第三十九話「精霊王会談本番」
精霊王会談までの間に精霊の園の各国をまわってみた。とはいえアクアシャトーはティアが断固として行くことに反対し行っていない。ゲーノモスもザラマンデルンと同様に物質世界の国とほとんど変わらなかった。ただ精霊の園にあるゲーノモスも俺の豊穣の術の影響を受けていた。もちろん俺は精霊の園に入ったのは今回が初めてだ。前の俺が実際に豊穣の術を掛けたわけではない。そのことから物質世界の国とこの精霊の園にある国はお互いに何らかの影響を与え合っていると考えられる。
ミコ「アキラ君、シルヴェストルちゃんがいなくて残念だったね。」
今俺達は精霊の園にあるシルフィードからの帰りだ。
アキラ「だから何でシルヴェストルが出てくる?」
ミコ「だって………。」
狐神「六人目だからねぇ…。」
アキラ「師匠まで…。」
物質世界のシルフィードは俺が元素を抑えたとはいえまだ色々と問題が残っているためかエアリエルやシルフィすらいなかった。だが俺達が風の精霊を開放し狂った元素を抑えたことは風の精霊達には知れ渡っており大歓迎を受けた。もちろんゲーノモスでも会ったこともない土の精霊のじいさん達に囲まれ大歓迎を受けたのは言うまでもない。
イフリル「お帰りなさいませ女王陛下。」
ザラマンデルンへと帰るとイフリルに迎えられた。そこで俺はイフリルを眺めてみる。
イフリル「いかがなされましたか?」
アキラ「いや…。」
狐神「アキラ…。まさか七人目かい?」
アキラ「………師匠。いくらなんでもそれはないでしょう…。」
見た目が完全にじいさんのイフリルと俺がキャッキャウフフな場面を想像してしまった…。もちろん俺はそんな感情を持っていない。ただ少し疑問に思ったことがあったのだ。
宰相は実力で選ばれる。当然火の国の宰相であるイフリルはそれに相応しい実力を持っている。そこで疑問が湧いてきたのだ。ティアもグノムもシルフィも皆宰相は次期精霊王候補だ。イフリルとグノムはほぼ互角、ティアは二人に僅かに劣る。シルフィはこの中では一番未熟だろう。それなのになぜイフリルは精霊王候補ではないのだろうか。
アキラ「宰相なのになぜイフリルは精霊王候補じゃないんだ?」
イフリル「それは………。わかりました。それではこちらへ…。」
イフリルは俺達を先導して俺の執務室へと向かった。
イフリル「どうぞ。」
アキラ「ありがとう。」
執務室に着くとイフリルがお茶を淹れてくれた。俺はそれを受け取ってからイフリルが語りだすのを待つ。
イフリル「わしは精霊族の異端者なのです。」
アキラ「異端者?」
イフリル「はい…。わしは…、三度前の生において精霊族以外のあるお方に仕えていたのです。」
三度前…。千数百年の寿命をもつイフリルの三度前ともなれば相当昔なのだろう。
イフリル「王が他種族に仕えていたとなれば火の精霊種全てがそのお方に仕えていることになってしまいます。ですのでわしは精霊王としての資格はないのです。」
言っていることはわかる。主君が誰かに仕えていれば主君の主君からみればその家臣は陪臣ということになる。
アキラ「だがそれは前のことだろう?すでに仕えていないのなら関係ないんじゃないのか?」
イフリル「確かにそのお方はすでにお亡くなりになっておられます。ですがわしには精霊王の資格はないのです。」
アキラ「ふむ………。」
ここで俺がイフリルには精霊王の資格があると決めてしまうことは簡単だ。だがそれで火の精霊種が納得しないのだとすれば俺が強制しても良い結果にはならないだろう。
イフリル「わしがなぜ、誰に仕えていたのかお聞きにならないのですか?」
アキラ「イフリルが話したければ聞いてやる。だが話したくないのなら話す必要はない。」
イフリル「………。いずれその時が訪れましたらお聞きください。」
その後イフリルは退室していった。これでイフリルに精霊王を押し付け…じゃなかった。譲ることは不可能だとわかった。単純な能力のみだけでは精霊王の資格があるとは言えないのだろう。俺は精霊族ではないので彼らの考え方や習慣はわからない。ただ彼らがそれを禁忌だと思うのならばそれを尊重するしかない。
折角なのでここで少し精霊族の情報を整理しておく。前述の通り精霊族は生命の源から切り離され生まれた時点でその者の全てが決まってしまうと言っても過言ではない。だがだからと言ってまったく成長も変化もしないのかといえばそうではない。
精霊族の成長は主に三つある。一つ目は熟練や知識の蓄積だ。これは精霊族に限ったことではないが同じ力でも練度の違いという物がある。また生まれ変わり記憶や知識を引き継げるのでこれらも深まっていく。
二つ目は他者から力を継承することだ。精霊王もこれにあたる。だが別に精霊王に限らず誰かが別の誰かに力を渡し継承することが出来る。例えばではあるがイフリルがポイニクスに力を継承すればポイニクスにイフリルの力が上乗せされるわけだ。しかしこれには大きな問題もある。全ての力を継承してしまえば自分自身が次に生まれてくるだけの力さえ失われてしまう。自分が失われてでも全ての力を継承するつもりならば良いが自分もまた生まれてくるつもりならば少しの力ずつしか継承できない。ここからは俺の推測ではあるが精霊王の継承とはつまり歴代の精霊王が力を少しずつ次へと上乗せして託し力を蓄えているのではないかと思っている。そしてその理由は神格だ。一人でいきなり神格を得るほどの存在になるのは難しい。だから精霊族の神を生み出すために何代にも渡って少しずつ力を蓄えいずれ精霊の神へと至るのではないかというのが俺の考えだ。
そして三つ目。これは風の精霊の件ではっきりしている。精霊は元素からエネルギーを集めて成長する。ただしいきなり身の丈に合わないだけのエネルギーを取り入れ過ぎると暴走して狂ってしまう。だから少しずつ少しずつ取り入れ成長する。だがほとんどの精霊達は寿命がそれほど長くない。この方法のみでは並の精霊ならば一生のうちでほとんど成長しないと言っても過言ではないだろう。それでも何度も生死を繰り返すことで徐々に成長しやがて記憶を引き継ぎ同じ存在として生まれ変われるほどに成長する。そうなれば寿命も次第に延び長い時をかけならがさらに成長を続けやがて精霊王の資格を得るほどになるのではないだろうか。
フラン「アキラさん。そろそろ夕食の時間ですが…。」
フランに声を掛けられ俺は思考を中断する。
アキラ「わかった。それじゃ行こう。」
夕食を終えて今日は早めに休むことにする。明日は精霊王会談の日だ。心の通じ合った美女美少女に囲まれて幸せな眠りにつく。どこを向いても目の保養になる。どこを動かしても柔らかい感触が返ってきて気持ちいい。良い匂いがする。そしてこのヌメッとした感触………。ヌメッと…?
アキラ「…っておい!………おい。」
ブリレ「主様は積極的だね。ボク、コーフンしちゃうよ。」
………。
ガシッ
ガチャ
ポイッ
俺は無言でブリレを掴むと扉を開けて外へと放り投げた。
ブリレ「主様~~!開けてよ~~~!!」
気配でブリレがいたことはちゃんと把握していたはずだ。それなのにあまりの幸福感に思考が緩んでいたようだ。扉の外ではまだ何か音が聞こえる気がするが俺は聞かなかったことにしてベッドへと戻るのだった。
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翌朝ブリレは抜け駆けしたことで他の五龍将にみっちりと絞られていた。自業自得なので俺は助けてやらない。俺の純情を弄びやがって…。
アキラ「イフリル。精霊王会談には誰を連れていけばいいんだ?」
朝食の席で今日の精霊王会談についてイフリルに確認を取っておく。
イフリル「精霊の園までは皆様で行かれても問題ありませんぞ。ただし付き添いは控え室までです。会談は女王陛下とポイニクス様のみでご出席ください。」
この空間全体を精霊の園と呼ぶこともあるがこの中でも火の国はザラマンデルンと呼ぶように中枢部分は精霊の園という呼び名で通っている。この世界で俺がまだ行っていないのは水の国エリアとこの中枢の精霊の園の本体エリアだ。だがティアが反対している上に俺もあの水のヒステリックババァに会う理由はないので水の国エリアに行くことはないだろう。俺達五人のパーティーメンバーにポイニクスとムルキベル。それから五龍将とイフリルにティアの大所帯で精霊の園へと向かった。
精霊の園の中枢はどこか神山を思い出させた例の山に似ている。違うところは山の麓に都市があることだろう。例の山には山頂の祠以外には何もなかった。大きな建物に案内されて控え室へと入る。そこにはすでにノームとグノム、エアリエルとシルフィが先に到着していた。土と風は他に従者などはいないようだ。大所帯なのは俺達だけだった。精霊族の中枢とも言える場所なので特に護衛等も必要ないのだろう。俺達は四人に大歓迎された。土の精霊とは元々仲が良かったのだろうが風の精霊との関係もかなり良くなっている。水の精霊王はいないようだ。
ノーム「それでは参ろうか。」
シルフィなどはいつまでも俺に感謝を述べていたがキリがないので丁度良いところでノームが会談場への移動を持ちかけた。会談の場は山の上らしい。向かうのは俺とポイニクスにノームとエアリエルの四人だ。二人は飛べるがノームは飛べない。俺も飛ぼうと思えば飛べるが妖術になってしまうのでノームと一緒に歩いて登ることにした。…別に妖怪であることを隠しているわけではないが、今の俺は火の精霊王として精霊の園にいるのだ。妖怪族として妖術を使うのは何か違う気がした。
山頂の祠があった辺りに椅子とテーブルが置いてある。建物はおろか壁もない。高い山の頂上にぽつんと椅子とテーブルだけがあるのは何かシュールな感じがした。
ノーム「どっこいせ…。」
ノームが何か年寄り臭い声を出しながら椅子に座る。まぁ実際に年寄りのように見えるのだが…。そしてその左隣にエアリエルが座る。座るとは言ってもこの椅子とテーブルは人間用並のサイズだ。実際には席の上の方でホバリングのように浮かんでいる。これだけで俺の席はわかった。ノームが座ったのは物質世界の山頂から見て南だ。左隣の西にエアリエルが座ったということは北が俺で東がウンディーネだろう。物質世界の東西南北に位置する国の順だ。
アキラ「それで精霊王会談って何をするんだ?」
ノーム「アキラ殿、まだ水が来とらぬだろう。」
アキラ「別に水を待たずに始めようと言ってるわけじゃない。俺は初めてなんでな。どういうことをするのか聞いておきたい。」
エアリエル「私も初めてです。」
風の精霊王は実質的にはいないも同然の状態が長く続いていた。エアリエルも継承と同時にあの狂った元素の中にいたのだ。当然元素を鎮める以外で風の精霊王として何かしたことなどないだろう。狂った元素の中に入った精霊は殺される以外では生命の源へと還ることはない。次々に精霊王になれる格の者が中に囚われたままなのに精霊王を継ぐ者が居た理由…。それは風の精霊が強く宰相クラスの者がどんどん生まれるからでは決してない。風の精霊は他の精霊達に比べて数がずっと少なかった…。俺の推測でしかないが恐らく精霊王候補がいなくなった後は精霊王候補を作り出すために多くの犠牲を払って力の継承を繰り返し無理やり力をつけさせた者を精霊王候補にしてあの中へと送り込んでいたのだろう。
ノーム「さてのぅ…。今回精霊王会談を持ちかけたのは水だ。わしにはわからぬ。ただ議題に沿って精霊王同士の意思の統一を図るのが精霊王会談だ。」
その時俺の周りに精霊力が働いた。誰が、なぜ、何をするつもりなのか考えるまでもない。抵抗することは簡単だが俺はあえてその精霊魔法の発動を見届ける。無事発動した精霊魔法により俺の周囲を埋め尽くす水の槍が出現し俺に襲い掛かってくる。だが全ての槍は俺に届くことなく火の精霊力によって蒸発して水蒸気になった。
ノーム「ふむ…。水の…。どういうつもりか?」
俺達が登ってきたのと同じ方角からウンディーネがやってきていた。その後ろにはもう一人の姿もある。俺に攻撃してきたのは当然ながらウンディーネだ。
ウンディーネ「どういうつもり?それはわらわのセリフです。なぜこの獣がここにいるのですか!?」
エアリエル「獣?火の精霊王様のことですか?」
ウンディーネ「何が火の精霊王ですか!このような者が精霊王などわらわは認めません!」
相変わらずヒステリックなババァだ。相手をするのが嫌になってくる。
ウンディーネ「この者はわらわの娘を攫っていったのです!水の精霊神様。ここでこの者を討ってくださいませ。」
水の精霊神「何?こんな奴にしてやられちゃったの?情けないねぇ。しょうがない。手を貸したげる。えいっ!」
ウンディーネの後ろから付いてきていた者は水の精霊神だったようだ。その姿はウンディーネやティアに少し似ている。大きさもウンディーネのように人間並だ。ウンディーネとは桁違いの水の精霊魔法を使ってきた。ウンディーネの精霊魔法程度ならば蒸発させてもそれほど大したことはない。だがこの水の精霊神の精霊魔法を火の精霊魔法で蒸発させたら水蒸気爆発が起こるかもしれない。それでも俺には何の問題もないがエアリエルとノームもいる以上周囲に被害を出さない方が良いだろう。俺は抵抗して打ち消してやることにした。
水の精霊神「あれ?なんで?もう一回。えいっ!」
だがやはり発動しない。それは当然だ。俺が抵抗しているのだから…。
水の精霊神「えいっ!えいっ!えいっ!……はぁ…はぁ…。えいっ!あーんもー…。何で精霊魔法が出ないのよ~~~。」
アキラ「………お前はアホか?俺に抵抗されてることすら理解できないのか?」
エアリエル「………火の精霊王様。さすがに神様にアホはちょっと…。」
ノーム「じゃがわしらでもわかることがわからぬようではな…。」
ノームとエアリエルも俺が抵抗していることを当然ながら理解している。水の精霊神だけがわからずに無駄に何度も精霊魔法を使おうとして神力を消耗している。当然だがレジストされて発動しなくとも発動させようとして使った神力は消耗されているのだ。そしてもちろんレジストしている俺も神力を消耗している。
水の精霊神「はぁ…はぁ…。もーだめ。」
とうとう神力を使い果たした水の精霊神はへたり込んでしまった。
ウンディーネ「水の精霊神様!」
水の精霊神「はぁ…はぁ…たかが精霊王程度が精霊神の私の精霊魔法を、それも相克の下の火が水をレジスト出来るはずないでしょ!」
どうやら理解できていなかったのではなかったようだ。俺は少し水の精霊神を見縊っていた。こいつはアホなのかもしれないのではない。本物のアホだ。今現実に目の前に事実を突きつけられてもそれを認めたくないから認めていなかったのだ。俺がレジストしていることを理解していながら認めたくない。ただそれだけだった。まさに本物のアホとしか言いようがない。レジストされていることがわかっているなら無駄に連発しないでその神力を別の方法で使うことを考えるのが当たり前だ。
アキラ「ふぅ…。どうやらこの精霊王会談とやらは必要なかったようだな。時間の無駄だった。」
俺は席を立とうとする。
ノーム「そういうこともあるまい。折角精霊王が集まっておるのだ。最初の会談の理由は水のしか知らぬことだがこの機会を有意義に使おうではないか。」
アキラ「ふむ…。そうだな。無駄だったからと言って無駄なまま終わらせるより有効に使ったほうがいいか。」
エアリエル「そうですね。そうしましょう。」
水の精霊神「ちょっと!私達を無視するつもり!」
水の精霊神もウンディーネとよく似ているようだ…。とことんうざい。
アキラ「はぁ…。フレイムプリズン。そこで大人しくしてろ。」
俺は火の精霊魔法を発動させる。基本的には精霊魔法に種類はない。ようは使い方だ。スピリチュアルフレイムを格子状に発動させて水の精霊神とウンディーネをその中に捕えたのだ。
水の精霊神「ちょっと!あれだけ私の精霊魔法をレジストしたのにまだこれだけの精霊力があるっていうの!?私ですら出られない火の精霊魔法なんて…あり得ない!」
アキラ「今目の前であり得てるだろうが…。」
水の精霊神「あり得ない!あり得ない!あ~り~得~な~い~~~!!!」
レジストしていたことはあっさり認めたようだが今度は俺の火の檻に捕えられていることを認めたくないらしい。
火の精霊神「いい様だな。」
火の精霊神が空間移動してきた。この世界の中では創造主である神達はどこにでも空間移動出来る。…あれ?水の精霊神も空間移動して出たらよくね?と思うだろう。だが俺はそこまで甘くない。当然空間移動も出来ないように遮断してある。フレイムプリズンから出ようと思ったら俺の火の精霊魔法を上回って破るしかない。もちろん上回る方法は何でもいい。神力で上回って遮断されている空間を越えても良いし水で檻の炎自体を消して出ても良い。だが水の精霊神程度ではウンディーネと協力したとしても破れはしない。
水の精霊神「何よ!弱虫の火の精霊神が一体何の用よ!」
火の精霊神「別に…。ただとんでもない神力が発動したから様子を見に来ただけだ。」
水の精霊神「ふっふ~ん!そうでしょう?そうでしょう?ようやく私の力のすごさがわかったみたいね。」
火の精霊神「………捕えられてるのにか?」
水の精霊神「それは……あり得ない!あり得ないの!」
火の精霊神「………もういいよそれで。」
火の精霊神もいい加減水の精霊神の相手は疲れてきたようだ。水の精霊神の相手はやめて俺の方へと向き直った。
火の精霊神「やっぱりお前の仕業だったか。この世界で何をするつもりだ?」
どうやら火の精霊神は俺を警戒していたようだ。とんだ勘違いなわけだが…。
アキラ「お前は俺がこの世界を破壊しようとしてるとでも思っているのか?俺はただ精霊王会談に呼ばれたから出席しただけだぞ。」
火の精霊神「ふんっ…。それを素直に信じろと?」
アキラ「この世界を破壊することも征服することもやろうと思えばもうとっくに出来ている。それをしていないのはする気がないからだ。それが何よりの証明だと思うがな?」
火の精霊神「………。俺もこの会談を見届けさせてもらうぞ。」
アキラ「勝手にしろよ。…って俺が勝手に決めるわけにはいかないな。他の者にも聞け。」
エアリエル「私は構いません。」
ノーム「そうじゃな…。精霊神様がそう言われるのならばわしらに反対はない。」
アキラ「決まりだな。」
ウンディーネ「待ちなさい!わらわは認めません!汚らわしい火の精霊など向こうへ行きなさい!」
アキラ「それで何の話をするかな?今後の戦争についてか?」
ノーム「そうじゃのぅ…。」
エアリエル「あの…。火の精霊王様も土の精霊王様も…。さすがに無視するのは不憫ではないかと…。」
俺とノームは顔を見合わせてから檻に囚われたウンディーネを見る。
ウンディーネ「娘を…せめて娘を返して…。わらわはどうなってもよいのです。ですから娘だけは…。」
ウンディーネは泣いていた。こういうタイプの奴は嘘泣きの可能性もあるが俺にとってはどちらでもいい。
アキラ「少し待ってろ。」
俺は席を立ち麓の控え室まで行く。扉を開けてティアを捕まえるとすぐに山頂へと舞い戻る。
ティア「ちょちょちょ!アキラ様!わたくしを連れ去ってどうしようというのですか?!二人で駆け落ちなのですか!キャー!!!」
ティアは一人で何か盛り上がっているようだ。
アキラ「ほれ。」
俺はティアを火の檻の前に放り投げる。
ティア「えっ?………お母様?」
ウンディーネ「ティア!」
ティア「ひっ!ごめんなさいお母様。」
ティアは普段からよほどウンディーネに怒られているのだろう。声をかけられただけで謝っていた。
ウンディーネ「ティア…無事だったのですね。」
ティア「え?あの…?」
ウンディーネ「その獣に酷いことはされませんでしたか?どこか痛いところは?」
ティア「あの………何もされていませんが…?」
ウンディーネ「ああ…よかった。」
ティア「一体どういうことでしょうか?」
ティアが俺を振り返り見上げてくる。
アキラ「そいつの中では俺がティアを攫ったことになっているらしい。お前ちゃんと言ってから出てきたんだろうな?」
ティア「え?ちゃんとお伝えしたはずですが……。」
ウンディーネ「この野蛮な獣が来た次の日に出かけると言ったきり帰ってこないのです。この獣に攫われたと思うのは当然でしょう?」
ティア「あの…、わたくしはアキラ様に付いて行くとお伝えしたはずですが…。」
どうやら二人の間で何か齟齬があったようだ。
水の精霊神「え~!勘違いだったの?自分じゃ倒せないから私に協力して欲しいって言っておきながらそいつ悪者じゃなかったわけ?じゃあ何で私今捕えられてるの?」
ウンディーネの勘違いと巻き込まれた水の精霊神か。もう害はなさそうなのでフレイムプリズンを解除してやる。
アキラ「さて…。精霊王会談を始めるか。」
俺は何事もなかったかのように会談を始めた。
エアリエル「それで良いのですか………?」
エアリエルの声が空しく響いた。
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アキラ「それで精霊王会談を開いた理由は?」
ウンディーネ「弱い火の精霊種がソドムの街で破れたと聞いています。その対応を…。」
アキラ「あ~………。それやったの俺だ…。」
ウンディーネ「はい?」
アキラ「ソドムが襲撃された時に丁度俺達がそこにいたから襲撃者を全滅させたのは俺達だ。」
ウンディーネ「なぜ火の精霊王が火の精霊の攻撃を邪魔するのですか!そもそも魔人族の街にいたとはどういうことですか?!」
やはりヒステリックは直らないようだ。俺は掻い摘んでこれまでの経緯を説明した。
アキラ「…というわけで俺は北大陸側からやってきたし火の精霊王だということは忘れていたんだ。」
ウンディーネ「やはりこの獣は信用できません!」
アキラ「だったらどうする?また俺の檻の中にでも入るか?」
ウンディーネ「くっ!」
ノーム「アキラ殿が魔人族の帝国を屈服させてきたのならこの戦争を終わらせられるのではないか?」
やはりそういう話になるか…。
アキラ「別に屈服させたわけじゃない。それに魔人族が西大陸に侵攻した理由がわからない。その理由次第では俺が大ヴァーラント魔帝国に戦争をやめるように言ってもやめないかもな。」
エアリエル「その場合は火の精霊王様は精霊族として私達の味方をしてくださるのですよね?」
ノーム「そうじゃな。アキラ殿がいれば例え魔人族が退かずとも恐るるに足らぬ。」
アキラ「それは理由を聞いてみなければわからない。」
エアリエル「そんなっ!」
ウンディーネ「やはり信用できないではありませんか!このような者に頼っていてはいけません!」
ノーム「ふむ…。やはりアキラ殿に魔人族の帝国へと赴いてもらうしかないな。」
そういう結論になるよな…。わかっていたさ…。
アキラ「どちらにしろ俺は記憶を取り戻す旅の途中だ。旅を続ける以上はまた大ヴァーラント魔帝国に行くことになる。その時に聞いてくる。」
エアリエル「…その結果火の精霊王様が魔人族側に立たれてしまったら精霊族に生き残る術はありませんね…。」
エアリエルは諦めの表情をしている。
アキラ「その心配はない。このポイニクスは俺の子であり次期火の精霊王だ。俺がポイニクスを見捨てることはない。そして火の国が無事である以上は魔人族にこれ以上侵攻されることもない。」
エアリエル「火の精霊王様…。」
エアリエルはキラキラとした瞳で俺を見つめている。
アキラ「ともかく今後の方針は決まった。各精霊種は相克の垣根を越えて協力し合うこと。俺は旅を続けて大ヴァーラント魔帝国に寄った際に真相を確かめてくること。それでいいな?」
ノーム「うむ。これからはよろしく頼むぞ?エアリエル殿。」
エアリエル「はい。こちらこそよろしくお願い致しますね。土の精霊王様。」
ウンディーネ「ふんっ!」
水だけはうまく行かないようだな…。
ティア「お母様。わたくしはアキラ様のもとへと嫁ぎます。」
ウンディーネ「ティア何を言っているのですか!」
ティア「そうすれば火と水の精霊種がお互いに手を取り合う象徴となります。」
ウンディーネ「………。本気なのですね?」
ティア「はい!」
二人は真剣な表情で見つめあう。…っておい。俺の意思は無視か?
アキラ「俺は承諾してな…。」
ティア「わたくしとアキラ様はすでに愛し合っております。もう誰にも止めることなどできません。」
ウンディーネ「それで駆け落ちなどしたのですか…。」
おい…。俺の話を聞けよ。いつから俺とティアが愛し合っているんだ?初めて聞いたぞ…。そもそもティアが付いて来たのは駆け落ちじゃないだろう…。
ウンディーネ「娘を…よろしくお願いします…。」
ウンディーネとティアだけでなく周囲の者達まですでに受け入れてそういうことになってしまっている。ティアの奴め。完全に精霊王会談を利用して既成事実化しやがった…。もう俺も何度もこのパターンを経験しているのでわかっている。この後俺がどうしようともう覆ることはないのだ。
アキラ「ちっ…。もう知らん。俺は旅を続ける。言っておくが俺は他に嫁がいっぱいいるからな。」
ティア「ふふふっ。」
ティアだけが一人勝ちの精霊王会談はこうして幕を閉じた。




