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転生無双  作者: 平朝臣
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第五十一話「デルリンでの日々」


 朝目が覚める。今日ですでに俺達はデルリンの宮中にある皇太子邸で過ごすようになって十日が経っている。


シルヴェストル「アキラぁ…。切ないのじゃ…。アキラぁ…。」


 朝起きるとシルヴェストルが俺に体を擦りつけながらハァハァしていた。別にいつものことなので驚かない。とはいえ毎日ではない。せいぜい数日に一度あるかないかだ。むしろ最初に聞いていたよりずっと頻度も低いのでこのくらいは黙ってシルヴェストルのやりたいようにやらせている。それより俺が座っているとすぐに膝の上に飛んできてごろごろと甘えてくるのが可愛くて仕方ない。暫く好きにさせていたら満足したのかシルヴェストルは顔を真っ赤にしながら飛んで逃げていった。夢中になっているときは気付かないが我に返った時に恥ずかしくなるのだろう。そういう所も可愛い。


 目が覚めたら次に俺はミコと一緒に調理場へと向かう。まだ完全には立ち直っていないがあれ以来ミコは皆の前では気丈に振舞っている。それでもふとした時に寂しそうな顔や悲しそうな顔をしている時がある。また夜眠っていると悪夢にうなされたり寝言で例の二人に謝ったりしている。そんなミコに何もしてやれない俺はただそっとミコの涙を拭って抱き締めることしか出来ない。時々起きている時でも俺の胸を貸して欲しいと言ってくることがある。俺はただ黙ってミコを抱き寄せるだけだ。ミコが気丈に振舞っているときはこちらも普通に接する。ミコが俺に支えて欲しい時は黙って支える。俺にはそんなことしか出来ないのがもどかしい。


ミコ「アキラ君………いつもありがとう。」


アキラ「え?何のことだ?」


ミコ「うん…。全部…、かな?えへっ。」


 そう言ってはにかんで笑ったミコの笑顔が眩しかった。ゆっくりでも少しずつでも立ち直っているのだろう。だから俺はミコの望むようにただ支える。


 調理場で料理が出来ると次はもちろん朝食だ。朝食は嫁達以外にも人がやってきて特に賑やかになる。俺の嫁達以外にまずは五龍将とバフォーメだ。こいつらは俺と一緒に食事をするなど不敬だとして最初は断っていた。だが俺が皆で食べた方がおいしいからお前達も一緒に食べろと言ってからは素直に一緒に食べている。五龍将達は甲殻類の手足と念力のようなものを使ってうまくご飯を食べている。バフォーメは髑髏のついたチョーカーになっているが髑髏の部分だけ分離すると小さいバフォーメになって動けるようだ。時々『メエエェェ』と啼きながらちょこちょこと歩いているのが何だか可愛らしい。


ブリレ「ちょっと主様!最近バフォーメばっかり可愛がりすぎじゃないかな?!」


ハゼリ「そんなことはどうでも良いのです。それよりも今夜の寝所での護衛はハゼリに譲りなさい。」


ブリレ「なんでだよ!今日はボクの番だろ?!」


タイラ「男子禁制の場所はそなたら二人が独占しておるのだ。昼の警備は我らに譲れ。」


アジル「そうだ。今日の護衛は譲れ。」


サバロ「………。」


バフォーメ「メェェエェェ。」


アキラ「ふっ。」


 バフォーメも啼きたくて啼いているわけではないようだがこの姿になるとある程度勝手に啼き声が出てしまうらしい。五龍将があれやこれやと議論しているのに場違いに可愛い声で啼いたバフォーメが可笑しくて俺は笑いながらバフォーメを撫でる。


ブリレ「ああ~~!バフォーメだけずるいよ!主様ぁ。ボクも!ボクも撫でて!」


 俺がバフォーメを撫でていたのを目敏く見つけたブリレが俺にスリスリしてくる。


ハゼリ「ハゼリもお願いします。主様ぁ。」


 ハゼリもツンツンしてくる。男三人はさすがに俺にスリスリしてこないが撫でて欲しそうに俺の周りをそわそわしている。皆可愛い俺の…ペットじゃないし、部下でも家臣でもないしなんだろう。仲間か。俺の可愛い仲間なので全員順番に撫でてやる。全員撫でてやると喜びでふにゃっとなっている。その姿は何だか可笑しくて可愛らしい。最初は不気味だとか思ったのだが今ではすっかりそんな気持ちはなくなった。


 その俺の様子を眺めているのがフリードとマンモンとジェイドだ。こいつらも朝食になるとなぜかやってきて一緒に食べている。ロベールとパックスも一緒にいるが食事は摂っていない。さすがに火の精霊王や大ヴァーラント魔帝国の序列一位の将軍や特使と一緒に食事を摂れる立場ではないからだろう。公の食事会ではないので立場等気にせず一緒に食べれば良いと思うがそうもいかないのだろう。何よりパックスのほうはまだ魔人族を信用していない。フリードに襲い掛かられても対応できるように常に身構えている。最もパックス程度では魔人族の雑兵一人にすら対応できないがそれは言わぬが花だろう。ロベールとパックスの分も俺の料理を用意してあるので後で食べていると思う。


フリード「なぁアキラ。今日は帝都観光に行かないか?」


マンモン「………!それならば俺も行く。」


ジェイド「それならもちろん俺も行きますよ。」


フリード「お前らは来るな。」


マンモン「………なぜだ?お前はいつもその腕の治療と称してアキラと一緒にいる。出掛けるだけなら俺達もこの街を案内するべきだろう。」


ジェイド「確かにいつも二人っきりなのはちょっと見過ごせないな。それに皇太子殿は彼女に色々とやらしいことをしているそうだな。そのことについても説明してもらいたい。」


アキラ「おい。お前らで盛り上がるのは勝手だが俺は行かないからな。行くならお前ら三人で行け。」


フリード・マンモン・ジェイド「「「アキラが行かないなら行かない。」」」


 三人で綺麗にハモる。さいですか。もう好きにしてくれ。


 この三人から視線を外すと二人の子供が俺の料理にがっついているのが目に入った。あの二人は普段は10cmほどに縮んでいるが食事時だけは子供のサイズになっているのだ。エンはフルサイズで人間の子供並だがスイは普通の大人並まで大きくなれる。それなのになぜあえて子供の姿なのかは俺にはわからない。ただ最近の俺は子供が結構好きだ。地球にいた頃はそうでもなかったはずだが最近の俺は子供を見ていると和んでいる自分を自覚している。例え中身が何百年も生きている老人であってもその姿に惑わされてしまう。


スイ「ちょっと!ちょっと!今日もおいしいんですけど!何よこれ!なんでこんなにおいしいのよ?!」


エン「うるさいな。ちょっとは静かに食べろよ。」


スイ「あんたに話しかけてないんですけど!あっ。それもらい。」


エン「え?あっ!このっ!それは最後までとっておいたのに!返せ!」


スイ「盗られるほうが間抜けなのよ。もう食べちゃったからアキラに新しいのでも貰えば?」


エン「ぐっ!この………。………ふぅ。もういいや。」


スイ「わかった?あんたは私には敵わないわけ。せいぜい私に貢いでご機嫌を取りなさい。」


 エンはそれ以上答えずに相手にしていない。その顔は悟りきっていた。子供の顔なのに世の全てを悟ったような顔だ。スイの傍若無人ぶりは目に余る。だが当の被害者であるエンはいつもああやって悟りきった顔で諦めている。相克の関係でエンはスイに勝てないだろうがスイはそれが理由でエンが引き下がっていると思っているようだがそれは違うだろう。例えばエンは風の精霊神と同じ状況になってもきっと今のように悟った顔をして譲ってしまうのだと思う。元々そういう性格な上にスイとエンはかなり古い馴染みのようだ。エンがスイに譲っているのはその縁ゆえか…それとも別の感情でもあるのか。そこは俺にはわからない。だがわざわざあの二人のことに俺の方から関わっていこうとは思わない。だからそれ以上は無視して朝食を終えた。


 朝食を終えた俺は午前中は嫁達と過ごす。とはいえ遊んでばかりではない。ミコやフランと魔法の練習をしたり師匠やガウと修行をしたりティアやシルヴェストルと精霊魔法の練習をすることもある。俺は今二種類以上の特殊能力を混ぜ合わせて新しい特殊能力にする練習をしている。火を起こしたいわけじゃないので火で練習して意味があるのかはわからないが基本的に狐火の術とファイヤーボールとスピリチュアルフレイムを混ぜて別の一つの新しい術にすることを目標にやっている。今日は俺がその練習をしているので俺の愛しい嫁達は六人で集まって修行をしている。まぁ嫁達とは言ってもまだティアとシルヴェストルは心が繋がっていないが俺はもう他の嫁達と区別しないで接するようにしている。もうすでに最後に一つ何か切っ掛けがあればすぐにでも繋がる状態だと思っているからな。


狐神「ほら!ミコ脇が甘いっていつも言ってるだろ?」


ミコ「はいっ!」


狐神「フランは魔法に頼りすぎだよ。それに魔法に集中しすぎて体の方が疎かになりすぎだよ。」


フラン「うっ…。はい。」


 ミコが前衛を受け持ちフランが後衛で魔法を使う。だが二人の連携が働く前に師匠によって各個撃破される。


ガウ「がうがうがうっ!」


狐神「ガウは攻撃が直線的すぎる。そんなんじゃ格上には通用しないよ。」


 二人に攻撃がいっている間にガウが師匠の死角から攻撃を繰り出すが師匠には通じない。あっさりと受け止められてしまった。


ガウ「がうぅ。」


シルヴェストル「今じゃ。」


ティア「はいっ!」


 消えていた精霊の二人が突然空間移動で現れて師匠に精霊魔法を仕掛ける。だが現れた瞬間には師匠に気配を察知されて対応されているので当然その精霊魔法は師匠に当たることはない。


狐神「甘いよ。二人は空間移動に頼りすぎだね。消えてる間は自分達も相手が見えないのが欠点だよ。」


シルヴェストル「これはお手上げなのじゃ。」


ティア「わたくしも随分強くなったはずなのに狐神様には勝てる気がしません。」


狐神「あっはっはっ。そう簡単に追いつかれたら私の立場がないさね。それと狐神様なんて余所余所しい呼び方はよしとくれよ。私らは皆アキラの嫁だろう?」


ティア「はい!」


 皆仲良く楽しそうで何よりだ。実際皆格段に強くなっている。ティアなんかは明らかに水霊神よりも強い。精霊族の中では最強レベルの四霊神より強いのだ。元々の差もあったためシルヴェストルはティアよりさらに強い。それなのにこの二人は神格を得ていない。ガウ、ミコ、フランも得ていない謎が最近ようやく解けた。実は全て師匠の仕業だったのだ。俺がこんな体の年で神格を得て体の成長が止まってしまったことを気にしていた師匠はその後ある術を開発したらしい。それは種族に関わらず神力さえ持っていれば誰でも使える術だ。術さえ正しければ力は魔力でも精霊力でもかまわない。魔方陣と同じだな。その術とは


 『神格不得之術しんかくえらずのじゅつ


 うん。もう名前がそのまんま過ぎて説明を聞くまでもない。つまりこの術を使うと本人が術を解除するまで神格を得ずにいられる。ガウなんかはこの術はぴったりだった。俺はまだ少女から青年になる間くらいなのでまだマシだがもしあんな幼いガウがそのまま成長が止まってしまったら後々可哀想だろう。心が成長して大人になっても体は幼女のままでは子孫を残すことにも支障があるかもしれない。師匠が最初の頃ガウを連れて二人で何かやっていたのはこの術を教えていたらしい。もちろんこの術以外の修行もつけていたのだが一番最優先はこの術だったわけだ。師匠もどんどん強くなっていくガウに俺が神格を得た時と同じ失敗をしてしまうのではないかと焦ったらしい。その後もどんどん増える俺の嫁達に順次この術を教えていったそうだ。ミコはともかくフランはまだウィッチ種にしては幼い方だしそれぞれ本人がこの年がいいと思う時になったら術を解除することにしたそうだ。いつ神格不得之術を解除するつもりなのかは知らないが皆それぞれ納得出来るタイミングを選べるだけ幸運だろう。ちなみにバフォーメとムルキベルとポイニクスは純粋に神格を得るにはまだ力が足りないらしい。バフォーメとポイニクスはともかくゴーレムであるムルキベルにも神格があることには驚いた。バフォーメはついでに師匠に神格不得之術を習ってかけている。バフォーメくらい長く生きているのなら得られるのならすぐに得ても問題なさそうだが何か思うところがあるのだろう。俺がとやかく言うことではないので本人に任せている。


 昼食をまた朝食と同じ面子で食べた後はフリードのところへ行く。複数の特殊能力を混ぜることはまだ成功していないがそれ以外にもするべき課題はある。なのでフリードのところへ通ってその準備を進める。


フリード「アキラ。このあと二人っきりで庭に出てみないか?」


アキラ「これが終わったらすることがある。マンモンかジェイドとでも行け。」


 フリードは最近遠慮なく俺を口説くようになってきた。俺は男に興味はないので軽くあしらう。


フリード「なんであの二人なんだよ。」


アキラ「お前ら三人仲良しだろ。」


フリード「はんっ!あんな奴らと全然仲良しなんかじゃねぇよ!」


 フリードは唇を尖がらせて横を向く。でもなんだかんだ言ってこの三人は本当に仲が良いのだよなぁ。口ではお互いにこんな調子だが結構いいトリオなんだよな。人間族と魔人族の垣根もこいつらならうまく乗り越えてくれそうな気がする。その後も俺にセクハラをすることと口説くことに精を出すフリードを軽く往なして俺は部屋を出る。


 いつも来るわけではないが今日は先日知り合ったシロー=ムサシのところへとお邪魔した。俺の嫁達に手を出したらぶっ殺すことは伝えてある。また嫁達にもシロー=ムサシは怪しいからあまり気は許さないように言ってある。嫁達に注意するように言ってあっても会わせないのが一番確実だ。だから今日は当然俺一人で来ている。目的は主に情報交換だ。シローは地球で俺達より六年前に召喚されたらしい。格好や話題的にそんなに離れているとは思っていなかったが思ったよりは離れていた。だが召喚される者が俺達の年代に集中しているな。もしかして召喚魔方陣もいくらか狙いをつけて召喚できるんじゃなかろうか?シローも同じことを考えていたようだが情報を持っていない俺達では想像することしか出来ず推測を裏付ける方法はなかった。


 そしてシローがこの世界に来てから二年だそうだ。俺やミコ達がこの世界に召喚されてから半年以上経っている。その前に非公式に召喚されたシローが二年前だとすると一年半に一回しか召喚していないのかということになる。だが本当はもっと頻度が低いそうだ。それこそ正式に勇者候補召喚をするのは五年や十年に一度なんて当たり前で過去数百年の平均でいえば二十六年に一回のペースらしい。戦力が欲しいはずの人間族がこんな低頻度でしか召喚しない理由。俺もシローも考えは一緒だった。それはつまり召喚には何らかのリスクがある。だから本当ならばもっとやりたくともできない。その傍証としてわざわざ勇者召喚する際に人間族の各国に通知する制度だ。いくらでも好きなだけ呼び出せるのならそんな必要はない。何らかのリスクがあって何度でも出来るものじゃないからその貴重な召喚をする際には各国に事前に通達するシステムが出来上がっていたのだろうというものだった。リスクがどういうものであるかなどは所詮は想像の域を出ない。だから今俺達が考えても意味はない。


 他にもこの世界で再現するべき地球の技術についてやこの世界での知識や力を応用することによって地球の技術をさらに進歩させる案などを話し合った。あとは発明や開発とは違うが都市や街道などのインフラ整備などについても話したのだった。今回も途中からフリードがやってきて三人で色々と今後の開発について夢を膨らませてから帰った。


 俺達に割り当てられた部屋へと戻ってくるとティアが俺の胸に飛び込んできた。


ティア「アキラ様おかえりなさい。」


 いや、訂正する。俺の胸に飛び込んできたのではなく俺の胸元に潜り込む。


アキラ「ティアはなぜいつもそこに入るんだ…。」


ティア「ここにいると安心するのです。それに柔らかくて良い匂いがして…。あぁ。ここがわたくしの棲家です。」


アキラ「はぁ………。もう好きにしろ………。」


ティア「はいっ!好きにします!」


 そう言うといそいそと俺の服の中へと潜り込んだ。


アキラ「ん?最近思ったんだがティアって前より大きくなっているよな?」


 前よりも胸元が窮屈になっている。俺の体は成長しないためティアの体が大きくなっているからその分窮屈になっているのだろう。


ティア「はいっ!そうなのです。アキラ様のお陰でわたくしは大きくなっております。これからももっともっと………きゃー!!」


 ティアは大きくなるのがうれしいのか顔を真っ赤にして両手を両頬にあてていやんいやんをすると服の中に引っ込んだ。


アキラ「大きくなるのがうれしいのか?でもあまり大きくなったらそこに入れなくなるぞ。」


 そう声をかけるとまたひょっこりと頭を出す。


ティア「それはそうなのですが…。でもやはり我が家系の者が大きくなるということはそれだけアキラ様のわたくしへの愛の大きさが…はっ!何でもありません!」


 何かを言いかけたティアはまた顔を隠してしまった。本人が言いたくないのなら無理に聞き出す必要はない。少し気にはなったが俺はそれ以上追及せずにおいておくことにした。


 俺は暫くティアを胸元に入れたまま自室で書類整理をしていたがティアはどうしても外せない用があると言って泣く泣く俺の胸から出てどこかへ出掛けて行った。丁度書類も片付いたので俺も椅子から立ち上がりお茶を汲みに部屋を出た。


 リビングに出ると膝にブランケットをかけて暖炉の前のロッキングチェアに座っているフランがいた。そっと近づいてみると手には読みかけの本が開かれており膝の上に乗せられていた。すーすーと規則正しい呼吸が聞こえる。うん。眠っている。何かフランは眠そうな顔をしているだけじゃなくて本当によく寝ている気がする。そっとその可愛い寝顔を覗き込んで堪能してから何の本を読んでいたのか見てみる。


アキラ「何々?………『これであなたも恋愛成就!百発百中魔法恋愛占い!』?」


 ………。ウィッチ種が魔法マニアなことは知っている。フランくらいの年齢なら恋愛にも興味がある年頃だろう…。でも魔法で恋愛占いはどうなのだろうか………。


フラン「んん………。………ぇ?えっ!アキラさん?」


 目を覚ましたフランとばっちり目が合ってしまった。


アキラ「おはようフラン。」


フラン「ふぇ?………あっ、おはようございます。………えっと。」


アキラ「よだれ垂れてるぞフラン。」


フラン「え?ええっ!あわわわ。」


 フランは慌てて自分の口元を拭っている。


アキラ「あははっ。嘘だよ。よだれなんて垂れてないよ。」


 俺は立ち上がりながらフランに本当のことを教えてやる。


フラン「………へっ?あっ!もう!アキラさんひどいですっ!」


 フランも椅子から立ち上がると頬を膨らませてポコポコと俺の胸を叩いてくる。あんまりにも可愛らしいフランに我慢が出来ずに俺はフランの腰に手を回すときゅっと抱き寄せた。


アキラ「フランにはあんなの必要ないだろう?」


フラン「え?あんなのって?」


 そう言って俺の視線を追ってフランも足元を見る。足元にはフランが立ち上がった拍子に下に落ちた先ほどの本があった。


フラン「あっ!あれは違うんです!その…えっと…。」


アキラ「占いなんかに頼らなくてもフランの恋愛はもう成就してるじゃないか。」


 俺はフランを見つめたままフランのおでこと自分のおでこをくっつける。


フラン「あぅ…。えっと。………はい。」


 真っ赤になってあたふたしていたフランも素直になってそっと俺に手をまわして抱き締めかえしてきた。二人でそのまま暫くの間抱き締めあう。


ガウ「がうぅ。」


 その声に正気に戻ったフランは俺から少し顔を離して声の主を見た。そこには俺達の下からこちらを覗き込むガウがいた。


フラン「あっ!いや…。その…、これは…。」


 フランはガウにまで言い訳をしようとしている。だがその必要はない。この後のガウの行動はよくわかっている。


ガウ「がうもご主人とちゅーするのーーーー!」


 予想通り満面の笑みで飛び掛ってきたガウを空中でキャッチする。


アキラ「フランとはしてない。ガウともしない。」


ガウ「ちゅーするのーーーー!!」


 いつものように抱っこしながら当分の間ガウを宥めることになるのだった。


 ガウを宥めたあとにまだ夕食までは時間があったのでガウと遊ぶことになった。ガウの遊びは普通の子供の遊びとは少し違う。本を読んだり御話を聞かせるのは他の子供と大差ないがその内容は子供向けではないものを好む。童話や御伽噺になどは興味がなく伝奇や英雄譚だったり戦争物が好きだったりする。遊びにしても子供のおもちゃで遊ぶことはなくガウの遊びとは専ら修行か狩りばかりだ。俺はガウと五龍将を連れてデルリンの練兵場へと向かう。


 最初に見た時からそうだったがガウは五龍将を気に入っている。能力制限をせずに全力で戦えば五龍将ではガウには手も足も出ないが同程度に能力制限をして修行の相手にするのが大好きなようだ。もちろん甚振って遊んでいるわけではない。本当に好きなのだ。友達のようなものなのだろうか?その辺りは俺にはわからないがガウは五龍将のことを大切にしている。五龍将もガウのことを信頼しているし修行の相手もきちんと務めている。


 もうすぐ夕方になるような時間なので練兵場にはほとんど人はいなかった。それなのにどこから聞きつけたのかガウが来たと聞いてからどんどん人が集まってきている。デルリンに滞在するようになってから俺達もこの練兵場を利用するようになったがガウはこの練兵場でのアイドルのような存在になった。


 能力制限をかけているからガルハラ帝国の者達はガウの真の実力を知らない。それでもガウと五龍将の遊びと言う名の修行を見ていれば自分達とはレベルが違うことが一目でわかる。最初は超強力な力を持つ不気味な魚達とそれと対等に戦える小さな幼女であるガウを怖がって遠巻きに見ていたのだが素直で天真爛漫なガウの魅力に徐々にはまっていったらしい。見た目も可愛いし性格も素直で自分からガウを傷つけようとしない限りはガウだって何もしない。人間族から見たら強すぎる力を持ってはいるが今ではそんなことに拘る者はいなくなった。ガウが練兵場にやってくると今日のようにいつの間にか人が集まってきてガウを応援しているのだ。自分の娘のように思っているガウがこれだけ大人気だと俺の鼻も高い。親が子供にアイドルやタレントをやらせたがったり着せ替え人形のように服やアクセサリーをつけさせる気持ちが少しだけわかる。


 俺はガウと五龍将の戦いの衝撃が周囲に被害を出さないようにこっそり結界を張っている。そこでは能力制限をしているとはいえ遠慮なく力を振るえるのでガウも五龍将も楽しそうに修行をしている。五龍将は順番に交代しながらガウの相手をしているのにガウはずっと一人で相手をしている。元気なことだ。そろそろ夕食の時間が近づいてきたので今日はお終いにする。


アキラ「ガウそろそろご飯の時間だから帰ろう。」


ガウ「がうがう!タイラ、ハゼリ、アジル、ブリレ、サバロ、ありがとうございましたなの!」


五龍将「「「「「はっ!」」」」」


 ガウが五龍将にお礼を言う。五龍将達はガウの言葉に頭を垂れる。周囲からはパチパチと拍手が聞こえる。


アキラ「さぁ帰ろう。おいでガウ。」


ガウ「がうがうがうっ!」


 俺はガウに向かって両手を広げる。それを見たガウは満面の笑みを浮かべて俺の腕の中へと飛び込んでくる。ガウを抱っこして俺達は帰ることにした。


ガウ「がぅ~…。がぅ~…。」


 部屋へと帰る途中でガウは眠ってしまった。


アキラ「天使の寝顔だなぁ。」


 抱っこしているガウの寝顔を覗き込む。


ブリレ「主様デレデレだね。」


アキラ「当たり前だろう?娘の成長を喜ばない親がいるか?」


ブリレ「あっ!じゃあじゃあボクも主様の子供いっぱい産むよ!ねっ!産ませてよ!」


タイラ「身の程をわきまえよ。主様には奥方様が大勢おられる。」


ブリレ「なんだよ~…。あっ。もしかしてタイラやきもち?タイラは主様に子供を産んでほしいの?」


タイラ「なっ!なんということを!恥を知れ!」


 これはタイラが慌てているのだろうか。タイラが慌てることは滅多にない。だがその後平静を取り戻したタイラにブリレはこってり絞られていた。いつも通りだ。


 部屋に帰ると夕食の時間だ。今日は珍しく朝昼晩と全ての食事で他の全員も来ている。フリードやマンモンやジェイドは別の用事があったりするのでいつも一緒とは限らない。朝食はだいたい全員来るのだが昼や夜は各自の仕事によってはこれないのだ。今日は全員揃っているので賑やかな夕食となった。


 夕食のあとは嫁達と一緒にお風呂タイムだ。ここに滞在するようになってからは食事のあとにお風呂に入っている。理由は知らない。というより前までお風呂に先に入って食事が後だったのは俺達が修行などで体中が汚れていたからだろう。俺は別にどちらが先でも後でも気にしないので今はお風呂が後になっている。


 俺達が滞在している部屋はスイートルームになっているのでリビングや簡単なキッチンやお風呂ももちろんあるのだが嫁達全員と一緒に入れるほどには広くない。そこでこの皇太子邸にある大浴場に入っている。バフォーメのチョーカーは外して置いていく。エンもこの時は俺の肩からいなくなっている。スイはなぜか俺の嫁達と一緒に入っているが…。五龍将ではハゼリとブリレだけが付いてこれる。五龍将は決して汚くも臭くもないが大勢の人間が利用する大浴場に入れてもいいものか悩んだがフリードが言うには問題ないそうなので気にせず一緒に入っている。


アキラ「ふぅ…。体の疲れが溶け出していくみたいだ。」


ミコ「くすっ。アキラ君なんだかお年寄りっぽいこと言うね。」


狐神「アキラが疲れるなんてことがあるのかい?」


アキラ「そりゃ俺だって疲れることくらいはありますよ。」


狐神「いつだい?」


アキラ「え?………う~ん。………あっ!ソドムの街を蒸発させた時とか?」


狐神「あれはすごい神力量だったもんねぇ………。逆に言うとあれくらいやらないと疲れないってことだろう?」


アキラ「それは…。まぁそうですけど…。精神的には疲れることだってありますよ。」


フラン「まぁまぁキツネさん。アキラさんが疲れていると言ってくれるほうがマッサージしたりしてアキラさんに触る口実が出来ていいじゃないですか。」


狐神「あぁ。そういえばそうだねぇ。フランが良いことを言ったね。じゃあアキラをまっさーじしてやろうかね。」


 師匠が手をわきわきさせながら近づいてくる。貞操の危機を感じた俺はお風呂では本来の大人の姿になっているスイを盾にして師匠の手から逃れる。


スイ「ちょっと!私のおっぱい揉まれてるんですけど!」


狐神「ちっ!あんたのなんて触りたかないよ。どうして逃げるんだいアキラ?」


アキラ「おい、主の身の危険だぞ。なんとかしろハゼリ、ブリレ。」


ブリレ「えぇ!狐神様の相手はちょっと………。」


ハゼリ「ハゼリでは止められません。」


 頼りにならない護衛達だ。こうしてお風呂も賑やかに過ぎていく。


 お風呂を上がって部屋へと戻る。皆思い思いにリラックスしてすごしている。師匠はソファに普通に座り俺は師匠に体を預けるように膝枕してもらいソファに横になっている。頭に師匠の柔らかい太ももの感触が伝わってくる。それに目の前に師匠のボリュームのある巨乳がこれでもかと迫っている。


アキラ「ここは天国か………。」


狐神「あん?どうしたんだいアキラ?」


アキラ「………なんでもありません。」


狐神「???そうかい?」


 師匠はまだ腑に落ちないという顔をしているが俺がそれ以上答えそうにないと思ったのかそれ以上聞いてくることはなかった。その代わりに師匠は俺の髪を手で梳いている。師匠に撫でられて気持ちいい。俺に撫でられたがる奴らの気持ちがよくわかる。だから最近は俺も五龍将やバフォーメ達を撫でてやるのだ。これは本当に気持ちよくて癖になるから…。


 そろそろ眠る時間になった。今日は師匠が隣だ。最近はミコを慰めることが多かったので今日は師匠を抱き締める。師匠のほうを向いてそっと頭を俺の胸に抱き寄せたら驚いていた。


狐神「ア…アキラ?」


アキラ「玉藻。」


 俺はそっと玉藻の名前を呼ぶ。さっき俺がしてもらったようにそっと頭を撫で続ける。


狐神「―――っ!アキラっ!」


 玉藻もぎゅっと俺を抱き締め返してくる。暫くすると次第に皆が寝付き始める。俺も夢の中へと引きずり込まれていく。この愛しい者達のためにも明日もまた頑張ろう………。



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