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転生無双  作者: 平朝臣
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第四十五話「二族会談前夜祭」


 ティアは空間移動で精霊族の下へと向かった。探知距離に制限はないのか俺が精霊王の気配を発していれば俺の居場所がわかりすぐに戻ってこれると言っていたのでティアのことは気にせずにパンデモニウムに向かって移動している。


黒の魔神「いくつか聞きたいことがある。」


アキラ「なんだ?」


 移動中黒の魔神が声をかけてきた。


黒の魔神「お前、いや、アキラの強さからしてあの悪魔がアキラの使い魔だというのは納得した。だがなぜあんなところにあれほどの使い魔を置いている?」


アキラ「古代の遺跡の門から出てくる悪魔を管理させるためだ。」


黒の魔神「そんなわけないだろう?それならもっと低位の悪魔で十分だ。悪魔帝を置く必要はない。」


アキラ「………召喚したらあいつが出てきたんだよ。本人も納得しているからそのままあそこで門の管理をさせていたんだ。」


黒の魔神「………俺を騙す気じゃないだろうな?」


アキラ「そんなつまらん嘘を付いてどうする…。」


黒の魔神「………。確かに嘘をついてまであそこに悪魔帝を置く理由はわからないな…。ならばソドムの街を壊滅させた理由はなんだ?」


ジェイド「それは俺からお話します。」


 ジェイドが俺達の会話に入ってくる。マンモンもこの話題は興味があるのか距離を近づけ聞き耳を立てているようだ。


ジェイド「…というわけで彼女達は街を救ってくれたんです。それなのに街の者達は街が受けた被害の責任を彼女達のせいにしてひどいことをしようとしていた。俺が酷い目に遭わされたのは些細なことですが彼女達の身も危険だった。彼女達に害を成そうとしていた街の者達が返り討ちにあったのも自業自得です。」


 ジェイドの話には俺達の知らなかったことも含まれていた。まさか街の奴らが俺の愛しい者達にそんなことをしようとしていたとはな。


マンモン「………アキラは一度は手を差し伸べている。その恩を仇で返した者達が報いを受けたのは当然のことだ。」


黒の魔神「自分達から手を出そうとして返り討ちにあったのなら仕方あるまい。」


 どうやらマンモンも黒の魔神もそういう認識らしい。


アキラ「俺もまだ聞きたいことがある。黒の魔神はなぜ魔の山で気配を発して俺達を挑発していた?」


黒の魔神「狐神がソドムの街を壊滅させたことで俺は盟約に違反せずにお前達に手を出すことが出来る…と思った。だがあれが狐神でなくアキラがやったことだったのなら盟約違反になるな。」


アキラ「あれは俺がやったことだが…そんなに広範囲に感知されてたのか?」


黒の魔神「ほんの一瞬だったが途轍もない神力が世界を覆った。あまりに短い時間だったためどれほどの力だったのか正確にはわからないが狐神が西回廊を渡ったことはわかっていた。だから狐神の仕業だろうと思った。」


狐神「私が盟約違反するわけないだろう…。」


黒の魔神「だから狐神を降して配下にしようと思い待っていたんだ。」


アキラ「なるほどな。」


 大体俺の想像通りだったわけだ。


黒の魔神「なぜ妖怪族のアキラが精霊王になどなっている?」


アキラ「俺は記憶がない。記憶を失くす前の俺がなっていたんだ。なぜかは知らん。ただ前の俺が西大陸に行った時に火の精霊王はすでに瀕死で精霊王になれる者もいなかった。だから俺が引き受けた。」


黒の魔神「他になれる者がいなかったとしても簡単に通りすがりに譲るものとは思えんが…。」


アキラ「俺は暫定だ。前火の精霊王を核にして俺が力を与え新しい精霊王候補を生み出した。その者が成長するまで俺が預かっているにすぎない。」


黒の魔神「精霊を生み出した?信じられん…。」


アキラ「お前が信じるか信じないかは知ったことじゃないが事実は変わらない。」


黒の魔神「結界といい悪魔召喚魔方陣を知り悪魔を使い魔としていることといいただの妖狐じゃないのか。」


 妖狐は狐だ。俺は猫だ。一目見ただけで『ただの妖狐』じゃないのは一目瞭然だと思うが…。


アキラ「お前の言うただの妖狐とやらがどういうものを指しているのかは知らないが見た目からして俺は普通の妖狐じゃないとわかると思うがな。」


黒の魔神「ふむ…。」


 そんなやり取りをしているうちに俺達はパンデモニウムへと辿り着いていた。



  =======



 俺達が接近していることに気付いていたサタンは残りの六将軍全てを引き連れて門の前で待っていた。もちろんそれは俺達を待っていたわけじゃない。自分達の崇める黒の魔神を待っていたのだ。魔人族総出で黒の魔神の歓迎を行いパレードのように大々的に街を通って城へと向かった。


 城に着いてまもなくティアが戻ってきた。ちなみにティアが言うにはパンデモニウムには精霊族のこの空間移動のような方法を封じる結界のようなものが張ってあるそうだ。パンデモニウムの外に現れるしか出来ずに城までは飛んでやってきていた。どうやっているのか方法は俺にはわからないが精霊族と戦争中である以上はその対策は当たり前と言えば当たり前かもしれない。でなければソドムのようにいきなり火を放たれて大混乱に陥るかもしれないのだから。魔人族や黒の魔神はまだ色々と催しや宴のようなことをしているが俺達は離れてティアから話を聞くことにした。


ティア「アキラ様ただいま戻りました。」


アキラ「おかえりティア。」


ティア「はいっ!」


 元気良く答えたティアは俺の胸元へと入ってくる。


アキラ「っておい。なぜそこへ入る?」


ティア「ここはわたくしの席です!」


アキラ「そこは誰の席でもない。俺の胸だ。」


ミコ「まぁまぁアキラ君。まずはティアちゃんのお話を聞こう?」


アキラ「はぁ…。それで?」


ティア「全ての精霊王様と主要な精霊神様は物質世界を歩いてこられるそうです。ですのでこちらにお着きになるには数日はかかります。」


アキラ「なぜ歩いてくる?ティアのように空間移動してくればいいだろう?それに魔人族の勢力圏を通るんだ。サタンか黒の魔神の意思として通すように通達しておかないと揉め事が起こるだろう。」


ティア「火の国はアキラ様のご意思に従いすぐに賛同され他の国もそれに続きました。ですが精霊神様方はまだ信用されておられないようなのです…。………それとこれは秘密なのですが精霊神様方はムルキベル殿が物質世界を歩いてこられるしか方法がないのでムルキベル殿の護衛がないと不安なようです。」


アキラ「ムルキベルはそんなに信用されているのか?」


 初めて出会った時のことでわかると思うがティアもムルキベルを侮っていた。だがそれはティアの見る目がなかったわけではない。ゴーレムであるムルキベルはその強さが俺達よりさらにわかりにくい。俺達のように力を隠しているのなら見破れる者もいるだろうがムルキベルの場合は隠しているのではなく普通にしていてはほぼ感知できないのだ。もちろん大きな力を使えば使うほど表に力が溢れてその強さはわかる。ただ起動させていない力はその内に秘めた力がどれほどなのかはほとんどの者にはわからないのだ。


 もう少し補足すれば普通の生命体は常に生命活動を行っている。だから常に力が放出されており俺達の場合はその力を隠している。それを見破れるだけの力がある者には気付かれる。ムルキベルは人工生命体なので普段は余計な力を使わないように部分的に活動を停止できる。高出力のエンジンを積んでいても稼動していなければそれがどれほどの力なのかわからないのと同じことだ。


ティア「それなのですがどうやら精霊王会談以降火の国の発言力が増しているようです。次期火の精霊王、イフリル殿、ムルキベル殿の立ち位置も発言力もそれに伴って増しています。」


 イフリルめ…。何を企んでいるのやら。イフリルは謀反や悪巧みをするような奴ではないが精霊族内において主導権を握ろうとしているのは確かだろう。ともかく魔人族に精霊族の代表団を通すように通達させなければならない。


アキラ「おいサタン。精霊族の代表団が西大陸から渡ってくる。魔人族達が代表団を攻撃しないように通達しておけ。」


 まだ黒の魔神歓迎の催しの最中だったが俺は気にせずサタンに近づき声をかける。


サタン「ふむ…。それはその通りだが…アキラ殿は誰が向かえば良いと思うかね?」


アキラ「マンモンかバアルゼブルだな。」


 俺は即答する。


サタン「ではバアルゼブルに任せよう。」


 俺の考えを見抜いたサタンはバアルゼブルに任せた。すぐに書類を書き上げてバアルゼブルに持たせた。


バアルゼブル「はっ。お任せ下さい。」


 隣に控えていたバアルゼブルはサタンの勅書を受け取り一礼するとすぐに出て行った。


ジェイド「なぜバアルゼブル将軍かマンモン将軍なんだ?」


 なぜか魔人族側ではなく俺達の側にいるジェイドが訊ねてくる。


アキラ「一つ目は時間がないこと。すでに精霊族の代表団は動き出している。遅れては勢力圏の境でいざこざが起こるだろう。足の速さが必要になる。二つ目は万が一揉めた際にその場をなんとか出来る力が必要だ。最悪でも逃げ帰って報告くらいは出来る者でないと務まらない。三つ目は代表団とうまくやっていける者である必要がある。気の短い者では使者が代表団と揉めるからな。バアルペオルやレヴィアタンが向かえばこいつらが代表団と揉める。」


バアルペオル「それはひどい誤解だよ美しいお嬢さん。」


 催しに参加していたバアルペオルが口を挟んでくる。


アキラ「マンモンの話も聞かずに殴りかかった奴が言えるセリフか?」


バアルペオル「あの時はそういう決定だったんだ。俺は決定に従っただけさ。」


アキラ「軍人が命令に従うのはわかる。だが柔軟な対応が出来ないお前じゃこの役目は無理だ。」


バアルペオル「うぐっ…。」


アキラ「お前の相手をしている暇はない。精霊族の代表団はすでにこちらに向かってきている。俺達は準備があるから失礼させてもらう。」


 魔人族が式典やらなんやらをするのは勝手にやればいいが俺達が付き合う謂れはないので部屋へと戻り精霊族と魔人族の交渉に向けて準備をすることにした。



  =======



 四日後の午後に精霊族の代表団は到着した。


ポイニクス「ママっ!」


アキラ「ポイニクス…。」


 俺を見つけたポイニクスは一目散に俺の胸に飛び込んできた。やってきた代表団は火の国はポイニクス、ムルキベル、イフリルの三人。他の国は精霊王と宰相だけのようだ。火の精霊神と水の精霊神以外に知らない神が六人いる。


アキラ「ご苦労だったなイフリル。向こうの知らない神は誰だ?」


イフリル「はい。あちらが…。」


 各国にはそれぞれ二人の神が同行していた。土の精霊神と風の精霊神。こいつらは火と水の精霊神と同レベルだ。それ以外にもう一人ずつ知らない神が付いている。それぞれ火霊神、水霊神、土霊神、風霊神と言うらしい。俺達から比べたら雑魚なことに変わりはないが○の精霊神と○霊神とではレベルが違う。精霊族は同じ属性の神でも複数いる。この○霊神達は太古の神々だそうだ。光と闇の精霊は来ていない。他にもエルフの神やドリュアデスの神もいるそうだが今回は四元素の神だけだった。


火霊神「ふんっ。お前が今の火の精霊王か。どういうつもりでこんなことをしているのか知らないが妙な真似をすればムルキベル達がお前を殺すことになるぞ。」


 イフリルに火霊神だと教えられた奴が俺に近寄ってきてアホなことを言い出した。


アキラ「このアホは何を言ってるんだ?」


 俺はイフリル達に視線を向けてみた。イフリルはいたたまれなくなったのか視線を逸らした。俺のパーティーメンバーからも火の国の関係者からもこの火霊神は痛い奴を見る目で見られている。


火霊神「精霊王と言っても所詮は国を離れて遊んでいるだけのお飾りのようだな。ムルキベルやポイニクスの強さも知らないらしい。お前が魔人族と結託して俺達を嵌めようとしているのなら火の国の戦士達がお前を倒すことになる。」


アキラ「………。」


 開いた口が塞がらないとはこのことだろうか…。どうやらこいつは俺が火の国において何のつながりもないただのお飾りだと思っているようだ。だがそもそもムルキベルは俺が造り出したゴーレムだ。ゴーレムは造り出した者に絶対の忠誠を誓っている。ムルキベルが俺を裏切ることも傷つけることも100%絶対にあり得ない。なぜならばゴーレムはそれらをしようとすると自動的に停止して死ぬからだ。もちろんムルキベルは自我まで有しているから創造主を裏切れないことと信頼関係があることはイコールではない。裏切れないという制限がかかっていても信頼関係がなければ自爆覚悟で裏切る可能性もなくはない。だがムルキベルとは忠誠で心が繋がっている。信頼関係もあるムルキベルが自爆で俺を裏切る可能性も絶対にないと言い切れる。なぜならばもし裏切ろうと信頼関係が揺らげば裏切りを実行する前にまず心の繋がりが切れるからだ。


 そしてポイニクスも俺の敵になることはないだろう。これは別に俺を母と慕っているからとかそういう確証のない思い込みや想像ではない。ポイニクスは俺が力を与えて生み出したのだ。万が一ポイニクスが俺と敵対した場合でも俺はいつでもポイニクスの力を回収出来る。俺の力を回収しても前火の精霊王の力は残るだろうがそもそもそれだけでは生きることすら出来ない状態なのだ。俺の力を回収されるということはそれだけでポイニクスは死ぬことになる。そしてそれはすなわちポイニクスは俺の一部と言っても過言ではない存在だということでもある。ある日突然小指が裏切って自分に牙を剥くだろうか?答えはあり得ない。自分の体の一部は自分を助けるためには働くが自分を苦しめるためには働かないのだ。


 もちろんこういう味も色気もないような客観的事実のみではなくムルキベルともポイニクスとも信頼関係があり敵になるようなことはないと信じたいという思いもある。イフリルはどうだろうか…。少なくとも俺は宰相としてイフリルを信頼しているし仕事も任せている。だが千数百年も国に帰って来なかった俺をイフリルはどう思っているのだろうか。そもそもで言えばイフリルだけでなく火の国の精霊達は皆俺のことをどう思っているのだろうか。精霊族でもない者が精霊王などと思っているかもしれない。精霊王になってからこれまで信頼関係を構築しようとすらしてこなかったのは俺の方だ。俺が火の精霊王に相応しくないと思われているのだとすればいつでもすぐに火の精霊達に火の精霊王は返そう。


イフリル「………女王陛下。それはただ面倒事から逃げようとしているだけでは?」


アキラ「うぇ?!なっ、なっ、なっ、何のことだ?」


 イフリルは心が読めるのか?


イフリル「小声が漏れておりましたぞ…。」


アキラ「………。」


イフリル「………。」


 イフリルと見詰め合う…。俺もいたたまれない気持ちになってきた…。


火の精霊神「火霊神様。火の国のゴーレムを造り出したのはその火の精霊王です。」


 いたたまれない空気が蔓延していたがそこへ火の精霊神が助け舟を出した。


火霊神「何?どういうことだ?」


火の精霊神「ムルキベルを造り出したのはそいつだと言ったんです。それにポイニクスを生み出したのもそいつだそうですよ。」


 火の精霊神は顎をしゃくって俺を指す。何かちょっとイラッとするな。俺はこいつが嫌いかもしれない。


火霊神「………。……そっ…、そうか。よし。あとは火の精霊神に任せる。俺は精霊の園にかえ…。」


火の精霊神「駄目ですよ、火霊神様。黒の魔神と対峙できるのは太古の神々だけなのでしょう?」


火霊神「うっ………。わかっている!」


 そういうと火霊神はそそくさと他の神の所へと逃げ出していった。火の精霊神は一応(?)助けてくれたのだろうか?とりあえず面倒事にはならずに済んだようなので礼は言っておくか。


アキラ「すまんな。」


火の精霊神「かっ、勘違いするなよ!別にお前を助けたわけじゃないぞ!たいした力もなく何もしないくせに四霊神達は偉そうで腹が立っていただけだ。ことあるごとに『黒の魔神と戦えるのは太古の神々だけだ』なんて言いやがるからな。」


 何だか急に火の精霊神がツンデレさんみたいなことを言い出した。子供のような姿だが男にツンデレされてもうれしくない。だがその姿が何だか可笑しくて俺は少し笑ってしまった。


アキラ「ふっ。そうか…。じゃあ礼は取り下げておこう。」


火の精霊神「っ!!ああ!それでいい。じゃあな!」


 火の精霊神は真っ赤になってズンズンと足音を立てながら火霊神と同じように他の神の元へと向かっていった。


アキラ「なんだったんだ?」


ミコ「アキラ君はプレイガールになっちゃったんだね…。」


アキラ「は?」


 俺にはミコの言った言葉の意味がよくわからなかったが師匠やフランはミコと一緒になってうんうん頷いていた。



  =======



 今日は前夜祭として晩餐会を開き魔人族、精霊族による二族会談は明日行われることになった。片側には精霊族達が国毎に集まって座っている。向かいにはまだ誰も座っていない。魔人族側は後から入ってくるようだ。


 あれほど感動的な別れをしたばかりの俺とポイニクスやティアとウンディーネだがこの短い期間ですぐにまた会うことになって少し気まずい…。と思ったのは俺だけのようだ。ポイニクスはうれしそうに俺の隣に座っている。しかし別れる前のように子供っぽくなく火の精霊王として落ち着いているように見える。まだそれほど経っていないというのにまさに『男子三日会わざれば刮目して見よ』というやつである。


 ティアとウンディーネは俺達より少し前から別れているがやはりそれほど長い期間ではない。ティアは精霊族に報せに走ったので感動の再会はそこでしたのか俺達が見ている前では特に何もなかったがこの晩餐会の席でも二人で仲良く楽しそうに話している。


 他の二国の精霊王と宰相もリラックスした雰囲気で晩餐会の席に着いている。八人の精霊の神達だけが警戒心も顕わにビクビクしながら座っている。火、水、土、風の精霊神はそれぞれサタンと同格レベルの強さだ。魔人族側がサタン、バアルゼブル、マンモンがそれぞれ一人を相手にしても苦しい。その上残りの戦力を集めてももう一人の精霊神の相手が務まらないのだ。三人が頑張って三人を抑えても残る一人が自由になってしまうので四人の精霊神と魔人族が戦えば魔人族が負けるだろう。さすがに腐っても神というわけだ。だがここに黒の魔神が混ざると話が変わってくる。火霊神、水霊神、土霊神、風霊神の四人掛かりでも黒の魔神の相手にならないどころではない。八人全ての精霊の神が相手でも数秒もかからず黒の魔神が勝つ。そして精霊王と宰相クラスではマンモンから上の三人にはまるで歯が立たない。それより下の六将軍となんとか良い勝負が出来るかどうかというところだ。精霊族からすれば神クラスの者が出なければ魔人族に勝つことはできない。だが精霊の神が出れば黒の魔神も出られる。黒の魔神が出れば精霊の神全てを集めても敵わない。これでは精霊族には打つ手がない。戦争になっている時点で精霊族は詰んでいる。それがわかっているから精霊族の神は怯えているのだろう。まさに俎上の魚だ。


ノーム「ところでこの晩餐会にはアキラ殿の料理は出るのか?」


 ノームが暢気に声をかけてくる。精霊の神達はすぐにも行動できるように気を張っているというのに精霊王達はなぜこれほどリラックスしているのだろうか。


アキラ「ノームは随分暢気だな。お前達の神はビクビク怯えながら気を張っているというのに。」


ノーム「む?アキラ殿が精霊族側に座っているということはわしらの勝ちであろう?」


土霊神「何を言っておる!その者の奸計であったらどうするつもりなのだ!」


 土霊神が大声を張り上げる。こんな場所でそんな大声を出したら魔人族側にも筒抜けだ。まぁ小声でしゃべっても筒抜けだと思うが…。地声がでかいのだろうが少しでもそういうところに気を使おうという気さえないのは残念で仕方がない。ちなみに土の精霊神と土霊神の見た目の区別は俺にはつかない。ノームを一回り大きくしたような風貌で見た目はほとんど違いがない。俺がこの二人の区別をつけている方法は神力を感知しているからだ。神力は誤魔化しようがないので姿形や声を真似ても俺にはすぐに偽物だとばれる。


エアリエル「火の精霊王様が敵方であったならばどうすることもできません。精霊族は滅びるだけです。」


 エアリエルは穏やかな笑顔のままでさらっと諦めの言葉を吐いた。もうちょっとなんとか抗おうとかそういう気持ちはないのだろうか。…そういえば風の精霊は元素の暴走のせいで諦めの境地のようなものに達しているのかもしれない。


ウンディーネ「火の精霊王が妻と息子を見捨てて敵に寝返るなどありません。」


 ウンディーネまで俺の肩を持つ発言をしたことに俺は驚いた。妻と息子とはティアとポイニクスのことだろうがついこの前までは俺のことを野蛮な獣などと呼んでいたのに見事な掌返しだ。


 今のやりとりを考えてみると、俺がついているから勝ちだ。もし俺が敵だったなら抗うだけ無駄だ。でも俺がティアとポイニクスを見捨てて敵になることはない。つまり最初に戻ると俺がついているから勝ちだ。こんな奴らが王でいいのだろうか?もっと万が一のことを考えてとか、冷静に対策を用意しておくとか頂点に立つ者にはそういうことが必要なのではないだろうか?


アキラ「王がそんなことでいいのか?」


狐神「あっはっはっ。アキラは面白い冗談を言うね。」


 師匠が思い切り笑いだした。


アキラ「どういう意味ですか?」


狐神「あん?言葉通りだけど?ねぇ?千数百年も国を放置していた王様?」


アキラ「うぐっ………。」


 それを言われると辛い。例え深謀遠慮を張り巡らせる王であったとしても国にいなければその考えも誰にも伝わらず何の意味もない。それならば何も考えていなくとも国にいて何かあればすぐに行動してくれる王のほうが遥かにマシだろう。


狐神「おやおや。そんな顔をしないでおくれよ。別にアキラを責めてるわけじゃないんだよ?私が言いたいのは何も統治者が全てのことを考え、備え、行動しなければならないわけじゃないってことさ。」


アキラ「なるほど…。」


 確かに火の国の統治者である俺がいなくとも千数百年もの間火の国は問題なくまわっていた。


狐神「アキラはあらゆる能力がありすぎるせいで何でも自分一人でできてしまうのさ。それはすばらしいことではあるけど結果的に悪い所も出てきてしまう。」


アキラ「悪い所ですか…。」


狐神「そう。例えば自分ならこう考えるとかこうする。だから相手もこう考えているだろうとかこうするだろうって所さ。敵や味方の能力や思考を自分を基準に考えてしまうから高く見積もりすぎるんだよ。アキラが当たり前のように出来ることでもほとんどの者は出来ないしついていけないんだ。前に言ってた攻撃の威力がって話もこれだと思うよ。アキラなら避けられる。だから避けられるかもしれないから避けられない速さで!アキラなら防御できる。だから防御されるかもしれないから防御しても倒せる威力で!ってどんどん見積もりが高くなってしまうのさ。」


 そうなのだろうか。自分ではよくわからない。確かに絶対避けられないタイミングと速さで、とか絶対に防御できない威力で、なんてことは考えている気がする。


黒の魔神「待たせたな!」


 その時バーンと勢いよく扉が開き黒の魔神を先頭に魔人族の代表が晩餐会の会場へと入ってきた。俺はこういう席については詳しくはわからないが普通は先導の案内役とかがいるのではないのだろうか?…それはゲスト側を案内する時だけか?よくわからない。ただ黒の魔神はそういうところはかなりいい加減だろうということはすぐにわかる。席に着く際も大きな音を立てながら自ら椅子を引いてドカッと足を放り出しながら座ったのだ。例え地球と礼儀作法やマナーが違うとしても考えるまでもなく作法や形式に則っていないことがわかる。


 チラリと視線を向けると精霊の神達は黒の魔神を見て明らかに緊張の度合いが増している。目の前にいるせいではっきりと格の違いを思い知らされているのだろう。それに比べて各国の精霊王と宰相達は自分達より明らかな格上がたくさん入ってきたというのに顔色一つ変えていない。精霊王達のほうが肝が据わっているようだ。


サタン「それでは始めようか。」


 サタンが開始を告げようとした時にノームがさっきと同じ言葉を言った。


ノーム「待ってもらいたい。アキラ殿の料理は出るのか?」


 ゲーノモスの時は俺の料理なんて危険物のような目で見ていたくせになぜそこまで俺の料理に拘る…。まだ俺の料理が危険だと思ってこの晩餐会で出して欲しくないのか?それならば心配しなくとも俺の料理を出す予定はない。


サタン「ふむ…。アキラ殿の料理か…。」


マンモン「!!!」


六将軍「「「「………。」」」」


 サタンと残りの六将軍達が俺を見つめる。その目は『立場的にお願いするのは難しいけど出して欲しいなぁ』と言っているように見える。俺のパーティーメンバーには俺の料理を出さないと不満が出るだろう。それならばついでに他に欲しい者がいれば出してやってもいい。まぁそんな奴がいればだがな。


アキラ「俺の仲間達には俺の料理を出そうと思っている。だから俺達以外の者でも欲しい者がいればついでに出してやるぞ。欲しいなんて言うような変わり者がいればだがな。」


サタン「おお!出してもらえるのか。それでは魔人族側は全員分頼みたい。」


アキラ「全員?黒の魔神もか?」


サタン「もちろん黒の魔神様の分もだ。」


 チラリと黒の魔神を見てみる。黒の魔神は興味深そうに俺を見つめていた。


アキラ「まぁいいが…。」


ノーム「土の国の分も頼もう。」


アキラ「ノームとグノムはかまわないがそっちの二人もいるのか?敵かもしれない奴の料理なんて何が入っているかわからないから食えないだろう?」


 俺は土の精霊神と土霊神を見ながらそう告げる。


ノーム「な~に。この城にいる以上何を食おうがどこにいようが変わりはせん。そうですな?土の精霊神様。土霊神様。」


土霊神「ふん。」


 土霊神は顔を背ける。何か腹が立つからこんな奴に食わせたくない気持ちはあるがここでこいつらにだけ出さなければ俺が悪者になるだろう。ノームの顔も潰すことになるのでやむを得ない。


エアリエル「まぁ!火の精霊王様のお料理ですか?是非お願い致します。」


ウンディーネ「水の国の分ももちろんあるのでしょうね?」


 これで結局全員分の料理を出すことになってしまった。前半半分で大ヴァーラント魔帝国の料理が出され、その間に調理室で俺が用意した料理が後半に出されることになった。


マンモン「………これだ。これこそが至高の…。」


 相変わらずマンモンは何を言っているのか意味がわからない。


黒の魔神「………。おいアキラ。この食材はどうなっている?なぜこれほど神力を含んでいるのだ?」


 黒の魔神は秘密に少し勘付いたようだ。だがお前に気安く呼ばれる覚えもないし細かいことまで教えてやる謂れもないぞ。


ノーム「うむっ!うまい!」


エアリエル「本当に…。火の精霊王様はお料理もお上手なのですね。」


ウンディーネ「ですが王が自ら料理などする必要があるのですか?」


 各精霊王と宰相からも色々と声を掛けられる。だが精霊の神達だけは俺の料理を食べて驚いてはいるようだが何も声すらかけてはこない。と思ったが二名だけ声をかけてきた。


水の精霊神「ちょっと!何これ!おいしいんですけど!」


火の精霊神「ふんっ。これなら毎日食ってやってもいいぞ。」


 水の精霊神と火の精霊神だ。だが俺が火の精霊神に毎日ご馳走してやらなければならない理由はない。


 食事を共にし、お互い色々と話をしたお陰か晩餐会が終わる頃には六人の精霊族の神以外はそれなりに打ち解けたようだ。明日は大変な会談になるかもしれないがその前にこうしてお互いを知り合えたのはよかったと思う。


 晩餐会も終わり各国毎に用意された部屋で明日に備えて休む…はずだった。だが寝ている間に襲われるのが怖いという精霊の神達のせいで俺達のパーティーメンバー以外は一つの部屋に集まり身を寄せ合うことになったようだ。ポイニクス、ムルキベル、イフリルも当然連れて行かれた。向こうは災難でご愁傷様と思ったが俺達には関係ないので俺は愛しい嫁達に囲まれながら幸せな眠りについたのだった。



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