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転生無双  作者: 平朝臣
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第四十一話「運命の歯車」


ミコ「ちょっとアキラ君!それお砂糖じゃなくてお塩だよ!」


アキラ「え?…あっ。」


 ザラマンデルンから旅立って二日が過ぎている。今はテントを張って夕食の準備中だ。俺は調味料を間違えて滅茶苦茶に入れてしまっていた。軽く味を見てみたがひどい味で今から調整するのはもう無理だ。これは作り直すしかない。


ミコ「後は私がやっておくからアキラ君は休んでて。」


アキラ「しかしミコに全てやらせるわけには…。」


ミコ「いいから休んでて…。」


 これ以上俺がやっても食材を滅茶苦茶にしてしまうだけだろう。ミコの言う通りにするべきだ。


アキラ「…すまない。」


ミコ「ううん。気にしないで。今日は私が腕によりをかけるからね。」


 調理をミコに任せた俺はテントに入って寝転がる。皆は焚き火の前で何かしていたようだがそこに混ざる気にもなれなかった。


ブリレ「主様。ボクが慰めてあげるよ。」


 テントに入ってきたブリレが俺につんつんすりすりしている。


ティア「そんなに次期火の精霊王と別れたのがお辛いのでしたら連れて来られればよろしかったのではありませんか?」


 ティアもブリレを追いかけて入ってきたようだ。ティアもウンディーネと別れて同じ気持ちを味わっているだろう。皆は俺がポイニクスと離れ離れになって落ち込んでいると思っている。だがそうじゃない。確かにポイニクスと別れたのはそれなりに辛いことではあったが今の俺がおかしいのはそのせいじゃない。


 ………

 ……

 …


???『……せ。』


???『…ろせ。』


???『ころせ!』


 ………

 ……

 …


アキラ「っ!」


ミコ「アキラ君?ご飯できたよ?」


 俺はいつの間にか眠っていたようだ。嫌な夢を見た。汗をぐっしょり掻いている。夢?…いや。あれは夢じゃない。あれは俺の中の………。


フラン「アキラさん。どうかされたんですか?」


 フランが俺の汗を拭いながら顔を覗き込んでいる。


アキラ「………なんでもない。行こう。」


 ミコが腕によりをかけた料理の味はわからなかった………。



  =======



 四日目のお昼頃にはソドムの街へと辿り着いた。この街には碌な思い出がない。西回廊に入るにはここを通るしかないのでさっさと通り抜けよう。


アキラ「ミコ大丈夫か?」


ミコ「………うん。」


 ミコの様子を伺ってみる。少し暗い顔をしているが覚悟のある顔をしている。ミコの心は強い。いつまでも悔やんではいないようで少しほっとする。だが俺はこの街の気配で嫌な予感がしている。街の中央付近にある広場のようになっている場所に人の気配が集まっている。だがそれは一定の距離を取ってその輪の中央にいる人物を囲っているようなのだ。俺の脳裏に嫌は景色が思い浮かぶ。中央を通らずに迂回して西回廊へ入れば俺達は何事もなく通り過ぎることが出来るだろう。だが俺の足は何かに引き寄せられるかのように街の中央広場へと向かって行った。


フラン「何ですかこれは…。」


ミコ「~~っ!」


 その景色は俺が思い浮かべていたものと同じものだった…。広場の中央には柱が建てられている。その柱を囲うように周囲に柵が設置してある。その柵は人が通れないようにするためだけのもので中がよく見える。その柵に大勢の人が集まり中央に向かって罵詈雑言を叫んだり石を投げつけたりしている。そうだ。これは漫画等で見たことがあるような罪人を晒し者にする場所だ。そして中央の柱には罪人が縛り付けられている。その姿は鎧を取り上げられ裸に剥かれているが全身を体毛が覆っている。大きな二足歩行の狼そのものだった………。


アキラ「ジェイ…ド…。」


 その姿はあまりに痛々しい。柱に縛り付けられた両手両足は本来ではありえない方向に曲がっている。全身の体毛はあちこちが血で赤く染まっている。今もまた投げつけられた石が頭に当たりその場所から徐々に赤く染まっていっている。


ガウ「がうぅ!」


狐神「………。」


 普段は他種族のことにはあまり感情を表さず不干渉を貫く師匠とガウも顔を顰めている。縛り付けられている柱の近くには罪状を記す立て札が立てられていた。この世界では言葉はほぼ全ての種族で共通の言語が使われている。だが文字は共通文字と各種族毎の文字が存在してる。俺はミコから人間文字。フランから魔人文字。イフリルから精霊文字を習ったので魔人文字で書かれたこの立て札も読める。


 『この者精霊族のスパイを先導し先の精霊族の襲撃によって多くの犠牲を出した罪により処刑する。』


 ミコもフランから魔人文字を習っている。この立て札も読んだはずだ。ミコはフルフルと震えている。俺の頭が急速に冷えてくる。自分の体でありながらまるで他人のようだ。俺が俺の体を動かしているはずなのに俺はそれを自分の後ろやや上から眺めているかのような錯覚を覚える。それはまるで他人がプレイしているTPSのゲームを眺めているかのようだった。


ミコ「アキラ君?!」


 俺は柵を破りジェイドに向かって歩いていく。慌てたミコや他のメンバーも俺に付いてくる。


市民A「おい!あれ!」


市民B「あいつ知ってるぞ!この街をこんなにした奴らだ!」


 周りのゴミ共が騒ぎ出す。だが俺にはただの不快な雑音にしか聞こえない。


市民A「お前達のせいでこの街は滅茶苦茶だ!死ね!」


市民B「お前らも俺達と同じ苦しみを与えて殺してやる!」


 ゴミ共は俺達に向かって石を投げてくるが俺の神力に弾かれて俺達には届かない。俺はジェイドの前に立った。


アキラ「ジェイド………。これが…。こんなものがお前の言っていた信頼とやらか?」


 俺が声を出しているはずなのに俺の声とは思えない。


ジェイド「うっ…。すま…ない…。……君…達…だけでも…逃げてくれ。…まだ…間に合う。」


アキラ「何があった?」


 俺が会話をしているはずなのに何を言っているのか理解出来ない。まるで頭に入ってこない。


ジェイド「君達は…先の襲撃の犯人として……指名手配されること…になった。…俺は君達の仲…間として罪を着せら…れた。兵が…来る前に…早く逃げろ。」


 ジェイドは弱いとはいえジェイドなりにこの街のために必死に働いていた。こんな仕打ちを受けなければならないような者ではない。俺の中で黒い感情が溢れ出す。


 ジェイドの話を聞きながらも俺の意識は徐々に暗い闇の底に沈んでいった………。





  ~~~~~ジェイド編~~~~~



アキラ「まぁ…ジェイドには一応世話になった。礼を言っておく。」


ジェイド「やめてくれ。世話になったのはこちらの方だ。それなのにこんな送り出し方をしなければならないのは辛いことだが…。総員!ソドムの街の英雄に敬礼!」


 付いて来た隊員全員でこの街を救ってくれた英雄に敬礼をする。今の俺達には彼女達に他に何もできることはない。街の市民達の態度はひどいものだった。だがきっと街が立て直されたら市民達もわかってくれるはずだ。北大陸へ帰るにはこの街を通るしかない。きっと彼女達が帰る時にはきちんとした礼ができるようになっているに違いない。彼女達が見えなくなるまで見送った俺は復興のために街へと戻っていった。



  =======



 西大陸では度々先のような精霊族の襲撃がある。襲撃を受けた街はほとんど壊滅状態だ。今回この街はかなり軽い被害で済んだ。それを調べるために方面司令官のジェームズがやってきた。この男はあまり良い噂を聞かない。出世のためにはどんな汚いことでもすると噂になっている。俺も昔から散々酷い目に遭わされていた。


ジェイド「どういうことですか?」


ジェームズ「お前の知能では理解できないか?この報告書にある者達を捕えて連れて来いと言ったのだ。」


ジェイド「なぜ彼女達を捕えなければならないんですか!」


ジェームズ「街の者共はこの者達が今回の襲撃に関わっていると言っている。」


ジェイド「ですからそれは間違いだと何度も言っているではありませんか!」


ジェームズ「本当に犯人かどうかはどうでも良い。被害を受けた市民達の不満が溜まっている。いつ暴動に発展するかもわからない。この者達を犯人に仕立て上げ市民共に処刑させれば不満も和らぐだろう。」


ジェイド「そんなことのために!彼女達はこの街を救ってくれた英雄ですよ!」


ジェームズ「それだけではない。今まで精霊族の襲撃には手を焼いていたのだ。今回被害が少なく済んだことに加えてここでその犯人一味を捕まえたことにすればわしが他の方面司令官共より上に立つことができる。」


ジェイド「なっ!」


ジェームズ「それに大層美しい娘共だったそうじゃないか。ひひひっ。お前がきちんと捕まえてくればわしの後でよければお前にも味見させてやっても良いぞ?わしの地位が上がればお前の出世もさせてやることができる。悪い話ではなかろう?」


ジェイド「お断りします!そもそも彼女達はガーディアンとキーパーをいとも簡単に撃退したんです。そのガーディアンとキーパーにすら苦戦している我々でどうして捕まえられると思うんですか。」


ジェームズ「これだからお前は使えんのだ。頭を使え。何も正面から戦って捕まえる必要などない。…だがお前はもう用済みだ。連れて行け。」


 俺の周りに控えていたジェームズの連れて来た兵が俺を捕まえる。振り解くのは難しくはない。だがここで問題を起こしてはいけない。俺の仲間達だって黙ってないはずだ。ジェームズの横暴がこのまま通るわけはない。きちんと法と手続きに則ってジェームズは罰を受けることになる。俺は大人しく掴まることにした。



  =======



 俺が牢に入れられて何日が経っているのだろうか。襲撃のせいで主だった施設を失っている。俺は急遽用意された牢に入れられている。この牢はひどい状態だ。地下倉庫に鉄格子を付けただけの牢で外の明かりが入ってこない。食事も回数や時間が滅茶苦茶なのでそれで時間の経過を知ることは出来ない。


トム「俺もジェイドの野郎は気に入らなかったんだ。獣の分際で俺達に偉そうに指示してやがったからな。」


ボブ「ああ。まったくだな。牢にぶち込まれていい気味さ。」


 俺の耳はかなり良い。上の階に屯している兵達の会話が聞こえてくる。今話していた者達は俺の隊にいた者達だ………。


ジョン「まぁそう言うなよ。確かに気に入らなかったが馬鹿は馬鹿なりに役に立ってただろ?お前ら何度もあいつに命を救われてたじゃないか。なさけねぇ。」


隊員「「「ははは。」」」


トム「笑うんじゃねぇ。あの獣にゃ他に使い道はねぇんだ。使ってやってたんだよ。あの偽善ぶりにはむかついてたがな。」


ジョン「はいはい。そういうことにしといてやるよ。行くぞ。」


 見回りの時間なのか足音が遠ざかっていく。………皆そう思っていたのか。誰もジェームズの横暴に異を唱えない。それどころか彼女達を捕まえてジェームズのお零れをもらおうと躍起になっている。なぜだ…。命の恩人の体を弄ぼうというのか…。おかしいとは思わないのか…。何も考えられない。俺が間違っていたのか?


 『それは信頼関係じゃない…お前を利用しているだけにすぎない…』


 彼女の言葉が思い出される。…彼女の言葉は当たっていた。信頼関係だと思っていたのは俺だけだったんだ。他の者達は俺が利用できるから利用していたにすぎなかった………。



  =======



 さらにどれほどの時間が過ぎたのだろうか…。まともに体も動かせない狭い牢に入れられ衛生状態も最悪だ。食事もまともな食事など出されない。体の調子が悪い。もう逃げ出すことも出来ない。最初にジェームズの兵共を蹴散らして逃げ出すべきだったのだろうか…。いや、違う。そうじゃない。きっとジェームズは裁かれる。こんな悪行が罷り通って良いはずはない。その時地下へと続く上の階の扉が開き誰かが歩いてくる。昔なら足音や気配で誰だかわかったはずだ。だが今の俺には最早それすらわからない。


ジョン「ようジェイド。」


ジェイド「………ジョン。」


ジョン「呼び捨てにするんじゃねぇ!ジョン隊長と呼べ!」


 鉄格子の間から鞘に収まった剣で思い切り突かれる。胸に当たり息が詰まった。


ジェイド「げふっ…。」


ジョン「はっ。いい気味だな。」


 今は俺の後釜としてジョンが隊長をやっているようだ。ジョンは勝ち誇った笑みを浮かべている。


ジョン「お前は処刑されることに決まった。」


ジェイド「な…に…?」


ジョン「はははっ!いい顔だな!なぜって顔をしているぞ!お前はこの街の襲撃犯の仲間と認定された。」


ジェイド「裁判は…。裁判は受けてないぞ…。」


ジョン「はぁ…。お前とことん馬鹿だな…。裁判なんてあるわけないだろ?」


ジェイド「大ヴァーラント魔帝国臣民には裁判を受ける権利が保障されている。」


ジョン「くっくっくっ。本物の馬鹿みたいだな。いいか?法も正義もありゃしないんだよ。力のある者が正義だ。今この街で一番力があるのはジェームズ司令官。そしてその次が俺だ。ジェームズ司令官と俺がお前が犯人だと言ってるんだからお前は犯人なんだよ。わかったか?」


ジェイド「………。」


ジョン「いいぞ。いい顔だ。お前のその絶望している顔が見たかったんだよ。正義漢ぶりやがって。お前の偽善にはうんざりしてたんだよ。ざまぁみろ。あの女共は美しかったな?俺の下でヒィヒィよがり啼くのが楽しみだぜ。」


 それだけ言うとジョンは去って行った。正義も…法の秩序も…ない…。力のある者が力のない者をねじ伏せる。それが世界なのか………。



  =======



ジェイド「ぐあぁぁぁっ!」


兵「おらっ!もう一発だっ!」


 俺は拷問を受けていた。特に何か尋問されるわけじゃない。ただ俺を甚振っているだけだ。体中が痛くてもうどこが痛いのかわからなくなっている。だが俺の反応がなくなってくればまた牢に戻され体が癒えるとまた拷問の繰り返しだった。それが何度続いたかわからない。しかし今日は様子がいつもと違う。


兵「おらよっ!」


 ボキッ


ジェイド「ぐぅぅぅぅっ!」


 俺は両手両足をへし折られた。そのままずるずると引き摺られていく。建物の外まで出た。どれくらいぶりに日の光を見ただろうか。眩しくて目を開けていられないほどだ。そのまま街の中央の広場へと引き摺られて行った。


ジョン「こいつは先の襲撃犯の仲間だ!この者には市民に罪を償う義務がある!好きなようにこいつに罪を償わせてやれ!ただし一週間以上は生かしておくこと!」


 ジョンが市民達に大声を張り上げる。俺は広場の柱に縛り付けられた。


市民A「街をこんなにしやがって!死ね!」


市民B「俺達の恨みを思い知れ!」


 市民達が俺に罵詈雑言を浴びせて石を投げてくる。なぜだ…。俺はこの街を必死に守ってきた。巡回の時にいつも気さくに声をかけてくれていた果物屋のおばさんも仕事上がりにいつも寄っていた飲み屋のおじさんもみんなが俺に罵倒を浴びせ石を投げてくる。


市民C「この裏切り者が!」


 違う…。俺は裏切り者なんかじゃない。いくら俺がそう思っても、心で否定しても、俺の世界が崩れていく。魔獣から市民を守ったときに送られていた声援も…向けられていた笑顔も…全て偽りだったのか?………わからない。もう何も感じない………。毎日毎日市民達は俺の周りに集まっては罵倒し石を投げてくる。ここでは日が見えるので日数がわかる。すでに四日が経過していた………。


 バキッ!


 柵を破ってこちらに歩いてくる一人の少女が目に映った。もう俺は死んで最後の夢でも見ているのだろうか………。その少女は前と変わらない美しい声で、しかし地獄の底から響いてくるかのような冷たい声で俺に問いかけた。


アキラ「ジェイド………。これが…。こんなものがお前の言っていた信頼とやらか?」




  ~~~~~アキラ編~~~~~



 ジェイドの話を聞いている間に俺の意識は徐々に暗い闇の底に沈んでいく………。


???『殺せ!』


 違う!


???『破壊しろ!』


 やめろ!


???『消し去れ!』


 そうじゃない!………だが本当にそうか?この街の者達は存在そのものが悪ではないのか?


 誰にでも生きる権利がある?その他人の生きる権利を侵害した者にはそんな権利はない。権利とは義務を果たすからこそある物だ。犯罪者の人権?笑わせる。他人の人権を侵害しておいて自分の人権は保護して欲しい?馬鹿も休み休み言え。もしそんなことが認められるのなら犯罪を犯して自分の人権だけ保護してもらえばいい。犯罪を犯した者が得をする世界だ。だが地球でもこの世界でもそれが罷り通っている。


 罪には罰を!悪行には報いを!


 自由と自分勝手を履き違えている者が多すぎる。『人を殺しても法の裁きさえ受ければそれは自分の自由だ。』などと勘違いしすぎている。自由とは他人を害しない範囲での行いのことだ。権利とは義務を果たしているから得られるものだ。権利だけ、自由だけを求めすぎている。それは教育の賜物だ。権利と自由だけを教え自分勝手との違いや義務については教えない。だから自分勝手な振る舞いをし権利だけを声高に叫ぶ。そんな奴らはいなくなったほうがいい。俺はずっとそう考えていたはずだ。


アキラ・???『『相応の報いを受けろ!』』


 俺の意識は完全に闇に呑まれた………。


 ………

 ……

 …


アキラ「。」


 今俺の体を動かしているのは俺じゃない…。俺の意識は遠くから俺の体を眺めている。俺の神力によって外套が燃え尽きる。長く伸びた尻尾がそれぞれ橙、青、緑、黄、赤、紫、紺、金、黒の九色に光り輝いている。俺の体から噴き出した黒い炎は全てを焼き尽くす。


狐神「!!!全員制限を解除して全力で結界を!」


狐神(アキラ………。)


 咄嗟に反応できたのは師匠とガウと五龍将だけだ。ミコ、フラン、ティアは反応出来ていない。全員の力を師匠がまとめて全力で防御しようとしている。だがその程度の力では結界など無意味だ。刹那、つまり100京分の1秒すらもたないだろう。この世界全てが一瞬にも満たない僅かな時間で消し炭も残らず消え失せることになる。だが俺は何も感じない。大切な人達だったはずなのに。存在した痕跡すら残さず消え去るというのに…。だが寂しがることはない。全てがそうなるのだから…。虚無へと還るだけなのだから…。


???「本当にそれでいいのかい?アキラちゃん。」


 おかっぱと坊ちゃん刈りの間くらいの髪型の少年が暗い意識の底にいる俺の前に現れる。辺りは真っ暗闇で何も見えないはずなのにやけに鮮明にその姿が見える。髪も瞳も金色だ。目が大きく頬もふっくらしてかわいらしい顔だがこいつは男だ。そして俺はこいつを知っている。


???『邪魔をする気か!観察者よ!』


???「邪魔はしないよ。それは僕の役目じゃない。」


???『すでに邪魔をしておる!運命は決まった!』


???「まだ運命は決まってない。だから違反してるのはそっち。」


???『戯言を!すでに運命は決まっている!』


???「君とは話をしてないよ。」


 その少年は闇と話すのをやめて俺に向き直る。


???「ねぇ?アキラちゃん。本当にそれでいいの?」


 ドクンッ


???「彼女達も消えてしまうよ?」


 ドクンッ


???『やめよ!耳を貸すな!破壊しろ!』


 ドクンッ


アキラ「俺は…。」


 少年が指差す先を見つめる。暗い闇の中に光が差し込んでる。そこに映るのは今にも黒い炎に撒かれて消え去ってしまいそうな俺の愛しい者達の姿だ。


狐神『アキラ………。』


アキラ「俺は…。俺は師匠を、ガウを、ミコを、フランを、ティアを、五龍将を、ポイニクスを、バフォーメもムルキベルもイフリルも、今まで出会った仲間、皆を失いたくない!」


 その瞬間闇は消え去り俺と少年だけが光輝く空間に浮かんでいた。ここ最近聞こえていた声の主の気配は消え去っている。俺はこの少年を知っている。この光輝く空間の向こうには二人の神と一人の光る死体が映し出されている。二人の神の一人はこの少年、最高神だ。もう一人は人神だ。会ったことはないがなぜかそう確信している。ぼろぼろに崩れて一つに纏まろうとして失敗し、また崩れることを繰り返している光る死体は前の俺だ。




人神「勇者召喚にて手違いがありました。関係ない者を巻き込んでしまったようです。」


最高神「そっかぁ。このまま放っておいたら次元の狭間を彷徨い続けることになっちゃうし転生させてあげよっか。勇者と同じ時代にでも。」


人神「想定外の事態で時間軸がずれたようです。この者と召喚された勇者たちとは時代が異なるようですが。」


最高神「その程度のずれくらい修正してあげようよ。無関係の人を巻き込んでしまった償いだよ。」


人神「しかしどのように?」


最高神「意識を半分封印して早送りで同じ時代まで飛ばそう。勇者たちがたどり着いた時代に真の意識が覚醒するようにね。」


 最高神がそう言って手をかざすと光の粒子となった前の俺の体は一つに纏まりファルクリアの世界へと飛んでいった。




最高神「思い出した?」


 さっき見えていた景色は俺が巻き込まれて死んでから『漂っていた』と感じていた時の景色だ。最高神の力で見せられていたのだろう。だがこいつは嘘を付いている。


アキラ「お前は信用できない。手違い?巻き込まれた?嘘を付くな。俺がこうなったのはお前の予定通りだろう?なぜ人神にも俺にも嘘を付いている?」


最高神「嘘は付いてないよ?人神には教えなかっただけ。肯定も否定もしてないでしょ?」


アキラ「無関係の者を巻き込んだ償いと言っているぞ。俺に何をさせるつもりだ?俺はお前に操られているも同然だ。どこからどこまでがお前の思い通りだ?」


最高神「それこそ勘違いだよ。人神が無関係の者を巻き込んだって言ったから無関係なら償いが必要だねって一般論を答えただけだよ?僕は君に何もしてないよ。転生させて意識を封印しただけ。君の歩いて来た道は意識を封印されてる間も解けた後も君の意志で歩いてきた道だよ。」


 じっと見つめるが最高神はニコニコ笑顔のままだ。心がまるで読めない。


アキラ「それを信じろと?それに運命とか観察者とか何のことだ?」


最高神「それは教えられないよ。信じるかどうかはアキラちゃん次第さ。…僕は誰にも手は貸さない。ただ眺めるだけだよ。」


アキラ「俺に手を貸している。それはお前の望みのためじゃないのか?」


最高神「アキラちゃんには手を貸してないよ。それはただ運命のままにことを進めただけ。アキラちゃんの言った通り手違いでも巻き込まれたのでもない。こうなることが必然だっただけだよ。そんなことよりこのまま放っておいていいの?」


 最高神が手を上げる。そこからは外の景色が見えている。今にも黒い炎に撒かれて燃え尽きてしまいそうな俺の愛しい者達の姿が映し出されている。しかし時が止まっているかのように進んでいない。


最高神「今は僕の力で時の流れに干渉してるけどこのままだと皆消えちゃうよ?」


アキラ「ちっ!」


 確かにここでのらりくらりと逃げる最高神と押し問答をしている場合ではない。


最高神「一つだけ答えてあげるよ。僕は誰にも手は貸さない。だけど僕にだって望みはある。だから僕はその望みが叶うことを願いながらただ繰り返し続けているだけだよ。じゃあ後は頑張ってね。」


 そう言うと最高神の気配が消え光輝いていた空間から俺の意識も元の体へと戻った。


アキラ(いきなりかよ!皆!)


 突然戻された俺は黒い炎を制御する。ほんの刹那の時間だけ俺の炎を防御して砕かれ今まさに師匠達に襲いかかろうとしていた炎はぎりぎりのところで俺へと吸い寄せられ消えてゆく。師匠達とその結界の中にいたジェイド以外は辺り一帯何もない。だが師匠達は救えた。


アキラ「間に…合った………。」


 師匠達の方を見る。もうだめだと思っていたところで突然炎が消えて呆然としている。


アキラ「っ!師匠………。玉藻っ!よかった………。」


 運命の歯車は俺の知らないところで周り始めた。だがそんなことをまだ知らない俺は師匠に…いや、玉藻に飛びつき抱き締めた。



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