第四話「再修業」
庵を出て周囲を囲む岩の裏へと案内されるとそこには小屋があった。
狐神「そこが脱衣所だよ。ゆっくり入っといで。」
アキラ「…はい。」
温泉に入ってさっぱりしたい。色々考えたいこともある。だが女の子の体でお風呂に入るのはまだ抵抗がある。
アキラ(…うだうだ悩んでても埒が明かないな。どうせいつかはやらなければならないことだ。よし!行くか。)
俺は覚悟を決めて脱衣所へと入る。正面には横開きの引き戸があり右側に棚と篭があり左側には洗面台のようなものに桶が置いてある。洗面台の上の壁にある鏡を覗き込んでみる。
アキラ(湖で見た時にわかっていたが…これは…かわいい。)
湖と違い鏡には鮮明に俺の顔が映っている。鏡に映っている少女は本当にかわいい。
アキラ(やばいな…。これからこんなかわいい子の裸を見ることになるんだ…。)
意識すると色々大変なことになりそうだ。今はこの体や顔を意識しないようにつとめて篭の方へ行こうと振り返った途端に頭の中にチラチラと閃光が奔る。
アキラ(くっ…。これは…デジャヴ?いや、そうじゃない。これは…この体の記憶だ。)
チラチラと断片的に映像が思い浮かぶ。
アキラ(引き戸を出ると屋根付きの露天風呂が一つ。その隣に大きな岩で区切られた屋根のない露天風呂がもう一つある。)
俺が知るはずのないこの先の景色が思い浮かぶ。その記憶を確かめるようにフラフラと扉まで行きガラリと横開きの引き戸を開ける。そこには思い浮かべた景色と同じ二つの露天風呂がある。記憶を思い出したことが切欠となったのか今の俺では脱ぎ方すらわからないはずのドレスをテキパキと脱ぎ篭に片付けていく。そして掛け湯をしてからどっぷりと湯船に浸かる。お湯は乳白色に濁っており湯の中は見えない。
アキラ(何故か急に体が自動的に動いたような感じだ。だがお陰で脱衣も困らず助かった。お風呂に入るのも極自然に何の緊張もせずに済んでいる。)
そこで一旦落ち着いた俺は色々と考えてみる。
まず今の状況。急に体が動いたことも変に緊張することもなくなったのは俺の意識に関わらずこの体が本来普段からしている当然のことを思い出したからだろう。青白いオーラに気づいてから自然と使えるようになった件と合わせて、アキラ=クコサトが1500年超の間に当たり前のこととしてやってきたことは思い出しさえすればできるようになると思っていいだろう。
そして思い出す切っ掛け。師匠と話していた時に頭に引っかかる特定のキーワードを聞いた時にも急に知っていて当たり前のこととして思い出したことがいくつかあった。さらにこの小屋の景色を見て思い出した。つまり視覚や聴覚を刺激されたことで思い出したと考えられる。今はまだないが、もしかすれば嗅覚や触覚といった他の五感でも思い出すかもしれない。肝心なことは俺がもう一度前の意識と同じことを体感することだと判断した。
アキラ(失われた記憶についてはもう一度俺が体感すれば思い出せる可能性が高い。つまり俺がこれからするべきことはこの体が今までしてきたことをすること。行った場所へ行ってみること。)
今後の方針は決まった。できる限り知識と情報を集める。世界中の行けるところへ行ってみる。その結果記憶が完全に戻り元の意識が戻ったりしたら俺がどうなるのかはわからない。だが今のままでは俺自身も納得できない。ともかく元の記憶を完全に取り戻す。そうやって考えをまとめていると脱衣所の方からバタバタと足音が聞こえてきた。脱衣所内でゴソゴソと何かをしながら声をかけてくる。
狐神「アキラ~、ここの温泉はどうだい?」
俺が記憶がないと言ったから心配してくれたのか師匠が様子を伺いに来てくれたようだ。
アキラ「はい。とても良い湯で…。」
ガラッ!
狐神「じゃあ背中を流してやろうかね。」
様子を伺いに来たのではなかった。絶世の美女がナイスバディーを惜しげもなく晒しながら一糸纏わぬ姿で突入してくる。
アキラ「ちょちょちょっ!し、師匠!」
狐神「あたふたしちゃってかわいいねぇ。女同士なんだから師弟水入らず洗い合いっこしようじゃないかい。」
アキラ(女同士って俺は体は女だけど意識は男なんですよ…。)
記憶の一部が蘇ったお陰でせっかく自分の入浴には緊張しなくて済むようになったというのに師匠の乱入でまた緊張してきてしまった。
自分で言うのもなんだが俺は学園に通っていた時までは結構クールだった。多少のことがあっても動じず落ち着いて冷静に対処してきた。この世界に来た時も多少は動揺したがそれでも可能な限り冷静に判断してきた。それなのに…。
アキラ(はぁ…。まだ出会って少ししか経っていないこの人には俺のペースを乱されてばかりだな…。)
狐神「さぁさぁ。いつまでも浸かってないでさっさと出てきな。」
両手をワキワキさせながら近づいてくる師匠に引き摺り出されてしまった。
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アキラ「もうお嫁に行けない体にされてしまった…。」
狐神「何言ってんだい。それなら私があんたを嫁にもらってやるよ。」
アキラ「師匠こそ何言ってるんですか…。」
狐神「そうだね。私だって隅から隅までアキラに散々弄り回されたんだ。私があんたの嫁になってやるよ。」
アキラ「誤解を招くような言い方はやめてください…。」
あの後俺は師匠に体の隅々まで丹念に洗われてしまった。お返しに師匠を洗えと言われて洗った。師匠の大きなバスト、くびれたウエスト、まろやかなヒップ、体中どこでもすべすべで吸い付くような肌…。思い出すと変な気分になりそうだ。
体を洗い終わって今は二人で湯船に浸かっている。師匠に後ろから抱きしめられる格好で…。背中に大きなメロンが二つ当たっているのを感じる。
狐神「アキラ、あんたしばらく見ない間に随分かわいくなったねぇ。」
アキラ「成長は止まってるんじゃなかったんですか?」
狐神「見た目のことじゃないよ。外側も前から食べちゃいたいくらいかわいかったけど中身の話さね。」
今は男である俺の意識なのだ…。本来の意識のあった時よりかわいくなったと言われても微妙な気分にしかならない。
狐神「前のあんたは必要以外のことは言わなかったししなかった。ただ淡々とやるべきことをやる。そんな印象だったよ。」
アキラ「……。」
狐神「でも今は感情豊かに反応してくれる。初心なところなんて私の心がキュンキュンしちゃうよ。食べちゃいたいくらい。」
妖しい顔で俺を見ている…。本当に食べられそうだ。勘弁してください…。
狐神「それで、これからどうするんだい?」
急に真面目な顔になってそう聞いてくる。これについてはもう考えはまとまっている。
アキラ「記憶を取り戻すために…もう一度修行をつけていただけませんか?」
狐神「そうかい…。もはや私がアキラに教えられるようなことは何もないけど、みっちり鍛えなおしてやろうかね。」
そう言って師匠はニヤリと笑った。
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風呂から上がると服は洗うからと言われ浴衣のような物を渡された。浴衣に着替え夕食になった。だがこれは夕食と言えるのだろうか…。どこからどう見ても酒とつまみだ。酒の入った一升瓶のような入れ物が十本。揚げ物のような衣のついた塊が皿に山盛り。焼き魚とするめのような干し物。あと枝豆っぽい物がある。どこからどう見ても酒とつまみだけに見える。
狐神「どうしたんだい?ぼーっとして。ほら、どんどん食べなよ。」
アキラ「師匠は料理は苦手ですか…。」
狐神「そもそも食べる必要のない私らには食べ物に対するこだわりもない奴が多いからねぇ。前はアキラだって料理なんてできもしなかったじゃないか。肉でも魚でも生で噛り付いてたりしてたくらいだしねぇ。」
神になると食事も睡眠も必要ないらしい。飲まず食わず、不眠不休でも神力という体内エネルギーが切れるまではずっと活動できるのだとか。神力も自然回復するので常時フルパワーで戦ってでもいない限り普段の生活をする程度では切れることはない。俺は師匠と違って神にはなっていないが妖怪族も神ほどまったく必要ないわけではないが重要度は低い者が多いとか。妖狐種も多少なら飲まず食わず不眠不休でもまるで問題ない。ただし妖狐であろうと神であろうとなくても大丈夫なだけで食欲もあるし睡眠欲もある。
ここで少し種と族について補足しておこう。地球で言えば犬種が種、犬というのが族という感じだろうか。同じ種類の者たちを○○種、同系統の種を複数まとめたものを○○族という。ただし地球の犬と言ったのよりはもっと大きな集まりになるのが族だ。
この世界はファルクリアと言う。ファルクリアには現在6族と魔獣がいる。
まずは人間族。これは人間種しかいない。一種としては世界最大の人口を誇り族全体としても二番目に多い族。寿命は60年~80年くらい。身体的特徴も地球とあまり変わらない。ただしこの寿命は天寿を全うした場合であり、戦争や飢饉で大量の死者が出れば当然平均寿命は大きく下がる。今俺達がいるのは中央大陸という場所で人間族の勢力圏だ。中央大陸には人間族の国が五つある。地理や国についてはおいおい語ろう。最高位に人神という神がおりその下に多数の守護神がいる。
次に妖怪族。これは多種多様な種が存在するため外見的特長や能力、寿命は一言では語れない。ただ人間より長寿で生命力の強い者が多い。ファルクリアにおいて族として最も個体数が少ない。種としても一匹しかいない種もいるほど数が少ない。しかし最少人口でありながらドラゴン族に並ぶほど強力な族である。俺や師匠の妖狐種もこの妖怪族である。師匠は現在唯一の妖怪族の守護神だとか。
獣人族。猫人種、犬人種、人狼種、虎人種等多数の種が存在する。人間族に次いで三番目に人口の多い族である。寿命は人間とあまり変わらない。獣耳と尻尾があり人間より逞しい者がほとんどというだけで外見的には人間とそれほど変わらない者も多い。中には二足歩行の獣そのもののような種も存在するらしいが。身体能力は高くドラゴン族に次ぐほどの能力があるらしい。ただし特殊能力はあくまで身体能力を強化するような物ばかりで魔法のような物はほとんどない。真正面から殴り合えば強いが搦め手には弱い感じだろうか。喧嘩っ早いが強い者には従うタイプらしい。五人の守護神がいる。
精霊族。火の精霊種、水の精霊種といった各種の精霊がいる。一種ずつは人間種より少ないが全てを合わせた族としては最も多い。異世界に付き物のエルフも精霊族に分類されるとか。寿命は数日の者もいれば数千年数万年の者もいるが大半の者は数年~数十年くらい。その大半の者に当たる者達は大きさも人の掌に乗るくらいの小型な者がほとんどである。握りつぶされてしまうほど肉体的に弱い代わりに強力な精霊魔法という特殊能力を持っている。獣人と対極のような特性かもしれない。各種の属性を持つ神等、多数の守護神がいる。
魔人族。最も雑多な種が存在する族。人口は獣人族に次いで四番目。妖怪族よりさらに種が多いため特徴や能力、寿命は一言では言えない。共通して言えることは高い身体能力、生命力、特殊能力、魔法を持っている者がほとんどであり強力な族である。三人の守護神がいる。
ドラゴン族。火龍種や水龍種等亜種も含めてそれなりにいる族。人口は妖怪族の次に少ない。ほとんどが長寿で神を除いて最も長く生きている個体が存在する。強靭な肉体、高い生命力と知能、広い知覚領域、特殊能力に龍魔法があり低階位の神すら凌ぐ能力を持つ者が多数いるファンタジーの王道最強種族。しかし俗世にあまり興味がないのかほとんどの者は辺境にある国に引きこもっているらしい。守護神はいない。
そして滅ぼされたと言われている古代族。どういう種族か、なぜ滅ぼされたのかはわからない。ただ他の族と戦争になり滅ぼされたと伝わっているだけだという。
それ以外のものは全て魔獣。魔獣は族とは違う。地球で言えば野生動物のようなものだろうか。知能の低い動物は全て魔獣に分類される。牛や馬のような家畜も魔獣であり、俺が最初に出会ったゴブリンも魔獣だ。
そんな話を聞きながらつまみを食べていると。
狐神「ほらっ!アキラも飲みな。」
酒を勧められた。
アキラ「俺はまだ未成年なんですが…。」
狐神「未成年?あんた面白いこと言うね。1500歳超えてるくせに。」
アキラ(そうか。俺は1500歳を超えているんだったな。だったらいいのか?)
そうは思うが俺は今まで酒なんて飲んだことはない。
狐神「ささっ。ぐいっと。」
逡巡している俺に盃を持ってさらに勧めてくる。
アキラ(折角勧めてくれてるんだし飲んでみるか。)
そう思って飲んでみる。
アキラ「美味しい…。」
狐神「良い飲みっぷりだね。さぁ今夜はじゃんじゃん飲もうかね。」
こうして酒とつまみを食べながら師匠に話を聞き夜は更けていった。
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そして寝る時になって大変なことが発覚した。
アキラ「俺が以前いた時に使っていた部屋や布団はないんですか…?」
狐神「そんなもんないさね。前もこうして一つの布団で一緒に寝てたんだよ。」
本当だろうか…。前の記憶がないのでわからない。細かいことには無頓着だったという元の意識ならあり得るかもしれない。なんとなく師匠の嘘っぽい気もするが…。ともかく布団は一組しかない。いくら俺が他で寝ると固辞しても一緒に寝ろと言われて一緒に寝ることになってしまった。
狐神「んふふ~。おやすみアキラ。」
アキラ「…おやすみなさい。って何で抱きついてくるんですか。」
二人並んで寝て…いない。俺は上を向いているが師匠は俺の方を向きぴったり抱きついている。
狐神「まぁまぁ。減るもんじゃなし。」
アキラ「減りますよ…。主に俺の精神力が…。」
狐神「我慢しなくても触りたかったら好きなだけ触ってもいいんだよ?」
妖しく目を光らせながら体を揺すって俺に胸を擦り付けてくる。
アキラ(明鏡止水。心頭滅却。)
強引な師匠からは逃げられない。俺は諦めて無心になる。
プルンップルンッ!
アキラ(俺は無だ。無心だ。)
ムニュムニュ!
アキラ(何も聞こえない。何も感じない。)
師匠がもぞもぞと俺に構ってくるのを全て無視して無心に眠ろうとする。
アキラ(思春期の健全な男子がこんな状況で何も思わず眠れるわけないだろっ!)
俺の葛藤を他所に師匠は早々にスースーと寝息をたてていた。
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朝、目が覚めると師匠はまだ寝ていた。二人で一升瓶十本分の酒を飲み干したが二日酔いはないようだ。俺に抱きついている腕をそっと外して布団から出る。師匠は浴衣がはだけ布団を蹴り散らかしている。目に毒なので胸元を締め布団を掛け直す。台所へ行き水瓶から水を掬って顔を洗う。色々世話になっているから朝食の準備をしようと思って台所を漁ってみる。他人の物を勝手に漁るのは俺の嫌いな行為だが、もちろん許可はもらっている。これからしばらくは一緒に生活するのだ。他人の家だからと俺は何もせずお世話になるだけというわけにはいかない。
アキラ(何か朝食にできそうな食材はあるかな…。)
これでも俺は学園に入学して以来一人暮らしをしている。食材と調味料さえあれば簡単な料理くらいならできるが、はたしてこの世界ファルクリアの食材でまともな料理ができるだろうか。
アキラ(日本にあった野菜とよく似た物はあるな。何の肉かわからないが肉と干した魚のような物もある。あと調味料は塩、砂糖、…これは薄い醤油っぽい感じだな。味噌のような物もある。)
竈はあるが火はどうするか悩んでいたがいつの間にか手の上に火が浮かんでいた。
アキラ(これは便利だな。この体の持つ特殊能力の一つか?どうやって着いたのかわからないがこれで火は大丈夫だろう。)
転がっている薪をくべて火を着ける。大根とさつまいもっぽい野菜を入れた味噌汁風の物を作る。出汁はないので味は微妙かもしれないが…。きゅうりとにんじんっぽい野菜はスティック状に切って塩で揉んで浅漬けっぽくしてみた。適度に漬かったと思ったら刻んで皿に乗せる。干し魚はさっと炙って大根っぽい野菜をすりおろした物を添えて醤油っぽい物をかけてみる。問題は主食がないことだ。
アキラ(米がない。さてどうしたものか…。)
とりあえず茹でたじゃがいもっぽい物の皮を剥いて潰して塩を混ぜながらこねる。そこへミンチにした何の肉かわからない物を砂糖と塩と醤油で味付けしてそぼろにした物を混ぜる。ひとまず今回はこれが主食替わりだ。
アキラ(メニューも貧相だし食材の味も調理法もわからず見た目だけで日本食風に作っただけだ。はたしてまともに食える味になってるだろうか…。)
そう思いながら食卓に出来上がった物を並べていると師匠が起きてきた。
狐神「おはよー、アキラ。良い匂いがする…。」
寝ぼけ眼でだらしなく浴衣を着崩しフラフラとやってくる。
アキラ「おはようございます。もうすぐ出来ますから顔を洗って浴衣を直してください。」
狐神「はーい…。」
寝ぼけながらペタペタ歩く師匠。ちょっと、いやかなりかわいい…。
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顔を洗ってしゃっきりした師匠と食卓を挟んで向かい合って座る。ちゃぶ台を囲んで畳に座ってるだけだが…。
狐神「お~!美味しそうだねぇ。アキラあんた料理の才能もあったのかい?」
アキラ「慣れない食材ばかりでなんとなく料理しただけです。味は保証できませんし品数も内容もたいしたものじゃありません。」
狐神「いやいやいや~。そんなことないよ。前のあんたなら置いてある食材にそのまま噛り付いてただけだからね。それを思えばたいしたもんさ。」
アキラ「…。それじゃ食べましょうか。いただきます。」
狐神「いただきます。」
まず味噌汁風のものを啜ってみる。うん。普通の味噌汁だ。出汁をとってないので特別おいしくはない普通にどこにでもある何の変哲もない味噌を溶いた汁だ。具が少し寂しいがやむを得ない。続いて浅漬けだ。ポリポリと良い歯ごたえで塩気のあるただのきゅうりとにんじんだ。炙った干し魚をほぐして大根おろしみたいなものを乗せて醤油をかけて食べてみる。ホッケの干物に似ている。普通だ。主食替わりの潰したじゃがいもっぽい物を食べてみる。まったくもって特別なことは何もないただの味気ないマッシュポテトだ。マッシュポテトと言うのもおこがましい。ただの潰したイモだ。醤油っぽいものの味が効いたそぼろのお陰でなんとか食える。主食としてお米がないのは寂しいが日本食が食えれば食える味付けの特においしくもまずくもない普通の朝食だ。所詮俺の料理の腕はこんなもんである。しかし食生活が違うかもしれないファルクリアの住人である師匠はどうだろうか。そう思って師匠の方を見てみる。
ニコニコしながらバクバクと美味しそうに食べている。俺の視線に気づいたようで顔を上げる。
狐神「美味しいよ、アキラ。こんなまともな物は久しぶりに食べたよ。」
アキラ「そうですか。口に合ったようでよかったです。」
お世辞かもしれないがこの程度の料理でそんなに美味しそうに食べてくれたら作った甲斐もある。あっという間に朝食を終え片付ける。
片付けを終えてちゃぶ台に戻り師匠と向かい合う。
狐神「それじゃ…、今日から修行始めるかい?」
俺は師匠の目を見て迷うことなく力強く即答する。
アキラ「よろしくお願いします!」