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転生無双  作者: 平朝臣
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第四十八話「北大陸での諸々」


 シルヴェストルを加えた俺達はパンデモニウムの城に戻ってきた。すると俺達に宛がわれた部屋の前で数人の精霊達が集まっていた。


ティア「どこへ行っておられたのですかアキラ様!」


 俺達を見つけたティアがすぐに俺のもとへとやってきて騒がしく周りを飛び回る。


アキラ「ちょっとな。それでお前達はどうした?」


 水の国の宰相として水の国の者達と一緒にいたティアだが俺のパーティーメンバーになっているのでティアが俺の部屋を訪ねてくるのは何もおかしなことはない。親であるウンディーネもティアと一緒に来てもおかしくはないだろう。事実ウンディーネも俺の部屋の前に来ている。だが明らかに俺の部屋を訪ねて来るのはおかしい奴が二人ほどいる。火の精霊神と水の精霊神だ。なぜこいつらまでティアとウンディーネと一緒に俺の部屋の前にいるのか…。


水の精霊神「客をずっと部屋の前に立たせておくわけ?部屋に入れてお茶とお菓子を出したほうがいいと思うけど?」


 ………。なぜ俺が水の精霊神を持て成さないといけないのだろうか………。


アキラ「まぁいい。話があるなら部屋で聞こう。」


エアリエル「火の精霊王様。それでは私達はこれで失礼致します。」


アキラ「休んでいかないのか?お前達には苦労をかけた。」


エアリエル「とんでもありません。シルヴェストル様は私達にとっても大切な方なのです。水の国も火の精霊王様に重要なお話があるご様子…。私達はこれでお暇致します。」


アキラ「そうか…。すまんな。」


 エアリエルとシルフィは頭を下げて帰っていった。二人を見送った俺達もいつまでも廊下にいても仕方がないのでさっさと部屋へと入っていった。


水の精霊神「お茶とお菓子は?」


 席に着いた水の精霊神はさっそくお茶とお菓子を要求してくる。


アキラ「うるさい奴だな。あまりうるさいとお前だけ出さないぞ。」


水の精霊神「なんですって!ケチなこと言わないでさっさとおいしいお菓子出しなさいよ。」


 これ以上何か言っても面倒になるだけのようなので黙って全員分のお茶とお菓子を出す。暫くお茶を楽しみ全員が一息ついたところで声をかける。


アキラ「それで?何か用か?」


ウンディーネ「わらわが婿殿に挨拶に行こうと思ったところ水の精霊神様もご一緒されると…。」


 ウンディーネは俺とティアをくっつけたいようだからまだわかる。なぜ水の精霊神が?俺に何か用があると言うのだろうか?


水の精霊神「あんたオーレイテュイアの夫なんでしょ?じゃあ私の義理の子になるってわけ。だからこれからは毎日私においしいご飯をご馳走しなさいよ。」


アキラ「………はい?」


水の精霊神「察しが悪いわね。私はあんたのご先祖様になるんだからご飯ご馳走しなさいって言ってんの!」


アキラ「ティアと水の精霊神に血縁関係があるのか?それから仮にそれがあったとして何で俺がお前にご飯を食べさせなければならない?」


ウンディーネ「水の精霊王は一つの家系が独占しているのです。それが我が家であり水の精霊神様もその家系なのです。」


 ウンディーネやティアが水の精霊王の家系について説明してくれた。まず水の精も風の精と同じように普通は直接子を産むようなことはない。ただし風の精と違って水の精は全て女性だそうだ。性別はあるが女性しかいないので子が産まれることはない。風の精も水の精も自然発生的に生れ落ちてくるそうだ。また火の精と土の精も同じく自然発生的に生まれてくる。この四大精霊種達は基本的に子供を作ることはないそうだ。だが水の精霊王の家系だけは特別。精霊の神になっている者達は皆他の精霊達より大きい。だがウンディーネを見てわかる通りこの家系だけは精霊とは思えないほど人間並に大きいのだ。そして水の精霊王の家系は普通に他種と交わり子を産みその子がまた水の精霊王として後を継いでいく。水霊神も水の精霊神もウンディーネの遥か遠いご先祖様でありウンディーネとティアは言葉通り本当にお腹を痛めて産んだ親子なのだ。


 だがティアは水の精としてはかなり大きいがウンディーネや水の精霊神のように人間並には大きくない。ここには何か秘密があるようだ。これからもっと大きくなる可能性はあると言われたがはっきり大きくなるとは言わなかった。つまり体質や家系的に大きくなることが確定しているわけではなく何らかの要因次第で大きくなったりならなかったりするということだろう。


アキラ「混血は禁忌っていうのは何だったんだ?」


ティア「それはその通りなんです。ただ水の精は女性しかおらず、その上我が家系はお母様や水の精霊神様をご覧の通り普通の精霊に比べて体が大きいのです。他種と交わっても第一子は必ず水の精霊王が産まれると言われておりますので問題はありません。」


 妖狐が必ず女の妖狐を産むというのと同じことか。だが第一子はと言うのならそれ以降は違うということか?


アキラ「第一子以外は?」


ティア「それは………。エルフになると言われています。」


アキラ「じゃあ世界中のエルフはお前達の遠い血縁者か?」


ティア「それは違います!確かに我が家系の者もいるかもしれません。ですがほとんどのエルフは違います。」


 まぁ土の精は老人には見えるが一応男性の性別を持っている。水の精も女性の性別を持っている。性別がなく子供を産む可能性がないのは火と風の精だけだ。つまり火と風の精以外ならば半精霊族たるエルフを産み出す可能性はあるということか。


水の精霊神「わかった?私はウンディーネやオーレイテュイアのおばあちゃんなわけ。で、あんたはオーレイテュイアの夫なんだからおばあちゃんである私にご飯を食べさせる義務があるのよ。」


火の精霊神「黙って聞いていれば何を勝手なことを言っている。そいつは火の精霊王なんだ。お前なんかの面倒は見てられないんだよ。」


水の精霊神「あんたこそお呼びじゃないのよ。私達の会話に割り込んでこないでちょーだい。」


 火の精霊神と水の精霊神が言い争いを始めた。こいつらは何か因縁でもあるのか?火と水の仲が悪いにしてもこいつらは個人的に特別お互いに何か含むところがありそうだ。


水の精霊神「ともかく私はオーレイテュイアが心配だからあんた達に付いて行ってあげるって言ってるのよ。」


アキラ「いらん。これ以上余計な奴が増えても困る。だいたいお前は人間並にでかいから邪魔だ。」


水の精霊神「なによ!じゃあこれでどうなのよ!」


 そう言った水の精霊神の姿はみるみる小さくなりデフォルメされたねんどろいどのように小さくなった。10cmほどになったその姿はデフォルメの具合も相俟って可愛らしい。なぜか頭には水の精霊魔法でできた涙滴型の水の帽子のような物を被っている。


火の精霊神「ちっ…。じゃあこれでどうだ。」


 火の精霊神もなぜか同じように小さくなった。こちらも頭に火の精霊魔法でできた炎のような帽子を被っている。こちらもデフォルメされていて可愛らしい。マスコットにはもってこいだろう。


水の精霊神「ぷっ。エンはいつまでたっても昔のままね。」


火の精霊神「それはスイのほうだろう!自分の姿をよく見てみろ。」


アキラ「水の精霊神はスイで火の精霊神はエンと言う名前なのか?」


スイ「ちょっ!気安く名前を呼ばないでよね。」


エン「そうだ!お前は俺より格が下なんだから名前で気安く呼ぶな!」


 どうやら二人が神になる前の名前はエンとスイのようだ。


アキラ「うるさいな。もし俺に付いてくる気なら精霊神なんて呼んでたらお前達が神だとすぐにばれちゃうだろ。付いてきたいんだったらお前らは名前で呼ばせてもらう。」


スイ「ふんっ。じゃあスイって呼ぶことを許してあげるわ。」


エン「俺は別に付いていくとは…。」


 もうどうせこいつらはなんだかんだ言ってついてくることになるんだろう。そんな予感がする。精霊族なのだから向こうが飽きたら勝手に空間移動して帰れるのだから飽きるまで連れていけばいい。なによりシルヴェストルの状態が不安だ。同じ精霊族でしかも神にまで到っている者達が傍にいれば何かと役に立つだろう。


ミコ「アキラ君…。連れていくの?」


アキラ「ああ…。どうせ断ってもいつも通りになるだろう…。それなら精霊族の神がいればシルヴェストルのためにも役に立つかもしれない。」


狐神「七人目と八人目かい?」


フラン「良いと思いますよ。」


アキラ「こいつらは単なるマスコットです。恋愛対象じゃありません。」


 他の嫁達からは疑惑の目で見られているがこれは本当だ。ティアやシルヴェストルとは違う。こいつらはマスコット的立ち位置だ。


ウンディーネ「何やら話しがまとまったようですね。それでティアとはどれほど仲が進んだのでしょうか?」


 ウンディーネは俺達が進展したのかどうか根掘り葉掘り聞きだそうとしたのだった。



  =======



 ウンディーネは帰っていったが結局スイとエンは俺の部屋に居付いてしまった。スイの目的は明らかだ。ティアとウンディーネをダシにして俺の飯が食いたいんだろう。俺の料理を気に入ってくれたのはうれしいことではあるが素直に言葉にすれば良いのにこのような手段に訴えてくることはあまり感心しない。とはいえティアもウンディーネもよく似た性格だ。素直じゃないのはご先祖様から代々引き継いでいるのだろう。エンの目的はそのスイの邪魔をすることだろうか。こいつは俺を火の国のために働かせたいようなのでスイに振り回されて火の国のことが疎かになるのが許せないのだろう。でも俺の飯を食っているこいつを見ているとこいつもなんだかんだ言いながら俺の飯が目当てなのかもしれない………。


 ともかく二族会談が行われてからさらに数日が経過しているがまだ精霊族の代表団はパンデモニウムに滞在している。パンデモニウム内では空間移動出来ないようだが少し外まで出ればすぐに国に帰ることもできるため精霊族にとっては滞在している場所や時間はあまり関係ない。今慌てて国に帰らなければならないような案件がない以上は折角これだけの面子が揃っている今のうちに出来るだけ処理しておくべきことが山ほどある。同盟も基本部分は決定し締結されているがまだまだ詰めるべき部分もあるし、いざ始まってみると思わぬ穴を見つけその対応をしなければならないこともある。各国同士での協力や交流もあるので代表の揃っているここで色々と別の案件も話し合われているのだ。


シルヴェストル「アキラぁ…。」


 今は自室で椅子に座り寛いでいる俺の膝の上にシルヴェストルが寝そべっている。俺のもとに来て以来シルヴェストルは発作のようなものは出ていないように思う。時々発情して俺に体を擦りつけながらハァハァしているがそれは発作には見えない。風の精は無性で性知識がないために発情状態を発作と思っていたのかもしれない。俺の膝の上でゴロゴロしながら甘えているシルヴェストルの顔にかかった髪をそっと撫でる。


シルヴェストル「んんっ。くすぐったいのじゃ。」


 俺の指をくすぐったがりクネクネしているシルヴェストルが可愛い。


ティア「ちょっとアキラ様!シルヴェストル様ばかり可愛がりすぎです!わたくしも可愛がってくださいませ!」


 俺の周りを騒がしく飛び回ったティアは胸元へと入ってくる。やめろと言ってもやめないのでもう根負けして好きにさせている。シルヴェストルの登場に危機感を抱いたのか最近はティアもかなり素直に俺に甘えてくる。


スイ「まったくオーレイテュイアは子供ね。そんなことじゃ振り向いてもらえないわよ。」


エン「スイが偉そうに言えることじゃないだろ。」


スイ「何よ!ヤキモチ焼いてるわけ?」


エン「なんでそうなるんだよ………。まぁスイがそう思いたければもうそれでいいよ…。」


 左右の肩に乗っているスイとエンが罵りあう。もうこの風景はいつものことになりつつある。


ブリレ「主様ぁ。ティアとシルヴェストルばっかりじゃなくてボク達も忘れないでね。」


 今日の俺の護衛役であるブリレが俺の脚にスリスリと体を擦り付けてきている。最初は不気味な魚だと思ったものだが慣れればなかなかどうして可愛いものである。精霊達や魚達に囲まれながらパンデモニウムの城にあった本を読んで寛いでいるとこの部屋に向かって気配が近づいてきていた。ここ最近暇さえあればやってくるこの気配に俺はうんざりしていた。


黒の魔神「アキラ!会いにきたぞ!」


 ノックもなしに黒の魔神が大きな音を立てて扉を開けて入ってくる。もちろん気配をだだ漏れにして歩いている上にここのところいつもやってきているのでこの部屋にいる者は全て気付いてはいる。だが気付いているからといってレディの多数いる部屋にノックもなしに入ってくるデリカシーのなさはいただけない。


アキラ「おい。女性が多数いる部屋に入るのにノックもなしにいきなり押し入ってくるなっていつも言ってるだろう。」


黒の魔神「気配を殺さずに堂々と近づいてきていたんだ。俺が来るのはわかってただろ?」


アキラ「だからそういうことじゃないって何度も言ってるだろう?」


黒の魔神「わからんな。そんな無駄な手間を増やす必要性がどこにある?ここへ来ることをお互いに理解しているんだ。そのタイミングまでわかってる。何か問題があるのか?」


 いつもこの調子だ。女性が着替えている途中だったらどうするんだと言っても、『それなら来るタイミングがわかっているんだから到着前までに着替えを終わらせればいい。』なんて答えを返してきやがる。こいつとはこういう面では折り合いがつくことは永遠にないだろう。


アキラ「…はぁ。それで何の用だ。」


黒の魔神「アキラをデートに誘いに来た。」


アキラ「断る。」


黒の魔神「まぁそう言うなよ。」


アキラ「断る。」


黒の魔神「………。」


 二回でへこたれるのか。強引な性格のわりには押しが弱いな。


アキラ「それでマンモンとジェイドは何の用だ?」


 黒の魔神の後ろに付いてきていたマンモンとジェイドに声をかける。黒の魔神だけならいつものくだらない用だと思うところだがこの二人が来ているということは何らかの意味がある訪問なのだろう。


マンモン「…ガルハラ帝国への派遣軍が決まった。」


ジェイド「俺が派遣軍指揮官に任命されたんだ。また君達に同行することになった。よろしく頼む。」


アキラ「そうか…。」


 マンモンの言うガルハラ帝国への派遣軍とは相互防衛同盟への加盟打診として大ヴァーラント魔帝国からガルハラ帝国へと送る使節団のことである。それならばなぜ使節団ではなく派遣軍と呼んでいるのか。理由はいくつかある。まず人間族と魔人族は未だに交戦状態である。いきなり使節団として送り込んでも使節団が襲われる可能性がある。そしてガルハラ帝国がバルチア王国と戦争中でもあるため場合によってはその戦争に巻き込まれたり参加したりする可能性がある。なので最初から交戦権を持った派遣軍として送り出すことにしたのだ。


アキラ「ジェイドが指揮官で大丈夫なのか?」


 ソドムの街の件もある。実力や指揮能力は知らないが少なくとも部下達の人心掌握能力には不安があるように思う。


マンモン「………今回は俺も同行する。」


 そう言われてもマンモンの指揮能力や人心掌握能力がどの程度なのかも知らない。


アキラ「お前が長期間パンデモニウムを離れてもいいのか?」


 マンモンはルキフェルの後釜として序列一位に就くことになった。もちろん実力的にはまだバアルゼブルの方が上ではあるがルキフェルの時も二位に甘んじていたのでバアルゼブルの役目はあえて二位にいることで後進を育てたり裏からこっそり手を貸すことなのだろう。


黒の魔神「背後の心配はなくなったからな。西大陸から引き揚げてくる戦力もある。」


アキラ「そうか…。まぁお前達がそう思うならお前達の好きなようにすればいいさ。」


 相互防衛同盟に規定されている協力なら惜しまずする。規定外のことでも要請があれば検討するだろう。だが大ヴァーラント魔帝国がどのような政策を行うのかは大ヴァーラント魔帝国の者が決めれば良い。加盟国同士であっても内政には口出ししない。俺達はそれぞれ独立国家なのだから。



  =======



 さらに数日が経過している。マンモンとジェイドは軍の編成を行っているようだ。俺達が中央大陸へと渡るのに合わせて派遣軍も一緒に向かうことになっている。そして俺達が間もなく出発するので火の精霊王である俺がいる間に決めておくべきことを優先的に会議が進められている。もう重要なことはほとんど決まったと思う。あとはイフリルがいれば何とかなるだろう。


アキラ「俺達は真っ直ぐ北回廊へ向かうわけじゃない。明日にでも俺達だけ先に出発して北回廊で大ヴァーラント魔帝国の派遣軍と待ち合わせをしたいがどうだろう?」


 俺の言葉に主要な者達の視線が集まる。


サタン「記憶を取り戻すというやつかね?派遣軍も一緒に連れていってはどうかな?」


アキラ「大人数では邪魔になるだろうし移動速度も遅いだろう。俺達が記憶のルートを回っている間に派遣軍の準備をして北回廊で待ち合わせた方が無駄がないと思うぞ。」


 サタンはどうやら俺と派遣軍を一緒に行かせたいのだろう。俺の言葉にも即答せず難しい顔をして何かを考えているようだ。


黒の魔神「何日くらいかけてどこを回るんだ?」


アキラ「さぁな。ルートは行ってみなければわからない。日数はその気になれば北大陸全てを回るとしても一日もかからないだろうがそんなに急ぐ気もない。」


 黒の魔神の質問は返答に困る。どこをどれくらいで回るかなんてわからないのだ。それがわかっていればそもそも記憶を失っていないということなのだから…。


マンモン「………軍の再編にはまだ時間がかかる。精霊族の協力があれば連絡は取れるのだからそれでいいだろう。」


 マンモンは俺に賛成のようだ。派遣軍の編成のせいで俺達の出発を遅らせている上に、俺達に同行しても足手まといにしかならないことをよくわかっているからだろう。こうして俺達は明日一足先に出発することになった。


 明日俺達が出発するということでこの日の晩餐会は盛大に執り行われた。だが俺達が送り出される方なのに料理の大半は俺達が用意した物というのはどうにも釈然としないのだった。



  =======



 翌日パンデモニウムを出発した俺達は西回廊方面へと向かっていた。そもそも北大陸に戻った時に記憶のルートから外れて真っ先に黒の魔神の下へと向かったのだ。なので記憶のルートから外れた最初の場所まで戻っているのだ。西回廊が遠くに見える見渡しの良い場所まで戻ってきたところで記憶のルートも見つかった。西回廊から北大陸沿いに北東に向かっている。いや、ここは東北東と言うべきだろうか。まぁ細かい方位はどっちでもいいだろう。ともかく北大陸の沿岸沿いに移動しているのだ。そこそこの距離を進んだ所で沿岸から離れてほぼ真東の内陸へと進みだした。北大陸の北部に当たる地域だろう。その先には嫌な感じのする活火山が見えてきていた。


シルヴェストル「あそこに近づくのはやめたほうが良いのじゃ。」


 さすがにシルヴェストルはすぐに気付いたようだ。肩に乗っていたシルヴェストルはギュッと俺の首筋に掴まる。


アキラ「心配ない。」


 そっとシルヴェストルを撫でると途端にふにゃっとした顔になりゴロゴロと甘えてきた。


フラン「あれはヴァルカン火山ですね。何者も寄せ付けない火山だと言われ魔の山とは違う意味で恐れられている火山です。」


 フランが解説してくれた。魔人族もあの山の異常性に気付いていたのかそれとも単に見ての通り大噴火を起こしているからなのかその誰も寄せ付けないという意味についてはフランに聞いてもわからなかった。


 そのまま記憶のルートに従って進むがこのヴァルカン火山という山には侵入しないようだ。かなり近くまでは来ているが火山に登るわけではないようで面倒がなくてよかった。


シルヴェストル「ここはシルフィードと同じなのじゃ。」


 やはり長い間シルフィードの禁忌の地で狂った風の元素を鎮めていただけのことはある。本来ならばシルヴェストルが感知できない火の元素のことまでなんとなくわかるようだ。そう。つまりここは火の元素が狂っている場所なのだ。


ティア「どういうことですか?」


 ティアが俺の胸元から顔を出しながら聞いてくる。


アキラ「シルフィードの風の元素が狂っているように、このヴァルカン火山の火の元素は狂っている。狂っているからこれほど噴火しているのか。噴火しているからこれほど元素が狂っているのかはわからないがな。」


ミコ「アキラ君。ここに入るの?」


アキラ「いや。入らないようだな。少しだけ周囲を回ってから移動している。」


 山の西側から近づいていたルートは山沿いに南へと周りそのまま南へと降っているようだ。怒り狂ったように噴火を続ける火山を見ながらぐるっと四分の一ほど山の周りを回って南へと抜けていく。師匠やガウはもちろんのことミコやフランももうこの程度は慣れたのか涼しい顔で特に気に留めることもなく歩いている。五龍将も平然としているようだ。…魚の表情など見分けはつかないが………。だが新しく入った精霊達は様々な表情だ。ティアは朧げながらこの山の危険性を感じ取り硬い表情をしている。シルヴェストルは狂った風の元素でよく身に染みているのか険しい表情のまま何事かを思案しているようだ。スイとエンは恐れ戦いている。やはり精霊の方が元素の影響を受けやすいためこの異常事態に対しても敏感なのだろう。


狐神「………。」


 一瞬、ほんの一瞬だけ師匠が険しい表情になった。俺以外の誰も気づけないほどのほんの僅かな変化。だが確かに師匠は険しい表情になったのだ。原因はわからない。気にはなる。しかし師匠から何も言わない以上は俺からは聞かないことにしてそのままヴァルカン火山を通り過ぎたのだった。



  =======



 その後は基本的に南方面へと進みそのまま北回廊へと出そうだった。だから俺は一つの提案をした。


アキラ「このまま行けば北回廊に出そうです。なのでここからあえてルートをはずれて西へ向かって魔の山へ寄って行きたい。」


フラン「ウィッチの村へ行かれるのですか?」


 残念ながらフランの期待とは違う目的だ。


アキラ「フランが寄りたければ寄ってもいいが目的は違う。俺の目的は魔の山にある太古の遺跡の門だ。グリーンパレスの門を見た知識とエンの協力があればあの門も閉じられるかもしれない。」


エン「なんで俺がそんなことに協力しないといけないんだよ。」


アキラ「いやか?」


 眉尻を下げてエンを見つめる。


エン「―――ッ!しっ、仕方がないから手伝ってやってもいいぞ。」


アキラ「エンありがとう。」


エン「~~~~ッ!!!」


 お礼を言うとエンはビュンビュンと高速で周りを飛び回った。そんなに俺に手を貸すのは嫌だったのか。エンの今夜のおかずは一品多くしておいてやろう。


 それからほどなく魔の山に辿り着いた俺達はバフォーメの歓迎もそこそこに古代の遺跡の門を閉じてみる。グリーンパレスの門で得た知識、俺の空間魔法の力、エンの協力が合わさって難なく閉じることが出来た。


バフォーメ「さすがは我が主でございます。」


アキラ「あぁ…。なんかあっさりうまくいきすぎて拍子抜けだな…。まっ、エンのおかげも大きいかな。」


エン「ふんっ!そう思うなら火の国のために働け!」


 それだけ言うとエンは空間の狭間に隠れてしまった。精霊神クラス以上の者は単に空間を移動するのではなく空間の狭間のようなものを作り出しそこに出入りして移動しているらしい。理由はその方が移動するためにかかる精霊力のコストが安くつくからだそうだ。前に言った通り存在が大きいほど空間の裂け目を通るのが難しくなり大きなコストがかかる。だが精霊神達は神の能力である異空間創造の力を使いそこを通ることで他の精霊達と同じように空間移動しているのだ。さらにその際二つの方法があるらしい。一つは精霊の園へとつながる門を作り出しそこを通って精霊の園へと出て精霊の園から今度は目的の場所に出るための門を作ってそこへと移動する方法。もう一つは精霊の園への門ではなく新しい異世界空間そのものを作り出す。そこと今いる場所をつなげて移動し新しい世界からこちらの世界の行きたい場所へともう一度門を作って移動する方法。


 俺は神でもないし精霊でもないのでこの二つのコストや手間の違いはわからない。ただ新しい空間を作る方を選べば今エンがやっているようにその空間に入って出てこないようにすればほとんどの者は入った者に対して何もできなくなる。同格の精霊神であるスイですらエンが篭った空間に押し入ることは出来ないそうだ。黒の魔神が人神を殺すのが難しいと言っていたのもこれが原因だ。グリーンパレスのように出入りの門を設置してあれば他の者も自由に出入り出来るが、今エンがやったように自分だけが通る門を作り出しすぐに消してしまえば同格はおろか多少格が上なくらいでは手出し出来なくなってしまうのだ。まぁそれでも俺ならば手がないでもない。いくら俺でも無限に広く無数にある空間から人神が隠れている空間を見つけ出すことは難しい。だが例えば目の前でその空間へと逃げ込んでくれればその空間がどこにあるか把握できる。あとはその空間へと干渉する方法をいくつか考え付いている。とはいえまだ俺も空間魔法が完全ではないので俺も空間移動してそこへ直接侵入するという方法はまだ出来そうにない。


 少し考えが脱線している。今は魔の山のことを考える時だろう。


アキラ「半端な悪魔達をどうする?」


 古代の遺跡の門から出てきた悪魔達は消えることなくこの山にいる。存在そのものを打ち砕いて神力へと還す方法も悪魔達が出てきた元の世界へと送り返す方法もある。


バフォーメ「恐れながら申し上げます。主のお力により受肉マテリアライズなされてはいかがでしょうか?」


アキラ「ふむ…。バフォーメはこいつらが欲しいのか?」


バフォーメ「はっ!永きに渡り我が命を守りこの山より出なかった者達でございます。滅ぼしてしまうのは哀れかと存じます。」


 俺は別に悪魔達は欲しくないがバフォーメの言うことも尤もだろう。今まで命令を守ってきた褒美が俺に滅ぼされることではあまりに可哀想だ。


アキラ「わかった。俺の命を守ってきたバフォーメに褒美として魔の山にいた悪魔達を与えよう。きちんと面倒を見て管理するようにな。」


バフォーメ「ははっ!ありがたき幸せ。」


 悪魔召喚魔方陣を応用してこの山にいる全ての悪魔を受肉マテリアライズさせる。受肉した全ての悪魔は俺に従属しその名を奪われる。俺の力を受けてほとんどの者は大きく成長していた。この世界でも史上類をみない最強の軍団を生み出した瞬間だったがこの時の俺には知る由もなかった。


アキラ「バフォーメは意識を分けて本体はこいつらと一緒に俺のボックスにでも入ってろ。分けた意識の片方は俺の傍にいろ。」


バフォーメ「はっ!」


 そう応えるとバフォーメは二人に別れ片方はチョーカーになると俺の首に巻きついた。そして残りは他の悪魔達と一緒に俺のボックスの中へと吸い込まれていった。


アキラ「バフォーメ。ボックス内の本体と意識はつながっているか?」


バフォーメ「問題ありませぬ主よ。」


 チョーカーから声が返ってくる。問題ないようだ。あとはウィッチ種のところへ行く。フランが言っていた通りウィッチ種は魔の山を城壁のようにウィッチの森を守るシステムの一部に組み込んでいた。門を閉じて全ての悪魔がいなくなってしまってはウィッチの森の防衛体制に影響が出てしまうだろう。そのことも含めてウィッチ達と話し合う必要がある。


 もちろんそれは建前の理由で本当は俺の義母や義曾祖母になるヘラやドロテーへの挨拶の方が重要なのだ。前の再会は黒の魔神のせいでばたばたしていた。フランもゆっくり家族に会いたいだろう。そこで俺達はウィッチの森へと寄り様々な報告や会議を行った。一晩ウィッチの村で過ごした俺達は翌日午前中まで村に滞在し午後から北回廊へと向かった。空間移動で一瞬で伝令ができる精霊族に協力してもらい俺達はちょうど同じタイミングで派遣軍と北回廊で合流した。


 最初に旅立った時はもっと早くに全世界を回るつもりだった。だが蓋を開けてみれば中央大陸へと戻ってくるだけでもすでに数ヶ月もかかっている。ようやく北回廊まで戻ってきた俺達は行きよりも圧倒的に多くなった仲間を引き連れて回廊を渡ったのだった。



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