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転生無双  作者: 平朝臣
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第四十話「ポイニクスとの別れ」

 精霊王会談を無事に終えた俺達は控え室へと戻ってきた。


狐神「ちょっとアキラ。私とだってまだ結婚してないのにティアと結婚するっていうのはどういうことだい?」


 いきなり師匠に詰め寄られた。


ミコ「そうだよアキラ君!」


フラン「私はアキラさんのお傍に居られるのなら何番目の妻でも構いませんよ?」


 会談場はかなりの標高ではあったが師匠とガウにとってはこの程度の距離などあってないようなものだ。全て筒抜けで皆で話し合っていたのだろう。ミコとフランまで俺に詰め寄ってくる。


ガウ「がうもご主人と結婚するの~~~!」


 ガウが満面の笑顔で飛び込んでくる。ガウだけは相変わらずだ。


アキラ「ちょっと待て。それはティアが勝手に言い出したことだ。俺は認めてないし嫁にもらうつもりもない。」


 ガウを受け止めながら俺は弁明を試みる。


ノーム「ふむ…。それではアキラ殿。先の件よろしく頼む。」


 危険を察知したのかノームはグノムを連れて逃げ出そうとしているようだ。


アキラ「おいノーム…。」


ノーム「何、精霊族の方は心配いらぬ。任せておけ。それではな。」


グノム「それではお先に失礼いたしますじゃ。」


 ノームとグノムは完全に逃げる気だ。


エアリエル「それでは御機嫌よう。火の精霊王様、水の精霊王様、土の精霊王様。」


シルフィ「お疲れ様でした!」


 エアリエルとシルフィも修羅場だと察知したのか便乗して逃げる気だ。そそくさと荷物をまとめると四人は足早に帰っていった。残されたのは火の関係者と水の関係者のみだ。なぜか二人の精霊神も残っている。


ウンディーネ「それで二人の式の日程を…。」


アキラ「…おい。お前は俺のことを散々に言っていたのにそんなにあっさり認めていいのか?そもそも異種族間でそういうことは禁忌じゃないのか?」


ウンディーネ「………子の幸せを願わない親はいません。わらわがどう思うかではなくティアが何を望んでいるかなのです。わらわはそなたのことなど認めていません。ですがそれでティアが幸せならばわらわが止めることはできないのです。」


 急に物分りがよくなりやがった…。ここはいつもの調子でヒステリックに叫んで反対してくれたら丸く収まる場面だったんだ。


アキラ「でもな…。」


ウンディーネ「わかっています。ティアの片思いなのでしょう?あの子はわらわに似て素直ではありません。未だに気持ちも伝えてはいないのでしょう…。ですからわらわはわらわに出来る限りティアの応援をしてあげたいのです。」


アキラ「だからって相手の気持ちも考えずに無理やり結婚させても幸せじゃないだろう?それは応援とは言わない。」


ウンディーネ「………。思ったよりもそなたは思慮深いのですね…。確かにその通りです。ですからこのまま勢いに任せて無理やり結婚させようとは思っておりません。…ですがせめてこれからもあの子をお傍に置いてやってください。」


 ポロポロと涙を流しながら俺に頭を下げるウンディーネ…。


アキラ「ちっ…。お前に言われるまでもない。ティアが望むのなら一緒に連れて行く…。」


 俺もどうしてしまったのだろうか。ウンディーネの情に絆されたのだろうか?それとも知らず知らずの間にティアにも情が湧いたのだろうか?だが一つだけわかっていることは本人が望むのならこのまま連れて行ってもいいと今は思っている。


ウンディーネ「ティアのことよろしくお願い致します。」


水の精霊神「あ~あ、アホらし…。なんなのよ。私はもう帰るからね!」


ウンディーネ「水の精霊神様、ご迷惑をおかけしました。」


水の精霊神「まったくよ。ほら、帰るわよ。」


ウンディーネ「はい。…ティア。しっかりね。」


ティア「お母様………。はいっ!水の国の宰相としてしっかり勤めを果たしてまいります!」


ウンディーネ「ティア。公私混同はいけませんといつも言っているでしょう?ウンディーネ様とお呼びなさい。」


 さっそくティアは怒られていた。だがその顔も声もいつものようにヒステリックな怒りに染まっていない。片目でウィンクをしながら指先でつんとティアの額に触れていた。


ティア「申し訳ありませんウンディーネ様。」


 ティアも舌を出しながら答えている。だが二人の瞳には溢れそうな涙が堪えられていた。別にこれが今生の別れでもないだろうとは思うが俺は子供を持ったことがない。ポイニクスがそれに一番近いが前回ポイニクスと別れたのは俺ではなく前のアキラであったしその頃のポイニクスはまさに赤ん坊でありポイニクスの方も何か意思を示すことはなかった。長い時を共に過ごした本当の母娘ならば例え一時の別れでも辛いのかもしれない…。


ウンディーネ「皆様…、ティアの…いえ、オーレイテュイアのことをよろしくお願い致します。」


 もう一度俺達に頭を下げたウンディーネは水の精霊神と一緒に去って行った。


アキラ「おい、ティア…。」


ティア「っ!ああ~~!!言っておきますがわたくしはアキラ様と結婚するつもりなんてありませんよ?水の国に連れ戻されるのが嫌なのでああ言っただけなのです。それにそのお陰で火と水の精霊もうまくいったでしょう?わたくしに感謝してくださいね!」


 顔を真っ赤にさせたティアは早口でそう捲くし立てる。


アキラ(やれやれ…。ウンディーネの言った通り本当に素直じゃないな。)


 いくら俺が鈍くてもここまでくればわかる。決して自惚れではなくティアは俺に好意を寄せている。それがどの程度の気持ちなのかまではわからない。例えば地球でアイドルに憧れるファンの気持ちかもしれないし一生添い遂げるくらいに愛しているのかもしれない。それはティアが素直になって俺と魂の繋がりが出来た時にわかることになるだろう。


狐神「五人目だね。」


ミコ「そうですね。」


フラン「ティアさんに追い抜かれる前にアキラさんと繋がってよかったです。」


ガウ「がう。」


 後ろから散々に言われているが俺はもう否定するつもりはない。きっと俺はティアが俺に気持ちを向けてくれば受け入れるだろう。その時が来るかどうかはティア次第だ。もちろん今は特別恋愛感情を持っているわけではない。だが相手の努力次第で俺の心が動かされることはすでに何度も証明されているのだから…。


火の精霊神「俺はまだお前のことを信用してないからな。」


アキラ「お前まだいたの?」


火の精霊神「ちっ…。用が済んだんならさっさと精霊の園から出ていけよ。」


 そう言うと火の精霊神は空間移動して消えて行った。


アキラ「言われるまでもない…。それじゃ帰るか。ザラマンデルンに。」


狐神「そうだね。」


ミコ「うんっ!」


フラン「はい。」


ガウ「がうがう。」


ティア「しゅっぱーつ!」


アキラ「お前が仕切るな。」


 こうして俺達は物質世界のザラマンデルンへと戻っていった。



  =======



 門から物質世界へと戻った俺達はグリーンパレスからゲーノモスを通り例の山まで戻ってから俺の記憶の通りに進んで行った。俺の予想通り山からはザラマンデルンへと一直線だった。すでに俺達がザラマンデルンに帰り着いてから一週間が過ぎている。


イフリル「女王陛下。こちらの書類もお願いします。」


 俺は相変わらずイフリルが持ってくる書類の処理をさせられている。だが1300年分以上溜まっていた時とは違いすぐに終わる程度の量しかない。すぐに処理するとイフリルが書類を持って出て行った。


ポイニクス「ママおしごと終わった~?」


アキラ「ああ。」


ポイニクス「じゃああそぼ~。」


 この一週間ポイニクスは俺にべったりだ。ある程度は前火の精霊王の知識を引き継いでいるポイニクスは俺がそう遠くないうちにここからいなくなると察しているのかもしれない。俺も出来る限りポイニクスの相手をしている。


アキラ「何をするんだ?」


ポイニクス「え~っと………。これ~!」


 ポイニクスは積み木を持ってきた。精霊用サイズなので俺には小さすぎる。だが遊び相手を引き受けた以上は一緒に遊ぶ。積み木を握りつぶしてしまわないように細心の注意を払いながら一緒に遊ぶ。その後も色々な遊びに付き合ってやった。



  =======



 さらに数日が経過している。そろそろ俺は旅に出たい。だが一つ不安がある。それはもちろんポイニクスのことだ。今は五龍将が付いているので暴走しても即座に抑え込める。五龍将のうちの誰か一人でも残ってポイニクスの面倒を見てくれれば全ては解決する。だが五龍将は誰一人俺から離れない。もし誰も抑えずポイニクスが暴走すれば気づいた時にはその力は俺達の所まで到達し俺のパーティーメンバーが危険にさらされるだろう。パーティーメンバー以外?そんなもんは知らんよ。死んだとしても俺の知ったことじゃない。自分達の身は自分達で守ればいい。守れない者が死ぬのは当たり前だ。逃げ足の遅いトムソンガゼルがライオンに食われるのは自然の摂理だ。話がそれているので戻す。もちろんポイニクスの暴走に気付いてから守っても間に合う可能性はある。だが少しでも危険を減らしておきたい。俺は執務室の扉の横に控えている者に目を向けた。


アキラ「ムルキベル。お前は俺のために死ねるか?」


ムルキベル「はっ!アキラ様がお望みとあらばこの命も体も全て捧げます。」


 ムルキベルはその場で跪き頭を垂れて迷わず答えた。


アキラ「ならば証明してみせろ。」


 俺は椅子から立ち上がりムルキベルへと近づいていく。


ミコ「ちょっとアキラ君?どうしたの?何をするつもりなの?」


 俺達のやり取りを見ていたミコは何か察したのか慌てて俺の前に周り込む。


アキラ「ミコ…。悪いがちょっと下がってくれ。これは大事なことだ。」


ミコ「ムルキベルさんをどうするつもりなの?」


 ミコは怖い顔で俺を睨み付けている。


アキラ「これは俺とムルキベルの問題だ。」


ミコ「ムルキベルさんが何かアキラ君の気に障るようなことをしたの?ムルキベルさんはいつもアキラ君のことを思ってくれてるんだよ?」


アキラ「ムルキベルの忠誠は疑っていない。だからこそこれからすることが必要なんだ。…ムルキベル。お前は俺の手によって死ぬかもしれない。それでも俺に忠誠を尽くせるか?」


ムルキベル「この身はアキラ様によって造り出していただいたもの…。それをどうなさろうともアキラ様の自由でございます。この命をお返しすることになろうとも私の忠誠は永遠に変わりません。」


ミコ「アキラ君!」


 俺はミコの横を通り抜け跪くムルキベルの前に立った。俺は右手をムルキベルに向けた。それでもムルキベルは微動だにせず頭を垂れたままだった。


アキラ「お前の忠誠心を見せてもらうぞ。」


ムルキベル「はっ!」


 俺は右手に込めた神力をムルキベルに撃ち出した………。


 ………

 ……

 …


 俺の神力を受けたムルキベルの全身に皹が入る。ビキビキと音をたててムルキベルの全身に亀裂が広がっていく。


ミコ「アキラ君!どうして?!」


アキラ「………。」


 キィィィーン


 と高い音をたててムルキベルの鎧は砕け散った。


ミコ「………え?」


アキラ「お前の忠誠心、確かに見せてもらった。」


ムルキベル「はっ!アキラ様にお仕え出来ることこそが我が喜びでございます。」


ミコ「え?え?どうなってるの?これが本当のムルキベルさんなの?」


 砕け散った鎧の下からはまるで人間のような精巧な人形が姿を現した。ただ人間と違うところは胸も息子さんもなく性別がないことだ。まるでマネキンのように歪に感じるほどに整った体をしている。その顔は俺に少し似ている。長い黒髪に切れ長の目で俺が男になって成長すればこんな顔になるのではないかと思えるような顔だ。


アキラ「これを被っていろ。」


 俺はボックスから仮面を取り出す。鼻から上を覆い隠すようなどこかで見たことがあるような仮面だ。これは加工してからボックスに入れたのでまだヒヒイロカネまでは変化していないがそれでも普通の金属とは比べ物にならないだろう。その仮面をムルキベルの顔に被せてやった。


ミコ「ねぇアキラ君?どういうことなの?」


アキラ「ふぅ…。最初から鎧の中にこの体が入っていたわけじゃない。もし少しでもムルキベルの忠誠が揺らいでいればさっきムルキベルは粉々に砕け散っていた。ムルキベルの忠誠心が揺らがず俺と魂の繋がりが出来たから俺の放った神力を受け入れてムルキベルは進化したんだ。」


ミコ「ちょっ!それじゃ危ない賭けだったんじゃないの?」


アキラ「ミコはムルキベルを侮辱する気か?こいつの忠誠心は揺るがない。俺もムルキベルもそう思っていた。だから実行したんだ。そしてちゃんと俺と魂が繋がり俺の神力を受け入れた。もしミコに俺への気持ちが揺らいだら死ぬかもしれない方法を試そうと言ったら気持ちが揺らぐのか?」


ミコ「そんなわけないよ!例え失敗して命を落としたって私のアキラ君への気持ちは変わらないよ!…あっ!そっか…。二人もそうだったんだね。」


アキラ「そういうことだ。」


ミコ「ふぅ~ん…。でもそれはそれで何だか焼けちゃうね。二人とも信頼し合ってるんだ…。」


アキラ「俺とミコだって魂が繋がっている。ムルキベルだけが特別なわけじゃない。それにバフォーメやムルキベルは忠誠心で繋がっている。ミコとは愛情で繋がっているんだ。」


ミコ「アキラ君…。」


 二人で見詰め合う。ミコは顔を赤くして瞳をうるうるさせている。もしここに他に誰もいなかったら俺はミコを抱き締めていただろう。


狐神「それはそうと何だかアキラに似てるね。アキラが男で大人に成長したらこんな感じになってそうだよ。」


 今まで黙って見ていた師匠がムルキベルに近づき観察している。ムルキベルは俺のようにはっきりした女性というよりは中性的な感じだ。背も俺より高く美男子もしくは美丈夫と言えばそう見える。


アキラ「それは…。とにかくムルキベルは何か着ろ。俺が裸でいるみたいだ。」


フラン「アキラさんが自分を模した姿にしたんですか?」


 フランまでムルキベルをしげしげと見ている。


アキラ「いや…違うんだが…。」


狐神「なんだい?随分歯切れが悪いね。」


アキラ「………ムルキベル自身が望む姿になったんです…。」


ミコ「あぁ…。そっか。そういうことだね。ムルキベルさんがそこまでアキラ君のことを思っているからそれが気恥ずかしかったんだね。ふふふっ。アキラ君かわいい。」


 ミコに抱き締められる。俺とミコが抱き合っている間にムルキベルは立ち上がり鎧を身に纏う。その姿は今までのようにがらんどうの動く鎧ではない。鎧を着た人間そのもののような姿だ。俺はミコから離れて鎧を着たムルキベルの前に立つ。


アキラ「よくぞ乗り越えて進化した。お前はこれから火炎クリムゾン機人アリストクラットムルキベルだ。これからもポイニクスに仕え暴走を抑えろ。」


ムルキベル「ははっ!」


 今のムルキベルは真のバフォーメを上回っている。五龍将の次に強いほどの力を得た。これでポイニクスを抑えることが出来るだろう。


フラン「私もアキラさんの神力を受けたら強くなれるのでしょうか?」


アキラ「魂が繋がってから徐々に俺の神力が流れ込んで強くなっているだろう?」


 ザラマンデルンに戻ってきてからの修行でミコもフランもさらに強くなっている。


フラン「それはそうですが…。ムルキベルさんに追いつけるかと思ったのにまた大きく離されてしまいました。」


アキラ「確かにまた大きく離されることになったがこの方法はムルキベルだから出来たことだ。ムルキベルは元々俺が造ったゴーレムで今魂の繋がりを持った。だから俺の神力を受け入れられたんだ。それでもこれは何度も出来ることじゃない。ミコやフランが徐々に俺の力を受け入れているのをムルキベルには一気に限界まで流し込んだだけだ。ゴーレムだからこそ出来た無茶だがこれ以上繰り返せばムルキベルの器がもたない。」


フラン「むぅ…。それでもなんだかずるいです。」


 フランが頬を膨らませてむくれている。くそ…、かわいいじゃないか…。抱き締めてしまいたくなる。


ミコ「私達は私達のペースで進めばいいよ。ね?アキラ君。」


アキラ「そうだな。ミコの言う通りだ。」


 こうして俺の懸案は片付いた。イフリルとも相談し三日後に旅立つことにした。



  =======



 明日はザラマンデルンから旅立つ日だ。今夜は早めに休むことにする。俺は心の通じ合った美女美少女に囲まれて幸せな眠りにつく。どこを見ても美しいものしか目に入らない。どこを動かしても柔らかい感触が返ってくる。クラクラする匂いがする。そしてこの硬い額角と触角………。額角と触角?


アキラ「………またか。………またなのか。」


ハゼリ「主様ぁ。ハゼリは…ハゼリはもう…。」


 ………。


 ガシッ


 ガチャ


 ポイッ


 俺は無言でハゼリを掴み扉を開けて外へ放り投げた。


ハゼリ「あぁ…主様。これが放置プレイというものなのですね。」


 ………。ハゼリはめげないな…。ブリレより手強いかもしれない…。



  =======



 翌朝ハゼリは他の五龍将に怒られて………などいなかった。素直に非を認めるような性格ではないハゼリはタイラと戦い暴れていた………。


アキラ「………お前達…、何をしている?」


 俺は威圧を込めて五龍将を睨む。


ハゼリ「タイラがハゼリより強いと勘違いしているので現実を教えておりました。」


タイラ「よくも抜け抜けと…。汝が主様の命に背いたことが原因であろう!」


 能力制限は解いていない。こいつらも流石にそこまで馬鹿じゃない。残りの三人が結界を張っているので周囲にも被害はない。じゃれあって遊びながら修行していると言えなくもないがさすがに城の中で五龍将に暴れられては大事だ。


アキラ「ハゼリ。今回はお前が悪い。それなのに反省する気もないのならお前は俺の側には置かない。どこかへ出て行くなりボックスの中へ帰るなり好きな所へ行け。」


ハゼリ「そんな!お許し下さい主様。」


 ハゼリは俺の足元にすがりつきつんつんしている。ブリレの殻でつんつんされても表面がつるつるしていて少し気持ち良いくらいだがハゼリの額角でつんつんされるとちくちくする…。


アキラ「だったらこれからは言う事を守れるか?誰だって間違いはする。俺でもお前達でもだ。だから間違えるなとは言わない。ただこれからは自分が悪かった時はきちんと非を認めて謝れるか?」


ハゼリ「はい!」


アキラ「ふむ………。もう許してやったらどうだ?タイラ。」


タイラ「はっ!御意に。」


ブリレ「あーよかった。ボク達まで怒られるかと思ったよ。」


アキラ「お前達も他人事じゃないからな。」


ブリレ「結局怒られちゃった………。」


 うまく纏まったようだ。ハゼリにはお灸が効きすぎたのかしょんぼりしている…ように見える。魚がしょんぼりしているかどうかは俺には見分けがつかないが………。


アキラ「ふぅ…。誰だって間違いも失敗もする。次からは同じ失敗を繰り返さないように気をつければいい。」


 俺は軽くハゼリを撫でてやりながらそう声を掛けた。


ハゼリ「あぁ…主様。」


ブリレ「あ~~~!!ハゼリだけずるいよ!ハゼリは悪いことしたのにどうしてハゼリだけ主様に撫でてもらえるの!」


 その後五龍将全員を撫でさせられたのは言うまでもない………。



  =======



 出立の式典とやらは滞りなく終わった。俺にとっては面倒なだけだが仮にも俺は火の精霊王であり火の精霊種が必要だと思う式典ならばやらないわけにはいかない。今はポイニクスやイフリルなどの身内や近しい者だけのお別れの時間だ。他の見送りなどはいない。


ポイニクス「………ママ。」


 ポイニクスは涙を堪えた顔で俺を見つめている。


アキラ「情けない顔をするなポイニクス。これが永遠の別れというわけじゃない。またすぐに会える。」


ポイニクス「………うん。僕が良い子にしてたらまたすぐに帰ってきてくれる?」


アキラ「ああ。そうだな。ポイニクスが火の精霊王として相応しいようにしていればすぐに帰ってくる。」


ポイニクス「絶対に絶対だよ?」


アキラ「ああ。絶対だ。その代わりポイニクスはきちんとイフリルとムルキベルの言う事を聞いて良い子にしてるんだぞ?」


ポイニクス「うん!僕ちゃんと良い子にしてるよ!」


 ポイニクスが無理をしているのがわかる。声は出来る限り元気なように振り絞っているがその目に溜まった涙は今にも溢れてしまいそうだ。なまじ前火の精霊王の知識を引き継いでいるために子供なのに子供らしくすることも出来ず、かと言って大人でもない。聞き分けの良い子になるしかないのだ。…くそっ。ポイニクスを見ていたら俺まで目の前が滲んできた…。ティアとウンディーネもこうだったんだろう…。


アキラ「火の精霊王になる者がそんな情けない顔をするな。…またすぐに会えるから………。」


 俺はそっとポイニクスを撫でた。


ポイニクス「ママ…。」


 これ以上は本当に俺も泣いてしまいそうだ。地球に居た頃の俺からは考えられない。むしろ一人暮らしをするために家を出た時は清々した気持ちだった。痛くても辛くても涙なんて流したことはなかった。これ以上は耐えられそうにない俺は後ろを振り返り歩き出した。


ポイニクス「あっ!………ママ。ママ~~~っ!」


アキラ「………。」


 俺は振り返れない。今振り返ったら俺はもうポイニクスを置いて旅立つことは出来ないだろう。


アキラ「ポイニクス…。強くなれ。」


狐神・ミコ・フラン「「「………。」」」


 俺達はザラマンデルンを後にした。



 火炎機人の読み(ルビ)を募集します。詳細は後ほど活動報告にて書きます。


 募集は締め切りました。


 こーてんさんに出していただきましたクリムゾンアリストクラットに決定いたしました。

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