閑話⑩「フリードの戦い:野望の終焉前編」
バルチア王国王都パルを目前にした第一軍団は一つ手前の街ロウエンに本陣を張っていた。パル、ロウエン、聖教皇国の三都市はそれぞれが三角形の頂点になるように並んでいる。左下のロウエンに留まっている俺達が右下のパルに不用意に近づきすぎれば上の聖教皇国から出陣した部隊に挟み撃ちにされる危険が高い。北から沿岸沿いに侵出してきている第二軍団が左上から聖教皇国を圧迫し、南から周りこんできている第三軍団が右下からパルに圧力を掛ける。左下にいる俺達第一軍団は戦況を見つつ聖教皇国でもパルでもどちらにも侵出出来るようにしておく。これがガルハラ帝国の戦略だった。
だが実戦ではなかなか思い通りにはいかない。第二軍団は沿岸にあるとある都市で足止めを受けて聖教皇国に迫る目前で止まってしまった。第三軍団は南の迂回路が事前情報よりも悪く移動が遅れている。先に侵出しすぎてしまった第一軍団はパルと聖教皇国の二つの拠点から睨みを効かされ身動きが取れなくなっていた。
パックス「どうするフリッツ?他の軍団が到着するまで一度マジナ辺りまで下がるか?」
ロベール「そりゃまずいな。負けてもないのに今後退したら連戦連勝で来たガルハラ帝国軍の士気が下がっちまう。」
パックス「だがどうする?このままでは第一軍団はパルと聖教皇国に挟み撃ちにされるぞ。」
第三軍団は悪路のため到着までまだ時間がかかる。第二軍団に至ってはいつ突破できるかもわからない。平野のど真ん中にあるロウエンでは防衛戦は不向きでパルと聖教皇国から挟み撃ちを受ければ退路の確保も難しい。俺達は進退窮まり会議は紛糾している………。とバルチア王国も聖教皇国も思っているだろう。だがマジナを落とす前に出してあった要請はすでに届いているはずだ。あとは事態が動くのを待てば良い。
フリード「第一軍団は暫くロウエンで待機する。」
パックス「大丈夫なのか?ここで包囲されたら脱出も難しいぞ。」
フリード「大丈夫だ。手は打ってある。」
ロベール「ほう。フリッツがそう言うなら大丈夫だろ。」
パックス「ロディはものを考えるのを人に任せすぎだ。」
ロベール「俺は別に指揮官でもねぇし、部隊を指揮したことも作戦立案をしたこともねぇんだよ。俺が考えるべきことはいかに敵をぶっ殺すかだろ?」
フリード「はっはっはっ。その通りだな。ロディが作戦を考える必要はまるでない。それは俺やパックスの仕事だろ?」
パックス「それはそうだが…。………おいフリッツ。お前の作戦ってまたお前の身が危険になるようなものじゃないだろうな?次はもう許さないぞ?」
フリード「戦場で安全な場所なんてあるか?この場にいる時点で危険があるに決まってるだろ?」
パックス「それはわかってるが限度があるだろう!皇太子が前線部隊に混ざって最前線に立つなんて本来あってはだめだろうが。」
俺達はこうやって軽口を叩いていた。バルチアや聖教の奴らは俺達が慌てていると思っているだろうがこの会話の軽さを知ったらさぞ驚くことだろう。兵に休息を与えつつ俺は返書が届くのを待っていた。
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数日後俺の待っていた報せが届くと同時に予定外の報告も入ってきた。
伝令A「聖教皇国より聖教騎士団出陣!第二軍団のいるカライへ向かっております!」
伝令B「パルよりバルチア王国軍出陣を確認!ここロウエンへと向かっております!」
思わぬ緊急事態に全員の視線が俺に集まる。ここはいつもパックスとロディの三人でいるプライベートな天幕ではない。第一軍団の主要な者達が集まる会議の場だ。俺達はロウエンの街の住人達に余計な負担を与えないためにほとんどの部隊を街の外に待機させている。当然俺達首脳部も街の外で天幕で生活している。街の中に入るのは極一部の交渉担当や物資補給班、治安維持部隊と休暇中の者くらいである。
パックス「パルから出陣してきた部隊で俺達をロウエンに貼り付け、その間にカライの部隊と聖教騎士団で第二軍団から各個撃破する狙いか。どうするフリッツ?」
フリード「聖教騎士団を追撃する。」
会議の場にどよめきが起こる。
パックス「正気か?パルから出陣してきた部隊に挟み撃ちにされるぞ!」
フリード「もちろんパルから出てきた部隊の相手もする。第一軍団は二手にわかれ俺の部隊は聖教騎士団を追撃。第二軍団と協力しカライもろとも撃破する。パックスの部隊は援軍が到着するまでロウエンの街を防衛せよ。」
パックス「馬鹿なっ!それこそ各個撃破されるぞ!だいたい援軍到着までと言っても本軍も第三軍団も今から援軍要請したのではいつ到着するかわからない!」
声には出さないが首脳部の判断の大勢はパックスに同意のようだ。
フリード「援軍は近日中に到着する。パックスの部隊の役目はもちろん援軍が到着するまでロウエンを守れれば一番良い。だがパルの部隊が俺達聖教騎士団追撃部隊を追ってこれないように足止めすれば良い。守れなければ時間を稼ぎつつ後退してマジナ辺りで援軍と合流しろ。」
パックス「近日中に?すでに援軍要請を出していたのか?」
フリード「ああ。さっき返信が来た。当然だがすでにこちらに向かってきているぞ。」
俺は早期にこの戦争を終わらせるために二つの奥の手を親父に要請した。親父もすぐに了承しすでに二つの手は動き始めている。この策で第一軍団も第二軍団も現状を打破できる。先にバルチアと聖教が動いてきたのはあまり面白くない展開になってしまったが予想してなかったわけではない。こちらの策が動くまで黙って待って殴られてくれるほど無能でもなかったということだろう。
俺の策を聞いた第一軍団首脳部達は具体的な行動の検討に入った。最初に俺の案を聞いた時は荒唐無稽だと思ったのだろうが俺が用意していた手によって今では首脳部の誰もがこの戦に勝てると考えている。
パックス「結局またフリッツの身に危険があるじゃないか…。」
フリード「もう数日奴らが動くのが遅ければ俺達の策の方が間に合っただろうがさすがにそこまで何もしないで指をくわえてみているほど馬鹿ではなかったということだな。向こうが動き出した以上はこれしかない。戦場に出たからには多少の危険は覚悟の上だろう?」
パックス「無茶はするなよ。お前は次の皇帝になるんだからな。」
フリード「わかってる。だがここで武勲の一つも挙げておかないとな。」
具体的な作戦は決まった。あとは時間との勝負だ。聖教騎士団を追撃する俺達はパルから出てきた部隊に悟られないように早々に出陣していった。
~~~~~パックス編~~~~~
フリッツは近衛師団二万だけを連れて出陣していった。ここロウエンに戦力を残すこと。聖教騎士団を追撃するのに足の遅い大軍ではなく足の速い少数精鋭が望ましいこと。聖教騎士団の向かったカライには第二軍団とフリッツの要請した援軍が到着するため大部隊がいること。どれもわかっている。理に適っている。だが皇太子が戦場のど真ん中にありながらたった二万の軍勢しか連れていないというのはどう考えても納得できない。それでも俺は送り出すしかなかった。フリッツの右腕と言われながら学のない俺では良い対案は出せなかった。現状で取り得る良い方法が他にない以上はその案を飲むしかない。フリッツは俺なんかでは考え付かないアイデアをいつも出してくる。そしてロディはこの軍の中で誰よりも剣の腕があり常にフリッツの護衛をしている………。俺は一体何をしているんだろう…。俺はフリッツの野望のために必要なのか?何か役に立てるのだろうか………。
フリッツが出陣してから一日遅れでパルから出陣してきたバルチア王国軍がロウエンへと到着した。高台の櫓からは見渡す限りのバルチア兵がこちらへと迫っているのがよくわかる。今まで後退に次ぐ後退で集めた正規兵戦力の全てを投入しているのかもしれない。斥候からの報告では推定三十万以上と聞いている。対するロウエンに残る第一軍団は九万しかいない。第一軍団十四万のうち近衛二万はフリッツが連れて出陣した。帝国直轄師団三万はこれまで占領してきた街や砦の防衛、治安維持、盗賊などになった残党狩りで各地に散っている。
戦闘では防御側が有利とされておりこの兵力差でも砦等であれば戦えただろう。だがロウエンは碌な城壁もない平地にある街でありそもそも街中を戦場にするわけにはいかないので俺達は街には陣取っていない。街から少し離れた所にある小高い丘を中心に布陣している。もちろん市民達への被害を出さないための配慮もあるが街中に篭れば包囲殲滅される恐れがある。だから退路を確保しているこの丘の上に本陣を張っているんだ。可能な限りバルチア軍をここで足止めすること。そして足止めが無理と判断したならば早々に退却して後方の援軍と合流して余計な被害を出さないことが俺の役目だ。
ほとんど平地とはいえ多少は丘陵もある。少しでも高い位置を取っているこちらの方が有利だ。俺は作戦通り命令を下す。
パックス「魔法部隊前へ!」
俺の号令を合図に魔法部隊が前に立ちそれぞれ魔法の準備を始める。
パックス「各自撃ち方始め!」
魔法部隊はそれぞれ使える魔法の種類や射程や威力が違う。だから基本的に細かい指示はしない。各自が得意とする魔法でこの弓も到底届かない射程のうちから攻撃を開始させる。火、水、風などの魔法を次々撃ち込んでいるがバルチア軍からの反撃はない。多少の高低差があるとは言えこちらの魔法が届く以上は少し進めば向こうの魔法も届くはずだ。それなのに一切反撃してくることも防御することもなく淡々と進軍してくる様は異様だった。
三十万の兵力からすれば微々たるものではあるだろうが接近されるまでに少しでも減らしておきたい。すでに数百人以上は死者が出ているだろう。負傷者も数えればそれなりの数になっているはずだ。それなのにバルチア軍にはまったく動揺がない。もう弓も届くほどに接近しているのにまるで動揺もなくただひたすらに前進を続けている。
パックス「………弓隊前へ!撃ち方始め!」
俺の指揮でバルチア軍の前方部隊に矢の雨が降る。それでも反撃も動揺もない。ただ淡々と迫ってくる敵兵の様子に我が軍の兵も恐怖し始める。
パックス「落ち着け!前衛防御陣を!」
魔法部隊、弓隊の前に槍兵が並ぶ。魔法、弓部隊は丘を徐々に登りながら後退していく。その前を前衛部隊が守り敵を迎え撃つ。魔法、弓部隊が山頂まで後退した頃には前衛部隊同士が衝突していた。流石にここまで接近すればわかる。バルチア軍は正気を失っているとか操られているわけじゃない。バルチア軍の将兵は皆覚悟を秘めた顔をしている。魔法と矢の雨が降るのに恐怖を感じていなかったわけじゃない。今目の前で敵と斬り合っていることに恐怖を感じていないわけじゃない。だがそれを凌駕する覚悟をもってこの場に立っている。何が彼らを駆り立てているのかは俺にはわからない。一つだけ言えることはこれまでのように簡単にはいかないだろうということだ。これまで蜘蛛の子を散らしたようにすぐに逃げ出していた敵であればまだ戦えただろう。もしかすれば援軍が到着するまでに俺達だけで蹴散らすことも出来たかもしれない。だがこの目の前にいるバルチア兵達は覚悟を持ち士気が高い。死の恐怖に打ち克ち命令通りに一糸乱れず進軍するだけの士気がある。それに比べて連戦連勝で楽々進軍してきた我が軍は少し気が緩んでいたのかもしれない。即席の僅かな防御陣地しかなく地形的優位もほとんどない。数では三倍以上の差があり士気にも差がないどころかもしかしたら我が軍の方が劣るかもしれない。俺は敵を甘く見て楽観しすぎていた。
パックス(すまんフリッツ………。ここはもう長くもたない………。)
伝令「パックス司令!右翼後方より敵別働隊接近中です!」
伝令の言葉にはっとした俺は右翼側へ視線を移す。丘を迂回した敵の一団が右翼に側面から攻撃を仕掛けていた。その戦闘力はあまりに圧倒的。みるみるうちに右翼側は崩れ始めていた。その先頭に立つのはオレンジ掛かったショートヘアーの黒髪の年端もいかないような少女だった。動きが素早いことと距離があることからここからではあまり詳しくはわからないがその少女のような者の戦闘能力は他者を圧倒している。まさに桁違いだ。ロディの本気は見たことがないが俺の知る範囲ではロディでも厳しい相手かもしれない。剣の腕だけならロディの方が勝っているかもしれない。だがその少女は魔法が使えるのだ。マジナで見たフリッツほどではないにしても帝国の魔法部隊でも上位の者が数名掛かりでやっと発動できるかどうかというレベルの魔法を次々に撃ち出している。フリッツの言っていた言葉が思い出される。
フリード『対軍戦闘がメインになる国家間戦争では如何に強力な魔法をたくさん撃ち出せるかが勝敗の鍵を握る。個人の剣の技量など戦争では役に立たん。』
その時俺は『そうだな』等と相槌を打ちつつ実際には全然わかっていなかったんだ。その少女が乱発する魔法によってそれほど時間をかけずに我が軍は総崩れになるだろう。たった一人の高位の魔法使いがいるだけで一軍がいとも容易く敗れることになるんだ。頭ではフリッツの言葉をわかっているつもりで、今目の前で見せられるまで本当の意味ではわかっていなかった。何の対策も考えてはいなかった。
マルセル「これまでですな。パックス司令、ご英断を。」
パックス「マルセル大臣………。」
第一軍団に従軍している首脳部の一人であるマルセル大臣がやってくる。言っていることはわかっている。最早勝敗は決した。これ以上ここに留まっていても徒に被害を増やすだけだ。フリッツもロウエンの防衛に拘る必要はないと言っていた。俺達が後退しつつうまくバルチア軍を引き付けていけばフリッツの方へ追撃部隊を出されることもなく後ろからやってきているはずの援軍と合流すればバルチア軍を撃破するチャンスも生まれる。被害が出すぎて退却すらままならなくなる前にさっさと退くべきだ。フリッツだってこうなることを考えていたから防衛に拘るなと言っていたんだ………。
マルセル「さぁパックス司令。はやく指示を。」
パックス「………。全軍――――」
~~~~~フリード編~~~~~
カライに向かった聖教騎士団の追撃を開始して一日が経っている。カライまでの距離を考えれば聖教騎士団はすでにカライの防衛部隊と合流しているだろう。聖教騎士団も精強な軍で一兵卒が他国の百人に相当するとまで言われている。だが実際にそこまでの差があるとは思えない。聖教のためならば命を惜しまず死を恐れず向かってくる狂信だけは本物だろう。だがそれだけで百倍もの能力を発揮できるほど人間は単純じゃない。だから聖教騎士団そのものはそれほど脅威ではない。油断は出来ない相手だが相応の戦力で相手をすれば勝てない相手ではないのだから。
今回俺が聖教騎士団を追撃することにした一番の理由は聖教騎士団に紛れ込んでいるであろう逆十字騎士団の戦力を把握するためだ。逆十字騎士団だけは通常の戦力では計り知れない。場合によっては百万の大軍よりも厄介な存在になるだろう。こっちに聖教の戦力が向かってくれたのは俺にとっては幸いだった。こっちには俺の奥の手がある。沿岸からでは聖教皇国は少し遠いと思っていたが自分達からこちらへ寄ってきてくれるのなら好都合だ。逆十字騎士団の全戦力は投入されていないだろうが一部でもこのカライで暴くことが出来れば今後の戦闘で有利になるだろう。俺達がカライの後方を封鎖し、俺の秘密兵器と第二軍団が正面からカライを攻略すれば一網打尽に出来る。第一軍団を危険に晒すことにはなってしまったが聖教皇国の勇者達や逆十字騎士団こそがこの戦争での一番の障害となる。それらをこちらの有利な条件で倒せるうちに倒してしまわなければ俺達に勝ち目はない。パックスには無理に防衛に拘らずに危なくなればすぐに撤退するように言ってある。パックスならうまくやってくれるはずだ。
フリード(無理はするなよパックス。お前がいなくなったら俺の腕が足りなくなっちまうからな。)
俺達は敵に気付かれることなくカライの後方へと接近しつつあった。
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この辺りの海岸線は基本的に北西から南東に向けて緩やかな曲線を描いている。その途中に北東へと突き出した岬がある。岬を越えて南東のバルチア王国寄りにカライの街はある。伝令からの情報では第二軍団は岬の北西、ガルハラ帝国寄りの位置で陣を張っているそうだ。街道は沿岸沿いにしかなく大軍で通るには沿岸沿いに岬を越えなくてはならない。岬を通らず直進するためには鬱蒼と生い茂る森を通り抜けなければならないのだ。この森は馬で通ることすらできないほど茂っているため少数の軍ですら通ることは難しい。何しろ荷車が使えないから補給物資も運べないからだ。
第二軍団がここを通るためには必然的に沿岸沿いの街道を通るしかない。だが当然ながら侵攻側よりも待ち伏せていたバルチア王国側の方が有利な地点を先に抑えている。岬の先端、折り返し地点を先に抑えられているために一本道しかない街道を進軍すれば直ちにバルチア側に察知されてしまう。狭い街道では数の利は活かせず無理に進軍しようとしても敵の時間稼ぎと罠に嵌って被害だけが増え続けているらしい。かと言って少数の者を森に送り込むこともできないそうだ。バルチア側の後方撹乱を狙って特殊部隊を送り込もうとしたそうだが敵の斥候と設置してある罠にかかってほとんど進めずに生還出来た者もほとんどいなかったらしい。
この状況を打破するためにはいくつかクリアしなければならない課題がある。単純にここを突破するだけならば俺が呼び寄せておいた援軍を使えば突破できる。だが敵になるべく知られず効果的に援軍の戦力を利用するためには岬で監視している敵とカライの街にいる部隊の連絡を絶つ必要がある。岬からの連絡を絶つことで俺の奥の手である援軍の力を知られずに奇襲で大打撃を与える。さらに敵の混乱も誘えるだろう。混乱の中退却しようとしてもカライの後ろには俺達が待ち伏せている。ここで聖教皇国の戦力を一網打尽にしてしまうのだ。
そこでもう一つの課題が出てくる。俺達第一軍団からの分遣隊と第二軍団、さらに言えば俺が呼び寄せた援軍との緊密な連携が重要になる。そのための連絡手段の確保が必要だ。作戦の概要としては南東側にいる俺達がまず岬の拠点とカライの街の部隊の連絡を絶つ。それと同時に第二軍団と援軍が進軍を開始する。連絡を絶たれたことでこちらの襲撃は察知されるだろうが援軍の力を知らないカライの部隊は通常の迎撃を行うだろう。少なくとも俺の援軍に対する適切な防衛は出来ないと思われる。もちろん仮に適切な防衛体制を取ったところで援軍の力があれば粉砕可能ではある。岬を越えた第二軍団と援軍をカライの部隊が察知した時にはすでに勝敗は決しているだろう。何しろ援軍には俺のとっておきの『あれ』があるからな。
事前に伝令を出して作戦は通達してあるが現在のところ緊密な連携をとれる連絡手段がない。そこで俺は岬の手前に広がる森よりもさらに内陸にある山に連絡部隊を送った。その山の上から見れば岬の両側を見渡すことができる。両側の状況を判断して狼煙で合図することにしたのだ。狼煙では事前に取り決めた何パターンかの連絡しか出来ないが何もないよりはマシだろう。あとは俺達がうまく岬の拠点とカライの街の連絡を絶つことが出来るかどうかにかかっている。
ロベール「それでどうやって敵の連絡を絶つんだ?」
ロディが疑問を口にする。失敗しても『あれ』を使えば勝てるが余計な被害を出したくはないし敵を討ち漏らして情報を持ち帰られるのも面白くない。ここで殲滅してしまうためにはこの連絡の遮断の成否が鍵を握っている。
フリード「特殊部隊を森へ送り込みカライを迂回して岬との間に侵出して直接連絡路を遮断する。」
ロベール「おいおい。そりゃ無茶だぜ。森は通れないんだろ?それに仮にそこまで行けたとしてもそんな少数の兵じゃ遮断できないぞ。」
フリード「バルチア王国は森を通っている。北西側から侵入しようとすれば罠と待ち伏せに遭うそうだが罠を設置した奴や待ち伏せをしている奴がいるということはバルチア王国側はどこかを通って行き来しているということだ。そして奴らが行き来しているということはバルチア側にはあまり罠はない。自分達が仕掛けた罠にかかったら目も当てられないからな。遮断も直接部隊を広げて遮断する必要はない。魔法等で一時的に通行できないように邪魔をすればいい。」
ロベール「おい…。その魔法を使うのはまたフリッツじゃないだろうな?」
フリード「当然俺がいく。森を越えてそれほどの魔法を使えるのは俺しかいない。」
ロベール「おいフリッツ。今回ばかりは賛成できないぜ。これはマジナの時とは違う。敵が森を利用してるっていうなら敵がうろうろしてる可能性が高いってことだろ?そんな場所へお前を行かせるわけにはいかねぇな。仮に奇跡的に目的地まで辿りつけて遮断が成功したとしても生きて帰れる可能性の低い任務だろ?」
ロディは真っ直ぐに俺を見つめている。その表情はいつになく険しい。確かにロディの言う通り遮断部隊の生還は極めて難しい。第二軍団と援軍が岬を越えてくるまで出来るだけ長くカライの街との連絡を遮断しておきたいのだ。当然敵も遮断の原因である部隊を攻撃してくる。仮に遮断を実行してすぐに逃げ出しても地の利が敵にある以上は脱出できずに見つかる可能性の方が高いだろう。岬の拠点にどれほどの戦力を置いているのかわからないが生き残る可能性があるとすれば岬の方へ脱出して自分達が岬の戦力にやられる前に第二軍団が突破してきてくれるのを願うくらいしかないように思う。…だが。だからこそ……、俺が行くしかない。
フリード「遮断を成功させつつ脱出して生き残れる可能性が最も高いのは俺とロディを加えた部隊だ。この作戦が成功しなければこの戦争は終わらない。聖教皇国の戦力をここで潰しておかなければな。そのためには俺達が行くしかないんだ。」
俺もロディを見つめ返す。どちらも一歩も退かず決着は付かない…。かと思われたがあっさり決着はついた。
ロベール「はっ。どうせ俺がいくら言っても作戦は変わらないんだろ?」
ロディが破顔した。それを受けて俺も応える。
フリード「ああ。変わらねぇな。だからロディも腹を括って付いて来い。」
これは本当に命がけだ。俺だってもちろん死ぬつもりはない。だが生きて帰れる可能性は低い。ロディに死ねと言っているのとそう変わらない。だから俺はいつも通りに命令する。それが何よりのロディへの信頼の証だから…。
ロベール「俺は雇われの身のしがない傭兵さ。命令だったら従うしかねぇよな!」
俺達は笑顔で頷きあいお互いの肩を叩いた。俺はアキラと結婚するまで…、いや、アキラとエッチするまで…、いやいや、アキラを孕ませて俺の子を産んでもらうまで…、いやいやいや、アキラと幸せな結婚生活を送って子供達に囲まれて孫達にも囲まれて老衰でアキラに看取られるまで死ぬつもりはない。
フリード「さぁ…。決戦だ!」
この戦争の大勢を決する決戦の火蓋は切って落とされようとしていた。
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第一軍団分遣隊の指揮は親衛隊長に任せて俺は最精鋭の部隊二十人で森に入った。もちろんその二十人には俺とロディも含まれている。残りの十八人は俺が信頼する精鋭中の精鋭達だ。ほとんどは獣人族部隊の者だが一部には人間族もいる。確かに獣人族は身体能力に優れている者が多いが人間族だって馬鹿にしたものじゃない。何より魔法を使えるのは大きい。…まぁ中にはロディのように魔法を一切使わないのに獣人族よりも優れている剣士もいるにはいるが…。ロディは例外だろうな。
ロベール「ん?どした?」
フリード「いや…、何でもない。」
ロベール「そうか?俺の顔をじっと見つめて…。まさか俺に惚れたなんて言うんじゃないだろうな?」
フリード「ぶっ…。気持ち悪いこと言うなよ。俺は女が好きだしアキラ一筋だ。」
ロベール「そうだな。じゃあお嬢ちゃんにまた会うためにもこんなとこじゃ死ねねぇよな。」
フリード「ああ…。当然だ。ロディだってあのキツネの姉ちゃんと会うためにこんなとこで死ねないよな。」
ロベール「そうだなぁ…。キツネのお姉ちゃんは良い女だが俺は相手にされてねぇんだよなぁ…。」
フリード「アキラは俺の物。キツネの姉ちゃんは無理。………ロディ、お前まさか………あの子供が狙いか?」
ロベール「いやいやいや!待て待て!なんでそうなるんだよ!…いや、将来美人になると思うぜ?何だかんだ言って俺にかまってくれるのもおチビちゃんだけだ。けどなぁ…、年の差がありすぎるぜ。」
フリード「年の差がなかったらいいのか?」
ロベール「あ?フリッツお前ちゃんとよく見てるか?あのおチビちゃんは将来絶対美人になるぞ?俺が二十歳若けりゃ許婚とかありだと思うぜ。」
フリード「ほう…。そういうのがわかるのは年の功か?俺は流石にあの年まで幼いとまるで興味を持てないが…。」
ロベール「俺だって今のおチビちゃんには何も変な感情なんて持ってねぇよ。ただ美人になるのは間違いない。年が近けりゃ今のうちに唾を付けておくのもありだぜ。自分じゃなくても息子の許婚とかな。」
フリード「俺は息子なんていねぇよ。」
ロベール「はっはっはっ。俺もいねぇな。」
ロベールと軽口を叩きながら森を進む。予想通り人が何度も通ったと思しき獣道のようなものがある。そんなところを通っていれば敵と遭遇する可能性も高いが作戦はすでに発動している。時間との勝負でもある以上は多少のリスクを気にしている場合じゃない。気配察知に優れた斥候を先行させているのだからそれを信じて任せるしかない。万が一敵と遭遇すれば通報される前に息の根を止めるだけだ。
かなり進んだところで沿岸の街道へと近づき様子を伺ってみる。幸運にもここまで敵には出会っていない。俺達はすでにカライから岬へ続く街道の三分の二ほど進んだところ辺りまで来ていた。この辺りでいいだろう。俺は部隊員に合図を送り皆を集める。
フリード「ここから街道を遮断する。遮断したら即座に第一軍団分遣隊まで戻るぞ。」
ロベール「え?おいおい。ちょっと待てよ。ここまで来たらこのまま岬の方へ抜けるのが筋じゃないのか?」
フリード「皆そう思うだろう。もしここの連絡路を遮断したとすれば北西の第二軍団に近づくほうへ逃げるってな。だから追っ手がかかるとしたら街道を岬に向かって追うか森を北西へ抜ける方に追っていくはずだ。まさか南東に逃げてくるとは考えないだろう。」
ロベール「なるほどな。理屈ではわかるがそれでも敵のど真ん中を通り抜けようってんだから危険な賭けだぞ?」
フリード「どの道どこへ逃げても賭けだろ?だから俺は俺の信じる道を進む。」
ここにいる全員が俺に顔を向ける。その目は俺を信じて命を託している目だ。俺はそれに応えたい。
ロベール「そうだな。それじゃいっちょ敵の裏をかいてやりますか。」
ロディの言葉に全員が頷く。ほとんどの確率で生きて帰れないと思っているはずだ。それなのにここにいる奴らは誰一人絶望していない。俺にはもったいないくらい良い部下ばかりだ…。
フリード「よし!ロディの言う通りだ。聖教の奴らを出し抜いて全員生きて戻るぞ!」
兵達「「「「「おおっ!」」」」」
全員が鬨の声を上げる。それを合図に俺は魔法を発動させた。
フリード「アイスピラー!」
アイスニードルという魔法がある。特定の位置から氷の針が飛び出す魔法だ。俺はいつの間にか魔法の威力が格段に上がっていた。その俺が全力でアイスニードルを使うと針じゃなくて柱のような塊が飛び出す。これを一直線に壁になるように次々に氷の柱を作り出す。幅1mほどにもなるほど何重にもアイスピラーを出しそれが沿岸の街道の端から森の中ほどまで壁となって迫り上がる。この氷の山を乗り越えようとしても尖った氷があちこちに突き出しており手を滑らせれば自重で串刺しになるだろう。また迂回しようにも森の中ほどまで続く氷の山脈を越えるにはかなりの時間がかかる。これで岬とカライの連絡は相当困難になったはずだ。
フリード「ずらかるぞ。」
ロベール「あいよ。」
アイスピラーで出来た氷の山脈を見届けてから俺達は南東へと脱出を開始する。戻りながら連絡部隊を送った山を見上げると青い狼煙が二本上がっていた。これは連絡路遮断組も第二軍団もうまくいっている合図だ。俺達が連絡路を遮断したのにあわせて第二軍団側も動き出している。
ちなみに氷の山を作ったのには理由がある。例えば火を起こした場合は煙で即座に岬側にもカライ側にも異変を察知されてしまう。だが氷の山ならどうだろう?何か青い塊が見えたとしてもそれが何らかの異変であると気付くだろうか?そうなのだ。火と煙は目立ち過ぎてすぐにバルチア側も行動に移る。だがまさかいきなり氷の山が出来るなどと考えていないのでこの山を発見したとしてもどうすればいいかすぐには行動に移せないだろう。そもそも街や山での火事に対してはどこの国にもある程度のノウハウがあるだろう。だが氷の山をどうにかするノウハウなどどこにあるだろう。中央大陸は温暖でよほど高い山の山頂くらいにしか自然の雪や氷はないのだ。これに対する有効なノウハウを持つ者はほとんどいない。
一人の獣人が俺に近づき耳打ちをした。
フリード「………わかった。」
ロベール「どした?」
フリード「カライ側から兵が出てきたそうだ。だが街道を移動しているだけで森に入った部隊はいないらしい。このまま森を抜けて第一軍団分遣隊まで撤退するぞ。」
ロベール「おう。敵に見つからないなら見つからないに越したことはないからな。」
そのまま走り続けても俺達は敵と出会うことはなかった。連絡部隊の狼煙も未だ青い狼煙が二本。どちらも順調に進んでいる。その時ドンッ!ドンッ!と大きな音が何度も響き渡り岬の方から大きな煙が上がった。
ロベール「なんだありゃ!」
フリード「直にわかる。」
とうとうカライを迂回しきり第一軍団分遣隊が待ち伏せしているカライの裏側の街道近くまで戻ってきた。そこからは湾曲している岬がよく見える。街道を進み俺が作り出したアイスピラーをなんとかしようとしていたカライ側の部隊もよく見える。その岬を越えて姿を現したものは…。
ロベール「まじかよ……。ありゃ…、船?どうやって?」
フリード「あれは新型ガレオン船だ。」
ロベールの疑問は尤もなので答えてやる。まず世界地図を見ればわかるが回廊と大陸が存在するために世界の海のほとんどは船で行き来することが非常に難しい。そのため海は三つにわけられている。西内海、東内海、外海だ。南北回廊と西大陸に囲まれている西内海の出口は回廊のない西大陸南部と南大陸西部の間の海峡しかない。海峡から出たところは外海と呼ばれている。外海で世界を半分周って回廊のない東大陸北部と北大陸東部の間の海峡を通ってようやく東内海へと入ることができる。歩けばたった数歩にすぎない回廊の西側と東側を船で行き来するためには世界を一周しなければならないのだ。
バルチア王国とガルハラ帝国は回廊の中心を国境線として東西に分かれている。回廊のせいで船の行き来ができないため東内海で使う船は東内海で、西内海で使う船は西内海で作るしかない。このため両国は戦争で船を使うことがないのだ。何しろ相手の領地に入ってから建造するか世界を一周しなければ運んでこれないのだから海軍は割に合わない。いくら近海では船も出せるとは言っても海の魔獣も襲ってくるために危険は伴う。その危険に見合うだけの戦果が期待出来ない以上は両国で、いや、全世界で海軍が発達しないのはある意味において当然だ。
だから俺はそれを覆した。あの新型ガレオン船の船底には魔力を流すと特殊な音波とやらが出るらしい装置が置いてある。その音波を嫌って海の魔獣があまり寄ってこないそうだ。完全に襲撃をなくすことはできないが一定間隔で装置を使うことで襲われるリスクをかなり軽減できている。
そしてこのガレオン船にはもう一つ最新装備がある。艦首から船体中央近くまであるほどの巨大な筒が長く突き出している。そして舷側には小さな窓が大量にある。今その窓は開いておりそこからも甲板にあるのと同じような黒い筒が覗いている。その筒が大轟音を響かせると岬から大きな煙が上がっている。岬を制圧し終わったと思われるガレオン船の艦隊は海をさらにすすみ街道で俺の作り出したアイスピラーに悪戦苦闘していたカライの防衛部隊にまで火を噴き始めた。
ロベール「なんだありゃ…。」
フリード「あれは………、魔砲だ。」
ロベール「魔砲………。」
魔砲とは我が帝国の技術班の技術の粋を集めて作り出された新型兵器だ。筒の中に様々な種類の砲弾を詰める。これは単純な石や鉄の塊のような弾から燃えやすい物など様々な種類がある。その砲弾を詰めた砲を数人の魔法使いが魔力を込めて撃ち出すのだ。撃ち出された砲弾は命中するとその弾の種類によって着弾した地点に様々な効果を及ぼす。あいつは何て言っていたか…。破裂して兵などを攻撃する散弾に、砦などの防御陣地やシールドを貫通する徹甲弾、他は…なんだったか…。あいつの説明は難しすぎてわからない。だが見せられれば言っていたことの意味がわかる。
ロベール「…で、でもよ。回廊があるのにどうやってこの東内海側までガルハラの船が?」
フリード「それはな…。」
さらに俺は説明を続ける。これらの船はガルハラ帝国で造られたものだ。だが世界を一周してここまで来たわけじゃない。本来この船はブレーフェンとバンブルクを往復して南部穀倉地帯から戦略物資を輸送することを目的に造られた。だが今回の戦争で聖教皇国の勇者や神達を倒すにはガルハラ帝国の戦力では足りないとわかっていた。だからバンブルクを攻略してからすぐに俺はこの艦隊を北回廊の東へ、この東内海へと渡す方法を考え実行していた。それはバンブルクの外側の陸地を魔法で削りその上に油を塗った丸太を並べる。その上を魔法と人力を合わせて船を引っ張ったのだ。後の世にこれは『ガルハラ艦隊の回廊越え』と呼ばれることになるがそのことを今の俺は知る由もない。
ガレオン船艦隊は五十隻にも及ぶ。そこにはガルハラ帝国の軍ではない俺の私設軍隊とも呼ぶべき者達が分乗している。俺の個人的な部隊、平民や商人の息子から貧乏貴族の末っ子まで個人的に俺と親しくなり力を貸してくれている者達その数二万。そして地上部隊として後方予備戦力から二個師団六万を呼び寄せた。第二軍団十二万と合わせて地上軍十八万、ガレオン艦隊五十隻、乗組員二万、そして後方に俺達第一軍団分遣隊二万。これで倒せなければどうしようもない。だがすでに勝敗は決している。ガレオン艦隊からの砲撃でバルチア王国軍はすでに壊滅している。聖教騎士団は必死に持ちこたえようとしているようだがそれも時間の問題だ。
ロベール「すげぇな。俺達の勝ちだ。」
フリード「――ッ!全員散れ!そのまま分遣隊まで駆け抜けろ!」
俺の言葉の直後に俺達が走っていた辺りに恐ろしい気配が漂う。なんとも言えない背筋の凍るような恐怖だけが駆け抜けた。何をされたのかわからない。ただその寒気のような恐怖が駆け抜けたあとに俺の前を走っていた獣人部隊の一人が粉微塵になった。
フリード「………切り裂き天使。」
俺の背中に嫌な汗が伝う。くそっ!よりによって一番最悪な奴に見つかるなんて…。どうして?いつからだ?偶然か必然か。最も出会いたくなかった相手にこんな森の中で俺達しかいない状況で出会ってしまうとは…。
ロベール「切り裂き天使?」
フリード「三十年前に召喚されて以来一度も負けたことがない最強の勇者候補…。ここ数百年の間でも類を見ない最強の勇者候補と言われながらその心により勇者とは呼ばれなかった聖教会の闇の執行人。逆十字騎士団でも最強と目されている女…。ルリ=ナナクサ。………全員振り返らず分遣隊に合流しろ!」
俺は後ろを振り返りもせずにとにかく我武者羅に魔法を撃ちまくった。それなのにヒタヒタと死の足音が俺に近づいてきているのがわかる。ぞわりと背中を恐怖が駆け上りほんの少しだけ右を見た俺の目の前にはうっすらと水色に見える黒髪をツインテールにしているまだあどけない少女のような顔があった。だがその可愛らしいはずの顔からは表情が抜け落ち何の感情も伺えず視線はどこを向いているのか俺を見ているようで見ていない。首を傾げて俺を覗き込むその姿はまさに俺にとっては死神に見えた。
死神「………あっくん?」
フリード「………え?」
それだけ言うと死神はすっと下がり見えなくなった。
フリード(助かった…のか?)
ロベール「フリッツ!左だ!」
フリード「―――ッ!」
俺の左腕の方から剣が迫っている。その剣を振っているのは緑の髪の男だった。全てがゆっくりと動いている。俺はこの男も知っている。切り裂き天使のお守りをしている二人の逆十字騎士団の狂信者。赤髪の女、血染めのファーナと緑髪の男、狂剣のティック。さっきルリ=ナナクサがいた以上はこの二人もいると気付くべきだった。ティックの剣はゆっくりと俺の左上腕を中ほどで切断した。まるで痛みがない。それに全ての動きがゆっくりと遅く、それでいてはっきりと感じ取れる。俺の腕を切断した剣はさらに俺に迫り左胸に食い込む。鎧など無意味だと言わんばかりに威力が衰えることなく俺の心臓に目掛けて剣が体に吸い込まれる。
フリード(すまんアキラ………。俺はここまでだった…。)
俺を振り向きながら物凄い形相をしているロディ。最後はアキラの顔を見ながら逝きたかった。これが俺の最後に見た景色だった……。
一万五千文字オーバー…。二~三話分くらいありそうな量かもしれません…。明日も同じくらいと思うけど許してね!
そしてフリードの方が主人公っぽい熱い戦いをしてるような気が………。だってアキラ君は強すぎて敵を瞬殺しちゃうんだもん………。
話の流れで閑話が三日続きます。主人公達はお休みです。




