ん?」
狐神「なんでもないよ。アキラは気にしなくていいさ。」
アキラ「…はぁ?」
師匠はミコの口を抑えたままなんでもないと笑っている。どうせ俺が聞いても教えてくれそうにないのでもういちいち気にしないことにしている。外套を羽織って出発することにした。
アキラ「それじゃガウ達と一緒に練兵場に行ってきますね。」
狐神「ああ、いってらっしゃい。」
ミコ「ぷはっ!キツネさんずっと抑えてたら苦しいです。…アキラ君いってらっしゃい。」
フラン「アキラさんいってらっしゃい。」
皆に見送られて俺達は部屋を出た。練兵場に行くのはガウと五龍将、それから今日はシルヴェストルとルリだ。他の者はそれぞれ何かすることがあるらしい。ああ、バフォーメはチョーカーになって身に付けているのでもちろん一緒ではある。だが俺に念話のようなものでたまに話しかけてくることはあっても仲間以外の者にはその存在すら知られていない。
俺達が部屋を出てから俺の耳に少し声が聞こえてきた。音を遮断する結界は張ったようだが師匠が手抜きだったようだ。
狐神「…キラに教…ちゃだめ…よ。」
ミコ「どう…て…すか?」
フラン「アキ…さんが…のまま…女の子のように………方がかわい……ないですか。」
さすがに師匠が半端とはいえ結界を張っているだけあって完全には聞こえない。何を言っているのか要領を得ないがこれ以上聞き耳を立ててはいけない気がして聞こえない振りをして意識的に声を聞かないようにしながら練兵場へと急いだ。
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練兵場に着くといつもの大樹の民の獣人族がいた。こいつらはあの日ガウにボコボコにされてからガウに付き従うかのように振舞っている。ロベールにも一目置いて敬意は表しているがあくまで対等に近いような接し方をしている。だがガウには完全に服従していると言っても過言ではない態度なのだ。強い者に従うという方針そのままに圧倒的強さを持つガウに服従しているのだろう。
俺達が近づくと獣人達はガウに跪いた。ティーゲ以外に二十人の獣人族部隊だ。どうやら獣化を使えるのはこの中ではティーゲだけらしい。他の者も中央大陸の獣人達に比べれば強いのは確かだが南大陸の大樹の民だからといって誰でも獣化が使えるわけではないらしい。もちろんガウとの修行を見ている範囲で使っていないということから俺が推測したにすぎない。もしかしたら使える者もいるのかもしれない。今日は俺は目的があってここへやってきた。
アキラ「今日は頼みがあってやってきた。俺に獣化を教えてもらいたい。」
マンモンの時は相手に確認せずにマンモンの魔法を参考にしたので相手の態度を硬化させてしまった。魔人族が魔法の技術を流出させてしまって以来他種族に魔法を習得されることを嫌っていたというのを知らなかったとはいえ教えてもいないのに技を真似されればそれは腹が立つ場合もあるだろう。ロベールはその辺りは特に気にしなかったようだがマンモンは気にしたのだ。そしてこいつらが気にしないかどうかはわからない。それならば最初から教えを請えば丸く収まるだろう。
だがティーゲ達の反応は俺の予想したものとは違うものだった。胡散臭そうに俺を眺める者が大半であった。そしてティーゲは俺を見ながら大笑いしたのだった。
ティーゲ「ぐはははっ!獣化は簡単に出来るものじゃないぞガキ。ここにいる精鋭達でさえ未だに使えない。大樹の民でも滅多に使える者がいないのだ。中央大陸育ちの半端でひ弱な獣人如きが使える代物じゃないぞ!」
それを聞いて後ろの獣人部隊もへらへらと俺を馬鹿にしたように笑い出した。そういうことか。俺達の仲間の中でも力を多少なりとも示したのは謁見の間でティーゲと戦ったロベールと練兵場でこいつらをボコったガウくらいだ。だからこいつらは他の仲間が大した強さじゃないと勘違いしているのだろう。別にその勘違いを正そうとかそういう気はない。馬鹿が勘違いているのならそれは本人の資質の限界なだけだ。戦場で相手の力量を見誤れば自分が敗れることになる。こいつらがいずれどこかの戦場で相手を力量を見誤り敗れて死ぬことになったとしても俺には関係ない。だがこのまま獣化を教えてもらえないのは少々都合が悪いので少しだけその認識が誤りであったと悟らせてやろう。
アキラ「シルヴェストル、ルリ。ちょっと離れててくれ。」
ルリ「………やだ。」
ルリは俺の言葉を聞いてますます俺の腕を抱く力を強くしてしがみ付いた。
シルヴェストル「ほれ…。ルリ。アキラに甘えることと迷惑をかけることは別なのじゃ。分別はつけねばならんのじゃ。」
ルリ「………あっくんごめんなさい。ルリのこと嫌いにならないで………。」
シルヴェストルが俺の肩から降りてルリを引っ張る。シルヴェストルの言葉を聞いてルリは小さく謝りながら俺から離れた。
アキラ「シルヴェストルありがとう。ルリを嫌いになんてなるわけないだろう?それじゃちょっと離れててくれ。」
二人が離れたので俺はティーゲの前に歩み出た。
ティーゲ「なんだ?ガウ様の真似でもしようというのか?」
アキラ「いや。別にお前らを痛めつける趣味はない。ただ俺が獣化出来ないから教える意味はないというのなら俺が獣化出来れば教えるってことだと解釈してもいいよな?俺がガウに論より証拠だと教えたのだから俺も論より証拠で語ろうと思う。」
そう言ってから俺は獣力を出す。緑の獣力が俺の体に纏わり付き髪を逆立たせる。
獣人A「なんだこれは?!」
獣人B「何かの手品か?」
どうやら俺以外に獣力が体外に溢れ出る者がおらず今まで見たことがないようだ。これが獣力だということすら気付いていない。
ティーゲ「…いや。…そんな馬鹿な。そんなはずは………。」
獣人A「ティーゲ様?一体?」
ティーゲ「………これは獣力だ。普通の者は体外で目に見えるほどの獣力を持つ者などいない。ただ遥かな時の中で獣神へと至られた四人の神達は皆体外に目に見えるほどの眩い緑の獣力を放っておられたと伝わっている。」
あれから俺は獣力の操作を十分に練習した。だから今では威力を誤ることはない。今放出しているのは極僅かな獣力だ。それでもなぜか俺の獣力は体外にも出てくる。体内に流せる獣力の量を超えているから体外に放出されているのではないのだ。これは体内を巡っている獣力と同等の量が体外にも流れるのが本来の形なのだとわかった。奇しくも俺が無限の循環と最初に言った言葉が正解だったのだ。ティーゲのように体内だけで循環している獣力は消費すれば減ってしまう。神力が切れればそれで終わりだ。だが本来のこの体内と体外を一対一の割合で流れている獣力は体外を巡る時に外にある何かの力を吸収している。獣力とは本来その何かの力を運搬させる運搬役にすぎないのだ。もちろん獣力自身にも力はあるのでそれを消費して能力の底上げも出来なくはない。それがティーゲが使っているやり方だ。だが先に言ったようにそれでは獣力の力を使い果たすと切れて終わる。
俺の例えが正確かどうかはわからないが例えば獣力とは血液のようなものと捉えれば考えやすい。血液は抗体や栄養や酸素を体中に運ぶ。そして二酸化炭素や老廃物などと交換していくのだ。必要なものを持っていって帰る時に不要なものを持って帰る。獣力も同じように体内を巡る時に何らかの力を体内に置いていく。そして外に出た時にその力をどこかから補充しているのだ。その力が何かはよくわからない。空気中にあるものか?あるいは元素のようなものか?ただ確実なのはだから力を入れている場所に獣力が多く流れて集まるのだ。
ティーゲとロベールが戦っていた時にティーゲの獣力は脚に集中的に集まっていた。そしてティーゲは機動力が大きく上昇していた。ただ体外を巡って力を補充出来ていないティーゲの獣力の使い方ではすぐにその力が切れてそれを補うために神力を大きく消耗していたのだ。元々神力が多くない獣人が更に大量の神力を使えばすぐに神力が切れてしまう。だから獣人族はあまり強くないのだろう。だがこの外側を循環させて力を吸収して運ぶ力があれば神力の消耗を大きく抑えることができる。集中して循環させて物を運ばせているわけだから完全に0にはならないがほぼ消耗しないようには出来るのだ。
そこで俺は理解する。獣人の本来のスタイルは神力をこの何らかの力を運搬させることだけに特化させる。そしてその運搬役のみならば大きな神力は必要ない。その分を別のステータスを伸ばすために使ってきたのだ。燃費の非常に悪い獣化という特殊能力でありながら獣人族が神力の量を増やすステータスを割り振っていないのはそういう戦略に基づいたものだったのだ。ただ残念ながらそれを理解して実行できている獣人はほとんどいないらしい。むしろほとんどいないというより居ればそれはその者が獣人の神になれるレベルの者だということだ。
この中ではティーゲだけがそのことを知っていたのだろう。まぁ長々と説明したがそんなことはどうでも良い。論より証拠だ。
アキラ「〝獣化 疾〟」
俺は極僅かな獣力で獣化を使う。さらにゆっくりと移動する。何しろ今の制限でも本気で獣化して駆け抜けたらこいつらにはまさに目にも見えない速度になってしまうからな。見せるためにやっている以上はこいつらが認識出来なければ意味がない。
獣人A「消えた?!」
獣人B「ほんのわずかに緑の帯が流れているような気が…。」
ティーゲ「信じられない………。なんという速さだ!」
獣人A「ティーゲ様は見えておられるので?」
ティーゲ「なんとか見えるか見えないかというところだ。兄よりも遥かに速い……。」
獣人B「そんなっ!ティーガ様よりっ!?」
どうやら気を使ってもまだ速すぎたようだ。もう少し加減する。
獣人A「あっ!俺もちょっと見えたかも!へっへーん。目が慣れたかな?」
獣人B「…ばーか。向こうが速度を緩めたんだよ…。」
アキラ「〝獣化 跳〟」
俺は最後にティーゲの前で跳躍した。緑の帯を引いて空高くへと舞い上がった。ああやべぇ…。調子に乗って跳びすぎた。俺は素で跳んでも余裕で雲の上まで跳べるのだ。それを脚力を上昇させた状態で跳んだらどうなるか考えてから跳べばよかった。すごい速度で上昇していく俺の周りは次第に暗くなりはじめた。もしかして宇宙空間のようなところまで跳び上がりかけているのではないだろうか。この世界に宇宙があるのかどうかは知らないが………。ともかく重力に引かれて戻ることなく遥か遠くまでそのまま跳び去ってしまいそうなので俺は空中でくるりと反転して上下を入れ替えた。そして空間を蹴る。同じ〝獣化 跳〟で『地面に向けて跳んだ』俺は練兵場の上空へと帰って来た。よかった。ちょっと焦った。
このまま勢いに任せて着地したら練兵場に大穴を開けて周囲に大きな振動をもたらすだろうということは想像に難くない。というか俺の嫁や仲間達は問題ないが練兵場にいる獣人族は衝撃だけで死ぬだろう。そこで俺は頭から突っ込んできている体勢を再度上下入れ替えて神力をほんの短い時間軽く放出してブレーキにする。ついでに少しだけ〝獣化 跳〟をかけて勢いを殺す。物凄い勢いで『落ちて』きていたのにも関わらずまったく衝撃もなくふわりとでも音がしそうなほど静かに着地した。
アキラ「俺が獣化を使える証拠になったかな?」
俺は目の前にいるティーゲに向けて微笑んだ。
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その後俺に協力的になったティーゲが獣化を教えてくれた。俺の予想やティーゲが言っていた通りここにいる獣人部隊の者は誰一人獣化が使えないそうだ。ティーゲが使える獣化も〝疾〟と〝跳〟の他に〝爪〟というものしかなかった。これは俺がソドムでゴーレムを破壊するのに使った魔力を纏った爪を振るって衝撃波と魔力を飛ばしたのと同じような能力だった。あれはそもそも師匠が妖力を爪に纏ってその爪を振るい衝撃波と妖力を飛ばす攻撃をしていたので俺が魔力でそれを代用して使ったものだった。もちろん精霊力でも獣力でも同じことが出来る。だから一見〝爪〟自体は俺にはあまり意味がないように見える。だが厳密には原理というか種類が違う攻撃だった。結果は似たようなものになるがな。
簡単に説明すると俺が以前使った方法は単純に物凄い速さで手を振った衝撃波に神力を混ぜ込んで飛ばして相手にその衝撃を与えている。対して〝爪〟は手を振る速さは関係ない。さっきから出てきている何らかの力を飛ばしているのだが手を振った衝撃波の中に混ぜ込んでいるわけではなくただ手を振るのは範囲を指定するためだけなのだ。〝爪〟を使用してその範囲を指定してやれば自動的に何らかの力がその範囲に攻撃してくれる。
それが違うからといってどう違うのか?一番の違いがわかりやすいのは水中だろう。水中で手を振った衝撃波を伝播させようとしたら空気中とは勝手が違う。重く衝撃を発生させにくい上に衝撃を起こせば水流が起こったりして別の場所、もっと言えば自分自身にすらダメージはなくとも影響を与えかねない。だがこの〝爪〟を使えばそれがない。何らかの力だけが飛んでいくので水への影響も少なくて済む。もしかすれば影響自体がないかもしれない。それは水中で試してみなければわからないがとんでもない衝撃波を起こすよりは自分自身や周囲への影響が小さいことは明白だろう。
ただだからと言って水中で〝爪〟を使うかというと俺なら他のもっと便利な能力を使えば良いので結局必要ないといえば必要ないのだが…。ただ身に付けられるのなら覚えておいて損はない。とりあえず習得した。まぁ俺の場合はただティーゲが使ったのを見るだけなのだが………。
獣人族の中でも獣化が使える者はほんの一握りだそうだ。そしてその一握りの中でもいくつも使える者はさらに少ない。一つでも使えれば即幹部レベルだと言っていた。それを三つも持っているティーゲは何者かと言うと大樹の民のリーダーの弟であり本人も神を除いた大樹の民の中で第三位の実力者だと言っていた。リーダーである兄はティーガと言うらしい。第三位の実力者であるティーゲと一緒に来ているこのアルクド王国出向虎人種部隊という者達も本当に大樹の民の精鋭なのだそうだ。それほどの精鋭を送り込んでいる理由はやはり大獣神が人神に最大限の協力をしていることの証拠なのだろう。
それはともかく俺の獣化の修行はすぐに終わったのでその後は皆軽く体を動かしていた。ガウと五龍将が遊びという名の修行をしていたりそこへシルヴェストルとルリが混ざったり。ガウは途中から獣人部隊の修行も見ていたようだった。ルリは獣人部隊に近づけてはいけない。手加減するつもりでもルリの能力に手加減は無意味だ。バラバラに切り刻まれて粉微塵にされてしまうので彼らにも近づかないようにアドバイスしておいた。皆が運動する前までは『こんな人間族の少女が?』と笑っていたがルリが運動している姿を見た後では顔を青褪めさせてブルブル震えていた。これで今後彼らが不用意にルリに近づいて切り刻まれたとしても自己責任だ。
そうして運動を終えた俺達は部屋へと戻ったのだった。
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部屋へと戻った俺達を、いや、俺を満面の笑顔で師匠達が待ち受けていた。
狐神「アキラ。ちょっとこっちへおいで。」
ミコ「さぁさぁアキラ君。」
フラン「こっちですよアキラさん。」
ティア「アキラ様はやく~。」
どこかへ行っていたティアまで戻ってきて師匠達の輪の中に入っていた。何事かと警戒する俺ではあったがかわいい嫁達に呼ばれてはついふらふらとおびき寄せられてしまった。
狐神「さぁ捕まえたよ!まずはこれを!」
ミコ「その次はこれね!」
フラン「私が選んだのはこれですよ!」
ティア「わたくしのお勧めはこれです!」
アキラ「なんだなんだ?!」
俺は師匠に捕まってから嫁達に服を脱がされていく。もしかしてピンチか?貞操の危機か?
というわけでもなく着せ替え人形のように色々な服を着替えさせられて一人ファッションショーのように皆の前でお披露目させられることになった。
師匠が俺に着させたのは女性用のスーツのような姿だった。そういえばルリもスーツっぽいし最近の師匠の流行なのだろうか。ワイシャツにタイトスカートにジャケットだ。ちょっと胸が苦しい。
狐神「いいね!このおっぱいとおしり!はぁ…、撫で回したいよ。」
アキラ「いやいや!もう撫で回してますから!」
師匠はハァハァ言いながら俺の体を撫で回している。セクハラ上司か?!
続いてミコが選んだ服は純白のドレスだった。まるでウェディングドレスのようにも見える。
ミコ「はぁ…。アキラ君綺麗………。うっとりしちゃう。このまま私と結婚式をごにょごにょ………。」
アキラ「いや…。うん…。今日はミコもおかしいぞ?」
急に結婚式とか言われたら俺も赤面してしまう。正直結構…、いや、本当に正直に答えよう。めちゃくちゃかわいい。ナルシストじゃないつもりだが鏡で見る俺の姿に俺までうっとりしてしまいそうだった。こんな花嫁さんを貰える夫は幸せ者だろう。
そしてフランが選んだのはどこかの女子高生の制服のような衣装だった。シロー=ムサシが言っていたのを聞いて知ったが襞のように折り目のついているスカートをプリーツスカートと言うらしい。そのミニのプリーツスカートとミコやフランが着ているようなフリルのついたワイシャツっぽいシャツ。その上からブレザーのようなジャケットを着せられている。下にはフランと同じタイツのようなものを履かさせられている。スカート自体はいつも履いているから慣れているはずだがタイト系じゃないミニスカートは初めて履いた。物凄く恥ずかしい。下半身が頼りない感じがする。女はよくこんな格好で居られるものだと驚いた。
フラン「かわいいですよアキラさん。」
アキラ「うぅ…。俺は恥ずかしい。」
ミニすぎるスカートの丈を何とか伸ばそうと下に引っ張るが元々短い布が長くなるはずもなく無駄な抵抗に終わった。
次はティアだ………。これは絶対無理!着れない!
ティア「わたくしの選んだものは着られないのですね!うわぁ~ん!アキラ様のばか~!」
ティアが泣き出したが本当にこれは無理………。
アキラ「スクール水着でも無理なのにビキニとか絶対無理だって!」
そう。ティアが選んだのはよりによってビキニタイプの水着………。ほとんど布がない。信じられない。いざ自分が着ろと言われて初めてわかった。これは異常だ。ほとんど裸だ。恥ずかしすぎて無理!
ティア「やはりアキラ様はわたくしなどいらないのですね………。」
アキラ「あああぁぁぁ!待って!違うから!着る!着るからそんな顔しないでくれ!」
ティアの悲しそうな顔を見て俺は決心した。………。だが直後に後悔した。やはり着るべきじゃなかった………。ほとんど出ている胸。同じくほとんど出ているお尻。ぎりぎりまでV字にカットされている股間。恥ずかしい!顔から火が出そうだ。
ティア「とっても素敵ですアキラ様!」
アキラ「………うん。………まぁティアが元気になったならいいか。」
狐神「どうせお風呂で何度も裸を見せているのにそんなに恥ずかしいのかい?」
アキラ「師匠………。お風呂で裸の方が恥ずかしくありません。一人でこんなところで水着を着てるほうが恥ずかしいに決まってるでしょう?それにこう見えそうで見えないくらいのほうが見えちゃってたらどうしようって気を使って余計に恥ずかしい………。」
もう恥ずかしすぎる。早く着替えたい。その後は一緒に練兵場に行った嫁達も俺の服を選びだして俺の着せ替えタイムは当分続いたのだった。
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なぞの俺の着せ替えタイムが終了した後で話を聞いてみる。
アキラ「何で急に俺の服の着せ替えなんて始まったんですか?」
狐神「アキラもいつも同じ服装じゃ飽きちゃうだろう?たまには違う服も着たらどうかと思ってね。」
ミコ「うんうん。色々な服を選ぶのは楽しいでしょう?」
フラン「私は皆さんのノリに合わせて………。私はアキラさんの着たい服装で良いと思いますよ。」
ティア「あぁ!フランだけ一人良い子ぶりっこですか?アキラ様騙されてはいけませんよ。フランだってノリノリだったのですからね!」
皆で俺を楽しませようとして考えてくれたのかな?ティアのビキニは正直勘弁して欲しかったが他は特に問題もなかった。確かに楽しかったし、もう慣れてなんとも思わなくなっていたはずの俺自身も今日はまた違う一面が見れて改めてかわいいと思ってしまった。いや!俺はナルシストじゃないよ?でもかわいいものはかわいいのだから仕方ない。フリードが俺に迫ってくるのもよくわかる。俺だって目の前にこんなかわいい子がいたら絶対に告白する。むしろ俺に粉をかけてこないロベールやパックスは変な性癖でもあるのかと思ってしまう。………それはちょっと言いすぎか。
ともかくこうして俺達だけはマイペースに時間を潰しながら過ごしていた。
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フリードの迎えが到着したのとガルハラ帝国とアルクド王国で交渉が纏まったのは同じ日だった。迎えが到着するにしては随分速すぎる。俺達は多少寄り道したとは言えかなりの時間がかかった。だが迎えの面子を見れば理由は簡単だった。迎えに来た先遣部隊は大ヴァーラント魔帝国の千人隊だったのだ。俺達は馬車で人間の手段で移動していた。だから休憩もたくさんとったし時間がかかったが魔人族である千人隊ならば軽く走っても馬車より早く着く。後から人間族による本隊もやってくるそうだが俺達がいなくなってもフリードの身の安全を守るために先に千人隊がやってきたらしい。
千人隊には魔帝国に戻ったはずのマンモンがいた。あまり詳しい事情は聞いていないのだがジェイドは何かあって千人隊の指揮官から外れたらしい。そのジェイドが八人の魔人族を連れて俺のところへやってきた。
ジェイド「アキラ。俺達九人は千人隊を離れてアキラ親衛隊となった。これは大ヴァーラント魔帝国とは関係ない部隊だ。言葉通り俺達はアキラとその仲間達のためだけに存在する。俺達の命を受け取ってくれ!」
ジェイドは俺の前に跪き腰から抜いた剣を両手で横に持ち俺に差し出した。他の八人も同じようにしている。中には何人か千人隊と旅をしていた時に見た顔がある。いきなり何のことかわからず俺は戸惑ったが師匠が後ろからそっと背中を押した。そのままつつっと前に押し出されてしまったので俺は一人ずつその剣を一度受け取り鞘から抜いて剣を跪いている者の肩に乗せてから鞘に収めて剣を返した。これはサタンがパンデモニウムの式典でやっていたことの真似だ。俺はこの世界の作法も魔人族の作法も知らない。ただの見様見真似な上にこの場でするのが合っているのかもわからない。だがアキラ親衛隊と名乗ったこの九人は神妙な面持ちで黙って跪いていた。全員の剣を一度受け取り授けてから最後にまた先頭のジェイドの前に立ち俺は声をかける。
アキラ「お前達の命は預かった。これからは俺のために励め。ただし安易に死ぬことは許さない。どんなことがあっても生き延びろ。」
アキラ親衛隊「「「「「「「「「ははっ!必ずやご期待に添えてご覧に入れます!」」」」」」」」」
何か知らないけどそれっぽいことを言ったら周囲からも拍手が巻き起こった。マンモンもジェイドに惜しみない拍手を送っていた。………何これ?何でこんなことになってんの?ただ千人隊やフリード達が見ている前で俺だけこのアキラ親衛隊とやらの剣を受け取らないとか言ったら大変なことになっていたのは想像に難くないのでこれしか解決策はなかったのだ………。こうしてなぜかアキラ親衛隊は結成され俺達に付いて来ることになったのだった。
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フリード達がアルクド王国とした交渉や合意内容は俺は詳しく知らない。知りたくもない。ただアルクド王国はこれまで何度も外交でウル連合王国に無理難題を吹っかけたり越境してウル連合王国内で略奪行為を行っていたそうだ。相手が強いと思えば媚び諂い、相手が弱いと思えば嵩にかかって横暴な振る舞いをする。本当にとことんアルクド王国というやつらはどうしようもないクズだ。そして今はバルチア王国も国がなくなってしまった。放っておけば今度は旧バルチア王国の国境を越えてアルクド王国が略奪を行いかねない。そこで破壊された街道の補修も兼ねてガルハラ帝国の部隊が国境警備につくことになった。ウル連合王国側も旧バルチア王国側も国境線にはガルハラ帝国の部隊がいることになる。この部隊は単に国境警備しているだけではなくいざとなったらもう一つの合意である南回廊とそこへつながる街道の確保にも動くことになる。俺が知るアルクド王国との合意の中に南回廊へとつながる街道の通行の自由と南回廊の通行権をガルハラ帝国が受け取っているのだ。もし合意に違反して街道や南回廊を封鎖しようものならすぐに国境を越えてガルハラ帝国軍が押し寄せることになる。少なくとも今のアルクド王国ではガルハラ帝国に勝つ方法はなくそのようなことをする可能性は低いだろう。
俺達は久しぶりにデルリンでいた時と同じ面子が集まり同じように過ごしていた。ジェイド達アキラ親衛隊(名前が恥ずかしい…。)は俺達に付いて来ると言って引かない。これはもう覆すことは無理だろう。フリードとロベールも俺達に付いてきたいと言っていた。だがパックスはこれからガルハラ帝国での問題もあるので帰るべしと説得していた。俺も説得してフリード、ロベール、パックスは中央大陸に残ることで納得したようだった。マンモンは部隊の隊長としてではなくプライベートの時に本音を語ってくれた。本当はマンモンも俺達に同行したいそうだ。だが六将軍序列一位の身であり千人隊の隊長でもある自分がそれらを投げ出して行くわけにはいかないのだと語っていた。だから俺は自分の責任を放り出して出て行く奴よりも我慢して責任を果たすマンモンの姿勢こそ好感が持てると慰めておいた。
確かに俺の旅に同行すれば強くなれるけどマンモンはそんなにジェイドに強さで追い抜かれるのが嫌なんだな。マンモンってそこまで強さに執着しない奴だと思ってたけどやっぱりジェイドに抜かれるのはショックなんだろうか…。ロベールも北大陸に行く時には強さが足りないからと説得したが今の強さで南大陸なら十分通用するだろう。本当は連れて行ってやりたいがフリードの護衛についていてやって欲しいのも本音だ。後で何かロベールにお礼とお詫びをした方がいいかもしれないな。フリードはもちろん連れていけない。あいつはこれからのガルハラ帝国に必要だ。いくらその場にいなくとも火の精霊の伝令で情報は伝えられるとしてもやっぱり国にいない者は王としては相応しくないと思われてしまう。俺が火の精霊王でありながら国を空けていたからこそ余計に思う。だからフリードは皇帝になるのなら国にいなければならない。そう説得したらフリードは引き下がった。
アルクド王国出向虎人種部隊は俺達と共に南大陸へと帰るそうだ。ぶっちゃけこいつらは敗残兵というか捕虜というかなので返してやる謂れはない。俺達から見れば敵方に協力していた上に俺達に敗れて捕まっているも同然だからな。だが別にガルハラ帝国はこんな捕虜は欲しくないそうだ。そして俺達も当然いらない。捕虜だって食わせるのはただじゃない。食費もかかれば管理する手間もかかる。それにこいつらはガウや俺達に逆らわないようになったので開放してやることにしたのだ。
地球のハーグ陸戦条約でも捕虜はもう二度と戦争に参加して捕虜にした国に牙を向かないと宣誓すれば捕虜を返すという項目がある。もちろんこれは何の強制力もない。捕虜が逆らわないと誓ったとしても捕虜にした国が逃がしてやらなければならない義務はない。またもし万が一宣誓して逃がしてもらったにも関わらず再度戦争に参加して捕虜になったならば今度は捕虜として扱ってもらう権利を失うという項目もある。俺がそれらを参考に二度と俺達に牙をむかないことと万が一その約束を破ったら次は容赦しないということを伝えてティーゲ達も同意した。この世界でそんな口約束を守るかどうかは知らないが別に守らなければそれはそれで良いと思って一緒に回廊を渡って返すことになったのだった。
少し話はそれるがこの獣人部隊はやはりというか魔人族と仲が悪かった。千人隊やアキラ親衛隊(恥ずい。)を仇を見るような目で見ている。もちろん捕虜の立場なので手を出したりはしないがその雰囲気はまさに一触即発にみえるのだ。そこで俺はアキラ親衛隊と獣人部隊で親善試合をさせてみた。ジェイドが参加したら強すぎてジェイド一人で他の全員を余裕で倒してしまう。だからジェイドはなしにする。そして相手の隊長がいないのなら俺も抜けるといってティーゲも抜けた。
アキラ親衛隊八人とアルクド王国出向虎人種部隊二十人。人数差は実に2.5倍にもなる。アキラ親衛隊がどんな特殊能力を持っているかは知らないが神力や身体能力など表面的にわかる範囲で結果を予想してみる。俺の予想では本気でこの両部隊が殺しあえばアキラ親衛隊が数人死傷して獣人部隊は全滅するだろう。親衛隊のほうは精々一人か二人死亡。そして一人か二人負傷といったところかな。そう思っていたが親善試合が終わってみれば親衛隊は全員無傷。獣人部隊は全員手も足も出ずのびていた。能力的には俺の予想と大差はなかった。ただ連携が優れていたのだ。近、中、遠のバランスがよく前衛がうまく凌ぎ後衛の支援で一気に決着がついた。これは獣人側の人数を増やしても結果は良くならない。何より獣人族は個の能力で戦うタイプだ。もし人間族のように戦列歩兵を並べても例えばティーゲの場合得意の機動力が失われて却って弱くなってしまうだけなのだ。だから獣人族には大部隊での戦闘は向かない。連携の取れる少数部隊ずつでの運用が大前提なのだ。だからこそアルクド王国への援軍としてやってきているこいつらですら二十一人しかいないのだ。
そしてこの結果のままでは引き下がれないとティーゲがジェイドに隊長同士一騎打ちをしようと持ちかける。当然ジェイドは受けて立ち散々ティーゲに攻撃させて最後に一撃でティーゲを気絶させた。圧勝。アキラ親衛隊はジェイド以外はそれほど強い個体はいないがその強さは精鋭と呼べる代物だった。この親善試合の後親衛隊と獣人部隊はお互いを認め合い打ち解けたのだった。
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さらに少し経ったある日ようやくガルハラ帝国の部隊が到着した。ようやくと言ったがこれでも実は早すぎる。理由は簡単でこの部隊はガルハラ帝国本土からやってきたわけではなく旧バルチア王国に配備されていた部隊から選抜されてやってきたのだ。アルクド王国からみればすぐ北にある旧バルチア王国からならばそれほど遠くない。それでもこれだけの時間がかかったのだ。人間族とはいかに不便であるのかよくわかる。他にもまだまだ国境警備部隊やアルクド王国内での監視要員など色々な部隊の動きがあるはずではあるのだがそれはガルハラ帝国とアルクド王国の問題であって俺達には関係ない。
千人隊とフリードの直轄で動かせる人間族の部隊が来た以上はもう俺達の護衛は必要ないだろう。俺達は旅を再開することにした。俺達が出発する前の晩餐は盛大に執り行われた。その日の晩に俺達の部屋の前で揉めている三匹の雄がいたのだが嫁達も寝ている俺の部屋に夜這いにくるなど言語道断なので全員仲良く地獄突きを味わうことになった。マンモンとジェイドはフリードを止めようとしただけで夜這いする気はなかったと弁明していたが深夜に俺の嫁達が休んでいる部屋の前で騒いでいた罰だといって鉄拳をお見舞いしたのだ。フリードは人間としては異常に硬くなっていた。最初の一発は前の感覚で手加減して殴ったら『あれ?』という顔をして平然としていたのでマンモンとジェイドにお見舞いしたのと同じ威力で叩き込んでやった。それはさすがに効き過ぎて口から内臓が飛び出し…、やめよう。グロ注意になってしまう。まぁ大惨事になってしまったのだった。
翌日俺達は出発したのだが昨日の別れもなんのその。最初から決まっていたがフリード達と護衛に千人隊とマンモンを連れて南回廊まで見送りに付いて来たのだった。俺の記憶ではピョンソルには行ったことがなかったので記憶のルートからは外れている。一度記憶のルートまで戻ってからふらふらと進み予想通り南回廊へと到達した。
だが南回廊の手前では予想外のことが起こった。北回廊と同じく南回廊にも手前に街が出来ており回廊は大門によって塞がれていたのだがあまりに記憶の景色と町並みが変わっており記憶がかなり混乱したのだ。そもそも町並みが変わるというよりも記憶の景色では街すらなかったのだ。ここからは南回廊へ向かったのだろうと予想していたのでなんとかルートが途切れることなく南回廊へと出られた。南回廊からは見渡す限りの海と回廊だけなので記憶のルートに問題はない。だがもしこんなわかりやすい目的地ではなくブレーフェンの時のように何らかの施設などを探さなければならなかったとすれば発見するのはかなり難しかっただろう。やはり人の手が入っている場所では記憶の景色と状態が変わって混乱する確率が高い。今回はなんとかなったが次にまたこんなことがあったらその時も大丈夫とは限らない。とはいえまだどんなことになるかもわからない先のことを気にしていても意味はない。その時にその場にあった方法を考えるしかないのだから。
南回廊は北回廊と同じように砂浜のような地形の上に橋がかかっていた。嫁や仲間の他にアキラ親衛隊と元アルクド王国出向虎人種部隊を連れた俺達は三つ目の回廊を渡り始めたのだった。




