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転生無双  作者: 平朝臣
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第四十二話「魔の山の異変」


アキラ「よかった…。よかった…。玉藻……。」


 俺は玉藻をきつく抱き締めた。危うく俺が玉藻達を殺してしまうところだった。もしあのまま全てを消し去っていれば俺はきっと後悔しただろう。なぜあの時は何も感じなかったのかは今でもわからない。あの声の気配のせいだろうか………。


狐神「………アキラ?………どうなって。」


 玉藻達はまだ状況が掴めていないようだ。


狐神「………っていうか玉藻って!アキラ?なんでアキラがそれを知ってるんだい!?」


アキラ「なんでって………。なんででしょう?」


狐神「私に聞かれても知らないよ。」


 なぜかはわからない。だがなぜだか俺は師匠のことを玉藻と呼んでいる。


ミコ「あの…。二人だけの世界のところ悪いのだけれど私達には全然わからないのだけれど?」


 師匠以外はおいてけぼりだ。


狐神「それは私の………前の名前だよ。」


フラン「たまも…たまも…玉藻?伝説の大妖怪と同じ名前ですね。」


 フランは何か知っているようだ。


狐神「ははは………。そうかもね…。」


 師匠は乾いた笑い声を上げながら目が泳いでいる。恐らくその伝説の大妖怪とやらが師匠なのだろう。


アキラ「全員無事か?」


ミコ「無事も何も…どうなっているの?」


フラン「辺りが………。」


 ミコ、フラン、ティア、そして恐らくジェイドは一連の出来事を把握出来ていないだろう。危うく俺に殺されかけぎりぎり助かったということが………。


ブリレ「今更『無事か』はないんじゃないの主様!………ボクのこともちょっとくらいは心配して欲しいよ………。」


 ブリレは拗ねてしまったようだ。別に忘れていたわけでも心配していなかったわけでもない。言葉だけ聞いていればかわいいことを言っているが見た目は相変わらずあれだ………。


ジェイド「これは………どうなっているんだ?」


 広場の中央だった俺達の足元以外には文字通り何もない。地面すらだ。俺を中心に球形に炎が広がりソドムの街の大半が消え去ってしまった。とはいえ被害はまだそれほど広がっていなかったようだ。海に接していた一番遠くの北と南の城壁辺りはまだ僅かに残っている。だが生きている者は俺達以外にはいない。ただ城壁と一部の建物の残骸が残っているだけだ。西回廊も一部分消え去ってしまっている。海からはこの出来た穴に水が流れ込んでいるようだがまだまだ水没し切ってはいない。


アキラ「豊穣の術。」


 俺はとりあえずこの穴だけでも埋めておくことにした。


ミコ「………アキラ君がやったの?」


 ミコは悲しそうな顔で俺を見つめている。前回もこの街の者達を庇っていたミコのことだ。全て殺してしまった俺に思うところがあるのだろう。


アキラ「そうだ…。」


ミコ「そっか………。」


 それ以上ミコは何も追求してくることはなかった。ただ祈りを捧げるように両手を胸の前で組んで目を瞑っている。


ミコ「一つだけ言っておくね。例えこれをやったのがアキラ君でも私の気持ちは変わらないよ。私にとってはアキラ君が一番大切なんだもん。それにアキラ君の気持ちも少しわかるよ………。悲しいことだけれど。」


 目を開けたミコは俺を真っ直ぐに見据えながらそう言った。無理に虚勢を張っているわけでも意固地になっているわけでもない。ただ俺を慈しむように穏やかな目で見つめていた。


アキラ「ミコ………。」


 俺はただミコを抱き締めた。ミコも俺を抱き締め返してくる。


フラン「アキラさん。次は私と………。」


 ミコと離れた俺の服をフランが後ろから引っ張る。振り返ると赤い顔をし目をうるうるさせながら俺を見つめている。


アキラ「フラン。」


フラン「アキラさん。」


 俺はフランも抱き締める。


ガウ「がうがう。」


 ガウも俺に抱き付いてきた。


ガウ「がう。ご主人疲れたの。」


 師匠がこの場にいた全員の神力をかき集めて防御の結界を張っていたので術を使えないガウの神力も当然師匠に抜き取られていた。俺はガウを抱っこしてやる。するとティアが俺の肩に乗り五龍将達は俺の足に纏わり付いてきた。


狐神「アキラ…。」


アキラ「どうしましたか?師匠。」


 師匠がまた俺にそっと寄り添ってきていた。


狐神「え?あれ?なんでだい?」


アキラ「?何がですか?」


狐神「もう!ほら!さっきみたいに…。」


アキラ「さっきみたいに?」


狐神「もう知らないよ!」


 師匠は何か一人で怒り出して拗ねてしまった。


ティア「名前ですね…。」


アキラ「え?」


ティア「愛しい方に名前で呼んでいただけたらそれだけでうれしくなってしまうのです。」


 そういうことか。師匠じゃなくて名前で呼んで欲しいのか。


アキラ「玉藻。」


狐神「きゃーーーーー!!!!」


 いつか見た光景と同じように師匠は真っ赤になって悲鳴を上げながら明後日の方向へと走り去ってしまった………。


アキラ「一先ずジェイドをなんとかしてやるか…。治癒の術。」


 柱に縛り付けられていたジェイドの縄を解いてやり治療してやる。


ジェイド「うっ………。痛みが…。傷も…。君は一体…。」


アキラ「さぁな。俺にも俺がわからない。ただ一つ確かなのはお前の街も仲間も全てを焼き尽くしたのは俺だ。俺が憎いか?」


ジェイド「………いや。俺は君に二度命を救われた。それだけが事実だ。」


アキラ「そうか…。」


 ジェイドの本心はわからない。だがこれ以上無理に聞き出そうとは思えなかった。


狐神「ところでさっきの術はなんだい?あんなのは見たことがないよ。」


アキラ「師匠…。いつの間に戻ってたんですか?」


狐神「………今だよ。」


 実際には気配でわかっているがどうしてもそういう言葉が出てきてしまう。さっきの術…。術?あれは本当に妖術だろうか?あれは別の何かだ。妖術とは思えない。もう一度出そうと思っても出せない。最後に制御出来たのも奇跡のようだ。もう一度制御しろと言われても出来る気がしない。今までこの体は一度覚えたことは二度と忘れることなく自在に出来ていた。それなのにさっきの何かは今は出すことも制御することも出来ないだろうという確信があった。


アキラ「あれは妖術じゃありません。別の何かです。そしてまた出せと言われても出せません。」


狐神「ふむぅ…。」


アキラ「………。何で皆俺の尻尾を触る?」


 師匠達だけでなくティアや五龍将、果てはジェイドまで俺の尻尾をモフモフしている………。俺が外套を脱いで尻尾を伸ばしている時はいつもモフモフされている気がする。


ミコ「えっと…、つい?」


アキラ「俺に聞かれても…。」


ジェイド「なぜ君はこんなに尻尾が生えているんだ?」


アキラ「お前はモフモフするな!男に触られてもうれしくない。俺は妖怪族妖狐種だ。妖狐は尻尾が複数生えている。」


ジェイド「そんな馬鹿な!君はあの時確かに魔力を使っていたはずだ。それに妖怪族が実在するなんて。」


アキラ「ああ。そうだ。俺は魔力が使える。」


ジェイド「俺が特殊なワーウルフであるように君も特殊なワーキャットとかじゃないのか?」


アキラ「違う。俺は妖狐だ。」


ジェイド「………妖狐とワーウルフでも子供が出来るかな。」


 ジェイドがぞわっと寒気がするようなことを言い出した。


アキラ「おい…ジェイド…。お前…。」


ジェイド「おっとすまない。気にしないでくれ。」


 気にするわ!


ティア「異種族だけど愛さえあれば関係ないよねっ!」


アキラ「何か微妙にギリギリっぽい発言をするな…。っていうか何でそんなものを知っている?!」


 ともかくここでこうしていても意味はない。ミコとフランの魔法で作り直した西回廊を渡ることにした。ジェイドはなぜか俺達に付いて来ている。



  =======



 俺達は北大陸へと戻ってきていた。だが北大陸に戻った頃から強力な気配を感じている。その気配は魔の山から感じる。だがそれはバフォーメの気配ではない。バフォーメはその者と対峙している。いや、それは正確ではない。対峙しているつもりになっているのはバフォーメだけだ。その気配の相手はバフォーメなど気にも留めていない。バフォーメとでは格が違う。今のバフォーメは前に会った時よりもずっと強い力を出してその気配を威嚇している。その力は真の力を解放した状態をも上回っている。今バフォーメの真の力を解放すればさらに強くなっているということだ。だがその気配は五龍将はおろかガウでさえ上回っている。師匠に届きそうなほどの強さだ。だが師匠が本気になればまず負けることはない相手だろう。


狐神「魔の山へ急ぐかい?」


 この気配は圧倒的存在感でこれだけの距離がありながらもパーティーメンバー全員が感知している。この神力は神か最低でも神格を得ている者だ。確かに急ぎたい気持ちはある。


アキラ「いえ。何かするつもりならもうとっくにバフォーメは消されているでしょう。この気配は今はまだ何かするつもりはないから魔の山で大人しくしていたんだと思います。先にパンデモニウムに寄りましょう。」


狐神「それもそうだね。」


ジェイド「パンデモニウムって…。魔帝国臣民でも簡単には入れないぞ?」


 俺はジェイドの言葉は無視してパンデモニウムへと急いだ。ちなみに俺はまたボックスから新しい外套を出して羽織っている。俺の暴走の時に解除した師匠達の能力制限も今は掛けなおされている。そういえば俺のあれも暴走と言えるんだな…。やっぱり親子は離れていても似るらしい。ポイニクスのことを偉そうに言えなくなってしまった。



  =======



 俺達は比較的早くパンデモニウムに辿り着いた。ジェイドのことは気にせず移動してきたがしっかり付いて来ている。流石狼だけあって脚の速さと持久力は大したもののようだ。


アキラ「門を開けろ。」


 俺は以前にサタンからもらった指輪をボックスから取り出して見せながら門番に命令する。


門番「これは!開門!開門しろ!」


 指輪をみた門番はすぐに門を開けた。


ジェイド「え?どうなってるんだ?君達は何者だ?」


アキラ「ジェイドいちいちうるさいぞ。お前に逐一説明するのは面倒だ。勝手に付いて来ているのは許してやるが俺達に説明まで求めるな。」


ジェイド「すまない。」


 パンデモニウムに入った俺達は一直線にサタンの元へと向かった。途中の門やサタンへの取次ぎも全て無視して謁見の間へと一気に侵入する。謁見の間は前回の会議室のような場所とは違う。大きな扉があり扉を潜ると立派な室内の奥の数段高くなった位置に玉座がありそこにサタンが座っていた。


サタン「アキラ殿?」


アキラ「おいサタン。お前達はなぜ西大陸に侵攻した?」


ジェイド「こっ、皇帝陛下!おい!皇帝陛下になんて態度を…。」


アキラ「ジェイド…。さっきの言葉を忘れたのか?」


ジェイド「うっ…。すまない。」


 ジェイドだけ跪き頭を垂れている。だが俺達はそんなことをする気はない。


サタン「さて…。余にはわからぬな。余が即位するよりも昔に黒の魔神様がお決めになられたと聞いておる。」


アキラ「ちっ…。その黒の魔神に聞くしかないか。この気配が黒の魔神のものだな?」


サタン「恐らく…。」


アキラ「恐らく?知らないのか?」


サタン「黒の魔神様は遥か昔にその姿をお隠しになられて以来誰も会ったことがない。」


アキラ「そうか。それで黒の魔神が西大陸に侵攻しろと言ったら俺がやめろと言ってもやめないし、黒の魔神が引き上げろと言ったら引き上げるんだな?」


サタン「聞きたいことがよくわからぬが………。黒の魔神様が言われれば例えアキラ殿と争うことになろうとも我らは従わねばならぬ。」


アキラ「わかった。邪魔したな。」


サタン「もう行かれるのか?久方ぶりにゆっくりしていかれてはどうかな?」


アキラ「悪いがこちらも悠長にはしていられない。」


サタン「それもそうであったな。魔の山にこれほどの気配があっては心配になるであろう。」


アキラ「そういうことだ。じゃあな。」


 俺達はそのままパンデモニウムを後にした。


ジェイド「皇帝陛下とあれほど気安く話せるなんて本当に君達は不思議だな。」


アキラ「お前みたいな下っ端の雑兵じゃ声を掛けられることもないだろうからな。」


ジェイド「下っ端の雑兵って…。俺は一応ソドムの街の責任者だったんだんが…。」


 俺にとってはそんなものは雑兵と一緒だ。俺達がパンデモニウムから出るとすぐに気配が近づいてきていた。


マンモン「………アキラ。魔の山へ向かうのか?」


ジェイド「マンモン将軍!」


アキラ「ああ。そうだ。」


マンモン「………俺も行く。」


 どういうつもりでマンモンが付いて来るのかは知らない。付いて来たければ勝手にすればいい。前よりもほんの僅かに強くなっているようだが最早パンデモニウムの全戦力でもティア以外の俺達の誰一人傷一つ付けることは出来ない。そしてティアは俺の胸の谷間に収まっている。ティアを傷つけるためには俺を突破しなければならない。


アキラ「好きにしろ。」


マンモン「………わかった。」


ジェイド「マンモン将軍にまで…。本当に君達がよくわからない。」


マンモン「………それでなぜここに精霊族がいる?」


ティア「え?わたくしのことですか?」


ジェイド「俺も気になっていた………。まさか君達は本当に精霊族のスパイか?」


 細かいことにいちいちうるさい奴らだ。


アキラ「面倒な奴らだな。記憶を失くす前の俺は火の精霊王の位を継いでいたようだ。だから今は俺が火の精霊王になっている。これ以上火の精霊と戦争をするということは…わかるな?」


マンモン「………アキラが敵の王になるということだな。」


ジェイド「精霊王って何だ?」


 ジェイド………。そこは言葉のまま王と受け取ればいいだろう…。


アキラ「ともかく俺達は魔人族と精霊族の戦争を終わらせたいと思っている。」


マンモン「………また大ヴァーラント魔帝国が引かなければ滅ぼすと言うのか?」


アキラ「いや…、それはまだわからない。魔人族が西大陸に侵攻した理由を聞いてみなければな…。」


マンモン「………だから黒の魔神様の下へ行くのか。即滅ぼすと言わないとはアキラは前より少し甘くなったな。」


アキラ「………。生憎俺はソドムの街を皆殺しにしてきたところだがな………。」


マンモン「………。」


ジェイド「マンモン将軍!それは彼女達のせいじゃないんです!話を聞いてください!」


マンモン「………わかっている。アキラは理由もなく一般市民を皆殺しにするような者ではない。何か理由があったのだろう。」


ジェイド「将軍…。将軍もこの子達のことをよくわかっているんですね。」


マンモン「………。」


アキラ「無駄話はそこまでだ。着いたぞ。」


 俺達はようやくウィッチの森まで辿り着いていた。



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