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転生無双  作者: 平朝臣
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閑話⑫「フリードの戦い:野望の終焉後編」


パックス「………。全軍――――」


 待て。落ち着け。本当にここで退くことが最善なのか?確かにロウエンの防衛に固執する必要はない。だがこの目の前の敵軍を放って退却しても良いという理由にはならないんじゃないのか?たった数時間ももたずに退却してしまえばこの三十万にも及ぶ大軍がカライ方面へ進出しないとは限らない。もしカライ方面へ部隊を出されたら挟み撃ちを受けるフリッツ達第一軍団分遣隊はひとたまりもないだろう。ここはこの敵軍をこの場に張り付けておくことが俺の役目じゃないのか!俺は何をしているんだ。弱気になって血迷って…。


パックス「全軍よく聞けっ!」


 そこで俺は一拍あける。戦闘中であるにも関わらず一瞬静けさが訪れたような気がする。


パックス「ここにいる九万の将兵は帝国軍であって帝国軍ではない!皇太子直轄師団を集め鍛え上げたのは誰だ?」


兵士達「「「「「………我らがフリッツ!」」」」」


 少しの間を置いてから兵達は答えた。その目には先ほどまではなかった闘志が宿っている。


パックス「俺達が忠誠を誓うのは誰だ?」


兵士達「「「「「我らがフリッツ!!」」」」」


パックス「俺達は何のために戦っている?」


兵士達「「「「「我らがフリッツに勝利を捧げるために!!!」」」」」


パックス「我らがフリッツは今も戦っている!俺達がここで退けば我らがフリッツの身に危険が及ぶ!フリッツの兵達よ何をしている?我らの命は誰のものだ?奮い立て!全軍バルチアの賊共を押し返せ!」


兵士達「「「「「おおおおぉぉぉぉぉ~~~!!!」」」」」


 皇太子直轄師団は息を吹き返した。まるで精彩を欠いていた動きが見違えるほど統率の取れた動きへと変わる。そうだ。俺達が忠誠を誓うのは帝国じゃない。俺達はフリッツに拾われ育てられて生きてきた。世の中では煙たがられる荒くれ者や傭兵崩れの俺達のような者も一人の人間として扱ってくれた。信頼して背中を預けてくれた。今度は俺達がフリッツに応える番だ!


マルセル「どういうつもりですかな?パックス司令。これは重大な軍令違反ですぞ。」


 そういえばこんな奴がいたな。


パックス「我らは命令通りロウエンの防衛をしている。マルセル大臣、何の軍令違反なのかお教え願えますか?」


マルセル「徒に兵を失わず敵を引き付けて後退せよとの命令だったはず。それをこのような先走った戦闘を続けるのは軍令違反も甚だしいのではありませんかな?」


パックス「馬鹿か………。おい。こいつを捕まえておけ。」


 俺は衛兵にマルセルを捕まえるように指示する。


マルセル「何をする!血迷ったかパックス!」


パックス「血迷っているのはお前だマルセル。フリッツは守れるのなら守れと言ったんだ。やるべきこともせずに尻尾を巻いて逃げろとは言ってない。連れて行け。」


マルセル「やめぬか!離せ!わしは従軍大臣だぞ!わしの報告一つで貴様らの首などいくらでも飛ぶんだぞ!」


 まだ喚いているマルセルは衛兵に引き摺られていく。帝国でぬくぬくと生きている奴らにはわからない。俺達はフリッツの私兵も同然だ。俺達が最優先するのはフリッツの命令であり命だ。帝国の意向も慣例も知ったことか。


パックス「第一師団は正面の敵を食い止めろ!第二師団は本陣にて魔法弓隊を守れ!第三師団は俺とともに右翼の援護に入るぞ!続け!」


衛兵「はっ!」


 即座に伝令が動きまわる。俺は第三師団を引き連れて崩れかけた右翼を立て直すために向かっていくのだった。



  =======



 右翼での戦いは凄惨なものだった。オレンジ頭の少女の魔法が次々に兵達をなぎ倒し焼き殺す。食い止めようにもまるで止まらない。被害が増すばかりだった。


パックス(くそ!あんな奴を相手に一体どうしたら………。)


 その時急に少女の動きが鈍った。魔法もぴたりと止まる。


パックス(まさか………魔力切れか?あれだけ魔法が上手いのに魔力切れに注意せず戦ってたのか?)


 少女はぶるぶると体が震えている。唇も紫色に変色し目の焦点が定まっていない。魔力を使いすぎた魔力切れの症状だ。これはチャンスだ。この魔法使いがいなくなれば援軍が来るまで粘るくらいは出来るはずだ。


パックス「敵の魔法使いは魔力切れだ!一気呵成に攻め立てろ!」


 俺も少女に向けて突撃する。少女を守ろうと必死にバルチア兵が食らい付いてくるが全て斬り伏せる。いくら士気が高いとはいえバルチア兵はあまり練度が高くない。バッサバッサと斬り捨てる。先陣を切っていた棍棒使いが少女の左前腕を殴りつけた。魔力切れで朦朧としていた少女は痛みで少女らしくない悲鳴を上げて味方の馬を奪い逃げ去って行った。


 どうやら少女は勇者候補の者だったらしい。勇者候補が自分達を置いて逃げ去ったと知ったバルチア兵の士気は途端に大きく下がった。数の上では三倍以上の差があるにも関わらず士気の下がったバルチア兵では俺達を切り崩すことができなくなっていた。敵に魔法部隊がいなかったのも幸いだろう。二日目にはとうとうバルチア軍はロウエンの街へと篭ってしまった。


 そして二日目の午後には俺達に援軍が到着した。


 到着した援軍は本軍十一万。そうだ。ウィルヘルム皇帝陛下御自ら全軍を率いてご出陣くださったのだ。本来後詰の本軍を第一軍団の援軍として全軍出陣したのだ。では後詰はというとフリッツに抜け目はない。本国の予備兵力から二個師団六万を本来本軍が担っていた後詰に充てたのだ。


 第一軍団九万に本軍十一万の援軍を得た俺達は今や二十万の大軍。敵も最初は三十万の大軍だったが勇者候補が逃げ出してから脱走兵も多いようで最早組織として機能していない。各自がロウエンの街に立て篭もっているだけだ。二十万の大軍でロウエンを包囲するとロウエンの住人達に縛り上げられたバルチア兵達が次々と連れて来られていた。ガルハラ帝国はロウエンの街に対して無理な要求や略奪は行わなかったがロウエンに逃げ込んだバルチア兵達はやりたい放題に暴れて住民達からも猛反発を受けていたらしい。大半の者は住人達によって俺達に引き渡され残りは残党狩りとして俺達が狩り尽くした。こうしてロウエン防衛戦はガルハラ帝国の勝利で幕を閉じたのだった。





  ~~~~~フリード編~~~~~



 そこはカライに程近い野戦陣地の天幕の中だった。中にはロディと数名の精鋭獣人族部隊の者がいる。中央には石で出来た硬く冷たいベットの上に一人の男の体が横たえられている。その体には上腕の中ほどから先の左腕はなく顔の上には白い布が被せられている。ロディはベットに横たえられた男の近くで目に涙を湛えながら両手の掌を合わせて何事かを呟いていた。


 カライの攻防戦自体はうまくいった。ガレオン船艦隊が近づいていることに気付かなかったバルチア、聖教皇国連合軍はまともな対応が出来なかった。岬の拠点とカライの街の連絡路を遮断された連合軍は成す術なくガレオン艦隊の砲撃によって粉砕された。連絡路の復旧をする前に岬の拠点は陥落した。そして連絡路復旧のために動いていたバルチア軍も街道で砲撃を浴びて壊滅した。残った皇国軍はカライの街を捨てて脱出しようとしたが後方で待ち伏せしていた部隊によって足止めされ、街中に砲弾を撃ち込むことを躊躇していた艦隊も街の外に出た皇国軍に向けて遠慮なく砲弾の雨を降らせた。


 戦闘自体はガルハラ帝国の圧勝であり連合軍は壊滅しカライの街はガルハラ帝国の手に落ちた。しかしガルハラ帝国が失ったものもまた大きなものだった。


ロベール「なーむー………。馬鹿野郎!無茶しやがって……。こんな姿になっちまいやがって…。俺はパックスになんて言えばいいんだ?なぁ…。フリッツ………。答えろよ………。」


 最初は勢い良く捲くし立てていた声が徐々に小さくなっていく。そのロディの問いに答える者はいない。獣人族部隊は何一つ物音を立てずにただ暗い顔をして俯いていた。


 ドスンッ!


 天幕のすぐ目の前に巨大な岩でも降ってきたのかと錯覚するほどの大きな音と衝撃が走った。まるで地震でもあったかのように地面が揺れ棚に並べている物や壁にかけているものがゆらゆらと揺れてカチャカチャと音を立てている。


 そしてその音の原因である者が天幕の出入り口を勢い良く開けた。一体どれほどの速度でその場に降り立ったのかその者がその音の原因であった証拠としてその者の足形に斜めに大きく抉れた地面があった。マントを羽織っているがフードはめくれて素顔が曝け出されている。マントに隠れて長さはわからないがマントの襟元に吸い込まれている綺麗なストレートの黒髪は相当長いことが伺える。頭の上には金色に輝く毛並の猫のような獣耳がある。明るい外にいるためか猫のように縦に細くなった瞳孔の金色の瞳が石のベットに横たえられた男を見つめている。細い顎筋に小さく整った鼻と口がかわいらしい。それでいて天上の女神かと思うほどの気品と美しさに溢れている。乱暴に天幕の入り口を開けているために伸ばした腕によってマントが捲くれて普段は見ることが出来ないその体の一部も曝け出されている。白いレースをふんだんに使った真っ黒いドレス。少女のような細い体でありながら少女にはそぐわない大きな胸がこれでもかと自己主張をしている。腰は折れそうなほど細くくびれているにもかかわらずお尻からふとももにかけては艶かしく女性らしい丸みを帯びた張りがある。


アキラ「………フリー……ド。」


 その少女は掠れた声でベットに横たえられた男の名を呼びながらヨロヨロと歩み寄った。その足取りはその少女を知る者からすれば信じられないほどにその少女らしからぬ弱々しさだった。その神々しいまでの美貌と掠れて弱弱しい声でありながらなお美しいその声音に周囲の者は心を奪われる。


 その少女が石のベットに辿り着いた頃になってようやく精鋭獣人族部隊の者達は己の職務を思い出した。少女を止めようと動き出そうとしてロディに視線だけで止められる。


ロベール「お嬢ちゃん………。すまねぇ………。俺がついていながら………。」


アキラ「………。」


 ロディの言葉を受けて顔を上げた少女は泣き笑いのような顔になり首を左右に振ってロディに応えた。その細くしなやかな白い指が石のベットに横たえられた男の顔に掛けられた布を取り払おうとしたまさにその瞬間。


フリード「アキラ可愛すぎる!」


 俺はそれ以上我慢出来ずにベットから上半身を起こしてアキラを抱き締めた。俺の顔に被せられていた白い布がひらひらと舞い落ちる。不意打ちを食らったアキラは俺の思い通りに好き放題抱き締められている!わけはない。アキラほどの者ならば俺の不意打ちなんて見てからでも避けれる。俺の胸の中でフルフルと震えているアキラの体に気付いて俺は身構えた。そろそろ怒ったアキラのボディブローが飛んできて俺は地獄の苦しみを味わうことになるはずだ。


 ………

 ……

 …


 だがいつまで経ってもその苦しみはやってこない。ふと視線を下げるとアキラは俺のなくなった左腕をじっと見つめていた。俯いていて表情ははっきりとは見えないが眉尻を下げて少しだけフルフルと震えている。もしかして…泣いているのか?俺のために泣いてくれているのか?


 それはともかくアキラが嫌がらないのなら今がチャンスだ。俺はアキラの腰を抱き締めている右手を徐々に下げていく。アキラのお尻を撫でるチャンスだ!だがもう少しでお尻だろうと思う位置でマントが盛り上がっている。これは尻尾か?アキラの尻尾は見たことがないが短いわりにいっぱい広がっている。くそっ。尻尾のせいでお尻まで手を下げられない。俺が尻尾を避けてお尻を触ろうと悪戦苦闘しているとアキラと目が合った。あっ。これは怒ってますね。さっきまでは許してくれてたけど今は冷たい視線で睨まれてます。これ以上やると絶対あの鉄拳が飛んできますね。


 危険を察知した俺は今度は一転して手をアキラの体に沿って上げていく。俺が思い切り抱き締めたら折れてしまいそうなほど細い腰を抱くとぐっと俺の方に抱き寄せる。さっきまではお互いの体が触れるか触れないかの距離で抱き合っていた俺達の体が完全に密着する。ベットに寝転がり上半身だけ起こしている状態とはいえまだ俺の方がアキラより高い。それでもお互い立っている時よりはお互いの頭の高さが近い。俺の胸にアキラの豊満な胸がむにゅむにゅと当たっている。アキラが呼吸するのに合わせてその胸も形を変えて俺の胸を刺激する。服も着ている状態で抱き合っているだけだというのにそれだけで俺は天にも昇ってしまいそうな状態だった。それにアキラの顔が近い。このままキスできてしまいそうだ。アキラの匂いが俺の鼻腔をくすぐりクラクラしてしまう。また顔を伏せているアキラとはキスできないし表情もわからないが嫌がってはいないように思う。もしかしてこのままアキラは俺の物になるんじゃ?!


フリード「いででででっ!待って。マジ痛いっ!」


 アキラは俺のなくなった左腕の断面をぐりぐりと触った。


アキラ「五秒以上経った。これでお前への借りはなしだ。」


フリード「え?それって………。」


 え?え?それってキツネの姉ちゃんとした約束のことか?


キツネ「おやおや。あの約束の分にしては随分時間も長かったし体を弄り回されても我慢するなんてそんな約束はなかったはずだけどね?まだそのケダモノの方は約束を果たしてないし先払いしてやるのかい?」


 ぞろぞろと俺の天幕に人が入ってくる。知らない奴も多いな。それに明らかに人間族じゃない奴も混ざっている。


アキラ「時間を延長したのも触られても我慢したのも他にも借りがあったからです。それにもう十分でしょう?これ以上ガルハラ帝国に血を流せというのは酷です。同族で神と神になっていない者同士が戦えば勝ち目なんてありません。」


 ああ…。そうか。そうだよな。確かにアキラの言っている通りだ。人間の神とただの人間が戦って勝てるわけはない。そこにいる魔人族共なら、それともそっちにいる精霊族ならばあるいは人間の神とも戦えるかもしれない。だけどただの人間族にすぎない俺達はお役御免ってわけか?その報酬としてさっき俺に黙って抱き締められたのか?


フリード「ふざけるな!この戦争は俺達の戦争だ!いくらアキラといえども邪魔することは許さない!」


 そうだ。俺はまだ諦めてない。確かに左腕は失った。でも戦争には負けてない。あの後の話はロディに聞いた。俺の腕を切断した狂剣のディックの剣は俺の胸にまで達して俺を両断するはずだった。だが俺の首にかけていたアキラからもらった魔力水晶が光って弾けたかと思うとディックの剣は粉々に砕け散ったらしい。俺は胸に剣が食い込んだ辺りから意識を失っていて覚えていない。それを見た切り裂き天使と二人の狂信者はそのまま撤退していったそうだ。


 その後岬の拠点を砲撃し、俺が氷で封鎖した街道を復旧しようとしていた部隊も砲撃した艦隊は街に砲撃することを躊躇っていた。それは当然だ。あの艦隊に乗っている者達は俺がスカウトした私設部隊。元々ただの一般市民だった者も大勢居る。そんな者達が無抵抗な市民がいる街に向けて砲撃できるはずはない。だが形勢不利とみた聖教皇国軍は街を見捨てて逃げ出そうとした。だが俺達第一軍団分遣隊が待ち伏せていた。足止めされた皇国軍は街への砲撃を躊躇していた艦隊の砲撃の餌食となりこの辺り一帯にいた敵は全て壊滅した。一番の強敵である切り裂き天使には逃げられたが聖教騎士団の中に紛れ込んでいた逆十字騎士団の者も大勢死傷もしくは捕縛できた。これにより聖教皇国の兵力はほとんどなくなったはずだ。


 ………神を除いてな。まだ聖教皇国には神になった者達がいる。それをどうにかするのは普通の人間には不可能だろう。アキラの言っていることは正しい。だが俺は諦めていない。そのために奥の手を出してきたんだ。


フリード「俺達の戦争は俺達でケリをつける。」


アキラ「フリード………。次は腕だけじゃすまないぞ?」


 アキラは俺のなくなった左腕を見つめながら泣き出しそうな顔と声で答えた。そうか…。俺はお払い箱みたいに扱われた気がしてついカッとなってしまった。でも違ったんだ。アキラにとって俺はお払い箱になったわけじゃなかった。俺が心配だからこそアキラは俺にこれ以上無理をしないように言ってくれたんだ。


フリード「大丈夫。俺は勝つよ。アキラのために…。だから俺が勝ったら結婚してくれ。」


 俺はもう一度アキラを抱き締めた。今度はただただ優しく。アキラは俺にされるがままに体を抱き寄せられる。俺の肩に頭を預けながら呟いた。


アキラ「馬鹿は死んでも治らないんだな。」


 アキラは体の力を抜いて俺にもたれかかっている。良い感じだ。俺とアキラの心の距離は確実に縮まっている。そうだ。俺はいつもアキラに対して失敗している時は不誠実な振る舞いをした時だ。だから俺はアキラに対しては常に誠実でなければならない。確かにアキラとエッチなことがしたい!押し倒して孕ませたい!でもそれはアキラの心を俺に振り向かせてからでなければ無意味なことだったんだ。例え力ずくで無理やりその思いを果たしたところでアキラは俺のものにはならない。アキラが心から俺に身を委ねてくれるような男にならなければならないんだ。俺は今度こそ固く心に誓った。



  =======



アキラ「で?この悪趣味な演技は誰が考えたんだ?」


 アキラは俺達がやっていた儀式に怒っているようだ。


フリード「悪趣味ってどういう意味だ?ロディのところに伝わる快方を願う儀式だそうだぞ?」


アキラ「ロディって…こいつか?お前は本当に碌なことしないな。土下座といいその変な風習はどこから仕入れた知識だ?」


 そういえばアキラにはロベールではなくロディと呼ぶようにしていることについては教えていなかった。だが頭も良いアキラはそれとなく察したようだ。ロベールと呼ばずに気を利かせてくれた。


ロベール「変な風習とはなんだ。俺の家に代々伝わる伝統だぞ!」


アキラ「これは元々死んだ人間にすることだ。なんでそんな風に意味が変わったのかは知らないがむしろ俺から言わせれば死にかけの奴にやるのは縁起が悪い。」


ロベール「ほう………。そうなのか。それじゃやめとこう。………死んだ人間にすることか。フリッツが死んだと思って慌てたのか?さっきのお嬢ちゃんは随分しおらしくて可愛かったぜ…。って待って待って。その拳を降ろして。俺が悪かったから。」


 あっさりロディが引き下がったのでこの儀式は中止となった。確かにさっきのアキラはしおらしくて可愛かったがそれをからかったロディに向けてアキラが拳を握りながらゆらりと近づいた途端にロディは謝った。ロディもあの拳の恐怖を知っているらしい。あれはまさに生きたまま地獄を味わう恐怖の拳だ。


アキラ「俺は鼓動の音や呼吸音すら聞き取れるんだ。生きているか死んでいるかくらい確かめなくてもすぐにわかる。」


ロベール「それにしちゃさっきのは………。待って待って。本当にごめんなさい。もう言わないからその拳を降ろして。」


 ロディは懲りないな。この後重要な話があるということで俺達は俺専用の天幕に移動し誰も近づけさせないようにした。



  =======



 そこで聞いた話は衝撃的なものばかりだった。アキラが火の精霊王だったとか。精霊の国四カ国と魔人族の国、大ヴァーラント魔帝国との五カ国相互防衛同盟だとか。その同盟に俺達ガルハラ帝国も入れたいだとか。急に話が大きすぎてついていけない。


マンモン「………。こんな男がアキラに相応しいとは思えない。俺と勝負しろ。」


 魔人族の六将軍筆頭のマンモンとかいう奴が俺に勝負を挑んできた。はっきり言って勝てるわけはない。魔人族の雑兵一人ですら人間族の大軍と渡り合えるほどなのだ。腕に自信のあるわけでもない俺が一人で魔人族の、それもトップレベルの奴と戦って勝てるはずはない。だがアキラを賭けてというのなら俺は譲るわけにはいかなかった。


フリード「お前もアキラを狙っているのか?だがアキラは俺の嫁だ。お前になんて渡さない。例え殺されてもな!」


ジェイド「ちょっと待ってくださいよマンモン将軍。そういうことなら俺も参戦させてもらいますよ。彼女のことを愛しているのは何も将軍だけじゃない。俺だって彼女を譲る気はありません。」


 毛むくじゃらの二本脚で立つ獣のような奴まで混ざってくる。こいつはジェイドだったか。俺達三人の視線が火花を散らす。


アキラ「お前らだけで勝手に決めて盛り上がるな。俺はお前らの誰のものでもない。」


 アキラは俺の介抱をしながら俺達を止めた。アキラに包帯をはずされている。あっ。アキラのヒンヤリとした指先が俺の体に触れて気持ちいい。その様子を見て魔人族の二人は『ぐぬぬっ!』とくやしそうにしている。はっはっはっ。見たか!俺とアキラではお前らとは育んできた愛の歴史が違うのだよ。


フリード「いででででっ!ちょっとアキラ何してんの?!」


 アキラは俺の腕と胸の傷口に指を突っ込んでいる。まだ完治していない傷口に指を突っ込まれて血が出てくる。本当に痛い。


アキラ「まだ傷は完治してないな。………これを飲んでみろ。」


 アキラは白く輝く水が入った瓶を渡してきた。これは何か問おうと思ったがアキラの目がさっさと飲めと言っているので何も言わずに一気飲みする。


フリード「お?お?おお??なんだこれ?どうなってるんだ。傷が全て塞がった?痛みもまったくなくなったぞ。」


アキラ「ふむ………。傷は治っても腕は生えてこないか………。これはどうだ?治癒の術。」


 今度はアキラが俺の左腕に手をかざす。アキラは青白く光り輝いたかと思うと左腕の切断面が温かくなってきた。もりもりと肉が盛り上がったが切断面を綺麗に覆っただけで腕が生えてくる様子はない。というか当たり前だ。切れた腕があって傷が新しければ運が良ければくっつくこともあるらしいが一度失った四肢が魔法等で再生されることなどない。そして俺の腕はあの戦闘のどさくさでどこかに行ったまま発見もされていない。もう腕そのものがない以上治るはずなどない。それにしても………。やっぱりアキラはただの獣人じゃないんだな。獣人族の力は己の内に作用するような力がほとんどで他人に対して効果を与えるようなものはほとんどない。何よりこんな青白く光輝くこともない。これはまったく別種の力だ。


フリード「腕が生えてくるわけないだろう?もういいよアキラ。それから戦争はまだ継続中だ。この戦争だけは俺達でケリをつける。だからその相互防衛同盟とやらももう少し待ってもらいた。この戦争を終わらせたら親父に…、皇帝陛下に話をつける。」


アキラ「そうは言っても勝ち目はあるのか?」


フリード「ああ。見ててくれ。俺の秘策をな。」


 俺はアキラにウィンクをしながら胸を叩いた。



  =======



 とりあえず傷も癒えた俺は部隊を引き連れて移動を開始した。カライの街周辺で消耗した戦力は第二軍団約一万一千、第一軍団分遣隊約六千。第一軍団分遣隊が短時間でこれほど多くの被害を出したのは聖教騎士団とそこに混じる逆十字騎士団と真正面からぶつかったからだ。待ち伏せからの不意打ちと砲撃がなければ簡単に突破されていただろう。残った部隊を再編した俺達はカライの警備部隊を残して沿岸沿いにさらにすすむ。目的地は聖教皇国から一番近い海岸線だ。第二軍団はそのまま聖教皇国の包囲に向かわせる。援軍に呼び寄せた予備兵力は艦隊の地上警備につけている。五十隻全ての艦隊は艦首を聖教皇国へと向ける。艦首からメインマストのある艦中央付近まである長い長い砲身。これは舷側についている小型の砲身とは桁が違う。最大射程は25kmにも達する。その威力は一撃で王城を破壊すると開発者のあいつは豪語していた。だが残念ながらメインマスト上から見ても水平線まで18kmほどしか見渡せない。最大射程が25kmあっても相手を見ることができなければ無意味だ。だが今回はその心配はない。もっとも近い海岸線から聖教皇国まではおよそ13km。陸と海の高低差を考えても十分見える距離だ。俺の指揮を合図に一斉に五十門の大魔砲が火を噴いた。


 第五射を撃ち終わった時に観測班から連絡があった。聖教皇国の包囲に向かった第二軍団から狼煙の合図あり。その狼煙は青が三本。これは事前に取り決めしていた合図で聖教皇国降伏の合図だった。『わっ』と甲板に歓声が沸きあがる。やけにあっさりしすぎていると俺は降伏を疑ったがメインマストに上がってみてわかった。五十隻がそれぞれ五射。二百五十発の大魔砲を受けた聖教皇国は見る影もなく瓦礫の山と化しあちこちから火が出ていた。これでは戦おうにも戦えない。こうして聖教皇国は俺達ガルハラ帝国に降伏した。俺は分遣隊とアキラ達だけを連れて聖教皇国へと向かった。


アキラ「それにしてもすごかったな。まさかフリードがあんなものを隠し持っていたとはな。」


フリード「はっはっはっ。そうだろう?そうだろう?俺だって神に対抗するために色々考えてたんだよ。ちょっとは見直したか?」


アキラ「………ああ。くやしいが正直お前を侮っていたと言わざるを得ない。見直したよ。」


 アキラが素直に俺を褒めてくれた。やった!心なしかうっすらとアキラの頬が赤い気がするぞ。これはきっとできる男に憧れた視線を送る乙女の顔だ。


マンモン「………ふん。あんなもの俺ならば忍び寄って気付かれることなく全てを沈められる。」


アキラ「………おいマンモン。お前何か最近キャラ変わってきてないか?」


マンモン「………。」


フリード「ふっふっふっ。マンモン君。負け惜しみはやめたまえ。いくら魔人族でも初見であれに対抗する手段がすぐにあるとは思えない。君は先に見たからそんなことが言えるんだよ。本来あれは対魔人族用だったんだ。遠距離からのあの砲撃を受けて初見で君が対抗できるのかね?」


 有頂天になった俺はマンモンに対して偉そうに説教をする。


マンモン「………。確かに前の俺ならば初見であれを受けたら部隊ごと大きな被害を受けただろう。だが今の俺ならばあの砲弾を撃ち落すことも可能だ。………『アキラのお陰』でな!」


 ぐっ!アキラのお陰の部分を強調してくる。一体俺の知らない間にこいつとアキラに何があったんだ…。いや…。待てよ。俺もアキラのお陰で魔法が随分強くなっていた。つまりこいつもアキラのお陰で魔法か何かが強くなったということか。


フリード「ふんっ。俺なんかこの傷で生き残れたのはアキラが俺に手を貸してくれてたからだ。」


ジェイド「ほう…。それで言うなら彼女は自分の身の危険も顧みず俺を助けてくれた上に俺に危害を加えた者を皆殺しにしてくれた。俺が一番愛されているということでいいかな?」


フリード「ぐぬぬっ!」


マンモン「………むぅっ!」


アキラ「はぁ…。お前らいい加減くだらないことで言い合いするな。」


フリード・マンモン・ジェイド「「「くだらないことじゃない!」」」


 俺達三人は見事にハモってしまった。


アキラ「………もう見えてきたぞ。聖教皇国が。」


 俺達は一先ず聖教皇国へと入った。



  =======



 辺りはひどい有様だった。艦隊の乗組員達を連れてこなくて正解だった。こんな惨状を作り出したのだと知ったら次はきっと砲撃を撃ち込めなくなってしまうだろう。瓦礫の山の中に大勢の人のひき肉がある。とても正視に耐えない。数ある死体の中には神もいるようだ。神の名を叫びながら瓦礫をどけようとしている者もいた。その名を聞いて見てみると下敷きになっている肉塊が確かに神であったものだとわかった。


 俺達は生き残った皇国の首脳部と会談を行った。彼らはすでに怯えきっており俺達に逆らう気力すらないようだ。この凄惨な砲撃から救われるのなら俺達の条件を全て飲むから降伏させてくれと縋り付いてきた。これは政治的な策や取引ではない。この者達は心の底からこの砲撃によって恐怖を刻まれたのだ。史上類をみない国家の無条件降伏という形で聖教皇国は降伏し一つの戦争は終わった。残るはバルチア王国のみだ。


 聖教皇国のことは第二軍団に任せて俺達はバルチア王国王都パルを目指して再び移動を開始した。



  =======



 ロウエンを守りきりパルへの侵攻を再開していた第一軍団と親父が率いる本軍とパルの外で合流した。


パックス「フリッツ!その腕はどうした?!………ロディ!お前がついていながらどういうことだ!」


ロベール「あぁ~…。すまん。言い訳考えるの忘れてたわ。」


ウィルヘルム「フリッツ。よくやった。………。だがお前は褒められないこともした。軍団を預かる最高指揮官が碌な護衛もつけずに戦場へと出て、あまつさえ左腕まで失ってくるとは…。親に心配をかけるでない。」


 親父は最初俺を威厳を持って褒めた。だが後半は普段は厳つい顔を崩して背中を丸めていた。余計な心配をかけちまったみたいだな。聖教皇国が無条件降伏した報せは届いているはずだ。親父を含めたガルハラ帝国首脳部が今後のことについて話し合っていることだろう。親父を残して俺達は本当に最後の最後の詰めとしてパルの王城へと向かって行った。


 そこで奇妙な光景を見た。敗戦した場合領主や国主の城に街の住人が押し寄せて略奪の限りを尽くすことがある。普段から恨みを買うような悪政を敷いているような悪徳領主はそういう目に会うことは珍しいことじゃない。だがその住人達は門へと押し入らずその手前で皆で何かを囲んでいる。ちらりと見えた中央の方にいる男達がズボンを下ろし下半身を露出していることから何をしているのかすぐにわかった。領主や王家の一族の女がそういう目に会うのもまたよくあることだ。


 だがそこからが普通とは違った。いきなりその輪の中央から火が吹き上がったかと思うと周りを囲んでいた男達が焼き払われた。そして中央から立ち上がった女は…。


ミコ「ヒロミ……ちゃん……。」


 ミコ=ヤマトが口元に手をあて顔をぐしゃぐしゃにして泣いている。そこにいたのは同じ勇者候補のヒロミ=ハカナだった。指手足はぐにゃぐにゃに曲がり骨折しているのがここからでも一目でわかる。衣服は破かれ体中痣だらけになっている。ここまで臭いがしそうなほど男達の体液で塗れていない場所はない。とても立っていられないはずだ。それなのに間違いなくその女は立ち上がっている。その目には狂気が宿っているのが俺にはわかった。


ヒロミ「ミコッ!ミコッ!ミコミコミコミコミコミコおおおぉぉぉ~~~~!!!憎い!あんたが憎い!昔から!ずっとずっと私の邪魔ばかりする目障りな女!いつか殺してやろうと思ってた!今ここで!今度こそ殺してやる!死ね!死ね!死ね死ね死ね死ねシネシネシネシネシネ~~!!!」


 ヒロミ=ハカナはミコ=ヤマトへと襲い掛かった。俺でも見えるほどにヒロミ=ハカナの動きは鈍い。だが誰もミコ=ヤマトを助けない。アキラの目はミコ=ヤマトを見据えている。


ミコ「ヒロミ…ちゃん。ヒロミちゃんがそうなってしまったのは私のせい?私がヒロミちゃんを受け止めたらヒロミちゃんは報われるの?」


ヒロミ「ミコぉぉぉぉおおおっ!」


 ミコ=ヤマト…。こんなになっているのにまだヒロミ=ハカナに情けをかけているのか?このまま黙って斬られるつもりか?俺はアキラに視線を送る。だがアキラはミコ=ヤマトを見据えたまま動かない。


ミコ「ごめんねヒロミちゃん。でも私にも譲れない想いがあるんだ…。恨んでくれてもいいよ。私も忘れない。ずっと忘れないから…。ごめんね………。」


 ミコ=ヤマトの姿が一瞬にして消えた。俺にはまるで見えなかった。これが勇者の力か…。気付いた時にはミコ=ヤマトはヒロミ=ハカナの後ろに立っていた。そのヒロミ=ハカナの体から血飛沫が上がると同時に崩れ落ちた。そっとミコ=ヤマトがその体を受け止める。


ミコ「ごめんねヒロミちゃん。私達…どこで間違えたのかな?この世界で私が二人の元から去ってしまったから?あるいはこの世界に来てしまった時にはすでに間違えていたのかな?」


ヒロミ「ふふふっ。がふっ!何言ってるのよ。あの時…神社で私とヒデオとミコが出会った時からもう私達は………げほっげほっ。間違えて……、いたのよ。」


ミコ「ヒロミちゃん!ヒロミちゃん!正気に戻ったんだね!」


ヒロミ「あははっ!げほっ。何言ってるの?私は最初から正気だったわよ。私は私の意志でこの国を手に入れようとして多くの人を踏みにじったのよ。ミコから全てを奪ってやろうと思っていたのよ。……でも…げほっ、全てを失ったのは私の方だったみたいね。………ざまーないわ。こんな目に会ったのもミコに襲い掛かって返り討ちにあったのも全ては…私の因果応報…。勝った巫女がそんな顔…するんじゃ……ないわよ…。」


 ヒロミ=ハカナはひゅうひゅうと息を吐いている。もう長くないのは一目瞭然だった。


ミコ「宏美ちゃん?宏美ちゃん!宏美ちゃん!!!」


 ミコ=ヤマトは小さな少女の亡骸を抱きながらいつまでも泣き続けた。いつまでもいつまでも泣き続けた。



  =======



 パル王城には略奪者の姿はなかった。奇しくもヒロミ=ハカナが門の前で暴徒を抑える役になっていたのだ。いや…、ヒロミ=ハカナはフィリップの妻になり王太子妃になっていたという情報は入っている。もしかしたらあの女はあの女なりにこの城を守るためにあそこで己の命を賭して城を守っていたのかもしれないな。その証拠に暴徒を焼き払う力を残していながら俺達がくるまで使わず…。いや、それは単なる想像だな。ミコ=ヤマトに対する恨みを晴らすために最後の最後に思わぬ力が出たのかもしれない。真相はあの少女の胸の中だ。


 城を捜索していると謁見の間でフィリップの遺体が発見された。己を刺し貫いて蹲っているフィリップの胸にはヒロミ=ハカナがこの世界にやって来た時に着ていたという異世界の服が抱き締められていた。女好きで遊びまわり一人の女に縛られるのを嫌い愛なんて知らない男だと思っていたがフィリップはフィリップなりにあの少女のことを愛していたのかもしれない。その話を聞いたミコ=ヤマトはまた泣いていた。


 王の間でシャルル王が見つかった。こちらは自害していなかった。豚野郎だと思っていたが自害する度胸もなく生き残っていたわけじゃない。その目は俺が今まで見たこともない覚悟の目をしていた。最後の幕引きをするために命を絶つことなくここで俺達の到着を待っていたのだ。


 こうしてシャルルを始めとしたバルチア王国首脳部との交渉が始まった。とはいえこちらも聖教皇国と大差ない。すでに勝敗は決し己の悪行も全て認めている。ただ息子と義娘のために最後の幕引きをするためだけに生き残ったのだ。全ての責任を背負ったシャルルは後日処刑された。それは俺の知る豚の国王ではなく堂々とした君主の姿だった。


 こうしてバルチア王国、聖教皇国の連合軍との間で起こった一連の戦争は決着した。人間族支配を目論む両国の野望はここに潰えたのだった。


 まだまだ今後の統治等これから忙しくなるが一先ず俺は国に凱旋することになった。アキラ達も一緒に俺は久しぶりにガルハラ帝国の土を踏んだのだった。



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