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転生無双  作者: 平朝臣
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第四十四話「神々の盟約」


 師匠と黒の魔神の対決は師匠の勝利で終わった。一見圧倒的勝利に見える。師匠は消耗も少なくダメージもない。だが実際にはそれほど圧倒的でも楽勝でもなかった。黒の魔神もさすがは第五階位なだけはある。恐らく師匠も第五階位くらいなのだろう。ただ同じ階位でも師匠はかなり上の方で黒の魔神は下の方だったのだろう。最後の魔剣を使った技の時は第五階位の中くらいというところか?あの技次第では敗れていたのは師匠の方だったかもしれない。


マンモン「………これが神か。」


 マンモンがぼそりと呟いた。


アキラ「お前達の神が敗れたわりには落ち着いているな?」


マンモン「………黒の魔神様は正々堂々と一対一で戦われた。その結果敗れたのだ。俺から何か言うことはない。敗者はただ勝者に従う。」


 ガウと戦いマンモンが敗れた時と同じなのだろう。戦いの結果敗れたのならそれが自分自身であろうと自分の崇める神であろうと受け入れ勝者に従う。マンモンは武人気質というか武士道というかそういうタイプだ。


アキラ「まぁお前がそれで納得してるならいいさ。」


 俺は結界を解き師匠と黒の魔神の方へ近づいていく。


黒の魔神「おい…。狐神…、お前本当に第七階位か?」


狐神「あん?そんなわけないだろう?どれだけうまく戦ったって第七階位が第五階位に勝てるはずないさね。」


 むしろ師匠はあえてうまく戦っていないともいえる。殺さないように細心の注意を払い絶妙な手加減をしながらミス一つ許されない戦い方をしていた。単純にうまく楽に戦うのなら相性の良い技や術で相手の攻撃を迎撃すればよかった。だが師匠はあえて炎には炎、雷には雷で応じている。ただ楽に圧勝するのなら炎には水を使えばよかった。あるいは自分が炎が得意ならば相手の炎を突き抜けて相手を倒せる炎を使えばよかった。それをぎりぎり圧倒できるだけの力に抑えつつ相手と同じ属性の技や術で応じる。圧倒的実力差があればそれでも問題ないだろう。だが師匠と黒の魔神はそれほど圧倒的に力の差はない。それなのにあえてこんな戦い方をすれば一つミスをすれば逆に自分が負けることになるだろう。


 ではなぜ師匠はわざわざこんな戦い方をしたのか。それは恐らく今の黒の魔神の心境が表しているだろう。黒の魔神はどうやっても師匠には勝てない圧倒的差だと感じているはずだ。自分の魔法は全て同属性の妖術によって打ち消されている。真正面から撃ち合って撃ち負けている。斬り合いでも尻尾は一本しか使わず同じ条件で戦っている。持てる力の全てを正面から叩き伏せられたのだ。それも相手は自分を殺さないように手加減までしている。その心には圧倒的敗北感が漂っているだろう。師匠が危険を冒してまでこんな戦い方をしたのは黒の魔神を殺さずに自分には絶対に敵わないのだと思い知らせるためだ。


黒の魔神「………だがお前は確かに第七階位だ。どうなっている?」


狐神「はぁ…。階位は申請しないと上がらないだろう?私はもう千数百年も申請してないからね。」


アキラ「………。」


 どうやらそういうことらしい。力が上がったからといって自動で階位が上がるわけではないのだろう。上がるために基準値以上の力があればいいのか何か試験のようなものがあるのかはわからないが申請しないと上がらない以上は例え今の師匠が第五階位の力があっても第七階位のままだ。


黒の魔神「馬鹿なっ!なぜ上の力がありながら階位を上げない?!それでは『守護者の祝福ギフト』を授けることが出来ないだろう!そもそもたった千年や二千年で二階位分も上がるはずはない。」


狐神「ちょっと!何口走ってるんだい!それは盟約違反だよ。」


アキラ「『守護者の祝福ギフト』?」


狐神「アキラ………。聞かなかったことにしておきな。」


黒の魔神「ふん。狐神よ。盟約自体がおかしいと思わないのか?それにその小娘には資格がある。話しても問題ないだろう?」


狐神「資格って…。それは神になってからだろう?神格を得ているだけじゃだめだよ。」


アキラ「盟約とか『守護者の祝福ギフト』とか一体なんの話ですか?」


黒の魔神「太古の大戦以降神々は様々な取り決めをした。お前でもわかることとしては五族同盟による勢力圏協定もその一つだ。そして神々がお互いの行動に関して取り決めたことがある。それが神々の盟約だ。」


 五族同盟による勢力圏協定はもちろん知っている。だが神々の盟約とやらは聞いたことがない。


黒の魔神「盟約の内容も色々あるが大まかに言えば神が地上で戦えば影響が大きすぎるので戦うのは控えること。ただし相手が先に手を出してきたり自分の種族に攻撃してきたら戦っても良い。それ以外は基本的に相手が何かやろうとしていても不干渉。そして神以外の者に神の能力について教えてはならない。重要なのはこの辺りだ。」


アキラ「なるほどな。」


 だがその内容は真っ当だろう。俺が結界を張っていなければ今の戦いだけでも世界の大半が壊滅か消滅していただろう。師匠が神についてだけは俺にほとんど何も教えてくれていないのもそのためだったというわけだ。


黒の魔神「一見これは当たり前の条件に見える。当時賛成した太古の神々もそう思った。だがこれを考えた人神は最初から抜け道を作っていた。自分達だけが都合よく盟約を盾にしながら悪用するためのな。そして今では最早それを他の神が変えることも出来ない。」


アキラ「というと?」


黒の魔神「人間族は弱い。ゆえに神格を得て神になるのは容易い。特殊能力を持たせればすぐに神になれるほどにな。神々の盟約の変更や会議は多数決によってなされる。神を生み出しやすい人間族の神が多数派であり多数決ではどうやっても奴らの思う通りに可決される。」


アキラ「ふむ…。」


 地球でもよくあることだ。綺麗事で多数決などと言っているがある大陸国などは小国に金をばら撒き票を買って自分達の好き勝手な意見を支持する多数派を形成している。あるいはその大陸国の先の半島国などは審判を買収してスポーツなどで八百長をしている。結局のところ多数決であろうと審判であろうと人の意識が介入することでは公正なものなど存在しない。金や権力など相手の欲を刺激して自分の意のままに操作しようとする者が必ず出てくる。


アキラ「だがいくら多数派を形成していて自分達に都合が良いようにしていても内容が真っ当ならば問題ないんじゃないのか?」


黒の魔神「確かにその通りだがそれだけでは済まない。まず他の神が何をしていようと自分自身あるいは自分の守護する者達が相手の神によって直接危険に晒されない限り神は他の神のすることに介入してはならない。つまり人神がいかに邪悪な企みを行っていようと直接自分か守護対象が被害を受けない限りそれを止めることは出来ない。」


アキラ「ふむ…。その企みというのは?」


黒の魔神「人神は人間族のみでファルクリアを支配するつもりだ。他の種族は全て根絶やしにしてな。」


アキラ「たかが人間族がそんなことが出来るか?六将軍だけで人間族を滅ぼせるんじゃないのか?」


黒の魔神「現状では確かに人間族が他種族全てを滅ぼすのは難しい。だが『守護者の祝福ギフト』を積み重ねれば話は変わってくる。」


アキラ「その『守護者の祝福ギフト』ってのは?」


黒の魔神「神になる時にその者は守護する対象を選ぶことが出来る。そして神になった者には二種類の神力がある。一つは他の者と同じ自分自身の神力。もう一つは自分の守護する者達に力や能力を付与することが出来るものだ。」


 つまりステータスやスキルを自分である程度設定できるRPGと同じようなものか。レベルが上がるとポイントがもらえる。そのポイントを使ってステータスを上昇させたりスキルを覚えさせたりできる。地球にもそういうゲームがある。そして黒の魔神が言うにはこれはかなり重要なことらしい。まず守護する対象は何でも選べる。例えば俺が神になりガウだけの守護者にもなれるしファルクリアの全生物の守護者にもなれる。対象が広く多いほどギフトによって能力を付与しても効果が小さいらしい。つまり対象が百人で100の力を割り振れば一人当たり1だが一人に100を割り振れば100増えるというわけだ。また同じく高度な特殊能力を付与するためにはたくさんポイントが必要になるのと同じで簡単には付けられない。


黒の魔神「『守護者の祝福ギフト』を付けるための方法は主に二つ。守護する神を増やすかその守護神の階位が上がることだ。そして一度付与された『守護者の祝福ギフト』は付与した神が死んでも消えることはない。」


 なるほどな。つまり元の値が低い人間族は神になるための敷居も低い。神を量産しやすいわけだ。そして量産された神に『守護者の祝福ギフト』をたくさん付けさせれば良い。


黒の魔神「人間族は最弱、故に最強。これが人神の策だ。」


アキラ「だが『守護者の祝福ギフト』によって能力が上がれば次の神が生まれにくくなる。条件は他種族も同じじゃないのか?」


黒の魔神「確かに古くから神を生み出し『守護者の祝福ギフト』を付与し続けている種族ほど強力で神が生まれにくくなる。最初はどの種族でも同じであり人間族もこのまま神が『守護者の祝福ギフト』し続ければいずれ他の種族と同じになる。だがそれは『守護者の祝福ギフト』を付与した場合の話だ。一体どうやっているのかはわからないが人神は『守護者の祝福ギフト』を与えることが出来る神力だけを新しく生まれた神から取り上げ貯め続けている。」


アキラ「つまりポイントだけ貯めて能力を上げずに神が生まれやすいままということか。」


黒の魔神「そうだ。奴は自分の守護する者達まで犠牲にして何かを企んでいる。そして俺達はそれを止める方法はない。」


 そこで最初の話に戻ってくるわけだ。


黒の魔神「危害を加えられるまではこちらから出だしはできない。向こうが準備を整えて手を出してくるまでこちらは指を咥えてみていることしか出来ないのだ。」


アキラ「盟約など無視して人神を殺せばどうだ?」


黒の魔神「人神の邪悪な企みに気づいていない他の神も大勢いる。盟約を破れば全ての神から制裁されることになる。いくら俺でも他の全ての神を相手には出来ない。」


アキラ「逆にお前の考えすぎの線はないのか?」


黒の魔神「ないな。人神は目的のためにはどんな汚い手でも使う。だから『守護者の祝福ギフト』を与えず自分の守護している者達が死ぬことになってもなんとも思わないんだ。」


アキラ「その証拠や企みとやらの内容はないのか?」


黒の魔神「どうやってかまではわからない。ただ奴の狙いは昔から他種族全てを根絶やしにすることだ。例えそのために大勢の人間族が死のうとな。」


アキラ「他の神を説得することは?」


黒の魔神「そんなことが出来れば戦争になどなってないだろう。他のほとんどの神は人神は太古の大戦を勝利に導いた立役者で平和を願っている者だと思い込んでいる。実際には自分達の首すら狙っている者だというのに気付きもせずな。」


アキラ「魔人族が人間族に戦争を仕掛けているのはそのためか?」


黒の魔神「それもある。だがいくら攻め込んでも元凶である人神を殺すことはできない。奴を殺せるのは同じ神だけだ。」


アキラ「なぜ殺せない?」


黒の魔神「神は自分の世界を造れる。そこへ逃げ込まれたら普通の者は辿り着くことすらできない。」


アキラ「なるほどな。グリーンパレスのように門でも設置していない限り侵入すら出来ないわけか。それで西大陸に攻め込んだ理由は?」


黒の魔神「それもいくつかある。一つ目はもちろん精霊族は人間族に、人神に協力しているからだ。獣人族と精霊族は特に人神を信用している。中央大陸へと攻め込んだ魔人族の背後から人神に頼まれて戦争を仕掛けてきたのは精霊族の方だ。だから逆にこちらから攻め込んだ。だが攻め込んだ理由は他にもある。世界各地の大陸にはある力が眠っている。人神を殺すために西大陸にある力も手に入れてやろうと思ったからだ。」


アキラ「ほう…。眠っている力…ね…。」


 俺は西大陸であったあることを思い出していた。


アキラ「だがそんなまどろっこしい方法が必要なのか?お前の力なら人間族も人間の神も皆殺しに出来るだろう?」


黒の魔神「神は長く生きるほど強くなる。太古の神々と呼ばれる太古の大戦以前から残っている神は俺と人神と大獣神、あとは一部の古き精霊の神共くらいだろう。俺に対抗できるのは大獣神くらいのもの…と思っていたんだがな…。」


 そう言って黒の魔神は師匠を見つめた。神は老いることなく寿命で死ぬことはない。だが能力は成長し続けるので確かに長く生きているほど有利だ。太古の大戦というのがどれほど昔のことなのかは知らないがそれ以前から生きている黒の魔神が大戦よりずっと後に生まれ三千数百年しか生きていない師匠に敵わないことは異常と言えば異常な事態なのだろう。


黒の魔神「とにかく俺は大獣神くらいしか俺に対抗できないと考えていた。だが大獣神は力の獣神と技の獣神という腹心をいつも連れている。三人掛かりでは俺でも敗れる可能性があった。だから狐神と…お前を力と技の獣神にぶつけている間に俺が大獣神を殺そうと考えたのさ。」


 俺を数に入れたのはここで出会ってからの考えであろうが師匠に二人の獣神をぶつけてその間に自分が大獣神と戦うというのは昔から考えていたことなのだろう。


アキラ「神同士の戦いは御法度でも戦争をしている以上は魔人族は自由に戦争してもいいんだろう?人間族を皆殺しにすればこれ以上人間族の神が生まれることもなくなるんじゃないのか?」


黒の魔神「確かにそうだがそれは出来ない。」


アキラ「なぜだ?」


黒の魔神「古代族はとても強力な種族だった。本来であれば五族同盟なんぞでは勝てないほどにな。…今になって思えばなぜ古代族を滅ぼさなければならなかったのか…。人神の口車に乗せられて他の種族は皆古代族が悪だと思い込んでいた…。当時は俺ですらな。それが人神の策だったんだろうが…。話がそれたな。その強力な古代族を破るために魔人族とドラゴン族は大きな枷を背負った。」


アキラ「枷?」


黒の魔神「制約と相克…。『守護者の祝福ギフト』のためには神を増やすか階位を上げることだと言ったな?だがそれは正当な手段の場合だ。それ以外にもこの制約と相克という方法で『守護者の祝福ギフト』のための神力を得ることができる………。ただしこれは邪法だ…。」


 制約とは守護神がその被守護者達に制約を課し代わりに『守護者の祝福ギフト』用の神力を得る方法のことだ。制約の内容は何でも良い。極端に言えば守護神が守護対象者達は年に一度軽い風邪を引いてしまう。という制約をつけることも出来る。そしてこの制約は重い物ほど得られる神力も大きくなる。ただし重い制約があるということはそれだけ様々な不都合もあるということだ。長い目で見ればむしろ制約は使わないほうが良いと言えるだろう。


 相克とは精霊族の相克と似ている。ただし精霊族の物とは別物である。精霊族の相克とは謂わば相性のようなものだ。だがこの神力を得るための相克はもっと重い物だ。例えばドラゴン族は人間族から見ればまるで歯が立たない強力な者達だ。だがこの相克があればその強力なはずのドラゴン達が人間族に勝てなくなる。少しわかりにくいかもしれないが一戦闘では勝てる。ドラゴンとロベールが出会って戦った場合ドラゴンが勝ちロベールは死ぬ。だが種族間での戦争になると勝てない。一匹で人間族を滅ぼせるほどのはずのドラゴンがなぜか人間族を滅ぼすことが出来なくなるのだ。戦術的には勝てるが戦略的には勝てない。これも特定の種族に対してまったく勝てなくなってしまうので使わないほうが賢明だろう。


黒の魔神「制約と相克は重いほどより多くの神力を得られる。そして魔人族とドラゴン族は『守護者の祝福ギフト』によって古代族を倒せるように多くの枷を背負った。今この二族が強力なのはそのお陰だ。この二族は人間族に勝てないという相克を背負った。だからどう頑張っても大ヴァーラント魔帝国が人間族に最終的に勝利することは出来ない。」


 最終的に勝利とはすなわち相手を降伏させたり絶滅させたりすることだろう。目の前の戦闘では力の強い方が勝つ。だがどれほど戦術的勝利を積み重ねても戦略的勝利は得られない。それが相克だ。だがこれで一つ謎が解けた。北大陸に上陸して思ったことは人間族と魔人族の力の差だ。魔人族の一般兵レベルですら人間族相手では無双できるだろう。それなのに何百年だか何千年だか戦争を続けているにも関わらず未だに魔人族が勝利していない。それは相克によって絶対に勝てなくなってしまっていたからだったのだ。


黒の魔神「さらに魔人族は魔法の秘技を全種族に拡散させてしまうという制約を背負った。これによりそれまで各種族が独自に磨いていた特殊能力は魔人族の魔法を参考に飛躍的に上昇した。そしてなぜか人間族は魔法そのものを使えるようにもなった。………全ては俺が人神の口車に乗せられたためだ。そのせいで魔人族には重い枷を課してしまった。」


 それでマンモンなども魔法の流出にあれほど拘っていたのだろう。人間族を憎むのもそれが原因か。


アキラ「ドラゴン族の背負った枷は?」


黒の魔神「ドラゴン族も魔人族と同様人間族に対しての相克を背負った。そして当時居た五人の龍神全てを生贄に捧げ金輪際ドラゴン族には神が生まれない制約を背負った。だからドラゴン族には神はいないんだ。そしてその制約と相克によって得た力で魔人族とドラゴン族は古代族と戦った。大きな戦果は得たが代わりに多くの同胞の命も失い勢力を失った。」


アキラ「一見して魔人族とドラゴン族は強力な力を得たように見えるが失った物も多く、さらにその得た力では人間族に勝てなくなってしまった。力を得たようにみせかけながら強力なこの二族に大きな足枷をし古代族と戦わせることで勢力を削いだ。人神の狙いが他種族全ての絶滅ならば一番得をしたのは人神か。それらは全て人神が仕組んだことだと?」


黒の魔神「そうだ。」


 確かに最初に疑うべきは一番得をした者だろう。


アキラ「それでドラゴン族はなんとも思っていないのか?」


黒の魔神「ドラゴン族がどう考えているかはわからないな。奴らは太古の大戦以降自分達の勢力圏に引きこもってしまった。赤の魔神が土地を奪い国を建ててもまるで知らん顔だ。」


 土地を奪って国を建てたというのは東大陸にある魔人族のファングという国のことだろう。


アキラ「妖怪族は?」


黒の魔神「妖怪族はどちらにも加担していない。そして大戦以降は表立ってその姿を現すこともなくなった。」


アキラ「ふむ…。」


黒の魔神「おい小娘。お前は妖怪族か?なぜそれほどの力を持っていながら神になっていない?その程度の力で俺と狐神の戦闘を完全に抑えられる結界を張れるなんて異常だ。」


 俺は自分の様子を思い出す。結界を補強するために何度も制限を緩めてしまったためにかなりの神力が溢れている。俺にとっては微々たる物だが第七階位か第六階位くらいの力は出ているだろうか。神々しさに溢れているため最低でも神格を得ている者だとすぐに気付かれてしまうだろう。


 また黒の魔神の疑問も当然だ。少なくとも最後の黒の魔神は本当に全力だった。仮に俺が第六階位相当だったとしてもそれより上の力を抑え込める結界を張れるなど普通に考えたらおかしなことだ。ではなぜ現に俺がそれほどの結界を張れていたのか。例えば10の力を抑える結界を一秒間に10の力で張ったとする。10の力しかなければ一秒で結界が切れることになる。だから完全に抑え込めるだけの結界を張り続けるには相手と同等以上の力がなければ不可能だろう。しかし前にも言った通り俺の力は制限された仮初の上限だ。上限を突破している分をいくら消耗しても上限から下がることはない。100の力しかなく100の結界を張れば一秒で力が底を尽くはずだが上限突破しているので見せかけ上はまるで力が減らない。だから俺は本来の力を消耗し切るまでずっと100のまま結界を張り続けられる。普通なら一瞬で力尽きるほどに限界目一杯の結界を張っても上限突破しているのでずっと張り続けられる。これが制限で二人より力の劣る状態の俺が二人の戦闘を抑え込めるだけの結界をずっと張り続けられた理由だ。


アキラ「俺は小娘じゃない。アキラ=クコサトだ。妖怪族妖狐種だ。」


黒の魔神「名があるということはやはり神ではないのか。お前は、いやアキラは結界能力に特化でもしているのか?でなければ最後の衝撃をその程度の力で抑えられた説明がつかない。」


 どうやら黒の魔神は俺の力が上回っているからではなく能力によるものだと思ったようだ。


狐神「はぁ…、そんなんだからあんたは負けるんだよ…。アキラはあんたより、いや私よりもずっと強いんだ。余計なことはべらべらしゃべるし何なんだいまったく。」


 今まで黙って聞いていた師匠が割って入る。


黒の魔神「お前よりさらにだと?そんな馬鹿な。今の俺達より上なんて古代族の神くらいしか見たことはない。」


アキラ「師匠はこの話を知っていたんですか?」


狐神「いや、知らないことの方が多かったよ。私が知ってたのは神々の盟約のことやギフトのことくらいさ。これは神になったら全員が知ることになるからね。制約や相克なんてものも知らなかったよ。」


アキラ「そうですか…。」


狐神「黒の魔神も。盟約違反で他の神に制裁を受けても知らないからね。」


黒の魔神「魔人族と妖怪族が手を組み俺達三人がいれば手出し出来る神なんていない。」


狐神「馬鹿言うんじゃないよ。あんたの揉め事に私達を巻き込もうったってそうはいかないよ。そもそも妖怪族と手を組むったって妖怪族は協力なんてしやしないよ。」


黒の魔神「お前は妖怪族の神だろう?」


狐神「そうだけど妖怪族は私の言うことなんて聞きゃしないよ。」


アキラ「師匠…。」


 俺は師匠を制して黒の魔神と向き合う。長々話しをしている間に黒の魔神の傷はほとんど治っていた。その点はさすがだが神力は回復していない。今ならガウでも勝てるだろう。


アキラ「おい黒の魔神。妖怪族は知らないが精霊族として話がある。」


黒の魔神「精霊族として?どういうことだ?」


アキラ「俺は今火の精霊王の位を継いでいる。そこで魔人族と精霊族の戦争を終わらせたい。」


黒の魔神「妖怪族が精霊王?何の冗談だ?」


アキラ「冗談じゃない。どうなんだ?少なくとも不戦協定でも結べれば敵が減るんじゃないのか?後顧の憂いはなくなるだろう?」


黒の魔神「………。それが冗談じゃないとして確かにそれが本当なら魔人族にとっても悪い話じゃない。だがそう言っておきながら後ろからばっさり斬られたらたまらないからな。」


アキラ「長年戦争をしてきてお互い信用できないのはわかっている。精霊族だってすぐには魔人族を信用しないだろう。だが話し合う気があるのかどうか、それが知りたい。」


黒の魔神「………。どちらにしろ俺は狐神に敗れた。お前達が俺や魔人族を殺す気ならばいつでも出来る。それでも話し合いを求めるというのならこちらから断ることはできまい。」


アキラ「そうか。ティア、精霊王や精霊神を集めてもらいたい。場所は…そうだな。パンデモニウムで大ヴァーラント魔帝国と各精霊王、そして黒の魔神と精霊神達で一同に会して話し合いたい。」


ティア「はっ、はい…。」


 あまりの大事にティアは緊張しているようだ。その時後ろからミコに抱き締められた。


ミコ「アキラ君…ありがとう。」


 耳元で囁かれる。ぞくぞくしてしまう。


アキラ「別にミコのためだけじゃない。俺も精霊王の一人だからな。」


ミコ「うん…。それでもやっぱり…ありがとう。」


 こうして俺達は精霊族と魔人族の会談に向けて動き出した。まずはウィッチの森へと向かいウィッチ種達にもう安全だと伝える。その足でそのまま俺達はパンデモニウムへと向かった。



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