第三十六話「古き友」
風の精霊を助けてやることにした俺はまず俺達の外側にもう一つ元素結界を張った。俺の結界に張り付いていた精霊達は元々俺達を包んでいた結界と新たに張った外側の結界の間に捕らわれた格好だ。外側の結界の範囲はかなり広めにしておいたのでこの辺りにいる狂った精霊達はほぼ全てこの間に捕えたと思っていいだろう。
シルフィ「何をするつもりですかっ!」
外側の異変に気づいたシルフィが俺に詰め寄ってくる。だがこういう相手はいちいち気にしていたら話しが進まない。どうせ口で言っても理解出来ないのだから無視して続けることにする。
シルフィ「やめてっ!お願いします。皆を殺さないでっ!」
ティア「シルフィ…。アキラ様にお任せしておけばきっと大丈夫です。」
シルフィ「オーレイテュイアはどうしてこんな野蛮な獣をそんなに信じられるんですか?きっとさっきまでの仕返しに皆を皆殺しにするつもりなんでしょう?」
ティア「大丈夫…。大丈夫だから落ち着いて?」
ティアはシルフィを抱き締めて落ち着かせようとしている。シルフィも少しは落ち着いたのか暴れることはなくなりじっと成り行きを見守ることにしたようだ。
シルフィ「皆に何かあれば貴女を許しません。例え私の力では貴女に及ばないとしても一矢報います。」
シルフィは決意を秘めた目で俺を見据えている。俺は目だけでそれに答えて術を続ける。とはいえ術というほど大袈裟なものではない。内側の結界と外側の結界の間にある狂った元素のエネルギーを俺が吸い取るだけだ。この際気をつけなければならないのは精霊達のエネルギーまで全て吸い取ってしまわないことだろう。だが一切吸い取らないというわけにもいかない。過剰に取り込んでしまったエネルギーで狂ってしまっている以上はその取り込み過ぎたエネルギーだけを俺が吸い取らなければならない。精霊の一体一体に見合っただけのエネルギーに合わせて吸い取る量を決定していく。
全ての対象の吸い取る量を決めた俺は術を発動させる。淡く輝く黄色い精霊力が周囲を満たしている。
ティア「ああ…これです。お美しい…。」
ミコ「アキラ君…本当に綺麗。」
シルフィ「なんて精霊力…。それなのにまるで優しく包みこまれるかのように温かい…。」
フラン「…ぐすっ。」
フランが涙を流している。
アキラ「どうしたフラン?何を泣いている?」
フラン「わかりません…。ただ…なぜだかアキラさんを見ていると自然と涙が…。」
そうこうしている間に予定していただけの狂った元素のエネルギーを全て吸い取り終えた。術を終えた俺はフランに近づき指でそっとフランの涙を拭った。
アキラ「ふぅ…。何を泣いているのか知らないがもう泣くなよ…。」
フラン「んっ…。」
俺に涙を拭われているフランは少しくすぐったそうにしながらもされるがままになっている。
フラン「悲しくて泣いているのではありません。ただ…なぜだか自然と涙が溢れてしまったんです。」
少し目を赤くしたフランは照れくさそうに笑っていた。その姿に俺はふらふらとフランを抱き締めてしまいそうになる衝動に襲われた。あまりにかわいすぎる。だがどう考えてもおかしい。学園にいた頃だってミコも含めてかわいい女の子なんてたくさんいた。だがこんな気持ちになったことはない。こんなことが起こるようになったのはこの世界に来て、この体になってからだ。
狐神「私のことも忘れないでおくれよ。」
師匠の言葉で俺の思考は中断させられた。
アキラ「師匠のことを忘れるはずはないでしょう?」
狐神「何度もその言葉は聞いたけど…。時々忘れて誰かと二人っきりの世界に入っているだろう?」
最近は師匠のことを少し放ったらかしにしすぎていたかもしれない。拗ねたようにつーんと向こうを向いてしまった。俺は言葉ではなく行動で示すことにする。フランから離れて師匠にそっと抱きついた。柔らかい師匠の体に触れているだけで気持ちいい。師匠より背の低い俺の顔は師匠の胸の谷間へとすっぽり収まってしまう。
狐神「あっ!アキラ………。アキラっ!」
一瞬呆けていた師匠も俺に抱き締められたとわかると力いっぱい抱き締め返してきた。二人で抱き締めあう。やはり師匠はちょろインの立ち位置かもしれない。だが俺も別に師匠を軽くあしらうためにやっているわけではない。師匠を好きな気持ちは本物だ。俺にとって大切な女性だ。………やはりどう考えても違和感がある。俺が他人に対してそんな気持ちを持っていることが俺には不思議で仕方が無い。
シルフィ「………あの…。二人の世界に入っているところ悪いんですが…。私達は一体どうすれば?」
シルフィに声をかけられて師匠から離れる。外と内の結界内に閉じ込められていた精霊達は正気に戻っているはずだ。俺は内側の結界を解除して捕えていた精霊達と触れ合えるようにした。
狐神「あんっ。もうちょっと…。」
アキラ「師匠…。」
俺が離れると師匠は名残惜しそうに腕を伸ばしてくる。
エアリエル「………ここは一体。」
暫く呆けていた精霊達も正気に戻ったようだ。だがまだ事態が掴めていないようで困惑している。
シルフィ「エアリエル様っ!」
シルフィはエアリエルと呼ばれていた精霊に飛びついた。だが当のエアリエルはシルフィを抱きとめながら困惑している。
エアリエル「あなたは?私は一体…。」
シルフィ「私です!シルフィです!」
エアリエル「シルフィ?シルフィはまだ幼い子供だったはずです。」
当たり前と言えば当たり前だがどうやら狂う前までの記憶しかないようだ。どれほどの時間が経っているのかもわからないのだろう。
シルフィ「私の気配をお忘れですか?」
エアリエル「そういえば…。まさか本当にシルフィなの?でもどうしてこんな姿に…。」
シルフィ「エアリエル様は風を鎮めるためにこの地へとお入りになり…。もうエアリエル様が入られてから百年も経っているんです。」
エアリエル「百年………。はっ!シルフィここにいてはなりません。早くシルフィードへと戻るのです。」
シルフィB「あら?あなたもシルフィというの?私もシルフィなの。よろしくね。」
周囲を囲んでいた精霊の中から一人の風の精霊が二人の会話に割って入った。二人は同じ名前のようだ。シルフィードという国の名前にあやかってシルフィという名前をつけることが多いのかもしれない。
エアリエル「せっ、先代様っ!…この子は次の精霊王となるものです。例え刺し違えてでも手出しはさせません。」
エアリエルがシルフィを後ろに庇いながら先代シルフィの前に立ち塞がる。おそらく先代シルフィがエアリエルの前の風の精霊王だったのだろう。
先代シルフィ「あら…。私もあなたと同じでもう狂ってはいないわよ?」
エアリエル「そういえば…なぜ私は百年も経ってまだ正気で…。」
先代シルフィ「恐らく…そこにいる火の精霊王のおかげかしら?」
先代シルフィは俺へと向き直りながらそう問いかけてきた。だがこいつを見ても俺の記憶は思い出されない。こいつとも会ったことはなさそうだ。
アキラ「俺はお前なんて知らないがな。それとも会ったことがあるか?」
先代シルフィ「あなたとはないわ。でも火の精霊王なら知っているのよ。」
どうやら俺以外の火の精霊王とは会ったことがあるようだ。
シルフィ「そうでした!…火の精霊王様…数々のご無礼をお許し下さい。風の精霊をお救いくださりありがとうございました。」
俺の前へと飛んできたシルフィは俺に頭を下げた。
ティア「ふっふ~ん。わたくしの言った通りだったでしょう?シルフィ。」
なぜかティアが偉そうに踏ん反り返っている。
アキラ「とにかくここにはもう用はない。詳しい話は後だ。一度戻るぞ。」
俺達は一度戻ることにした。俺達の周りに集まっていた風の精達もまとめて全員で元の場所へと戻る。シルフィがこれ以上進むなと言った場所まで戻った俺はある術をかけることにする。
アキラ「飯綱構え太刀の術。」
飯綱構え太刀の術とは本来風を操りカマイタチを起こして対象を切り裂く術だ。俺はこの狂った元素と普通の元素の境目の場所でこの術を使った。もちろん物を切り裂くためではない。狂った元素がこちら側へと漏れ出してこないように空気の流れを変えてこれ以上こちらへ出てこないようにしたのだ。
エアリエル「すごいですね…。元素の動きまで変えてしまうとはあなたは一体…。」
アキラ「これでここから先へは狂った元素は出てこない。無理に立ち入ろうとしなければもう風の精霊が狂うことはない。」
シルフィ「………何から何まで…ありがとうございます。」
本当はシルフィの言うように全てを解決したわけではない。ただこれ以上漏れてこないようにしただけだ。風の精霊王が居た場所はこの狂った元素の中心でも本でもない。ほんの端にすぎなかったのだ。中心地に行き原因そのものをどうにかしないことには解決したことにはならない。俺は当初原因まで完全に解決するつもりだった。だがこいつらの狂ったエネルギーを吸い取った時に俺はなぜだか今はまだこの問題の中心地へと向かってはならない気がした。記憶の道もこの中心地へとは向かっていない。ならば今はまだ行くべき時ではないのだと思ったのだ。全ての狂った元素のエネルギーを吸い取ることも出来る。だがそれはまだしてはいけない。なぜだかそんな予感があった。
アキラ「こんなものはその場凌ぎにすぎない。まだ問題は解決していない。だが今はまだこれを解決する時じゃない。もし俺に礼を言いたければきちんと全て解決した時に言ってくれ。今言われてもこちらも困る。」
先代シルフィ「ふぅ~ん?あなたには原因がわかっているのかしら?」
アキラ「残念ながら今の俺には原因まではわからない。ただゲーノモスの問題は解決していた前の俺がここの問題には手付かずのまま置いている。何か理由があるはずだ。」
先代シルフィ「前のって?」
アキラ「俺は過去の記憶を失っている。記憶を失う前の俺はここにも来たことがある。だがここの問題は解決してない。」
先代シルフィ「それはあなたが火の精霊王でここが風の国だからじゃないかしら?土の国の問題なら解決したとしても火の精霊王が風の国の問題を解決しようとは思わないわよね?」
アキラ「自分で言うのも何だが前の俺はそんなことには頓着しない。意味のないことはせず意味のあることはする。そういう奴だったはずだ。」
先代シルフィ「ふぅ~ん…。どっちにしてもあなたしか解決出来そうにないし今はこれで収まっているんだからあなたに任せるしかないわね。」
シルヴェストル「それはわしから説明してやろう。」
大勢いた狂った風の精達の中から一人出てきた。こいつのことは知っている。
アキラ「シルヴェストル…。」
シルヴェストル「久しいなアキラ。」
シルヴェストルもこんなしゃべり方だが女性のような美しい姿をしている。風の精霊にしては長い緑の髪に緑の瞳をしている。だが前述通り風の精霊には性別はない。ないはずなのだが俺の気のせいかシルヴェストルの胸は若干膨らんでいる気がしなくもない。風の精霊は半透明のように少し透けた体なのでそのせいで見にくくてよくわからないが…。
エアリエル「シルヴェストル?まさか…七代前の?」
先代シルフィ「そうね…。歴代の風の精霊王でシルヴェストルと言う名前は一人しかいないわね。歴代最高の大精霊王と言われるシルヴェストル様しかね。」
シルフィ「ですが風の精霊がそんなに長命なはずは…。それにその若々しいお姿…。とても七代前の精霊王様とは思えません。」
アキラ「あそこの狂った元素のエネルギーを受け取ることで入った者は無限にエネルギーを補充されて老いることも死ぬこともなくなる。だから先代とやらも皆当時の姿のまま…そういうことだな?」
シルヴェストル「いかにも。あの中へと入った精霊が死ぬためには誰かに殺されるしか方法はない。」
それで次々と入った精霊王が狂って死ぬことなく新たな精霊王が生まれることが難しくなったのだろう。今代の精霊王にシルフィが代わることを断念したのはそういった理由が絡んでいる。新たに精霊王になれる格の候補が育つ前に全ての王候補が狂ってしまったんだろう。
シルヴェストル「アキラは記憶を失っていると言ったな。それでは記憶を失う前のアキラからの言伝じゃ。『時が来るまではこれより先は進むな。この地は無視して通り過ぎろ。』しかと伝えたぞ。」
アキラ「わかった。確かに受け取った。」
やはり前の俺は今はまだこの問題を解決するなと言っている。理由はわからないが記憶のない俺が考えてもわかるものではない。意味のあることならばその時になればわかる。理由のわからない俺が勝手なことをするべきではない。…例えそれが良い結果に繋がるか悪い結果に繋がるかわからないとしても………。
エアリエル「これほど歴代の精霊王が集まってしまっては誰が風の精霊王をすればよいのやら…。」
シルヴェストル「おぬしが今の精霊王じゃ。おぬしが続ければよい。」
エアリエル「それは…。ですが私よりも相応しい方々が大勢おられます。」
俺には誰が誰だかわからないが俺達の結界に張り付いていた狂った精霊達の中には歴代の風の精霊王達が大勢いた。死ぬことなくあそこにずっと全ての歴代精霊王がいたのだ。
先代シルフィ「今はあなたなんだからあなたが続ければいいんじゃない?きっと誰も反対しないわよ。ね?」
シルヴェストル「うむ。なにより本来であればわしらはすでに亡き者も同じ。今更精霊王に戻されてもこちらも困る。」
エアリエル「ですが…。」
先代シルフィ「ぐだぐだ言わない。しっかりしなさいエアリエル。」
エアリエル「先代様…。わかりました。このまま私が続けます。そして次は…、シルフィ。あなたに託しますよ?」
シルフィ「はっ、はぃ…。」
シルフィは萎縮してしまっている。だがこいつらの王位継承など俺には関係ない。これからしっかり次期精霊王として鍛えられればいいだろう。なにしろこんなにたくさんの先達がいるんだ。きっと良い精霊王になれるだろう。
エアリエル「それでは今日という日を祝って宴を開きましょう。あなた方もぜひ参加していってください。」
こうして俺達は風の精霊達の宴に参加して色々と話をした。火の精霊と風の精霊の関係も改善されたと思う。その日は朝まで飲み明かし一晩風の国シルフィードで泊まっていった。
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翌朝早くに俺達は出発する。
シルヴェストル「もうわしは会うことはないかもしれぬが達者でな。」
アキラ「そう言うな。俺は古い友達が少ないんだ。お前を見て思い出せたということは記憶を失くす前の俺にとってお前は大きな存在だったはずだ。記憶を取り戻したらまた会いに来る。」
シルヴェストル「…そうか。会えるものならわしもまた会いたい。じゃがおそらく…。」
シルヴェストルは自分の手をじっと見つめている。俺も感じている。あの狂った元素の中にいた者達は急激に本来あるべき姿へと戻りつつある。エアリエルくらいならまだ年は取っても生きているくらいの年齢だろう。だが他の古い精霊王達は本来の寿命をとっくに超えている者が多数いる。この世界の理を超えて無理やり存在し続けていたのだ。それがあるべきところへ戻るにすぎない。止めることは俺には容易いがそれをしてはいけない。
アキラ「…すぐに還るわけじゃない。確かにあるべき姿へと戻るだろうが今のペースのままならばまだ時間はある。きっと…また会える。」
シルヴェストル「そうじゃな…。まだ次の精霊王を育てねばならんしの…。やるべきことがある間はまだまだ還るわけにはゆかんか。」
アキラ「なにより俺には無限の時間がある。お前がまた生まれるまで待てばいい。」
シルヴェストル「それもそうじゃったな。」
シルヴェストルはにっこりと微笑んだ。それは死に行く者の顔ではない。これから先も見据えて生きていこうとする者の顔だった。
シルフィ「それはどういうことですかっ!」
俺達の会話を聞いてシルフィが飛びついてくる。
シルヴェストル「あの中で無理やり生きながらえてきた者はあそこから出て以来急速に本来の姿へと戻りつつある。わしは1340年も前の存在じゃ。とうの昔に生命の源へと還っておるはずじゃった。それが今還りつつあるにすぎぬ。」
シルフィ「そんなっ!それではもしかしてエアリエル様も?」
先代シルフィ「ちょっとちょっと!私でもまだ生きてる年なんですけど?私より若いエアリエルが寿命を迎えているはずはないでしょ?ちょっとくらいは老けるでしょうけどね。」
エアリエル「そうですね。まだまだシルフィは未熟なのです。まだ精霊王は譲れませんよ?ふふふっ。」
先代シルフィ「その名前は困るわね。まるで私が言われてるようだわ。」
シルフィ「すみません…。」
先代シルフィ「別にあなたが謝ることじゃないわよ。」
こいつらの漫才を聞いていたらいつまで経っても出発できない。俺達のほうは切り上げて出発することにした。
アキラ「それじゃまたな。シルヴェストル。」
シルヴェストル「うむ。達者でな。」
シルフィ「火の精霊王様ありがとうございました。次は精霊王会談でお会いしましょう。」
アキラ「ああ。精霊王会談で。」
俺はそれ以上言葉を交わさずに出発した。
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暫く進んだが何やらティアがむくれているようだ。
アキラ「どうしたティア?」
ティア「………なんでもありません!」
肩に乗っていたティアはぷいっと顔を背けると俺の胸の谷間へと入り込んだ。
アキラ「ふぅ…。意味がわからん…。」
狐神「シルヴェストルにヤキモチやいてるんじゃないかい?」
アキラ「え?」
ミコ「そうだよねぇ。私もちょっとヤキモチ焼いちゃったよ。」
フラン「うぅ…。またしても強敵出現ですか…。私のスピリットリンクはいつ実現するのでしょうか。」
皆の言っていることがわからない。なぜシルヴェストルにヤキモチを焼く必要があるのだろうか。
アキラ「どういうことですか?」
狐神「アキラは本当に女心はだめだねぇ…。あんなに仲が良さそうにして『お前は大切な存在だ』なんて言ってたらそりゃアキラを好きな者は皆嫉妬するさ。」
アキラ「そこまでは言ってないですが…。」
ミコ「でも生まれ変わってもまた会うとか、待ってるとか言ってたよね。それってすごく素敵な口説き文句だと思うわ。」
なるほど。確かに言われてみればクサい口説き文句に聞こえなくもない。実際に言う奴がいるのかは知らないが地球の漫画などでもそういうニュアンスの口説き文句を言うものを見たことがある。
アキラ「そもそもシルヴェストルは無性じゃないか。」
ミコ「アキラ君は何でもいけちゃう人だから…。」
アキラ「どういう意味だよ…。」
ミコ「言葉通りだけど?」
ミコはガウ、ポイニクス、ティアを順番に眺めた。
アキラ「待て待て。ガウに疾しい気持ちは持ってない。ポイニクスだって俺の子供みたいなもんだ。」
ミコ「どうしてティアちゃんのことは否定しないのかな?かな?」
ミコがにっこり笑顔で俺に詰め寄る。だがその顔とは裏腹に背後には恐ろしいオーラが漂っているような錯覚を覚える。
アキラ「ティアは小さすぎる。何も出来ないだろう?」
ミコ「出来たら何かするのかな?かな?」
どうなのだろうか…。もしティアが普通に俺達と変わらないほどの大きさだったとしたら俺は何か特別な感情を持つのだろうか。少なくとも今はそんな気持ちは持っていない。だがこれから先も絶対ないとは言えない。そうだ。昔の俺ならば絶対にないと言いきれただろう。だが今の俺は…。
フラン「………。」
外套が引っ張られて俺は振り返る。フランが何も言わずにじっと俺の外套を引っ張っていた。その目はうるうると潤み赤い顔をしている。その仕草はかわいく庇護欲を掻き立てられる。今すぐぎゅっと抱き締めてしまいたい。
アキラ「どうし…。」
ティア「ああぁぁぁぁ~~~!もしかしてアクアシャトーへ向かうおつもりですか?!」
俺の胸の谷間から頭を出したティアが突然大声を張り上げた。俺達が向かっているのはシルフィードから真東。このまま行けば確かにアクアシャトーへと戻る。だが恐らく行き先は違う。
アキラ「たぶん違うと思うぞ。途中でどこかへ行くはずだ。」
何の根拠もないがなぜかそう確信している俺達はそのまま真東へと進んで行った。




